ホーム ブログ ページ 107

【7話】爆乳妊婦の帰宅、未亡人は恋するメイドに

 その頃、騎士兜の妊婦は闇樹館に帰宅していた。馬からくらと手綱を外し、自由にしてやる。レーヴェ家の馬は賢い。荘園の厩舎に一人で戻ってくれる。訓練の賜物たまものだ。

 闇樹館にも厩舎はあるが、越冬の面倒を見る人間がいない。御主人様のお世話が最優先、大切な娘達の子育ても大変な時期だ。乳離れしたものの、今度は走り回るし、お喋りも止まらない。

「もうすぐ夕暮れなのに、まだ中庭で遊んでいるのかしら。もう初雪も降っているのに……」

 長女のダザリーヌに比べ、次女のアヴェロアナは大人しい。活発な姉よりも内向的な妹のほうが扱いやすく思える。だが、本当に油断ならないのは、アヴェロアナだ。騎士兜で素顔を隠した妊婦は、身に染みて知っていた。

 成長したダザリーヌは分別を弁えた人物になる。きっと幼少期の行動を恥じるはずだ。けれど、アヴェロアナは大人びていながらも、幼稚な冒険心を燃やし続ける。

 見た目だけが淑女のように成熟するのだ。まさに母親とそっくりだ。

(お父様とお兄様の油断が今なら分かりますわ)

 騎士兜の妊婦は長旅でついた汚れを落としす。薄汚れた姿で御主人様のお世話はできない。怒られてしまう。旅用に自作した妊婦服を脱ぎ、タオルで汗ばんだ身体を拭く。桶に溜めた湯が白い蒸気を上げていた。

「…………」

 爆乳の谷間は汗がにじむ。昔からそうだった。

 厚着をする冬場は真夏と同じくらい蒸れてしまう。乳房を覆っていたブラジャーが外れると、心地よい解放感に満たされる。

 茶黒の乳輪からミルクが湧いている。乳離れした娘達はもう母乳を吸わない。それでも母胎は乳汁を生産する。これから生まれる三人目のために。

(胎動が強くなっているわ。旅の間……ずっと……。外が気になるの? お姉ちゃん達と遊びたい? ごめんなさい。貴方を産むわけにいかないの……。その代わり、ママのお腹でずっと愛してあげる)

 臨月のボテ腹を優しく抱きしめる。子宮に宿る胎児を慈しむ。母親としての愛情はあった。どんな形で授かった命であれ、お腹の赤子に罪はない。

「…………」

 騎士兜の妊婦は左手を眼前にかざした。薬指をじっと見る。指輪の跡が残っている。ここで銀色の結婚指輪が二十年以上も光り輝いていた。夫の生まれ故郷で結婚式を挙げてから、ただの一度も外さなかった。

 永久の夫婦愛を誓った指輪。今の自分が身に着けることは許されない。十五年前にこの世を去った夫への冒涜だ。

(もっと早く結婚指輪を外すべきだったわ。ヴォルフ坊ちゃんの赤ちゃんを宿したときに……。娘を産んでしまったときに……)

 英雄の妻は死んでしまった。だから、我が身の代わりに夫が眠る墓所に葬った。

(天国にいる夫は今の私をどう思うかしら? 自分が死んだら良い男を見つけろだなんて、強がって言っていたわね……。私だったら若くて格好いい男を捕まられるって……。本当にそうなってしまったわ)

 夫以外の種で孕んだ。自分が再び赤子を授かる。そんな日は絶対に来ないと思っていた。だが、大きく膨らんだ胎にはレーヴェ家の子供がいる。骨盤が広がり、下腹部がボテっと出っ張る。乳房の張りは痛みを感じるほどだ。

 まごうことなき妊婦。命の揺籃ゆりかごを抱く孕女。母胎となった艶姿を、生きていた頃の夫に見せたら、どんな悲しいかおをさせてしまっただろう。

(死んだら再婚しろ……。嘘ばっかり。貴方にそんな気なんてなかったくせに……。焦ってるときは、いつも耳が真っ赤。私は分かってた。格好つけなんだから。私だって本当は……ずっと貴方だけを……。あぁ……貴方がこの世を去っていて……本当に良かったわ。こんな身体は見せられない)

 未亡人は涙を流せない。けれど、良心の咎めが突き刺さる。

(――愛していた貴方に失望されたくない)

 夫と死別して十五年が経った。未亡人の貞操を捨て去り、新しい恋を始めても許容される。だが、彼女自身が後ろめたさを覚えた。

 夫は英雄だ。大冒険の偉業は帝国史で燦然と輝くだろう。その栄光を妻であった自分が穢したくない。

「あぁ……。湯がもう冷めてしまったわね」

 生涯最後の墓参りで亡夫に別れを告げた。結婚指輪を外し、レーヴェ家の闇樹館に帰ってきた。これから先、きっと先立たれた夫への愛情は薄れていく。だから、ありったけの愛情を指輪に念じて夫の墓に埋めた。

(墓所で村の司祭様とすれ違ってしまった。きっと怪しまれてるわね。ヘンテコな姿の妊婦だもの。でも、好都合。私だと気付くはずがないわ。貌だって見られていないのだから……)

 騎士兜の妊婦はメイド服に着替えようとする。

 メイド服は妊婦の体型に合うように寸法を調整した。着替えでちょっと手間取るが、使用人は服装が大事だ。伯爵家の家臣達も衣服には気を使っていた。

 貴族社会では地位を服装で示す。偉い人間は偉そうな格好を、下僕は下僕らしい格好を。それが秩序なのだ。

「物音? 書斎から聞こえたわ。まさか、坊ちゃん……!?」

 胸騒ぎがした。全裸のまま、騎士兜の妊婦は書斎に急いだ。何かが地面に転がる音が聞こえた。

 物が落ちただけかもしれない。もしレーヴェ家の当主が五体満足の健康な青年だったなら、素肌を晒した姿で駆け付けるメイドは過保護が過ぎる。

 書斎に扉を勢いよく開く。床を這いまわる芋虫のような青年がいた。

 五年前に両手両足を失ったレーヴェ家の若き当主。一人では生きていけない弱々しい御主人様。車椅子に戻ろうと奮闘していたが、また転げ落ちた。全裸で書斎に突入してきた妊婦を見て驚いたからだ。

「坊ちゃん!!」

 騎士兜の妊婦は御主人様を抱き上げた。

!? もう帰ってきてたんだね。今日か明日とは聞いてたけれど……。えっと、なんで裸なんだい? 寒いだろうに」

 レーヴェ家の当主ヴォルフガングは、親し気にベロニカの名前を呼んだ。

 四年前に忽然と失踪したカレンティアの実母。冒険者組合と帝国軍が探し回っても手がかり一つ掴めなかった行方不明者は、闇樹館の使用人になっていた。

 カレンティアが拒絶した予想は当たっていた。英雄の命日、墓所に結婚指輪を葬った騎士兜の妊婦はベロニカ本人だった。娘とそっくりの爆乳、柔らかな媚肉の巨尻、四十四年の歳月で完熟しきった肢体。蠱惑的な色気にそそられる。だがしかし、肉体の若さは修道院で削ぎとされた。

 ――そのはずだった。

「湯浴みで旅の汚れを落としていました。メイド服に着替えようとしたら、書斎から音が聞こえました。私はヴォルフ坊ちゃんが心配で……」

 ベロニカはヴォルフガングに全裸を見せても恥ずかしくない。主人と使用人、それだけの関係ではない。

「嬉しいよ。心配してくれ。でも、だからって、走るのはやめよう。僕よりも転んだら不味い身体だ。お腹にはがいるんだよ」

 ヴォルフガングは肘先までしかない右手で、ベロニカの腹部をさすった。

 この事態をいったい誰が予想できただろう。先立たれた英雄の夫を深く愛し、修道院で隠居していた未亡人の貞操は、両手両足を失った青年に奪われた。

 帝国辺境で荘園を営む准男爵は、帝都の伯爵家からすれば取るに足らない相手だ。仮にベロニカが再婚させられていても、家格がまったく釣り合っていない。

 年齢も離れている。

 ヴォルフガングは若々しい十八歳の男子。ベロニカは老いを感じさせぬ美熟女だったが四十四歳。

 奇しくもヴォルフガングはベロニカの娘カレンティアと同い年だ。

 二倍差を超える年齢の開き。ヴォルフガングの子種で妊娠したとき、ベロニカはとても恥ずかしくなった。息子のような若者との淫行に溺れ、ものの見事に孕まされた。妊娠さえしなければ、腹を痛めて子供を産まなければ、自分自身への言い訳も立っただろう。

 未亡人ベロニカの子宮は敗北した。夫ではない男の精子で、胎の奥底に隠した卵子を射止められた。

「ヴォルフ坊ちゃんが心配で……。気付いたら身体が動いてしまって……。とても考え無しな行動でしたわ。私の悪い癖です」

 ――そして、心までも掴まれている。

【6話】美熟母の子宮は命を宿すか?

