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【11話】ヴォルフ坊ちゃんとベロニカのお散歩デート

 レーヴェ家が治める荘園では絶対遵守の掟があった。

 黒森に無断で入ってはならない。当主の許しがなければ黒森は人間に牙を向ける。黒森との境界線には赤黒い石が置かれていた。目印の境界標を越えた先は禁域だ。

「もうじき冬が来るね。こうして外を散策できるのは今日が最後かも」

 車椅子に揺られながら、ヴォルフガングは黒森の風景を眺める。

 常緑樹は冬季も葉を広げて太陽光を吸う。未開拓の森では暗がりが広がり、生き物の気配は感じられない。

 冬の備えで野生動物も巣穴に籠っているのだろう。この地で暮らす人々と同じだ。

 レーヴェ村も越冬の準備を進めていた。晩生種の収穫も終わり、荘園で育ったリンゴは貯蔵庫の雪室で熟成し、春先に出荷される。

「本邸の跡地まで行きますか?」

 ベロニカは車椅子の手押しハンドルを握っている。乳袋付きのメイド服が豊満な爆乳を覆う。重たげな乳房はゆらりゆらりとたわむ。母性を強調する肉付きの極みは、堂々たる臨月のボテ腹だ。

「うん。お願い。本邸の焼け跡に村人は近づかないだろうし……。父上と母上、火事で亡くなった使用人達のお墓参りをしよう。ちょっと遠出しよう。ベロニカは大丈夫?」

 ヴォルフガングは身重のベロニカを気遣う。

「よい運動になりますよ。旅の間もお腹の赤ちゃんは大人しかったですわ。こんな母親を労わってくれている優しい子なのです。ふふっ……♥︎ 父親似かしら? きっと私みたいな親不孝者ではないでしょう」

「ベロニカは……。お腹の赤ちゃんを産みたい?」

「私は……。産まないつもりです」

「そっか。そうだよね」

 ヴォルフガングは頷いた。不満はなく、むしろ納得している様子だった。

「お優しいヴォルフ坊ちゃんも、それを望まているのですよね」

「うん……。僕は誰かを犠牲にしたくない。荘園の生活を守るために、仕方のない側面はあるけれど……。もう僕らには元気がありあまっている娘がいる。今の幸せだけで十分じゃないか……。他人の不幸を僕は望まない」

「はい……。それでよろしいと思いますわ」

「それにさ。僕の世話だけでも大変なのに、子育てまでするのは苦労が多いでしょ」

 そう言うものの、娘達の教育をメイドに任せっきりにはしていない。ヴォルフガングは娘達を書斎に呼び、文字の読み書きを教えている。

「賑やかで楽しいですわ。昔を思い出しますもの」

「…………。ベロニカは駆け落ちした後、娘を産んだと言っていたね。子供の相手は懐かしい?」

「はい……。そうだと思いますわ」

「昔のことは聞かないほうがいい?」

「いいえ。もう気にしていませんわ。こうしてヴォルフ坊ちゃんと家庭を築き、再び母親になるとは思っていませんでした。自分の選択を悔いているわけではないのです。心が満たされて幸せなの……」

「よかった」

「十八年前に娘を産んだ幸せが再来した心地ですわ」

「ああ……、そうなんだ。十八年も前なんだね。ははは。そっか、そっか」

「坊ちゃん?」

「僕が産まれた年と一緒だ。僕は今年で十八歳だもん」

 ヴォルフガングは微笑む。背徳的な気分になる。自分が産まれた年に、娘を産んだ年配の未亡人。そんな美熟女とセックスし、赤子を孕ませている。しかも、大貴族の伯爵家で生まれた高貴な淑女である。

 表沙汰になるかは別として、レーヴェ家は家格の高い血筋を取り込んだ。

「昔のことを話すのは嫌じゃありませんわ。でも、歳は気にします。ヴォルフ坊ちゃんは私の年齢をご存知でしょう?」

「年齢は関係ないよ。ベロニカは美人だ。かおを失っても魅力的だよ。まだまだモテる。旅に出たときも心配だったんだよ。ベロニカが誰かに口説かれたりしてないかなってね」

「ふふっ。私を口説く物好きはいませんわ」

「じゃあ、僕はそうなのかもよ」

「ええ。ヴォルフ坊ちゃんは本当に物好きですわ。年増をたぶらかすのがお上手なんだから。……素敵ですわ。心がとろけてしまいそう」

 首無しメイドの異形者に成れ果ててしまったが、ベロニカは幸福を手にした。結婚指輪を外した未亡人は、呪われたレーヴェ家で第二の人生を歩み始める。不具の主人に仕える愛奴は迷いを捨てた。

