「ほほう。人間社会では貴族・平民・奴隷などの身分制度があると⋯⋯。しかも、種族本能に基づかず、血統や経済的な豊かさで決まる⋯⋯?」
ルミターニャは矢継ぎ早に質問され続けていた。
「ふむ。ふむ。血統は分かります。我々の世界では血統が全てです。しかし⋯⋯資産⋯⋯? 不可解ですな。金で地位が買えるのですか?」
相手は大幹部の一柱グサインである。
その姿は完全な不可視。グサインが族長を務めるインビジブル族は存在しているが、視覚的に捉えられない透明な種族だった。
絶命したとき、初めて実体を視認できるという。
「社会的な地位は生まれで決まります。でも、こちらのように種族的な性質ではなくて、生活上の⋯⋯、えっと、その⋯⋯、慣習? 伝統みたいなものです」
ルミターニャの説明は拙い。牧場の娘だったルミターニャは家畜の飼育方法を知っているが、その他については無知だった。
「だから、お金持ちの商人が爵位を買うこともできると聞いています。その⋯⋯上手く説明できなくてごめんなさい」
魔族は出生で全てが決まる。魔王は生まれながらに〈王〉だ。
オロバスが馬頭鬼の魔族君主、族長であるのも生まれたときに決まっている。
そして、血統は絶対だ。地位に相応しい能力と資質を必ず備えている。
人間は違う。王が奴隷に落ちぶれることもあれば、奴隷が王に成り上がることもある。人は生まれながらに〈人〉なのだ。
地位は後付け。それが自力で得たものにしろ、与えられたものにしろ、何者かに奪われ、あるいは奪ってきたのが人間の歴史だ。
「爵位さえも金で買える⋯⋯。ふむ。興味深い文化です。ルミターニャさんは平民であったそうですね?」
「はい。私は牧場で働いていた平民です。難しいことは分かりません。身近な範囲でしか⋯⋯。あの、グサイン様。私じゃなくて、もっと物知りな方にお聞きしたほうが良いかと思うのです」
「捕虜からも人間の社会生活について聴取しています。しかし、自発的に提供された情報が一番正確で信頼できるのですよ」
文官であるグサインは人間社会の研究をしている。
グサインはルミターニャと何度も面会し、根掘り葉掘り、人間の生活史について訊ねていた。
インビジブル族は好奇心が旺盛で、未知の解明に全力を注ぐ。彼らにとって人間の社会構造は興味深いテーマだった。
もちろんオロバスの許可は得ている。聞き取り調査を行っているのは、馬頭鬼の本拠地であり、ルミターニャが暮らしている大屋敷。
太陽光が降り注ぐバルコニーで、グサインはアイスコーヒーを嗜む。
穏やかな雰囲気で会話は弾む。グサインの姿はルミターニャの目に映らない。だが、何かがいるという気配は感じ取れる。
「あの。その⋯⋯。私の話⋯⋯。お役に立つのでしょうか?」
「ルミターニャさんがあちらへ帰られる前に、人間社会の情報を少しでも多く保存しておきたいのです。ご協力をお願いいたします」
魔族というと粗暴だと思われがちだ。だが、実際は価値観が異なるだけだ。
どんな魔族であれ、対話はできる。魔族は人間より遥かに長い寿命を持つ。人間と同等以上の知能が魔族にはある。
——しかし、人間と分かり合えるかは別だ。
「次に人間の夫婦関係はどうなっていますか? 魔族の社会では族長たる君主と正妻が後継者を作ります。魔族同士で生まれた子供は魔族です。しかし、魔族と獣魔の子は獣魔、当然ならが獣魔同士の子も同様です」
饒舌なグサインは、魔族社会における夫婦関係を説明する。
たとえば馬頭鬼族は族長が旺盛な性欲を持ち、ハーレムを形成する。だが、正妻は必ず一匹だけ。正妻だけが跡継ぎを産める。
族長以外の雄達も結婚し、子を儲ける権利を持つ。しかし、族長のように大人数のハーレムを作ることはない。
