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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉【11話】漆黒竜のスティグマ(♥︎)

 ベッドで四つ這いになったアイリスの艶尻は真っ赤にれていた。悪さをした子供を躾けるように、シオンは平手で臀部でんぶはたいた。

 ――パァッン♥︎ パチィン♥︎ パァンッ♥︎

 張手はりての衝撃が柔らかな尻肉を波打たせる。たっぷり肥えた巨尻を捧げる姿勢で、アイリスは膝を屈している。

「おぉっ♥︎ んぉっ♥︎」

 恥部の淫裂から逆流した精液が垂れ流れる。後背位で犯されるアイリスは従順な牝犬になりきった。

「あぁっ♥︎ あぁんぅぁあ゛~~♥︎ おっぱいぃっ♥︎ 乳首をいじめてぇっ♥︎ イぎぃたいぃぃっ♥︎ イぐぅっ♥︎ んぎぃっ♥︎ おぉっ♥︎ おねがいいぃよぉ♥︎ もぅっ♥︎ イがせてぇっ♥︎」

「アイリスってマジで変態だよな。尻をぶたれてオマンコが締まるんだからさ。しかも、乳首を刺激しないとイけない淫乱女。クソガキの精子で孕んじまえっ!」

「あぁっ♥︎ しゅごぃぃいっ♥︎ くるっ♥︎ きちゃううぅうっ♥︎ 追加の孕ませ汁っ♥︎ あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ こんなに気持ちよくさせられたらぁっ♥︎ 卵子を盗られちゃう♥︎ おぉお⋯⋯っ♥︎ お゛ほぉ♥︎ んおぉぉぉぉおっ~~♥︎」

 あられもない淫叫をあげながらアイリスは果てた。シオンは男根を突き刺し、両手を回してニップルピアスを摘まむ。母乳が噴き乱れ、全身をガクつかせている。壮絶なイきっぷりにシオンも驚いてしまった。

(すげえ母乳の量! オマンコも搾り取ってくる⋯⋯!! まじで技巧派なんだよな。責めてるのはこっちなのに、セックスの手綱を握られっぱなしだ。てか、アイリスの性感帯を開発したのって、亡くなった旦那さんなんだよな)

 十二年前に事故で亡くなったアイリスの夫。領内では名の知れた大工職人であり、性豪であったと聞いている。面識はないが、アイリスが生涯の伴侶に選んだ相手だ。どれほどの人物であったか、シオンには分かる気がした。

 愛人という形で代役を演じている。しかし、所詮は未亡人への慰めだ。アイリスの孤独を癒やせるのは家族愛。だから、今になって子供を願った。

 最愛の夫に先立たれた女が抱いた宿願。沢山の子供に囲まれたいという欲望のけ口。シオンはアイリスを強く抱きしめた。

「あぁ⋯⋯♥︎ はぁはぁ⋯⋯♥︎ ありがとう、シオン♥︎」

「子供は男と女、どっちが欲しい?」

 挿入した男根はまだ抜かない。後ろからぎゅっと体を引き寄せる。豊満な女体を腕の中に収める。汗ばんだ皮膚が密着する。跳ね上がった心臓の鼓動が互いに伝わってきた。

「どっちも欲しいわ。男の子でも女の子でも⋯⋯。ワガママな女よね? もう一度だけでいい。子供を育てたいわ⋯⋯。一人ってとても寂しいのよ。この二年で私がどれだけ枕を濡らしたか知ってる?」

「そっか」

「シオンはいいわよね。一人で眠ることなんて、早々ないでしょ? いつも女を侍らせて⋯⋯。羨ましいわ」

「アイリスだってやろうと思えばできるだろ。男達を侍らせればいい」

「遠慮しておく。旦那と結婚する前だったら、そういう遊びもしたけれどね。あら。お呼びしてたお客様がいらっしゃったわ」

 独りでに窓が開き、室内に夜風が吹き込む。箒に横乗りした若い魔女が許しを得ずに入ってきた。性行為の真っ只中にあるシオンとアイリスを物珍しげに見る。

「こんばんは。魔女さん。来てくれて嬉しいわ。ちょっと怪しんでいたのよ。路地裏でばったりう会ったとき、約束はしてくれたけど、守ってくれるか分からなかったし⋯⋯。紹介するわね。この子が私の恋人よ。小さくて可愛いでしょ? 名前は――」

 アイリスは呼吸を整える。シオンの手が右の乳房を揉んでいた。事前に決めていた合図だ。

(偽名は使わない。これ、俺の本名はバレてるな)

 シオンの意図はアイリスに伝わっている。言葉を交わさずとも互いの考えが分かった。

(私、シオンのことは教えてないわよ)

(下調べをしたんだろうさ。下手に嘘をつくと警戒される。窓を閉めようとしないし、移動用の箒を掴んだままだ。飛行魔法を解除してねえ。こっちが不審な動きをしたらトンズラされる)

(そう簡単にはいかないわね。相手が無警戒ならレイナード達を呼んで、終わりだったのに⋯⋯)

 魔女は逃げようと思えばいつでも箒に乗って外に飛び出せる。魔法が使えないシオンでは、空に逃げた魔女を捕まえる方法がなかった。祓魔奇跡で飛行魔法を消してしまったら、四階の高さから魔女が落ちて死にかねない。

「この子はシオンよ。ジェルジオ伯爵家の城で暮らしてる不良児。女遊びが大好きなの。魔女さんも興味ある? 貸してあげてもいいわよ」

 膣穴から男根が引き抜かれる。泡立った精液がボタボタと流れ出てベッドシーツを汚した。二本指で陰唇を見開き、アイリスは魔女を誘惑する。

(おいおい。それは計画にないぜ? 悪乗りしすぎ。アイリス⋯⋯)

 魔女はアイリスの淫乱ぶりに呆れ果てているようだった。

「はぁ⋯⋯。教会の罠だと思ってた私が馬鹿みたいだわ。シオンっていう子、聖導師アルバァンダートの弟子って聞いたわよ?」

「アルバァンダートは俺の養父。孤児の俺を引き取った偏屈なジジイだよ。俺は教会読師の見習い。だが、戒律には縛られたないタイプでね」

「へえ、そうなの。知ってるかしら? 私は貴方の養父に追いかけ回された。危うく捕まるところだったわ」

 やっと魔女は警戒を緩める。握り締めていた箒を壁に立てかけた。

「はっはははは。そいつはお気の毒だ。同情するぜ。安心しろよ。俺はそんなことしない。むしろお前が商ってる品に興味がある。魔導具を売ってくれるんだろ? なあ、そう警戒するなって。俺だってリスクを背負って会いに来たんだ。アルバァンダートにバレたらヤバいんだぜ? 名前を教えてくれよ」

「まぁ、いいわ。私はロザリー・クロス。神秘結社ドラゴノイドの魔女よ」

(アルバァンダート先生が言ってたヤバい組織⋯⋯。古代竜を崇める魔法使いか。思っていた以上に若い。シャーロットお嬢様と同じくらいの年齢に見える。外見を魔法で誤魔化してる感じはしない。帝都の魔法学院に通わず、第三魔法を使いこなしているなら、相当な才能の持ち主だ。それとも国外で魔法を学んだのか?)

 年齢は十代後半。つば広のとんがり帽子を被った赤毛の魔女。魔導具の被害者から聞き出した魔女の外見と特徴が一致している。アイリスやレヴィアには匹敵しないものの、立派な胸部バストが目立つ身体だ。容姿も悪くない。

(肩に乗せてる使役魔の鳥⋯⋯。あれは雷鳴精霊鳥トニトルス・ファウルだ。厄介な魔法を使う。魔導具も自家製の可能性があるな)

 雷光を蓄えた精霊鳥がロザリーの護衛だった。精霊魔法は第三階位。込められた魔力次第では、人間を一瞬で黒焦げにできる。

(シャーロットお嬢様が使役した雷鳴精霊鳥トニトルス・ファウルは庭の枯れ木を真っ二つにした。あんな落雷をくらったら、まず間違いなく死んじまう。同じ魔法だから、同じ威力とは限らないが⋯⋯。この魔女はどこまで使える? もし第四魔法以上を修得した高位魔術師だったら⋯⋯)

 地上階の酒場に待機させたレイナード達だけでは対処できない。ジェルジオ伯爵城にいるアルバァンダートやルフォン、万全を期すならレヴィアの力がなければ実力行使は避けたい。

 シオンが使う信仰の奇跡、第零魔法の〈祓魔〉は発動までに時間がかかる。祈りを捧げる前に、攻撃されたらアイリスを守るのは不可能だった。

「とりあえず、そこの椅子に座ってくれよ。服を着るから時間をくれ。真っ裸で取引をするわけにもいかないだろ」

「そうね。こっちも目のやりどころに困るわ。はやく服を着てちょうだい」

 ロザリーは窓ぎわの椅子に腰を下ろした。テーブルに魔導具を並べ始める。事件の被害者達によれば、魔女は路地裏や酒場の片隅で魔導具を商っていたという。

(伯爵様が注意喚起の布告を出してからは、表立っての商売は難しくなったろうな。怪我人が出ちまった以上、黙認はされない)

 シオンは上着にそでを通す。興味深げに商品を流し見しているように装う。実際は観察だ。アルバァンダートには及ばないが、シオンにも聖職者の眼がある。

(魔法の悪意が見える⋯⋯。何のつもりであんな粗悪品を売りさばいてるんだ? 第三魔法まで使えるなら、普通の魔導具だって製造できるだろ)

 鍛錬場での一騒動を起こした首輪と似たような代物があった。魔導具の販売は許可制、製造に関しても国の認可を得た魔法使いギルドだけが行える。しかし、もぐりの闇魔法使いはいる。それだけ魔導具の需要は高い。

(普通、魔導具が問題を起こすのは、半端な魔術師が造った失敗作。意図せず使用者を傷つける。だが、この魔女が扱ってる魔導具には明確な意図が込められている。目的は単なる金儲けじゃなさそうだ)

 衣服を身に着けたシオンはロザリーの正面に座った。テーブルに置かれた魔導具を見下ろす。指輪、首輪、腕輪、首飾りなどの有り触れた装飾品に魔力が宿ってる。一番強力な魔法が刻まれているのは短剣だった。

(この短剣。嫌な気配を感じる。呪われてやがるな。素人が扱える呪物じゃない。鍛錬場で空中浮遊した騎士は運が良かったな。この短剣を買っていたらおそらく死んでたぞ)

 シオンはロザリーに対する警戒度を一段階引き上げる。

「シオン、私はお風呂で汗を落としてくるから。ちゃんとを買っておいてね」

「アイリス、戻ってくるときにビールを持ってきてくれよ。喉が渇いちまったよ」

「栄養たっぷりのミルクじゃご不満かしら」

 アイリスはこれ見よがしにご自慢の乳房を揺らした。

「腹を下すからビールで。急がなくていいから多目に持ってきてくれ。それと、腹が減ったから適当に料理も。えーと、そうだな。客人をもてなさなきゃな。ロザリーは酒が飲めるか?」

「驕ってくれるのなら、私もビールをいただくわ」

「〈さえずる古鳥亭〉のビールは美味いぜ。酒を目当てに泊まる商人だっているくらいだ」

 シオンは酒を飲まない。〈さえずる古鳥亭〉のビールが美酒であるかは、人伝ひとづてに聞いた評判の受け売りだ。

(本当に美味いかなんて知らねえ。けど、レイナード達はガブ飲みしてるから美味いに決まってる)

