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【21話】左手の薬指

「あぁん♥︎ あぁんっ♥︎ んぁっ♥︎ はぁっ♥︎ はぁっ♥︎ んんぅっ♥︎」

 一度や二度の射精では満足できない。臨月の妊娠オマンコで若君のオチンポを締め上げる。

「ヴォルフ坊ちゃん……♥︎ 私のデカパイを吸って♥︎ 吸ってェ♥︎ しゃぶってくださいませ♥︎ カレンティアの乳房よりも大きのからぁっ♥︎ ほらぁ♥︎ ちゃんと確かめてぇ♥︎」

「リリトゥナ……っ。あれは……その……。男の生理反応で……! 別に欲情してたわけじゃ……!」

「そうですの? ふふっ♥︎ ギンギンに勃起してたのは私の見間違いだったのかしら♥︎ あぁ♥︎ 妬いてしまう♥ 若い女の身体ですものねぇ……♥︎ 乳房の張りは負けてしまうかもっ……♥︎」

「そこは張り合うところじゃないよ。本当に違うって……!」

「やけに親身でしたわ……♥︎ ヴォルフ坊ちゃんと近しい年齢の娘ですものね♥︎ 恋人にするならやっぱり若娘?」

「勘弁してよ。苛めないでほしい。僕の好みは年上だし、誰にだって親切さ。……それにカレンティアさんはベロニカの娘だ。探しに来たんだ」

「墓参りは失敗でしたわね。四年も経った今頃に現れたのですよ。きっとベロニカは誰かに見られたんだわ。ヴォルフ坊ちゃんはお聞きになってません?」

「えっとね。墓守の司祭さん。村の人に見られたんだって……謝られた」

「あんっ♥︎ もぅ……。教会の司祭はこれだからイヤですわぁ♥︎ 凶兆はいつだって教会絡み……♥︎」

「すれ違っただけだ。話してはいないそうだよ。当然、顔だって見られちゃいない」

「ベロニカを墓参りに行かせるのは反対でしたわ。いくらなんでもヴォルフ坊ちゃんは甘すぎます。……こうなっては仕方ありません。あとは私にお任せください」

「明日には帰ってもらう。カレンティアはそれで――」

「いいえ。いけません。無理に帰らせたところで春になったら戻ってきます。説得は不可能ですわ。レーヴェ家は怪しまれています」

「そっ、そうかな?」

「ダザリーヌが口を滑らせたと、アヴェロアナが教えてくれました。それに私のことも勘ぐっていますわ。夕食で使った食器を洗っているところを覗こうとしていました」

「え……。覗く? なんで?」

 ヴォルフガングは分かっていない。だが、カレンティアは苦虫を噛み潰したような顔で拳を握りしめた。

(不味いっ……! 厨房に忍び寄っていたのは勘づかれていたわ。けれど、重要な会話を盗み聞けた! 母さん生きている! 結婚指輪のことも!! さっきの会話から推測するに、母さんはレーヴェ家に監禁されているのだわ……!!)

 カレンティアは浴室のカーテンに指を掛ける。緊張で心臓の鼓動が高鳴っていた。

(問い詰めるのはまだ早い。もっと情報を盗み聞きたいわ。気付かれないように覗き見よう。ちょっとだけ隙間を……。気付かれないくらいの細さでいい。私の視線がかろうじて通る狭さで……)

 真っ黒な後ろ髪が見えた。首筋に濡れた長髪が張り付いていた。揺れ動く爆乳の輪郭が背後からありありと突き出ている。

(火傷なんて負ってないじゃない……!!)

 リリトゥナの裸体に火傷の痕はなかった。

 瑞々みずみずしい綺麗な雪肌。うるおいに満ちた美しい皮膚であった。見惚れるほどの妖艶さ。若娘では醸し出せない熟れた色気がある。

 肉付きが柔らかく、デカ尻の下半身は特に顕著だ。デカパイの乳輪は茶黒の染みが大きく広がり、経産婦を物語る色付きになっている。

「――左手の薬指が気になるのでしょうね♥︎」

 リリトゥナは灯りに左手の薬指をかざした。

 まるで観客に見せびらかすような、芝居がかった仰々しい動きだ。肌に刻まれた円環をカレンティアは目撃する。結婚指輪を嵌めていた痕跡があった。

(指輪の痕……! でっ、でも……! 変よ! 説明がつかない! 母さんの指輪をリリトゥナが着けてたっていうの……!?)

 カレンティアはさらにカーテンを開けて、身を乗り出した。

 湯舟に張られたお湯は、水溜まり程度しかなかった。リリトゥナは背を向けており、騎乗位で交わるヴォルフガングの視界は爆乳で遮られている。二人ともセックスに夢中で、死角にいるカレンティアは見えていない。

「はぁっ♥︎ あぁっ♥︎ んぁっ……♥︎ ふふっ♥︎ ヴォルフ坊ちゃんの興奮が伝わってきますわ。本当は嬉しいのでしょう? 今まで頑固に結婚指輪を外さなかったついに捨てたんですもの……♥︎」

「リリトゥナ……! 僕は……! んっ……くぅ……!」

「ご自分の感情を否定なさらないで……♥︎ 御主人様の幸せが下僕の快楽なのですよ……♥︎ ヴォルフ坊ちゃんが最愛の殿方おとこ♥︎ 罪作りですわ♥︎ 未亡人の女心を堕とした責任はお取りくださいませ……♥︎」

「はぁはぁっ……! うぅっ……! うっ……ん……!!」

 ヴォルフガングが男根を突き上げて射精している。

 熟しきった膣穴が若人のオチンポをむさぼった。既に何度も子種を吸ったオマンコは、白濁した淫汁をお漏らししている。淫猥な搾精を目の当たりにし、たカレンティアは茫然自失で立ち尽くしていた。

(嘘だ……! そんなわけないわ……! ありえない……!! だって、母さんは……! 私の母さんが……! 違う! 違う! 違うっ!! 母さんなわけがないっ!!)

 カレンティアは拒絶する。だが、理解してしまった。見覚えがあるのだ。

 幼き日に母親と背中を流しあった。まだ子供だったカレンティアの胸は小ぶりで、母親の乳房は自分の頭よりも大きかった。後ろから見ても乳房の丸みが見えた。

 父親が健在だったころ、歯が生えていない乳児のカレンティアは母親の乳汁を吸っていた。茶色の突起を咥えれば、甘美な白蜜を味わえた。

(嫌だ! 信じたくない……!)

 猛烈な吐き気がする。ヒースウッド修道院に隠居していた母親はいつだって、父親との惚気話を語ってくれた。左手の薬指で輝きを放っていた銀の結婚指輪。それを撫でながら母親は、偉大な父親の英雄譚を懐かしみながら声に乗せた。

「あぁ♥︎ んんぅっ♥︎ んっ♥︎ んぅっ♥︎ んぅっ♥︎ んぅ~♥︎」

 嬌声が浴室に反響する。その声は母親に似ていた。レーヴェ家のメイドは別人の声だった。しかし、今の喘ぎ声はカレンティアの肉親だ。

「はぁ♥︎ ふぅっ♥︎」

 挿入されていたオチンポを優しく引き抜き、湯舟で立ち上がった。股から逆流した精液が逃れ落ちる。乱れていた黒髪を手で束ねて絞る。

「――愛する男女の営みを覗き見だなんて無粋ですわ」

 リリトゥナはセックスを覗き見ていたカレンティアに語り掛けた。

【20話】覗き見

 夕食ではリリトゥナが絶品の手料理を振舞った。

 カレンティアも人並程度の料理はできる。しかし、冒険者の粗野な食事だ。味は悪くないものの、見てくれが悪い。本職のメイドには逆立ちしても勝てない。

 一宿一飯の恩義は、子守りで返すことになっている。姉妹の入浴を手伝い、ついでに自分も長旅の汚れを落とした。レーヴェ家は越冬用の薪と木炭を大量に備蓄していた。井戸から自噴した水を湯釜で沸かし、木製の湯舟に注いでいる。

 湯水を豪勢に使えるのは、荘園の収益が大きいおかげだ。

 燃料代を気にしている様子はない。闇樹館は暖炉の熱を床下に流す暖房構造であるため、火を絶やさなければ建物全体が暖かくなる。

 ダザリーヌとアヴェロアナはそれでも寒いという。だが、他の家で暮らした経験がないからだ。平民の家は鼻水が凍るほど寒くなる。暖房がしっかりしている貴族の家でも、廊下では吐く息が白くなる。

 レーヴェ家の本邸が焼け落ちる前、闇樹館は別邸扱いでほとんど使われていなかったが、とても勿体ないことをしていたとカレンティアは思った。冬の間、これほど居心地がよい家はない。

「――でも、やっぱり変だわ」

 与えられた寝間着で、客間のベッドに寝る。天井を見上げていた。

 ダザリーヌには子供部屋で一緒に寝ようと誘われたが、アヴェロアナに配慮して辞退した。人懐っこい姉と違って、物静かな妹はカレンティアを身内と思っていない。

(夕飯のとき、リリトゥナさんは食事に手を付けなかった。顔に火傷があるから……。でも、素顔を隠してるのは気になる……。両手も……ずっと黒手袋で隠したままだったわ)

 寝転んでいたカレンティアはガバッと起き上がる。ノーブラの爆乳が勢いでこぼれそうになった。胸元を締めて直して、装いを整える。

 すぐに確かめなければ気が済まなかった。

(きっと今頃、浴室はヴォルフガングさんが使っている。一人でお風呂には入れないから、介助でリリトゥナさんも……。入浴中ならあの騎士兜を外す……。左手の薬指も確認できるわ)

 姉妹は子供部屋で寝ている。カレンティアが客室から消えていても不在は悟られない。

(結婚指輪を父さんの墓前に埋めた妊婦は、絶対にリリトゥナさんだわ。その理由は何? なぜ嘘をつくの? ヴォルフガングさんが私に警告したのだって……)

 カレンティアは客間のクローゼットで干されている自分の服を見た。紅茶の色が染みているが、乾ききっている。

(嵐は局所的……。闇樹館から逃げて……。荘園の馬を盗めば……。いいえ、駄目よ。レーヴェ家の若君も怪しいわ。だって、彼は私を見てと言ったのよ。つまり、四年前に失踪した母さんを見てるってことじゃない……!)