「——馬頭鬼族は族長の子とも交わります。既婚者であれど、族長の子となら不義にはあたらないのですよ。面白い性文化です」
ルミターニャが産んだ子どもの中には、他の馬頭鬼と交配を始めている者もいた。
性奉仕婦の産んだ子供であろうと族長の子である。オロバスの血を引いている。しかし、跡継ぎではない。いわば婚外子だ。そういう者達は勇猛な戦士の奉仕者となる。
「おそらく族長の血を濃くするためなのでしょう」
種族により異なるが、魔族君主は一夫多妻や一妻多夫だ。淫魔族のように決まったパートナーを持たず、奔放に子作りを行う種族もいる。
「人間社会では⋯⋯え〜と、王侯といった貴族の方々は、正妻と愛人を持つことがあると聞きます。ですが、教会の教えでは一夫一妻が正しい家族の在り方です。普通は夫と妻が二人一組で家庭を築きます」
「我々も停戦協定で何度もあちらの使者と対話し、貴族階級の暮らしぶりについての知識を身に付けております。社会の大多数を占める平民以下の人間達。彼らに対する理解を深めたいのです」
「平民ですか⋯⋯? それなら⋯⋯私のことをお話すればよろしいのでしょうか?」
「はい。ルミターニャさんは結婚されていましたよね? つまり夫婦となって、勇者エニスクを産んだ。そうですね?」
「はい」
「まずルミターニャさんのご両親について話してもらえますか?」
「私は牧場を経営している畜産家の一人娘です。父の一族が代々、故郷の土地で、牛馬や羊といった家畜を育てていました。私の母は隣村で働いていた農家の娘だったそうです」
「父君がヴァリエンテの血を引く者だったのですね」
「はい⋯⋯。でも、両親はまったく知らなかったはずです。両親からは何も聞いていません。普通の家系だと思っていました」
「魔族殺しの象徴たる一族が辺境で農場経営ですか? 似つかわしくありませんね」
「私達が特別な血統の一族であることは、きっと長い時間が流れている間に忘れ去られてしまったんです。先祖代々伝わる剣は切れ味が悪いので、居間の置物になっていました。でも、それが聖剣だったらしいです⋯⋯」
ヴァリエンテ家が経済的に困窮していたとき、聖剣を商人に売り払った者がいたという。しかし、なぜか売り払った剣は数日後に手元へと戻り、怒った商人と揉めた逸話が伝わっている。
(今にして思えば、ヴァリエンテ家の人間にしか扱えない聖剣だったからなのでしょうね⋯⋯)
ルミターニャは両親が年老いてから産まれた娘だった。
娘が一人前となるころ、老いた両親は先立ってしまう。娘の将来を不安に思った両親は、隣村の村長に相談した。
若い女が一人で牧場を経営するのはまず無理だ。そこで、村で生まれた同年齢の男児をルミターニャの許婚とした。ちょうど村では男児が2人産まれていた。
村長は先に生まれた男児をルミターニャの許婚に選んだ。
「父母は私が17歳のときに流行病で亡くなりました。夫と結婚したのはその前年だから16歳です」
「16歳で結婚? それは人間社会では犯罪にならないのですか?」
「人間社会だと15歳で成人ですから⋯⋯」
「なるほど、そうでしたね。人間は早熟かつ短命でした。どうぞ、続けてください」
「エニスクを出産したのは今から19年前⋯⋯。ですから、20歳手前だったと思います」
「最初の性交はいつ経験されましたか?」
「⋯⋯それも答えないとダメですか?」
「魔王様から人間の生活史を徹底的に調べろと命じられておりますので。性風俗についてもお願いいたします」
「その⋯⋯最初にセックスしたのは⋯⋯本当はダメなのですけど、夫と同棲を始めた15歳の秋です。収穫祭の日、納屋でお酒を飲んで、そのまま勢いで婚前交渉をいたしてしまいました」
