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【246話】売国女王の誘い

「落ち着いてください。怯えなくても大丈夫ですよ。逃げようとしなければ、他は自由にして構わないようです。勝手にお喋りをしても周りは止める気がなさそうですし⋯⋯。貴方も帝国出身ではありませんよね? 教会の神術式を身体に宿してらっしゃる。どこの国から?」

「私はイシュチェルと申します。⋯⋯信じられないかもしれませんが、バルカサロ王国の王妃ですわ」

「⋯⋯おや? 驚きです。バルカサロ王国の王妃様であらせられましたか。先ほどの無礼をお許しいただきたく――」

 マリエールとイシュチェルの会話を黙認していたはずの警務女官が薙刀を突きつける。

「――何か? どうされました? メイドさん? 気に障ることでも? 悪巧みの相談はしておりませんよ」

 マリエールは憮然とした態度を崩さない。イシュチェルは血の気が引き、今にも卒倒しそうな真っ青な顔色になった。

「妃位の詐称があった。貴方達は側女だ。宮中では自分が王妃などと名乗らないことだ。まだここはグラシエル大宮殿の中庭だから見逃しましょう」

「ご忠告、痛み入ります。以後は気をつけましょう。それと、イシュチェルさんが怯えています。この物騒な薙刀を引っ込めていただけますか」

「⋯⋯貴方達はご自分の立場が分かっていないようですね」

 あからさまに不機嫌な態度を見せる警務女官。マリエールは不敵に笑った。

「お言葉を返しますが、メイドさんは私の立場をご存知でない? 非公式とはいえ、私は教会からの献上品です。職務熱心なメイドさんであろうと、皇帝陛下への贈り物に傷を付けたら責任問題では? 私の身体は貴方達が敬愛する主君の所有物。従者が大切な積み荷を棄損したと主人が知ったら、どうなるのでしょうね」

「⋯⋯⋯⋯」

「私は傷物になっても構いませんけれどね。メイドさんがどんなお叱りを受けるのか気になります」

 マリエールは向けられた刃先に自分の頬を近付ける。

「あと半歩、ほんのちょっと近づけば私の綺麗な顔に傷が付いてしまいますね。皇帝陛下はご覧になりたかったでしょう。私の傷のない顔を⋯⋯。貴方が台無しにするのです」

 安っぽい挑発だったが効果は覿面てきめんだった。

「言動には気をつけなさい」

 警務女官は突きつけた薙刀を収める。マリエールは引き下がる警務女官に手を振って見送る。

「行ってくれましたね。怖いメイドさんです。ああ、恐ろしい」

「⋯⋯私にはマリエールさんも恐ろしく思えましたわ。とても豪胆でおられる」

「向こう見ずなだけですよ。後先を考えない性格なものでして」

「そんなことはございません。さすがは教会の御方ですわ」

「郷に入れば郷に従えです。親切なメイドさんの警告に従いましょう。これからはイシュチェルさんとお呼びしますね。以後は礼節を欠きますが何卒ご容赦ください」

「ええ、構いませんわ。私もマリエールさんとお呼びいたします」

「なぜバルカサロ王国の要人がメガラニカ帝国に? 混乱の渦中とは存じておりますが、本国から拉致されたわけではないでしょう?」

「お恥ずかしながら、反乱で祖国を追われて逃げてきたのです。第二王子ジルベールと第三王子ザトリシオの陰謀です」

「事情は聞き及んでおります。とても大変な目に遭われておられますね。⋯⋯しかし、せません。よりにもよって亡命先がメガラニカ帝国? なぜ?」

「東アルテナ王国に亡命を図ったのですが⋯⋯。グウィストン川で乗っていた船が襲撃を受けました。目が覚めたら、私はメガラニカ帝国におりました」

 イシュチェルはマリエールにこれまでの経緯を話した。記憶の抜け落ちがあるため、曖昧で分かりにくい説明になってしまったが、道中で沈没船の残骸を見ていたマリエールはおおよその内容を把握する。

(この女性はバルカサロ王国の王妃イシュチェルで間違いなさそうです。これは好ましくない状況ですね。アルテナ王国の河川港で耳にした話とも合致する。となれば、アーロン王子はおそらく⋯⋯)

 東岸の波止場でマリエールは男児の遺体が発見された話を聞いていた。

(メガラニカ帝国はどこまで情報を得ているのでしょうね。西アルテナ王国を治めるグレイハンク伯爵はそこまでの情報を得ていないようでした。東アルテナ王国側は? あの話を私はリンジーさんから聞いて⋯⋯? いや、おかしいです。なぜ私に話した?)

 マリエールは強い疑念を抱いた。イシュチェルと出会う前は、単なる不幸な事故としか思わなかった。しかし、第六王子アーロンがグウィストン川で行方知れずなら、話は大きく変わってくる。

(これからメガラニカ帝国へ赴く人間に話してはならない重要な情報です。東アルテナ王国は沈没した難民船に誰が乗っていたか知らなかった? 状況を把握できていないから、雑談であの話を⋯⋯?)