 もし母親が何らかの理由でレーヴェ家に囚われていたなら、ここで自分が逃げ出せばどうなるだろう。母親とは二度と会えないかもしれない。

(――覗きに行こう。リリトゥナさんの素顔を見たい。レーヴェ家の秘密……。隠している何かが分かる気がするわ)

 暗闇の廊下を忍び足で歩く。闇樹館の窓枠には遮蔽扉がある。分厚い鉄板が月明りを遮っていた。嵐の雪雲で夜空は覆われているだろうから、カレンティアは最初から月光を当てにしていなかった。

 冒険者がマーキングに使う夜光塗料のペンダントで足元を照らした。螺子ネジを緩めれば塗料の水滴が目印となる。暗がりでは便利な道具だ。今回は液を垂らさずに、ペンダントから放たれる光を頼りに進んでいく。

 脱衣所の扉から明かりが漏れている。ヴォルフガングとリリトゥナは入浴中のようだ。足音を殺しながらカレンティアは扉に近づき、様子を窺うために耳を当てた。

「あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ んぁっ♥︎ あぁっ♥︎ ああぁっ♥︎ んぁああぁぁっ~~♥︎」

 官能的な嬌声を盗み聞いてしまい、カレンティアの頬が赤くなる。予想はしていた。しかし、想像を凌駕する激しい営みが行われている。

 幼い娘達を子供部屋で寝かしているのも、男女の営みを見せたくないからであろう。入浴中のエッチは夜戦の前哨戦に過ぎない。本番のセックスは寝室で行われる。

(さすがに悪い気がしてきたわ……。でも、今なら絶対に裸のはずだわ……。まさかセックス中も騎士兜を装備してるなんてないわよね?)

 カレンティアは脱衣室の扉をゆっくりと開ける。喘ぎ声に加えて、素肌が触れ合う生々しい肉音まで聞こえてきた。

(セックスは浴室でしているようね。これだけ喘いでいるなら、私に気付くわけないわ。車椅子の横に木編みのバスケット……。メイド服と……黒い騎士兜……。黒手袋も外してるわ。――よし、ちょっとだけ覗こう。顔と薬指。それさえ見たら撤退する)

 カレンティアは冒険者パーティーではもっぱら前衛戦闘を担う。斥候役は婚約者のクロヴィスだ。隠密行動は専門外だったが、素人に気付かれる下手は打たない。気配を殺し、脱衣室に侵入した。

 浴室は真っ白なカーテンで囲まれていた。油を塗り込んだ長布は撥水効果を発揮する。

 カーテンが適度に湯気を閉じ込めて、風呂釜から立ち昇る水蒸気でサウナを楽しめる。

 カレンティアは姉妹達と湯を溜めて普通に入浴したが、ヴォルフガングとリリトゥナは半身浴で汗を流していた。蒸し風呂状態の浴室からは性臭が漏れ出している。

(精液の匂い……)

 子種の芳香が鼻孔を刺激する。ヴォルフガングとリリトゥナの入浴はいつも最後だという。風呂にこもった淫行の残り香を娘達に嗅がせないためだ。

「あぁんっ♥︎ んんぅっ♥︎ んぉああぁっ♥︎ あっあぁっぁぁっ~~♥︎ ヴォルフ坊ちゃんっ……♥︎」

 湯舟の波音が荒ぶっている。

 淫猥な雌声で叫び、悶え悦びながら、リリトゥナは陰部を打ち付けていた。

【19話】メイドのお仕事 「ママ」と「お母様」

「ねえ。帝都ってどんなところ? 皇帝陛下ってお金持ち? 十階建ての塔があるって本当?」

 昼食が終わった後、長女のダザリーヌはカレンティアを質問攻めにした。メイド服を着ているので、新しい使用人と思ってしまったようだ。

「皇帝陛下はお金持ちよ。高層建築もあるけど十階建てはないわ。伯爵家の御屋敷でも三階立てよ。それでも手入れが大変だし、階段が多いと暮らしにくいわ。十階建ての建物は教会の塔のことね。大きな鐘楼が吊るしてあるのよ」

 好奇心旺盛なダザリーヌに対して、妹のアヴェロアナは子供部屋の隅で絵本を読んでいる。カレンティアをチラ見するものの、積極的に関わろうとはしない。

 見知らぬ客人を相手に戯れつくダザリーヌは警戒心が無さすぎる。年下のアヴェロアナは大人びて見えた。

(アヴェロアナちゃんは私と似てるわ。白金色の癖毛……。プラチナブロンド……。私も小さい頃は、ああして母さんが買ってきた絵本を読んでたわ)

 物静かなアヴェロアナは、瞳の色までカレンティアと一緒だった。

 事情を知らぬ第三者がカレンティアとアヴェロアナを見たら、歳の離れた姉妹と言うだろう。紫紺髪のダザリーヌよりも血の繋がりを感じさせる。

「ダザリーヌちゃんは四歳なのよね?」

「そうだよー。四歳! 私がお姉ちゃん!」

(ダザリーヌが産まれたのは四年前……。つまり、四年前に失踪した母さんの話は、この子から聞けないわ。三歳のアヴェロアナちゃんは生まれてすら……。子守りで得られる情報はないかも……)

 幼女なら口が軽い。そう思ってカレンティアは子守りを引き受けた。しかし、考えが浅かった。

「玄関先の石畳にお絵描きをしてたのはダザリーヌちゃん?」

「うん! 上手だったでしょ? お父様がいっぱい褒めてくれた! だから、消えるまで残しておいたの」

 あの落書きは上手くなかった。カレンティアは不気味さを覚えた。

 自信家のダザリーヌは己の画才を疑っていない。父親のヴォルフガングは愛娘を褒めて伸ばす教育方針なのだろう。

「どうしてリリトゥナさんのお顔を黒くしてたの? ひょっとして黒騎士のヘルムで顔を隠してるから?」

「――あれはお母様じゃないよ」

 ダザリーヌは首を横に振った。

「あの絵に描かれた女性はメイド服を着てたわ。レーヴェ家には他のメイドさんがいたの……?」

「ママだよ。私はママを描いたの」

「お母様とママは同じでしょ?」

「ううん。違う。一緒だけど同じじゃないわ。ママはママ、お母様はお母様。だから、描いたのは一人だけ。ママとお母様は一人だもん」

「…………?」

「ママとお母様は、お父様が大好きなの。だから、狡いんだよ。私だってお父様と添い寝したい。でも、私達が子供だからダメなんだって! とっても変だと思うの。村長さんから聞いたわ。荘園の家族は一緒で寝るのよ。寒い夜はそうしたほうが暖かいもん。私はアヴェロアナちゃんと寝てる。でも、でも! 人数が多ければ暖かいでしょ!」

 それまで静かだったアヴェロアナが口を挟む。

「ダザリーヌはお姉ちゃん……。レーヴェ家は荘園の家族と違うの。同じ生活じゃダメ……。ママとお母様が言ってた……」

「え~~! 同じ生活でいい~! お父様の寝室には皆で寝られる大きなベッドがあるのにぃ~~!」

 カレンティアは姉妹の会話を黙って聞いていた。二人の間では「ママ」と「お母様」で意味が通じていた。共通認識ができている。

(どういうこと? 「ママ」と「お母様」は一緒なのに同じじゃない……? どういう使い分けをしてるの?)

 考えてもさっぱり分からない。言い方が違うだけだ。しかし、ダザリーヌとアヴェロアナは姉妹なのに似ていない。生母が違うのではないか。燻っていた疑念が強まった。

「もしかして、ダザリーヌちゃんとアヴェロアナちゃんの『ママ』は違う人?」

「正解! アヴェロアナちゃんと私はママが違うの。お母様が一緒! だから姉妹!」

(やっぱり……。この二人はリリトゥナさんの子供じゃないのね。生母ママは別にいる。育ての母親がリリトゥナさんで、なのだわ)

「ダザリーヌお姉ちゃん。外の人にママのことは言っちゃ駄目だって……。お母様……。怒るよ……。家族の秘密……」

「カレンティアはレーヴェ家のメイドなのよ? もう身内だわ。家族よ」

「……そうなの? メイドは……家族かな……?」

 アヴェロアナは納得できていない様子だ。

「ええ。ダザリーヌちゃんの言う通り。闇樹館でお世話になっている間、メイドとして働くつもりよ。使用人と思ってくれていいわ。お嬢様が望むがままに」

「ねえ、カレンティアもママになるの?」

「え? えぇ……!? なっ、なにを言ってるの? 私がママ……!?」

「違うの? だって、カレンティアは応接間でお父様と抱き合ってた。お母様が真っ赤になって怒ってたの見ちゃった。燃えてた! 髪の毛が逆立ってたわ」

「違う! 違う! あれは事故! 事故だったの! 変な勘違いはやめて、私はそういうわけじゃないわ」

「なーんだ。ママになる人じゃないのね。じゃあ、私達の妹になるんだわ!」

 ダザリーヌは突拍子もないことを言いだした。「ママ」と「お母様」だけでも混乱の渦中に陥った。さらに「妹」という不可思議な単語。カレンティアの理解力は周回遅れとなる。

(いもうと……? になるって……なに……!? どういうこと?)