 重要なのは自然な形でアイリスを部屋の外に逃がすこと。アイリスは酒場で待機しているレイナードに魔女が現われたと伝えてくれる。

(ここで取り逃がしたらロザリーは二度と現われない気がする。時間は俺がたっぷり稼ぐ)

 アイリスを安全な階下に逃がしたことで、シオンは心の余裕を得る。しかし、ロザリーはやや不信感を覚えたようだった。

「私の商品を買うお金は持っているんでしょうね?」

 シオンに怪しみの視線を向けてくる。

「もちろん。――といっても、俺の金じゃなくてアイリスのだけどな」

 シオンは銀貨で膨らんだ皮袋をテーブルに置いた。アルヴァンダートから受け取った見せ金だ。ロザリーは銀貨が本物か確認している。

「確かに本物の銀貨みたいね。安心したわ」

「そっくりそのまま同じ言葉を返すよ。そっちも本物の魔法使いみたいだ。安心したぜ。まあ、アルヴァンダートの爺さんが捕まえようとしたんだ。マジモンだとは信じてたさ。そんで、例の品物は? アイリス曰く、とんでもなく素晴らしい代物だって話じゃんか」

「私の商いはこれらの魔導具よ」

「そっちは興味がないな。悪いがガラクタに見える。約束の品を出してくれよ」

「呆れてしまう。でも、いいわ。貴方達みたいな人間が欲しがるのはこっちでしょうね」

 

 ロザリーは革鞄から怪しげな薬瓶を取り出した。

媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーション。たったの一滴、飲み物に混ぜるだけで女を発情状態にする秘薬よ。性欲を増大させるだけじゃなく、強制排卵効果もあるわ。服用した状態でセックスすれば確実に妊娠してしまう」

(アイリスが本気で欲しがってたが、どんな副作用があるか分かったもんじゃねえな。激ヤバな魔力が薬液に宿ってる。取っ捕まえたら即処分しなきゃな⋯⋯)

「取り扱いには注意することね。魔法薬はとっても危険な代物よ。これは原液。匂いを嗅ぐだけで効果が出てしまうわ」

「その薬や魔導具はロザリーが製造したのか?」

「まあね」

 ロザリーは銀貨の入った皮袋を懐に収めようとする。だが、シオンが手をするりと伸ばして止めさせた。

「金はまだ渡さない。その薬が本物か確かめてからだ。アイリスが戻ってくるまでは買わない。試して本物だったら金をやるよ。それまではお預けだ」

「用心深いわね。薬の効果は本物よ」

「どうやって本物か確かめる? ロザリーが自分の体で試してくれるのか? そういうわけにはいかないだろ。大金を支払うんだ。少しくらいは待ってくれ。酒も驕るつもりなんだぜ」

 シオンは皮袋を奪い返した。ロザリーを守る雷鳴精霊鳥トニトルス・ファウルが静電気を発して威嚇してくる。

「アイリスが戻ってくるまで、ちょいとお喋りをしようぜ。いいだろ、夜は始まったばかりだ。ロザリー」

 荒ぶる魔法をなだめるようにシオンは語りかける。祓魔の奇跡で使役魔を弱める。ポケットに隠したタリスマンを握り締め、大聖女に祈りを捧げた。

信仰サクラメントは無形の祈り。通常の魔法と違って魔力や呪文は必要ない。経典の聖句を唱えずとも祈祷は可能だ。真摯な祈りだけが魔法を打ち砕く)

 魔法を奇跡で打ち消しているとロザリーに悟られてはいけない。少しずつ、気付かれぬように、魔力を削っていく。騎士達が突入するまでに雷鳴精霊鳥トニトルス・ファウルを無力化する。一切の魔法が扱えない無能力者だからこそ、シオンの信仰力は強力だった。

雷鳴精霊鳥トニトルス・ファウルを消滅させるのは、騎士達が突入したタイミングでいいとしても、魔導具も使えないようにしておくか。特に呪いの短剣は危険だ。解呪してしまいたい)

 道具に込められた魔法は消えても分かりづらい。ロザリーは自身が製造者だとほのめかしたが、真実であるかは疑わしい。魔導具を無効化しても気付かれないとシオンは判断した。

(頼むぜ。大聖女様⋯⋯!)

 シオンはくだらない雑談をしながら、心中では祈りを捧げる。聖句を強く念じて、悪しき魔法の力を削ぎ落とす。しかし、異変が生じる。

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯うぅ⋯⋯うぅぅぅうぅう⋯⋯!」

 ロザリーは被っていた帽子を床に落とした。青褪めた顔色で、大量の汗が噴き出ている。過呼吸で上手く肺に酸素を取り込めていない。

「ロザリー? どうしたんだ?」

「はぁはぁ⋯⋯なんで⋯⋯? どうして? いやぁっ! 私⋯⋯! おかしいっ! 裏切ってなんか⋯⋯いないのに⋯⋯。アァ⋯⋯ウァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァーー!!」

 驚いたシオンは飛び退いた。ロザリーは自分の皮膚を掻き毟りながら叫んでいる。

(毒か? いや、違う。この魔力はあの騎士見習いを苦しめた首輪と同じだ)

 激しい痛みに耐えきれず、血涙を流していた。竜紋の刺青がうごめいている。

「くそ。呪いか⋯⋯! 魔導具や使役魔ばかりを見ていた。まずったな。アルヴァンダート先生に怒られちまう」

 雷鳴精霊鳥トニトルス・ファウルが消滅する。ロザリーが使役魔の魔法を維持できなくなったせいだ。

 背中に彫られた竜紋の刺青は、神秘結社ドラゴノイドの一員である証。しかし、単なる刺青ではなかった。

 裏切りを防止し、口を封じる強力な呪詛が仕組まれていた。

「刺青は裏切り防止の呪詛だな。ヤバい魔法を仕込んでやがる。祓魔のせいで誤作動しやがった! そこまでは考えが回らなかったぜ。しくじった!」

 シオンは漆黒黄金のタリスマンを掲げる。こうなってしまった以上、ロザリーを助けるためにも呪詛の魔法を解除しなければならない。

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉 【10話】未亡人と子作り(♥︎)

 シャーロットが帝都の魔法学院に旅立って二ヵ月。伯爵令嬢のいないジェルジオ伯爵城は少し寂しくなった。その一方で人々は新しい住人のレヴィアを受け入れ始めた。

 エルフの魔法使いは卓越していた。医療分野はお抱え魔法医のルフォンに任せているが、それは彼女の職責を尊重してのことだった。ルフォンは回復魔法の探究にこれまでの人生を費やした。しかし、〈真なる魔法使い〉の高みに立つレヴィアは、さも当然の如くルフォンの努力を凌駕する。

 ルフォンの器量が狭ければ、レヴィアの能力に良からぬ妬心としんを抱いたであろう。しかし、人格者として名高いルフォンは他者に厳しく、自分にはそれ以上に厳しい。

 シャーロットが帝都に引っ越したのも良いタイミングであった。ルフォンは詰まらぬプライドを持ち合わせていない。より優れた回復魔法の使い手となるため、レヴィアに頭を下げて、教えを請うようになった。レヴィアは申し出を快諾し、第五魔法の神髄をルフォンに授けた。

 ジェルジオ伯爵城に滞在するエルフの美女が優れた魔法使いだと、城外まで知れわたるのにさほど時間はかからなかった。

 得体の知れなさで警戒する者はいる。ルフォンもレヴィアが出自を明かさないのは疑っていたしかし、誰にでも礼儀正しいレヴィアを嫌う者はまずいない。

 ジェルジオ伯爵やリンロッタ夫人もレヴィアに好きなだけ滞在してくれて構わないと厚遇した。だが、シオンだけは知っている。

 レヴィアは伯爵令嬢シャーロットに贈られるはずだったプレゼントを嬉々として簒奪する不貞不貞ふてぶてしい厚かましさも併せ持っていた。さらにもう一つ、レヴィアは博識な賢女であったが、男のさがについては驚くほど無知だった。

 清く正しく、真面目な人柄。教会が崇め讃える聖女のような人格者だった。そのせいか、シオンの乱れた性関係を知ったとき、レヴィアは言葉を失うほど動揺した。

「シオン⋯⋯? また、酒場に⋯⋯。アイリスさんのところに行くのですか?」

 浮気相手の女に会おうとする夫を止める妻。そんな雰囲気になっていた。罪悪感で心苦しくなる。

「んー。まぁ、呼ばれたんだ」

「⋯⋯シオン」

 シオンが複数の女性と肉体関係を持っている。その現実が受け入れられず、突きつけられる度、顔面蒼白のショック状態に陥った。

「⋯⋯その⋯⋯シオンはまだ子供で⋯⋯そういうのは⋯⋯よろしくないと私は思っています。アイリスさんは⋯⋯受け入れているとしても、社会の通俗的に⋯⋯。どうなのでしょう? 早すぎませんか? それに、他にも手を出している女性がいるなんて⋯⋯。結婚するつもりもないのに⋯⋯」

 周囲からは同棲状態のレヴィアもその一人に数えられているのだが、シオンとレヴィアは清い関係だった。共寝をしつつも、一線は越えていない。そもそもシオンは相手から誘われなければ応じないタイプの男だった。

「その説教はごもっとも。だけど、もうじき終わる関係だ。シャーロットお嬢様に言いつけられた」

 〈さえずる古鳥亭〉で働くアイリスは、シャーロットから手切れ金を受け取っている。シャーロットがシオンを帝都に呼び寄せた後、肉体関係を綺麗さっぱり清算するようにと念書を執筆した。

 他にも念書を書かされた女性はいる。シャーロットの情報収集能力はシオンの予想をはるかに上回っていた。

(さすがにとの関係までは知らなかったみたいだ。当然といえば当然か⋯⋯。セックスしたのは、あの夜だけ。一夜限りの過ちだったわけだし。知ってるのは伯爵様と奥方様だけ。あとはアイリスか。秘密は誰にも漏れていない)

 シオンが思い浮かべる女性は関係清算の念書に署名していない。シャーロットが帝都に旅立つまで、実は知られているのではないかと怯えてはいたようだが、ジェルジオ伯爵とリンロッタ夫人が守り抜いた。

 その件についてはシオンも胸を撫で下ろした。

「それと、今回はお仕事も込みだ」

「お仕事? 私も付いていきたいのですが? ダメですか? 邪魔ですか?」

「今日のは⋯⋯やめておいたほうがいい。魔法具を密売してる魔女は用心深い。アルバァンダート先生が取り逃がしちゃうくらいだ。エルフの魔法使いは目立ち過ぎるだろ?」

「隠蔽の魔法で姿を消せばどうです?」

 レヴィアはしつこく食い下がる。シオンは首を横に振った。

「計画通りなら荒事にはならない」

 魔法具を売りさばく流離さすらいの魔女。一週間ほど前、アルバァンダートとジェルジオ伯爵家の騎士達が捕まえようとした。しかし、老師アルバァンダートの顔は領地に知れわたっていた。そのせいで逃げられてしまったのだ。

「魔導具を売りさばいている竜紋の魔女は⋯⋯危険だと思います」

「うん。だから、捕まえる。〈さえずる古鳥亭〉に竜紋の魔女が現われるかもしれない。アイリスが呼び寄せてくれたんだ。珍しい魔導具を欲しがってるクソガキがいるって吹き込んでさ。囮捜査ってヤツ。上手くいけば危険な魔法具を没収できる。スリル満点のいい作戦だろ」