 上流から流れてきた水死体。バルカサロ王国の難民船が沈没し、沿岸に死体が打ち上げられた。その中には生後間もない赤子の姿。見聞きした情報を整理し、マリエールは深く考え込む。

(リンジーさんは老獪⋯⋯。謀略で偽情報を与えられた可能性がある。まだイシュチェルさんに話すべきではなさそうですね。グウィストン川の東岸で男児の水死体が見つかったとは……。少なくとも今、真偽が曖昧な話をするべきではない)

 マリエールは迷う。国王チャドラックの遺児アーロンを死なせてしまったと知った未亡人はどんな反応を示すか。イシュチェルは自暴自棄になるかもしれない。

 生きる希望を失った人間の行動は予測不可能だ。

「イシュチェルさんは血酒を飲まれたのですよね?」

「は、はい。たぶん⋯⋯。そういうお薬を投与されたと説明を受けましたわ」

「天空城アースガルズがどのような場所か分かっておられますか?」

 マリエールは柔らかい口調を崩さなかった。これから二人が向かう先は男子禁制の後宮。メガラニカ皇帝に奉仕する美女だけが住まう性悦の花園である。

(後宮に入内した女は皇帝ベルゼフリートに抱かれる。まさかバルカサロ王国の王妃であるイシュチェルさんを手籠めにする気で⋯⋯? 下手をすれば戦争になりかねない火種です)

 その懸念は的中する。マリエールの質問にイシュチェルは厳しい表情で頷いた。夫を失ったばかりの未亡人は下唇を噛みしめる。

 豪華絢爛な後宮では、美女達がメガラニカ皇帝を慰安する。イシュチェルは今日から性奉仕女ハーレムの末席に名を連ねる。

「女仙とは何なのか。事細かく説明していただきましたわ。私は皇帝陛下にお仕えしなければならないと⋯⋯」

「イシュチェルさん⋯⋯。強要されているのではありませんか?」

 マリエールはメガラニカ帝国を訪れてから初めて嫌悪を覚えた。

(――人道に反しています)

 イシュチェルの境遇は自ら望んで苦難の道を歩むのとは異なる。夫婦の誓いを守り、亡夫に操を立てようとしている貞淑な未亡人が辱められる。

(夫を失った寡婦かふは手厚く保護されるべきだというのに⋯⋯。メガラニカ帝国は何を考えているのでしょう)

 教皇候補の聖女であったマリエールには認め難いものだった。

 イシュチェルは桃色の唇を噛み締め、心中で渦巻く苦悩を独白する。拒否できるものなら跳ね除けたい。けれども、グウィストン川で消息不明となったイシュチェルの生存を知る者は誰もいない。助けは期待できなかった。

「我が子を助けるためですわ。私の働きが評価されればアーロンが帝国軍に捕まったとき、温情を出してくださる。どんな屈辱にも耐えますわ⋯⋯」

「アーロン様は救助されているのですか?」

「いいえ。けれど、アーロンは必ず生きております。メガラニカ帝国の皇帝が私の肉体を所望されるのなら、喜んでお捧げしましょう」

「⋯⋯⋯⋯」

「マリエールさん? どうされました?」

「黙っていようと思いましたが、お話すべきかもしれません。イシュチェルさん、心してお聞きください。私は東アルテナ王国である話を⋯⋯」

 いたたまれなくなったマリエールは、隠そうとした悲壮な現実を告げようとした。既に死んでいる子供のために、イシュチェルは己の身を売ろうとしている。元聖女として見過ごすことはできなかった。

 しかし、二人の会話は突風で遮られる。

 グラシエル大宮殿の中庭に昇降籠が着陸した。巨大な鳥籠の最上部では飛行石の結晶が輝いている。女官が手際よく安全確認を済ませて、施錠された分厚い大扉を開放する。

 ◇ ◇ ◇

 昇降籠から出てきた黄金髪の艶美な妊婦にマリエールとイシュチェルを目を奪われた。

 妖術で魅了されたような錯覚に陥る。絶世の美貌は同性すらも骨抜きにしてしまう。美を極めた面貌から意識を引き剥がす。この場に若い男がいたなら、豊満な美乳に性欲を煽られていたであろう。

 華美なマタニティ・ドレスを着こなし、豊満たる横乳を惜しげもなく晒す。背後は首筋から臀部までを大胆に露出させ、腰のくびれと巨尻を強調するエロティックなデザイン。ふっくらと盛り上がったボテ腹は、皇帝の御子を子宮で育てている証である。

「やはり下界は暑いですわね」

 黄金髪を優雅に靡かせた妊婦は、厚底のヒールで芝生を踏みしめる。歩く度に爆乳が小気味よくはずむ。

 マリエールは控え目な自分の胸部を嫌でも意識する。巨乳のイシュチェルでもバストサイズはワンランクほど劣り、乳房の形や張りでは勝負にならない。

 生まれつき垂れ気味だったイシュチェルの乳房は三十路を過ぎてから顕著になった。面前に現れたセラフィーナはイシュチェルより年下ではある。今年で三十七歳を迎える美熟女だが、先祖にサキュバス族がいるおかげで衰えがまったく見られない。そればかりか、熟しきった媚肉は若娘が持ち得ない魅力を醸し出している。

「はじめまして。お話は伺っておりますわ。お二人は私を御存知かしら? くふふふふっ⋯⋯。私はセラフィーナ・アルテナ。メガラニカ皇帝ベルゼフリート陛下にお仕えする愛妾ですわ」

「セラフィーナ様⋯⋯。あのおぞましい噂は本当だったのですね。信じたくはありませんでしたわ」

 愕然とした表情でイシュチェルが言葉を絞り出した。

「イシュチェルさん。以前は義理の母だったというのに、直接お会いするのは初めてですわね。バルカサロ王国でどんな噂をお聞きになったかは存じませんが、全て事実とお答えいたしましょう。後宮に入内すればすぐに分かりますわ」

「お腹の子供は⋯⋯」

「もちろん、ベルゼフリート陛下の御子ですわ。二度目の懐妊♥ 祝福していただけるかしら? くふふふっ♥︎ あら、そちらは教会の御方ですわね? 教会には感謝しております。ガイゼフ・バルカサロとの離婚を正式に認め、ベルゼフリート陛下と再婚する許しをくださった。子宝は創造主様の恩寵に違いありませんわ」