「処女を捧げたのですか?」
無遠慮にグサインは質問する。
「はい。初めての相手は⋯⋯、処女を捧げたのは夫です」
本物の純潔は、愛する幼馴染みの夫に散らされた。しかし、若返りの秘薬で処女の肉体に戻ったとき、オロバスの巨根で破瓜を再び味わった。
(私の子宮に刻まれている本当の初めては⋯⋯)
ルミターニャは下腹部を擦る。オロバスの強引で乱暴な種付けは、夫との淡い色恋を塗り潰す。
「それからセックスの頻度は?」
「週1回程度です⋯⋯。夫に誘われたら、牧場の外れにある納屋でしていました。藁束を床に敷いて、そのまま抱き合ってセックスを⋯⋯」
「結婚後の性生活はどうでしたか?」
「両親が亡くなり、二人暮らしになってからは寝室で毎晩のように。私と夫は子供を欲していました」
ルミターニャは新婚時代を思い返す。
子作りに励み、懐妊を願うために教会でお祈りを捧げる日々。宿願の成就には、それから約3年の時間が必要だった。
「エニスクを授かって、私と夫は一安心しました。このまま子供を授かれないかもしれない。お互い⋯⋯、口に出しませんでした。でも、そんな不安を抱いていたのです」
「2人目を作ろうとは思わなかったのですか? 単純計算ですが、人口維持をするには夫婦が2人以上の子供を作らなければなりません」
「牧場の運営と幼い息子の育児で忙しくなってしまって、とてもそんな気力はありませんでした。夫とは月に数度はセックスしていました。でも、2人目を授かることはなかったのです」
「それ以後も夫婦生活での性事情は変わらず?」
「夫は淡泊でしたから。エニスクが10代になる頃、夫婦の営みは控えてました⋯⋯。私からも誘いませんでしたし⋯⋯。私自身、セックスに気乗りがしなかったのも原因です」
「なるほど、なるほど。肉体関係が希薄でも夫婦関係は続くわけですね。ちなみにですが、旦那さんを愛しておられましたか?」
「もちろんです! 私はあの人を愛しております。今だって⋯⋯おこがましいですが、夫への気持ちは変わっていないつもりです。たとえ⋯⋯このような身であったとしても⋯⋯」
ルミターニャは両手で隆起した下腹を撫でる。
ぽっこりと膨らむ子宮では、オロバスとの赤子が育っている。この4年間、ずっと妊娠していた。産み落としては犯され、孕まされる日々。腹に子を宿しているのがルミターニャの日常。
(⋯⋯⋯⋯私は⋯⋯どうして⋯⋯)
夫を愛していると宣うくせに、腹には仇敵である魔族の胤で宿した胎児。ルミターニャは罪悪感で顔を曇らせる。
無理やり犯されて孕まされたと言い訳できるのは最初だけ。今のルミターニャはオロバスとのセックスを楽しみ、自ら妊娠を望む淫女となっていた。
「ええ、そうでしょうとも! 呪いで名前が思い出せないくらいです。ルミターニャさんの愛情は本物だと思いますよ」
「⋯⋯⋯⋯」
性奉仕婦ルミターニャとなったとき、1つの呪いを授けられた。
最も愛する者の名前を忘れてしまう忘却の呪詛。
性奉仕婦に堕とされた4年前を境に、ルミターニャは夫の名前を思い出せなくなった。
逆にいえば、ルミターニャの最愛者は死んだ夫であり続けている。呪いの効果が消えたとき、夫への愛が途切れたことを意味する。
「捕虜となったルミターニャさんは、オロバス殿の性奉仕婦となり、子産みに励まれていた。夫婦は二人一組、魔族社会でもそうですが、人間社会でも姦通となりますか?」
「⋯⋯はい。本来なら許されざる罪です。オロバス様とのセックスは⋯⋯夫を裏切る不貞行為⋯⋯。私はふしだらな女です」
