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月刊メガストア2024年11月号(表紙:天音るり)

巻頭特集
恋愛弱者の幼馴染少女と恋愛強者の彼女(Waffle)
鏖殺ノ乙女.(metalogiq)
恋愛、はじめまして(ASa Project)
覇王戦姫 来夢(LiLiM DARKNESS)

メーカー応援ページ
冥王さまのお仕事記録簿(あいりすミスティリア!R/オーガスト×FANZA GAMES)
Kiss and Kiss(カスタムオーダメイド3D2&2.5シリーズ/Kiss)
My FAVORITE Things(アストラエアの白き永遠 FHD Re:Eternity/FAVORITE)

巻中特集記事
トキメキ性春エロマッサージ学園!〜膣キュン×珍ムク×イカシアイ!!〜 (アトリエかぐや CheshireCat)
姦染RE:UNION(CHAOS-R)
ボクをほっとけない二人のギャル〜陰キャのオタクがムチムチドスケベギャルとエロ三昧の日々を送るまで〜(Waffle)
夏色果実〜えっちなカノジョと溶け合う心〜(アンモライト)
幻聖剣姫 セイクリッドアーク(Triangle)
オトメ世界の歩き方(Orthros)ほか

(こちらは電子配信用に再編集した商品です。表紙の記載と一部内容がことなる場合がございます。付録のDVD、漫画は収録されておりません。また、アンケート・プレゼント等の応募は受け付けておりません、あらかじめご了承ください。)

執筆陣
表紙イラスト天音るり
価格価格550円(税込)
発行日2024/10/15

コアマガジン『月刊メガストア』
(毎月15日、紙30日)

【竹書房ラブロマン文庫】人妻みだら不動産<新装版>

空き物件の内見は、男女が2人きりになる時間……!
急なトラブルで引っ越しを迫られた青年の佐々木倫也は、偶然見つけた不動産屋で巨乳美女の結佳に案内され、空き部屋の内見にゆく。
そこで結佳に誘惑され、密室になった空き部屋で倫也は熟れた肉体を貪るが、それは淫らな人妻たちとの爛れた空き部屋めぐりの始まりだった…!
日焼けした日妻の柔肌、知的なメガネ人妻のむっちり尻、そして妖艶な熟れ妻にリードされる日々…。
気鋭の女流作家が描く傑作賃貸ロマンが新装版で登場!

著者鷹澤フブキ
イラスト
価格¥968 税込
発行日2024/10/15

【MAFIC】『サルヨメ 強制異類婚姻譚』(超苦鉄質岩) 女剣士が魔物猿に孕まされる良作NTR漫画

未亡の女剣士は猿の魔物に堕とされる

和風ファンタジー世界で送る強制異類婚姻譚―。

魔物討伐隊に所属する女剣士カムヅミは敵の罠に嵌り捕らえられ、猿型の魔物を従える長、マカクという知性を持った魔物により結婚することを余儀なくされる。

婚礼の儀までの間に繰り返される責め苦に抗い続けるカムヅミだったが、マカクの手練手管を前に心身共に屈してしまう。

そして最後には部下の目の前で挿入される―。

本文モノクロ58p

主にある要素
・異種姦(猿型の魔物)
・フェラ
・手マン
・69
・孕ませ
・生挿入/生中出し

ちょっとだけある要素(以下ネタバレ)
・寝取られ(ヒロインが夫に先立たれた人妻)
・BSS(部下によるほのかな慕情描写)
・輪姦(作中未遂)
・ボテ腹(最後に)

ジャンル異種姦,未亡人,人妻,女剣士,妊娠,孕ませ,寝取られ,NTR,BSS,ボテ腹,快楽墜ち
ページ数58ページ(表紙、裏表紙込みで60ページ)
著者超苦鉄質岩
サークル名MAFIC
価格価格 880円
発行日2024年09月16日

LQ Vol.059(表紙:玉乃井ぺろめくり)

おちびちゃん大好きアンソロジーコミック★

◆COVER ILLUST
玉乃井ぺろめくり
◆COMIC LINEUP
[先生のせいなの]西川康(コミックホットミルク2024年9月号より)>>地味メガネの教え子、実は超エロい
[あやかし館へようこそ!〈第六話〉]アズマサワヨシ(MSC「あやかし館へようこそ!」より)>>心が傷ついた鬼瀬さん、今日は特別しおらしい
[もえに夢中!]EB110SS(MSC「排卵しちゃうじゃんっ」より)>>先生と熱愛中のもえちゃん、精子のおねだり
[おまたせっ瑞柑ちゃん]藤坂リリック(HMC「きらきら新学期」より)>>蜜柑ちゃんは近所に住む年下の女の子で、ボクは思春期真っ盛り
[MAID GRAFFITI #5]ねんど。(HMC「MAID GRAFFITI」より)>>朝立ちをメガネメイドの響香さんに見つかってしまった
[先生の保健室]きお誠児R(HMC「娘娘タイム」より)>>先生の不機嫌をなだめるのは恋人の教え子の役目
[モバガ ACCESS1]猫玄(MSC「モバリータ」より)>>巷で噂のソーシャルゲーム、プレイ開始で本物の女の子登場
[やわらかい城 -forsta kavall-]智沢渚優(HMC「蜜色幼喰祭」より)>>異国からやって来た身寄りのない少女達が共同生活を送るとある施設
[オレとカオルとゲーセンで]はすぶろくりーむ(MSC「ひやけとワレメとゲームセンターの夏」より)>>ヤンキーでがさつだけどオレにはたった一人のオンナ
[温度]みかんR(HMC「その息が止まるとき」より)>>最初は寂しさを紛らわせたくて、ぬくもりが欲しくてはじめたことだったのに

執筆陣玉乃井ぺろめくり / 西川康 / アズマサワヨシ / EB110SS / 藤坂リリック / ねんど。 / きお誠児R / 猫玄 / 智沢渚優 / はすぶろくりーむ / みかんR
表紙イラスト玉乃井ぺろめくり
価格価格 550円
発行日2024年10月14日

コアマガジン『LQ』(偶数月14日)

〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉 【17話】贖罪の魔女

 礼拝堂での祈祷を終えたシオン。その背後にはピッタリとレヴィアが引っ付いている。

 レヴィアが食客待遇で迎えられてから、二人が一緒にいるのはよく見られる光景だった。小身と少年と長身の大女。まるで子犬の散歩をする巨人であった。

「アルヴァンダートさんは礼拝に来ないのですね」

「先生はジェルジオ伯爵家の顧問官だ。聖導師以外の仕事が沢山ある。それに、朝の礼拝は俺が好きでやってることだ。別に聖職者の義務ってわけでもないしな」

「シオンは教会の教えを信じているのですか?」

「大聖女様の言葉を信仰しているよ。人類に魔法を授けてくれた救世主だ。でも、魔法が世界に広まったせいで、人助け以外に魔法が使われ始めた。悪意ある魔法を止めるために、大聖女様は奇跡も授けてくれた」

「シオンは信仰の奇跡で、多くの魔法を祓ってきたと聞きました」

「伯爵様とアルバァンダート先生は、天涯孤独の俺を引き取ってくれた。その恩を返したい。俺みたいな無能力者でも、信仰さえあれば人々の役に立てる。素晴らしいことじゃないか」

「そうですね。素晴らしいこと⋯⋯。そう思いたいものです」

「レヴィアは⋯⋯。あんまり教会が好きじゃなかったりする? まあ、魔法使いからすれば口煩くちうるさい存在だ。監視されたり、説教されたり、悪者扱いされたりするもんな。⋯⋯苦手意識を持たれるのは分からなくもないぜ」

 ジェルジオ伯爵城の廊下を歩くシオンが向う先は、魔法医ルフォンの診療所だった。

(日程的に会えるのは今日が最後なんだよなぁ)

 治療魔法を必要とする重篤患者が入院する医療機関。現在、入院している患者は、魔女ロザリー・クロスだけだ。

 魔法具の密売だけでなく、国家転覆の重大事件に関与しているロザリーは監視下に置かれた。聖導師アルバァンダートが病室に魔法禁止領域を構築し、昼夜交代で騎士団の精鋭が見張っている。

「なぁ。あの魔法精霊ってレヴィアが呼び出したんだよな?」

 診療所の周囲を六大精霊が浮遊している。第三魔法の精霊術式スピリットで召喚された使役魔達だ。

(やべえ魔力だ⋯⋯。魔力無しの俺ですら分かる。ここまで離れてるってのによ。皮膚にビリビリ来るぜ。上級精霊ってヤツ? 騎士達が噂してたが、人語まで話せるらしい。⋯⋯ってことは知性があるんだよな。レヴィアの専門は召喚師サモナーか?)

 魔導師のルフォンも精霊召喚は行えるが、レヴィアが呼び出した六大精霊は、とてつもないオーラを放っている。真なる魔法使いの底知れぬ実力。防衛戦力にしては過剰だった。

「はい。あれらは私の使役魔です。ロザリー・クロスの脱走防止と外部からの侵入者を防ぐように命じています。十分な魔力を与えましたから一ヵ月は持続するでしう」

「魔法で呼び出された精霊は何度か見てるけど⋯⋯。なんか⋯⋯サイズからして⋯⋯普通よりデカいよな⋯⋯?」

「領主殿からの強い要望がありました。万全を期しています。ロザリー・クロス程度の魔法使いであれば無力化できます」

(頭が空っぽじゃなければ、あんな化物精霊に戦いを挑む魔法使いはいねえよ⋯⋯)

「侵入者が現れたとしても、あの精霊達を倒すのはそれなりに骨が折れるでしょう」

「そ、そっか。アレを見て、倒そうだなんて発想は絶対に湧かないけど⋯⋯」

 魔力を持たぬシオンでも一目で分かる。一流の魔法使いであればこそ、精霊に宿った空前絶後の魔力に圧倒されてしまう。格の違いを思い知らされる。しかし、レヴィアはポツリと口にする。

「アルバァンダートさんほどの聖導師なら倒せます。実際、彼が病室に敷いた魔法禁止領域は卓越しておりました」

 驚いたシオンは立ち止まってしまった。

「アルバァンダート先生は凄い人だけど⋯⋯。え? そこまで凄いのか? あの大精霊を消す? いくら先生でも⋯⋯」

「可能です。私はそう判断します」

 第七魔法を修めたレヴィアは、一握りの天才だけが至れる魔法使いの極意者。長命のエルフ族といえども、そう簡単には辿り着けない高みだ。

本気マジっぽい口調だ。おだててるわけじゃない)

 聖導師アルバァンダートは、真なる魔法使いが召喚した強大な精霊を倒せる。レヴィアの見立てに謙譲けんじょうは含まれていない。客観的な事実として断言した。

「⋯⋯⋯⋯。もしかしてアルバァンダート先生ってレヴィアよりも強い?」

「私がこれまでの人生で会った中では、五指に入ると思います。あれほどの聖導師を臣下に持つジェルジオ伯爵家は、特別な家柄なのですか?」

 レヴィアはシオンの質問に答えず、質問の上書きで誤魔化した。

「はぐらかしただろ?」

「私。戦うのは好きじゃありませんから」

「そう。ならいいよ。レヴィアの質問に答える。ジェルジオ伯爵家はシュトラル帝国の建国期から続く名家だ。アルバァンダート先生は先代からずっと仕えている。いや、先々代だったかな?」

「伯爵家に仕える前は、何をなさっていたのです?」

「元々は帝都で宗学を研究してたらしい。都会の喧噪けんそうを嫌って、辺境のジェルジオ伯爵領に逃げてきたんだってさ」

「アルバァンダートさんのご年齢は?」

「さあね。かなりいってるはずだぜ。なんせ、伯爵様が子供のとき、アルバァンダート先生はもう白髪頭の爺さんだったらしい。老け顔だったとか言ってるけど、今はたぶん七十歳か八十歳くらい」

「領主殿の年齢を考えると百歳を超えている計算になりますね」

「さすがに百歳は超えてないでしょ。若い頃から老け顔なんだろ」

 その昔、養父が語ってくれた来歴はとても平凡なものに聞こえた。

 宗学研究にのめり込み、帝都カリスラの騒がしさに嫌気を覚えて、静かな辺境に逃れた老境の学者。知恵者のアルバァンダートに誰もが敬意を払っている。絶大な魔法力を誇るレヴィアでさえ、アルバァンダートを高く評価した。

(アルバァンダート先生って滅茶苦茶すごい人? いや、すごい人なのは分かってた。でも、俺が考えている以上に⋯⋯。帝国全土で有名だったりするのかな? 俺が世間知らずなだけ? 教会の偉い人が訪ねてきたりしてたっけ)

 教会の枢機卿が訪ねてきたこともあった。ジェルジオ伯爵に表敬訪問するという体裁を装っていたが、実際はアルバァンダートが目当てだった。帝都の偉そうな貴族が押しかけてきたこともあったと聞いている。

 遺跡の石棺で眠っていたレヴィアも謎な人物だ。しかし、ごく当たり前に接していた養父アルバァンダートも、ありふれた人物ではなさそうだった。

(よく分からねえ。帝都に盗まれた国家機密とやらを報告する件だって、なんでアルバァンダート先生に頼まないんだ? 領地で一番強いケイティさんを選ぶのは分かる。実家のグランメニル家が帝都にあるし、うってつけだ。聖導師なら俺よりも適任なのはアルバァンダート先生だろ⋯⋯?)