 セラフィーナはマリエールに微笑みかける。

「マリエールと申します」

「教皇庁の聖山から長く遠い旅路だったでしょう。心から歓迎いたしますわ」

「セラフィーナ様。私の素性はグレイハンク伯爵に包み隠さず明かしました。目的についてもです。お手紙は受け取っておられますか?」

「はい。グレイハンク伯爵の手紙に書かれておりましたよ。利害が一致する者同士。マリエールさんとは手を取り合って仲良くしたいわ」

「私もそう思っております。しかし、イシュチェルさんを拉致し、無理やり後宮に入れるのは無益な争いを生じさせる。好ましくありません。そうは思われませんか?」

「お優しいのね。しかし、私が決めたことではありません。私の黄葉離宮でお二人を引き取ることも事後決定ですわ」

「御寵愛を授かっているセラフィーナ様なら、皇帝陛下を説得できるのでは?」

「くふふっ⋯⋯。ベルゼフリート陛下を説得? ごめんなさい。メガラニカ帝国や宮中事情を知らないのだから、勘違いするのは無理ないわ」

「勘違い?」

「イシュチェルさんの入内は、ベルゼフリート陛下も無関係ですわ。三皇后のご意向よ。不満があるのなら、そちらに苦情を申し上げてください。⋯⋯もっとも、側女の身分で皇后に楯突くなど、到底許されませんけれど」

「イシュチェルさんのお気持ちはどうなります? 身を捧げるのは私だけで十分です。なぜ国を追われた哀れな女性を弄ぶのですか? 人道に反します。⋯⋯メガラニカ帝国の利益にもならない」

「宮中秩序に従ってほしいわ。人道だとか、良心だとか⋯⋯。下らない些事に拘っていては、後宮で暮らしていけませんわよ?」

「人の尊厳を捨ててまで暮らす価値がメガラニカ帝国の後宮にはあると仰るわけですか」

「ええ。あるわ。だから、私はこうなっているの」

「⋯⋯⋯⋯」

「出自がどうであれ、イシュチェルさんは女仙になったのです。愛妾の私に仕え、黄葉離宮でしっかり働いてもらいますわ」

 セラフィーナはマリエールの抗議に耳を貸さなかった。バルカサロ王国の王妃イシュチェルを教育するように三皇后から命じられている。これを拒否する選択肢はない。

(境遇に同情はするけれど、私にも守らなければいけない愛妾の立場があるわ。何よりも私自身の幸福⋯⋯♥ 皇帝陛下に授けていただいた愛子いとしごの繁栄⋯⋯♥ そのためなら汚れ仕事だろうと喜んでいたしましょう)

 イシュチェルを入内させる真の狙いはまだ分からない。しかし、必ずメガラニカ帝国の利益に繋がっているはずだ。

「マリエールさん⋯⋯。私は大丈夫ですわ」

「ほら。当人が大丈夫と仰っておりますわ。聞いておりますわよ。イシュチェルさん。子宮の聖印が効力を発揮していれば、身籠らないのでしょう?」

 近づいてきたセラフィーナはイシュチェルの下腹部を指先で撫でた。

「その通りです。⋯⋯私はセラフィーナ様のようにはなりません」

「あら。皇胤を拒むだなんて不可能ですわ。だって、私達は女なのよ? くふふふっ⋯⋯♥」

 孕み腹が蠢いた。セラフィーナの子宮に宿る胎児が動き回っている。

「子宮の聖印はバルカサロ王家の男子にしか反応いたしません! 夫を失った今の私は、永遠の不妊状態にありますわ。好きなだけ私の身体を辱めればよろしい。無駄撃ちですわ」

「それだけではないでしょう? アストレティア妃殿下が〈朱燕の乙女貝〉でイシュチェルさんを無垢の身体に戻しておられる。最愛の殿方でなければ処女は奪えません。教会の聖印を上書きするための試練ですわ」

「試練⋯⋯?」

「あら? お分かりにならないの? イシュチェルさんにとって最愛の殿方が移り変われば、復活した処女膜は破られてしまうわ。子宮を守る奇跡がいつまで持つでしょうね。心が揺らげば護りも弱まる。くふふふっ♥︎」

「私はセラフィーナ様のようにはなりません! ⋯⋯アルテナ王国では売国女王と蔑まれている。恥ずかしくはないのですか?」

「そういうイシュチェルさんは祖国で何と呼ばれているのです? 噂によれば王殺しだとか?」

「反逆者の讒言ざんげんです! 私は夫を殺しておりませんっ! 濡れ衣ですわ!」

「あら、そう。くふふふっ⋯⋯! ずっと立ち話では疲れてしまいますわ。続きは黄葉離宮でしましょう。ベルゼフリート陛下がお待ちですわ」

 セラフィーナは新入りの側女二人を昇降籠に招く。イシュチェルは怒りで顔を赤く染める。一方でマリエールは冷静だった。

「皇帝陛下に謁見できるのですか」

「意外そうですわね? ベルゼフリート陛下は教会がどんな乙女を貢いできたか興味を持たれております。マリエールさんに沢山の質問をなさると思いますわ。たくさんお話をなさってください。このところ外出できずに、退屈なさっておられます」

「それは素晴らしい。願ったり叶ったりです。皇帝陛下とお会いするのに数ヶ月は要すると思っておりました。なるほど、これなら私物を没収されても不満はありません」

「ああ、それと⋯⋯ふふっ⋯⋯♥ 今日から伽役を務めていただきますわ。ベルゼフリート陛下と御身体の相性が合うかしら⋯⋯♥ マリエールさんとイシュチェルさんがどんなセックスを見せてくれるのか。愉しみですわ」

【竹書房ラブロマン文庫】ないしょの願望

平凡な毎日を過ごしている大内公平は、あるとき美人と噂の課長の結城和香に誘われ、電車内での痴●プレイに挑む。電車内で密かに異性の愛撫を受ける願望を満たし、和香の熟れた体をかつてない絶頂へと導いた。
それをきっかけに、公平は様々な美女たちが隠し持つ願望を満たすようになる。破廉恥なSMプレイで悦んでしまう貞淑妻のみずほ、コスプレして男を受け入れる興奮にハマる由乃、そして公平が姉のように慕う菜々子の、意外な願望…。それらの望みを次々にかなえる代わりに、公平は濡れそぼつ女体を貪る快楽の日々を送ることに…。
俊英作家が描く願望満たしロマンの金字塔、新装で登場!