ルミターニャは人間社会の姦通罪を説明する。
魔族と人間、2つの世界で異なるのは罰せられる側だった。
「面白いですね。魔族の掟では、他人のパートナーや性奉仕者に手を出した者が罰せられます。襲われた側は罪に問われません。ですが、人間社会だと女、つまり雌のみが基本的な処罰対象? ところが地位や階級・所属などでも処罰対象や量刑が変わると⋯⋯? なんだか奇妙です。法治国家とは言い難い」
グサインは姦通が重たい罪だと聞いたうえで、さらに質問を重ねる。
「——今までの経験人数を教えていただけますか?」
ルミターニャと肉体関係を持ち、子を産ませた雄は一人と一匹。すなわち、二人と答えるべきだ。
「⋯⋯⋯⋯」
誤魔化すべきかとも考えた。だが、グサインは全てを見透かしたうえで、質問していると観念した。
「オロバス様も含めて4人います」
「ほほう。4人? 旦那さんに処女を捧げたのが15歳の秋。その後にオロバス殿の性奉仕婦となられた。こちら側に来てからは、オロバス殿とだけ肉体関係を持っていたはずです。オロバス殿を1人と数えても、残る2人はいつ、どこの誰ですか?」
「私の話は記録に残すのですよね?」
「はい」
「この話は⋯⋯。墓まで持っていくつもりでした。息子に、エニスクには知られたくありません」
「人間側には渡しません。あくまで魔王国の内部資料です。ご安心ください。ルミターニャさん」
「⋯⋯分かりました。懺悔だと思って過ちを告白します。24歳のとき、エニスクが風邪を引いて高熱を出しました。お医者様は村におらず、山を3つ越えた先の隣町にまで行かないといけません。夫は苦しむ息子を馬に乗せ、お医者様のいる隣町に駆けていきました」
移動手段はあった。牧場で飼っている馬を使えばいい。しかし、馬を使っても隣町まではかなりの距離があった。
「隣町のお医者様は『信じられない高熱で苦しんでいる。しばらく入院させる必要がある』とその場で夫に伝えたそうです。3日後、夫から送られてきた手紙には、『エニスクが入院している間、家に帰れない。牧場の力仕事はカインに助けを求めてほしい』とありました」
カインは村の衛兵だった。ルミターニャも昔からの顔見知りだ。
衛兵のカインは、ルミターニャの夫と同年の生まれであった。
もし1週間先にカインが生まれていればどうなっていただろう。おそらく村長はルミターニャの許婚にカインを選び、2人は夫婦になっていただろう。
そんな起こりえたかもしれない笑い話を何度もした。それほど親しい間柄だった。
「カインさんには奥さんがいました。夫婦仲は睦まじく、子宝にも恵まれていました。事情を話したら、夫が帰ってくるまで、泊まり込みで手伝ってくれると⋯⋯。カインさんの奥様も快諾してくれました」
幼いころから付き合いがあり、気心の分かる友人同士。
ルミターニャはカインの家族をよく知っており、家族ぐるみの付き合いをしていた。
「もしやカイン・デラーシュ? 確か勇者エニスクのパーティーメンバーのうち、二人はデラーシュ姉妹。つまり、彼の娘達ですね」
「はい。私の息子とデラーシュ家の双子姉妹は親しい間柄です。家出同然で冒険に出かけたときも、姉妹と一緒に旅立っていきました」
利発な姉妹だったとルミターニャは記憶している。とても頭の回転が速く、独学で魔術を学び、両親を驚かせていた天才姉妹。
「話が逸れてしまって申し訳ない。本題はカインさんでしたね。旦那さんが不在の間、カインさんが牧場の手伝いで寝泊まりをするようになった。そうですね?」
「私の牧場は村から離れた場所にあります。カインさんは衛兵の仕事を休み、私の牧場で寝泊まりしました⋯⋯。夫と息子が帰ってくる日まで手伝ってくれるはずだった⋯⋯」
