時間は、ほんの少し遡る。
待機室に通されたリンジーとロレンシア。女官から入室の許可が下りるまで、二人は大人しく待っていた。
しばらくすると、肌がぶつかり合う肉音、色っぽい女の嬌声が聞こえてきた。そのとき、隣の寝室でベルゼフリートとセラフィーナの騎乗位セックスが始まっていた。
寝室の窓は開いている。そのせいで、セラフィーナの甲高い喘ぎ声が隣室に漏れていたのであった。
「あの⋯⋯この声って⋯⋯」
「入室の許可が下りないのは、お楽しみの最中だから。そういうことだったようです。もうしばらく、この部屋で待つ必要がありそうです」
帝国との戦争に敗北し、リュート王子が処刑された今。白月王城で真っ昼間から情交に耽る者はたった一人、それは皇帝ベルゼフリートだ。
——ならば、皇帝の相手を務めているのは誰であろうか?
一緒に連れてきた女官が相手している。そうに違いないのだとロレンシアは信じたかった。けれど、女王の寝室で一夜を過ごした皇帝が、わざわざ別の女に呼ぶだろうか。
(おのれ帝国め⋯⋯! セラフィーナ陛下を⋯⋯っ!)
主君の心痛は計り知れない。
息子を殺されて絶望している女王に対して、新しい子を産めと強要する。惨すぎる仕打ちだ。
「ロレンシアさん。くれぐれも早まった真似はしないように⋯⋯」
「ですが、リンジーさん⋯⋯!」
「リュート殿下と違って、セラフィーナ陛下は殺されません。メガラニカ帝国は女王の産み落とす子供を欲している。出産するまでは大切に扱うでしょう」
「くっ⋯⋯!」
18歳のロレンシアは処刑されたリュート王子と年齢が近く、親交があった。王子の年齢は16歳。既に忘れ去られた話だが、リュート王子とロレンシアの縁談が一時は話題となった。
心優しいセラフィーナ女王は、ロレンシアに幼馴染みの許婚がいると知って、その縁談話を止めてくれた。
リュート王子もロレンシアの事情を知り、母親の決断に不満は言わなかった。しかし、縁談が流れた夜、リュート王子の枕が濡れていたとの噂が囁かれた。
ロレンシアも多少の負い目は感じていた。まさかリュート王子が、そこまで自分を好いていたと知らなかったのだ。
幼馴染みのレンソンを愛していたので、縁談を流してくれたセラフィーナには感謝している。けれど、リュート王子が公開処刑された日を思うと、ロレンシアは胸が苦しくなった。
「準備はできていません。⋯⋯しかし、お通しします」
待合室に入ってきた女官は、ハスキーの言葉を伝えた。リンジーとロレンシアは顔を見合わせる。
「部屋に入ってからはお静かに。気付かれると、セラフィーナ女王が動揺されてしまいます」
嬌声が止まぬうちに入室を許された。女官に案内でロレンシアは、寝室の扉を開ける。
「——なっ!」
寝台の上でセックスに興じる女王の姿があった。爆乳を荒ぶらせながら、甘い声で啼いている。
ロレンシアは絶句した。強引に犯されているどころか、皇帝の身体に跨がった女王が、自分から尻を振っていたのだ。
「んあ♥︎ ふぅ、んふぅ⋯⋯っ! だぁ⋯⋯ああっ♥︎ おおっうぅ⋯⋯♥︎ んぁぅうだ⋯ぁあっめぇ⋯っ♥︎ おっおっくぅうぅにぃい⋯⋯♥︎」
気高さの象徴であった黄金髪の女王は、淫婦のように乱れている。愛液を滴らせながら、男根へ尻を打ち付け、男根を貪り食らう。
(あれが⋯⋯セラフィーナ女王陛下だというの⋯⋯?)
ロレンシアの疑いたくなる気持ちは理解できる。
劣情とまったく無縁に思えた国母セラフィーナの淫猥な姿。女騎士ロレンシアは、女王セラフィーナのあられもない絶頂を目撃してしまった。
ベルゼフリートは、セラフィーナの巨大な乳房を揉みしだき、陰茎で子宮を押し上げる。
騎乗するセラフィーナは尻を降ろし、男性器と女性器の結びつきが強まった。睾丸がピクピクと痙攣し、女王の膣内に向けて精子が放たれようとしていた。
「——あっ、もうむり⋯⋯っ! 出すっ! 出ちゃうっ!」
「だめぇ⋯⋯お待ちなさ⋯⋯外に出しなぁっ、んぁああっ、ゅぅあああぁぁああんぁーーーっ♥︎」
恍惚の表情を浮かべるセラフィーナに対し、ロレンシアはほんの少しだけ不信感を覚えた。
相手はアルテナ王国を侵略した憎きメガラニカ帝国の皇帝。講和条約の調印式で、ベルゼフリートを非難したのは昨日の出来事だ。
祖国を踏み躙られ、家族を殺された女王は、侵略者の子胤を胎で受け止める。強引に犯されるのではなく、己の意思で尻を振り下ろしていた。
「皇帝は房事に長けているようです。初心な女王陛下が弄ばれるのは致し方ないことかと」
リンジーはセラフィーナに同情しつつも、ベルゼフリートの性技を小声で褒め称えた。
皇帝は40人超を超える妃とセックスしている。色事に疎い36歳の女王を手玉にとるのは容易であった。
ロレンシアは恐怖心を抱く。セラフィーナ女王の女陰に突き刺さる極太の陰茎。夫のレンソンよりはるかに大きく、幼い少年が持つには凶悪すぎる形態であった。