著者北條拓人
イラスト東克美
価格979円(税込)
発行日竹書房ラブロマン文庫

COMIC ゼロス #123(表紙:石恵)

ワニマガジン社『COMICゼロス』
(毎月11日)

トロける桃尻、初夏のごちそう♪
石恵が描く極上ヒップが誘う……至の特集号!
久々登場・untsukuが贈る金髪ギャルとの隣人ラブ『壁一枚』も必見!

「エッチしてもいいよじゃなくて、私、君としたいって思ってる」

――この女、絶対《ヤバい》。巻頭は、あすぜむ『Happy When It Rains』
家に帰ると、玄関の前に酒に酔った美女が座り込んでいた。
今にも吐きそうな彼女を放っておけず、家に連れ帰って介抱することに。
すると目の前で堂々と服を脱ぎだして、泊めてくれるお礼にセックスしようと誘ってきて……。
鎖骨と乳首にはボディピアス、背中には刺青。
明らかに《ワケアリ》だと気付いたけど、不思議な魅力を持つ彼女に抗えず――

(…私ばっかり好きなんだって思って…)

ビデオ通話Hから始まったふたりの関係は、恋か、それとも遊びか–
待望の続編! untsuku『壁一枚 続』
ギターは激しくかき鳴らすのに、恋愛は超不器用……。
アパートのお隣さんであり、音楽好きサラリーマン・古河(こが)に惹かれる金髪バンド女子・安達(あだち)さん。
新たな恋敵!? も出現し……もどかしく火花散る、焦れあい隣人ラブ完結編!!

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事故物件かと思いきや、事後物件!?……河中島『エロい間取り』
欲求不満もお姉ちゃんにぜーんぶおまかせ♪ ……ちゅーりっふ。『幼馴染のお姉ちゃんが僕を甘やかしすぎてヤバイ』
都会に憧れる純粋無垢な生徒とエロいことし放題! ……尾白白尾『リカちゃんは都会に行きたい』
足フェチ必見! クラスメイトの靴下を嗅いでいたら見つかって……蘭田夢『放課後シークレット』

<表紙作家>
石恵

<収録作品>
Happy When It Rains/あすぜむ
壁一枚 続/untsuku
なんでもきいてくれる瑠璃花ちゃん/ます
エロい間取り/河中島
幼馴染のお姉ちゃんが僕を甘やかしすぎてヤバイ/ちゅーりっふ。
リカちゃんは都会に行きたい/尾白白尾
放課後シークレット/蘭田夢

表紙イラスト石恵
執筆陣石恵 / あすぜむ / untsuku / ます / 河中島 / ちゅーりっふ。 / 尾白白尾 / 蘭田夢
価格770円(税込)
発行日2025/05/11

【245話】王妃と聖女の入内

 長旅の末、帝都アヴァタールに到着したマリエールはすぐさま血酒を飲まされた。

 皇帝の血液を特殊な方法で発酵熟成することで、生成される貴重な仙薬は、不適合者には惨たらしい死を与える。一説によれば皇帝に仕える価値があるかを血酒は見極めているという。

(さて、不老不病の身体を手に入れたわけですが⋯⋯。これといった実感がありませんね)

 マリエールは死のリスクがあると説明されたが、一滴残さず飲み干した。

(血酒の味はまさしく珍味。おかわりを頂けなかったのは残念。どんな製法で作られているのか気になりますね)

 女仙になれると信じて疑わなかった。マリエールは教会の人間であるが、皇帝とは敵対していない。皇帝に仕える価値がある人間だと自負している。

 そもそも敵意を抱いた女が毒死するのなら、セラフィーナとロレンシアは女仙になっていない。現在はともかく、血酒を摂取した時点において、セラフィーナとロレンシアはメガラニカ帝国に強烈な憎悪を向けていた。皇帝ベルゼフリートに殺意を抱くほどであったが、それでも無事に女仙化を遂げている。

(女仙とやらになる前に、帝都アヴァタールを見て回りたかったのですが、要望は却下されてしまいました。とても残念です。後宮に入内したら外出する機会はないでしょう。諦めるしかないですね)

 帝都の市街を見て回りたかったが、帝国軍は警備上の問題を理由に拒んだ。

(帝国は必要以上の情報を私に与える気がなさそうですね。私は親善大使のようなものだというのに⋯⋯。軍の方々は親切ですし、不快とまでは思いませんが⋯⋯。まずは警戒を解かなければなりませんね)

 副都ドルドレイの滞在時もそうであったが、マリエールは監視付きの軟禁生活を送っていた。

(この格好は私に似合っているんでしょうか?)