一刻の共同生活。ルミターニャの夫は、まさか親友が自分の愛妻に手を出すとは考えなかった。親友を信頼していた。
ルミターニャもそうだった。カインは独り身ではない。家庭を持ち、エニスクと同年齢の双子姉妹もいる。
さらにいえば、下に2人の娘がいて、さらにもう1人の弟妹が数カ月後に誕生しようとしていた。
「⋯⋯この秘密は墓場まで持っていくつもりでした。夫とエニスクが隣町に出かけて不在だったとき、私とカインさんは不貞に及んでしまいました」
「お互いが合意のうえでの不貞行為? それともカインさんに襲われたのですか?」
「分かりません。分かりたくも⋯⋯ありません⋯⋯。⋯⋯カインさんが手伝いにきてくれて5日目の夜。お酒が大好きなカインさんにワインを振る舞いました。記憶が定かではないのですけど、酷く酔っていました。きつめの蒸留酒を飲んで⋯⋯」
「気付いたらセックスしていたと?」
「そうです。襲われた⋯⋯と思っています。私は酷く酔っていました。意識が混濁していて、確かな記憶がなかったのです。万が一にも私から⋯⋯誘ったのかもしれない。そうでなくとも勘違いさせるような言動をしていたら⋯⋯。そう思うとカインさんを責められず⋯⋯」
カインに押し倒され、下着を脱がされたおぼろげな記憶。初めて夫以外の男とセックスした生々しい体験。そして、拒絶しているにも関わらず、膣口から湧き出す愛液。
◇ ◇ ◇
「カインさんっ! やめてくださいっ!! こんなのいけなっ! んぁあっ⋯⋯!!」
夫婦の寝室。酒臭い二人の男女。興奮した男は勃起させた肉棒を無理やり捻じ込む。
「あっ⋯⋯! カインさんっ⋯⋯!! どうしてぇっ⋯⋯!?」
逃れようともがく。カインはうつ伏せのルミターニャをベッドに押し付ける。鍛え上げた屈強な衛兵の力だ。
カインの暴力をルミターニャは撥ねのけられない。
無防備な巨尻に無我夢中でカインは腰を打ちつける。夫とは違う形の男性器が膣襞を擦り上げる。
究極の暴力。女の尊厳を破壊する蛮行。信頼していた旧友は鼻息を荒くしてルミターニャの肢体に劣情をぶつける。
(犯されてるッ⋯⋯。いやっ! 私の膣内に⋯⋯カインさんのがはいって⋯⋯!!)
夫とは違う匂い。夫よりも太い腕。夫よりも荒々しいセックス。信頼していた友人に裏切られた衝撃。野獣と化したカインは、押し倒しているルミターニャに抱き付く。
「好きだった。誰よりも、今だって⋯⋯! ルミターニャ! 俺が結婚できたかもしれないんだ⋯⋯!! 俺があと一週間、早く生まれていれば、俺が⋯⋯ルミターニャの許婚に……!!」
「カインさんっ! やめてください! お願いです! 抜いてっ! だめっ! やめてえぇええーーっ!!」
「いいだろっ! 一回くらい! 俺はルミターニャとならっ! 頼むよっ!! 出すっ! 出すぞっ!! ずっと、好きだったんだ! ルミターニャ! 俺のっ! 産んでくれよっ……!!」
「いやっ! やだっ! 助けてっ!! だれかあぁああああああぁーーーっ!! いやぁあああああぁぁーー!!」
ベッドシーツを掴み、逃れようと足掻くルミターニャ。それを押し付け、無理やり膣内射精を遂げるカイン。
「たすけ……。んぁ……! あぁ……! いぁ……!!」
「好きなんだ⋯⋯! ずっと⋯⋯ずっと⋯⋯! 俺がっ、俺だって⋯⋯! 誰よりも⋯⋯。分かってくれよ! ルミターニャッ!!」
たった一度の射精でカインが満足しない。ベッドが軋む。無抵抗になったルミターニャを後ろから犯す。今まで我慢していた欲望をさらけ出し、股間から放出する。
(……この人じゃ……ない……! 私が愛してるのは……!!)