「良かったね。アヴェロアナちゃん! やっとお姉ちゃんになれるよ。私も楽しみ! カレンティアが妹になったら、夜は真ん中に寝かせてあげるわ」

 ダザリーヌはとても嬉しそうだ。

 ところが、アヴェロアナは表情を絵本で隠してしまった。カレンティアとの間に距離を作っている。二人はあまりにも外見が似通っていた。同族嫌悪ではないが、アヴェロアナのほうもカレンティアの瞳色や髪色を気にしているのだ。

 ――夜になったが天候は回復しなかった。

 闇樹館の周囲では昼間以上の風雪が吹き荒れている。カレンティアは姉妹の遊び相手をしながら、嵐が過ぎ去るまで闇樹館に停留を余儀なくされた。

【18話】二度目の警告

 リリトゥナは応接間の窓を開けて、雪遊び中の姉妹に向かって言う。

「ダザリーヌ。アヴェロアナ。早く戻ってきなさい。天気が悪くなってきたわ。お父様が心配なさっているわよ」

 普段のリリトゥナはヴォルフガングを「坊ちゃん」と呼ぶ。だが、娘達の前では「お父様」と敬称を使い分けていた。最初は娘達のこともレーヴェ家の令嬢として他人行儀に呼んでいたが、子育てをするうちにメイドから母親になってしまった。

「平気よ! 寒くないの! お母様! だよね、アヴェロアナちゃん!」

「うん! 寒くはないの。運動してるから平気だね」

「そういう問題じゃありません!!」

 窓から上半身を乗り出した鬼母は、駆け回っている娘を叱りつける。厳つい騎士兜に角が生えている気がした。

「すいません。お見苦しいところを……。レーヴェ家はずっとこんな感じで……」

 ヴォルフガングは肩身をすぼめている。そこまで「怒らなくても……」と思っていそうだ。しかし、娘の子育てを任せている手前、リリトゥナに口出しできないのだろう。

「私は賑やかでいいと思いますよ。ただ……あの……」

 カレンティアは千載一遇の機会を得た。リリトゥナの意識は姉妹に向いている。今なら聞きたいことをヴォルフガングに訊ける。

(聞きたいことは沢山あるわ。五年前に死んだダミエーラが四年前に手紙を送ってきたこと。四年前に母さんがレーヴェ家の荘園を訪ねていること。結婚指輪を父さんの御墓に埋めていったリリトゥナさんのこと……。だけど……!)

 わずかな隙を狙って問う。カレンティアの質問は心中で抱いていたいずれでもなかった。

「――あの姉妹はどちらも実子ですか?」

 姉のダザリーヌは紫紺の髪。妹のアヴェロアナは白金の髪。愛らしく美しい幼女であるが、姉妹にしては顔立ちが異なっている。美形であること除けば、まったく似ていない。

(本当に血の繋がった姉妹……? それだけじゃないわ。父親や母親とも似てない。リリトゥナさんはたぶん黒髪、ヴォルフガングさんは珍しい深緑色……)

 親子でこんな遺伝がありえるのかと疑問を感じた。

「ダザリーヌとアヴェロアナは血の繋がった僕の娘だよ。でも、不思議に思うはずだ。レーヴェ家の娘達は母親と似てしまう。――カレンティアさんは母君にそっくりなんですね」

「え……なぜ……。やっぱり私の母さんを知って……?」

 ヴォルフガングはリリトゥナの様子を窺う。

 まだ気付かれていない。許された時間は、ほんの数秒だ。

「静かに――。これから言うことをよく聞いて。まずは聖剣を探すんだ。取り戻したら闇樹館から逃げて。この嵐は局地的に発生してる。今なら隣町に逃げられる。荘園まで辿り着いたら、馬を盗みなさい。村長に気付かれては駄目だ」

「え……?」

「山道を進むときは境界標の赫石かくせきだけを信じて。絶対に迷う。一歩でも黒森に入ったら、司祭みたいに殺されてしまうよ」

 早口で警告を捲し立てたヴォルフガングは、わざと体勢を崩して車椅子から転げ落ちた。

「ヴォルフ坊ちゃん!」

 異変に気付いたリリトゥナが叫び声をあげた。寒風が吹きこむ窓を開け放ったまま駆けてくる。しかし、身重の身体はとても重たい。すぐには動けなかった。

 ヴォルフガングは床に落ちる気だった。車椅子の高さなら、打ち所が悪くても打撲程度で済む。しかし、上級ランクの冒険者は緊急時、驚くべき速さで行動できてしまう。

「危ないっ!! 大丈夫ですか!?」

 カレンティアは机を飛び越えて、ヴォルフガングの身体を両手で受け止めた。四肢欠損の矮躯は子犬のように軽かった。

「え……。あ、ありがとう。ごめん。カレンティアさんこそ大丈夫……?」

 カレンティアはヴォルフガングを完璧にキャッチした。しかし、ひっくり返った紅茶のティーカップを頭から被ってしまった。生暖かく冷めていたので、火傷は負っていない。しかし、服が濡れてしまった。

(あちゃー。考えなしに助けちゃった。ずぶ濡れだわ……。乾くまでの着替え……。どうしよ)

 紅茶の水分を吸った上衣が胸元にべったりと張り付いた。びしょ濡れの乳袋にブラジャーの色が浮かび上がる。爆乳の谷間では生肌が卑猥に透けてしまった。

「カレンティアさん……。そこを掴むのはちょっと……困るっていうか……」

 もぞもぞとヴォルフガングは身を捩らせる。カレンティアの右手で膨らみができていく。棒状の突起をがっしりと握りしめる。そして、その正体を理解した。

「ご、ごめんなさいっ! 私……その! そういうつもりじゃ……!!」

 カレンティアはヴォルフガングの股間を鷲掴みにしていた。意図せぬハプニングだったが、服越しに男根を感じていたのだ。

「…………」

 無言のリリトゥナが近寄り、ヴォルフガングを奪い取るように抱き上げた。

 応接間に気不味い雰囲気が立ち込める。騎士兜のメイドは表情を見せないが、明らかに怒っている。冷たい睨みがカレンティアを貫く。

(不可抗力……! 本当に事故で……!! で、でも、これならさっきの会話には気付かれてないはずだわ……。不幸中の幸い……? いいえ、なんか違う気がするわ)

 リリトゥナはヴォルフガングを車椅子に座らせると、応接間の窓をぴしゃりと閉めた。

「着替えの服を用意しますわ。カレンティアさんなら私のメイド服でサイズは合うでしょう」

「えっ! いえいえ! すぐ乾きますよ!」

「でも、そのままだと恥ずかしいでしょう」

 リリトゥナはカレンティアの爆乳を指さした。気遣いのできるヴォルフガングは外を見ていた。雪化粧がされていく黒森の並木を無心で数えている。

「ヴォルフ坊ちゃんも困りますし、着替えてください。大丈夫です。お貸しするメイド服は、妊娠してないときに着ていたものですから。今の私は使いませんわ」

 胸元を透けさせたままでいるわけにもいかない。カレンティアはレーヴェ家のメイド服を借りた。ブラジャーまで拝借した。

 予想通り、用意されたメイド服の乳袋はカレンティアの乳房を収納できるサイズだった。胸回りに若干の余裕があった。バストサイズはリリトゥナがほんの少しだけ上回っている。

(――私とお母さん。どっちが大きかったかしら?)

 カレンティアは覚えていなかった。失踪した母親とリリトゥナが同一人物。その可能性は捨てている。だが、妊婦姿でなければ母親と酷似ていた。

 記憶喪失でレーヴェ家のメイドになっている。

 そんな可能性を考える。だが、絶対にありえない。リリトゥナは五年前からレーヴェ家に雇われている。五年前に母親はヒースウッド修道院で暮らしていた。一緒に父親の墓参りへ行っている。

(五年目に私は母さんにクロヴィスを紹介してるのよ。リリトゥナさんは別人……。でも、だったら結婚指輪は? 父さんの墓前に現れた騎士兜の妊婦は別人だっていうの……? 左手に銀の指輪……。そう……。そうだわ……! リリトゥナの薬指を見れば分かる。母さんには結婚指輪の跡があるわ!)