 グラシエル大宮殿で身を清めたマリエールは、用意された側女の服を身にまとう。旅の道中で着ていた聖衣は没収されてしまった。

(肌の露出が多くて落ち着きません。この服はどうして両肩に穴があいているのでしょう? 帝国の流行りでしょうか? 布地は上等で良い肌触りです。風が吹くと涼しい。旅芸人の踊り子になった気分です。ああ、けれど、こうも肌を晒していると日焼けや虫刺されが怖いですね)

 マリエールは空を見上げる。これから身一つでメガラニカ皇帝の後宮に乗り込む。私物の持ち込みは一切許されず、神力を抑制する封呪が首に刻まれた。

(首周りは封呪が煩わしい。こんなことをせずとも、危害を与えたりはしないのですけれど。私の目的は帝国と教会の橋渡しです)

 マリエールが神術を使おうとすれば封呪が皮膚に浮かび上がり、首を締め付ける。警告に従わず、無理やり神術を発動すれば首が切断される。

(しかし、相手の側で考えてみなければなりませんね。私は聖女の称号を持つ神術師でした。これくらいの予防処置は許容すべきでしょう。⋯⋯全ての所持品を没収。これも想定内です。ただ、せめて聖典くらいは許してほしかった)

 人生で着る機会が皆無だった艶やかな装衣に戸惑いつつも、女官の案内に従ってグラシエル大宮殿の中庭で待機する。

「⋯⋯⋯⋯」

 上空では天空城アースガルズが浮いている。

 教会の禁書庫に残されていた破壊帝時代の年代記には浮遊島の記述と挿絵があった。天空城アースガルズの存在は知っていたが、間近で実物を見ると圧倒的スケールに感動する。

(空に浮かぶお城で暮らせると考えれば、心が踊ってきますね。幻想的な風景です。童心に返ってしまう)

 確かな実力と知識を有する神術師だからこそ、天空城アースガルズが常識外れの古代兵器であると分かる。あの大質量に恒常的な浮力を与え、さらには強力な結界を幾重にも張っている。

(破壊者を封じる器が生成する無限に等しい力⋯⋯。帝国領に入ってから地脈と気脈の力強さを感じ取ってきました。これほどマナが潤沢ならエネルギーは使い放題ですね。天空城アースガルズが領土全域にエネルギーを送り出す心臓⋯⋯)

 本来、人口の多い大都市はエネルギー問題に悩まされる。

(――メガラニカ皇帝の力は本物ですね。血酒を摂取し、私もその一部に組み入れられた)

 通常の場合は気脈と地脈からマナを抽出し、魔力炉などで利用可能なエネルギーに変換する。大量に消費すれば気脈と地脈は衰え、無理に吸い上げ続ければ枯渇してしまう。

 ところが帝都アヴァタールは正反対だ。過剰に溜まったマナを気脈と地脈を使って広域分散させている。

(メガラニカ帝国は皇帝が発するエネルギーを使い切れていないのでは? 無限大の力を秘めているなら、創造主が定めた世の理、開闢者の律法から外れています。人の手には余る。荒魂を封じる転生体⋯⋯。そもそも破壊者ルティヤとは何なのか。マナの探求者として個人的な興味がそそられます)

 天空城アースガルズや帝都市民の消費だけでは、垂れ流れている破壊者のエネルギーを消化しきれていない。滞留を防ぐため、領土全体に放流されていた。

(枢機卿の口車に乗せられて、メガラニカ帝国に身売りしたのは正解でした。頭上にある巨大な天空城が私のを裏付けています)

 マリエールは持論の確証を得た。メガラニカ皇帝とは戦ってはならない。

 勝てる相手ではない。万一、勝ってしまったら大いなる災禍が降り注ぐ。

 メガラニカ帝国と西アルテナ王国に恵みを齎すエネルギーが反転し、災いを呼ぶ大禍となったとき、どれほどの被害がでるかは想像したくなかった。

(人民があってこその国家。しかしながら、メガラニカ帝国では違う。皇帝あってこその国家)

 皇帝空位の五百年でメガラニカ帝国は著しく衰亡した。

 救国の英雄が死恐帝を鎮めなければ滅び去っていた。そんな亡国が新帝の誕生で瞬く間に息を吹き返した。

 大陸西部のパワーバランスは急激に変動し、中央諸国は慌てふためいている。

(おや? あの女性は⋯⋯? メイドの服を着ていませんね。不安げな表情、あの落ち着きの無さ⋯⋯。見たところ、私と同類でしょうか?)

 マリエールは中庭に昇降籠しょうこうろうが到着するのを待っていた。

 天空城アースガルズの出入は女官が管理している。女官達はメイド服を着用しているので役職が分かりやすい。

 これまでの道中は帝国軍がマリエールの警護と監視にあたっていたが、血酒を飲んでからは女官達がその任務を引き継いだ。微弱ではあるが、女仙となったマリエールの身体は瘴気を放っている。只人ただびとの帝国軍兵士では瘴気に心身を蝕まれる。

 中庭でマリエールの周囲にいるのは女官達だけだ。しかし、側女の服装を着た美女が一人いた。怯えた表情で空を見上げ、怖がっている様子だった。

 昇降籠しょうこうろうはマリエール専用のお迎えではない。食糧や日用品などの貨物が積み込まれる。他に同乗者がいても不思議はなかった。

「もしや貴方も教会関係者ですか?」

 近くにいた女官は制止しなかったので、マリエールは自分と同類と思われる女性に近づき、柔和な笑みで問いかける。教会の関係者と誰何すいかしたのは、気配を感じたからだ。

「⋯⋯え、わ、わたし? あの⋯⋯! その⋯⋯あの⋯⋯!」

 狼狽えた美女は怯えた瞳でマリエールを見つめ返した。何か言いたげだったが、身を縮こませ、言葉に詰まっている。

(とても強い神力のマナを感じます。強力な術式の気配⋯⋯。下腹部⋯⋯? 子宮に神術式が宿っているようですね。教会の⋯⋯それもかなり高位の聖職者が施した御印? 私の見立て通り、この女性はメガラニカ帝国の人間ではなさそうです。まさか教会の関係者? 私以外にも送り込まれた者が?)