 噴出する疑問を解消する答えは誰も与えてくれない。

(俺と一緒じゃなきゃ嫌だってレヴィアがごねたから? いや、アルヴァンダート先生がいるなら、レヴィアは不要だろ。訳分からんな。うーん。考えても仕方ないか⋯⋯)

 シオンは警備する騎士の許しを得て、魔女ロザリー・クロスを軟禁している病室の扉を開けた。聖導師アルバァンダートが施した魔法禁止領域の聖陣が天井で回転している。

 天辺の聖陣はいかなる魔法も禁じる聖職者の秘儀とされる。強大な魔力を誇るレヴィアが領域内に侵入したことで、神聖文字の輝きが増光し、聖陣の回転が加速した。

「ロザリー。お前の判決が決定したぞ」

 シオンはアルヴァンダートから預かった判決書を取り出した。丸めた羊皮紙にはジェルジオ伯爵領で悪さをしたロザリーに対する判決文が綴られている。

 ◆ ◆ ◆

 ロザリーは病室に入ってきたシオンの顔を直視できなかった。

 魔法薬〈媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーション〉で正気を失っていたという言い訳は立つ。しかし、調合と用途の間違いをレヴィアとルフォンの両名から指摘された。

 結局のところ因果応報。処女を奪った少年に恨みは抱いていない。そもそも奪ったのではなく、無理やり奪わせたのだ。淫欲で正気を失っていても、セックス中の記憶はしっかり残っていた。

「おーい。ちゃんと判決文、聞いてる? 伯爵様の温情溢れる判決だってのにさぁ」

「え⋯⋯?」

「処罰は五年間の社会奉仕活動。期間中は魔法医ルフォン・シュタイナーの指示に従うこと、以上!」

「たったそれだけ⋯⋯?」

「おいおい。ルフォン先生の下働きだぜ? 甘く見るなよ。あの婆さんはめっちゃ恐いし、厳しい。覚悟しておけ。逃げたくても逃げられねぇんだ」

「そうじゃなくて⋯⋯普通は⋯⋯」

「まさか死刑になるとでも思ってたのか。そんなわけねえじゃん」

 シュトラル帝国で貴族以外が魔法を学ぶのは大罪だ。厳しい処分を下す領地では極刑もありえる。しかも、ロザリーは反政府勢力の構成員だった。

「魔導具で死者は出てないからな。それでも死にかけた被害者はいる。社会奉仕活動で償えとさ。ちなみに俺に対する性加害は判決に考慮されてないらしい。⋯⋯なぜか俺がルフォン先生から説教された」

「社会奉仕活動って⋯⋯?」

「魔法医の助手。ルフォン先生とはもう顔を会わせてるだろ。俺が帝都に行くから、アルヴァンダート先生の手伝いもあるだろうぜ。礼拝堂の掃除はよろしくな」

「それだけ⋯⋯? たったそれだけでいいの?」

「罪が帳消しってわけじゃないぜ。五年は短くない。ロザリーには魔法の才能がある。生来の才能をちゃんと活かした方がいいだろ」

「待った! 今、なんて言ったの? 魔法の才能を活かす?」

「ん? 分からないのか? ルフォン先生は一流の魔法医だ。近くで働いていれば学びは多いと思うぜ。シャーロットお嬢様の家庭教師だってやってたんだ。中途半端な知識で怪我人を量産されたら、たまったもんじゃない。頑張って修練してくれよ」

「そんなの許されるはずがないでしょ? ありえない。帝国で貴族以外の人間に魔法を教えるのは⋯⋯」

「ロザリーは助手。ルフォン先生は何も教えない。勝手にロザリーが好き勝手に学べばいい。もし間違ったことをすれば、ルフォン先生が正してくれる⋯⋯かもな」

「そんなの詭弁だわ。魔法を教えてるのと同じじゃない!」

「才能があるってルフォン先生が認めた。誰も損はしないだろ。シュトラル帝国の法律は『帝国の許可なく、高度な魔法教育を施すな』だ。平民が魔法を使うなとは書いちゃいないし、助手にするなとも書いてないぜ」

 シオンが使う祓魔の奇跡は、第零魔法と定義されている。厳密にいえば貴族ではなく、魔力すら持たない者でも最下級の魔法が使える。

 魔法は人類社会の根幹を成している。平民の魔法使用を禁じていると誤解されがちだが、条文の法意は「高度な魔法教育を施すな」である。

「私が魔法を⋯⋯学べる⋯⋯」

「被害者には謝罪しとけよ。新人騎士のエドは両手両足が複雑骨折の大怪我を負った。あとは剣に振り回された城下町の若者だな。あっちは軽傷だったから良かったけど⋯⋯。社会奉仕活動にはロザリーが売りさばいた魔導具の回収も含まれてる。頑張れよ」

「どうしてそこまでしてくれるの⋯⋯?」

「各種事情を考慮して、伯爵様と顧問官のアルヴァンダート先生が決めた」

「⋯⋯⋯⋯」

「俺らにできる最大限の慈愛さ。機会は与えられるべきだ。正しい手段でな。一方で神秘結社ドラゴノイドは魔法の知識をばら撒いてる。ロザリーみたいに非貴族で魔法の才能を持つ者達にとっては救世主だろうな。まぁ、実際、掲げてる目的は正しい気がする。⋯⋯だが、手段を間違ってる」

「シュトラル帝国が時代遅れの貴族特権を続けているせいだわ。元凶は今の歪な制度のせいよ。魔法は⋯⋯大聖女が与えてくれた魔法は人類に等しく授けられた力でしょ?」

「魔法教育を貴族に限定したことで、帝国内の治安は維持されている。犯罪者が魔法を使えば、とんでもない被害を出せるからな。合理性はあるぜ」

「私を諭してるつもり? まるで聖職者の説教だわ」

「おかげさまでから昇格した。今は読師だ。俺の初仕事は魔女ロザリーに判決書を届けることさ。だが、判決を受け入れない。その選択肢もあるぜ」

「判決を拒絶? そんなの⋯⋯できるっていうの?」

「ああ。この温情溢れる処分が不服だとか、社会奉仕期間中に脱走しようとしたら教会に引き渡す。どっちがいいかは自分で決めてくれ」

「考えるまでもないでしょ」

「だよな。教会の処罰は甘くない。二度と魔法を使えなくする。そういう刑罰もあるらしい」

「⋯⋯まだ私に聞きたいことがあるんじゃないの?」

「聞きたいこと? データクリスタルの件か? どこで誰に渡されたか忘れちまったんだろ。しかも、神秘結社ドラゴノイドに関する肝心の記憶は、忘却魔法で消されたときてる。アルヴァンダート先生やルフォン先生でお手上げなら、俺にはなーんにもできねえ」

 ロザリーは神秘結社ドラゴノイドに関する記憶が抜け落ちていた。

(記憶消去⋯⋯。脳が焼き切れる寸前だったらしい。末端の構成員は捨て駒か⋯⋯。正義の組織とは言えねえよな)

 魔法を教わった人物の容姿や名前が思い出せなくなっている。原因は背中に彫られていた竜紋の刺青。裏切り防止の呪詛は、発動時に対象の記憶を抹消していた。

(祓魔の奇跡は魔法効果を消滅させる。だが、起きた結果を巻き戻すことはできない。魔法で壊れたものは壊れたままだ。状態異常を治しても傷痕や後遺症は残る)

 シオンは竜紋の刺青にかけられていた呪詛を消し去った。しかし、ロザリーの失われた記憶は元通りには治せない。

 記憶を取り戻す魔法は存在するが、ルフォンとレヴィアは揃って反対した。記憶操作の魔法は精神異常を起こす。副作用で廃人になることもあるそうだ。

(記憶がなくなったのは、むしろ良かったかもな。魔導具の密売程度の罪なら伯爵様の裁量で罰せられる。だが、国家機密を流出させて、外国勢力と通謀は⋯⋯。とても庇いきれない。下手すればジェルジオ伯爵家が潰されちまう)

 外患誘致による国家転覆。文句の付け所がない大犯罪。

(アルヴァンダート先生の推測通りなら、ロザリーは国家転覆の計画は知らされていない下っ端。帝都カリスラでド派手な破壊活動をする前で良かったよな。本当ほんとさ)

 法定刑は主犯共犯を問わず極刑。シュトラル帝国で最も重い罪。ただし、罰せられるのは未遂の場合だけだ。

 内乱を完遂すれば、大犯罪者は一転して革命の英雄となる。旧権力者は罪人として粛清、反逆を企てた者は最高権力を握る。

 内乱罪。それはもっとも犯罪らしくない犯罪。

「そっちの話じゃなくて。私の身体について⋯⋯。生理アレが遅れてるっていうか、来そうにない。妊娠してるみたい」

「⋯⋯⋯⋯」

「〈媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーション〉を摂取した状態でヤらかしたわけだから、まず間違いなく⋯⋯。どうする? 嫌なら堕ろすわよ? 私はどっちでも――」

 法治国家における大罪が内乱であるなら、教会における最大の大罪は中絶だ。無垢な赤子の魂を殺した者は例外なく破門。そして終身刑が言い渡される。

「――ダメだ!」

「⋯⋯そんなに私との子供が欲しいの?」

「中絶は大きな罪だ。ロザリーには悪いけど、産んでもらうしかない。責任は取るっていうか⋯⋯そもそも⋯⋯こういう台詞を言うのは最悪の男だけど、ロザリーが孕んだのは完全な事故で、俺のせいじゃなくね?」

「産むのはいいとして、まともな母親なんかできないんだけど? シオンだってまだガキンチョなわけで⋯⋯。子育て、どうすんのよ?」

 それまで一言も話さなかったレヴィアが前に進み出る。

「シオンの子を引き取ります。ぜひとも私に子供をくだ⋯⋯お任せください。たっぷり愛情を込めて養育いたします」

「え? このエルフの人、何なの⋯⋯? 急に⋯⋯。こわ⋯⋯」

「ちょいストーカー気質のすごい魔法使いだ。ちなみに子供が産まれたら、伯爵様と奥方様が引き取るってさ。孤児だった俺と同じでアルヴァンダート先生が面倒を見てくれるよ。乳母はアイリスがやるってさ。話し合いの結論だ」

「ちょっと待ってください。そんな話、私は聞いていませんが?」

「今まで言ってなかったからな」

「その話し合いは⋯⋯? いつ?」

「ただならぬ気配を感じ取って、レヴィアは会議のメンバーから外されたよ。言いにくいんだが、レヴィアには小児性愛者の嫌疑がかかってる」

「え? なぜですか? 私はシオンにそういう⋯⋯。イヤらしいことはしていません! シオンも知っているはず! 私の心は清純です!」

「手を出してこない。⋯⋯だからこそ、本物ガチっぽいってさ」

「そんな! そんなの絶対におかしいです!! ショタ喰いのアイリスさんが乳母で、私が性犯罪者呼ばわりですか!?」

「⋯⋯まあ、よくよく考えるとアイリスも倫理的にはアウトだよな。道徳的にも」

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉 【16話】巣立ちの準備

 物質に実体はない。

 偉大なる真言、明々たる真言、究極の真言、至高の真言。

 無心こそが真理の本質である。

「――けれど、人は妄執を捨てられない。私もそうだ」

 荘厳な大広間に不釣り合いな木製の椅子があった。見窄みすぼらしい出来栄えで、背もたれは傾いている。接合部は釘を打ち直したかのような跡がある。

 それもそのはずである。子供が作った粗雑で貧相な腰掛けだった。この場に相応しくない代物。しかし、レヴィアはずっとこの椅子を愛用していた。

「これから先も人類は妄念に囚われ続ける。分かっていたことではありました⋯⋯。お互い、失敗ばかりの人生でしたね?」

 膝上に置いた頭蓋骨を撫でる。侵入者の存在には気付いている。だが、警戒するまでもなかった。

 レヴィアに戦意はない。仮に叩き潰す場合であっても、警戒に値する強者はいないと断じる。取るに足らない虫螻むしけら。自分の台詞が威迫的だと思ったレヴィアは、あえて笑みを見せる。

「貴方達の行動を非難はしていませんよ。私も囚われたですから⋯⋯。放任していたのは事実。止めようともしませんでした」

 攻め入ってきた侵入者は、衝撃的な現実を受け入れきれず、呆然と立ち尽くしていた。

 その中で唯一、毅然きぜんとレヴィアに挑む勇者がいた。

「ふざけるな⋯⋯!!」

 尖り帽子を被った女魔法使いは、燃えたぎるる炎眼でレヴィアを睨みつける。現代では魔女のトレードマークである衣装。彼女こそが魔女ウィッチの始祖にあたる人物だった。

「止めようと思えば止められたとでも言いたいのか? どの口で⋯⋯!!」

 人類では到達できぬ第九魔法〈大いなる業アルス・マグナ〉に至った偉大な魔法使い。杖にめ込まれた虹色の宝玉は、尋常ならざる魔力を放っている。

「その宝玉は賢者の石ですね。人類魔法体系では得られぬ神秘。の領域に入門した者だけが錬成できる魔法物質。歴代の竜帝が成し遂げられなかった究極至高の錬成物。よくぞ辿り着きました」

 弟子を褒めるかのような口調でレヴィアは言い放った。

「全て分かっていたのか!? 知ったうえで⋯⋯私を⋯⋯!」

「まあ、貴方にはそれなりに期待していました」

 魔女の憤怒は計り知れない。髪の毛が逆立ち、凄まじい憎悪を向けている。だが、相手に発散するわけにはいかなかった。怨恨を飲み込むために、凄まじい自制心が必要だった。

「すべて⋯⋯思い通りか⋯⋯?」

「私がそんな賢い女に見えますか? さっきも言ったでしょう。失敗ばかりの人生だったと⋯⋯。この惨状が全てです。私の思い通りには進まなかった。そして、貴方達は知りすぎたがゆえに⋯⋯。本来の目的を果たせずにいる」

「⋯⋯⋯⋯ッ!!」

 魔女が抱く憎悪は八つ当たりだった。魔女は杖を握り締める。疑惑は変わってしまった。もはや仲間達に戦意はない。前衛の剣士は武器を下ろし、後衛は弓の弦から手を離している。

 どうしようもない感情を誰かにぶつけたい。しかし、それを行えば弁明の余地がない悪業だ。正義を掲げて戦ってきた自分自身を否定する。

「魔法⋯⋯。そう、魔法が世界を歪めた。こんなものが世界になければ、もう少しはよい未来が⋯⋯。いや、だとすれば、私がこれまでやってきた行為は⋯⋯。どうすれば我々は救われるのでしょうね⋯⋯?」

 レヴィアは頭蓋骨に問いかける。死者は返事をしない。それでも声をかけ続ける。

(あぁ⋯⋯。失敗した。もはや私に手は残されていない。それでも諦めきれない。もう一度だけ⋯⋯。一度だけでいい。貴方に会えるのなら⋯⋯)

 いつかまた会える。その願いだけを希望に失意の底で生きていた。

「お、おっぱいが⋯⋯くるしい⋯⋯!」

 レヴィアは目を見開いて驚愕する。

 強く抱きしめていた頭蓋骨がうめき声を発した。

「⋯⋯?」

ゆるめて⋯⋯! レヴィア! 腕の力⋯⋯! きつい! マジできついの! 力をめすぎ!!」

 腕の力を緩めてみる。

「はぁはぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。おっぱいで溺死するところだったぜ」

 白骨化した遺骨は深呼吸を始める。

(⋯⋯⋯⋯喋った?)