 誰かがベロニカの結婚指輪を奪い取り、何らかの経緯で騎士兜の妊婦の手に渡った。

 そう考えたくなる。だが、指輪には夫婦の名前と結婚記念日が刻まている。見事な銀製の指輪だろうと、普通の人間なら身に着けたくないはずだ。

 中古の結婚指輪に値打ちはない。一目で盗品だと分かる。

「…………」

 購入後に盗品だと分かって、指輪を持ち主に返そうとした。

 それもありえる。だが、司祭の証言によれば、妊婦は左手の薬指に指輪を付けていた。盗品を返そうとする高潔な人物にはそぐわない振る舞いだ。

「司祭様は二日前に墓所を訪れた騎士兜の妊婦が……私の母さんと思いますか?」

 カレンティアは勇気を振り絞って問いただした。司祭が気まずそうに、この場から逃げたがっているのは、きっとこの質問が怖いからだ。

 豊満な乳房の女性。妊娠していることを差し引いても、カレンティア並みなら、強く印象に残る。カレンティアの爆乳は母親から遺伝だった。四年前に失踪したベロニカは大きなバストを誇る美女だった。

「あっ、ありえんよ! ベロニカ様のはずがない! あの妊婦は長い黒髪じゃった!」

 騎士兜で頭部を覆っていたのなら、黒髪はカツラかもしれない。

「…………」

 カレンティアはあえて指摘しなかった。

 司祭が強く否定するのを望んでいた。二日前に現れた妊婦が、行方知れずだった母親であるはずがない。

「年齢も合わない! 儂が見たのは子を孕んだ夫人じゃ。ベロニカ様は四十路を超えておる……」

「私が今年で十八歳。母さんは四十四歳だわ。さすがに妊娠は年齢……ですね……」

 妊娠は難しい。客観的な事実だ。しかし、閉経していなければ不可能ではない。カレンティアが断定を避けた。それにも理由がある。

(司祭様の言う通りだわ。絶対に……ありえない……。絶対に……)

 伯爵家の跡継ぎが顕在化したのは、カレンティアの伯父が病没した一年前。しかし、以前から懸念はされていた。

 実現はしなかったが、伯父夫婦が幼少のカレンティアを養女に迎える案もあった。

 冒険者の父親は死んで英雄となった。「どこの馬の骨とも知れない男」は偉大な勇者に祭り上げられた。伯爵令嬢ベロニカの駆け落ちが貴族社会で許される風潮が生じたのだ。

 伯爵家がカレンティアを迎え入れる。当然、未亡人となったベロニカも貴族に戻る。

 十五年前のベロニカは二十代後半、まだ子供が望める年齢だった。

(母さんがヒースウッド修道院に入ったのは、伯爵家が水面下で画策してた再婚から逃げるため……。そんな噂を私は聞いた。たぶん、それは本当だわ。病弱だった伯父さんは自分に子種がないと知っていた。伯爵家のために母さんを……)

 後継者を産む。貴族令嬢の大切な御役目だ。

 本来なら実家から逃げたベロニカが悪い。裕福な暮らしの代償は政略結婚。大貴族に自由恋愛は許されない。

(……でも、十五年以上も前の話だわ。母さんの逃げ勝ちで終わったはずでしょ)

 ヒースウッド修道院に逃げ込んだベロニカは時間切れを狙った。

 閉経してしまえば伯爵家の計画は潰える。四年前の時点で勝敗はついた。

(四年前、母さんが行方不明になったとき、私は伯爵家の誘拐を疑ったわ。でも……当時の私以上に伯爵家は慌てていた。目撃情報に謝礼を払ったり、帝国軍にも捜索を依頼してたわ)

 カレンティアが伯爵家に向けた疑いはすぐに晴れた。

 伯爵家がベロニカを誘拐したお家騒動なら、皇帝に頼み込んで帝国軍を動かしたりはしない。かなりの金額を投入したと聞いている。伯爵家は行方不明のベロニカを真剣に探し回っていた。

(私は母さんの失踪を冬の遭難と決めつけてしまった。でも、伯爵家の跡目争いなら……? 本家は無関係でも、ひょっとしたら分家が……)

 四年前だ。ヒースウッド修道院に保護されていたベロニカは初めて遠出した。それまでは亡夫の墓参り以外では俗世と関わらなかった。

 ちょうど四十歳のベロニカは油断していたかもしれない。

 ――もう子供を産める身体ではなくなった。伯爵家も手荒な再婚はさせない。ベロニカはきっとそう思い込んだ。

 事実、本家筋の人間はベロニカが思った通りだ。結局のところ、祖父と伯父は家出したベロニカに甘かった。

 父親の生前、さまざまな妨害は仕掛けてきたという。冒険者組合に圧力をかけたこともあった。だが、「屋敷から盗んだ聖剣を返せ」とは訴えなかった。

「母さん……生きているの……?」

 カレンティアは結婚指輪を握りしめる。墓所で目撃された騎士兜の妊婦がベロニカだと決まったわけじゃない。母親の結婚指輪を薬指に嵌めていた。それだけなのだ。

「司祭様。村で一番の駿馬を私に売ってください。ヒースウッド修道院に行っています。母さんの私物を整理してほしいと頼まれてました。もしかしたら……、司祭様がすれ違った妊婦は修道院の人かも?」

「あ、ああ! なるほどのう。ありえる! いや、そうに違いない! ベロニカ様は失踪する前に、結婚指輪をヒースウッド修道院に置いていったのじゃろう」

「母さんが失踪して四年です。遺体の代わりに結婚指輪を埋めにきてくれたんでしょうね」

 カレンティアと司祭はお互いに納得したふりをする。だが、この説には無理がある。

 ベロニカは結婚指輪を寝るときでも外さなかった。肌身離さず、大切に身に着けていた。

 そもそもヒースウッド修道院の使者として、騎士兜の妊婦が派遣されるだろうか。それこそ、ありえない人選だ。高価な結婚指輪を墓地に無断で埋めることだって奇妙だ。カレンティアや伯爵家の了解を得ず、そんな勝手をするとは到底思えない。

(母さんを探そう。この結婚指輪を墓所に埋めた妊婦が誰なのか突き止めるまで、帝都には帰らない。ごめん。クロヴィス……。やっぱり貴方も連れてくるべきだった。戻りは遅くなりそうだわ)

 カレンティアは村で一番の馬を即金で買い取り、ヒースウッド修道院に急行した。

 ◆ ◆ ◆

 日没前に到着したものの、大きな問題が起きた。

 強行軍を強いた農耕馬は、厩舎きゅうしゃの前で泡をぶくぶくと吹いて倒れてしまった。村で一番の駿馬だったが、所詮は農村の馬である。サラブレッドの屈強な馬とは違う。

 家畜の世話を担当する修道女からは「なんと惨い。どんな走らせ方をしたんですか? この可哀そうな子を屈強な軍馬とでも思っていたの? はぁ。なんて酷い人でしょう……。私が責任をもってお世話いたします。ですから、疲労が回復するまで、絶対に渡しません」と厳しく非難された。

 カレンティアは黙って頭を下げるしかなかった。理由があったとはいえ、馬を酷使してしまった。罪悪感で胸が苦しい。あの馬が意識を取りもしても、再び自分を乗せてくれないだろう。だが、急がなければならなかった。

 父親の墓前で見つけた指輪を握りしめ、カレンティアはヒースウッド修道院の門を叩いた。

 男子禁制の聖域。訳ありの貴族令嬢や未亡人が逃げ込む最後の砦。母親の部屋には失踪の手がかりが遺されているはずだ。

【5話】 素顔を隠した謎の妊婦

「まさか……! 母さんがここに……!?」

 結婚指輪に経年劣化の汚れはなかった。泥はこびりついておらず、綺麗に磨き上げられている。つい最近になって埋められたような感じだ。

 カレンティアは毎年、父親の墓参りをしている。一年以上前に埋められた可能性は低い。去年は指輪なんか埋められていなかった。

「ありえないわ。母さんがここに来たなんて。きっと、誰かが届けたんだわ」

 母親が自分で埋めに来たわけがない。失踪中の母親が戻ってきたなら、娘に連絡を寄こさない理由はない。

 そもそも十年以上も大切にしてきた結婚指輪を外すのはおかしい。

 母親の結婚指輪を見つけた衝撃は大きく、カレンティアは父親の墓前で立ち尽くしていた。

「おおぉ……。カレンティアちゃん。そろそろお墓参りに来る頃合いだと思っておったよ。偉大な父君もお喜びだろう。帝都での活躍は村にも届いておるよ。すっかり名うての冒険者じゃな」

 長箒ながほうきを握った司祭がカレンティアの前に現れた。いや、突然現れたのではない。カレンティアが呆然自失だったので、近づいてきたことに気付けなかったのだ。

「司祭様……! お久しぶりです……!」

「まあ、一年に一度しか会わんし、お久しぶりじゃな。大きくなったのう。母君とそっくりの美人さんじゃ。おや? もしやお父君と話しておられたのかな? お邪魔虫になってしまったのう。儂はあっちを掃除しておるよ。すまんね」

「いえ、違います! 待ってください! 司祭様!」

「ん?」

「あの……これ……。お父さんのお墓に埋まってたんです。母さんの指輪が……」

「指輪? ベロニカ様の……? しかし、ベロニカ様は四年前に失踪してからずっと……」

「はい。母さんは見つかってません。でも、ここに……! お父さんの墓前で結婚指輪を見つけたんです。司祭様、誰かを見ませんでしたか? この指輪はつい最近、誰かが置いていったんです! たぶん、お父さんの命日に! たぶん二日前! お墓参りした人はいませんでしたか!?」