 前かがみで両腕を前で組んでいるのは、豊満な垂れ乳を隠したいからであろう。

(ほぉ⋯⋯。大きい乳房です。お美事な出来栄え。失礼とは思いつつも、つい見てしまいます。胸部の実りが豊かだと、その小さな布面積では恥ずかしいでしょうね⋯⋯。横乳が収まりきらず、布からはみ出てきます)

 羞恥心で縮こまり、胸元を少しでも見せないようにしている。だが、薄着の装いで爆乳と巨尻は嫌でも目立つ。しかも、服のサイズが小さめで、パツンパツンの張り詰めた状態だった。

「先に名乗るべきでした。私はマリエール・ムシェタリャと申します」

「あの⋯⋯。恥ずかしいので⋯⋯せめて目線を上げていただけません?」

「失敬。同性とはいえ、ジロジロと凝視するのは失礼でした。ここまでのサイズは中々、お目にかかれないので⋯⋯。興味深くて観察してしまいました。私もそこそこのバストサイズですが、上には上がいるものですね。おみそれいたしました」

「⋯⋯⋯⋯」

「そんな顔をなさらないでください。私は教会の⋯⋯いえ、ルテオン聖教国から参りました。もし会話が許されているのなら、どちらのご出身か教えていただけませんか?」

「ルテオン聖教国⋯⋯! ほ、ほんとうですか!?」

「ええ。そうですよ。私は教会の人間です。生憎、身分を証明する物は持ち合わせておりません。先程、私物は没収されてしまいました」

 ルテオン聖教国の名を聞いて、女性はマリエールに心を許してくれた。それと同時に驚愕もしている。

「どうして教会の御方がメガラニカ帝国に⋯⋯!? まさか私と同じ? メガラニカ帝国に捕まったのですか!?」

「捕まった? いいえ⋯⋯? 私は自分の意思でメガラニカ帝国を訪問し、自分を売り込みに来ております。捕まったわけではないのですが⋯⋯?」

「売り込み? へ?」

「話すと長くなりますが、無理やり連れてこられたわけではありません。しかし、貴方は囚われの身で後宮に送られるのですか? おかしいですね。メガラニカ帝国は奴隷制を禁止していると書物で読みました。帝国軍の大佐殿からもそう聞きました。⋯⋯異邦人は例外なのでしょうか?」

 マリエールは首を傾げる。親切な誰かが教えてくれないかと期待する。しかし、女官達は婢女を監視するだけで助言や説明はしてくれなかった。

「メイドさん達は不親切ですね。私を護衛してくれた帝国軍の方々はもっと友好的でしたのに⋯⋯」

 ちょっと大きな声で嫌味たっぷりに言ってみせた。

「マリエールさん⋯⋯。不用意な発言は止めたほうがいいです。帝国の方々は⋯⋯とても⋯⋯恐ろしいです⋯⋯」

 不敬発言で首を握り潰されかけた記憶が蘇り、ぶるっと背筋が震えた。

【マドンナメイト】人妻マンション 淫ら管理人

35歳の素人童貞男がマンションの管理人に。住人の人妻達が管理人室を訪れては満たされぬ欲求を発散し……オーナーの娘で同級生の今日子の紹介でマンションの管理人になった35歳の弘之。夫婦や家族向けの物件のため住んでいる女性は人妻ばかりで、素人童貞の彼には刺戟が強すぎる環境だった。ある日、多目的ルームでサークルを主宰しているピアノ講師が管理人室を訪ねてきた際に読んでいたエロ雑誌を見つけられ……。その後も、高校教師痔代の教え子や夫が単身赴任中の新婚妻までが欲求不満のフェロモンを出しながら管理人室に出入りしては、弘之に迫ってくるのだった。

著者睦月影郎
イラスト川島健太郎
価格935円(税込)
発行日2025/05/10

【マドンナメイト】【生贄】女子生徒会長 恥辱の調教学園

文武両道の高潔な女子生徒会長は、悪辣な転校生の淫虐な毒牙にかかり……。

エルフィン女学院の生徒会長・一条彩也香と副生徒会長・戸川真奈は、学園で絶大な権力を誇り、厳格な「女尊男卑」の校風を堅持していた。そんなある日、学園に奇妙な転校生である、神城健吾がやって来る――。淫虐な欲望を秘めた健吾は、歪な校風を改革するべく、彩也香と真奈の心身を次々と毒牙にかけていき……。

著者羽村優希
イラスト大柴宗平
価格935円(税込)
発行日2025/05/10

COMIC群青 Vol.3(表紙:森島コン)

茜新社『COMIC群青』
(不定期)

『…大丈夫、まだ誰も来ないよ。』

表紙イラスト…森島コン

【収録作品】
みかづち「Metamorphosis」
背中が尻「ヒミツは個室で」
デコ助18号「君の瞳に恋してない continued」
鶴田文学「ミイラトラレ」
桐原湧「MarginalSuperDarling」

表紙イラスト森島コン
執筆陣森島コン / みかづち / 背中が尻 / デコ助18号 / 鶴田文学 / 桐原湧
価格880円
発行日2025年05月10日

BugBug2025年6月号

辰巳出版『BugBug』
(毎月10日)

■巻頭大特集『アンラベル・トリガー -Prelude to War-』(Archive)
・前作がBugBug2024年間ランキング総合部門1位に輝いたArchiveアペンド版続編を巻頭総力特集!!
・スタッフインタビューに独占先行公開CGにシナリオプレビューなど独占情報も満載でお届け
・サイキライダー描き下ろしソフィアの表紙&Hな差分イラストB2タペストリー応募者全員サービス付き!!