カインの男根は一方的な求愛を続けるが、ルミターニャの子宮は閉じたままだった。ヴァリエンテ家の女は、強い勇者を育もうとする退魔の子宮を有する。
——孕みたくない。
ルミターニャはカインを軽蔑する。強姦魔には屈しない。そして、ヴァリエンテの血脈もカインの子胤を望みはしなかった。
生涯でただ一度のチャンス。カインは全てを失う覚悟でルミターニャを犯した。しかし、精子が卵子と結びつくことはなかった。
貯えた精子を放出し終えたカインは萎んだ男根を抜いた。ルミターニャの膣口には生々しい白濁液の残滓があった。
「はぁはぁ⋯⋯! ルミターニャ⋯⋯。俺は⋯⋯ルミターニャが好きなんだ⋯⋯! だから⋯⋯!」
「早く⋯⋯出て行って⋯⋯!! 私の家から出て行ってください!!」
泣きじゃくるルミターニャは吐き捨てた。すっかり酔いは覚めていた。
「ルミターニャ⋯⋯。俺は⋯⋯」
「私の家から⋯⋯出て行って! ケダモノ⋯⋯!!」
◇ ◇ ◇
「その後、カインさんとの関係に変化は?」
「その日に帰ってもらいました。夫が帰ってきたら、全て包み隠さず言うつもり⋯⋯だった。けれど、私は⋯⋯勇気がなくて⋯⋯」
「襲われたことを言い出せなかったと⋯⋯?」
「はい。私はそれ以来、カインさんを避けるようになりました。でも、カインさんの奥さんが出産されて、そのお祝いでお宅に⋯⋯。もちろん夫と一緒に行きました」
「何か起こりました?」
「いいえ、何もありませんでした⋯⋯。カインさんは何ごともなかったかのように振る舞っていました。私は⋯⋯何も語らないことにしたのです。幸いというべきか、私はカインさんの子を妊娠していませんでした⋯⋯」
「確かに立派な不貞ですね。しかし、望まれて及んだわけではない。ありがとうございます。それで——次の不貞は誰とですか?」
「⋯⋯エニスクが村を飛び出て、魔王軍に包囲された王都を開放したあと、ヴァリエンテ家が特別な血統の一族だと判明しました。私を保護するため、騎士団が派遣されたのです」
「丁度そのころです。アスバシール殿が勇者の生まれ故郷を襲う計画を立てていました」
馬頭鬼の大君主アスバシールによる襲撃。ルミターニャの生まれ故郷は、勇者エニスクの育った思い出深い場所。人間側も魔王軍の来襲は想定していた。
「魔王軍の動きに勘付いた人間達は、ルミターニャさんの暮らす牧場に護衛戦力を配置した。当時の事情はそれなりに把握しておりますよ」
グサインは必要以上の情報を語らない。
参謀部に籍を置くグサインは作戦立案を担当していた。身内を人質とすることが有効であると魔王に進言したのもグサインであった。
ルミターニャの故郷を襲撃するように仕向けた元凶とも言える。
魔王軍の懸念。それはルミターニャが第二の勇者を産むこと。ただでさえ手を焼いている勇者がもう一人増えれば、戦況は悪化する。
「騎士団の皆さんは精鋭揃いでした。その中で騎士長を務めるロタールさんは飛び抜けて強い方だったそうです。ご本人はエニスクの足下にも及ばないと謙遜されていましたけれど⋯⋯」
「ロタール。聞き覚えがありますね。たしか⋯⋯あぁ! もしや右手がない騎士ですか?」
「はい。王都解放戦争で魔王軍の将軍に切り落とされたと言われていました」
「記録しております。双剣の猛将ロタール。そこそこ強い剣士であったとバルシオンが褒めていました。ああ、バルシオンは私の旧友です。利き手を奪ったのは彼なんですよ。たしか⋯⋯記念にするといって、剥製を玄関に飾っていましたね。おっと、失礼、余談でした。続けてどうぞ」
「利き手の手首から先を失ったロタールさんは、以前のように戦える身体ではありませんでした。それでも他の騎士よりも強かったそうです。けれど、私を護衛しにわざわざ来たのは⋯⋯」
「不自然ですね。もしルミターニャさんを守りたいなら、王都に連れて行くべきです。そうでなくとも守りの堅い要塞など、避難場所は沢山ある」
「はい。私達夫婦の希望を国王様が聞き入れてくれるのだと思っておりました。でも、実は違いました。本当の目的は息子のエニスクが戦死したときに備えて、私に新たな勇者を産ませるために来たのです。人目の少ない田舎の方が好ましく、息子のエニスクには知られないようにするためでした」