「本当に大丈夫なのですか? 相手は本物の魔法使いだと思います」

「レヴィアみたいな使じゃない。半端な魔術師なら俺で十分対処できる」

「相手が一人で現われるとは限らないでしょう?」

「こっちだって備えはしてる。私服の騎士を〈さえずる古鳥亭〉に潜ませた。もちろん変装させてね。大丈夫。俺って、こういうのは得意なんだ。アルヴァンダート先生よりは演技の才能あるしね。そんな顔、やめてくれよ。大聖女様の加護を受けた聖職者なんだぜ? 魔女の魔法なんか恐くない」

「まだだと聞いていますよ?」

「まいったな⋯⋯。レヴィアにまでそれを言われるようになっちゃったか。今回の件が上手くいけば昇格できると思う」

 ◆ ◆ ◆

 シオンは心配性のレヴィアをなんとか押し留めて、〈さえずる古鳥亭〉に向った。

 聖職者だとは思われない遊び人風のチャラい服装にしている。武装の類いは使えないので最初から持っていない。しかし、相手は魔女。攻撃魔法を使ってくるかもしれない。シャーロットからもらった漆黒黄金のタリスマンは、ポケットに忍ばせておいた。

(アイリスの手引き通りに現われるなら、日付が変わるくらいの時間に魔女はやってくる。疑われないように振る舞ってなきゃいけないわけだ)

 早めにジェルジオ伯爵城から出た理由は、アイリスの誘いがあったからだ。魔女の逮捕に協力する見返りでもある。

(どーすっかなぁ。アイリスは本気だ。シャーロットお嬢様との約束は守るつもりなんだろうけど⋯⋯)

 手切れ金でシオンとの肉体関係は終わる。しかし、まだ猶予期間が残されていた。シャーロットが魔法学院に入学したのは二ヵ月前、残り四ヵ月ほどでシオンは帝都に召喚される。それまでは自由にしていいと認めてもらった。

 未亡人アイリスは孕む決心を固めた。そのせいでここ最近のシオンは膣内射精を強要されている。

 無計画な妊活というわけでもないのが、アイリスの計算高さだった。

 シャーロットから受け取った手切れ金とこれまでの蓄えで、子供の養育費は十分にまかなえる。

 そのうえ、一人暮らしには大きすぎる持ち家がアイリスにはあった。大工だった亡き夫が新婚時に建てた一軒家だ。

(アイリスだったら他にも相手はいただろうに⋯⋯。俺なんかを⋯⋯。物好きな女だよ)

 若い頃ほどでないにしろ、口説いてくる男は大勢いた。裕福な商人に言い寄られてるところを見たこともある。しかし、アイリスが選んだのは幼い少年のシオンだった。

 アイリスは若く見える外見だが、二十歳の息子がいる母親の年齢であった。女体の全盛期は終わりかけている。妊娠できる最後の機会だ。

 最初はアイリスも遊びだと思っていたかもしれない。息子を独り立ちさせた後のご褒美。女に興味津々なエロガキと戯れて肉欲を発散する。しかし、シャーロットの念書で思い至ってしまった。

 二十年ぶりの妊娠を遂げるため、避妊なしの本番セックス。もしかすると、あっけなく成就しているかもしれない。もう既に妊娠している可能性すらあった。

 シャーロットが帝都に旅立ってから、アイリスとシオンの逢瀬は回数が増している。子宮に胎児が宿っていてもおかしくなかった。

(どうなるかは大聖女様の御心次第だ。よしっ! 行こう!!)

 シオンは〈さえずる古鳥亭〉の木扉ドアを開ける。

 沢山のビールジョッキを両手で運ぶアイリスは、酒場の客達に愛想を振りまいていた。酔っ払いの視線は、テーブルに置かれたビールジョッキではなく、アイリスの垂れ気味の爆乳に釘付けだった。しかし、鼻の下を長くした男達を非難するのは筋違いだ。

 アイリスは上乳を曝け出し、見せつけている。豊満なノーブラの乳房を強調する破廉恥な格好だった。よくよく観察すればスカートの丈も短い。艶やかな太腿どころか、隠すべき巨尻まで見えそうになっている。

「マスター。ごめんなさい! 今日はもうあがっちゃうわ。お迎えがきちゃったから」

「おー。あー。そうか。ほれ⋯⋯。部屋の鍵だ。窓は閉めとけよ。うちは逢引宿あいびきやどじゃねえんだ。他の客に迷惑をかけんな」

「ありがと! でも、そこまで激しくはしないわ。そうよねぇ? くすくすっ。シオンはいつも優しく愛してくれるものね」

 駆け寄ってきたアイリスはシオンの手を握る。若すぎる愛人の登場に遠方の商人達は口を開けている。ビールを吹きこぼしている者までいた。

「よぉ。ませガキ。エルフの嬢ちゃんに飽きて、今夜の相手はうちの美人女将か?」

「品がないぜ。マスター。レヴィアとはそういう関係じゃないっての」

「シャーロットお嬢様が帝都に行ってから女遊びが酷くなったんじゃないか? 噂は聞くぞ」

「噂と真実は必ずしも一致しねえよ。下種の勘ぐりはやめてくれ」

「だったら素行を改めろ。エロ坊主。周りの視線を見ろ」

 マスターの言い分は正しい。どこからどう見ても母親とその息子。そんな組み合わせの二人組が乳繰り合い始めたのだ。

「おいおい。アイリス。なんだよ。その格好は? いつもと仕事服が違うじゃないか。ちょっと無理してね?」

 そのまま言葉の勢いで「歳を考えろ」と失言しかけたが、シオンは苦笑いで誤魔化した。

「まったくもう。口が悪い子だわ。ちょっと前まではこういう格好をしていたのよ。どうかしら? 旦那を落とした勝負服♥︎ 似合ってるでしょ?」

? 旦那さんが生きてた頃って⋯⋯。俺が生まれるより前だろ。それ」

「そうね。あの子を産む前だから⋯⋯そうかも」

(じゃあ、二十年以上前じゃねえか! やっぱ自分の歳を考えろよ。ババアの若作りにも限度ってのがあるぞ⋯⋯。不老のエルフ族ならいざ知らず。⋯⋯ん? 待てよ。レヴィアはあの見た目でアイリスより年上なんだよな? 不思議なもんだ。歳って何なんだろうな)

 レヴィアは年齢不詳だ。不老のエルフ族は千年以上も生きると言われている。気になるものの、女性の年齢を訊くのは非礼にあたる。

「マスターにお願いして、角部屋を確保しておいたわ。さあ、最上階に上がっちゃいましょう。部屋なら外じゃできないこともできちゃうわね」

 急かし立てるアイリスはシオンの手を引っ張る。

「りょーかい。で、あっちの件はどう?」

「ちゃんと呼んであるわ。きっと来てくれると思うわよ。今日は取り締まる騎士のお客様もいない」

 シオンは酒場のホールを見渡す。魔女らしき人影はない。行商人や旅人でごった返している。その中で含み笑いを噛み締めながら、酒を飲んでる用心棒風の男達がいた。

(レイナードめ。バレバレじゃねえか。こっちをジロジロ見んな! 顔見知りだって露見したら、計画が台無しだぞ!)

 変装したジェルジオ伯爵家の騎士達だった。馬鹿笑いしているレイナードは同僚の背中を叩いている。

「ねぇ。早く行きましょうよ? 早熟のダーリン♥︎」

 アイリスがシオンの頭に乳房を乗せて遊び始めたせいだ。

(こりゃ、また城内で噂になりそうだ。帝都の魔法学院にいるシャーロットお嬢様の耳には入らないだろうけど、最近はレヴィアがなぁ。怒るんじゃなくて泣きそうな顔になるから辛い⋯⋯。あとルフォン先生がゴミカスを見るような目で睨んでくる。あれはあれで⋯⋯恐い。めっちゃ恐い。アルバァンダート先生も守ってくれないしさ)

 シオンとアイリスは互いの手を絡ませて、恋人繋ぎで握り合った。階段を一段上がる度、乳房がたぷんっと卑猥に揺れた。

(アイリス⋯⋯。ブラジャーしてないで働いてたのかよ⋯⋯)

 シオンは股間の逸物が膨らんでいくのが分かった。間違いなくアイリスも女陰を濡らしている。発情している淫女の香りが匂った。

「俺の子を妊娠する気だって、帝都の息子さんには伝えた?」

「言ったところで、あの子も嫌でしょ」

「俺が息子さんの立場だったらめっちゃ嫌だな」

「故郷に残した母親が誰かの子供を産んでいたなんて、わざわざ教えなくていいわ。知らぬ間に産んで、帰ってきたらビックリさせてやるつもり」

「なあ。アイリス⋯⋯。子供が欲しいのは寂しいから?」

「そうかも。私って大家族で育ったの。私以外は早死にしちゃったけれどね。静かな家は苦手。賑やかなほうがいい。旦那が早死にしなければ、もっと子供を産むつもりだったわ。子沢山の母親になりたかった。酷い男よ。私が嫌というまで赤ちゃんを産ませるってプロポーズしたくせに、呆気なく死んじゃうんだもの」

「再婚する気はなかったのか。相手を探せばいただろ?」

「二年前までは母親だったもの。愛した男に託された大切な息子が独り立ちするまでは子育てに専念しなきゃ⋯⋯。でも、二年前でお役御免。そろそろご褒美をもらいたいわ。シオンは迷惑?」

「男冥利に尽きる。光栄の極みだよ」

「嬉しいわ。

 最上階の角部屋、廊下の突き当たりにある扉まで歩く。地上階の騒ぎはここまでは聞こえてこない。それは逆も然りだ。分厚い石造りの壁で区切られた部屋は音を閉じ込める。窓を全開にしなければ、外に声は聞こえない。

(最上階の角部屋か。脱出困難な密室だ。魔女にとっても⋯⋯俺にとっても⋯⋯)

 アイリスは部屋の鍵を開けている。鍵穴に差し込み、ガチャリと回す。

「子供ができたら、息子さんに説明したほうがいい。血の繋がった家族なんだ。恨まれ役が必要ならやるからさ。一発くらいは殴られる覚悟あるぜ」

 寡婦かふの自由恋愛。本気になってしまった火遊び。言い訳はいくらでも並べられる。しかし、たった一人の血縁に通すべき道義はあるだろうとシオンは指摘する。

「無茶を言ってるのは私。責任を取れとは言わないわよ? それに私の息子は子供を殴りつけたりはしないわ。礼儀正しく、優しい、自慢の息子よ」

「故郷に残した大切な母親を孕ませたクソガキでも?」

「たぶんね。恐いなら黙ってればいいじゃない」

「だからって、生まれた弟妹の父親が誰かは言えませんってのはないだろ。そこの責任を取るよ。アイリスには色々と教えてもらった。主にエロいことばっかり」

「嬉しいことを言ってくれるわね。ふっふふふ。そういえばシャーロットお嬢様もセックスの技を仕込んだのは褒めてくださったわ」

「てかさ、アイリスはシャーロットお嬢様といつ会ってたんだよ。手回しが早くて恐ろしいぜ」

「あら? 話し合いに同席したかった? お城に連れ込んだエルフの女性について愚痴を聞かされたわよ」

 魔女の訪問は深夜。まだ時間がある。相手はアルバァンダートからも逃げた勘の良さがある。誘いだと気付かれれば魔女は姿を現わさない。

(俺とアイリスが仲良くセックスする。魔女は俺達が囮役だなんて思いもしない。完璧な作戦⋯⋯だと思いたいね)