■特別付録「TVで美しょゲー特別付録DVD 280分」
・『のーぶる◇バトラー』イチャラブご奉仕ラブコメ♪動画特集
・「人気美少女ゲームヤリ込み大特集15」2025 June SELECTION
・声優・七種結花 CV Heroine Collection

■速報紹介「B.B.HEAD LINE NEWS」
・『ギャルズフィクション』(自宅すたじお)
・『ヒミツの合宿 -スク水ヒップに溺れたい-』(Waffle)
・『シークレット・デッサン』(あざらしそふと+1)
・『Vanilla Android -シコ猿DT大学生の俺と美少女アンドロイドがいろんなプレイでハメパコミッション!-』(monoceros+)

■NEXT神ゲー◆PickUPソフト特集
・『聖奴●学園3』(Liquid)
・『ワナクリ2』(DESSERT Soft)
・『VenusBlood VALKYRIE』(dualtail)
・『イチャ姉!』(アトリエかぐや Honky-Tonk Pumpkin)
・『極限痴●特異点NEO』(アストロノーツ・シリウス)

■読物特集『DeepOne -領界侵犯-』(Nameless)
・Namelessが放つ本格伝奇バトルビジュアルNVLシリーズ最新作を企画&シナリオ・堀ノ内遊女へ直撃!!
・強化されたバトルシーンや世界観やHシーンなどカラー4ページに渡って深掘りロングインタビュー

■不定期連載「BugBug声優STATION」七種結花
・純愛系やキャラ萌え系を中心に人気急上昇中な声優・七種結花さんにカラー4ページでインタビュー
・デビューまでの経緯やオフの過ごし方など色々直撃!! 大好評の直筆サイン色紙プレゼントも♪

■連載コミック
・『セレクトオブリージュ』(原作:まどそふと/漫画:西崎えいむ

表紙イラスト
執筆陣まどそふと
西崎えいむ
価格1,100円(税込)
紙版:1,680円(税込)
発行日2025/05/10

【244話】メガラニカ皇帝のお仕事

 ベルゼフリートは山積みになった信任状の処理に追われていた。『論功行賞』『官吏任命』に関する認証はメガラニカ皇帝の重要な仕事だ。

 行為の意味は知っているが、内容についてはよく分かっていない。書状に御名御璽を記すだけの形式的な公務。何度も繰り返していると腕が痛くなってくる。

 実権のない幼帝は執務女官が仰々しく運んできた書状を指示通りに認証する。

「⋯⋯⋯⋯」

 執務女官に信任状の内容を問えば、事細かに教えてくれるだろう。だが、ベルゼフリートは政治に対する興味が希薄だった。それは三皇后や女官総長の教育方針とも一致する。政治に熱心だから名君とも限らない。深入りしたせいで災禍を起こした皇帝は多い。

 極論、メガラニカ皇帝のベルゼフリートは災禍を起こさず、滞りなく宮中祭祀を執り行ってくれるだけで国家は豊かになる。

 分厚い御璽を押し当て、印章をす。

 空位時代は国民議会によって指名された摂政が代理で認証していた。即位直後は御名御璽で栄典や地位の再認証を望む声が高まり、ベルゼフリートは凄まじい労苦を味わった。あの時に比べれば、今の業務量は許容範囲内だ。

「――なんかさ。おかしくない?」

 手を止めたベルゼフリートは、ぽつりと呟いた。

 両眼を見開いて驚いた執務女官は、手違いがあったかと机に置かれた信任状を慌てて確認する。

「あ、ごめん。こっちのことじゃなくてさ⋯⋯。ハスキー、ちょっと来てくれる」

 ベルゼフリートは発言を訂正し、手招きで警務女官長ハスキーを呼び寄せる。

「どうされました? 休憩になさいますか? 寝室に行きますか? それともここで?」

 満面の笑みを浮かべ、ミニスカを捲って淫艶な下着をチラ見せする。ベルゼフリートが望めばいつでも性奉仕に応じられる。しかし、誘いは断られてしまった。

「エッチじゃなくて真面目な相談事」

「残念です。しかし、皇帝陛下のお悩み事は重大事です。お聞かせください」

「ずっと考えてたんだけど、おかしいと思うんだ。黄葉離宮で引き取る婢女の件」

「例外的な入内ではありますね。私達も決定には驚きました。しかし、セラフィーナさんやロレンシアさんという前例があります」

「セラフィーナとロレンシアは正式な女仙だけどね。例外的な入内という意味じゃ、その通りかな。あれは軍務省が動いてた。今回は違うでしょ」

「宰相府の強い意向があったと聞いております。前例を作った軍務省の譲歩があったという話です」

「教会が献上してきた元聖女はまだ分かるよ。国外の敵ばっかり増やしてもしょうがないし、教会と関係を築く橋渡し役になるかもしれない。でもさ、バルカサロ王国から逃げ出したイシュチェルを後宮に入れる狙いは?」

「三皇后には深いお考えがあるのでしょう。陛下は考え込まず、退屈しのぎの玩具と思えば良いのでは?」

「頭を空っぽにしたほうが楽ではあるね。新しい玩具か⋯⋯。中古の年増好きってわけじゃないんだけど⋯⋯」

「ご不満ですか? ご所望とあらば女官から陛下好みの生娘を見繕いましょう」

「いいや。そういうんじゃないよ。だって、考えちゃうじゃん。バルカサロ王国の王妃を孕ませて何になるの? きっと裏で謀略を張り巡らせてる」

「三皇后の真意は分かりかねます。アストレティア妃殿下がグラシエル大宮殿に赴いたのは、イシュチェルを治療するためだったと聞きました。例のアーティファクトを持ち出したとも⋯⋯」