 メイドに変身したカレンティアは闇樹館に留まる。

 ヴォルフガングの警告は気になったが、逃げ出すつもりはなかった。四年前に失踪した母親を見つけ出すまでレーヴェ家を調べると覚悟を決めた。

【17話】一度目の警告

 レーヴェ家に怯えていた行商人の言葉を思い出す。「ヴォルフ坊ちゃんは悪い御人じゃない」と言っていた。あれは単なるお世辞ではなかったようだ。

「カレンティアさんは、ここに来ることは誰かに伝えてきた? 心配してる人がいるんじゃない。さっきの話を聞いている限りだと、まるで飛び出すように旅をしてきたみたいだ」

「手紙を行商人に預けました。帝都の婚約者宛てに。彼は心配してるかもしれませんが大丈夫です」

「そうかな?」

「これでも上級ランクの冒険者です。私の強さは婚約者が一番よく分かってます」

「ここから帝都までは遠い。手紙が届かないかもしれないよ。母君を心配する気持ちは分かる。でも、見知らぬ土地で冬を越すのは……良い考えとは思えない。一度、帝都に戻って春になってから来ればいい」

「えっと……。心配してくださってるのは嬉しいです。でも、もう行商人は町に戻ってしまって……。移動手段がありませんわ」

「荘園にレーヴェ家の馬がある。村長に預けてあるんだ。まだ雪は積もっていない。馬に乗れば行商人を追いかけられる。だから――」

(まさか……。私を追い出したい? 母さんを探されたくないから? やっぱりレーヴェ家は母さんの失踪に絡んでいる。そうに違いないわ。何かある。レーヴェ家の若君は私に嘘を……。何かを誤魔化してるわ……)

 逃げ帰るつもりはない。

 四年前に失踪した母親はレーヴェ家の荘園を訪問している。父親の墓前に結婚指輪を置いていったのはリリトゥナに違いない。何よりも確信しているのは、ヴォルフガングの歯切れの悪い態度だ。

(――母さんを知っている。ヴォルフガングさんは会ったことがあるんだわ)

 ベロニカは闇樹館を訪問しなかった。ヴォルフガングとリリトゥナはそう語る。だが、真実なのかは疑わしい。

「おやおや……。困りましたわね。雪が降ってきました。これから吹雪ふぶきそうですわ。この悪天候ではとても町には戻れない。遭難の危険がありますわ」

 見計らったタイミングで黒森に雪嵐が到来した。強風で運ばれた粉雪が窓にあたる。

「急に降ってきましたね。さっきまでは晴れてたのに……」

 先ほどまでは雲一つない快晴だった。空模様は急変し、太陽が雪雲に覆われた。

「カレンティアさん、天候が回復するまで、闇樹館に留まられたほうがよろしいかと……」

 リリトゥナの申し出はヴォルフガングと正反対だ。それはそれで怪しさが滲んている。しかし、母親のことを探れるかもしれない。

「よろしいのですか?」

「ええ。お客様用の部屋がありますわ。ヴォルフ坊ちゃんの心配も最もですが、この季節に準備もせず強行軍は危険。北方の冬を侮ると命を落としますわ。隣町どころか、荘園に帰るのだって難しいでしょう。ふふふっ……。闇樹館なら安全ですわ」

 リリトゥナは人肌に冷ましたお茶を持ち上げる。ヴォルフガングの口元に近づけ、余計なことを喋らせないようにしていた。

「恐縮です。ご厚意に甘えさせていただきます」

「御客人は滅多に来ません。カレンティアさんを歓迎いたしますわ。ご自分の家だと思ってくつろいでくださいませ」

「ご厄介になる分は働かせてください。リリトゥナさんは身重ですし、色々とお困りでしょう?」

「ええ、そうですわね。たしかに……。困っていたところでしたの。そろそろお腹の子が産まれる。カレンティアさんに手伝ってもらえるなら、とっても心強いですわ」

「娘さんが二人おられますよね? 以前は誰かが出産の手助けを? 荘園の方を呼んでいたのではありませんか」

「いいえ。今まではタイミングが悪く、一人で産んでおりましたわ。でも、腹を痛めている傍らで、ずっとヴォルフ坊ちゃんが励ましてくださいました。優しい言葉を耳元で囁いてくれますのよ……♥︎」

 リリトゥナは喜色満面のご様子だ。紅茶を飲むヴォルフガングは照れ顔で顔を真っ赤にしている。主人と家臣、主従関係で結ばれた男女は、正式な結婚を遂げられない。けれども、深く愛し合っていた。

 母親の失踪事件と絡んでいなければ、カレンティアはレーヴェ家のカップルを応援していただろう。

 カレンティアも身分差の恋愛結婚で生まれた身だ。伯爵家の令嬢だった母親が冒険者と駆け落ちしなければ、カレンティアはこの世に生を受けていない。

(子供……。子供か……。私も帝都に帰ったら、ちゃんと考えよう。クロヴィスと結婚して……家庭を築く……。子育てはきっと大変だわ。だって、私の子供だもの……。母さんだってすごく苦労したはずよ……)

 恋仲の男と交わした言葉を反芻はんすうする。

(セックスしてるとき、言ってくれれば怒らなかったのに……)

 無断で膣内射精をしていたクロヴィスに怒ってしまったが、懐妊したら踏ん切りはついたかもしれない。公私のパートナーと幸せを築く。心の奥底では、クロヴィスの花嫁になることを強く望んでいた。

(どうしちゃったんだろ。私らしくもないわ。もしかすると私……。リリトゥナさんが羨ましいのかしら?)

 応接間の窓から見える景色は、雪で装飾されていった。

 本格的な冬が訪れた。帝国北方で暮らす人々は、暖房を完備した家に籠り、雪解けの季節を待ちわびる。

「見て! 見て! アヴェロアナちゃん! 大きな氷柱つらら! あっちから持ってきたの! 剣みたいでしょ! クリスタルレイピア!」

 風雪を物ともせず、元気いっぱいの幼女が庭で騒いでる。紫紺の長髪には枯葉が引っ付いていた。

「ダザリーヌお姉ちゃん。振り回したら危ないわ。こっちに向けないで……。怖い」

「ごめん! ごめん! でも、綺麗でしょ。アヴェロアナちゃんも持ってみて!」

「つっ、つめたい!」

 氷の冷気に驚いた妹は、姉が持ってきた氷柱を落としてしまった。粉々に砕け散った氷塊を見て笑い声をあげている。

「当たり前でしょ。あはははは。氷は雪よりよも冷たいんだよ」

「え……。そうなの……?」

「うーん。たぶん! だって、雪のほうが冷たくないし、すぐ溶けるから!」

 レーヴェ家の姉妹は仲良く遊んでいる。だが、その様子を応接間から見ていた両親は苦笑いしていた。

「まったくもう。ダザリーヌったら……。いつも適当なことを妹に吹き込むんだから……」

「雪と氷のどっちが冷たいかはさておき、家の中に連れ戻そう。寒くないんだろうね。子供部屋で遊んでいるものだとばかり……。いつの間に外に出て行ったんだい? あんな薄着で……。寒くないのかな」

「申し訳ありません。ヴォルフ坊ちゃん。私のせいですわ。部屋で騒ぐなと叱ったから……」

【16話】レーヴェ家の若君

 レーヴェ家の若君と対面したカレンティアは、深い同情を抱いてしまった。木製の車椅子に乗ったヴォルフガングは、温和な笑顔が似合う青年だった。しかし、両手両足がなく、地を這う芋虫としか表現できない。とても哀れな姿だ。

 両脚は太腿が半分しか残っていない。左腕は短小で、右腕だけは肘先まで残っていた。左右非対称の不具、アンバランスな両腕は五年前に起きてしまった不幸を強く印象付ける。

「――ダミエーラ。懐かしいね。僕が十歳のときだったかな。剣術と馬術を教えるために母上が雇ったんだ。僕は覚えが悪くてね。才能もなかったし……。それでもダミエーラは根気よく教えてくれた」

「じゃあ、ダミエーラさんがレーヴェ家で仕え始めたのは……」

「八年くらい前だよ。当時は知らなかったけど、僕の護衛でもあった。父上はそっちのつもりで雇っていたみたい」

 ヴォルフガングはカレンティアを快く歓迎した。レーヴェ家の領地で冬を越す許しは難なく得られた。

「帝国辺境の田舎だと、どうしても自衛が必要なんだ。レーヴェ家の荘園でも自警団を組んでいる。隣町とは揉め事の火種になっているけれどね。こちらが武器を買い込めば、あちらも……。良くない話だ」

「ダミエーラさんは五年の火事で?」

 カレンティアの質問にヴォルフガングは悲し気にうつむいた。

「申し訳ないことしてしまった。ダミエーラはとても強い女性だった。一人でなら逃げられた。……なのに、僕を助けてくれた。五年前の大火事で僕だけが助かった理由をカレンティアさんは聞いたかな?」

「古井戸に逃げ込んだと聞きました」

「本邸の中庭に古井戸があった。飲み水には使わない。言い伝えがあってね。……本邸が建てられた場所は、黒森の主を崇め祀る神聖な泉があった。古井戸はその名残とされていた。……五年前の夜、押し入ってきた沢山の襲撃者に追い詰められた。退路は火の手で塞がれてた。もう無理だと思った。……ダミエーラは僕を抱きしめて、古井戸に飛び込んだ」

 ヴォルフガングは凍傷で両手両足を失った。しかし、古井戸に逃げ込まなければ襲撃に殺されていた。火の手からも逃げられなかっただろう。

「ダミエーラさんは勇敢に戦われて亡くなられたのですね」

「僕の家族、そして使用人……。襲撃者のほとんども死んでしまった。建物に火を放った人間は、仲間も口封じで殺したかったみたいだ。村長には強く反対されたけれど、本邸の跡地に共同墓地を作ったのは、全ての犠牲者を弔いたかったからなんだ」