「魔王軍の懸念は的中していたわけですね。新たな勇者の誕生。我々はそれを恐れて、ルミターニャさんの生まれ故郷を襲撃し、身柄を拉致してきました」
「新たな勇者を産む⋯⋯。それは国王様からの命令でした。人類存亡の危機。そう言われて断れる人がいるでしょうか⋯⋯?」
「子作りをするなら旦那さんとすればよろしいのでは? わざわざ夫婦の仲を引き裂き、ロタール将軍の子を孕む計画が必要とは思えませんよ」
「王国はヴァリエンテ家の血統を取り込みたかったのです。ロタールさんは末席ですが王族でした。夫に事情を話せば、より辛いことになる。そう言われて私は週に3回、牧場の敷地内に設置した騎士団の野営地に行き、ロタールさんとの子作りを始めました」
「妊娠したら旦那さんには露見してしまいます。どう誤魔化すつもりだったのでしょうか」
「ロタールさんの子どもを妊娠したら夫ともセックスをして、誤魔化す予定でした。産まれた後は死産を装い、赤子は王家の養子となる」
「ヴァリエンテの血を王家に引き込む周到な計画であったわけですな」
「はい。そして2年後です。ついに⋯⋯生理が止まってしまいました。私はロタールさんの子を身籠もりました」
第二子は諦めかけていた。エニスクを産んでから、夫との間にも子は産まれなかった。
もう自分は妊娠できる身体ではないと思っていた矢先。ルミターニャはロタールによって孕まされ、再び母親となった。
(王様からの命令で逆らえなかった。人類のためだと言い聞かされ⋯⋯私は2年間も夫を裏切っていました⋯⋯)
人類を救うためという美名の下、不貞行為を続けた結果の懐妊。尿検査で妊娠が明らかになった。当時35歳だったルミターニャは、戸惑いながらも2人目の子を産む覚悟を決めた。
魔王軍の攻勢は日々強まり、再び王都を攻めるとの噂も流れていた。
懐妊の知らせは、妻としての絶望。同時に人類の新たな希望だった。
——ルミターニャの胎に新たな勇者が宿った。
その情報を魔王軍は掴んだ。魔王軍の動きは迅速だった。馬頭鬼の大君主アスバシールは大軍を率いて、ルミターニャの故郷を襲撃した。
「騎士団の方々⋯⋯、そしてロタールさんも殺されました。私を逃がそうとして⋯⋯。被害は私の夫だけでなく、村の人々にも及びました。きっと村を⋯⋯。ご家族を守ろうとしたのでしょう。衛兵だったカインの死体が路上に転がっていました」
道端に転がる顔馴染みの死体。ルミターニャはレイプされてからずっとカインを避けていた。
しかし、カインが命を賭して戦ったのは、家族だけでなく本当に愛していた女性を守るためだったのかもしれない。
「アスバシール殿はルミターニャさんが妊娠していたと知っていたのでしょうか?」
「いいえ。攫われた当初は気付いていなかったと思います。まだお腹が膨れる前でした。妊娠1カ月程度の時期です。外見では分かりません」
「連れ攫われた後はどうでしたか?」
「⋯⋯魔王軍に拉致された私は体調が悪化して、2カ月後に宿した子を流産しました」
魔界へと移送する直前、ルミターニャは女陰から血液と胎盤を排出した。
疫病の類いを持ち帰っては不味いと、軍医が念入りにルミターニャの身体を調べた。そこで流産の事実を魔王軍は確認した。
「連れ攫われた私を救い出そうと、エニスクが来てくれました。後のことはご存知かと思います。アスバシール様は私の息子と戦って亡くなりました。ですが、私は魔王城に囚われ、現在に至ります」
「死産した胎児の骸と胎盤は?」
「⋯⋯馬頭鬼族は胎盤を食べる文化があります。戦死したアスバシール様に代わり、族長の地位をオロバス様が継がれた日、晩餐会で食べられてしまっています」
オロバスの族長就任式。メインデッシュはルミターニャが流産した赤子の骸だった。綺麗に屍肉を食べたオロバスは、ルミターニャを性奉仕婦に任命した。
その夜——、オロバスはルミターニャを強姦し、童貞を捨てた。
幼馴染みの夫を愛していた。しかし、衛兵のカイン、将軍のロタール、夫以外の男に抱かれたルミターニャ。けして清い女性ではなかった。
オロバスに出会う以前から、淫母に堕ちる素質は既に表れていたのだ。