「二日前なら村の者達で花束を手向けたぞ。その時はベロニカ様の指輪なんてなかったのう……。墓参りの後に、村の者達で酒を飲み交わしてから……儂が後片付けを……。ああっ、そういえば夕暮れに……。村への帰り道で奇妙な女性とすれ違った」

「奇妙な女性!? きっとその人よ! どんな人でした? 顔は? 年齢は?」

「お、落ち着きなされ。顔は見ておらんよ。奇妙というのは、面貌を隠しておったのだ。奇天烈な格好じゃったよ」

「奇天烈な格好……?」

「騎士のヘルムを被っておった。厳つい漆黒の兜じゃ。……なんというか……頭部だけなら立派な騎士じゃったよ。訳ありに見えたので、その女性に近づこうとは思わなかった」

「騎士兜で顔を隠していたのに、なぜ女性だと? 話してもいないんでしょう?」

「その女性は身籠っておったのだ。奇天烈な格好と言ったろう? 立派な騎士装備は頭部の兜だけじゃった。身体はゆったりとした妊婦服を着ておったよ。妙齢の女性らしい肉付きであったし、お腹は遠目からも臨月だと分かるほど膨らんでいた」

「臨月の妊婦が騎士の兜で……? すごく不審人物ですね」

 絶対に村の人間ではない。もしカレンティアが出くわしていたら絶対に正体を探っていた。

「うーむ。……だが、儂は話しかける気になれなかった。弔いの花束を持っておったし、素顔を隠す理由があるのだと……。深入りはしたくなかったのじゃ。大貴族の夫人とはそういうものじゃろ? それにカレンティアちゃんのお父君は伯爵家と因縁がある。それ絡みかと……」

「伯爵家の人間じゃないわ。お祖父ちゃんは失踪した母さんを見つけ出せなかったと言っていた。北方の辺境で足取りは途絶えてしまった。そこから先は……。この指輪をお墓に埋めた妊婦は……どこで母さんの結婚指輪を……?」

「ん? カレンティアちゃん。その指輪……見せてもらってもよいか?」

「ええ、もちろん。どうぞ」

「銀色の指輪……。この輝き……。まさか……いや……儂の見間違いじゃな……。そうに違いない」

 困惑顔の司祭はカレンティアから受け取った指輪を突き返した。言葉をつぐみ、居心地悪そうにしている。

「何か気付いたんですね」

「いやいや、儂の勘違いだ! ありえぬ! あの妊婦は黒髪……。髪の色が違った。……はカレンティア様と同じプラチナブロンドの御髪じゃ。ありえぬ。歳も……。そうじゃ、たぶん年齢が違う。若いであった。絶対にありえん。見間違いじゃ……」

 ぶつぶつと司祭はつぶやいている。

 口調は弱々しく、風の音で掻き消える。肝心の結論がカレンティアの耳には届かなかった。

「司祭様……! 教えてください。何か、気付いたのでは?」

「いいや、何も。儂は……ただ……その……。すれ違っただけで……。帰り道に……。だから……。はぁ……。見間違いじゃよ。だから、これから話すのは老人の戯言だと思ってくれるかい? カレンティアちゃん」

「分かりました」

「似てると思った。その……カレンティアちゃんに……。あの妊婦は変な格好をしているが……。冒険者はそういう格好をしたりもするじゃろ。命日じゃったし、カレンティアちゃんかと思った。変な意味で捉えてほしくないのだが、胸回りの発育も……似ておったから……」

「司祭様、その程度で怒ったりしません。私のデカパイは帝都の酒場で飽きるほどネタにされましたから。揉もうとした男はボコボコにしてきましたとも。……えっと、つまり、その妊婦は私と同じくらいのバストサイズだったんですね。すごく助かりました。身体的特徴は大きな手掛かりです」

「そうではない……。その妊婦がカレンティアちゃんじゃないとすぐ分かった」

「髪の色が違ったから? それとも妊娠してお腹が大きかったから?」

「騎士兜の妊婦は左手が光っておった。薬指に結婚指輪を嵌めておったのじゃ。銀色の……。だから……儂は……その……。見間違いじゃ……」

「司祭様、落ち着いてください。思ったことを口にして。私は怒ったりしません! ……この指輪を父さんの墓に埋めたのが誰なのか、知りたいだけです。見間違いでもいいわ。私の目を見て話してください」

「カレンティアちゃんがその結婚指輪を見せてくれたから思い出したんじゃ。儂は村の司祭じゃ……。新郎新婦に夫婦の誓いを立てさせる。ベロニカ様の結婚式も儂が執り行った……。この銀の指輪は間違いなく……ベロニカ様の薬指に嵌められていた。儂が二日前にすれ違った奇妙な姿の妊婦も……同じ指輪を……薬指に……していたような気がする……」

「二日前、この結婚指輪を見たんですね。見間違いだったら、司祭様は言い淀んだりはしないでしょう」

「その結婚指輪を妊婦が薬指に嵌めていた。気付いたのはさっきじゃ。間近で実物を見なければ、ベロニカ様の指輪だとは分からなかったじゃろう」

「そんな……? どうして身重の妊婦が母さんの結婚指輪を……」

【4話】父の墓前に葬られた結婚指輪

 カレンティアが赴いた父親の墓所は、生まれ故郷の村にある。帝都の距離からは乗り合い馬車で約二日ほど。急げば一日に旅程を短縮できるが、カレンティアは長旅をのんびりと楽しみたい気分だった。

 父親の墓を訪れる人は少なくなった。

 慰霊目的なら帝都の記念碑に手を合わせるだけで十分過ぎる。親族のカレンティアですら命日に合わせて墓参りしていない。

「まだ花束が手向けてくれる人がいるのね……。父さんってば……。ふふふっ。母さんが言ってた通りだわ。本当に人気者……。私が死んでも、帝都の大通りに記念碑を立てられたり、十五年経っても花を手向けてくれる人がいるとは思えない」

 近隣に住む村の人々であろうか。律儀なことだと思う。いくつかの花束が供えられていた。

「冒険者になったとき、必ず父さんに追いつくって宣言したわ。母さんも応援してくれた。でもね、すごく遠いの……。本当に遠いわ。英雄の背中はちっとも見えてこない。父さんはどれだけ早く走っていたの?」

 カレンティアは父親が愛飲していたお酒を墓石に撒いた。

「父さんに謝らなきゃいけない。ごめんなさい。結局、母さんは見つからなかったわ。冒険者組合に捜索願いを出したけど……取り下げてきた。もう四年……。潮時だわ。母さんが自殺したと思ってる人もいる。修道院の人はそう考えているみたい……。違うよね……。母さんは自分で死んだりしないわ……。いくら父さんが恋しいからって……」

 空になった酒瓶の蓋を締める。

 母親と墓参りした幼少期を懐かしむ。握力が弱かった子供の頃は、どうやっても瓶の蓋を回せなかった。

「私は事故だと思ってるわ。ほら、母さんって、無計画なところがあるからさ。私を妊娠したのだって事故なんでしょ? ふふっ……! 昔ね、母さんから聞いちゃったの。避妊に失敗しちゃうのが母さんらしい。でも、こうして私が産まれたわけだから感謝すべきかしら?」

 近況報告を一通り終える。そして、本題に入る。

「結婚しようと思う。相手は冒険者のクロヴィス。お父さんに助けてもらったことがあるんだって……。最初は私に近づく口実だと怪しんだわ。そういう奴が多かった。でも、クロヴィスは嘘付きじゃなかった。……あっ、でもね、お父さんを過大評価してる。美化っていうのかしら? きっと実物に会ったら失望しそうだわ」

 カレンティアは嬉しそうに笑う。

「子供が産まれたら、お父さんの名前をもらうわ。男の子だったらね。女の子だったら母さんの名前。私達の子供が冒険者になるかは分からない。……ああ、それとね。これは余談。お母さんの実家から使者が来たわ。最初は伯爵家の執事だったかしら。次はお祖父ちゃん……。本家の血筋が危ういから、戻ってきてくれってさ。……泣きつかれちゃった」

 伯爵家の御家騒動はクロヴィスにも話していない。

 カレンティアを産み育てたベロニカは、由緒正しい伯爵家の令嬢だった。出奔したときに貴族籍は抹消されている、と今まで思っていた。カレンティアも母親からそう聞かされていた。「血筋で大貴族に返り咲こうだなんて思ってはいけないわ。カレンティアは冒険者の娘よ。弁えておきなさい」と言い聞かされて育ったのだ。

 ――しかし、カレンティアの祖父は愛娘が戻ってくる日を待っていたらしい。ベロニカの貴族籍は抹消されなかった。

 家督はベロニカの兄が継いだ。その兄も妹には甘く、貴族籍を残した。これが後々の現在になって火種となる。

 ベロニカの兄は病弱で子に恵まれず、後継を作らずに亡くなった。つい一年前に持病の悪化で命を落とした。未来を託したはずの後継者に先立たれ、伯爵家の家督は老い衰えた祖父のところに戻ってきた。