「……襲撃者が憎くはないのですか?」

「復讐は望まない。……四年前に隣町の司祭が死んでしまった。僕はそれを喜んではいないよ。亀裂が深まっただけだ」

 行商人が語っていた司祭の異常死。隣町の有力者は自殺と片付けてしまった。その後ろ暗い事情をカレンティアは察する。

(レーヴェ家に賊を差し向け、放火した実行犯は……。隣町の司祭だったのかもしれないわ。帝国の官憲に訴えれば、司祭の罪も明らかになる……。だから……)

 荘園で暮らす村人達は、司祭の死を喜んでいた。自分で頭部を捥ぎ取った死に様を誇らしげに語っている。

「そういうわけでダミエーラは五年前にこの世を去った。カレンティアさんは母親を探していると言っていたけれど……」

「はい。実は四年前、ヒースウッド修道院で隠棲していた母親に手紙が届きました。これをご覧いただけますか。日付がちょっと怪しい手紙で……」

 カレンティアは机にダミエーラの手紙を広げた。四年前に失踪した母親がレーヴェ家の荘園を訪れていること。村長が母親らしき女性を見ていると話した。

(父さんのお墓に結婚指輪が置いてあった話は、まだ秘密にしておこう……。やっぱりリリトゥナさんが気になる。打ち明けるなら、ヴォルフ坊ちゃんが一人のときに聞いてみよう)

 騎士兜で頭部を隠したリリトゥナの顔色は分からない。だが、失踪した母親の話題を持ち出してから、ヴォルフガングに変化があった。しばらく考え込んでから、言葉を選ぶように話し始める。舌先に迷いが生じていた。

「筆跡はダミエーラの手紙に思える。書いてる内容はレーヴェ家の使用人じゃないと知らないことばかりだ。母上は……野心家だったから……。家格を上げるために、良家の令嬢と僕を結婚させる気だった。ダミエーラは辟易してたよ。だって、ベロニカはみぼ――」

 隣に立っていたリリトゥナは、ヴォルフガングの弱々しい言葉を遮り、きっぱりとした語気で塗りつぶしを図った。

「ベロニカさんは闇樹館に来ていませんわ。四年前なら忘れたりいたしません。旧友のお墓参りをされた後、町に戻られたのでしょう。レーヴェ家の荘園は厳冬期になると閉ざされます。そうなる前に帰ったはずですわ」

 すらすらとリリトゥナはまくし立てる。カレンティアは違和感を見逃さなかった。

(主人の言葉を遮った……? 使用人にあるまじき無礼だわ……。いいえ、違う! それよりも、ヴォルフ坊ちゃんのは私の母親を「ベロニカ」と言いかけて……。呼び捨てにしたわ)

 他人の母親を呼び捨てにするだろうか。

(態度がおかしい……。釈然としない)

 不遜な田舎貴族ならあるかもしれない。だが、レーヴェ家の若君は礼節を弁えた好青年。カレンティアの母親に敬称を付けなかったのは不自然だ。カレンティアが抱くヴォルフガングへの第一印象と異なっている。

「カレンティアさんは冬の間、ずっとを探されるつもりかな?」

 ヴォルフガングは言い直した。ベロニカの名前を口にしない。わざとらしい感じだった。

「はい。やっと掴んだ手掛かりです。冒険者組合や帝国軍が捜索に動いたにもかかわらず、この四年間で足取りは掴めていませんでした。やっと母さんの手掛かりを見つけたんです。諦めかけていたけど、母さんは生きている気がしてなりません」

「そう。カレンティアさんは母君を愛しているんだね。きっと生きているはずだ。……ところで、カレンティアさんは冒険者なんだよね?」

「はい」

の影響で?」

 カレンティアは不思議に思った。

 両親が冒険者だったとは説明していない。ダミエーラの手紙を一読しただけで、察したのなら理解が早すぎる。

「まあ、はい。そうです。父さんは三歳の頃に亡くなって、あまり覚えていません。でも、母さんが剣術を教えてくれました。十三歳のときに聖剣を譲り受けました。失踪する一年前だから……」

「ちょうど五年前だね。その聖剣はどこに? カレンティアさんは武器を……持っていないように見える」

「ヴォルフ坊ちゃん。私がお預かりしておりますわ。カレンティアさんは御客人ですが……。それこそ、五年前のようなこともありますので」

「心配し過ぎだね。むしろ娘達が悪戯しないか心配だ。剣をどこにしまったのかな?」

「書斎の金庫に入れておりますわ。カレンティアさんが帰られるとき、お渡しいたします」

「物騒な地域だからね。カレンティアさんも帰路は用心してほしい」

 ヴォルフガングは視線を向けてくる。何かに気付いてほしい。メッセージを伝えるような眼差しだった。

(ひょっとして聖剣の場所を私に教えてくれた……?)

【15話】滅魔の聖剣

 闇樹館の応接間は気品に満ちていた。貴族にありがちな富を誇る家具は置いていない。荘園を保有する裕福な准男爵家だが、帝都の華やかな大貴族と比べれば貧乏な田舎者だ。見栄を張るつもりはないのだろう。だが、領主の威厳は必要だ。

 教養を匂わせる蔵書が本棚に並んでいる。一番目立つのは壁に埋め込まれた絵画だ。レーヴェ家の荘園が描かれている。黄金色に輝くリンゴが実り、人々が笑顔で宴会を催していた。

(……町の人間からは恐れられていても、荘園で暮らす人達はレーヴェ家を慕っていたわ。応接間にこの絵が飾られているんだもの。良好な関係を築いているんだわ)

 カレンティアが絵画に見とれていると、リリトゥナは嬉し気に説明を始める。

「とても素晴らしい絵でしょう。この絵は初代様の時代に描かれたものです。レーヴェ家は黒森の女神を保護し、この地に楽園を築こうとされたのです」

「黒森の女神ですか?」

「荘園の村人から聞いていませんか。精霊や妖精と呼ぶ者達もいますね。ご老人達の世代は、今でも女神と呼んでくださいますが、教会は異教の神を嫌うでしょう? だから、呼び名も気を遣うのです。忌々しいですわ。……あっ、ごめんなさい。カレンティアさんは外の方でしたわね」

「お気になさらず。そこまで宗教に熱心じゃないです」

「それは良かった。腰に下げている長剣……。教会の紋章があるので、てっきり教会の聖徒だとばかり……」

「これは……その……。母方の実家から持ち出した剣です。聖騎士の剣だから、本当は冒険者が振るうようなものじゃないですよね」

「カレンティアさんはヴォルフ坊ちゃんにご挨拶されたいのですよね?」

「はい。それと、母親のこともお聞きしたいわ。行方知れずになった私の母親は、レーヴェ家を訪ねるつもりだったみたいです」

「ヴォルフ坊ちゃんとお会いするなら、その聖剣をお預かりいたします。不愉快とは存じますが、五年前にあのようなことが起きてしまいました。どうかご理解ください」

 リリトゥナはカレンティアに聖剣を渡すように求めた。話の流れはおかしくない。

 外からやってきた人間が武装しているのだ。レーヴェ家は野盗に襲われて大勢が殺された。五年前の惨劇は、隣町の有力者が企んだ悪事と思われている。

(ここで渡さなかったら警戒される……か……。上手い言い訳も見つからないわ。それに、幼い娘達がいて、リリトゥナさんは身重の妊婦……。レーヴェ家の若君は四肢欠損の不具を患った身……)

 館内で凶器を携帯したがるほうが怪しい。

「お預けしますわ。母親から受け継いだ大切な聖剣です。扱いには気を付けてください」

「承知いたしました。娘達の手が届かないところに保管いたします。……ヴォルフ坊ちゃんを連れてまいりますわ」

 リリトゥナは聖剣を受け取る。その両手は漆黒色のロンググローブで覆われていた。

「リリトゥナさんはいつも手袋をしているのですか?」

「はい。水仕事以外ではそうですね。両手にも火傷があります。気になりますか? ご覧になられますか?」

 そんな刺々しい言われ方をされて、「はい。見たいです」と言うのは常識を弁えぬ変人だ。カレンティアは首を横に振った。

「いえ……。失礼な質問でした。ごめんなさい」

 カレンティアが確認したかったのは、リリトゥナの左手だ。声以外は母親とそっくりの体型。左手の薬指を見れば確信を持てる。およそ三十年も結婚指輪を嵌めていた母親の指には、跡が残っているはずだ。

(別人だわ。髪の色も違う。母さんはプラチナブロンド色。リリトゥナさんは黒髪……。だけど、見えているのは地毛? 騎士兜の着鬘ウィッグだったら……)

 リリトゥナの後ろ姿は、母親と瓜二つだ。一つだけ違うのは、真っ黒な後ろ髪だけ。歩き方もそっくりだった。

「リリトゥナさん……っ!」

 応接間から出ていくリリトゥナを呼び止める。

「つい最近、遠くに出かけたことはありませんか?」

「遠くに? いいえ。そんなのありえませんわ。私はヴォルフ坊ちゃんのお世話をしなければなりませんし、娘達も小さいのですよ? この五年間、レーヴェ家の領地から離れたことは一度もないですわ」