 頬を紅潮させ、鼻息を荒くしたアイリスはたわわな双乳を開放する。魅せ乳の給仕服を脱ぎ捨て、熟れきった淫体が露わになった。左右の乳首と臍に卑猥なピアスが付いている。

「お客様が来る前に終わらせなきゃいけない。とっても残念だわ」

 熟れた淫母は我が子よりも年下の愛人ショタを抱きしめる。ひとしきりで終わると、欲望のままに衣服を脱がせにかかった。真っ裸の少年は痩せている。浮かび上がった肋骨を指先でなぞる。

「アイリス! 変なとこ触るな。くすぐったいってば⋯⋯!」

「もうちょっと食べた方がいいわよ」

「小食でね」

「食で清貧を装っても大聖女様は騙せないわ。それとも栄養がこっちに吸われちゃってるのかしらね」

 アイリスは睾丸が収まった玉袋をむ。無毛の陰嚢ふぐりを口に咥え込んで愛撫し始めた。まるで少年の生気をすする美魔女だ。しかし、老いはかならず追いつく。アイリスの身体もいつかは女の機能を失う。

「んれろっ♥︎ れろぉっ♥︎ シオン♥︎ 貴方の赤ちゃん♥︎ 欲しいのっ♥︎ お願いっ♥︎ 授けてちょーだいっ♥︎」

 男根の生えた股間に顔をうずめたアイリスは、潤んだ瞳を怪しく輝かせている。乳首できらめく淫靡なニップルピアスから母乳のしずくが滴り落ちる。

「分かったよ。セックスの師匠に恩返しだ。もう一度、アイリスを母親にしてやる。妊娠した後で恥ずかしがったりすんなよ?」

 シオンはアイリスをベッドに押し倒した。爆乳の先端をまみながら、荒々しく揉みしだく。敏感な乳腺の性感帯に刺激を与える。女陰の割れ目から湧いた愛液が恥毛を濡らす。

「あんっ♥︎ んふぁあぁっ⋯⋯♥︎」

 アイリスのオマンコは侵入したオチンポを歓迎する。脈動する男根に膣襞がまとわりついた。

「アイリス。窓のほうを見ないでくれよ。覗いてる奴がいる」

「あぁっ♥︎ ほんとに? んっ♥︎ くぅっ♥︎ ここ四階なのよ? 窓から覗くなんてできるわけっ♥︎ んぁっ♥︎ あんっ♥︎」

「使役魔の鳥だ。魔女の探りだろうさ。これくらいの用心深さは想定内。まあ、だからこそ、ここで見せつけてやればいい。アイリスは普段通りでいいよ」

 シオンとアイリスの性行為を視姦する鳥は、窓の手すりに止まっている。魔法の知識がない一般人なら見過ごすだろう。しかし、聖職者であれば魔法の気配に勘付く。ルフォンやシャーロットに比べると、技量の拙さが目立った。

(アルバァンダート先生の言うとおりだ。半端な魔術師。でも、逃げ足と警戒心はある。アイリスの見立てもほぼ当たってるな。帝国貴族みたいに魔法学院で体系的に魔法を修めたヤツじゃない)

 シオンはアイリスの膣内なかに子種を送り出す。射精の悦びで矮躯わいくが震えた。下半身は獣欲に満ちている。しかし、頭の中は冷静に状況を分析する。

(魔女は俺とアイリスのセックスを見ているな。視線を感じる。使役魔との視界共有⋯⋯。第三魔法の領域には辿り着いてるってわけだ。なんで、魔導具の密売なんかやってる? 第三魔法まで使えるなら、働き口はあるだろ?)

 下半身を押し出し、仰け反ったアイリスの乳房を鷲掴む。爪が食い込む痛みすら、アイリスは快楽に変換していた。

「はぁっ♥︎ んっあぁぁっ♥︎ んきゅうぅぅうっ~~♥︎ あ゛ぁっ⋯⋯♥︎ あっ♥︎ 孕むっ♥︎ これっ♥︎ しゅごぃっ♥︎ 絶対に妊娠しぢゃうっ♥︎」

「もうデキてたりしてな。ここ最近はずっと避妊してねえんだしさ。んっ、くっ! すごい締まりだ。子供を産んだ経産婦ばばあのオマンコとは思えねえぜ」

「もうっ♥︎ 傷付くわね。御姐さんって呼びなさい♥︎」

「そんな歳じゃねえだろ」

 子宮の深奥部にシオンの遺伝子が植え付けられる。精子が胎内を泳ぎ回っている。お目当ての卵子まで辿り着けるかは運命に委ねられた。

「――でも、蔑まれるのも悪くないわ。今夜はそういうセックスにしてみる? 命じて♥︎ 卑しい私に⋯⋯♥︎ 孕めと命令してぇ♥︎」

 アイリスは感悦で心身を震わせる。誰かが覗き見ていようと関係ない。むしろ自分の痴態を見せつけたいくらいだった。

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉【9話】伯爵令嬢からの餞別品

 レヴィアがジェルジオ伯爵城で暮らし始めて一ヵ月が経った。シャーロットやルフォンは正体不明のエルフを警戒していたが、現在のところ大きな問題は起きていない。

 古代遺跡の石棺で眠っていたレヴィアは、自分が何者なのかを明かそうとしない。しかし、卓越した魔法使いであることは誰の目にも明らかだった。

 ジェルジオ伯爵城の東側には、傾いてしまった古い城壁がある。多額の修繕費がかかるため、ずっと放置されていた。斜度は年々増しており、倒壊の危険があった。そのため、シオンが小さい頃から立ち入り禁止の縄が周囲に張られていた。

 レヴィアは傾いた城壁をほんの数分で完璧な状態に直してしまった。この他にも外堀の掃除や痛んだ石橋を修善した。ルフォンやシャーロットができなかったことをレヴィアは簡単にこなしている。

 実力ある魔法使いが対価を求めず、善意で働いている。何か裏があるのではないかと不信感を抱く者はいた。その筆頭であるシャーロットは、シオンにべったり引っ付き始めたレヴィアを敵視した。

 ルフォンも得体の知れぬレヴィアを警戒していた。同族嫌悪と言うべきであろうか。エルフの魔法使いはジェルジオ伯爵家の女魔法使い達から好かれていなかった。

「危ないので下がっていてくださいね。――大地創成アース・クリエイト

 レヴィアが魔法の呪文を唱えると、隆起した地面から大量の土砂が湧き始めた。あっという間に膨れ上がった土石は、大穴の底にある古い遺跡を埋め尽くした。

「うわ。すげぇ。どんどん大穴が埋まってる。でも、いいのか? 捜し物があったんだろ?」

 魔法による土木工事を見学してたシオンは、わざわざ遺跡を埋め立てる必要があったのかと訊ねる。

 〈さえずる古鳥亭〉が借りている洞窟の食料庫。その奥に隠されていた大穴は人工的に掘られた石窟で、古い時代の遺跡だ。石棺が安置されていた祭壇は土砂に沈んでいった。

「形あるものは失われるのが運命さだめです」

 レヴィアは何かを探していたが、見つからずじまいだった。

「きっと朽ちて消えてしまったのでしょう。私はとても長い間、ここで眠っていたようです。誰も近づけぬように強力な隠蔽魔法をかけていたのですが消失していました。も崩壊しています。保存の魔法も時間で洗い流されてしまったようです」

 事も無げにレヴィアはと口にした。迷宮創成ダンジョンは第七魔法の時空アカシックを極めた魔法使いだけが使える奥義だ。そう簡単に使える魔法ではなかった。

「じゃあ、俺が閉じ込められた迷宮は、魔力の残滓ざんしだったのかな。あの時は肝が冷えたよ」

 食料庫の扉が消えてシオンは迷宮に閉じ込められた。あの異変に巻き込まれなければ、レヴィアが眠る石棺を見つけ出せなかっただろう。

「その節はご迷惑をおかけいたしました」

 レヴィアは事情を少しだけ教えてくれた。洞窟はレヴィアが掘った石窟で、人間が近づけない魔法をかけていたという。しかし、長い年月で魔法の効力が失われ、誰かが見つけて貸し倉庫になってしまった。

「別にいいよ。わざとってわけじゃないんだしさ。なんで眠ってたんだ? まさか悪いことをして封印されてたとか?」

 城の書庫にある吸血鬼の本を思い出した。ある邪悪な魔法使いが不老不死になろうとして、日光を浴びられない化物に変貌する昔話だ。

「ある意味ではそうかもしれません」

「え? おいおい。冗談で言ったのに肯定されると困るよ」

「私は自分自身を封印したのです。失敗ばかりの人生でした。やることなすこと裏目ばかり⋯⋯」

「レヴィアはすごい魔法使いなんだろ。ルフォン先生ですら第五魔法までしか使えない。アルヴァンダート先生が言っていた。帝国の魔法使いで第七の位階まで進めた者はほんの数人だって。もっと誇るべきじゃないか?」

「どれだけすごい力を持っていても使い道次第です。私は何も果たせなかった。現実と向き合えず、逃げ出した臆病者です。誇りなど⋯⋯」

 レヴィアは自らを蔑んでいる。第七魔法の高みに登り詰めた〈真なる魔法使い〉だというのに、自己評価がとてつもなく低かった。

「何があったか知らないけどさ。辛かったら逃げるのも悪くない。それに、俺達はレヴィアのおかげで大助かりだよ」

「そうですか?」

「特にあの傾いた城壁! 取り壊すのも費用がかかるから、扱いに困ってたんだ。レヴィアが完璧に直してくれて、伯爵様は大喜びしてた」

 ジェルジオ伯爵家は比較的裕福な貴族だ。倹約家の伯爵夫妻は無駄遣いをしない。実は傾いていた城壁は散財癖のあった先々代の当主が建造したものだった。見栄えのためだけに、地盤が緩い土地に城壁を建ててしまった。

 実用性は全くない。それでも崩壊したら危険なので、十二年前に解体しようとした。しかし、運悪く事故で死傷者が発生し、解体計画は取り止めとなった。呪われている。そんな噂もあったそうだ。

「むしろ申し訳ないです。たいした働きをしていないのに、お金まで恵んでいただきました。ジェルジオ伯爵はよい統治者ですね」

「ただ働きさせるお人じゃないぜ。うちの領主様はさ! レヴィアの服が一着しかないって教えたからね。着替えの服を買うお金は必要だろ。でも、部屋の件はいいの? 俺の部屋は狭いぜ? あと、いろいろ散らかってるし」

「シオンの近くにいたいので、ずっと居候いそうろうさせてください。掃除は私がしましょう」

「そ、そう⋯⋯」

 言い方は悪いが、レヴィアはシオンに付きまとっている。美人に好かれるのは心地好い。しかし、好意を向けられる理由までは分からない。

 そのうえ、レヴィアの愛情は異性に対するものではなかった。母親が子供に注ぐ母性愛だ。過保護と言い換えてもいい。シオンが一人では生きていけない赤子とでも思っているかのようだった。

(夜のトイレまで付いてこられるのは困るんだよな。てか、俺が起きるとレヴィアも目覚めるのは、どういう仕組みなんだ? まさか魔法? でも、なぜか見守られてると安心しちゃうんだよなぁ)

 若干の寒気を感じつつも、シオンはシャーロットと清らかな同棲生活を送っていた。

(狭い部屋のベッドで一緒に寝てるから、周囲に誤解されるのも分かるけど、レヴィアとヤってるわけじゃないんだ。シャーロットお嬢様の機嫌がますます悪くなりそうだし⋯⋯それを考えると⋯⋯。ううぅっ! 恐い! 恐い!!)