 触れた感覚もおかしかった。頭蓋骨の表面がぷよぷよと柔らかい。生暖かい体温を感じる。汗ばんだ湿気の香りも匂った。

「まだ⋯⋯苦しい⋯⋯。もう離してくれ。逃げたりしないから⋯⋯!」

「あぁ、これはもしかすると⋯⋯? ああ、なるほど。これは夢かもしれませんね」

「そう。夢! なんかヤバい夢を見てる!!」

「あまり良い夢でないのは確かです。しかし、こうして、シオンとお話できるのは嬉しい。なんだか気持ちよく眠れそうです」

「ちょ! 夢の中で寝るんじゃあない! 現実に戻ってきて!! レヴィアは俺を現在進行形で裸絞はだかじめにしてるの! 早く起きて! 起きてください!! このままだと俺が永眠する!! 大っきなオッパイに押し潰される!!」

 レヴィアの胸中から逃げだそうと頭蓋骨は必死に暴れ回っていた。周囲の光景が崩れ去っていく。絵の具が洗い流されるように消えていった。

 ◆ ◆ ◆

「とても古い記憶。不思議な夢を見ました⋯⋯」

 レヴィアはぽつりとつぶやいた。

 なぜ今さらあの時の記憶が蘇ったのかと首を傾げた。

(ああ⋯⋯。あの怒りっぽい魔女は、ジェルジオ伯爵家のご令嬢にそっくりだったかもしれない。私に苛立ちを向ける姿がよく似ている気がする。ひょっとしたら子孫だったりするのでしょうか?)

 ジェルジオ伯爵城の一室、使用人に与えられた寝起きするだけの狭い部屋は大部分がベッドで占領されている。二人が同棲するには窮屈だった。机とクローゼットのせいで、床に寝ることも難しい。

 レヴィアは抱きしめたシオンが脱出しようと藻掻もがいているのに気付いた。

「起きた!? 起きたよな!?」

「はい。起きました。まだちょっと眠いです」

「二度寝するのはいいけど、そのたくましい上腕の筋力を緩めてくれ!」

「⋯⋯抱き心地が最高です」

「最初は居心地が良かったけど、途中から命の危機を感じるレベルの抱擁ほうようになったんだよ。力の加減をミスってるぞ! 頭蓋骨がぱーんってなっちゃう! ちょ、ほんとに! これ冗談抜きでやばい! やばいって!!」

「ごめんなさい⋯⋯。寝惚ねぼけてたみたいです」

 室内は薄暗い。まだ日の出の時間にすらなっていない夜明け前だった。寝室のベッドで横たわるレヴィアは、シオンの小さな身体を抱き込んでいた。乳房の谷間と両腕で、しっかりと頭部を挟み上げている。

「暑苦しかったですか?」

「いや、窒息系だったぜ⋯⋯」

 乱暴な飼い主を嫌がる愛玩猫ペットのように、シオンはレヴィアから離れようとした。しかし、脱出はできない。腕の力は緩まったが、今度は両足が絡み付いてきた。

「うぅ⋯⋯! 俺を離す気がないのは分かった。自分の非力さが悲しくなるぜ。⋯⋯で? どうしたんだ? 恐い夢でも見たのか?」

「恐い⋯⋯? いえ、気不味い夢でしょうか?」

「気不味いってどんな?」

「⋯⋯⋯⋯」

 シオンは聞き返すが、レヴィアは微笑むだけで何も教えてはくれなかった。

「まあいいや。それなら別な質問。伯爵様の依頼、受けてくれるの?」

「帝都カリスラまでの護衛ですね。国家の諍いに首を突っ込みたくはありませんが⋯⋯。シオンが行くのなら、火の粉は払っておくべきでしょう」

「そいつは良かった。新なる魔法使いが仲間なら心強い。まあ、国家転覆とかマジかよって話だけどな」

「私は国政についてよく知りません。シュトラル帝国は荒れているのですか?」

「先帝が男子の後継者を遺せず亡くなった。それで、まあ、いろいろとあったらしい。ジェルジオ伯爵領は田舎だから、中央の政争とは無縁だった。隣国のシュトラル帝国とは仲が悪くて、いつか戦争になるって噂を聞いた。本当かどうかは知らない」

「シュトラル帝国の魔法教育に不満を抱く者がいると耳にしました。今回、国家転覆を企んでいる勢力、神秘結社ドラゴノイドは改革を主張しているそうですね?」

「んー。まあ、俺みたいな魔力が扱えない無能力からすれば、魔法教育の制度なんてどうでもいい。だけど、才能がある奴からすれば気に入らないだろうさ。魔女のロザリーとかがまさしくそうだった。貴族に生まれてさえいれば、魔法学院で立派な魔法使いになれるんだからな」

「⋯⋯魔法教育は他国でも貴族だけの特権なのですか?」

「いいや、帝国だけ。魔法は貴族の特権なんだ。でも、以前は改革が進んでた。魔法学院の推薦入学だって、最初は才能ある平民を入学させる制度だった⋯⋯。えーと、七代目校長のなんちゃらかんちゃらって人が皇帝に認めさせたんだ」

「なんちゃらかんちゃら?」

「アルヴァンダート先生かルフォン先生が知ってるよ。教わったけど忘れちまった。でも、貴族の学校に平民を入学させても、上手くいくわけなかったんだ。魔法学院に入学した平民は、後にも先にも一人だけ。卒業できなくて、除籍されちまったオチさ」

「唯一の魔法教育機関が貴族だけを受け入れている。差別的な運用だと思いますが、反発はないのですか?」

「反乱を起こした地域はあるよ。サファイ=フィンデイル連合王国。名前くらい聞いたことない? 二百年前に独立した。元々はシュトラル帝国の一部だった。っていうか、帝国側は独立を認めてないから、今も地図上では国土の一部。でも、実際はもう他国だ」

「サファイ=フィンデイル連合王国⋯⋯。その国では魔法教育をどのように?」

「シャンキスタ王国と同じだよ。才能があれば魔法教育を受けられる。そもそも独立戦争の理由が魔法教育の制度関連だった気がする。難しい話はよく分からんけど、もしかしたらシュトラル帝国が時代遅れなのかもなぁ。でも、大きな利点もある。魔法の犯罪利用が帝国じゃ少ない」

「貴族しか魔法が使えないからですね」

「ロザリーみたいに非合法な手段で魔法を学んだり、他国から入ってきた魔法使いって例は少数だ。帝国内での魔法犯罪の九割は、魔導具みたいなマジックアイテムの悪用。権力者側の魔法使いが犯罪者になることはまずなかった」

「神秘結社ドラゴノイドは魔法使いの集まりです。帝国の貴族が反乱を起こそうとしている。私にはそう思えてしますのが?」

「⋯⋯あ! 言われてみればそうじゃん。ん? じゃあ、神秘結社ドラゴノイドの上層部って貴族? ん? んん? 貴族反乱じゃね? やばくね?」

「他国の魔法使いが蠢動している可能性もありますが、帝国中枢の国家機密を盗み出した者がいる時点で、構成員は内部に入り込んでいます。と言うより、むしろ内部の人間が反旗を翻したと考えるべきです」

「もしかして、いや、もしかしなくても⋯⋯シュトラル帝国って⋯⋯めっちゃ傾いてない?」

「屋台骨が腐り落ちた状態だと思います」

「うわぁ⋯⋯。手心とか一切無い指摘じゃん」

「ジェルジオ伯爵領は領主に恵まれて平穏ですが、他の地域は不満が溜まっているのでは? 案外、神秘結社ドラゴノイドが企む国家転覆は現実味のある計画かもしれません。こういう国はもろいです」

「えぇ⋯⋯。やめてくれよ。俺の将来設計が不安になるんだけど⋯⋯」

「私は帝国の人間ではありませんし、愛着もありません。なので、客観的に言ってしまいますが⋯⋯」

「遠慮せずに、どぞどぞ。俺は国粋主義者じゃないんで」

「国家の最重要機密が盗み出された挙げ句、国外流出した時点で相当な終わり具合です」

「⋯⋯それはアルヴァンダート先生も嘆いてた」

「先を見据えるのなら、もっと良い国に移住してはどうです? 魔法が使えないシオンでも暮らしやすい国に」

「いや、それがさぁ。実はシュトラル帝国は無能力者に優しい国なんだぜ。だって、魔法の才能があっても貴族じゃなければ意味ないからな。無能力者だからって馬鹿にもされない。だって、大多数が魔法を使えねえんだもん」

「なるほど。それは盲点でした」

「それに帝都カリスラにはシャーロットお嬢様がいる。神秘結社ドラゴノイドは大規模な破壊活動をする気なんだろ。政治改革はご自由にって思うけど、暴力や破壊は⋯⋯ちょっと違うだろ。絶対に止めるべきだ」

「⋯⋯⋯⋯。シオンはジェルジオ伯爵家のご令嬢を好いているのですか?」

「好きと恐いが半分ずつかな。それは領地の皆が同じだ。慕っているけど、覇気がえげつないもん。生来の支配者って感じさ。⋯⋯あのさ。帝都に行くとして、お嬢様に会ってもロザリーの件は秘密にしてほしい」

「分かりました」

「お嬢様が帝都に旅立った後、何度もアイリスと会ってた件も秘密で⋯⋯」

「はい」

「⋯⋯レヴィアとずっと同棲してたのも伝えちゃダメだ。お嬢様に送った手紙で、レヴィアとは違う部屋で寝起きするようになったって嘘を書いたんだ」

「⋯⋯⋯⋯」

「だって、そうしないとお嬢様、絶対に返事をくれないじゃん」

「つまりジェルジオ伯爵家のご令嬢には何も教えない。そういうことですね?」

「うん。お願い⋯⋯。怒られるのやだ」

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉 【15話】帝国動乱の予兆

 翌日の早朝、ジェルジオ伯爵とリンロッタ夫人はアルヴァンダートから魔女逮捕の報告を受けていた。

 シオンの捕まえ方に問題があったせいで、面倒事が起こるかもしれないとアルヴァンダートは語った。

 事件の顛末てんまつに関して、ジェルジオ伯爵は苦笑いし、リンロッタ夫人は「赤ちゃんが生まれたら伯爵家で引き取っても良いのではないかしら? シャーロットがいなくなってお城は寂しくなっていますもの。にぎやかになりますわ」と脳天気な反応だった。

 近くに控えたメイドのケイティは、アルヴァンダートの話を聞き、複雑な胸中だった。主君の伯爵夫妻はロザリーがシオンを逆レイプしたことを大した問題だと捉えていない。

 シオンの乱れた素行はいつものこと。しかし、今回ばかりはある種の事故。シオンが薬瓶を割る不注意が原因とはいえ、意図的な性行為ではなかった。それにも関わらず、ルフォンに折檻された。珍しく同情的なケイティは、シオンを責める気にはなれなかった。

(シオンはそういう星の下に生まれた子なのでしょうか。それにしても伯爵様と奥方も⋯⋯子供が産まれたら引き取る気だなんて⋯⋯。もそうでしたが、なぜ伯爵夫妻はそこまでなさるのでしょう?)

 ジェルジオ伯爵とリンロッタ夫人は優しい貴族であった。しかし、それを差し置いても、夫妻はシオンを格別に甘やかしている。一人娘のシャーロットよりも可愛がっている雰囲気すらあった。

(何か事情があるような⋯⋯)

 シオンは孤児とされているが、先代当主の隠し子だとか、帝室の落とし胤ではないか、との噂も囁かれていた。

(ジェルジオ伯爵家の人間ではないはず。もし近親者ならシャーロットお嬢様との関係を止めさせて、遠ざけていることでしょう)

 シャーロットとシオンの肉体関係が黙認されていることから、ジェルジオ伯爵家の血縁ではないだろうとケイティは推測する。

(まさか⋯⋯あの噂は⋯⋯。本当に先帝の落胤⋯⋯?)

 もう一方の噂、帝室関係者はあり得る話だった。ジェルジオ伯爵家はシュトラル帝国の名門貴族であり、帝室からの信頼は非常に厚い。先帝には男子の後継者がおらず、崩御後に宮廷内で権力闘争が発生した。

 様々な混乱、血で血を洗う争い、宮廷貴族の暗躍。けしておおやけにはできない経緯を経て、帝冠は第一皇女の手に渡った。

 かくして歴史上初の女帝がシュトラル帝国に誕生した。しかし、先帝に男子が産まれていれば歴史は大きく変わった。

 この噂をシオンは馬鹿らしいと笑い飛ばしている。シュトラル帝国の皇族は魔法の能力に秀でている。皇帝は貴族のなかの貴族。魔法の才能が微塵も備わっていない無能力者が、皇族の血筋から産まれるとは思えなかった。

 当人は否定する。しかし、先帝と深い交流があった伯爵夫婦に、出自不明の男児が引き取られ、大切にされている。そんな話を耳すれば「もしや?」と疑う者も出てくる。

 実際、女帝が即位する前年、宮廷貴族や閣僚の使者がジェルジオ伯爵城を何度も訪れて、噂の真偽を確かめにきていた。

(考えても仕方がない話です。シオンの出自がどうであれ、あの子をしかれるのはシャーロットお嬢様とルフォン先生くらいです。シャーロットお嬢様の耳にこの件が入ったら、どうなることやら⋯⋯)

 お目付役のシャーロットが帝都に旅立った影響は大きい。

 シオンの女性関係を整理するために、手切れ金を配っていたことをケイティは知っている。シオンと関係のあった女性達は、物分かりの良い大人な女性が多かった。念書に署名し、いさぎよく身を引くと了承した。手切れ金の額で不満を述べる者は一人もいなかった。

 猶予期間が終われば、シオンとの性的関係は清算される。シャーロットの根回しと手際は完璧なものだった。しかし、把握しきれていない隠された女性がいた。

(知られていないのなら秘密のままにしたい⋯⋯)

 都合の悪いことに手切れ金や念書では、断ち切れない深い関係がこの世にはある。

(お嬢様が気にしている恋敵はエルフの美女。私よりも身長の高い女性に会ったのは初めてでした。エルフの背丈はあれくらい高いのが普通? シオンと肉体関係はないと強く否定したそうですが⋯⋯)