 ◆ ◆ ◆

 応接間の扉が静かに閉まった。

 廊下で立ち尽くす妊婦メイドは、懐かしい聖剣を抱きしめてしまった。伯爵令嬢が実家の宝物庫から盗んだ騎士剣。夫の遺志を受け継いだ娘に託した愛剣。

 ――ベロニカの半生が聖剣には宿っている。

「…………」

 どれほどの時間、聖剣を抱いていただろう。

 胸が締め付けられる。結婚指輪を夫の墓前に供えたときもそうだった。しかし、最後には決断した。己の半生に別れを告げる。

? それとも?」

 子供部屋から出てきたダザリーヌが問いかけた。聖剣を抱擁したまま、突っ立っていたメイドを心配している。

「ダザリーヌ。この剣を森に捨ててきなさい。できますね?」

 メイドは今の自分が何者かを明らかにせず、ダザリーヌに伯爵家の聖剣を押し付ける。長剣を抱えた重みでダザリーヌがよろけた。

「分かった。言われた通りにする。捨ててくるね」

「森の奥深く……。見つからないくらい遠くへ……。お願いしますね」

「うん……!」

 ダザリーヌが聖剣を持って元気よく駆けていった。

 姉が黒森に出ていくところを妹のアヴェロアナは、子供部屋の窓から覗き見ていた。三歳児の両目から涙がポロポロと流れこぼれていく。悔悟と悲哀のつゆで、プラチナブロンドの艶髪が湿っていた。

【14話】レーヴェ家の使用人リリトゥナ

 カレンティアは村長の家で一晩を過ごし、レーヴェ家の当主とメイドが暮らす闇樹館に赴いた。

 帝国北方の厳冬をレーヴェ家の荘園で越すことになる。その許しを得るための挨拶だ。しかし、本当の目的はこの地で消息を絶った母親ベロニカについて探るつもりだった。

(もう後戻りはできないわ。行商人は今日の昼には町に戻る。もう雪が降り始めているわ。徒歩で町には帰れそうにない。……帝都のクロヴィスに会えるのは来春ね。心配してるかな。まあ、でも、手紙は行商人に預けたわ)

 荘園に連れてきてくれた行商人にクロヴィス宛ての手紙を渡してある。だが、カレンティアの手紙は帝都に届かない。

 行商人はレーヴェ家に屈服していた。隣町の司祭が自殺した四年前、反抗心をへし折られた。行商人はレーヴェ家に歯向かえない。

 カレンティアは自分が窮地に立たされているとも知らず、レーヴェ家の縄張りに取り残された。

(ここが闇樹館。たしかに不気味な雰囲気だわ。人里離れた森の中に佇む真っ黒な御屋敷……。ペンキの色じゃないわ。建材の表面を焼き焦がしてる……? いいえ、黒檀こくたんというヤツかしら? 木目が漆黒で染まっている……)

 石畳が敷かれた玄関先で、お絵描きの跡を見つけた。幼い子供が白亜墨チョークで色々な絵を描いている。

(私も小さかった頃は白亜墨チョークで、石床に落書きをしてたわ。当主のヴォルフガングには小さな娘が二人いる。描いたのはきっと娘達ね)

 微笑ましい気持ちで落書きを鑑賞していたカレンティアは、不自然な絵を見つけた。闇樹館で暮らすレーヴェ家を描いた子供達の落書き。車椅子に乗った青年、その周りで遊ぶ二人の少女。ここまでは何もおかしくない。

 四肢を欠損した父親、幼い娘達であろう。そして、奇妙なメイドが描かれている。

「え? なに、これ……?」

 不気味な姿のメイドが描かれていた。顔面が炭で塗りつぶされ、どす黒い黒点が空いている。ヴォルフガングや二人の娘は、下手くそであるが口や目がある。楽し気に笑っている。なのに、メイドの貌は潰れていた。

 白亜墨チョークで落書きしているくせに、わざわざメイドの頭部を炭で執拗に押し潰している。娘達はメイドを嫌っているのだろうか。そんな勘ぐりをしてしまう。

(メイドの顔がない……。気味が悪いわ)

 所詮は子供が遊びで書いた絵だ。メイドの面貌かおを上手に描けなくて塗りつぶしたのだろう。

「…………」

 カレンティアは口をつぐみ、押し黙る。闇樹館が醸し出す異様な空気に寒気を覚えた。行商人がこの古びた館に近づこうとしない理由が分かった。

 玄関に備えられた真鍮製のドアノッカーで扉を叩いた。

「――ごめんください」

 しばらくすると足音が聞こえてきた。館内の廊下を誰かが小走りで駆けてきている。

「どなたですか?」

 扉の向こうから誰何すいかの声が聞こえた。大人びた女性の声である。レーヴェ家に仕えるメイドであろう。

(母さんの声じゃないわ……)

 失踪した母親の声は忘れていない。たとえ四年以上、会っていないとしても唯一の肉親だ。

 カレンティアは胸を撫で下ろす。メイドの声は母親とは別人。旅の道中で抱いていた嫌な予感は外れた。

(あぁ……よかった……。変なことを考えていたわ。ずっと……)

 見当違いの妄想だった。失踪した母親が帝国辺境でメイドになっているなど、絶対にありえない。ましてや今年で四十四歳の母親が、レーヴェ家の若君と子作りしているなんて現実味に欠けている。

「私は旅の者です。帝都で冒険者をしているカレンティアと申しますわ。先日、行商人の案内でレーヴェ家の荘園に来ました。冬をこの地で過ごそうと思っています。そのご挨拶で参りました」

「帝都の冒険者様でございましたか……。道のり厳しき中、よくぞお越しくださいました。しかし、なぜ北方の奥地に? 当家は冒険者組合に依頼を出しておりませんが……?」

「個人的な目的で旅をしています。四年前に私の母親が行方不明になりました。ヒースウッド修道院で隠棲していたのですが、友人のダミエーラさんに招かれて、レーヴェ家の荘園を訪れているはずです。私は母親を探しています。レーヴェ家の方々からもお話を聞かせてもらえませんか」

「母君を探して、帝都からいらしたのですね。それはお気の毒に……。少々、お待ちくださいませ。玄関を開けますわ」

 施錠を解除する金属音が聞こえた。闇樹館の玄関扉が開かれる。

「――どうぞ、お入りください。私はレーヴェ家の使用人リリトゥナと申しますわ」

 出迎えてくれたメイドはリリトゥナと名乗った。黒色基調のメイド服を優雅に着こなしている。純白のエプロンドレスが美しく引き立っていた。だが、視線を集めるのは彼女の体型であろう。

(このメイド……妊娠しているわ……)

 膨らんだ孕み腹を包み込むため、メイド服の寸法を手縫いで調整している。出産が間近に迫っていると素人目でも分かる。ボテっとした臨月の丸みが、前部に飛び出していた。

 ひときわ目立つ媚体的特徴は、母性愛の強さを象徴する爆乳だ。はち切れんばかりに胸部の布地が張っている。これほどの巨峰は、なかなかお目にかかれない。

 カレンティアは唾を飲み込む。豊満を極めた乳房は母親の体躯と一致している。娘である自分にも受け継がれた爆乳の遺伝子。リリトゥナと名乗るメイドのデカパイは、カレンティアの美乳と形状が酷似していた。

「お見苦しい姿で申し訳ありません。五年前の大火事で顔面に火傷を負ってしまったのです。とても御客人に素顔を見せるわけにはできない醜女しこめなものですから……。どうかご容赦くださいませ」

 リリトゥナは素顔を騎士兜で隠していた。体型に意識が向いていたカレンティアは、黒騎士のフルヘルムを装着したメイドの異様な装いに気付くのが遅れた。

(厳つい騎士兜……。臨月の妊婦……。奇天烈な格好だわ……。間違いない。父さんのお墓に結婚指輪を埋めていったのは、レーヴェ家のメイドだわ)

 カレンティアは確信する。この世にこんな格好の妊婦が二人もいるわけがない。四年前に失踪した母親の結婚指輪をレーヴェ家は入手した。これは揺るぎない事実となった。

「そうなのですね。リリトゥナさんは五年前からずっとレーヴェ家で? その……若君のヴォルフガング様にお仕えしているのですよね?」

「五年前からずっとヴォルフ坊ちゃんと暮らしておりますわ。周知の事実ですので、隠しもいたしませんが、女としての幸せも享受しておりますわ。……ああ、それと、靴は脱いでいただけますか。そちらの棚にある上靴スリッパをお使いになって」

 闇樹館は土足厳禁だ。玄関のシューズボックスには成人女性と女児の外靴があった。

 両脚がないレーヴェ家の若君は靴を使わない。その代わり、車椅子の車輪に付着した土汚れを布巾が置いてある。

「こちらですわ。応接間にご案内いたします」

 リリトゥナの後ろをついていく。カレンティアの耳にドタバタと騒がしい生活音が入ってくる。廊下の奥から楽し気な幼女達の声が聞こえた。

「……申し訳ありません。ここでお待ちになってください」

 リリトゥナは小走りで駆けていき、子供部屋の扉を強めに叩いた。

「ダザリーヌ! アヴェロアナ! もっと静かに遊びなさい。声が廊下にまで聞こえていますよ」

 騒がしい声を発していた子供部屋は静まり返った。それに満足したリリトゥナは、カレンティアのところに戻ってくる。

「リリトゥナさんの娘さん達ですか?」

「レーヴェ家の娘ですわ」

「リリトゥナさんが母君では?」

「ええ。産みの母は私です……。しかし、私はメイド。あくまで使用人ですわ。ヴォルフ坊ちゃんのご厚意に付け込んで、奥方の地位をせしめるつもりはありません」

【13話】ニアミスの母娘、木陰に隠れて密姦 

 荘園に到着したカレンティアは、さっそく聞き込みを始めた。

 まずは四年前にレーヴェ村を訪問したはずの母親について訊ねる。すると、あっけないほど簡単に目撃者に辿り着いた。行商人に寝泊まりの部屋を貸している村長が知っていた。カレンティアは村長から情報を聞きだした。