 シオンはレヴィアを連れて城下街の市場に向った。明日、シャーロットが帝都に旅立つ。魔法学院に入学し、帝国貴族に相応しい高等教育を受ける。半年後にシオンを呼びつけると宣告されていたが、別れの日にプレゼントを贈るつもりだった。しばらくの間、シャーロットとは離ればなれになる。

(プレゼント。お嬢様が気に入ってくれるといいな)

 ◆ ◆ ◆

 結論を簡潔に述べるとしよう。シオンの目論見は盛大に失敗した。

「はぁ~。あちゃー。まさか受け取り拒否されるとは思わなかった。選ぶのに三時間もかけたんだぜ⋯⋯」

 シオンはシャーロットへの贈り物に聖印のアミュレットを選んだ。しかし、お別れの日に手渡したアミュレットを突き返されてしまった。

 レヴィアと一緒にプレゼントを選んだのが気に入らなかったようだ。

 シャーロットは何も望まなかったわけではない。無言で小剣を取り出し、シオンの髪を一房ひとふさ切り取った。ちなみに、シオンは股にぶら下がっている大切な逸物を切り取られるのではないかと、腰を抜かしていた。

「酷いことをしますね。シオンの髪を奪っていくなんて」

「前髪じゃないだけ温情だと思うぜ」

「だとしても粗暴です。シャーロットさんは昔からああなのですか?」

「お嬢様はあんな感じではあるけど、あそこまで苛立ってるのはここ最近だよ」

「なにか嫌なことがあったのでしょうか。そうだとしても周囲に当たり散らすのはよくありません」

(天然でやってるのか、分かっていて言ってるのか。レヴィアはどっちなんだろ。⋯⋯俺も半分くらいは責任があるけどさ)

 突き返された聖印のアミュレットは、レヴィアがちゃっかり身に付けている。

「これは私が大切にしますね」

「う、うん⋯⋯。レヴィアは⋯⋯気にしないのか?」

「素晴らしいアミュレットだと思います。シオンの祈りが込められていますから」

(他人にあげるはずだったプレゼントをもらっても嬉しいもんなのか。女性はこういうのを嫌うもんだけど。やっぱレヴィアも魔法使いだから変わった性格だ。まさか最初からこの展開を狙っていたとか⋯⋯いや、ないな。そう思いたい)

 シャーロットがレヴィアを嫌う理由は明白だ。レヴィアを完全な恋敵と認識していた。レヴィアの前ではシオンと一言も口を聞いてくれなかった。

(はぁ。レヴィアのことがあるとはいえ意地っ張りなお嬢様だ。魔法使いとしてのジェラシーとかもあるんだろうか? でも、このままは嫌だな。手紙を出そう。お別れだってのに、無言の別れはちょっとね。あんな調子で大丈夫かな? 帝都の魔法学院でちゃんとやれるんだろうか? 友達をちゃんと作ってほしい)

 喧嘩別れのようになってしまった。しかし、シャーロットはシオンを好いている。

 可愛さ余って憎さ百倍。向ける感情が激しすぎて抑えきれないのだ。その証拠にシャーロットはとても高価な代物をシオンに押し付けてきた。

「金属製のタリスマン。前に使ってたのは食料庫で燃えちゃったから、お嬢様が新しいのをプレゼントしてくれた」

「似合っていますよ」

「うん。すごく見栄えがいい。一人前の聖職者になった気分だ。⋯⋯このタリスマンを無くしたらお嬢様に殺されされそう。命よりも大切にしなきゃな」

「とても高価なものだと思いますよ。貴重なレアメタルが使用されたタリスマンです。しかし、命のほうを大事にしたほうがいいでしょう。命はお金に換えられませんよ」

「え? なんだって?」

「命を大事にと⋯⋯普通のことでは?」

「その前だよ。レアメタル!? これ単なる鉄じゃないのか?」

「漆黒黄金製のタリスマンだと思います。いわゆるブラックゴールドですね」

「黄金⋯⋯!? で、でもさ、金色に光ってはないぜ?」

「黄金、暗銀、プラチナなどで構成される合金です」

「この世にはそんなのあるのか」

「黒い光沢が目立ちますが、通常の金製品よりも使われてる素材が希少ですし、なによりも加工に手間がかかります」

「おいおい。このタリスマン、いくらしたんだよ。俺はまだ半人前の聖職者だってのに⋯⋯。太っ腹すぎるぜ。お嬢様」

「おそらくドワーフ製でしょう。一流の職人が手掛けた鋳造品です。すぐ用意できる代物とは思えません。きっと以前から贈り物の準備をしていたんでしょう」

 レヴィアは鼻先を近づけてタリスマンの匂いを嗅いでいる。

「嗅覚で分かるもんなのか?」

「はい。レアメタルの種類を特定するのなら手触りと匂いです。目は騙されやすい。一流の錬金術師であれば、黄鉄鉱を黄金のように見せかけることができます」

 さも当然だと言わんばかりにレヴィアは説明する。試しにシオンもタリスマンの匂いを嗅ぐが、さっぱり分からなかった。

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉 【8話】シュトラル帝国の暗闇

「アルヴァンダート卿、あのエルフは何者ですか?」

 ルフォンの医務室にはアルバァンダートが招かれていた。

 魔法医師のルフォンは、シャーロットの家庭教師を兼任している。第五魔法の回復ヒールを極めた魔導師であり、ジェルジオ伯爵領の衛生管理を任された優秀な魔法医だった。

 しわの目立つ老女であるが、鋭い目付きに灯る力強さは若輩を圧倒する。鷹のような雰囲気の女性だった。いつも定規のように真っ直ぐな姿勢で、性格が身体的特徴に現われていた。

 奔放なシオンは領主夫妻や養父のアルヴァンダートからも甘やかされている。そんな悪ガキをいつも叱りつけているのがルフォンである。しかし、今回は珍しく、詰問の相手がアルヴァンダートだった。

「よもやルフォン先生の口からその質問が出てくるとはのう。驚きじゃ」

 アルヴァンダートは鼻先で笑った。しかし、ルフォンは笑い事ではないと語気を強めた。

「今さらシオンの素行をどうこうは言いません。叱りつけたところで、風に向かって説教するようなものですからね。もう諦めました。しかし、ジェルジオ伯爵家に仕える魔法使いとしての義務は果たしますよ」

「ほほう? 義務とは?」

「そういう態度を取られるのなら、ジェルジオ伯爵家の魔法使いとしてお訊ねしましょうか。あのエルフは何者ですか?」

 ここ数週間、城内の話題はシオンが連れ込んだ黒髪の美しいエルフについてで持ちきりだった。

 魔法使いのレヴィアは、ジェルジオ伯爵に逗留とうりゅうの許可を願い出た。城に宿泊している間、レヴィアは魔法に関する仕事をこなすと提案した。

「レヴィア殿はシオンが見つけて連れてきた。たいそう可愛がられておる。それ以上のことは儂も知らぬよ」

「それだけですか⋯⋯?」

「ふぅふぅ。紅茶が熱すぎて口を付けられん。舌を火傷してしまいそうだ」

 アルバァンダートは紅茶に息を吹きかけて冷ましている。見かねたルフォンは魔法の冷気で、ちょうど良い温度に調整した。

「ありがとう。ルフォン先生。飲みやすくなった。魔法は実に便利じゃな」

「話を逸らすのなら、私の見解を述べましょう。レヴィアさんの実力は第七魔法の熟達者マスター以上です。あるいは第八魔法に挑む覚醒者アルティメットかもしれない」

「どうじゃろうな」

「シュトラル帝国の魔法学院でもそうはいませんよ。使の高みに辿り着いた者は⋯⋯」

「そうじゃのう。シュトラル帝国でさえ、現代の魔法使いで第七魔法の覚醒者アルティメットに辿り着いた人間は何人いるのかのう。それこそルフォン先生の師匠くらいなものだ」

「第八魔法は特別です。私の師匠は未だに辿り着けずにいる。ひょっとしたら、これからもずっと⋯⋯」

「結局、ここ百年で第八魔法の領域に足を踏み入れたのは、だけのようじゃな」

「大魔法使いイヴァラク=ナイトウォーカーのことですか?」

「うむ。旅先でも彼奴の話を耳にした。あまり良い噂は聞かぬ。心を入れ替えてくれることを祈っておるよ。才能だけは頭抜けた奴じゃ。おそらくは近代で最強の魔法使いじゃろうな」

「ここ百年に限った話ではあります」

「⋯⋯⋯⋯。エルフは長生きじゃからのう」

「エルフ族の魔法事情はシュトラル帝国の辺境まで流れてきません」

「そうじゃな。レヴィア殿の年齢はどれくらいじゃろうな」

「アルバァンダート卿のお知り合いではないのですね?」

「くどいな。疑心は魔法使いの欠点じゃぞ。レヴィア殿と面識はなかった。儂が招いたわけではない」

「本当に?」

「嘘は言っておらん。エルフ族は儂らよりも魔法の才能に秀でておる。第七魔法を会得していても不思議ではあるまい。魔法大国を自称しておるシュトラル帝国じゃが、第三魔法までしか使えぬ〈〉止まりは案外多い」

「魔法教育を貴族に限定しているからでしょう。本来、推薦入学枠は非貴族の入学を認めるための制度でしたが機能しておりません」

 使でなければ爵位は継げない。しかし、それは広義の意味における魔法使いであった。大聖女が定めた人類魔法体系には位階が存在する。

 第一魔法から第三魔法は魔術師。

 第四魔法は高位魔術師。

 第五魔法は魔導師。

 第六魔法は大魔導師。

 第七魔法は魔法使い。

 第八魔法は大魔法使い。

 厳格な魔法位階が定められているが、知識のないもの達からすれば、魔法を使う者はすべて〈使〉に見える。

 事実、第一魔法であっても〈魔法〉には違いないのだ。そう呼ぶのは致し方ない側面がある。そのため、第七魔法を修得した者達に対し、同業者は畏敬の念を込めて〈真なる魔法使い〉と呼んだ。

「なぜ〈真なる魔法使い〉が帝国の辺境に現われたと思われますか? それもエルフです。西の森からジェルジオ伯爵領までは距離があります。このあたりで森育ちのエルフはまず見かけません」

「遺跡で眠っておったそうじゃ。出身が西の森とは限らん」

「魔法使いに奇人変人が多いのは認めましょう。しかし、それが理由になりますか?」

「ふぉほっほほほほ。ルフォン先生もその部類じゃぞ。第六魔法を目指さず、医道の探究にのみ没頭した。才能の無駄遣いだと師匠に罵られたそうじゃな」

「位階が全てではないでしょう。そもそも第六魔法以上は日常生活で使う機会がありません。私は魔法医を目指しておりました。野心家の師匠とは違います」

 ルフォンは師匠と大喧嘩をして、帝都を飛び出してきた。彼女にとって魔法は人を救う方法だった。

 第五魔法の回復ヒールこそ、追い求めていた至高の御業だった。第六魔法に挑むより、第五魔法の探究をルフォンは選んだ。しかし、師匠は愚行と罵った。才能をどぶに捨てた断言した。