 城内の一室で男女が同棲。いつも一緒のベッドで寝ている。これで清い関係などありえるだろうか。白々しい言い訳だとシャーロットが腹を立てるのも納得だ。

 レヴィアはシャーロットが押し付けてきた念書に署名をしていない。手切れ金を受け取ってる素振りもなかった。「あの子を近くで見守りたい。私の願いはそれだけです」と、まるで母親のような言い振りを繰り返した。

(ん? まさか? レヴィア殿が母親? エルフ族は不老と聞きます。ありえなくはない⋯⋯? アルヴァンダート様が引き取った捨て子の孤児。母親が捨てた我が子を探して⋯⋯。いや、それはきっと違う。シオンにエルフ族の特徴はありません)

 ケイティは否定する。シオンは一般的なヒュマ族。耳は尖っていないし、エルフ族のように飛び抜けて美形でもなかった。シオンがレヴィアの子供ならもっと遺伝的な特徴が現われているはずだ。

(子供は親に似るものです。血統は恐ろしい。中身までは似なければいいのですが⋯⋯)

 ケイティは実体験で知っていた。血の繋がりは強い。乳離れできていない嬰児えいじの容姿を思い出す。父母の遺伝子を受け継いだ子供は、成長するにつれて親とそっくりになる。

(子供⋯⋯。そう子供といえば、アイリスも何を考えているのでしょうか。最初は冗談だと思っていましたが⋯⋯。最近の振る舞いを見ていると⋯⋯。本当にシオンの子供を産むつもりみたいですね)

 酒場で働くアイリスとは長年の友人だ。頼りがいのある大人の女性だったが、息子が独り立ちしてからは、シオンを愛人にするなど、残念な部分が見え始めた。

 ケイティは悶々もんもんと内心で考えを巡らせる。

 その間も伯爵夫妻とアルヴァンダートの会話は続いている。領内で悪事を働いていた魔女ロザリーの捕縛は、大事件の入口でしかなかった。

「シオンが引き起こした面倒事はどうとでも対処できましょうぞ。ロザリー・クロスが所持していたデータクリスタルに比べればちっぽけな問題じゃ」

 アルヴァンダートは石英結晶を伯爵夫妻に見せる。

「帝国の国家機密がそのガラスへんに? 驚きだ。いや、驚愕すべきか⋯⋯? ふむ。考え方によっては、我が領内で回収できたのは幸運だったな」

「不思議ですわ。見た目ではガラクタとしか見えませんわね。それに国家の機密が詰まっているなんて。本当なのですか? アルヴァンダート?」

「はい。魔法で暗号化されているため、普通は気付けないでしょうな。レヴィア殿に解読してもらい、その内容をレイナードが確認したところ、本物の可能性が高い。我々はそう結論付けましたぞ」

「なんだってそんなものが、ジェルジオ伯爵領に持ち込まれた? 持ち主の意図が読めないな」

 ジェルジオ伯爵領は帝都から離れた辺境の地。国家の機密情報が持ち込まれるような軍事的要衝でもなかった。

「帝国軍の編成など、重要機密を何者かが盗み出し、他国に流出させるつもりだったようじゃ」

「他国に? シオンが捕まえた魔女は諜報員スパイだったと?」

「本人の話を聞く限り、何の事情も知らぬ運び人かと。構成員の末端ではあるものの、ロザリー・クロスは石英結晶がデータクリスタルだと認識していなかった。シャンキスタ王国の商人に売り渡す予定の品物。そのように当人は言い張っておる。嘘ではなかろう」

「シャンキスタ王国だと⋯⋯? うーむ。我がシュトラル帝国とは敵対関係にある国家だ。もしそのデータクリスタルが、我が国の機密情報が敵国の手に渡ったらどうなる?」

「目を覆いたくなる被害じゃ。どの時点で国家機密を盗まれたかは分かりませぬが、盗まれたこと自体が既に大問題ですからな」

「むぅ⋯⋯。不様なことだ」

「諜報部の上層部が首を吊らねばならぬほどの大失態じゃ」

「盗んだのは神秘結社ドラゴノイドという組織か。爺やはその組織を調べていたな」

「闇魔法使いの集まりが盗み出せる代物ではありませぬ。帝国の中枢に裏切り者がおりますぞ。情報を盗った実行犯は、宮廷や軍部に潜む内通者でしょうな。それもかなり高い地位についている者じゃ」

 データクリスタルに刻まれた情報は、末端の兵士や官吏が知り得るものではなかった。情報を流出させた裏切り者は帝国軍の中枢を掌握している。そうでなければ、これほどの機密情報をまとめて盗み出すのは不可能だ。

「それともう一つ。データクリスタルには帝都カリスラで決行予定の作戦概要書が保存されておりました」

「作戦概要書? どんな内容だ?」

「神秘結社ドラゴノイドは敵対国のシャンキスタ王国と通じて、国家体制の転覆を目論んでいるようじゃ。一つのデータクリスタルにまとめ上げられていたことから、盗まれた国家機密は外患誘致の手土産でしょうな」

 ジェルジオ伯爵は両目を見開き、リンロッタ夫人は両手で口元を隠した。冷静を装うケイティも表情が険しくなった。

「国家転覆⋯⋯。外患誘致⋯⋯。大事になってきたな」

 魔導具の密売程度ならよくある話だ。しかし、機密情報の情報漏洩、敵国と共謀しての国家転覆は、犯罪の次元が違う。首謀者どころか、協力者も例外なく極刑だ。神秘結社ドラゴノイドに対する認識を改めねばならない。

「爺や? 本当なのか? 国家転覆なんて大それたことを⋯⋯。もっと詳しく説明してくれないか? 神秘結社ドラゴノイドは帝都で何をする気なのだ?」

「作戦書は概略だけが記されておった。決行の日時や詳細な内容は伏せられていたが、国家転覆の根本思想は判明した。伯爵様はという思想をご存知か?」

「は、はいせん? かくめい? 聞き覚えがない専門用語だ。なんだそれは?」

「敵国と共謀し、祖国を国難に陥らせることで革命を成し遂げる。伯爵様、神秘結社ドラゴノイドの最終目標は革命じゃ」

「ばっ! 馬鹿な! 敵国と結託して革命!? 滅茶苦茶だ! 国が滅ぶだけではないか!?」

「儂とて信じたくはない。しかし、神秘結社ドラゴノイドの首魁しゅかいは本気のようじゃぞ」

「狂気の沙汰だ! 祖国を敵に売り渡して、おこぼれをもらうつもりなのだとすれば⋯⋯。呆れ果ててしまう」

「神秘結社ドラゴノイドは帝都で大規模な破壊工作を仕掛けるつもりじゃ。内地から始まった反乱は外地へと広がる。目論み通りに事が進み、帝国全域が大混乱に陥ったとき、シャンキスタ王国などの敵軍が一挙に押し寄せて武力介入する。彼奴らの筋書きによれば、ほんの一年足らずで帝国の現体制は引っくり返る」

「誇大妄想の産物に思える。上手くいくはずがない。⋯⋯受け入れがたい内容だ」

「夢想家の妄執であればどんなに良かったか。少なくとも帝国の中枢には、この計画に賛同する内通者がおる」

「国家機密を流出させた裏切り者か⋯⋯。帝国軍の編成は知り得るのだから上級将校以上だな。あるいはそいつが首謀者なのかもしれない」

「このデータクリスタルをシャンキスタ王国が入手すれば、内乱状態のシュトラル帝国を容易に蹂躙じゅうりんできるじゃろう。なにせこの機密情報さえあれば、補給線や軍事戦略がすぐ分かる。帝国軍の動きは丸裸じゃ」

「データクリスタルは我々の手にある。不幸中の幸いだな。幸運に感謝しよう。それを壊してしまえばいい。⋯⋯爺や、私の考えは短絡的か? それで終わりとはならないのか?」

「残念ながら、そうはなりませんな。データクリスタルがこの一つだけとは限りませぬ。儂がドラゴノイドの首魁なら複数のルートで敵国に情報を流す。シオンが捕まえた魔女ロザリー・クロスは、重要な任務を託す人物ではないのう」

 アルヴァンダートは盗まれた国家機密が、すでに国外流出していると判断した。

 神秘結社ドラゴノイドの末端構成員であるロザリーは、複数用意されていた輸送ルートの一つ。あるいは、何らかの手違いで魔導具に紛れてしまったものだと推理する。

「どうすればいい?」

「このデータクリスタルを皇帝陛下に届けるべきじゃ。情報を盗まれた自覚すらなく、未だに内通者が帝国の上層部に潜んでいる。この危機的状況を打破するためには、証拠物としてこのデータクリスタルが必要じゃ」

 国家の中枢にいる裏切り者を見つけ出さない限り、情報は垂れ流れ続ける。この状況を認識できていないことこそ、国家の危難であった。アルヴァンダートはあえて言及しなかったが、シュトラル帝国の国防体制は杜撰ずさんだった。

「さらに付け加えるなら、帝都カリスラで起きる決起を未然に挫くことじゃ。神秘結社ドラゴノイドの計画は防ぐには、帝都動乱を許してはならぬ」

「帝都動乱⋯⋯。不味い事態になった。シャーロットを帝都の魔法学院に送り出すべきではなかったか。しかし、今から連れ戻すというのは⋯⋯」

「神秘結社ドラゴノイドはジェルジオ伯爵家を調べていた可能性がありますぞ。シャーロットお嬢様を連れ戻そうとすれば。不用意な行動はおすすめできぬのう」

「⋯⋯⋯⋯。難しい判断だな。気付かれてはいないのだな?」

「ええ。気付かれてはおりませぬ」

 伯爵夫妻とアルヴァンダートは無言で視線を交わした。会話を聞いているケイティは意図を測りかねた。この場に部外者のケイティがいるから、三人はあえて言葉の意味を伏せた気がした。

「よし、分かった。帝都カリスラに使者を送ろう。そのデータクリスタルを証拠として提出し、上層部の裏切り者を捕まえ、神秘結社ドラゴノイドの反乱を防ぐ」

「それが最善じゃよ。伯爵様」

「誰を行かせるべきだ? 爺やが、というわけにはいかないだろう? それができれば良かったのだが⋯⋯」

 話の流れに従えば、アルヴァンダートが向うべきだ。しかし、帝都カリスラの使者にアルヴァンダートはふさわしくない。そのことは本人が一番分かっていた。

は帝城の門を潜れぬ。儂が顔を出せば別の問題が発生するじゃろう。それはそれで大事おおごとになる。領内で一番強く、信頼できる騎士を使者とするべきじゃ」

「騎士か⋯⋯。任務の重要性を鑑みれば、強者つわものでもよいかもしれないな。ケイティ・グランメニル。悪いがこの厄介事を頼まれてくれるか?」

 ジェルジオ伯爵家で最強の騎士だった剣豪。婚約者に逃げられて心を病み、今の身分はメイドだ。ブランクで剣技が錆び付いているものの、領地最強の剣士はケイティ・グランメニルである。

「伯爵様のご命令とあれば⋯⋯! しかしながら、騎士団からも精鋭メンバーを選抜すべきかと愚考いたします」

「そうだな。騎士団長に精鋭を集めさせよう。魔法使いも必要だ。それにルフォンを随行させれば⋯⋯」

「恐れながら伯爵様。それはなりませぬ。望ましくないのう。儂らがデータクリスタルを持っていると気付かれてしまう」

「気付かれる? どういう意味だ? 爺や?」

「魔女のロザリー・クロスは捕まった。この情報を神秘結社ドラゴノイドは把握するでしょうな。しかし、あのデータクリスタルは秘匿の魔法に加えて、複雑な暗号が施されておった。本来であれば見逃してしまう。気付くほうがおかしいぐらいじゃ」

「⋯⋯! ああ、なるほど! 我々は気付いていない間抜けのふりをするわけだな?」

「その通りじゃ。騎士団の精鋭部隊やお抱えの魔法使いを送り出せば、たちまち噂になる。データクリスタルの存在に気づき、暗号を解読したと敵も察する。だから、怪しまれぬように行動を起こすのじゃ。都合がいいことにケイティはメイド。しかも、実家は帝都にある。里帰りは怪しまれまい」

「たった一人では送り出せないだろう。もう一人か二人⋯⋯。ルフォンを同伴させられないだろうか? 随伴に魔法使いがいれば心強い」

 アルヴァンダートとケイティは渋い顔をする。ルフォンの顔は知れわたっている。街道を進む間、領民に気付かれる可能性が高い。なによりも領主お抱えの魔法医が長期不在となれば隠しようがない。

「あら? ジェルジオ伯爵城には優秀な魔法使いがもう一人いるでしょう。お忘れのようですわね。シオンが連れてきたレヴィアさんにお願いしてはどうかしら?」

 名案とばかりに、リンロッタ夫人はレヴィアの名を上げた。

「そうか。レヴィア殿。我が国の問題にエルフ族であるレヴィア殿を巻き込んでしまうが、優秀な魔法使いだ。報酬で請け負ってくれるだろうか?」

 第七魔法を習得した〈真なる魔法使い〉。絶大な魔法力を誇るレヴィアがいれば、道中の危険は全て排除できる。しかし、一つだけ大きな問題があった。

「あのエルフの御仁はシオンにべったりですよ⋯⋯? 同行を頼んでもシオンが一緒でなければ⋯⋯」

「まず間違いなく断るじゃろうな。さりとて、新なる魔法使いが味方なら心強い。仕方あるまいよ。いずれシオンは帝都に行かせる予定であった。数ヶ月ばかり予定が早まるが、お嬢様も喜ぶのではないかのう?」