 ――四年前にレーヴェ家の使用人を訪ねてきた夫人でしょ。前年の大火事を知らなかったみたいで、とても驚いていたね。だから、本邸があった場所と、ヴォルフ坊ちゃんが暮らしてる闇樹館について教えた。特徴がある夫人だったからよく覚えてるよ。もしかして嬢ちゃんは娘さん? 白金色の髪といい、そっくりの美人だね。発育が良くて羨ましいよ。

 発育の良さ。要するに爆乳で母娘関係を見破られてしまった。ちょっと複雑な気持ちだったが、言っている村長に嫌味はない。レーヴェ家の荘園を任されている村長は女性だった。

 本心で称賛している。素直に誉め言葉を受け入れた。

 カレンティアは次に母親の結婚指輪を見せて訊ねてみた。

 ――あの夫人はそれと似たような銀の指輪を嵌めてたね。高そうな代物だったし、外しておくか、手袋で隠すのを勧めたよ。物騒な世の中だからね。四年前は隣町から自警団とやらが入り込んでいたし、変な聖職者も無断で黒森に入り込んでたんだ。ここでの掟は行商人から聞いてる? 絶対に守らなきゃいけないルールだよ。破ったら死ぬ。冗談抜きで。町の連中は死んだ。

 無断で闇森を出入りしていた隣町の司祭が自殺した。その話を行商人から聞かされたと答えた。

 ――いいね。上出来だ。あの胡散臭い聖職者はやばい死に方したんだろ。おかげで町の馬鹿どもが近寄らなくなって大助かりさね。行商人達も聞き分けがよくなった。良いこと尽くめさ。

 荘園の人間からすれば、教会の司祭は怪しげな宣教師に見えるのだ。帝都から離れるほど、教会の力は弱まっていく。レーヴェ家の荘園は異教徒の牙城であった。

 帝国では信仰の自由が認められている。大昔と違って教会に恭順しないからといって罰せられたりはしない。

 ――じゃあ、嬢ちゃんも墓参り? 本邸に犠牲者の共同墓地がある。大火事で焼けちまってね。どれが誰の骨か分からなかったんだ。私達は弔いすら満足にできなかった。

 カレンティアは「ダミエーラ」の名前を出してみる。

 母親を手紙で呼び出した旧友。しかし、五年前の火事で死んでいるなら、誰かが成りすまして手紙を送ってきたことになる。

 ――ダミエーラさんか。よく知ってる。いい家庭教師だったよ。ヴォルフ坊ちゃんに剣術と馬術を教えてた。最期まで……とても立派な女性だった。

 やはりダミエーラは五年前の火事で死んでいた。

 ――レーヴェ家が野盗に襲撃されたとき、ダミエーラさんは反撃したんだ。卑怯な賊は油を巻いて放火した。私らが助けに向かったときには、火の勢いが強くてどうしようもなかった。

 火が屋敷を燃やし尽くし、焼け跡から遺体を探しているとき、古井戸に逃げ込んだヴォルフガングが救助された。真冬の井戸水に一日浸かっていたせいで、手足を失う重度の凍傷を負った。

 ――生き残ったのは奇跡だ。黒森の守り神がレーヴェ家の跡取りを守った。あんな痛々しいお姿になっても、ヴォルフ坊ちゃんは頑張ってる。だから、私らも荘園を発展させるために頑張るんだ。

 町の人間からすれば悪霊。しかし、荘園の人間からすれば守り神。共通点は超常の存在であること。

 ――ヴォルフ坊ちゃんが暮らしてる闇樹館に行きたい? 嬢ちゃんは冒険者なんだって? 冒険譚を披露してくれるなら、歓迎されるかもしれないね。口添えはできないよ。レーヴェ家のメイドが入れてくれなきゃ、素直に諦めて戻ってきな。

 カレンティアはレーヴェ家のメイドについて聞いてみる。

 ――メイドは一人だけ。リリトゥナさんだ。レーヴェ家の火事で生き残ったけれど、顔に大火傷を負った。いつも素顔を隠してる。見られたくないんだろうね。だから、私らも顔を知らないんだ。

 五年前の大火事でレーヴェ家の使用人は全員亡くなったと聞いていた。カレンティアは問いかけてみる。

 ――五年前はまだ使用人じゃなかった。働き口を探して、レーヴェ家で面接を受けてた。家督を継いだヴォルフ坊ちゃんが、メイドとして正式に雇った。闇樹館を仕切っているのはリリトゥナさんだ。あの人の機嫌を損ねないようにすることだね。町の人間を私ら以上に嫌ってる。

 村長の話を聞き終えたカレンティアは、まずレーヴェ家の本邸跡地に向かった。大火事が起きた現場を自分の目で確かめようとした。村の人間達は慰霊以外で近づかないという。

 生活圏と黒森の境界が曖昧な場所だからだ。禁域に踏み込めば呪われる。荘園に住む人間達は、黒森の神を信仰している。レーヴェ家の当主は宗教的指導者でもあった。

「母さんに手紙を出したのは誰なのかしら……」

 カレンティアは石積みの共同墓地に祈りを捧げる。

 ダミエーラが眠っているであろう場所。きっと四年前に母親のベロニカもここを訪れていたはずだ。

「……? これ……。足跡がある。真新しいわ。それと車輪の跡……」

 板石が積まれた共同墓地には先客の痕跡が残されていた。

(これって二輪の荷車かしら……)

 車輪のわだちは黒森に続いている。

(もしかして車椅子? 両手両足を失ったレーヴェ家の当主がメイドと来ていたのかも……。両親が眠っているお墓だもの。通っていても不思議じゃないわ)

 カレンティアは車椅子の跡を追う。だが、足を止めた。

「ここから先は黒森の領域……。立ち入り禁止だわ」

 足元に赤黒い石があった。真っ赤なペンキで警戒色を塗りたくっている。

(どうしよう。調べたい。でも、危険な気がするわ。……誰かに見られている? 視線を感じるわ。どこから……? 気配を隠すのが上手い)

 この先に進めば禁域に足を踏み入れてしまう。行商人や村長から言いつけられた絶対遵守の掟。レーヴェ家の許しを得ず、無断で入れば悪霊に呪い殺される。

(私には聖剣がある。黒森の悪霊は恐ろしくない。でも……やっと母さんの手がかりを掴めた。焦って揉め事を起こすのは良くないわ。レーヴェ家の当主には明日、会いに行けばいいわ)

 カレンティアは黒森に背を向けた。身を翻し、引き返していく。車輪の行方を追いたい気持ちはあった。しかし、自制心が働いた。郷に入っては郷に従えだ。

(私の目的は母さんを探すこと。それを第一に考えなきゃ……。レーヴェ家と町の揉め事にだって、首を突っ込むべきじゃないわ。もっと情報を集めよう)

 カレンティアは空を見上げる。粉雪が降り始めていた。地面に落ちた雪はすぐに溶けていく。まだ積もりそうにはない。だが時間の問題だ。

(今年の冬はここで過ごすことになるわね。クロヴィスに手紙を書こう。行商人に預けて、紹介経由で帝都に届けてもらえばいいわ。クロヴィスは心配してるかな。でも、行方不明の母さんをやっと見つけられそうな気がするの……)

 この時、カレンティアは夢にも思っていなかった。

 四年もの間、探し続けていた母親はすぐ近くに潜んでいた。どこから感じていた気配の正体は、木陰で淫行中のベロニカの視線だった。

 ◆ ◆ ◆

 真っ赤な境界石を越えて十数歩、歴史を感じさせる大樹の裏で、ベロニカは安堵していた。

「……どこかに行った?」

 車椅子に座ったヴォルフガングからは何も見えない。視界のほとんどがベロニカの爆乳で遮られている。

「引き返していきました。荘園がある村に帰っていきますわ」

「よかったよ。こんなところ、見られたくないもんね。僕も……なんて言えばいいか分からないし……」

 ヴォルフガングは苦笑いする。極度の緊張で萎えると思いきや、オチンポはいきり勃ってしまった。ベロニカのオマンコも敏感になっている。

「驚きで腰が抜けそうですわ……。どうして娘が……カレンティアがレーヴェ家の本邸跡地に……」

「ベロニカの娘さんで間違いなさそう?」

「はい。娘の顔を忘れはしませんわ。それに、あれは伯爵家の聖剣……。私が冒険者だったころ、使っていた愛剣ですわ」

「駆け落ちしたとき、実家から盗んだっていう剣?」

「恥ずかしながらその通りですわ」

「破天荒でいいと思うけどね。でも、どうしよう? ベロニカを探しに来たんじゃない?」

「見つかるわけにはいきませんわ。私はもう……あの子とは会えない……。母親失格ですもの……。この姿を見せたらカレンティアの心を傷つけてしまう」

「話し合えば分かってくれないかな。僕も真摯に話すよ。ベロニカは浮気してるわけじゃない。未亡人の再婚は教会でも禁じられてはいないんでしょ? こうなった責任は僕にある。結婚すれば、娘さんも認めてくれないかな?」