「ルフォン先生であれば共感できるはずじゃろう。レヴィア殿は穏やかな日常を愛しているのではないかな。ジェルジオ伯爵領は喧騒とは無縁。老骨が最期を終えるには良い場所じゃ」

「アルバァンダート卿。相手は第七魔法を使えるほどの人物なのですよ。警戒すべきです」

「レヴィア殿はジェルジオ伯爵家に仕える気はなさそうじゃぞ。仮にそうだったとしても、伯爵様は魔法使いが増えると大喜びするはずじゃ。ルフォン先生も仕事が楽になるじゃろ?」

「心外ですね。自分の地位が脅かされるのを懸念しているように見えましたか?」

「ふむ。そうではないようじゃな」

「レヴィアさんはご自分がどこから来たかさえ説明できていない。あまりにも不自然です。アルバァンダート卿の知人でもないのなら、怪しむべきでしょう。その気になれば、あの正体不明のエルフは伯爵様や領民を魔法で洗脳できるのですよ?」

「第六魔法の幻影イリュージョンはそこまで便利な魔法ではないぞ。もし魔法で完全な支配や洗脳が可能であれば、世界の覇権は竜族が握り続けていた。人の心を操るのは、魔法をもってしても困難じゃよ。心はモノと異なる」

 アルバァンダートは空っぽのティーカップを差し出す。

「ルフォン先生がレヴィア殿に抱いている懸念は杞憂じゃよ。おかわりを頂けるかのう?」

 不服そうな顔のルフォンは、紅茶のおかわりを注いだ。

「分かりました。シャーロットお嬢様の件はどうでしたか? 予定通り、帝都の魔法学院に?」

「うむ。木を隠すなら森の中じゃ。シャーロットお嬢様の魔力は目立ち過ぎる。帝都のほうが良かろう。魔法の知識を学ぶためにも⋯⋯」

「いつまでも隠しおおせるでしょうか? 古代竜を信奉する怪しげな連中が蠢動しゅんどうしております。イヴァラク=ナイトウォーカーの配下は帝都にもいるはずです」

「竜紋の魔法使い達は、古代魔法の遺物を収集しておる。その一方で粗悪な魔法具を製造し、密売で資金を荒稼ぎした。神秘結社ドラゴノイドと名乗っておるそうだ」

「神秘結社? ドラゴノイド?」

「ルフォン先生の師匠が調べた。新派を起こし、魔法使いに変革を⋯⋯と煽っているそうな。表向きの理想はご立派なのだがな。魔法教育の平等化、貴族特権の廃止、魔法による利益の平等分配⋯⋯。支持する者は増えておる」

「裏にいるのがイヴァラク=ナイトウォーカーなら期待はできませんね」

「神秘結社ドラゴノイドは反権力を掲げておる。しかし、自分達が権力を握れば豹変するであろうな。力の虜となる⋯⋯」

「シャーロットお嬢様の才能は本物です。私など一年もあれば追い越してしまうでしょう。間違いなく都で目立ってしまいます。そうなれば十二年前の秘密を探る者が現われるやもしれません」

「儂らにできることは限られておる。お嬢様は周りに気遣われるほど弱い御方ではない。だからこそ、課せられた運命に立ち向かう力を学んでもらわねばならぬ」

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉【7話】老師アルバァンダート

「なんとまぁ、呆れ果てたもんじゃのう。これ。起きんか。シオン。シオン! 起きるのじゃ!」

「ふぁ⋯⋯? アルバァンダート先生? 帰ってきたんだ。お帰りなさい。御土産は買ってきてくれた⋯⋯?」

「馬鹿もん。寝惚けておるな? 帰ってきていないのはお前じゃ。まったく。こんなことなら貞操帯を買ってくるべきじゃったな」

 シオンは周囲を見渡す。大穴は真っ暗闇だった。太陽は沈んでいた。

「夜⋯⋯? たしかはここは⋯⋯?」

「〈さえずる古鳥亭〉が借りている食料庫です。壊れた壁の向こう側にあった通路の先。こんな大穴があったのですね。貴方はずっとここで眠っていました」

 松明を持ったケイティが呆れ果てた表情でシオンを睨んでいる。

「ケイティさんまで? なんで?」

「貴方が夜になっても帰ってこないので探しに来ました。ちょうどアルバァンダート先生が戻られたので、同行していだきました。シャーロットお嬢様も何かあったのではないかと、とても心配されていました」

「へえ。お嬢様に心配をかけちゃったか。悪いことをしたな。でも、どうして過去形なわけ⋯⋯? まさか! あぁ! えっと⋯⋯。こんばんは。お嬢様。心配してくれてありがとう。俺は元気です!」

 メイドのケイティや養父のアルバァンダート。二人に叱られるだけなら、どれだけ良かっただろう。ご立腹の伯爵令嬢シャーロット・ジェルジオは頬をヒクつかせていた。

「そのようだわ。ところで、シオン? 私の頼みを覚えてる?」

「えっと、大好物のプリンを買ってくる件でしょうか? ⋯⋯違いますね。はい。分かっておりますよ。アイリスの件は根回しもしてくださってようで⋯⋯ありがとうございました」

 手切れ金を手にしたアイリスは小金持ちになった。そのせいで妊娠したら、子供を産むなんて言いだしたのだが、その件は口を噤んでく。

「身綺麗になってとお願いしたわよね? 馬屋の裏だけでなく、古臭い廃虚もシオンの遊び場なの? 清算する関係がたくさんあるようね」

「ちょっと待った! 誤解があるよ。その、えーと、つまり⋯⋯。ここのお集まりの皆さんは誤解されている。俺が説明するよ」

 伯爵令嬢のシャーロット、メイドのケイティ、養父のアルバァンダート、集まった三人は懐疑的な目付きになった。

 それもそのはずだ。食料庫の幽霊を調べに行ったシオンは、夜になっても帰ってこなかった。心配になったアルバァンダートが捜索に向おうとした。旅から戻ったばかりだったが、帰ってこない弟子の身を按じた。

 アイリスの依頼を伝えたケイティも責任を感じて付いてくると言いだした。それがシャーロットの耳にも入った。

 三人で幽霊騒ぎが起きている食料庫を探していたら、シオンは知らない女と抱き合ってすやすやと眠っていた。

「説明? 言い訳の間違いじゃろ?」

「先生! 大聖女様に誓って不純な行為はしてない! 俺の目を見てくれ! これが嘘を付いている男の目か!?」

「見え透いた嘘です。食料庫の幽霊事件、犯人はシオンでしたか。さしずめ、馬屋の件が噂になったので、ここを使っていたのでしょう? こんな場所があるとは知りませんでした。〈さえずる古鳥亭〉の人達が聞いたのは、喘ぎ声だったようですね。とぼけるのがお上手です」

「ケイティさん! 違う! それは違うぞ! 冤罪だ! 濡れ衣だよ!」

「そのエルフは誰なのかしら? お友達だっていうのなら私に紹介してくれる? 領民とは思えないわ」

 止めの一撃をシャーロットは放った。目覚めたばかりのシオンは、一緒に眠っていた黒髪の美女を見詰める。幽霊などではない。死体でもない。生きた人間だった。

「⋯⋯お嬢様、信じてください。これから俺は真実を言います」

「いいから、説明しなさい。その女は誰?」

 誰なのかは知らない。しかし、今もシオンを抱きしめている。

「⋯⋯それは⋯⋯その⋯⋯。エルフの女性だ。まだ名前を聞いてない。俺も知りたいくらいだよ」

「そう。シオンは名前さえ知らないエルフの女性に添い寝をしてもらえるのね。でも、怒ったりはしないわ。そういう子だって私は知っているもの」

「うん。俺はそういう子なんだ。⋯⋯許して? お願い。てへ♪」

「最低」

「ひぃっ!」

 平手で頬を叩かれる。シオンは反射的に目を瞑った。しかし、痛みはなかった。シャーロットの手首を黒髪の美女が掴んでいた。

「なぜ貴方は暴力を振るうのですか?」

 丁寧な口調だった。しかし、シャーロットは並々ならぬ気配を感じ取った。それは元騎士であるケイティも同様だった。剣を鞘から解き放とうとする。

「待つのじゃ。痴情のもつれで殺傷沙汰は困るぞ」

 老年のアルバァンダートはケイティの抜剣を止めた。柄の先端を指先で押されているだけなのに、ケイティは剣が抜けなくなった。

「弟子の不始末は儂が片付ける。ケイティはお嬢様を連れて城に戻るがよい。無事にシオンは見つかったのじゃ。そちらの方、お嬢様の手を離してくれんかのう? シャーロット様はじゃぞ」

 黒髪のエルフはアルバァンダートの警告を聞いても無反応だった。領民ならばシャーロットを知らぬはずがない。伯爵令嬢と呼ばれても、意に介していなかった。

「守ってくれたのはありがとう。でも、悪いのは俺なんだ。お嬢様からのビンタは、一種のご褒美みたいなもんだよ」

「暴力を振るう理由にはならないと思います」

「なんて言えばいいかな。お嬢様は怒りっぽいだけなんだ。シャーロット様がジェルジオ伯爵家の貴族だって聞いただろ? このままだと貴方が不敬罪で捕まる。離したほうがいいよ?」

 シオンがそう言うと、黒髪の美女は掴んでいたシャーロットの手首を自由にしてやった。

「お嬢様。このエルフ、どうしましょうか?」

「はぁ。もういい⋯⋯。城に帰る。アルバァンダート、その不審なエルフの処遇は任せるわ」

「お、お嬢様⋯⋯。お待ちください! お一人では危険です!! お嬢様⋯⋯!」

 シャーロットは帰り際に黒髪の美女を睨みつけた。松明を持ったケイティが慌てて走って行った。

「ふぅ。やれやれ。儂が一人で探しに来るべきじゃったな」

 アルバァンダートはシオンが使っていた結晶灯のランタンを起動させた。シオンが動こうとすると、黒髪の美女は抱きしめる力を強めてくる。

「あのー。動けないよ。ずっと僕にひっついているつもり?」

「儂も帰ったほうがよいかのう? 邪魔ならばいつでも出て行くぞ」

「待った! 待って! 見捨てないで!! アルバァンダート先生!! 先生!! 可愛い弟子を置き去りにしていでくれ!!」

「身から出たさびじゃろう。言っておくが、これで終わりではないと思うぞ。お嬢様の怒りからお前さんを救うのは不可能じゃ」

「そんなぁ!」

「とはいえ、こんな場所がジェルジオ伯爵領にあったのは驚きじゃ。古代遺跡には興味があるのう。どうやって見つけた? そちらのエルフに教えてもらったのか?」

「それは⋯⋯なんていうか⋯⋯。そうだ! 出口! 食料庫の扉がなくなったんだ!」

「何を言っておる。扉はあったぞ。儂らはそこから入ってきた」

「ここへの道は?」

「塞いであった洞窟の壁が崩れておったのでな。シオンの足跡を辿ってここを見つけた。まるでここは――」

 大穴の真上を見上げる。夜空の星が煌めいていた。アルバァンダートは何かを言おうとして、口を閉ざしてしまった。

「ふむ。魅力的な場所じゃな。ともかくエルフの御方。お名前を聞いてもよろしいか? まず名乗りをあげてからというのなら、儂から先に言おう。聖導師のアルバァンダート。ジェルジオ伯爵家の顧問官をしておる聖職者じゃ。お前さんが抱いてるのは、弟子のシオンじゃ」