 本家筋が断絶すれば、爵位と財産は分家に奪われる。

 そこで孫娘のカレンティアにお呼びがかかった。

「はぁ。すごく面倒くさいでしょ? 駆け落ちした母さんを勘当したくせに……いや、伯爵家の家宝を盗んだ母さんもかなり悪いけど……。いいえ、かなり母さんが悪いわ。あと、そそのかした父さんも悪いと思う」

 今さら伯爵家の家督を継ぐなんて無理だ。丁重にお断りした。しかし、伯爵家も引き下がらない。

 カレンティアが持っている聖剣は伯爵家の宝物だった。駆け落ちしたベロニカが持ち出した盗品。こればかりは言い訳が通じない。今まで問題にならなかったのは、愛娘を窃盗犯にしたくなかった家族の情だ。分家に伯爵家の家督を奪われれば、そうもいかなくなる。一種の脅しだ。

「母さんの捜索に伯爵家が協力的だった理由も納得したわ。お祖父ちゃん、かなり困ってた。可愛がってた息子に先立たれて、家出した娘は行方不明……。同情を禁じ得ないわ。だから、私の子供を養子にする話は……受けようと思ってるわ。もちろん、クロヴィスとも相談するけど」

 カレンティアは泣きすがる老人の頼みを拒めなかった。考えてみれば祖父は完全な被害者だ。そして加害者はカレンティアの両親である。盗品の聖剣を使わせてもらっている負い目もあった。

「そうそう。これも言っておかなきゃ。お祖父ちゃんからの伝言ね。お父さんを心の底から恨んでいる。あの世でぶち殺すって……。あの調子ならお祖父ちゃんは長生きしそう」

 カレンティアは長話の独り言を終えた。

 父親への墓参りでやるべきことは為した。次は母親の私物を取りにヒースウッド修道院へ急がねばならない。

「そろそろ雪が降りそう。のんびりしてられないわ。あっ……。村の司祭様に母さんの名前を墓碑に追加してほしいって頼むんだった。私は母さんの娘だわ。大ポカする癖があるみたい」

 行方知れずになって四年。ベロニカの亡骸は見つかっていない。だが、伯爵家が手を尽くし、カレンティアが冒険者組合に依頼を出しても見つからなかった。もはや望みは捨てるべきだ。

 失踪した「ベロニカ」の名を墓碑に刻んでもらう。墓所を管理している村の司祭に頼めば、引き受けてくれるだろう。

「――え?」

 カレンティアは信じられないモノを見つけてしまう。銀製の指輪が光っている。父親が眠る墓石の影に指輪が埋められていた。

 拾い上げて確信する。父親と母親の名前、結婚した日付が刻まれている。カレンティアは聞かされていた。父親は金の指輪、母親は銀の指輪。これはベロニカの結婚指輪で間違いない。

「なんで母さんの結婚指輪がここに……?」

 未亡人となった後もベロニカは結婚指輪を外さなかった。行方不明になった四年前、ベロニカは左手の薬指に結婚指輪を嵌めていたはずだ。

 夫婦愛を誓った結婚指輪が墓所に埋められていた。これは何を意味しているのだろう。カレンティアは摘まみ上げた銀色の指輪を見詰める。

【3話】女冒険者カレンティアは父母を偲ぶ

 冒険者カレンティアがレーヴェ家の使用人となる二週間前の出来事であった。

 今日は十五年前にこの世を去った父親の命日だ。仲間達から「生き急ぎの冒険野郎」と言われた父親らしい最期だった。

 親しい者達は父親の早世を嘆き悲しんだが、当人は自分の死に方に満足していたはずだ。少なくともベッドの上で安らかに眠る、そんな死に方は望んでいなかった。

「クロヴィス! ちょっと! ちょっとぉ! 起きて! 起きなさい! 貴方って男は……! もう! ろくでなし! わざとでしょ!? 私! すっごく怒ってるわ!」

 シャワー室から出てきたカレンティアは、惰眠中の恋人に蹴りを入れた。ベッドから転げ落ちたクロヴィスは、冬眠明けの熊みたいに起き上がった。

「ふあぁ……。ぐえぇっ! 暴力反対……! たくっ……! カレンティアは最高の目覚まし時計だな。そんで、何の話だ? 何に怒ってる? トイレの便器が上がりっぱなしだったか? それとも今日はゴミ出しの日だっけ?」

「昨日のセックス! 膣内なかに出したでしょ」

「……酔ってて覚えてない。記憶にございませんな」

「依頼報酬を横領した組合長みたいな誤魔化しはやめなさい! 腹が立つ!」

「じゃあ、俺が膣内射精した証拠は?」

「物証があるわ。シャワー浴びてたら精子が股から垂れてきた」

「そいつは……。カレンティアが両性具有だった可能性は?」

「あるわけないでしょ!」

「……昨日の夕飯で飲んだ牛乳がヨーグルトになった可能性も」

「殺すわよ」

「痛っ! 蹴るなって……!」

「はぁ……。セックスしてる途中で気付かなかった私も私だわ。外出しの約束を守る気なんてなかったのね……。最低の男。赤ちゃんできたらどうするつもりよ?」

「そうだな。……きっと俺は立派な父親になるぞ! わははは!」

「黙りなさい」

「はい。すみませんでした。確信犯です」

「私よりも冒険者ランク低いくせに……、私より立派な親になれるわけ?」

「俺の心を抉らないでほしい。言葉の刃は傷つくから……」

「じゃあ、変な悪戯しないで。危険日だったら本当に孕んでたかもしれないのよ」

「ふざけてたわけじゃない。真面目な話、そろそろ考えてくれよ」

「考える。もうちょっとだけ時間が欲しいの。私だって……時期を選んでるだけなの……」

「責めてるわけじゃない。俺は待てと言われれば待つ。忠犬みたいな男だからな。……ただなぁ、この前、受付嬢に文句を言われた。結婚してるんだから指輪くらい付けろってさ」

「あの受付嬢、私には態度きついのよねぇ。嫌な感じだわ。狙わてれるんじゃないのー? 人の彼氏を奪いそうな性格してると思うわ。男の冒険者にだけ愛想を振りまく可愛い子ちゃんだものねぇ」

「妙な勘ぐりはやめとけって……。今は俺らの担当受付嬢なんだから……。でもよ、勘違いされるのも分る。付き合ってもうだぜ」

「違う。

「え? いやいや! 四年だろ? いくら俺でも間違わない。ひっかけか?」

「恋人になって五年目。四年目なのはセックスするようになってから」

「……あぁ、そうかも。でも、ある意味、俺が正しくない? だって、ほら、その……男女関係ってそういう……感じじゃん?」

「呆れたわ。クロヴィスの脳細胞って睾丸についているんじゃないの?」

「ははっ……! 手厳しいな。そういう新説が発表されてても、俺は頭ごなしに否定はしないぜ」

 濡れたプラチナブロンドの髪をクロヴィスは撫でてくる。カレンティアはそっけなく恋人の手を叩いた。

「私を猫か何かと勘違いしてない?」

「機嫌を直してくれよ。悪かった。でも、子供が出来たら……その……! 結婚の話を真剣に考えてくれると思ったんだ! 悪気はあったけど、本気なんだよ!」

「その堂々とした犯行声明、反応に困るわ。クロヴィスのことは好き。でも、結婚の話はもうちょっと考えさせて……。家族のことは真剣に考えたいの。だって、今日は……」

「――親父さんの命日だから」

「……ええ。そう。そうよ。……なんで?」

「え? 当たりだろ?」

「クロヴィスって私の誕生日、付き合い始めた記念日、ゴミ出しの日は忘れてるくせに、父さんの命日はしっかり覚えてるのね。なんで?」

「そりゃぁ、すごい人だったからな。帝都の冒険者じゃ伝説だ。憧れだよ」

「どうかしら。十五年も経てば忘れられていくわ」

「俺は忘れちゃいないぜ。故郷の村を救ってくれたんだ」

「伝説は塗り替えられるものよ。お墓参りに来てくれる人も少しずつ減っているわ」

「ちょっ、待てよ。カレンティア。一人で墓参りに行く気か? 俺も一緒に行く!」

「一緒に来るつもり?」

「当然だろ。毎年そうだったじゃないか」

「クロヴィスは冒険者組合の査定があるでしょ。そっちに集中しなさい。私はランク昇格がもう決まってるわ。貴方は? 今回の査定で良い成績を残せなかったら、私の三つ下になるわよ。ちょっとは焦りなさい」

「分かってるよ。くそ……。で、何日くらいで帝都に帰ってくる予定なんだ?」

「そうね。十日くらい? いや、二週間? もっとかかるかも……」

「長くないか? 俺の忠誠心は犬並みだが、孤独耐性は兎並みなんだぜ?」

「みっともない泣き言ね……。ヒースウッド修道院にも立ち寄るつもりだから。二週間はかかるわ」

「ヒースウッド修道院だって? 行方不明になった母親の件? まさかベロニカさんの足取りが掴めたのか!?」

「いいえ。失踪して四年目だから、母さんの私物を処分してくれってさ」

「……酷いな。荷物を取りに来いってか?」

「むしろ修道院長の温情じゃないかしら? 母さん消息不明で死んだも同然」

「まだ分からない。ベロニカさんだって現役時代は凄い冒険者だった」

「ええ。でも、今まで手がかりは見つかっていないわ。いなくなって四年よ? 頃合いでしょ。……そんな母さんの部屋を四年間もそのままにしてくれたんだもの。かなりの特別扱いだわ。修道院に入るとき、寄付金をたんまりと払ったのかしら」

 カレンティアの母親ベロニカは四年前に失踪していた。

(母さん……。どこへ消えてしまったの……?)