「レヴィア殿が一緒だったら不機嫌になりますよ。お別れ会のときだって、苛立つお嬢様をなだめるのにメイド達がとても苦労したんですから⋯⋯」

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉【14話】データクリスタルの国家機密

「――不埒者ふらちもの。祈りなさい。今の貴方にできるのはそれだけです」

 シオンに浴びせかけられた折檻の言葉は痛烈だ。ジェルジオ伯爵城の冷たい床に正座していると足先が痺れてくる。

「ルフォン先生⋯⋯。おかしい! こんなのおかしいです!」

 抗議の声を上げるが、ぴしゃりと撥ねのけられる。

「おかしいのは貴方の倫理観ですよ。シオン」

「俺が襲ったんじゃない! 襲われたのが俺なんですってば!!」

「⋯⋯⋯⋯」

「被害者は俺なのに! なんで⋯⋯どうして⋯⋯! そんな生ゴミを見るような目で俺を⋯⋯!! ううう⋯⋯。あんまりだ! こんなの理不尽だぁ!!」

「黙らっしゃい。普段の素行が悪いからこうなるのです」

「レイナード達が助けてくれなかったんです! あいつらが悪い! 俺は助けを求めたんだ! なのに、あいつらはドアをそっ閉じしたんだぜ!? 信じられます!?」

 シオンはレイナードを指差した。騎士達は笑っているが、シオンからすれば笑い事では済まされない。

 ロザリーを孕ませてしまったかもしれないのだ。

「悪かった。さっきから何度も謝ってるじゃないか。でも、俺らにも言い分はある。どう見ても、あれは⋯⋯あれだったんだ」

「どんなだよ! の間違えだろ!?」

 我慢ならなかったシオンは、半笑いで反省の色が見えないレイナードに飛びかかった。

「うぉ⋯⋯!? やめろって。俺らはてっきりお楽しみ中かと思ったんだ。そもそも作戦は『高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処して魔女を捕まえちゃおうぜ大作戦』だったろ? まさかシオンが襲われてるとは思わなかった」

「嘘つけ! 酒飲んで判断能力が低下してたんだろ! レヴィアは俺をちゃんと助けてくれたぞ!!」

「こら、やめろ。じゃれつくなって。俺は女じゃないぞ? エロ坊主」

「うるせー! 今までの恩を仇で返しやがって! 誇り高きジェルジオ伯爵家の騎士がやることかーー!!」

「おいおい。シオンはそれを言える立場か。清廉なる聖職者がどれだけの女と寝てるんだよ?」

 醜い責任の押し付け合いが始まる。

 ルフォンは大きな溜息を吐き出した。

「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に⋯⋯? 何ですか? その国家を半壊させそうなふざけた作戦名は?」

「作戦の命名者はレイナードだ!」

「計画の発案者はシオンとアイリスですよ。ルフォン先生」

 レイナードは暴れるシオンを軽くあしらう。騎士の訓練を受けたプロの戦闘員が、小さな子供に負けるなどありえない。そもそも喧嘩にすらなっていなかった。レイナードは片手でシオンの頭を押さえている。

「やれやれです⋯⋯。魔女の捕縛は、アルヴァンダート卿に任せておくべきでしたね。時間は掛かったかもしれませんが、ここまでこじれた問題は起きなかったでしょう」

 心底呆れた。そんな様子のルフォンは両肩をすくめる。

 ベッドに横たわるロザリーは、寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。魔法で膣部を洗浄し、緊急避妊の魔法薬を摂取させた。一向に目覚めないのは、魔力切れによる疲労困憊のせいだ。

「彼女の治療は終えています。しかし、今後がどうなるかは大聖女様の御心次第でしょう」

「ちょ! ルフォン先生? その意味深な発言は⋯⋯?」

「命に別状はありません。別の意味です」

 ロザリーは軽傷だった。呪詛魔法を解除しなければ、魔力枯渇後に生命力も奪われていただろう。しかし、そうなる前にシオンが祓った。

 魔法医のルフォンが言及は、ロザリーの胎に関する診断だった。こればかりは一流の医療者でも分からない。

「えぇ⋯⋯それはそれで⋯⋯ちょっとぉ⋯⋯。困る⋯⋯ぜ⋯⋯?」

「そうなったときは、二人でよく話し合われることです」

「⋯⋯⋯⋯。大人の助けがいるんじゃないか? チラッ! チラッ! 心優しくて、見識ある大人が助けてくれたらなぁ!!」

「こんな時だけ子供扱いはしませんよ。伯爵様と奥方は、お城が賑やかになるとお喜びになるかもしれません。しかし、素行不良児と闇魔法使い⋯⋯。どちらにも似ないことを祈るばかりです」

 突き放すような無慈悲な返答にシオンは焦る。ベッドで眠るロザリーが目覚めたら、どんな反応をするだろうか。自分で調合した媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションとはいえ、薬瓶が割れた原因はシオンの不注意だ。

 行為時の記憶を覚えているかは怪しい。

 ロザリーは知らぬ間に処女を喪失し、シオンの子胤で孕んでしまった。そんな事実を突き付けられたら、どんな反応を示すだろう。シオンには予想もつかない。

 それもそのはずだ。シオンとロザリーは出会ったばかり。お互いのことを全く知らない。

「避妊の魔法薬を使ったなら大丈夫なはずじゃ? そうだよね? ルフォン先生は優秀な魔法医だろ!?」

「⋯⋯⋯⋯」

「いえ、そうですよね? ルフォン先生? 先生!? 助けてください! お願い! この通りです!!」

 焦燥に駆られたシオンは、ルフォンに媚びを売り始める。

「シオン。私が彼女に飲ませたのは避妊の魔法薬です。精子の活動を止めることはできるでしょう。しかし、受精卵になっていたらもはや手遅れです。受精卵になっても着床しなければ妊娠には至りませんが⋯⋯」

「受精卵⋯⋯? たしか同じようなことをレヴィアも言ってた」

 ジェルジオ伯爵城に帰る道すがら、レヴィアは難解な説明を聞かせてくれた。

 人間をどの段階で人間と定義するか。すなわち、生命と魂魄の始まりをいつとするかの問題だ。

 大聖女が定めた教会の経典、そして人類魔法体系では、受精卵の段階で「人命」が始まるとしている。

「レヴィアさんの言葉は真実です。いいですか? はこの世に存在しません。新たな魂が胎に宿ってしまったら、魔法では堕胎できないのです」

「中絶は経典で禁じられてる。戒律に反するし、反倫理的な行為だ。そんなことはしない。俺は腐っても聖職者だ」

 教会は堕胎を認めていない。どのような経緯で宿った赤子だろうと、無辜むこの魂は守られる。聖職者が堕胎を推奨したり、施術費用を肩代わりしたり、それらに類する行為をした場合、破門が言い渡される。

 淫行に溺れる破戒的な聖職者だったとしても、この戒律だけは守らねばならない。

「はぁ、普通は腐らずに聖職者を目指すべきですよ。シオン」

 読師見習いでも、教会の聖職者には違いない。ロザリーが孕んでしまったら、シオンは父親になる義務が発生する。

「⋯⋯でも、人を殺める魔法はないって? それは間違ってるよ。俺の祓魔で呪詛魔法を消さなかったらロザリーは死んでたぜ? 今までの魔法だってそうさ。人を死に至らしめる危険な魔法はわんさかある」

 教会の聖職者が手を差しのばさなければ、死んでいたであろう魔法被害者は多い。ルフォンの説明にシオンは納得がいかなかった。

「私が言ってるのはです。間接的には人を殺めることができます。たとえば発火魔法ファイアで火炙りにすれば人間は焼死するでしょう。しかし、魔法の効力は、あくまでも火を出現させること」

「ん? んん? それ、屁理屈じゃないか? 首の骨を折ろうとしただけで、人を殺すつもりはなかった。そんな言い分が通っちまうよ」

 人命を毀損きそんする魔法は、この世に数多く存在する。

「人類魔法体系は理詰めの叡智です。たとえ呪いであっても直接的に生命を奪う効果はない。何が言いたいか、はっきり述べましょう。どこからが命かの定義は曖昧ですが、人類魔法体系においてはの時点でそうなります」

 人類魔法体系は大聖女が創始したとされる。人命をたっとんだ大聖女の魔法で、胎内の受精卵を破壊するのは殺人と見做される。

 無論、シオンが指摘した通り、抜け道はある。内臓を傷つける魔法の発動過程で受精卵が割れてしまった。魔法の主たる目的ではなく、間接的な被害で中絶が成立する。しかし、それは外道な手段だ。

 教会から追われる反倫理的な魔法使いでなければ、魔法による中絶や堕胎は引き受けない。

「そんなに出してないし⋯⋯。たぶん⋯⋯デキてないはず⋯⋯」

 震え声は、ますますか細くなった。不安げなシオンをよそに、レイナードは面白おかしく笑っている。

「帝都のお嬢様が知ったらブチ切れだな。逆鱗に触れて斬首刑になったら俺がスパッとやってやるからな。シオン」

「この野郎!! 誰のせいだと! もう我慢ならんぞ! 他人事だと思いやがって! うぉおおおおーー!! こんにゃろおおお!!」

 レイナードの騎士鎧をシオンはガチャガチャと叩いている。口汚く罵っているが、気にも止めていない。

「よせよ。女に飽き足らず、男にまで襲いかかるのか? きゃぁーー! やめてー! ふしだらな聖職者に襲われるーー! ぎゃっははははははは!」

「言ったな! こいつ!! 聖なる拳でご自慢の騎士鎧をヘコませてやる!!」

「やめとけ。シオンのへなちょこパンチじゃ、逆に怪我をするぞ?」

 騎士と見習い聖職者の喧嘩は第二ラウンドに突入した。周りの騎士達がはやし立てる。

 シオンが子持ちの父親になったところで、さもありなんと誰も驚かないだろう。激怒するのは帝都に旅立ったシャーロットくらいだ。

 若母になるかもしれないロザリーを同情する者もいない。危険な魔導具や魔法薬を無許可で売りさばいていた犯罪者。文字通り、自分でいた種だ。

 領地を騒がしていた魔女は捕まった。ジェルジオ伯爵家の騎士達は大いに満足していた。

「随分と騒々しいのう」

 アルヴァンダートが戻ってくる。ロザリーが所持していた品々の鑑定が終わったようだ。背後にはレヴィアの姿もあった。

 〈教会の聖導師〉と〈真なる魔法使い〉の二人が揃っている。ロザリーがどんな危険な物を持っていようと完璧に対処できる。誰もがそう信じて疑っていなかった。

「アルヴァンダート卿? なにかあったのですか?」

 ルフォンはアルヴァンダートの深い懸念を感じ取った。

 治療を優先したため、ルフォンはロザリーの所持品をほんの一瞬しか見ていなかったが、大したものはないように思えた。

 シオンの祓魔で、既にいくつかの魔導具は無力化されていた。しかも、一番危険な魔法が宿っていたのは、ロザリーの背中に彫られた刺青だった。ルフォンはロザリーの身体から、邪悪な魔法が剥がされたのを確認している。

「騎士達には退席してもらおうか。レイナード。すまぬが、お主は残ってほしい。軍事教育を受けた者の助けを借りたいのじゃ」

「はぁ。軍事教育ですか?」

「アルヴァンダート先生。この老け顔騎士は酔っ払いですよ。軍事教育なんか受けちゃいないと思います」

「シオンよ。レイナードは士官学校を出ておる」

「まじ? 賄賂わいろでいくら使ったんだ?」

「さすがにぶん投げるぞ」

「おわっ!? そういうのはぶん投げる前に言えーー!! うぎゃーー!!」

 投げ飛ばされたシオンをレヴィアが受け止める。巨大な乳房がクッションとなって、衝突の痛みをまったく感じなかった。

「ふぎゃ!」

「喧嘩はよろしくないですよ。シオン。少し落ち着きましょうか」

 レヴィアはシオンを抱きしめたまま拘束する。苦しくはないが、どう足掻いても絶対に脱出できない。巨女の胸中は柔肉の牢獄と化した。

 アルヴァンダートは他の騎士達が退出し、廊下で聞き耳を立てている愚か者を追い払ってから、レイナードに本題を投げ掛けた。

「レイナードよ。これの真偽を確かめてほしい。仮に本物であれば、絶対に口外してはならぬぞ」

 磨き上げられたダイヤモンド。最初は美しく施された加工で誤認したが、すぐに正体が分かった。

「石英結晶? 単なる水晶では?」

 鑑定眼を持ち合わせないレイナードでも、間近で観察すれば分かる。アルヴァンダートが持っている鉱石は石英だった。

 特段珍しい物質でない。日常生活の光源で活躍する結晶灯は石英が原材料となっている。どこにでもある、ありふれた鉱石だ。

「これは加工された石英水晶じゃ。微弱な魔法が込められておる。聖導師や魔法使いでなければ、見逃してしまうほどの弱い魔法じゃ⋯⋯。レヴィア殿」

 アルヴァンダートに頼まれたレヴィアは、複雑な魔法を発動する。抱きしめられているシオンは、強大な魔力が渦巻いているのを肌で感じ取った。

(すごい魔力だ⋯⋯。ロザリーなんかとは比較に⋯⋯。俺なんかじゃ分からないけど、シャーロットお嬢様やルフォン先生をも上回っている気がする)

 シオンの見立ては間違っていない。レヴィアが発動した魔法は、第六魔法の幻影イリュージョンに分類されている。石英のクリスタルに隠された秘密は曝かれた。

「――魔法暗号破壊エニグマ・デモリッション

 アルヴァンダートの掌にあるクリスタルは、立体映像を投影し始める。

「これはデータクリスタルじゃ。高度な暗号技術によって、そう簡単には見破れぬ代物となっているのだ。正しい起動方法を知らなければ、レヴィア殿のように無理やり魔法で秘密を曝くしかない。さて、これを見てレイナードはどう思う?」

「⋯⋯これは⋯⋯待ってください。なんですか? これ?」

 レイナードは酷く困惑している。狼狽とさえ表現できる。

 投影された立体映像を読み解けているからこそ、取り乱してしまった。

(なんだ? レイナードの様子がおかしい。レヴィアのせいで声しか聞こえない。俺もちょっと見たいんだけど⋯⋯)

 何が映し出されているのか気になったシオンは、上半身を捻ろうとする。しかし、レヴィアの拘束力が強まり、乳間に頭部を挟み込まれてしまった。

(見えない⋯⋯。声も聞き取りづらくなった。レヴィアのデカパイから心臓の鼓動音が聞こえる⋯⋯)

 レヴィアはシオンに見せるつもりはなかった。データクリスタルに隠されていた秘匿情報は、ごく少数の人間だけが知っているべきもの。賢明なアルヴァンダートの意見にレヴィアも賛成した。

「ありえない。これは⋯⋯あってはならない! シュトラル帝国軍の軍事機密だ。指揮官だけが閲覧できる統帥綱領! 諜報部の協力者名簿! 帝国軍の編成や補給計画表まで⋯⋯! 信じられない」

「やはり本物じゃったか。儂やレヴィア殿も偽情報だとしたら出来が良すぎると結論づけた」

「本当の情報と照らし合わせなければ分かりようがないことですが⋯⋯」

「それはその通りじゃな。このデータクリスタルに詰め込まれた情報が全て正しいとは限らん。しかし、この場では些細な問題じゃろう」

「これは国家機密ですよ。絶対に漏洩してはならないし、そもそもこんな重要な秘密を一つのデータクリスタルに保存すること自体が異常だ!」

「うむ、まさしくその通り。正論じゃ」

「アルヴァンダート様、どういうことですか!? あの魔女がこれを持っていた? そうなんですか!?」

 データクリスタルに投影された情報は、指先で軽く触れると動かせる。シュトラル帝国の国家秘密が総覧できる。

 レイナードは恐ろしくなった。もし自分の口から情報が漏れてしまったら、祖国に取り返しの付かない損害を与えてしまう。震えた両足が後退った。

「持ち物に紛れ込んでおった。魔女はこのデータクリスタルの真価に気付いておらなかったようじゃ。扱いはガラクタ同然だったのう」

 アルヴァンダートはデータクリスタルを革袋にしまい込んだ。この場にいるシオン以外の視線が、ベッドで眠るロザリーに向けられた。

(俺も見たかったのに⋯⋯。ちょっとくらい見せてくれたって⋯⋯。でも、なんでロザリーがそんなものを持ってたんだ? まさか他国の諜報員スパイだった? そんなわけないな。俺とセックスしてああなるくらいだ。てか、レヴィアはいつまで俺を抱きしめてるんだ?)