「ありがとうございます。興味深い話が聞けました。最後に個人的な興味で1つ。ルミターニャさんは4人の男、魔族流にいえば4匹の雄と肉体関係を持っているわけですが、オロバス殿をどう思われているのです? 1匹の雌として」
「語る必要はないと思います。ご覧の通りです。私の身体はオロバス様に染め上げられています」
ルミターニャは膨らんだ下腹部を見せる。
ジーンズのホットパンツは腰のベルトを緩めている。そして確固たる証明は、陰部の濡れ具合だ。
恥部を隠す生地を切り取った性奉仕婦に相応しいホットパンツ。縮れた黒の陰毛、馬頭鬼の巨大児を産んだ膣口がよく見える。
「性奉仕のお時間となりました。オロバス様のもとへ向かわなければなりません。そろそろ失礼いたします」
「ええ。構いませんよ。お話、ありがとうございました。オロバス殿によろしくお伝えください」
ルミターニャはグサインとの話を切り上げ、オロバスの待つ部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇
バルコニーに残されたグサインは、庭を見下ろしながら、聞き出した情報を整理する。今回が最後の面会だ。
人類との停戦協定。しかし、未来永劫の和平とはならない。ルミターニャの醜聞は切り札となりえる。
「おや? ははは。お盛んなことだ。若さは良いものですな」
しばらくすると上階から淫猥な叫びが聞こえ始めた。
ベッドが激しく軋む音。
そして、嗚咽混じりの嬌声。淫事が行われている部屋は、窓を開けているらしい。声が丸聞こえだった。
「いくぅ、いくいくいく! いっちゃうぅうぅぅぅうぅぅーっ♡ あんっ♡ オロバスさまぁっ! オロバスさまぁぁあーーっ! いちばんしゅごいぃいぃのぉぉぉぉおぉおぉおっ♡ おちんぽぉしゅごぃ♡ オロバス様の極太おちんぽぉおっー♡ にんげんのおちんぽぉじゃ、もうっ、あくめできないのぉー♡」
「は? そんなの当たり前だろ? 弱っちい人間なんかと比べられるはずないじゃん。ルミターニャを孕ませようとした浮気相手の話、もう1回教えてよ!」
「はいぃっ♡ でもぉ♡ カインさんのセックスはおぼえてないのぉ♡ あれぽっちじゃ、オマンコの記憶に残らないっ♡ だって、オロバス様のオチンポに上書きされちゃったからぁ♡」
「イヤらしい雌だ。退魔の血筋を引いてるくせに、俺のオチンポに完全敗北してるじゃん。まあいいや。その調子で続けてよ。次は? 僕が食べちゃった胎児、その父親は?」
「はいぃっ♡ 鍛え抜かれたロタールさんのオチンポで2年間不倫ヤリまくってしたぁ♡ 筋肉質な屈強な身体に抱きしめられて、何度も子作りセックスしちゃったのぉ♡ でもっ、オロバス様のオチンポを知っちゃったらぁ♡ んぁ♡ あんなのはもう粗チンぅぅ⋯⋯♡」
「自慢のデカパイで遊ばせてたんだろ」
「ロタールさんは巨乳好きだったから、夫にもしたことがないパイズリしてました⋯⋯♡ オッパイで勃たせてからぁ、オマンコに種付けしてもらって⋯⋯んあぁあ」
「性技を仕込むとき、パイズリだけは熟れてたもんね。中出しを一発決めたら、次はパイズリ奉仕な」
「はいっ♡ ご奉仕いたしますっ♡ 子宮の一番奥にオロバス様の濃い遺伝子をオッパイオマンコにぶちまけてくださいっ♡」
ルミターニャの巨尻に男根を叩き込む。突き挿された亀頭と子宮口が合体する。
「妊娠オマンコにっ♡ ご褒美ィ! ご褒美をくださいっ♡」
オロバスは陰嚢に蓄えた子胤を放つ。
射精の脈動を感じながらルミターニャは下唇を噛み締め、歓喜の涙を流していた。女として生を受け、子を産み、母として息子を独り立ちするまで立派に育てた。
多くの男に想いを寄せられ、ルミターニャは恵まれた生活を享受し、幸せに暮らしていた。だが、これほどの悦びを子宮が得たことはない。
愛する馬頭鬼の極太オチンポに犯され、淫母ルミターニャの子宮は悦楽の極致に導かれる。そして、深く結びついた肉体関係は精神を蝕み、背徳的恋慕を醸成していく。
「んっ♡ んぁ♡ はぁんぅうううぅ〜♡」
——ルミターニャの精神が完全に屈服する日は近付いていた。
ノクターンノベルズ連載
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