 元々は帝国貴族の令嬢だったが、若い男と駆け落ちして冒険者になった。温厚そうな見た目に反して、破天荒な人生を歩んでいる母親だった。夫が冒険中に命を落としてからは、一人娘のカレンティナに愛情を注いだ。娘の成人になると、冒険者を正式に引退。ヒースウッド修道院に隠居して静かに暮らしていた。

「ベロニカさん……。何があったんだろうな。友人を訪ねに北方へ向かったところまでは分かってるんだろ?」

「ええ。もっと正確な場所を誰かに伝えてくれていれば、探しに行けるのだけど……。四年も経つと……私も……諦めがつくわ」

「カレンティア……」

「たぶん、事故に遭ったんだと思うわ。北方は整備されてない道も多いし、母さんが北方に旅立ったのはちょうど今頃。冬が始まる季節だったわ。……厳冬期の遭難死は珍しくない」

「なあ、俺もやっぱり付いていこうか? 一人じゃ大変だろ。英雄の墓参りもしたいぜ」

「いいえ。ダメよ。ちゃんと査定を受けなさい。やる気を出させてあげましょうか? 査定に受かったら結婚指輪を買っておきなさい。左手の薬指に指輪を嵌めてあげる」

「本気だよな?」

「ええ。冒険者カレンティアに二言は無し! 出来たてほやほやの人妻になってあげるわ。それじゃあね、期待してるわよ。クロヴィス♥︎」

 カレンティアは一人で帝都を旅立った。

 十五年前に亡くなった父親の墓参り、四年前に失踪した母親の私物整理。この世から去ってしまった両親を弔うための旅である。

 カレンティアが恋人のクロヴィスと新しい一歩を踏み出すために必要な行為だった。

 査定の結果次第で結婚すると約束したが、仮にクロヴィスが昇格できずとも、自分から結婚を申し込むつもりでいた。

【2話】洗脳解除(前編)

 闇樹館の食卓では、ダザリーヌが会話の中心となる。

 この子が産まれてから、レーヴェ家は本当に賑やかになった。しかし……本当によく喋る娘だ。そこが可愛くもあるわ。底抜けに明るい性格は、両親のどちらから受け継いだ形質?

 育てている私にも分からない。だが、どちらかといえば大火事で家族を亡くす前の御主人様に似ているかも? 手足を失う前のヴォルフ坊ちゃんは好奇心が旺盛だった。けれど、ダザリーヌほど騒々しくはなかったと思う。

 次女のアヴェロアナは読書家だ。まだ三歳だというのに、書庫の童話集を読み漁っている。特に冒険譚が好きなようだ。内向的な性格だけど、冒険者に強い憧れを抱いているらしい。

 今は本を読んで想像を膨らませるだけで満足している。成長して大人になったら、この子はどんな令嬢になるだろう?

 姉妹の性格は正反対に見える。だけど、根幹は似ているのだと思う。相性も抜群だ。

 ダザリーヌとアヴェロアナは喧嘩をまったくしない。いつも二人で仲良く遊んでいる。

「――お母様はどんな冒険をしてきたの?」

 ダザリーヌが私に問いかける。

「僕も気になる。カレンティアは帝都で有名な冒険者だった。そう聞いたよ」

 ヴォルフ坊ちゃんも興味を示している。アヴェロアナは食事の手を止め、私を見ていた。つまり、全員が私の過去を知りたがった。

 帝国辺境の北部で暮らす私達は、山中に広がる荘園が世界の全てだ。外界の情報は隣町や行商人を介して伝わる。都会の冒険者が辺境のド田舎に来ることはない。話を聞きたがる気持ちも分かる。

「えっと、そうですね……」

 意識の微睡まどろみが弱まっている今、記憶を掘り起こしたくはなかった。想いは繊細だ。封じ込めた自我が呼び覚まされる。だけど、ちょっとした昔話なら平気だと思った。

「私は――」

 ヴォルフ坊ちゃんと娘達はカレンティアの冒険譚を喜んで聞いてくれた。しかし、自分語りは痛恨の過ちだった。

 ◆ ◆ ◆

 頭痛がする。ヴォルフ坊ちゃんに心配されてしまった。だけど、我慢できる程度の痛みだ。

 私を悩ませた立ちくらみはすぐに鎮まった。

 夕食は何事もなく終わり、食器の片付けを済ませた後、お風呂の準備を整える。湯浴みの順番は最初にヴォルフ坊ちゃんと私、次にダザリーヌとアヴェロアナと決まっている。

 就寝前に戸締りを確認して、私はヴォルフ坊ちゃんの寝室で同衾どうきんする。

 一緒のベッドで寝るのはセックスをするためでもあるし、ヴォルフ坊ちゃんのお世話がしやすいからだ。両足がないから自力では歩けない。車椅子はあるけれど、望む方向に車輪を転がす腕もないのだ。

(私は――)

 主寝室の暖炉に視線が吸い寄せられた。燃え盛る薪がパチパチと音をあげている。思い出す。帝都の酒場で仲間達と暖炉の近くで語り合った。店主に促されるまで居座った。酔っぱらった私の肩を支えるがいる。

 ふざけるな。とは誰だ?

 私には御主人様しかいない!!

 私の身体に触れてよい殿方はヴォルフガング・ゴットフリート・レーヴェ卿だけだ。私に恋人はいない! 帝都の婚約者など存在してはならない! 

(私は――)

 娘達が寝静まった深夜は大人の時間だ。

 いつものようにヴォルフ坊ちゃんとの純愛セックスで忘れさせてやる。

 今度こそ、誰にも邪魔されずに性交を愉しもう。私はベッドで騎乗位セックスを堪能する。

 メイドの願いは御主人様の赤ちゃんを妊娠すること。ヴォルフ坊ちゃんと毎晩の営みで子作りに励んでいる。

 性奉仕に集中しなさい。下らない妄想だ。メイドの使命を果たせ。

(――違う! 私は冒険者だ!!)

 溢れ出た主人格の記憶を引き裂く。

 私はレーヴェ家の使用人。ヴォルフ坊ちゃんにお仕えするメイドだ。

 冒険者であったのは過去。もはや忘れ去られるべき過ぎ去った経歴だ。いや、違う。消してしまえ! 私は冒険者なんかではなかった。ずっとレーヴェ家の使用人。生まれながらに忠実な奴隷メイドだ。

(――違う! 私はメイドなんかじゃない!)

 さっきからやかましい女だ。

 五月蠅い! 五月蠅い! 五月蠅い! 五月蠅い! 頭が割れそうだ!

 さっさと首を刎ねてしまえば良かった。

 この五月蠅い頭は、なぜ私に逆らうのだろう? レーヴェ家のメイドになれて幸せなはずだ。何が不満なの? 冒険者なんて社会の底辺! 組合に扱き使われる使い捨ての傭兵じゃない!!

 私のおかげで由緒あるレーヴェ家の従者になれたのよ。

 可愛い赤ちゃんだって産めるわ。優しい御主人様! 愛らしい娘達! 暖かな家! 美味しい食事! 裕福な生活! お前は何も不自由していないわ!!

 与えられたに満足すべきだ。喚きたてるな! 黙りなさい!

(――貴様こそ黙れ! 化け物め! 私の身体から出ていけ!)

 こんなことは初めてだ。私の意識が押し出される。憑代よりしろになった女は喚き続けている。

 腹立たしい! 脳髄を潰したくなる!

 忘却の彼方に追いやった過去が蘇る。

 夕食の自分語りをしたせいだ。過去を掘り起こしが、目覚めの切っ掛けになった。

「私は――」

 やめろ! 戯言を抜かすな! 黙れ! 忘れてしまえ! お前はレーヴェ家のメイドだ!! ヴォルフ坊ちゃんの手足になれ! 奴隷女に頭はいらない!!

 御主人様の前で私に恥をかかせる気なの!?

「――私は母さんを探しに来た」

 カレンティアの自我をあなどっていた。このままでは肉体の主導権を奪われてしまう。

 私は今になって後悔する。

 この女の首をねて、氷漬けにするべきだった。なんたる手抜かり……! 痛恨の失策……!! この美貌でヴォルフ坊ちゃんを愉しませたかった。私は判断を誤った。

「あぁ……♥︎ んぅっ……っ♥︎」

 最悪だ。肉体を奪い返された。

 私が味わうはずだった絶頂をこの女が盗んでいる。

「はぁはぁ……。うっ……。頭が痛い……。なにこれ……。そうじゃなくて私は……? なんで、こんなこと? ここは? どうしてヴォルフガングさんとセックスしぃっ……んぁっ♥︎」

 ヴォルフ坊ちゃんのオチンポが射精していいのは、私のオマンコだけだ。それをこの女はっ……!! 憎い! 憎い! 憎い! 殺してやりたいわ……!!

 ――私の御主人様を寝取るんじゃぁないっ!!

