【230話】帝城ペンタグラムでの妊婦健診

 皇帝の御子を身籠った女仙は、定期健診で帝城ペンタグラムに通わなければならない。

 希望すれば医務女官を離宮に派遣してくれる。しかし、上級妃が優先される仕組みだ。そのうえ、医務女官は多忙である。特別な事情でもない限り、医務女官の派遣は難しい。

 女官を自由に差配できるのは三皇后だけだ。皇帝の正妻を頂点とする宮廷序列は、女仙を厳格に支配している。

(帝城ペンタグラムの空気はいつも独特。メガラニカ皇帝の居城であるけれど、女官の牙城と言ったほうがきっと正しいわ⋯⋯)

 女官に連れられて、セラフィーナは帝城の廊下を歩く。案内役とは最低限しか言葉を交わしていない。

 女官は丁寧な態度で接してくれる。しかし、滲み出る態度は親しみの欠片も込められていなかった。

(妃や側女の気持ちが今ならよく分かりますわ。ベルゼフリート陛下の招きであっても、最深部に近づくほど居心地が悪くなる。女官達の態度は慇懃無礼で⋯⋯。こういうのを何というのかしら? そう、言葉尻に厭味ったらしい棘がありますわ)

 セラフィーナはふと立ち止まり、廊下の窓ガラスに映り込む自身の体貌を熟視する。

 小麦色に日焼けした淫母と目が合う。海辺で焦がした肌は、少しずつ白色に戻っている。一年くらいは維持できるかと思ったが、生来の体質は後天的には変わらないらしい。女仙化の影響で、肉体の代謝が衰え知らずなことも影響しているのだろう。

「⋯⋯⋯⋯」

 案内役の女官は不満げな表情でセラフィーナを急かし立てた。

 アルテナ王国の女王に対し、不遜極まる態度である。しかし、皇帝に飼われている下賎な愛妾に対するものならば、相応しい振る舞いだ。

 それでも言葉を発しないのは、胎に宿る皇帝の御子に敬意を払っているからだ。女官は皇帝と皇后、そして御子に忠愛を尽くす。身籠ったセラフィーナの健康を気遣う義務が、女官には課せられている。

「あら。ごめんあそばせ。ちょっと、外が気になって眺めていましたわ。行きましょう」

 セラフィーナは再び足を動かす。窓ガラスに映り込んだ自分を見て、胸元の露出具合を確かめていたとは言えなかった。

(陛下のお好みに合わせて、もっと大胆な衣装でも構わないのに⋯⋯。宮廷の服飾規定が煩わしいですわ)

 売春婦を想起させる卑猥なドレスは、ご自慢の爆乳を見せつけるデザインに仕上げた。

(買ったばかりのマタニティドレスだから、胸周りがちょっときついですわ。お腹やお尻はちょうど良いけれど⋯⋯。母乳を搾ってないから、張っているのかも⋯⋯♥)

 注意された乳首と乳輪は隠し、その代わりに上乳を晒し出した。豊満な双乳の谷間を覗き込むことも、すぐさま男根を挟んでパイズリ奉仕もできる。無論、膣穴と尻穴の準備は済ませてある。

(医務女官のお墨付きも頂きましたわ。これで胎児に気兼ねなく、ベルゼフリートの巨根にオマンコを捧げられる♥)

 医療棟での妊婦健診がようやく終わり、担当医から「母子ともに健康状態良好」と言い渡された。

 母親になるのはこれで四回目。円熟した女体は今なお妖艶である。しかし、若かりし頃の全盛期を過ぎている。

 帝国宰相ウィルヘルミナの美貌を妬ましく感じるのは、きっとそのせいに違いない。恋敵の淫魔は女盛りの絶頂で不老を得た。実娘のヴィクトリカを脅威に感じているのも、いずれは過去の自分に匹敵する美女へと成長する可能性が高いからだ。

(けれど、ベルゼフリート陛下は⋯⋯。いいえ、あの子は私を強く求めている♥ 小さな男の子は母親が恋しい⋯⋯♥ 母性に飢えるベルゼを癒せるのは私だけ♥ 私だけがその務めを果たしているわ♥)