「この子はシオンというのですか?」

「そうだよ。俺はシオン。ジェルジオ伯爵家で暮らしてる教会の読師だ」

じゃ」

「ちょ! アルバァンダート先生! いいじゃんか! そろそろ読師って名乗ってもさ。教会の経典は読めるようになったんだぜ!?」

「素行を改めるのならば一考するしよう」

「先生が留守の間、魔法絡みの事件だって解決したのに!」

「今回の不祥事でその功績は相殺じゃな」

 アルバァンダートは髭を撫でている。シオンは不服そうだった。

「教会⋯⋯経典⋯⋯。魔法⋯⋯」

 黒髪の美女はシオンを抱きしめる力を緩めた。なにやら深刻な表情で考え込んでいる。

「よもや名前がないわけではあるまい。儂はジェルジオ伯爵家の顧問官じゃ。エルフの御方、貴方が何者なのか知っておかねばならん」

「レヴィア。私の名前です。そう呼んでください。シオン、この子の名前はシオン⋯⋯。とても良い名前だと思います。響きが良い⋯⋯」

「名付け親、目の前にいる意地悪な爺さんだよ。だから、あんまり褒めないでくれ。ところでさ、レヴィアさん。ここで何してたんだ?」

「夢を見ていました。⋯⋯今もそうなのかもしれません」

「大丈夫。現実だよ。お嬢様がマジで怒ってたもん。ご機嫌取りが大変だ。それとさ、さっきからご立派なオッパイが後頭部に当たってる。夢見心地ではあるんだけど、そろそろ離してくれないかな」

「抱きしめさせてください。もう少しだけ、楽しい夢を見させてください。お願いです」

 シオンは試しにレヴィアの手をつねる。

「夢じゃないってば⋯⋯。どう? 痛いでしょ? レヴィアさん。まだ寝惚けてる?」

「呼び捨てにしてください」

「うぅ、分かったよ。呼び捨てにするから、そろそろ離してってば⋯⋯」

 石棺から出ようとシオンはもがき始める。レヴィアは名残惜しそうにしながらもシオンを開放した。

「やれやれじゃ。女遊びばかり達者になりおって⋯⋯今後が思いやられる⋯⋯」

 その間、アルバァンダートは結晶灯で周囲を照らし、転がっている石像を調べていた。草木が茂った大穴の底は、壁面に彫刻が施されている。風化がいちじるしく、描かれた内容は読み取れない。

(太古の時代に造られた石窟じゃな。これは教会の聖印だろうか。緑石の碑文⋯⋯。古代文字が刻まれておる)

 アルバァンダートは震える指先で、刻まれた古代文字の解読を試みる。

(下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし⋯⋯。タブラ・スマラグディナの銘碑? まさかのう。ありえぬ。大魔道書『創造の神秘書』で言及された伝説上の代物。古代に失われた叡智⋯⋯。まさか? こんなところに転がっているはずが⋯⋯しかし⋯⋯これは?)

 全身の神経がざわつく。捨てたはずの知識欲が沸き起こる。

(ここは魔法の研究工房⋯⋯? 強い魔法の残滓を感じる。何百年前の⋯⋯まさか三千年前に失われた古代魔法の⋯⋯)

 人生を捧げてでも欲した真理が足下に転がっている。そんな気がしたのだ。

「⋯⋯っ!」

 呼吸を忘れていたアルバァンダートは蒼ざめた表情で振り返る。真紅の瞳が老人を鋭い目で射抜く。まるで囚人を見張る看守のような目付きだった。怯えて縮こまったアルバァンダートは手を引っ込めるしかなかった。

「なぁ! アルバァンダート先生! レヴィアを城に連れて行っていいかな? 行くところがないんだってさ。でも、すぐ仕事は見つかると思うぜ。レヴィアは魔法使いなんだってさ」

 アルバァンダートは息を整える。額に浮かんだ汗を拭き取り、動揺を取り繕った。

「レヴィア殿は魔法使いか。エルフ族は魔法に秀でておる種族じゃ。ジェルジオ伯爵様も喜ばれるであろう。働き口はあるじゃろうな」

 冷静を取り繕ったアルバァンダートは答える。足下に転がる緑石から手を離し、潔く背を向けた。

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉【6話】ガール・ミーツ・ボーイ 乙女は少年と邂逅する

「眠い⋯⋯。ふわぁ~。結局、搾り取られたな。先祖にエルフ族がいるそうだけど、本当はサキュバスなんじゃないのか?」

 シオンは重たい目蓋まぶたこする。アイリスの自宅を抜け出せたのは、夜明けの直前だった。

 くたくたの身体を引きずって、ジェルジオ伯爵城に帰った。城門で会ったレイナードに「破戒僧め。女のところから朝帰りか? 胸元のキスマークは隠しておけ。大聖女様に説教をくらうぞ」と揶揄からかわれた。レイナードは〈さえずる古鳥亭〉で働くアイリスが休みだったのを知っている様子だった。

 シオンは言い返す気力すらなかった。急いで身を清めて、暗色の聖職衣に着替えた。寝不足の状態で日課の祈祷を礼拝堂で執り行う。

 祈りは欠かさない。経典の聖句を諳んじている最中も、アイリスのささやきが頭から離れなかった。

 本当はベッドで眠りたい。しかし、本来の用件を済ませる必要があった。食料庫の鍵を預かってきている。シオンは井戸の冷水を一気飲みして、眠気を吹き飛ばした。

 図太い神経のアイリスは食料庫の幽霊騒ぎを笑い飛ばしていたが、誰もが彼女ほど豪胆になれるわけではない。すすり泣く女の声に怯えて、年若い女給仕は食料庫に行きたがらないのだ。そのせいで〈さえずる古鳥亭〉は困り果てている。

「幽霊が出そうな雰囲気あるけどさ」

 古くからある自然洞窟を利用した食料庫の気温はひんやりとしている。風の流れはない。奥に通じる道は埋められていた。蝙蝠や野鼠などの害獣を侵入させないために、出入口は一つだけになっている。

「声なんか聞こえない。まさか反響した自分の声を幽霊だと勘違いしたんじゃないだろうな?」

 とてつもなく眠たいのでそのまま帰ってしまおうかとも思った。しかし、頼まれた以上はお祓いくらいはしておくべきだろう。

「⋯⋯⋯⋯」

 祈るためにタリスマンを掲げたとき、シオンの耳は女性の声を聞いた。泣いている女の幽霊。アイリスは聞いたことがないと言っていたが、噂は本当だった。

「まさか本当に⋯⋯? まいったな。浄霊は初めてだ」

 死者の魂が現世に囚われるのは稀だ。肉体の死は魂魄の崩壊を意味する。尋常ならざる未練は残留思念となり、霊障を引き起こす亡霊となる。しかし、それは死者が生きているわけではない。

霊体ゴーストは魔力の残滓ざんし。死者は現世に留まれない。アルバァンダート先生はそう教えてくれた)

 魔力は世界の理法ことわりを惑わす。しかし、死者を呼び起こすことは、偉大な大魔法使いであっても成し遂げられなかった。

 亡霊と呼ばれる存在の正体は、生前の人間に宿っていた魔力の欠片だと言われている。死者の姿や形、強く想っていた感情を魔力は記憶する。魔力が引き起こす超常であれば、聖職者の祓魔ふつまは効果覿面である。

「これって魔力のよどみ⋯⋯か? 熱っ⋯⋯!!」

 タリスマンが発熱し始めた。触れていられないほどの熱が籠もっている。思わずシオンはタリスマンを地面に落としてしまった。

「どうなってる。ただの幽霊じゃない? やばいな。俺の手に負えない感じだ。アルバァンダート先生が帰ってくるのを待つか⋯⋯」

 シオンが持っていた木製のタリスマンは炎上し、燃え尽きてしまった。アルバァンダートから死霊について習ったときは、墓所で酒盛りの騒ぎを起こす酒豪の話だった。度数の強い蒸留酒を与えてやったら満足して眠ってくれたという。

「おいおい。どんな未練を抱えて死んだら、こんな強い思念になるんだ?」

 すすり泣く女の声が洞窟全体に響いた。

「我が祈りは折れぬ剣。我が信仰は砕けぬ盾。我が救済は断ち切れぬ鎖。偉大なる大聖女よ。我を邪悪なる者から守りたまえ⋯⋯」

 祓魔掌印を結び聖句を唱える。普段の行いをもっと良くしておくべきだったと悔いた。

「おいおい。出口が消えてる。冗談だろ! ここにあった! 確かに扉があったのに⋯⋯!! くそ! 迷宮創成ダンジョンは第七魔法だぞ!」

 うろ覚えの知識だが、ダンジョンを造るには第七魔法の時空魔法アカシックが必要になると聞いた。空間を捻じ曲げるのは本物の魔法使いだ。物を浮かせたり、火を出したり、水を生み出したり、その程度の子供騙しとは比較にすらならない。

(ここは単なる洞窟だったはずだろ。自然にダンジョンが生じたのか? いや、魔力が集中していれば気付いたはずだ。奥に入るまでは何も感じなかった。くそ。ドジを踏んだ。誰かが魔法をかけていたんだ⋯⋯!)

 シオンは食料庫に閉じ込められた。逃すつもりはないらしい。

「落ち着け。考えろ。俺。冷静になれ。ダンジョンには必ず出口がある。アルバァンダート先生はなんて言ってた⋯⋯。そうだ。経典だ! 大聖女様は弟子達に魔法を教えた。ダンジョンについては⋯⋯。どこだ。どこかに、六章だったか? 違う。七章だ! あったぞ。『』これだ。いかなる魔法も世界との繋がりは絶てない!」

 持っていた教会の経典だけが頼りだった。問題は出口を探し当てられるか。そして、辿り着けるかが問題だ。

「祈るしかないよなぁ。大聖女様、助けてください。これからは朝帰りを控えますから⋯⋯! はぁ。困ったときだけ助けを求めるのは虫が良すぎるか⋯⋯? 出口はどこだ?」

 自分を奮い立たせるための軽口だった。しかし、予想を越えた結果が起きた。迷っていたシオンの行く手を遮っていた洞窟の壁が光り輝いた。

「教会の紋章と魔法陣⋯⋯? まさか俺が祈ったから? 嘘だろ。こんな都合のいい展開⋯⋯あるわけが⋯⋯」

 浮かび上がった紋章は、シオンが抱えている経典の表紙に記された聖印と酷似している。発光する魔法陣は古代語だ。シャーロットの部屋にある分厚い辞書があれば読み解けそうだった。

「ルフォン先生から古代文字を習っておくべきだったな。何の魔法だ? さっぱり分からない」

 シオンは魔法陣が邪悪な効果を発するものだと思わなかった。教会の聖印は助けを求める祈りに反応した。指先で触れると、壁が崩れ落ちた。まるでシオンを導くように、道が示された。

「はははは⋯⋯。こんなことってある? まあ、起きちゃってるんだけどさ。やった。風が流れてきてる。外に続いてる通路だ。大聖女様が救いの手を差し伸べてくれた! 感謝します! ⋯⋯でも、慈悲深ちょろすぎません?」