 ベロニカの孕み腹は隠しようがない。大きく膨らみ、遠目からでも妊婦と分かる。

「子供を産んだことや妊娠は……時間をかけて話せば分かってくれるかもしれませんわ。カレンティアも大人だから……。けれど、頭部を失っているのは……」

「そうだった。不味いよね。かおがないのは……」

「はい。誤魔化せませんわ。カレンティアは中級ランクの冒険者ですの。四年前から上級に昇格しているかも」

 ベロニカは頭部を失った異形者だ。討伐対象にされる恐れがあった。

「ベロニカ……。娘さんを早く逃がしたほうがいいよ。リリトゥナに知られたら……。僕とベロニカは子供をもう産まないつもりだけど、リリトゥナは違う考えを持ってる」

 ヴォルフガングはベロニカのボテ腹を抱きしめる。

「…………」

「ベロニカ? 聞いてる? リリトゥナが知ったら娘さんを……贄に……し……」

 ヴォルフガングは唾を呑み込む。喪失した両手両足が熱を宿した。存在しないはずの手足が燃えている。リリトゥナが顕現する前兆だった。

 ベロニカは両手で騎士兜を掴み、荒々しく一回転させる。

「――ヴォルフ坊ちゃんはお優しいですね。でも、私に隠し事はいけませんわ」

 声が違う。別人の声。大きく異なるが、大人びた色っぽさはベロニカと同じだった。

「村長が報告に来ました。行商人が不審な冒険者を連れてきたと……。ベロニカの娘だとか……。実に好都合♥︎ お喜びください。ヴォルフ坊ちゃん……♥︎ これで三人目が産めますわ」

【12話】夫とはしなかった青姦

 ベロニカはヴォルフガングが腰掛ける車椅子に跨った。慣れた手つきベルトを緩め、勃起したオチンポを取り出した。挿入の瞬間は、いつだって心臓が高鳴る。

「ドキドキするね。外でセックスするのは初めだ」

「私もですわ♥︎ あぁっ♥︎ んぅっ♥︎」

「旦那さんとはしなかったの?」

「はいっ♥︎ こんな淫行っ♥︎ 夫とは絶対しなかった……♥︎ 野外セックスはヴォルフ坊ちゃんが初めてぇっ♥︎ んぅっ♥︎」

 よだれを垂らしたオマンコがオチンポに近づき、捕食するように呑み込んだ。車椅子にベロニカの体重が加わり、柔らかな土の地面に車輪が沈む。どちらも激しくは動けない。だが、青姦の緊張感が肉悦を高ぶらせた。

(ヴォルフ坊ちゃんのオチンポ……♥︎ 暖かい……♥︎)

 そよ風が小枝を揺らすテンポで、ベロニカは腰を揺らしている。両手は大樹の幹に押し当て、ゆるやかなスローセックスを堪能した。

(私がこんなに愛に飢えていたなんて……♥︎ ヒースウッド修道院で慎ましく暮らしてたときは分からなかったわ。過ぎ去った夫との思い出……。帝都で活躍している娘から届く報せ……。ちょっと煩わしかった父様や兄様の手紙……。年の一度のお墓参り……。それだけで十分に幸せだと信じていたのにぃ……♥︎)

 お互いが依存し、愛を紡ぎ合う。子を成したという強い繋がりをさらに太くする。

「結婚指輪を外してから、ベロニカは積極的になったね」

 ベロニカの爆乳とボテ腹を押し当てられて、ヴォルフガングは嬉しそうだった。力強い胎動を放っている。両親のセックスを胎児も愉しんでいた。

 産まれてくることはない子供。けれど、我が子に強い父性愛を抱く。愛する女性が孕んだ可愛い子供なのだ。

「この地で暮らすと決めましたから……♥︎ 腹を痛めて産んだ娘のためにも……♥︎」

「ありがとう。ベロニカ。これからもよろしく」

「はいっ♥︎ 愛しい御主人様……♥︎」

 もし面貌を失っていなければキスをしていた。ベロニカは頭部の代わりに据えている騎士兜が、ほんのちょっぴりだけ疎ましくなる。

 首無しの身体は不自由が多い。けれど、四肢欠損のヴォルフガングに比べれば自由である。少なくとも両足を使って歩ける。両手を使って物を掴めるのだ。

「はんぅっ♥︎ はぅっ♥︎ んぅっ~~……♥︎」

 近くに人間はいない。そう分かっていても嬌声は抑えめになる。

「はぁはぁっ♥︎ んんうっ♥︎ んぅうっ♥︎ んぁっ♥︎」

 ミニスカートがふわりと浮かび、白黒の生地がひらめいた。

「あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ ああぁっん~~♥︎」

 上下に跳ねるピストン運動で、白肌のデカ尻が垣間見える。幸いにして黒森で野外セックスに興じる男女を覗く者はいない。

(そろそろかしら♥︎ ふふっ♥︎ オチンポの動きで分かってしまうわ♥︎ ヴォルフ坊ちゃんが射精する♥︎ お召し物を汚さないように一滴残らず、オマンコで飲み干さなきゃ……♥︎)

 膣の締まりがきつくなる。ヴォルフガングはベロニカの孕み腹をぎゅっと抱きしめた。

 まるで母親に甘える息子だ。

 レーヴェ家の坊ちゃんは五年前に死んでしまった家族が恋しかった。家督を継ぎ、荘園の主として独り立ちしても、甘えたくなる瞬間がある。

(私の膣内なかに精子を出してる……っ♥︎ 私もイくっ♥︎ ヴォルフ坊ちゃんに抱かれて♥︎ 恋しいのですよね……? 分かりますわ。先立たれた家族への想い……。私も最愛の人を亡くしたから……)

 情愛が混じった吐息を漏らす。首無しのメイドに口はない。だが、騎士兜から白く煙る息が咲いた。北方辺境の冬風ですら、熟女の淫熱を冷ますことは不可能だ。惚れ込んだ若い青年に熱を上げる。

(あぁ……♥︎ やっぱり……♥︎ そうなのだわ……♥︎ 否定の余地が消えていく……♥︎ 私にとって最愛の人はもう……♥︎ ごめんなさいっ♥︎ あなたぁっ♥︎ ごめんなさぃっ♥︎ 私はこの子にっ♥︎ 女心がうつろってしまった……♥︎)

 大樹に押し当てている両手を見詰める。視点は左手の薬指に吸い寄せられた。かつては銀色の結婚指輪が輝いていた。最愛の男と過ごした幸せな日々が記憶の結晶。夫婦愛の象徴がまばゆときめき、言い寄る男どもを追い払った。

 ――だが、ベロニカは結婚指輪を夫の墓に埋めた。

(ヴォルフ坊ちゃん♥︎ 私のぉ……♥︎ 最愛の男……♥︎ いまっ♥︎ 私の心は……もぅ……♥︎ ヴォルフ坊ちゃんが好きっ……♥︎ 北方の辺境で、新しい家族と暮らす、この穏やかな生活を愛しているっ……♥︎)

 ベロニカが両脚に込めていた力が緩んでいった。突っ張っていた左右の腕が枝垂れ落ちる。妊婦の全体重が車椅子に加わり、背もたれが少し傾いた。

「あぁっ♥︎ あぁっ……♥︎」

 脱力状態のベロニカは色っぽく呻いている。ヴォルフガングは優しく寄り添った。欠損した腕で抱擁し、包み込んだ。膣道に収まった男根が降りてきた子宮を支える。

「ヴォルフ坊ちゃん……。もうしばらく……こうしていて……よろしいですか……? ひとつにっ。繋がっていたいの……」

「もちろん。いいよ。僕もベロニカを抱きしめていたい。温もりを感じる。暖かいよ。とっても暖かい。ずっとこうしていられたら、そう思ってしまうよ」

「……♥︎」

 静かに頷く。厳つい騎士兜が愛らしく見えた。

 ベロニカもヴォルフガングに甘えているのだ。もはや未亡人ではなく、レーヴェ家の使用人なのだから。若年の御主人様に喉を鳴らし、すり寄ってしまう。

(私は幸せ……♥︎ 永久に幸福が続けばいい♥︎ 誰にだって悪業はある。たとえレーヴェ家に罪があろうとも、報いなんて……来なくていい……♥︎)

 愛の交わりは一時間ほど続いた。

 日が傾き、そろそろ闇樹館に戻らねばならない時間帯になった。名残惜しい。しかし、夜になっても戻らなければが探しに来る。

「――坊ちゃん。お静かに」

 ベロニカのオマンコにはまだオチンポが突き刺さっている。上半身を傾けて、木陰から本邸の焼け跡をうかがった。

「どうしたの?」

「足音が聞こえましたわ。誰かが枝を踏んだ音が……。本邸の焼け跡に誰かがいますわ」

「僕ら探しに来たのかな? 散歩にしては長引いちゃった」

「いいえ。じゃありませんわ。村の人間でもなさそう……。ここからだと後ろ姿しか見えませんけれど……。あの髪色……。荘園では見かけない女ですわ」

「じゃあ、隣町の商人さんかな? 村長が木炭と岩塩を注文したから、そろそろ荘園に届くはずなんだ」

「だとしたら、商人の護衛か、用心棒でしょうか……? あの女は長剣を腰に下げていますわ。護身用にしては武装が凝ってますわね。それに使い込まれて……。立ち振る舞いも……。……え……うそ……?」

「どうしたの、ベロニカ?」

「そんな……。あの聖剣は伯爵家の……! どうして……? あそこにいるのは……カレンティア……!」