「ところでさ、さっきから見てるその人達って誰⋯⋯?」
ベルゼフリートは寝室に入り込んだ来訪者の存在に気付いた。
セラフィーナは振り返る。リンジーとロレンシアは顔を伏せた。浮気現場を押さえられた人妻は、絶望の顔を浮かべ、震える唇で呻いた。
◇ ◇ ◇
セラフィーナの精神は限界を迎えた。
むしろ、今までよく耐えたほうだった。国境線の戦いでガイゼフが大敗したとき、彼女の心は折れかけた。幸いにもガイゼフは辺境に逃げ延び、軍を再編していると聞いて、なんとか精神を立て直した。
息子が吊されたとき、娘と一緒に逃がしてやればよかったと何度も後悔した。
セラフィーナは夫と再会できる日を信じて、悲しみに耐えた。
「だいじょうぶ? えっと、もう終わりでいいよ?」
最初にセラフィーナの異変に気付いたのはベルゼフリートだった。
セラフィーナは憔悴しきった瞳で、身体を小刻みに震わせている。怪訝に思いながらも、ベルゼフリートは膣口から陰茎を引き抜こうとした。そのときだった。
「おえぇぇえ⋯⋯っ」
「え、うそ! ちょ、まっ!」
胃液が逆流し、セラフィーナの口から吐瀉物が飛び出した。
セラフィーナはほとんど何も食べてなかったので、内容物は胃液だけだった。真下にいたベルゼフリートは、吐き出したゲロを頭から被ってしまった。
「ううっ⋯⋯げほっ! うぅぐっ⋯⋯!」
「⋯⋯⋯⋯。吐くなら⋯⋯せめて⋯⋯僕にかけないでほしかった⋯⋯。まあ、でも⋯⋯しょうがないか⋯⋯。ねえ、誰か手拭いとか持ってきてくれない?」
たとえ美女のものであっても、薄茶色の吐瀉物は不快だ。酸っぱい臭いが鼻を刺激する。慌てて駆け寄ってきたハスキーが、ハンカチで拭ってくれた。
セラフィーナの嘔吐は、過度なストレスによるものだ。昨夜のセックスで、自身すら知らぬうちにセラフィーナは妊娠していた。けれど、妊娠の症状が現れるのは、まだ先のことだ。
「申し訳ありません、皇帝陛下! まさかこのような事態になるとは⋯⋯」
「あーいいよ、これくらいで。ハスキーのメイド服にまで匂いがついちゃうよ。お風呂で落としたほうが早いでしょ」
嗚咽し、泣きじゃくる女王セラフィーナを残し、皇帝ベルゼフリートはベッドから降りる。白色の髪に染みこんだ胃液は強烈な匂いを放ち、淫臭を上書きする。胃の中に固形物がなかったのは、不幸中の幸いだった。
ベルゼフリートはロレンシアの前を通る。先ほどまで敵意を向けていた憎き皇帝だった、しかし、今は吐瀉物を頭から被った可哀想な少年だった。
「セラフィーナの従者になるんだよね。後宮は基本的に安全なところだけど、影響力を持つ妃や女官に歯向かったら、酷い目に遭うから気をつけて⋯⋯。エグい嫌がらせとかもあるんだ。皇帝の僕すら二次被害をくらう。ほんと、やばいときもあるから⋯⋯」
「え⋯⋯。あ、はい⋯⋯」
皇帝から親切な助言を賜ったのに、ロレンシアは間抜けな返事をしてしまった。
「恐れながら皇帝陛下、私に発言をお許しいただけますか?」
ハスキーすらも動転している好機。すかさずリンジーはベルゼフリートに許可を求めた。
「誰か知らないけどどーぞ。許可なんて求めなくても大丈夫だよ」
「ありがとうございます。私はセラフィーナ陛下にお仕えしている女官のリンジーと申します。まずは主君の無礼をお詫びさせてください」
「僕の自業自得だからいいよ。人のものに手を出したせいかな? 女王様は旦那さんを愛してるんだね。まあ、これは仕方ない。気にしてないよ」
「寛大なお心に感謝いたします。女王陛下ですが、精神的に混乱しております。ひとまずは私が女王陛下のお世話をしてもよろしいでしょうか?」
「⋯⋯それはやめたほうがいいね。女仙の世話ができるのは女仙だけだ。血酒を飲めば不老となれる。その代償として身体に穢れを宿す。まあ、触れ合わなければ大丈夫。話し相手になってあげるのはいいかもね」
ベルゼフリートはハスキーを見つめる。
今回の事態を引き起こした者がいるとすれば、それはセラフィーナに意地悪をしたハスキーになるだろう。
「話すくらいはいいんじゃない。そうだよね。ハスキー?」
「はい。御意のままに」
「それと約束は守ってね。僕を満足させたら、リュート王子の弔いを許可する。その約束があったから、セラフィーナは僕とのセックスで協力的になってくれた。約束は守らないとね。メガラニカ帝国で裏切りはもっとも重たい罪だ」
「本日中に軍務省を動かします。私の責任において必ず」
「うん。それならよし。さて、身体を綺麗にしないと、食事をする気も失せちゃうよ。お風呂で僕の汚れを落とすのもハスキーね」
「はい。喜んでお引き受けいたします」
「ただし、セックスはしないからね。女の子を虐めて泣かせたんだから、きちんと反省するように」