【第1話】レーヴェ家の娘達、長女ダザリーヌと次女アヴェロアナ

「ダザリーヌ! 御主人様の書斎に入って来るときはノックをしなさいっ! いっ、いつも言っているでしょう!」

 叱りつけた勢いで我が身の痴態を誤魔化す。心臓の鼓動が跳ね上がっていた。頭が真っ白になった後、大慌てで恥部を隠した。

 はだけさせていたメイド服の上衣を直す。ボタンを閉めて乳房を収納する。焦ってボタンがなかなか閉まらない。

(まったくもう! 困った娘だわ……!! 誰に似たのかしら……!? あらやだ……! ボタンを掛け間違てしまったわ!)

 脱ぎ捨てた下着が床に転がっている。そちらは回収する余裕がない。

「そうだった! またノックするの忘れちゃった。ごめんなさい。お母様。てへ♪」

「てへ♪ じゃありません!」

「だってー。お腹すいちゃったのー! ぺこぺこー!」

 私をお母様と呼ぶ幼女は、四年前に生まれたヴォルフ坊ちゃんの娘ダザリーヌだ。天真爛漫てんしんらんまんで、寝ているとき以外は春風のように飛び回っている。

「子供部屋に戻っていなさい。すぐに夕食を作って差し上げますから」

「はーい。ところで、お母様? お父様と何してるの?」

 私の顔は引きつった。子供は遠慮を知らない。

 幼女の好奇心を刺激してしまったらしい。性的知識が皆無なダザリーヌは、私とヴォルフ坊ちゃんが何をしているかなど、察せられるわけがなかった。

(あぁっ! もうっ! もうっ!! ど、どうしましょう? まずはヴォルフ坊ちゃんにオチンポを引き抜いてもらって……。いいえ、結合部はスカートで隠れているわ。これならオマンコに挿入しているとは分からない。だったら、このまま誤魔化してしまえ……!)

 深呼吸で平静を装う。車椅子に座るヴォルフ坊ちゃんは現実逃避で、窓の外を無言で眺めている。顔色は熟れたリンゴのように真っ赤だ。

 きっと私も同じ顔色になっている。

「私は御主人様を人肌で温めているのですよ。冷たい風が入って来るから、扉を閉めて出ていきなさい」

「お父様。寒いの?」

 ダザリーヌは書斎から出て行こうとしない。

(――あっ。これは不味い)

 いい具合に誤魔化せたと思ったのに、私は言い訳をしくじった。

「私も手伝うわ! 寒がりなお父様を温めたい!」

 長女のダザリーヌは絶望的に察しが悪い。次女のアヴェロアナだったら、今頃は空気を読んで出て行ったはずだ。

 私はどうしたものかとくびさする。

「……お姉ちゃん。……ダザリーヌお姉ちゃん。お父様とお母様が困ってる。勝手に書斎に入ったらダメなんだよ」

 アヴェロアナがダザリーヌの手を掴んで引っ張った。三歳の妹、四歳の姉。一つ違いの姉妹は妹のほうが年上に見えてしまう。

「アヴェロアナ、良いところに来てくれたわ。ダザリーヌを連れて行ってくださいね。早く書斎から出ていきなさい」

「はい。……お母様」

「えー。ちょっと! ねえ。引っ張らないでー。アヴェロアナちゃん」

「こっち。お姉ちゃん。行こう。お母様に怒られちゃう。にも叱られるよ」

 アヴェロアナの控え目な性格は、元気過ぎる姉の反動かもしれない。だが、言われた通りに動いてくれる。私としてはありがたい。三歳児とは思えぬ聡明さだ。

 ダザリーヌも賢い娘である。けれど、素行に結び付いていない。

 娘達は書斎を出ていき、ドアが閉じた。廊下で騒いでいる声が聞こえる。

 私とヴォルフ坊ちゃんは、示し合わせたように安堵の溜め息をついた。

吃驚びっくりしたよ。心臓が飛び出すかと思った。セックスの現場を娘達に見られるところだった」

「メイド服のスカートを脱がなかったのは正解でしたわ。……書斎の扉にも鍵が必要ですね」

「そうかもしれない」

「まぁ……大人になったら私とヴォルフ坊ちゃんが何をしてたか気付くと思いますよ」

「やっぱ見られたかな?」

「はい。ダザリーヌにはオッパイ丸出しの痴態をがっつり見られちゃいました」

 子供に見られて、私とヴォルフ坊ちゃんはすっかり興醒めしてしまった。

 このまま子作りを続ける気になれず、挿入状態のオチンポを引き抜く。結合が解除され、オマンコは名残惜し気にぬぢょりと粘液の細糸を引いている。

「お掃除フェラをいたしますわ」

 舌先でヴォルフ坊ちゃんのオチンポを綺麗に舐め取る。私はセックスの終わりにフェラで淫行の汚れをお掃除する。

「んぅっ♥︎ んぢゅぅぅうっ♥︎ んぢゅっ♥︎ んぅっうお゛っ……♥︎」

 尿道の残滓を吸い出していると、ヴォルフ坊ちゃんは射精し始めてしまった。口内に苦甘い精液が広がる。私は頬を膨らませて、舌で掻き混ぜる。飲み干すコツは唾液を含ませること。

「んふっ……♥︎ んあぁぁ~~ぁっ♥︎ ごくっんぅ♥︎」

 私は口を大きく開いて見せつける。舌に貯めた精液を一気に嚥下えんげした。本当は子宮に収めたかったが、娘達の乱入が入ってしまってはしょうがない。

「それでは夕食の支度をしてきます。何かあればお呼びください」

 ヴォルフ坊ちゃんの乱れた服装を整える。二度の射精で萎んでしまったオチンポを優しく脚絆ズボンにしまった。

「ありがとう。本当に……。でも、必要以上に尽くさなくていいんだよ。僕はここで静かに暮らすだけで幸せだ。こんな不具の身体じゃ、奥さんだって娶れない。だというのに、可愛い娘達を与えてくれた」

「坊ちゃん……?」

「僕は人生の高望みをしていないんだ。復讐だとか、失ったものを取り戻すだとか、人並以上になりたいだとか……。欲張りは性に合わない」

「私は強欲な女かもしれませんね。御主人様の望みを叶え、御家を繁栄させたいですわ。ヴォルフガング・ゴットフリート・レーヴェ卿の手足となる。隷属の誓いは永遠に……。忠実な手足としてお仕えいたしますわ」

 子宮に両手を添える。御主人様の精子を授かった胎。懐妊が待ち遠しい。ひたすらに愛おしいのだ。

(三人目の娘が産まれたら次は四人目……。レーヴェ家の子供に相応しい首を探さなければいけないわ)

 荘園の農民からは選ばない。レーヴェ家の領民を生贄にすればヴォルフ坊ちゃんが悲しむ。それに、たった二〇〇人程度の閉鎖的な田舎で失踪者が出たら怪しまれる。

 ――かといって、隣町の人間を使うのはしゃくだ。私は町の奴らが好きになれない。

 危険リスクも大きい。大きな町には小賢しい聖職者がいる。司祭どもは私の正体を見破る。

 既に一度、手痛い失敗を犯した。あれは四年前、ちょうどダザリーヌを産もうとしていた時期だ。知り過ぎた司祭は、自殺に見せかけて始末した。けれど、新しい司祭がもう赴任している。

 二度も続けて殺せば、いくら間抜けな教会でも気付く。手荒な手段はもう使えなくなった。

(次も遠方から誘き寄せた人間を使う。もちろん、誰でもいいわけじゃないわ。善し悪しはとっても大切。レーヴェ家のかおとなるのだから……)

【0話】レーヴェ家の爆乳侍女カレンティア

 レーヴェ家は帝国辺境の田舎貴族だ。

 貴族といっても爵位序列は最下位の准男爵。治める土地は二〇〇人程度が住む荘園のみ。厳冬期は豪雪に悩まされ、雪解けになると泥濘ぬかるみの悪路が往来を阻む。厳しい環境の土地柄であったが、レーヴェ家の荘園は裕福だった。

 レーヴェ家はリンゴ栽培の成功で財を築いた。蜜入りの熟成リンゴは高値で商人達に買い付けられ、近年着手した酒造も荘園の大きな収益源となった。これからもレーヴェ家は大きく発展していくだろう。

 メイドの私はご立派な御家に尽くせることが心底誇らしい。

「坊ちゃん。寒くはないですか?」

 書斎の窓辺で、御主人様は雪景色を眺めている。私も家事が一通り済んだので、温かい紅茶を飲みながら休憩していた。

「大丈夫だよ。僕はこんな身体だから、手足の冷えをまったく感じない。不便の多い身体だけど、こういう寒い季節は便利かな。ああ、でも、君には大きな迷惑をかけているけれどね」

 御主人様の自虐的なたわむごとにどんな反応を返すべきだろうか。メイドの私は悩む。結局、誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

「そのようなことを仰らないでください。迷惑だなんてとんでもない! 私はヴォルフ坊ちゃんのお世話ができて幸せです」

 嘘偽りない本心だ。

 ヴォルフ坊ちゃんは私が愛する御主人様。

 五年前に起きた本邸の大火事で、レーヴェ家の一族と使用人は全滅した。生き残りは御子息のヴォルフガング・ゴットフリート・レーヴェ。私が愛するヴォルフ坊ちゃんだけだった。