 シオンは魔法が一切使えない。その代わり、大聖女の強い恩寵を授かっていた。本格的な修行をしていない読師見習いが、魔法を祓えるのは大聖女がシオンを気に入っているからだ。そうとしか言えないとアルバァンダートも説明に困っていた。

「外には出たけど⋯⋯。どこだ? ここ?」

 現われた隠し通路は外に繋がっていた。しかし、行き止まりだった。巨大な縦穴の底でシオンは空を見上げた。周囲は急峻な崖になっていて、上れそうにない。

「古い遺跡っぽい」

 草木が繁り、苔類に覆われているが、石柱らしきものを発見した。ほかにも石像がいくつかあった。

「教会の聖像? でも、大聖女様のお姿じゃないな。教えを広めた聖使徒かな? それとも有名な守護聖人? 砕けちゃって分からないや。雨風でこんなに劣化するなんて、何百年前の遺跡なんだろ」

 地面は落ち葉が積もって腐葉土になっているが、底は真っ平らだった。大穴の底を誰かが平らに均した痕跡だ。少なくとも百年以上は誰もここに足を踏み入れていなかった。

「まただ。女の声⋯⋯。すすり泣く声が聞こえる。あっちからだ」

 閉じ込められたときは、悪霊かと思い込んだ。しかし、耳を澄ませて聞いてみると、迷子の少女が親を探しているような声だった。

「石棺だ。じゃあ、ここは古い墓所か。すごい昔に建てられたみたいだ。誰も気付かなかったのは、魔法でずっと隠されていたんだ。ってことは、あれか? 俺は墓荒しと勘違いした?」

 相変わらず、女の泣き声は石棺から聞こえてくる。膝を付いたシオンは質問する。

「あー。それとも⋯⋯。誰も墓参りにこないから、寂しいとか? そういうこと? 一人が寂しいのはよく分かるよ。ここって集団墓地じゃなさそうだ。えっと、希望するならジェルジオ伯爵領の墓園に引っ越ししようか?」

 石棺は静かになった。

「幽霊さん? 聞いてる? 聞いてます? これでも俺は聖職者の卵なんだ。お葬式をやってもいいよ。教会式のヤツね。俺は他のやり方は知らないんだ」

 シオンは優しく語りかける。

「日暮れまでに帰らないと城の皆が心配する。ここから出してくれないか? もし引っ越すのも嫌なら、話し相手にはなれるよ。寂しいんだろ。毎日は難しいけど、週一くらいなら来るよ。満足するまで付き合う。約束する。それでどう?」

 石棺の蓋が開いた。幾何学模様の複雑な魔法陣がうごめいている。複雑かつ高度な魔法だ。これまでシオンが見た魔法の中で、もっとも洗練されていた。祓魔のイメージすら分からない。神々しさに圧倒された。

「⋯⋯⋯⋯。えーと、おはようございます?」

 石棺に眠っていた美しい女性は、泣き腫らした顔をシオンに向ける。漆黒の髪が乱れていた。どれだけの間、泣きじゃくっていたのだろうか。目は真っ赤に充血していた。

「寝覚めにしては血色は良さそう。本当に幽霊? それとも石棺で寝る奇特な趣味をお持ちとか?」

 美女の両耳は細長い。左右均等に整った精緻せいちな面貌は、偉大な芸術家が創り上げた美術品のようだった。

「エルフ族⋯⋯の人だよね?」

 返事はなかった。黒髪の美女はシオンを見て驚愕している。

「⋯⋯⋯⋯」

 まるで死人と邂逅かいこうしたかのような表情だ。しかし、シオンからすれば、なぜそっちが驚いているのかと問い返したかった。

「あのー。もしもーし。俺の言葉が届いてる?」

 上半身を起き上がらせた美女は、手を差し伸べてくる。

「友好の握手ってことかな?」

 シオンは一先ず触れてみる。幽霊に実体はないはずだ。しかし、指先には血が通っていた。

「もしかしてエルフさんは冷え性? めっちゃ冷たいぞ」

「聞こえる。触れられる。暖かい。――生きている!」

 黒髪の美女は歓喜している。声は震えており、瞳は潤んでいた。

「えっと。死んではないはずだよ?」

 なぜそんなに嬉しいのかシオンには分からないが、安心して欲しかったので微笑みを返した。

「言葉通じてるんだ。良かったよ。安心した。これで会話の一方通行が終わるわけだ」

「やっと⋯⋯私は償えた⋯⋯。赦された⋯⋯」

「赦された? 何の話?」

「迎えに来てくれた。あぁ、私は⋯⋯ずっと待っていた。会いたくて⋯⋯ただ会いたくて⋯⋯!」

「会話が通じねぇ⋯⋯。って! うわぁっ!!」

 号泣する美女は物凄い力で、シオンを引っ張った。石棺のせいで今まで気付かなかったが、美女の体躯たいくはとても大柄だった。

(この人! めっちゃデカいぞ! 石棺のサイズが大きすぎて気付かなかったけど、エルフってこんなに背が高いもんなのか!?)

 伯爵夫人付きメイドになったケイティよりも背が高い。上体を起こした座高だけでも巨躯きょくだと分かった。

「えっ! ちょっ⋯⋯えぇ!?」

 小柄なシオンの身体が浮かび上がった。いくら少年とはいえ、片手で持ち上げられる体重ではないはずだ。しかし、石棺の美女は手首の力だけで軽々と引っ張った。

 不思議なことに関節が外れたり、痛んだりはしない。ふわりと飛んで、抱きしめられた。柔らかな乳房に顔面からダイブする。体躯に見合う豊満な乳房だった。

「私を迎えにきてくれた⋯⋯!」

「なんの⋯⋯こと⋯⋯? ちょっと⋯⋯あの⋯⋯俺の話を⋯⋯聞いて⋯⋯! おーいぃ!」

 シオンを抱きしめたまま、美女は動かない。逃れようにも、物凄い力で抱きしめられている。乳間で窒息しないようにするのがやっとだった。

(え? なに? 何なんだ? これ?)

 身動きが取れなくなった。黒髪の美女はシオンを離そうとはしない。この世の終わりまで抱きしめるつもりのようだ。

(⋯⋯こんな意味わからん状況だってのに、ものすごく眠たくなってきた。徹夜したせいだ。やっぱ仮眠をしとくべきだった。眠っちまう。やばい。意識が保てない。永遠に目覚めない系の罠とかじゃないよな? これ?)

 美女に抱かれて死ぬ。悪くない最期ではあるが、もうちょっと長生きしたかった。不埒な想いを抱きながら、シオンは眠ってしまった。

 

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二次元ドリームマガジンVol.127(表紙:玉田平準)

★今号のテーマは「感覚遮断」!知らぬ間にとんでもないドスケベ行為を受けるヒロインたちを大特集!

★大人気!『変幻装姫シャインミラージュ THE COMIC』の第10話が掲載!

★屋形宗慶先生×asagiri先生のタッグで送る読み切り小説『エージェント迦弥 ミッション失敗の末路』が熱い!

■小説■
『囚われたアイドル捜査官 アイ メスガキポリスは屈しない! 第3話』 筑摩十幸×羽畠
『エージェント迦弥 ミッション失敗の末路』 屋形宗慶×asagiri
『永遠の大魔道士リアリースの最期』 上田ながの×炸裂とろろ昆布
『怪盗ミスティックムーン 感覚遮断の罠に堕ちるヒロイン』 でぃふぃーと×べるる
『魔女裁判の淫謀〜罠に堕ちた異端審問官〜』 あらおし悠×柳々
『流転拳姫ヘルツフロー 巣穴にて怪虫に身を捧ぐ』 下山田ナンプラーの助×玉田平準

■漫画■
『魔法少女マジピュア 〜NTR調教に堕ちるW魔法少女〜 THE COMIC 第10話』 でんぱゆっくり×上田ながの×むおと
『変幻装姫シャインミラージュ THE COMIC 第10話』 高浜太郎×でぃふぃーと
『デカクリおぉんの大洪水』 だうなー
『堕淫巫女〜二度と取り戻せない体〜』 李星
『憧れのあの人〜屈強な女戦士は感覚遮断で苗床へ堕ちていく〜』 スコルペーナ

■コラム
夢崎/ちゆ/稀見理都

■表紙
玉田平準

執筆陣玉田平準 / 下山田ナンプラーの助 / 筑摩十幸 / 羽畠 / 屋形宗慶 / asagiri / 上田ながの / 炸裂とろろ昆布 / でぃふぃーと / べるる / あらおし悠 / 柳々 / でんぱゆっくり / むおと / だうなー / 李星 / スコルペーナ / 高浜太郎 / 夢崎 / ちゆ / 稀見理都
表紙イラスト玉田平準
価格価格 1,100円
発行日2024年10月12日

KTC『二次元ドリームマガジン』

【オシリス文庫】淫習耽溺 下

「僕は『神気』を信じない。そして『神様』も信じない。でも、その人たちの願いは嘘ではないと思う。そして、大切にしたい。その中に加われることを、嬉しく思う――」
「神気」の「取り引き」によって山井雪、川手蛍を嫁にした吉田明は、三人目のヒロイン谷口桜と「成人の儀」を終え、谷口家が知る風澄村の歴史、「八大蛇」の伝説について話を聴く。
そこから浮かび上がる「大山彦」伝説に村の謎は深まり……。
村の謎を追いかけつつ浴衣姿を堪能した夏祭りを機に四人目のヒロイン村中楓も娶った明は、少しずつ「吉田の跡取り」として風澄村への想いも深めていく。
四家の助力で村の秘密を紐解き、「大山彦」の神楽を甦らせたり新たな淫習を生み出したりと、村を担って淫習に耽溺しながら生きていくのであった。

著者ハンコロ
イラストアカツキ
価格価格915円(税込)
発行日2024/10/11

【フランス書院eブックス】とても都合のいいオナホ先輩5 忘れ去られし旧神編

新進気鋭のお料理系配信者、四宮果穂の正体はツァトゥグァ神!?

偶然それを見つけたミント先輩と共に配信者の家へ向かったところ、お世話係のアトラ神が企てた「全人類アクメ地獄計画」がなぜか勃発!

オナホ達との動画が世界に流布され、全人類が乱交状態に!

そして神々の地ドリームランドで待ち受けていたニャルラトホテプの宿敵、旧神ノーデンス。

人類の存亡を賭けて、爆乳で猫耳な神とのセックスバトルが始まる──

限界突破で暴走しつづけるオナホワールド、神々との戯れ編!

著者九龍城砦
イラストコノシゲ
価格電子版定価:880円(税込)
発行日電子版配信日:2024/10/11

【フランス書院eブックス】女性の将来なりたい職業ランキング第一位が性奴隷な世界3

ファミレスで待ち合わせた仕事帰りの朝山杏美さんは、クラスで一番可愛い女の子・蜜柑のお母さん。

でもどうして、大胆にブラウスを広げて深い谷間を見せつけ、美脚を伸ばしてテーブルの下から俺の股間を刺激してくるんですか?

欲求不満で今にも抱いて欲しそうなので、娘の蜜柑には内緒で、路地裏で、ホテルで、立位で、騎乗位で、大人の身体を満喫します!

投稿サイトナンバー1ノベル、大幅書き下ろしのエッチな美母編!

著者琴弾南中
イラストあかつき聖
価格電子版定価:880円(税込)
発行日電子版配信日:2024/10/11