 シオンは潔く抵抗をやめている。レヴィアがそろそろ離してくれるのではないか。そんな淡い期待を寄せた。

 

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉【13話】魔法薬は用法・用量を守って正しく使いましょう(♥︎)

 魔女ロザリー・クロスの父親は帝都の貴族だった。

 優れた魔法の才能は父親からの遺伝だった。ロザリーが正妻の子供であれば、帝都の魔法学院に進学し、優秀な成績で卒業できたであろう。しかし、そうはなっていない。

 ロザリーの母親は娼婦だった。貴族を専門とする高級娼婦。道端で客を取る売春婦よりは格上、と当人達は自負しているが、商売の女に上品も下品もない。母親が貴族の子種で妊娠し、女児を産んでしまったのは、身請け話にほだされたせいだ。

 母親は娼婦から貴族夫人、ロザリーは貴族の令嬢となって、魔法学院で知識を学ぶ。四歳の誕生日を迎えるまでは、父親が語る話を信じきっていた。

 ある日、貴族の父親は娼婦を捨てた。母娘の幸せはあっけなく終わった。

 いくら高級娼婦とはいえ、金で体を売る卑しい女。帝都の貴族社会では認められない。世間知らずな御曹司も五年や六年もすれば、常識を身に付ける。薄情な父親は貴族の伝統を優先した。

 若気の至り。当人はそう笑い飛ばしたという。しかし、母親とロザリーにとっては人生の破滅を意味した。

 身請け話は反故にされ、手元に残ったのはわずかな手切れ金。この先、母娘おやこが生きていく方法は一つ。

 ――自分達の体を売っていくことだった。

 ロザリーの母親は絶望に耐えきれなかった。希望を与えられ、娘まで産んだ。しかし、愛した男を間違えた。

 いつか貴族夫人になれる。そんな希望を抱かなければ、高級娼婦なりの幸せを掴めた。分不相応な幸福を夢見たばかりに、心を病んでしまった。

 母親は身を投げた。一緒に落下したロザリーが死ななかったのは、皮肉にも父親から授かった魔法のおかげだった。

 第一魔法は力学パワー。魔力を浮力に変換する飛行魔法ウォラトゥスは、魔法を学ぶ者が一番最初に修得する業である。父親に教えてもらった飛行魔法ウォラトゥスで、ロザリーは玩具を浮かせて遊んでいた。

 自分の体を浮かせたのは初めてだった。奇跡的に上手くいったというべきだろう。もし魔法が使えなければ、ロザリーは母親と一緒に落下死していた。

 母親の死に顔は一生涯忘れない。その表情に刻まれていたのは恐怖ではない。おぞましい怨恨。父親にぶつけるべき憎悪がロザリーに向けられていた。

 ――お前も私を捨てるのか。

 断末魔はそう叫んでいた気がした。ロザリーの母親は貴族を呪った。魔法を憎悪した。シュトラル帝国で、魔法は貴族の特権。魔法の才能に秀でいたロザリーは、貴族の血を引く女だった。

(おかしい⋯⋯! 間違っているわ!! なんで!? どうして⋯⋯? 他の国は平等に魔法を教えているわ。才能さえあれば、誰だって魔法使いになれる! 帝国は間違ってる。だから、正さなきゃいけない! 魔法は貴族の独占物じゃない⋯⋯! そうでしょ?)

 己の爪でむしった皮膚が痛む。背中から剥がれた刺青の箇所はもっと痛んだ。両目から溢れる澄んだ涙は、血を洗い流してくれる。

(下にある者は上にある者の如く! 上にある者は下にある者のごとく! 唯一無二の奇跡を果たすために⋯⋯!!)

 父親に捨てられ、母親は自殺した。天涯孤独のロザリーは必死に生きた。第一魔法を独学で鍛えて、我が身を守った。どれだけ飢えに苦しんでも、たとえ犯罪に手を染めても、身体だけは売らなかった。

 娼婦に身を堕とせば、運命に屈服する気がした。

 神秘結社ドラゴノイドとの出会いは人生の転機だった。才能ある魔法使いに知識を授ける非合法ギルド。構成員になったロザリーは第二魔法を教わり、天生の才を認められて第三魔法の知識をも授かった。

 それはまるで、ドラゴンが魔法を独占していた時代、偉大なる大聖女が人類魔法体系を広めた逸話の再現だった。神秘結社ドラゴノイドは平等に叡智を授けてくれる。組織への貢献度、魔法使いの才能。求められるのは、たったの二つだけだ。

(刺青が裏切り防止の呪詛? それが何だというの? 願いを叶える対価じゃない。貴族に忠誠を誓っても、奴らは何も与えてくれなかった。奪うだけ奪って! 弄ぶだけ弄んで! 飽きたら捨てる! そんな奴らにすがる家畜にはならない!)

 自殺した母親のような奪われる弱者にはならない。ロザリーは力を欲した。貴族を圧倒する力。魔法学院に通わずとも、偉大なる魔法使いとなる道。たとえ、それが人の道から外れていても踏破する。

(善人ぶった聖職者の説教なんか聞きたくない! それとも叶えてくれるというの? !!)

 ロザリーが調合した媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーション効果覿面こうかてきめんだった。ベッドで暴れるシオンの四肢を上から押さえつける。やかましい口は丸めた下着を突っ込んで封じた。

「んぁっ♥︎ 痛っ⋯⋯♥︎ はぁ♥︎ はぁはぁ♥︎ あはっ♥︎」

 初めてのせいで挿入に苦戦した。何度も何度も逸れてしまう。ロングスカートを着たままのせいで、狙いが定まらなかった。しかし、下手クソなセックスでも数打てば必ずいつかはあたる。

(繋がった⋯⋯♥︎ 純潔を破られてしまった♥︎ いいえ、私が自分の意思で捨てた♥︎ お母さんとは違うっ♥︎ 私は自分の意思で処女を終えたっ♥︎)

 ロザリーは自分の膣内なかに押し入った異物をでる。処女膜を貫いた男根は抜け出そうと足掻いている。

「ん! ぎゅ! まずぃ! やめっ! ふぎゅぎゅぅっ!! たすけぇ!」

 往生際の悪さを嗤ってしまう。互いの生殖器は交わった。純潔を失った膣穴から鮮血が流れている。処女喪失の痛みが子宮に響く。それでも止める気にはならない。

(あぁ♥︎ なんて快感♥︎ これがセックス♥︎ すごいっ♥︎ 奪っているわ。私が支配している! この少年を穢している♥︎ 貴族がお母さんを搾取したように⋯⋯!! 今は私がこの少年を犯しているっ⋯⋯♥︎)

 本能的な獣欲にロザリーは従った。騎乗位でシオンを拘束しつつ、尻を上下に振り続ける。激しいピストン運動の勢いで、ロングスカートがひらりと浮かぶ。交合部は見えずとも、お互いに感じ合っている。

「はぁはぁ♥︎ 気持ちいい♥︎ すごいっ♥︎ すごく♥︎ 病みつきになるっ♥︎ セックスしゅごいぃっ♥︎」

 ロザリーの涎が胸元に垂れる。シオンの抵抗はますます激しくなった。しかし、逃がしたりはしない。単純な体格と筋力では勝っている。組み敷いた姿勢を維持したまま騎乗位セックスを続けた。

 そして、ついにその瞬間が訪れる。

「いっ♥︎ いぐぅっ♥︎ オチンポが私の奥にぃっ⋯⋯♥︎ くるっ♥︎ きちゃう♥︎ はぁはぁ♥︎ いいわぁ♥︎ ねえ♥︎ はぁはぁ。本当は出したいんでしょ? 私のオマンコで♥︎ やせ我慢してるんだ」

「ロザぃ! んっ! んぎゅ~~! んぐぅごっ! ん~~!!」

 シオンは首を横に振る。媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションは強力な催淫剤であると同時に強制排卵剤である。薬効は避妊の真逆。摂取した女に膣内射精すれば、確実に孕ませてしまう。

「あぁっ♥︎ あぁぁっ♥︎ んあぁあああああああああぁぁぁぁっ~~♥︎」

 子宮にどびゅどっぴゅと精子が送り込まれる。シオンが我慢を重ねただけ、特濃の精子が注がれた。

「あぁ♥︎ んぁっ♥︎」

 うっとりと頬を赤らめてほうけたロザリーは身体の動きを止めて、射精の快感を味わった。取り返しのつかない事態に陥っているが、淫乱化したロザリーは後先など考えない。

「もう一回⋯⋯♥︎ まだ、もう一回したい⋯⋯♥︎ あと一回だけ⋯⋯!! いいでしょ? 付き合ってよ。あと一回だけでいいんだから? ね♥︎ さっきよりも気持ちよくなれるからぁっ♥︎」

 口角を吊り上げた満面の笑みは、魔女と呼ぶに相応しかった。シオンは怯えている。次の一回で終わるわけがない。媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションに精神を支配されている間、ロザリーの淫行は続くのだ。

「あっ♥︎ あぁっ♥︎ あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ あんっ♥︎ あぁっ♥︎」

 ◆ ◆ ◆

 喘ぎ声を漏らしながら、ロザリーは肢体を揺さぶる。

 乱れ舞った赤毛が夜風でなびく。若々しい娘は未熟な少年の身体をむさぼる。伯爵令嬢のシャーロットがシオンに見せた執着心と劣らない。

 伸ばした舌先でシオンの肋骨をめる。

(くうぅっ。めっちゃ唾液をつけられてるっ⋯⋯。しかも、喉奥に詰められた丸めた下着が苦しい。あと、なんかしょっぱい⋯⋯うぅう⋯⋯。なんでこんなことに⋯⋯。やべえよなぁ。これやばいって⋯⋯。オマンコの中に出しまくってる。あの薬を飲んだ後で膣内に出したら⋯⋯。あれ? なんか、おかしい。涼しい? 風が⋯⋯? 窓は閉まっていたはずだぞ?)

 抵抗を諦めかけていたシオンは異変に気付く。密室でロザリーの長髪が乱れているのはおかしい。窓がいつの間にか開いていた。

 シオンは窓からの侵入者を視認する。背恰好が大きすぎるせいで、窓の格子に頭をぶつけた。大きな物音がしたが、ロザリーはセックスに夢中で気付いていない。

「⋯⋯⋯⋯」

 困惑する侵入者は、シオンとロザリーを交互に眺める。そして、とても悲しい顔をした。

(待ってくれ! ちょ! 帰らないでッ!! なんで皆、帰っちゃうんだよ! 助けてくれよ! 和姦じゃないって!)

 涙目でシオンは訴えかける。引き下がろうとした侵入者は、ジェルジオ伯爵家の騎士よりは察しが良かった。

「⋯⋯⋯⋯ッ!!」

「ん! んんぅうっーー!! たすっぎゅてぇ!」

 身振り手振りで、シオンが助けを求めていると分かってくれた。

「――衝撃波ショック・ウェイブ!」

 呪文宣告。澄んだ美しい声で唱えられた魔法は、ロザリーの前頭葉を揺らした。

 第一魔法の力学パワーは浮力や斥力を操る。石ころを浮かせたり、吹き飛ばせたりする。しかし、それは見習いの魔術師レベルだ。

 凄腕の魔法使いであれば、衝撃波ショック・ウェイブで内臓を攻撃できる。枝木を折る程度の微弱な斥力であっても、それを脳幹で引き起こせば人間は即死する。

 言葉で説明するのは簡単だ。しかし、強大な魔力を持つ魔法使いであろうと実行は至難だ。魂魄が宿った人体は強力な結界である。しかも、内臓は視覚的には捉えられない。

「はぅっ♥︎」

 ロザリーは脳震盪で気絶する。放たれた神業的な衝撃波ショック・ウェイブは、的確な威力かつ正確な箇所に作用した。気絶したロザリーはパタリと倒れて、寝息を立てている。

「ふぎゅぅっ⋯⋯‼ んあ! んぎゅぐぎゅうう!」

 シオンはロザリーの体重に押し潰されながらも御礼を言う。助けてくれた侵入者に伝わっているかは分からない。

 