 ベルゼフリートはセラフィーナに母親を重ねている。

(私の本心はどうなのかしら? 心の奥底では⋯⋯? たぶん私は一人の男として、あの子に惹かれているわ。どうしようもないほどの極まった情愛♥ 思慕の情念が私の鼓動を高鳴らせる♥ 間違いなく、本気で恋をしている⋯⋯♥ 私はメスにされてしまった⋯⋯♥)

 二人の男が一人の女を抱き、己の子胤を胎に植え付けた。最初の夫と二番目の夫。女穴は後者の巨根だけを覚えている。

(あぁ♥ 子宮の疼きが止まらない♥)

 王族の性交渉は世継ぎを作るための行為義務。王家の血筋を護り、子々孫々と王統を紡ぐ。セラフィーナは幼少期からずっとその教育を信じ込んでいた。

 セックスに快楽を求める淫らな欲望は教会的な道徳規範に反する。しかし、臣民の崇敬を集めた清らかな国母はもういない。

(裏切りと背徳⋯⋯。あぁ、なんと穢らわしい悪道⋯⋯。けれど、望むところですわ。くふふふふふっ♥)

 帝城ペンタグラムの豪華絢爛な廊下をゆったりと歩む妊婦は、祖国を征服した少年皇帝に屈した売国女王なのだ。

(あぁ⋯⋯♥ 堪らなく欲している♥ ベルゼフリート陛下に会いたい♥ 激しく⋯⋯♥ 乱暴に⋯⋯♥ あの極太オチンポで犯してほしい⋯⋯♥)

 ふしだらな妄想で下着が濡れる。陰裂から湧き出した愛液は内股を湿らせた。

(ロレンシアと合流したいわ。彼女はどこの棟で診断を受けているのかしら?)

 愛妾のセラフィーナは妃と同じ待遇を受けている。ベルゼフリートの厚意によるものだ。しかし、側女はそうもいかない。

 さらにロレンシアの場合は特殊事情がある。苗床胎にされたロレンシアは専門医の診断が必要だった。

(あと少しで四カ月ですわ。日に日に胎が重くなっていく⋯⋯。三つ子だった前回に比べれば、悪阻つわりの辛さはかなり楽ですわね。あぁぁ♥ どうか男子を⋯⋯♥ 男の子が欲しい♥ 男の子だと嬉しいわ♥ たっぷり母胎ママの栄養を吸って元気な姿で生まれてきて⋯⋯♥)

 セラフィーナが膨らんだ下腹部を撫でていると、医務女官が慌ただしく廊下を駆けてくる。

 ぶつかっては不味いと、案内役の女官がセラフィーナの前に進み出て壁になる。ただし、守っているのは胎児であって、母胎そのものではない。

「――失礼。急患ですのでご容赦を!」

 すれ違いざま、息を切らした医務女官は謝罪し、全力疾走で駆け抜けていった。

「本当に忙しそうですわね」

 ここ最近の医療棟は妊婦健診で繁忙期を迎えている。

 完全復活したベルゼフリートは性欲旺盛となり、今まで以上に女仙の慰安を求めた。その成果が現れ始めていた。

(リア達から聞いていたけれど、王妃や公妃が立て続けに妊娠した話は本当みたいですわ)

 帝国元帥レオンハルトが業務に忙殺され、軍閥派の妃達は夜伽役のおこぼれをもらっている。新たな妃が入内する前に、皇帝の御子を出産したいと願うのは当然だった。

(また、誰かが来ましたわ。あれは妃かしら⋯⋯?)

 廊下の曲がり角から、セラフィーナと同じように女官に案内されている妃が現れる。右目から頬にかけて派手な刺青が刻まれた女将校だった。

(見るからに武闘派ですわ。アマゾネス族⋯⋯とも違うかしら⋯⋯? 背が低い。それに細身ですわ。でも、キャルルさんは小柄ですし、体格だけで決めつけるのはダメかしら?)