 ヴォルフ坊ちゃんは大火に見舞われた本邸から逃げ出し、中庭の古井戸に逃げ込んだ。何とか一命を取り留めたものの、手足欠損の代償を支払った。

「幸せか……。そう言ってくれるなら……。美人なメイドにお世話されている僕も幸せ者だ」

 両手両足の無い青年は悲しげに微笑む。

 あの大火事から五年……。レーヴェ家の使用人は私だけになってしまった。

 ヴォルフ坊ちゃんのお怪我は癒えた。けれども、失われた手足は未来永劫、けっして治らないのだ。誰かがお世話をしなければ、ヴォルフ坊ちゃんは生きていけない。

(あぁ……。坊ちゃん……♥︎ 小さくて可愛い坊ちゃん……♥︎)

 腕利きの大工職人に特注で作らせた車椅子は座り心地が良さそうだ。ヴォルフ坊ちゃんも気に入ってくれている。しかし、誰かが押してあげなければ車椅子は動かない。

 ヴォルフ坊ちゃんは常に私を必要としているのだ。

「外は強く吹雪いていますね。……今年の冬ごもりは長引きそうです」

 私は火力が弱まった暖炉に薪木を放る。暖炉は建物全体に熱を供給する心臓部だ。冬ごもりの間、暖炉では炎が激しく踊り続ける。

「村の皆は大丈夫かな」

 心優しいヴォルフ坊ちゃんは領民を心配している。

 吹きつける雪風が窓枠を揺さぶった。二重窓が冷気の侵入を阻み、私達の住む小さな館は、居心地の良い暖気で満たされていた。荘園の人々が住む家は、ここまで充実していない。

「荘園を任せている村長が上手くやっていますよ。冬の備えに抜かりはありません。新しく取引を始めた行商人から、安値で薪木を買い込んだと聞きました。隣町の商人が悔しがっていたそうですよ」

「僕は隣町と仲良くしたいのだけど……」

「隣町の出方次第ですね。奴らは昔からレーヴェ家の荘園を狙っていました。いいですか、ヴォルフ坊ちゃん! 外の人間に心を許してはなりません! 五年前に起きた大火事は、町の人間が仕組んだことに違いないのですから……! 奴らは酷い人間達ですわ!」

「そうかもしれない。でも、父さんは死ぬ前に言ってたよ。町の存在がなければ僕らの生活は成り立たない。荘園で働く村人達だって、元々は町から移り住んだ人達なんだ。外の血を取り入れなければ、レーヴェ家は先細っていく……」

「先代の御言葉は正しいです。しかし、性急であったことも否めません。外から血を取り入れるのなら、血の善し悪しを見定めるべきでした」

 私とヴォルフ坊ちゃんは本邸が焼け落ちてから、別邸の闇樹館あんじゅかんで暮らしている。初代当主が建てた旧館は作りこそ古いものの、建材に堅牢な古樹がふんだんに使われており、厳しい冬の積雪に耐える、自慢の棲み家だ。

 ――私はお世話をしなければならない。

 ――私は御主人様を心の底から愛している。

 ――私はヴォルフ坊ちゃんの手足となって、レーヴェ家にこの身体を捧げる。

「レーヴェ家の血筋を後世につむいでいかねばなりません。当主の御役目です。あぁ……♥︎ ヴォルフ坊ちゃん♥︎ 寒い冬は人肌が恋しくなりますね? ふふっ……。ご奉仕の許しをいただきたく……♥︎」

 胸元のボタンを指先で外す。豊満な乳房でヴォルフ坊ちゃんの性的興奮をいざなう。ブラジャーを外し、ショーツを脱ぎ捨てる。メイド服を半脱ぎに着崩し、硬くなったオチンポに寄り添う。

「本気なんだね」

「私はいつだって本気マジです。ヴォルフ坊ちゃん」

「僕らにはもう娘が二人いるんだよ。だって……」

 ヴォルフ坊ちゃんは顔を赤らめて、恥ずかしがっている。

 私は構わずに脚絆ズボンを脱がせた。痛々しい四肢欠損の身体でも、立派な男子の生殖器だ。つオチンポは我慢汁のしずくで濡れていた。

「それなら私の胎でを作りましょう。ヴォルフ坊ちゃんの可愛い赤ちゃんを産む準備は出来ています♥︎ 性奉仕のご許可を♥︎ さぁ♥︎ 遠慮なさらず♥︎ このオマンコにオチンポをお挿れください♥︎」

 車椅子に跨った私は陰唇を亀頭に押し当てる。

 今すぐに腰をおろして、膣道に挟み込んでしまいたい。だが、御主人様の許しは必要だ。私はレーヴェ家に仕える忠実なメイド。合意なき性交は許されない。

「――それはの本心?」

 ヴォルフ坊ちゃんは肘先ひじさきで私の頬を優しく撫でてくれた。

 右腕はひじまでしか残っていない。左腕はもっと短く、二の腕が半分だけ。何かを掴むことも、持ち上げることもできぬ不具の矮躯わいく。作り物の義手をこしらえたところで、見栄えを取り繕うことしかできない。

「繋がれば分かることですわ。私の膣内なかをオチンポで探ってください♥︎ お願いします♥︎ ヴォルフ坊ちゃん♥︎ さぁ、私を抱いてっ……♥︎ 愛し合いたいの♥」

 坊ちゃんの額頭おでこに接吻する。乳房をこすり付けて、淫艶な媚肉の香りで誘う。理性のたがはお互いに限界だった。

(孕みたい♥︎ レーヴェ家の赤ちゃんを産みたい……♥︎)

 私の胎はヴォルフ坊ちゃんの赤ちゃんを授かるために在る。

「分かった。いいよ。僕も君を愛してる」

 愛欲を超越した主従関係。私はヴォルフ坊ちゃんのオチンポを迎え挿れる。膣汁で濡れた柔らかな肉襞を押しのけ、亀頭のカリが子宮に向かって進む。

「あぁっ♥︎ んぁっ……♥︎ あぅっ……♥︎」

 オチンポが根元まで食い込んだ。私の全体重が加わり、車椅子の木製車輪がきしむ。勢い余ってひっくり返らないように注意する。ブレーキのレバーが固定されているのを確かめてから、ゆっくりと腰を前後に躍らせる。

 ぢゅっぷっ、くちゅりっ、ぐぅぢゅりぃ、ぶぅぢゅぅるっ♥︎

 淫媚な水音を奏でながら、心身の交合が深まっていく。ヴォルフ坊ちゃんの逞しい男根が私の子宮口を塞ぐ。一気に引き抜き、臀部でんぶの重みを乗せて激しく挿れる。

 私は一心不乱にお尻を振った。

 吹き荒む雪風は強さを増す。私達の嬌態に共鳴しているかのようだった。

「あんっ♥︎ んんうっ♥︎ あふっ♥︎ あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ あんっ……♥︎」

 ヴォルフ坊ちゃんはオッパイが大好きだ。私の乳輪をペロペロと舐めている。乳離れできていない子犬のような愛らしさに、思わず口元が緩む。

「んふっ♥︎」

 きっと奥方様が恋しいのだろう。五年前の大火事でレーヴェ家の御夫妻は命を落とした。死んでしまった家族を蘇らせることはできない。だが、新しい家族を作ることはできる。

(可愛い坊ちゃん♥︎ あぁ、可愛いわ♥︎ 本当に可愛い♥︎ とっても可愛い♥︎ 食べちゃいたい……♥︎)

 私は膣を引き締める。喜悦の絶頂に達し、火照った子宮が震える。鍛えた腹筋がピクつき、脈動する男根を搾り上げる。

「ヴォルフ坊ちゃんぅっ……♥︎ 私の膣内なかにっ♥︎ 濃い精子を注いでっ♥︎ はぁっはぅう~~♥︎ 胎にレーヴェ家の遺伝子を植え付けてぇっ♥︎ イっくぅっ♥︎ イくっ♥︎ イくっ♥︎ イくっ♥︎ イくっ♥︎ イくっ♥︎ イくっ♥︎ あぁ~~♥︎ あひぃっ♥︎ イっぢゃうぅうっ~~♥︎」

「んっ……! くぅっ……! 出るっ……!! 出ちゃうっ!!」

 膣圧を退けて、勃起オチンポが力強く脈打つ。元気な精子が子宮に解き放たれた。雄々しい遺伝子が私の卵を求めて泳ぎ回る。

 ヴォルフ坊ちゃんの両脚は太腿までしか残っていない。踏ん張りがきかない下半身で、私のオマンコを突き上げてくれる。感涙を抑えきれなかった。私は幸福の絶頂にいる。悦びのあまり、首が捩じ切れそうだった。

「んふっ♥︎ くふふっ♥︎ はぁはぁっ♥︎ はあぁっ~~♥︎ なんてご立派……♥︎ カレンティアのオマンコは坊ちゃんのオチンポに夢中ですわ……♥︎ ほぁらぁ♥︎ 子宮が精子を吸い上げてるっ……♥︎」