「これはどういう状況です? 心配でいてもたってもいられず、様子を見に来てみれば⋯⋯」

 レヴィアはシオンの口に詰め込まれていた下着を引っこ抜いた。

「ぜはぁぁっ! はぁはぁ! ありがとう⋯⋯。助かった⋯⋯! レヴィアが大聖女様の御使いに見えたぜ⋯⋯。げほっ! げほぉっ!! はぁはぁ⋯⋯。酷い目に遭った」

「襲われていたのですか?」

「そうだよ。見ての通りだ。うぅっ⋯⋯。こんなに無理やりされたのはお嬢様以来だ。汚された。もうお婿にいけない⋯⋯」

「なぜレイナードさん達に助けを求めなかったのです? 一階の酒場で会いましたが、シオンは夜戦の最中だと⋯⋯」

「なにが夜戦だ! あいつら! なあ、お願いだよ! レヴィア! ジェルジオ伯爵家のアホ騎士どもを魔法でカエルにしてくれっ!! あいつら、最低なんだ!!」

「本気ですか? ⋯⋯シオン、ごめんなさい。人間に危害を加える魔法は使いたくありません」

「⋯⋯いや、そんな真面目に返さなくても⋯⋯ね」

「嗚呼、良かった⋯⋯。冗談ですか?」

「うん。冗談だけど、奴らの返答次第では本気マジになっちゃうかもしれない」

「はぁ⋯⋯。そうですか。でも魔法の悪用はオススメしません。ところで、これは女性の下着ですが⋯⋯。口に含んでいた理由を聞いても?」

 レヴィアが指先で摘まんでいるロザリーのパンティーは唾液塗れだった。

「それは⋯⋯。話すと長くな⋯⋯って! あ! やばぁい!」

「やばい?」

「レヴィア! すぐ息を止めて! この部屋は危険だ! やばいぞ! そこの床にこぼれた薬液は強力な媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションだ! 匂いを嗅いだら大変なことになる! はやく部屋の外に避難してくれ!」

「これですか。発情薬の類いですね」

「⋯⋯え? レヴィアに効かないの?」

「私にもシオンにも効きませんよ。これは」

「そうなんだ。てっきり男だけに効かないもんだとばかり⋯⋯。え、どういうこと? じゃあ、なんでロザリーはこんな状態に?」

「発情薬の材料には人体の一部が使われます」

「え、なにそれ。こわ」

「⋯⋯あっ、いえ、人体といっても、血液や爪先、体毛などです。臓器などは適していません」

「びっくりした。人間の腕や足を煮込む魔女鍋で精製したのかと思ったぜ⋯⋯」

「この発情薬を調合したのはそこの女性ですか?」

 レヴィアはシオンの上で倒れているロザリーを指差した。

「うん。魔女のロザリー・クロス。そう名乗ってた。魔導具の密売をしてた魔法使いだよ。でも、おかしいな。媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションは女性を強制発情させるって言ってたぞ。違うのか?」

「効果はあっています。しかし、薬のにしか効き目がありません」

「あーそれって⋯⋯つまり⋯⋯調合した本人だけをエロくしちゃうけど、他の人間には⋯⋯」

「効果はありませんね」

「なんてこったい⋯⋯。きっとロザリーは自分の一部を材料に使ったんだ。調合を間違ってたな。間抜けな魔女だ。他人に売る気満々だったぞ」

 シオンは気持ちよく眠っているロザリーを小突く。媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションはロザリーにしか効かない。そのことを本人は分かっていなかった。

「魔法薬としての出来栄えは良くありません。込められた魔力も半端です⋯⋯」

「無慈悲なダメ出し⋯⋯。俺にはよく分からねえけど、レヴィアがそう言うならそうなんだろうな」

「そこのロザリーという女性は、ルフォン先生のように魔法を正しく学ばれている方ではなかったのでしょう」

「大当たり。怪しげな闇魔法使いの集まりから、知識を授かってたみたいだぜ」

「神秘結社ドラゴノイドですか?」

「何にしても迷惑な連中だ。恐ろしい薬だぜ。ちゃんとした調合で、たとえば他人の髪とかを盗んで使えば⋯⋯良からぬ企みに使えちまうんだろ?」

「ご安心ください。それは無理です。発情薬は調合条件が指定された魔法薬。材料は自分の正当な所有物でなければなりません。奪ったり、盗んだりした素材を使ったら、薬効は失われてしまいます」

 レヴィアの説明によると、調合素材は正当な所有物を使わなければならない。無理やり奪った素材を一つでも使えば、この魔法薬は効力を失うのだという。

「え? じゃあ、この薬って何の意味があるんだ?」

 説明の通りなら、誰かを無理やり惚れさせたり、薬を盛ったりはできない。薬を調合するためには、正当な方法で素材を提供してもらう必要があるからだ。騙して受け取った場合でも、調合は失敗してしまうそうだ。

「そもそもこれは⋯⋯。その⋯⋯」

 レヴィアは言いにくそうに言葉を詰まらせた。

「ん?」

「⋯⋯大昔に家畜を繁殖させる薬として開発されました。種付けで使われてきた歴史があります」

「家畜? 牛とか羊みたいな?」

「⋯⋯ええ。そうです。家畜であれば、所有者が体毛を切り取っても、正当に入手したと見做されます」

「なるほど。家畜は物扱いってことか。じゃあ、これ、普通は人間に使わない?」

「人間に使うとしても、自分用や依頼人の処方薬として、不妊治療くらいでしか用途が⋯⋯」

 レヴィアの視線がロザリーのロングスカートに注がれている。シオンの下半身が上手い具合に覆い隠されていた。

「妊娠薬でもあるんだよな? あのさ。レヴィア。じゃあ、健康な若い女性が使ったら妊娠する確率ってどれくらい⋯⋯? 色々と事故って⋯⋯ロザリーに出しちゃってるんだ⋯⋯」

「出す⋯⋯出してる⋯⋯つまり⋯⋯そういう可能性が?」

「まぁ、つまり⋯⋯そういうこと⋯⋯」

「今すぐジェルジオ伯爵城に戻るべきです。ルフォン先生に避妊薬を調合してもらいます。膣内を魔法で洗浄すれば⋯⋯。とにかく受精する前であれば大丈夫です」

「聞きにくいんだけど、受精しちゃってたらどうなる?」

「受精卵が自然着床する確率は一般的に⋯⋯。いえ、こうして話している時間がもったいないです。とにかく急いでお城に帰りましょう」

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〈魔法と奇跡のミスティリオン ~最強を喰らう最弱の聖導士~〉 【12話】ラブ・ハイポーションの効き目

「アガァ⋯⋯! ウゥゥゥウゥゥゥゥゥウウウウウウーー!! アァ! アァァ、ウァアァァァーー!!」

 血の涙を流すロザリーの両目。瞳は爬虫類のような眼孔に変じる。

「⋯⋯うわぁ。目付きがやばい」

 暴走した魔力がロザリーの肉体を変異させている。

「荒事にするつもりはなかったが⋯⋯。呪い⋯⋯刺青⋯⋯。スティグマ系の魔法⋯⋯。どの階位だ? チッ! まあ、俺がやることは一つだよな?」

 原因は皮膚を動き回っている漆黒竜の刺青だ。

(祈りで魔法を消し祓う)

 強力な呪詛がロザリーの心身を蝕む。毒蛇のように巻き付いていた。

「我が祈りは折れぬ剣。我が信仰は砕けぬ盾。我が救済は断ち切れぬ鎖」

 聖句を読み上げる。激しく動いていた竜紋が硬直した。敵意を剥き出しにした呪詛がシオンに邪気を放つ。シオンは臆することなく両手で聖掌印を結んだ。

「――汝の憐れな魂を救い上げよう」

 吹き荒む風で窓が勝手に閉まった。

 呪詛の刺青はロザリーの肉体を操っている。邪悪な魔法による高度な呪詛だった。

(呪文宣告!? この状態で? ロザリーの魔力を操れるのか? 遠隔での操作? それとも憑霊? くそ。分からねえ。それに気にするべきはそこじゃない。何の呪文を唱えた? 壁、床、天井に厄介な方陣が展開してる。見る限り、攻撃系じゃなさそうだ。よく分からん)

 複雑な方程式が組み込まれている。シオンを逃さぬように暗闇の結界が構築された。

(くそ! よりにもよって防壁かよ⋯⋯! いや、閉じ込め効果なら結界魔法か? 俺じゃ区別ができねえ。だが、おそらく第四魔法だ。無理やり発動しやがった。俺が奇跡で魔力を削ぎ落としてるのに⋯⋯!!)

 第四魔法は領域ディメンションの位階。ロザリーの実力を上回る魔法が強制発動されていた。

(無茶な魔法発動だ。肉体に反動があるのは当然だ。時間をかけらねえ。ロザリーの脳が焼き切れる。そうはさせねえ)

 目的は敵の始末、そして裏切り者の口封じ。

 シオンを殺した後、ロザリーの肉体も自壊させるつもりなのだ。

「――汝の罪科を天秤に乗せよう」

 逃げる選択肢はなかった。祈りを込めて経典の言葉を読み上げる。刺青の呪詛は抵抗するが、シオンは瞬きさえせずに念じ続けた。

「――汝の贖罪を笏杖しゃくじょうで仰ごう」

 吐き出された魔力波をかわす。シオンはテーブルを蹴り飛ばし、壁を駆けた。どれほど強力な魔法攻撃でも当たらなければ意味はない。魔導具が散乱し、媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションが床に飛び散った。

「――人の子らよ、願い望み、救いを求めよ」

 距離を取りつつ、再び聖掌印を結ぶ。信仰力を得たタリスマンは光り輝き、邪悪な呪詛の魔法を消し飛ばす。

「あぁ⋯⋯うぅっ⋯⋯たす⋯⋯け⋯⋯て⋯⋯!」

 ほんの一瞬だけ、ロザリーが正気を取り戻した。無意識にであろう。シオンに向けられたものではなかったかもしれない。

 助けを求めていた。ロザリーは声を振り絞って助けを求めた。本能的な魂の叫びこそ、もっとも強い祈りが込められている。

(助けてやるさ! これでも聖職者だぜ? ただひたすらに祈りを捧げる! 邪悪な魔法を打ち砕くにはこれしかない⋯⋯!! 苦しいだろうが、今は耐えてくれよ。あと少しで魔法を崩せる)

 シオンは念じる。

 第零魔法の信仰は共鳴する。ロザリーは助けを求めた。魔法に対する恐怖に呼応する救済の御業。

「――欲する者のみに私は奇跡を与える!」

 

 人類に魔法を授けた大聖女は、竜族の古代魔法をも祓い消した。たとえシオンが未熟な見習いだとしても、真摯な祈りは魔法は敗亡させる。

「――悔い改めよ。祝福の刻は到来した!!」

 伝説の大聖女が起こしたような奇跡は起こせない。だが、竜紋の呪詛は人間が仕掛けた邪悪な魔法。聖導師は魂を救い、人々の想いに応える。

「うぉっ! 出るもんが出たな」

 ロザリーの肌から飛び出してきた漆黒竜の刺青を握り潰した。

 

「これが漆黒の古代竜? むしろ毒蛇だな。穢れた呪いの刺青め。消え去るがいい」

 シオンの皮膚下に潜り込もうと暴れたが、聖絶に耐えきれず消滅した。魔力が四散し、部屋を覆っていた暗闇が消え去った。

 ◆ ◆ ◆

「おーい。生きてるか? 生きてるよな?」

「⋯⋯あぁ⋯⋯うっ⋯⋯。何が⋯⋯起きて⋯⋯?」

 ロザリーの頬を叩いていたシオンは安堵する。

「とりあえず、そこのベッドで横になってろよ。お前、とんでもない魔法かけられてたぞ。神秘結社ドラゴノイドだっけ? 裏切り防止で呪詛の刺青を仕込むなんて堅気かたぎじゃねえよ」

 呪いから開放されて、ふらふらのロザリーをベッドに誘導する。

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。足に力が入らない」

 体格差があるせいで抱き上がるのは無理だった。

「しゃーねぇーなー。運んでやるか」

 みっともないが、両手を引っ張って、無理やりベッドに転がらせた。

「ちょ⋯⋯!! なによ、これ! なんか⋯⋯シーツが濡れてる⋯⋯!」

「なんでシーツが濡れてるかは心当たりはあるぜ。てか、ロザリーも使役魔で覗いてたんだから知ってるよな?」

「べちょべちょしてる⋯⋯嘘! これって⋯⋯。うわ⋯⋯いやぁ⋯⋯!!」

 先ほどまでアイリスと激しくセックスしていた寝床である。当然、色々な体液がベッドシーツに染みを作っている。

「命の恩人に文句言うな。床に寝かせるぞ」

「貴方⋯⋯! 最低! 私を騙したわね⋯⋯。本物の聖導師じゃないっ!」

「まだ読師見習いだ。今回の件で、アルヴァンダート先生が俺を認めてくれないかなぁ。無理かなぁ。しくじったしなぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。気分が重たい」

「私を捕まえる気で⋯⋯!! だから、刺青の呪いが発動したのね!! そうでしょ!!」

「捕まえようとしたのはその通り。呪いが発動したのも俺のせい。悪かったよ。だけど、こうなりたくなけりゃ、アルヴァンダート先生に捕まっとけば良かったんだ。ここまで酷い目には遭わなかったろうぜ⋯⋯」

「冗談じゃないわ⋯⋯! このクソガキ! 貴方なんか⋯⋯!!」

 ロザリーは指輪に魔力を注ごうとする。何かしらの攻撃魔法を使おうとしたようだった。しかし、そよ風すら起きなかった。

「やめとけ。魔力切れだ。刺青の呪いが発動したとき、ロザリーの魔力を馬鹿食いしてた。そんな状態じゃ、しばらく魔法は使えねえよ」

「くっ⋯⋯!! 私を領主に引き渡す気なんでしょ?」

「そりゃそうだ。こっちにも言い分はあるぞ。ロザリーのせいで怪我人が出た。魔導具の密売は大っぴらにやらなきゃ黙認される。だが、あの魔導具はダメだ。人が死にかねない。危険物を路地裏で売ってたロザリーが悪い」

「使い方が悪かったせいでしょ。私のせいじゃないわ」

「いいや、ロザリーのせいだ。⋯⋯ってことは、なるほどね。はっはははは。笑っちまうぜ」

「何がおかしいのよ? 急に笑い出して⋯⋯気持ち悪い⋯⋯」

「その言い訳が出てくるってことは、魔導具を作ったのはロザリーじゃないだろ?」

「どういう意味?」

「ロザリーが売ってた魔導具は持ち主に危害を加える代物だ。暴走するとか、用途を間違えてとか、そういう理由じゃない。最初から使用者を傷つける害意がある。魔導具の製造者は故意犯だ。お分かりかな?」

「そんなはずないわ。だって、私が試しに使ったときは――」

「――それはロザリーが魔法使いだからだ。一定量の魔力があれば安全に使えるらしい。ルフォン先生とアルヴァンダート先生が調べたんだ。間違いないぜ。そこに転がってる魔導具は、魔力が脆弱な人間に危害を及ぼす。嫌がらせや悪戯の限度を超えてるぜ」