 綺麗にアイロンがけされた軍服を着用し、腰回りのベルトを緩めている。下腹部にゆとりを持たせる着崩しは妊婦の証だ。

(お腹の膨らみ⋯⋯。あの方も私と同じ。ベルゼフリート陛下の御子がお腹にいるようですわ)

 目付きが鋭い指揮官。そういう第一印象を抱いた。精悍な体つきは、近衛騎士団で活躍していた頃のロレンシアを思い出す。現場には出ないのだろうが、威厳を失わぬように肉体を鍛えている。

(軍閥派の妃ですわね。お名前は存じ上げないけれど、例の化猫を目撃した公妃かしら? あの外見で怨霊を怖がっていたのなら、ちょっと笑ってしまうわ)

 立ち止まっていたセラフィーナは、壁際に身を寄せて公妃に道を譲る。十分に擦れ違える余裕がある廊下だ。しかし、セラフィーナは後宮の礼儀作法に従う。

(はぁ。私に争うつもりはないというのに⋯⋯)

 目もくれずに去っていくかと思いきや、公妃はわざわざ立ち止まり、セラフィーナの風体を検分し始める。双方とも皇帝の御手付きで妊娠した美女。言葉は交わさず、互いを比べ合っている。

「妾の分際で⋯⋯」

 公妃は侮蔑の念をあからさまに発露させた。捨て台詞をその場に残し、ぎこちない表情で再び歩き始める。顔を伏せていたセラフィーナは袖口でに口元を隠し、静かにほくそ笑む。

(ご立派な負け惜しみですこと。あちらも私が誰か知っているはず⋯⋯。侮蔑は寛大な心で許しましょう。不快だとは思いません。見苦しい嫉妬はむしろ心地良いですわ♥)

 酔い痴れたのは、ほんの一瞬。

 すぐさま己を戒め、肥大化した俗悪な女心を鎮める。

(いけませんわね。派閥の仲間内で啀み合うのは⋯⋯。自省をしなければ⋯⋯。まったく⋯⋯もう⋯⋯♥ ふふふふっ♥ こんな調子だと、どんどん性格が悪くなっていきますわね)

 外見の評価が全てではないが、セラフィーナの美貌は後宮でも飛び抜けている。最上級サキュバスに引けを取らない妖艶な美。相手の公妃も数千人に一人の美女ではあったが、セラフィーナは数千万人に一人の逸材だ。

「恐れながらセラフィーナ様、少しお急ぎいただけますか? お約束の時間が迫っております。皇帝陛下がいらっしゃる禁中は、ここから回り道をしなければなりません」

 案内役の女官が「自惚れも程々にしろ」と言わんばかりに、突っ立っているセラフィーナを急かす。先ほどのやり取りを馬鹿らしく思っているようだ。

(あらら。お気に召さないご様子だわ。女官の不興を買ってしまったわね。⋯⋯けれど、こういう醜い女の競い合いが後宮の醍醐味ではなくて?)

 着ているメイド服を見れば、女官の役職や階級が分かる。

 先ほどすれ違った公妃の案内役は、帝城の雑務を担当する一般的な庶務女官。それに対し、セラフィーナには上級女官が付いていた。

 禁中の出入りが許された特別階級の庶務女官である。下働きと近衛では、同じ庶務女官でも階級は天地の差だ。あの公妃もそれを分かっていたから舌打ちをした。

 寵姫たるセラフィーナは、ベルゼフリートのお呼びが掛かっていた。

「ええ。急ぎましょう。ベルゼフリート陛下をお待たせするわけにはいきませんわ」

 同伴させている女官で格付けは示せる。厭味ったらしく公妃に道を譲る必要はないと女官は言いたかったのだろう。

 末席の愛妾は立場が低い。しかし、皇帝のお呼びが掛かっている今なら、宮中序列の最上位に繰り上がる。

(ロレンシアはもう禁中に着いているかしら? 診断の順番待ちで手間取ってしまいましたわ。私の前にも宰相派の妃が訪れていたというし⋯⋯。あの公妃もそうだったけれど、ベルゼフリート陛下はあちらこちらに種をバラ撒いておられますわね)

 懐妊は至上の名誉である。しかし、身籠った妃は一部の例外を除き、皇帝のお呼びがかからなくなる。その一方で、寵姫は妊娠中でも指名が入る。

 セラフィーナは名実ともに寵姫の一人だ。

 子産みは妃の務めだが、愛妾の役割は純粋な性奴隷。ベルゼフリートの劣情を満たすための慰安婦。皇帝専用の売春婦と言い替えてもよい。妊娠中だろうとセックスワーカーは働かねばならない。

 猛暑の昼下がり、幼帝ベルゼフリートはお気に入りの寵姫二人を呼び寄せた。セラフィーナとロレンシアは招きに応じ、股を濡らして禁中に馳せ参じる。

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