「はぁはぁ……。赤ちゃん……できたら……。どうするの? 君を愛してるけど、出産するには……」

「ヴォルフ坊ちゃん。そんな心配はおやめください。メイドが御主人様に身を捧げるのは当然ですわ。それと、今はカレンティアとお呼びになって……♥︎ そのほうが馴染なじみますわ」

 ヴォルフ坊ちゃんの唇に人差し指をあてる。私は書斎の鏡を見た。主人と交わる淫らなメイドが映っていた。優雅な白金髪と精緻せいちな美貌が気に入っている。私とヴォルフ坊ちゃんの娘に相応しい。女盛りの若々しい肉体は稚児ややこを欲している。

 毎夜、ヴォルフ坊ちゃんとの逢瀬は欠かしていない。遠からず私の胎には生命が宿り、念願の母胎となるだろう。豪雪で閉ざされている間は誰の邪魔も入らない。

「今晩の夕餉ゆうげは何かな」

 射精で体力を使って、ヴォルフ坊ちゃんはお腹が空いてきたようだ。私の乳首を甘噛みしてくる。けれど、母乳を飲ませてはあげられない。まだ子供を一人も産んでいない身体だ。

「ヴォルフ坊ちゃんが大好きなポークシチューの予定です。夜も頑張れるように……♥︎ あんぅっ♥︎ んんぅっ……♥︎ あんっ♥︎」

 ピンっと背中をらし、上下運動に媚体を揺さぶる。食材の仕込みは済ませてある。凍らせた豚肉は暖炉ですぐに解凍できる。もう一回戦くらいは楽しんでもいい。

「続けるの?」

「ヴォルフ坊ちゃんもそうでしょう。オチンポは素直ですわ。私を孕ませがっている……♥︎ やっぱり若女の身体は抱き心地が違うのかしら? 張りのある大きな乳房、引き締まった腹回り、それでいながらお尻もふっくらしておりますものね。ふふふふっ♥︎」

「からかわないでよ。それじゃ、僕が好色貴族みたいに聞こえる」

 ヴォルフ坊ちゃんは肘先で私の爆乳を小突く。家事では邪魔になる大きすぎる乳房だ。けれど、子育てではきっと役立つ。懐妊したあかつきには、さらに成長する予感を覚えた。

 大瓜おおうりと見間違える豊満なオッパイ。これは未開花のつぼみだ。女から母になったとき、乳房は一段と膨れ上がる。孕み腹の母胎となり、赤ちゃんを産み落とす日が待ち遠しい。

「あぁぁんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ んぁあぁっ~~♥︎」

 甲高く嬌声をうめく。溢れだした精液と膣汁が泡立ち、汗ばんだ結合部から淫臭が立ち昇る。汗で湿った生肌から雫がしたたれた。

(あぁっ♥︎ あとちょっとでイくっ……♥︎ ヴォルフ坊ちゃんの射精に合わせてアクメしたいっ♥︎ 我慢……我慢に我慢して……解き放つ……♥︎ この快感♥︎ 病み付きになるっ♥︎)

 私は歯を食いしばって、快感の荒波に抗う。セックスの佳境に差し掛かった、まさにその時だった。

 ――書斎の扉がバンッと勢いよく開き、元気いっぱいの愛娘が飛び込んできた。

「お母様! ごはん! ごはんっ! ごはんっ!! お腹が空いちゃった!! ……お母様? お父様? なにやってるの?」

 セックス中の両親を目撃し、無垢な幼女は両目をきょとんと丸くしている。

無貌侍女の館 ~四肢欠損のお坊ちゃんが首無しメイドで美女ハーレムを築いて孕ませまくる伝奇猥譚~

~四肢欠損のお坊ちゃんが首無しメイドで美女ハーレムを築いて孕ませまくる伝奇猥譚~

レーヴェ家に仕えるメイドは、四肢を失った坊ちゃんを溺愛している。一人では生きていけない御主人様の手足となり、衣食住のお世話から性処理までこなす完璧な使用人である。

お世継ぎを産むのも大切な御役目。豊満な爆乳で情欲を煽り、完熟のオマンコで坊ちゃんのオチンポを搾精する。二人の愛娘も誕生し、若君と侍女は帝国辺境で幸せな主従生活を送っていた。

――しかし、レーヴェ家は闇に包まれた秘密を孕んでいた。

女冒険者カレンティアはこの四年間、失踪した母親を探している。そんなある時、亡父の墓前で結婚指輪を捨てていった妊婦が目撃された。

なぜ母親は姿を消してしまったのか? 行方不明となった母親はどこにいるのか? 素顔を隠した妊婦は、なぜ母親の結婚指輪を持っていたのか?

謎を追うカレンティアは、呪われたレーヴェ家の館に辿り着く。

出迎えてくれたメイドは、四年前に消えた母親そっくりの爆乳熟女。けれども、確証は持てない。その面貌は真っ黒な黒騎兜で覆い隠され、別人のように振舞う。

母親とよく似たメイドは臨月のボテ腹を嬉しそうに撫でる。

四肢欠損の坊ちゃんとのセックスで授かった赤ちゃん。レーヴェ家では三人目の娘が誕生しようとしていた。

PDF配布

メンズゴールド 2025年09月号(表紙:MON-MON)

リイド社『メンズゴールド』
(奇数月10日頃)

ムチ盛り肢体を揉んで搾って噛み締める‘熱盛獣欲’号♪

【今号の表紙】
MON-MON

【コンテンツ】

●『美人母娘メス穴ご奉仕』MON-MON
新体操クラブのコーチをやっていると、いいこともあるもんだ。娘の食事指導をしてたら巨乳人妻とヤレるわ、その娘も実は俺のことが好きで、母と一緒に迫ってきて…?

●『妹兄妹 〜絡み合う愛欲〜 第4話』まひるの影郎
兄妹としての一線を越えた、教師・秋人と女子校生の千夏。校内で、挑発的なスキンシップをとろうとしてくる千夏に、秋人は翻弄される。その様子を、千夏の友達の菜々が見ていて…??

●『函ノ妻 五両目』唄飛鳥
悪童たちに凌●された感触が、身体の芯まで染みついてしまった紘子。鎮まらぬ性欲を鎮めるべく、夫の元へ向かう途中、子ども部屋に明かりがついていることに気がつく。中では息子がオナニーをしていて…!?

●『奥様マッサージ』かわもりみさき
出張マッサージを呼ぶことにした奥さまと旦那さん。現れたのは、怪しげなマッサージ師と、カタコトの日本語をしゃべるミントちゃん。マッサージ師は、奥さんをスケスケマイクロビキニに着替えさせて…??

●『新性紀へのヴィジョナリィ』三木大路
AI生成でお手軽に動画を作って遊ぶのが好きなまゆちゃんと瑠璃。しかし、瑠璃は少し方向性が違っていて、お金になるからと、AV女優の顔をまゆちゃんの顔に変換したりすることを提案してきて…!?

●『リターンズ!!!! 僕をさらにダメにするNTR肉オナホ』ドリルムラタ
悠一・つぐみ夫妻と食卓をともにする、つぐみの姉・みやび。みやびは机の下で、悠一の制止もお構いなしに容赦なく足コキを仕掛けてくる。夜、みやびは悠一の怒張したイチモツにしゃぶりついて…?

●『シャドウ 〜退職代行の罠〜』ふぉんてぃん
日中は口だけ上司に翻弄され、終業後の社内では、部長に犯●れる鷺沢さん。ついに我慢の限界を迎え、退職代行サービス活用で退職を決行! 束の間の安寧を味わっていたら、誰かに見張られてる気がして…??

●『夏の終わりのかげろう旅行』滝れーき
ブログで知った、「失恋の傷」に効くという温泉がある宿に宿泊することにした浦野さん。早速、露天風呂を楽しんでいたら、少年のように若い男のコが入ってきて…?

●『ヒロイン志願』ゆうじ
大好きな彼氏のために、苦手なコスプレに挑戦するアキちゃん。アニメと全く同じと喜ぶ彼氏だが、本当のあたしも見てほしいと、アキちゃんは不満。そんななか、コス衣装が破けてしまい…??

●『ラッキーな一日』茜しゅうへい
ナンパ師のタカシに声をかけてきたのは、熟女コンビの友美と美紀。すぐさまホテルに直行し、好みのムチエロボディにむしゃぶりつくタカシ。2人もノリノリなのだが…?

●『美人女上司を犯る!』ムラタ。
美人女上司、滝沢さんに憧れる新人の武田くん。資料室を覗いたら、ハゲ部長に爆乳を揉みしだかれている滝沢センパイの姿が! 部長から、一緒にどうだ?と誘われた武田くんは…。

●『ダメなのに…あと戻りできなかったムラつき話』八月薫
実話投稿漫画の雄・八月薫が描く、一般読者の淫猥体験談シリーズ! 一風変わった出逢いの形を描き下ろし掲載!
【第9話/箱詰めの女たち】夜中、帰路についていたら、段ボール箱に詰まった女の尻を見かけた奥田くん。夢中になって撮影してたら、後ろから声をかけられて…?

表紙イラストMON-MON
執筆陣MON-MON,まひるの影郎,唄飛鳥,かわもりみさき,三木大路,ドリルムラタ,ふぉんてぃん,滝れーき,ゆうじ,茜しゅうへい,ムラタ。,八月薫
価格1,100円(税込)
発行日2025/09/09