「そんなわけない⋯⋯だって⋯⋯。聞いてない。そんなの⋯⋯!」

「今なら信じられるはずだ。ロザリーは刺青の呪詛魔法に殺されかけたろ」

「⋯⋯⋯⋯貴方のせいじゃない」

「祓魔で誤作動した。刺青を聖職者が消そうとしたら裏切り判定になるわけだ。発動条件が雑すぎる。まるで捨て駒。同胞意識や安全配慮は皆無なお集まりじゃねえか。多少なりとも魔法の知識があるんだから、分からないはずがないよな」

「⋯⋯⋯⋯」

「なあ、どうして神秘結社ドラゴノイドなんかの売人やってるんだ? 第三魔法までは使えるんだろ。まっとうに魔法使いをやればいいじゃん」

「まっとうに魔法使い? できるわけないでしょ! シュトラル帝国ではどんなに才能があっても魔法を学ぶ機会がないんだから⋯⋯!!」

「才能があれば別だろ。平民でも推薦入学で⋯⋯」

「できないわよ! 知った風な口をきかないで! 推薦入学で平民が魔法学院に入学したのは制度ができてから、たったの一人だけじゃない!!」

(やっべ。そういえばアルヴァンダート先生が嘆いてたな。しかも、その推薦入学者は嫌がらせで卒業できなかったって話だ)

「今じゃ貴族の箔付けで使われてるだけ。今年の推薦入学者だってジェルジオ伯爵家の御令嬢じゃない! どれだけお金を積んだんだか」

「金は積んでない。今年の推薦入学者はそういう曲がったことが大嫌いだ。賄賂なんかやったら縛り首にされるぜ。⋯⋯でも、ロザリーが言いたいことは分かったよ。魔法学院で学ぶ機会が与えられなかったんだな。それじゃあ、独学で第三魔法まで修得したのか? 違うよな。誰かに教えてもらったろ」

 天才のシャーロットですら、ルフォンという家庭教師がいた。ロザリーに魔法を教えた師匠がいるはずだ。

「神秘結社ドラゴノイドは、私みたいな社会の底辺にも魔法を教えてくれるわ。才能さえあれば、機会を与えてくれるの!」

「弟子を取れるのは、第五魔法を修めた魔導師だけ、それと帝国の許可がいる。無許可の魔法使いギルド。絵に描いたような闇の魔法使いじゃんか」

「組織に貢献すれば次は第四魔法を教えてくれるはずだった⋯⋯! それなのに⋯⋯!!」

「そういう手段で勢力を拡大してるわけか。たくっ⋯⋯。闇深いぜ」

 シオンはロザリーの気持ちが理解できた。しかし、共感まではしない。

 魔法の才能が皆無のシオンは、魔法に対する憧れを捨てている。しかし、ロザリーのように魔法の才能に恵まれていれば、どうだろうか。

(そりゃ、能力があるなら鬱憤うっぷんは溜まるよな)

 才能があるのに魔法を学べない。そんな境遇であれば、ロザリーのように怪しげな組織にすがる者も出始めるだろう。

「魔法は三千年前に大聖女が人類に与えた偉大な叡智よ。貴族だけが独占してるシュトラル帝国は間違っているわ。貴方だって教会の聖職者なら、帝国の魔法教育がどれだけ腐ってるか分かるでしょ?」

「悪いが政治はノータッチ。政教分離だ。改革したいなら帝都で街頭演説でもしてくれよ。平和的手段なら俺だってとやかく言わねえ。危険な魔導具を売って怪我人を出してるのがダメなんだ」

「魔法には付きものよ⋯⋯。危険や代償があるから大いなる御業を扱える」

「ジェルジオ伯爵家の魔導師ルフォン先生のありがたいお説教の言葉を一つ授けようか? 目的が正しくても、手段が間違っていたら、それは許されない。ガキでも分かるぜ。そんな言い訳は通じねえ。俺の目を正面から見てない時点で、後ろめたさがあるよな?」

「綺麗事だけじゃ⋯⋯。世の中は変わらないわ⋯⋯!」

「自分が死にかけても神秘結社ドラゴノイドに忠誠を尽くすのか。律儀な性格。だけどさ⋯⋯」

「貴方なんかに私の気持ちが⋯⋯。分かるはず⋯⋯んぅ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯んっ⋯⋯」

「どうした。顔色が悪い⋯⋯ってわけじゃなく、真っ赤になってるぞ? 魔力切れのせいか?」

「分からないわ⋯⋯。さっきからずっと身体が熱い。すごく⋯⋯熱くて⋯⋯。火照ほてるの⋯⋯。暑い。暑すぎる。服を着ていられない」

「ちょ! 何やってんだ? え゛!?」

下腹部あそこが熱い。熱くて⋯⋯! うっくぅううぅ⋯⋯我慢できない⋯⋯!!」

 ロザリーは息苦しそうにもがいている。

(なんだ? まさか呪詛魔法の残り火? ありえない。ロザリーの身体から引き剥がして魔法を打ち消した。後遺症? ルフォン先生に診てもらわないと⋯⋯。ん? んん? なんだ、この匂いは?)

 その時、奇妙な匂いが室内に充満しているのに気付いた。若干の魔力が宿った淫靡な香り。シオンは咄嗟に鼻を手で覆った。

「この匂いは⋯⋯? 香水? どこから⋯⋯? あ゛ッ!?」

 異常臭の発生源はひっくり返ったテーブルの近くに転がっていた。薬瓶が割れて、青紫色の液体が床に飛び散っている。

「しまったぁ! 媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーション!! テーブルを蹴っ飛ばしたときに割れちまってたのか。早く窓を開けて換気を⋯⋯はっ!」

 媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションは薄めて使う。たったの一滴で女を発情させる強力な魔法薬である。元々は家畜の繁殖を目的に作られた排卵誘発剤。種付けした牝を孕ませる薬品だった。

「はぁはぁ♥︎ うぅうぅぅうっ⋯⋯♥︎ 匂い♥︎ 男の匂いがする⋯⋯♥︎」

「ちょ、ロザリー? ロザリー!? ロザリーさん!?」

 気化した媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションを吸ったロザリーは発情状態に陥った。とろんとした瞳でシオンを見詰めている。ベッドシーツに付着した精液を吸っていた。

「んぢゅっ♥︎ はぁはぁ♥︎ これ⋯⋯精子⋯⋯♥︎」

 ロザリーが万全の状態なら、自身の魔力で薬効に対抗しただろう。しかし、今のロザリーは魔力切れで抵抗力が皆無だった。

「落ち着け! 落ち着くんだ! そんなものを吸ったらダメだ!」

「大丈夫⋯⋯♥︎ 良くなってきた♥︎ 媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションは私が調合したから⋯⋯。大丈夫⋯⋯♥︎ 何も悪いことは起きないから⋯⋯♥︎ ふぅーふぅぅー♥︎ ふぅぅっ♥︎」

「そっ、そっか。良かった。俺はなんともない。だけど、念のために距離を取ろう」

「だいじょうぶ。私は⋯⋯平気だから⋯⋯。シオン⋯⋯? シオンってよく見たら⋯⋯格好いいわ」

「ありがとう。嬉しいよ。だから、離れよう。お互いのために!」

「すごく⋯⋯いい⋯⋯♥︎ 私を助けたくれた♥︎ 私を捕まえたいんでしょ? それって⋯⋯つまり⋯⋯私が⋯⋯好き?」

 飢えた猛獣の目付きでロザリーは近寄ってくる。

「嘘だろ。まいったね。こりゃ⋯⋯。祓魔をもう一回やらなきゃな。よく聞け。ロザリーは媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションの淫香で正気を失ってるんだ。つまり、薬のせいで猛烈な恋心を抱いてるかもしれないが、それは魔法のせいだ。今から俺が魔法を奇跡で打ち消す」

「違うわ♥︎ これはきっと⋯⋯魔法じゃないィ!!」

「いいや、絶対に魔法薬のせいだ。祈りを捧げさせてくれ。十秒もあればきっと解ける。いや、ちょっと強がった。二十秒くらい。だから、にじり寄らないでくれないか? もうちょっと我慢できるだろ」

「はぁはぁ♥︎ 媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションは私が調合した。私に効果があるはずないでしょ?」

 ベッドから這い出たロザリーは、床に飛び散った媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションを舐める。舌を伸ばして、丁寧に原液を飲み込む。

「ほぉら♥︎ なんともなぁいわ♥︎」

「なっ! なにやってんだ! それ原液だって自分で言ってたろ!? 匂いを嗅ぐどころ経口摂取なんかしたら!?」

「はぁはぁ♥︎ 大丈夫♥︎ 魔法薬を作ったのは私。誰よりもよく知ってるわ♥︎ どうして壁際に逃げるの? そもそも誘ったのはシオンよね⋯⋯?」

「語弊がある。誘ったんじゃなくて、誘い出しただけ」

「だって、ずっと私にアイリスとの行為を見せつけてた⋯⋯。こういうことだったんでしょ?」

「ち、ちがう。記憶を捏造してるぞ! 正しい記憶を思い返せ! ロザリーが俺とアイリスのセックスを覗き見てたのは俺を警戒していたからであって、要するに――んぎゅ! んぅぅっ!?」

 ロザリーはシオンの唇を塞いだ。魔法を打ち消す奇跡が起こせるシオンだが、物理攻撃には弱い。しかも、祓魔の弱点を突かれてしまった。

 第零魔法は魔力や呪文を必要としない。その代わり、真摯な祈りを捧げなければ大聖女の恩寵は得られない。不純な感情を抱く限り、信仰魔法は無力となる。

(やばいっ! ロザリーに犯される⋯⋯!! 逃げ⋯⋯逃げないと⋯⋯ダメだ! なんて力だ⋯⋯!! さっきまで足の力が入らないって言ってたくせにぃ!! 俺じゃ⋯⋯無理⋯⋯!!)

 ロザリーはシオンの口に舌を押し込む。床から舐め取った媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションを唾液ごと口移ししてくる。豊満な乳房を押し付けて、揉むように迫ってきた。

 絶体絶命の窮地。諦めかけたそのとき、部屋の扉が少しだけ開いた。隙間から様子を伺う者がいる。

「ううぅっ! レイナード! 頼むっ⋯⋯! たすっ――んぎゅん!」

 アイリスの連絡を受けたレイナード達が四階の廊下まで上がってきていた。剣を引き抜き、すぐさま突入できる前傾姿勢だ。

(来い! 来てくれ!! この媚薬は女にしか効かないみたいだ! はやく俺を助けてくれ!! レイナード! レイナードぉぉお!!)

 レイナードはシオンを見る。魔女に熱烈な接吻をされてもがいている。視線で「さっさと助けろ」と叫ぶ。だが、レイナードと背後の騎士達は勘違いを起こしたらしい。

 ――パタン。

 静かに扉を閉めてしまった。レイナード達の気配が遠退いていく。シオンの訴えを「邪魔をするな」と受け取ったのだ。

(は? はぁあぁぁ!? なんで帰るんだよ! どう見ても、俺が襲われてるだろ!? ふざけんな! どんな勘違いだ!? 俺が魔女とセックスしそうだから一時撤退!? どんな判断だ!? 無駄飯食らいの馬鹿騎士どもめ! ジェルジオ伯爵家の騎士どもは脳髄が腐ってるのか!?)

 シオンを抱きかかえたロザリーはベッドに移動する。先ほどまでアイリスと激しく交わっていた寝床に押し倒す。

「暴れないで⋯⋯♥︎ きっと楽しいから♥︎ 絶対に気持ちいいから♥︎ 幸せになれるからぁ♥︎」

 黒のショーツを破り脱ぎ、丸めてシオンの口に押し入れた。恥部の汗を吸った汗臭い下着のせいで、舌が動かせなくなる。抵抗も虚しく、ロザリーはシオンの下着を脱がせて、お目当ての男根を探し当てた。

「あとは⋯⋯挿れるだけ⋯⋯♥︎ シオンのオチンポを私のオマンコに⋯⋯挿れちゃう⋯⋯それだけ⋯⋯♥︎」

「んぎゅぅうーーーー!! んううぅぎゅうぅううううう~~~!!」

 助けを求めるシオンの叫びは誰にも届かなかった。ロザリーはオチンポの上に跨がり、ゆっくりと腰を下ろしていった。性経験豊富なアイリスのような技巧はない。しかし、張りのある柔肌は若娘だけが持ち合わせる魅力だった。

 赤毛の恥毛は綺麗に剃り上げている。ふにふにの陰唇がシオンの亀頭を撫でた。最初は擦りつけているのだと思った。しかし、シオンは勘付く。ロザリーは挿入に失敗しているのだ。

 魔女装束のドレススカートが視界を遮っている。手を差し込んで、男根と膣口の座標合わせをしているが、上手くいっていない。

(男慣れしてねえ! これ! 絶対に処女じゃん⋯⋯! やばい! やばい! やばい!! こんなの責任取れないって! ロザリーが正気に戻ったら殺される!! やめさせ⋯⋯あ⋯⋯! やっちまった⋯⋯)

 ロザリーの全体重がシオンにのし掛かる。ベッドがギィッと軋んだ。下腹部を貫かれた痛みで、ロザリーは一瞬だけ正気を取り戻した。両目に涙が滲む。しかし、すぐに蕩けた発情の牝顔に戻った。膣内に侵入した男根をキツく締めつける。

「んぁっ♥︎ 痛っ⋯⋯♥︎ はぁ♥︎ はぁはぁ♥︎ あはっ♥︎」

 ロザリーが調合した媚愛の恍惚薬ラブ・ハイポーションは、家畜動物を繁殖させる薬を魔法で改良したもの。元々の用途は妊娠薬。その薬効はロザリーが説明したとおり、発情効果の他にも強制排卵作用がある。

「ん! ぎゅ! まずぃ! やめっ! ふぎゅぎゅぅっ!! たすけぇ!」

 既に取り返しのつかない事態に陥っているが、膣内射精をしてしまったら、それどころではなくなる。過敏になったロザリーの子宮に新鮮な卵子が放たれる。

「あっ♥︎ あぁんっ♥︎ あっ♥︎ んぁああぁっーー♥︎」

 シオンはロザリーを止めようとした。しかし、淫欲に溺れた魔女は、無慈悲に腰を上下に振り始めた。

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