 ベロニカの熟れた子宮は、ヴォルフガングに恋をしている。

 唯一無二と誓った夫婦愛を解き、二人目の愛し人となった青年。

 愛を育んだ四年の主従生活で、ヴォルフガングはかけがえのない男になってしまった。たとえ墓の下から前夫が蘇っても、ベロニカの恋心は取り戻せないかもしれない。

 本邸の焼け跡に到着したヴォルフガングとベロニカは、大火の犠牲者に鎮魂の祈りを捧げる。

 犠牲者の共同墓地は板石を積み重ねた簡単な作りだ。五年前の大火事は炎が激しく、瓦礫に埋もれてしまった骨もある。村人達が集めてくれたが、誰の骨であるかは判別できなかった。ヴォルフガングの意向により、見つけた遺骨は一つの墓で弔った。

「村長から本邸の建て直し相談されてる。ベロニカはどう思う?」

「別邸の闇樹館で不自由はしておりません。ですが、村の皆さんは違うかもしれませんね。ヴォルフ坊ちゃんにお伺いを立てるとき、大変そうですから。本邸を建て直すお金はありますし、火事から五年経ったと思えば……」

「まだ先の話だけどね。僕は闇樹館を気に入っている。……とはいえ、荘園の規模が大きくなるなら、それなりの建物が必要だ。取引してる商人達からも、宿泊施設が欲しいと言われてる。娘達に家庭教師も付けたい。はは、あははっ……」

「ヴォルフ坊ちゃん?」

「こんな悩み……。まるで父上や母上みたいだ。あれから五年……。あっという間だった。嬉しいよ。僕もやっと当主らしくなってきた」

「レーヴェ家のご立派な当主様になられておりますよ。先代の当主様と奥方様、亡くなられた方々はきっとお喜びですわ」

「うん。そうだといいな。――でも、僕の悪業を許してはくれない」

「…………」

 どんな言葉をかければいいか、ベロニカには分からなかった。傷心の主人を慰めたくなる。

「許しは求めない。報いをいつの日か……。その刻を僕は待つよ」

 ヴォルフガングは心優しい青年だ。他者の不幸を望まない。だが、自身の生命とレーヴェ家の財産を守るために抗った。自己防衛の結果、幾人かの人間は犠牲になっている。

 ベロニカも犠牲者の一人だ。赤子を産まされ、かおを失った。しかし、ヴォルフガングを愛している。

「ヴォルフ坊ちゃん……。あちらの木陰に行きましょう」

 ベロニカは返事を待たなかった。燃え落ちた瓦礫を避けながら、車椅子を押していった。

「構わないけど、どうしたの?」

 レーヴェ家の本邸は木立で囲まれていた。とても古い樹木が並んでいる。その風景は立哨りっしょうする歩兵を見る者に想起させる。

 ベロニカは大樹の根本で車椅子を止めた。

 ここなら視線が遮られ、仮に誰かが近づいてきても隠れて見えない。

「ヴォルフ坊ちゃん……♥︎ 見て……♥︎」

 ベロニカはメイド服のスカートを上げる。立冬の寒風が股を吹き抜ける。ショーツは履いていなかった。丸出しのオマンコを露出魔のようにひけらかす。

「それじゃ、お腹が冷えちゃうよ。ベロニカ」

 困った顔でヴォルフガングは言う。だが、ベロニカが何を望んでいるのかは分かった。

「暖めてください。ヴォルフ坊ちゃんのオチンポで……♥︎ セックスしたいですっ♥︎ ここで……♥︎ 外でセックスしませんか♥︎」

「え……。野外だと見られちゃう。村の皆は滅多に近づかないし、普段は森に入らない。でも、今は狩猟を解禁してる。誰かが来たら……」

「よいではありませんか……。レーヴェ家の荘園で働く者なら、見て見ぬふりをしてくださいますよ。ほんのちょっとだけ……♥︎」

「しょうがないね。分かった。……下着を付けてないってことは、散歩に誘ったときから考えてたんだ。エッチだね」

「はい………♥︎。私は御主人様に欲情してしまうエッチなメイドですわ♥︎」

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