「アーティファクト?」

「アルテナ王国で見つかった〈朱燕の乙女貝〉です。現在は大神殿の管理下にあります」

「アルテナ王国にあったアレか」

 処女を取り戻せる伝説のアーティファクト〈朱燕の乙女貝〉。ハスキーは何度か使用許可を求めたが、大神殿は許しをくれなかった。ハスキー以外にも二度目の処女喪失を体験したい性豪の女仙達は、強い興味を示している。

「もう血酒を飲ませて女仙化させたのかな。それで、僕の予定が変更されたんでしょ? 宮中祭祀の日程が後ろ倒しになった」

「入内の準備が整ったのでしょう。急な予定変更でしたので私も陛下の護衛を外れて、警務女官の人員調整に追われました」

「最近はお休みの日が何度かあったね」

「はい。延期になった宮中祭祀は重要行事でしたから。皇帝陛下の体調をおもんばかっての処置⋯⋯。大神殿はそう言っておられましたが、本当のところは分かりかねます」

「余暇の時間を用意したから黄葉離宮に通えって意味だよね。あからさまに僕の公務が減らされてる。無理強いはしないって言われた。だけど、仕向けられてる」

「余暇をどう過ごすかは皇帝陛下の御心次第です。帝城に留まる選択肢もございますよ」

「ここまでお膳立てされちゃったら無理でしょ。僕はイシュチェルを孕まさなきゃいけない。⋯⋯他の妃達にはどんな説明をしてるんだろ。僕が黄葉離宮に行くのを嫌がってる人は多いよね?」

「入内する婢女は一部の者だけが知る秘匿情報です。下級妃や一般の女官には正体はもちろん、その存在も知らされていません。表向きはヘルガ王妃が用意した新しい側女となるようですよ」

「ヘルガの側女は多いし、セラフィーナに貸し与えたって言えば新入りを誤魔化せるか⋯⋯」

「実際、黄葉離宮は妊婦ばかりで働き手に困っておりますからね。良いタイミングではありました」

「僕らがイシュチェルを手中に収めた事実は、誰にも知られていない。バルカサロ王国に揺さぶりをかける材料になるかな?」

「どうでしょう。イシュチェルは王殺しで国を追われた大罪人となっています。内乱の終息後、バルカサロ王国で誰が実権を握るにしろ、国外逃亡した王妃の名誉回復は考えにくいです。王殺しの汚名は誰かが被らなければなりません」

 バルカサロ王国の王チャドラックは殺された。他殺体がある以上、殺人犯は必要だった。ただし、その人物が真犯人である必要はない。

「実際に殺したかどうかは知らないけどさ、王殺しの大罪人を保護したらバルカサロ王国と揉めるよね? 女仙化させちゃったら、もう身柄を引き渡せない」

「世間に公表する気はないのかもしれません。だからこその婢女です」

「それもそっか。国外脱出に失敗したイシュチェルはグウィストン川で第六王子アーロンともども溺死。それが世間一般での認識だもんね」

「⋯⋯三皇后は『取り替え子』をする気かもしれません」

「取り替え子?」

「第六王子アーロンの死体は見つかっていません。あるいは帝国軍が発見し、秘密裏に処理してしまった可能性もあります。⋯⋯赤子の年齢なら一歳程度は誤魔化せる」

「イシュチェルに新しい子供を産ませて、それを第六王子アーロンにすり替えるわけ? 腹黒な陰謀だ」

「ええ。まったくです。しかし、我らの敬愛する三皇后や参謀部が思いつきそうな計画ではありませんか?」

「それはそうかも。たださ、イシュチェルはバルカサロ王家の血筋じゃない。王族とは無関係の修道女だったらしいよ。血統を調べられたら、嘘が分かっちゃ⋯⋯あ⋯⋯」

 ベルゼフリートは向けられる目線に気づく。

 執務女官は黒縁くろぶちの眼鏡をクイッと上げる。ハスキーとのお喋りに夢中でベルゼフリートの手は止まっていた。

「はいはい⋯⋯。お仕事ね。ちゃんと手も動かしますよ~」

 自分の仕事を思い出し、重たい御璽を持ち上げる。

(メガラニカ帝国とバルカサロ王国とは緊張状態にある。軍閥派は全面戦争を嫌がってるけど、宰相派と国民議会からは先制攻撃論も出てるくらい好戦的⋯⋯。そんな状況でイシュチェルはどう利用できるんだろう)

 三皇后が会議を重ねて導き出した結論だ。バルカサロ王国から逃れてきた王妃イシュチェルの懐妊は、メガラニカ帝国の国益に繋がる最優先事項となった。

 ベルゼフリートは言われた通りに、祖国を追われた哀れな未亡人を孕ませる。

(あとでセラフィーナにも聞いておこう。バルカサロ王家の事情はよく知ってるだろうし⋯⋯。面識はあったのかな?)

 愛妾セラフィーナには指南役の仕事が与えられていた。凌辱を受けた経験者ゆえに、どうすれば高貴な王族の女が淫らに堕ちていくかを知っている。

(人妻に手を出すのは、セラフィーナとロレンシアに続いて三人目。これも経験値にはなるよね。くすくすっ⋯⋯)

 イシュチェルは人里離れた修道院で暮らしていた修道女だった。貞潔の誓いを立てて、生涯を信仰に捧げる。運命が狂い始めたのは、バルカサロ王に見初められたせいだ。老王チャドラック・バルカサロの懇願により、教皇庁の特別な許しを得て、結婚に至った。

 運命は数奇である。紆余曲折を経て、未亡人となった王妃イシュチェルは皇帝ベルゼフリートに子宮を捧げる。

【243話】バルカサロ王家の秘密

 アストレティアはイシュチェルの胎を指差す。

 教会が子宮に施した強力な奇跡は、聖婚の大神でさえ解除できなかった。しかし、効果の重ね掛けはできる。

「なっ、なに⋯⋯? この感覚? 私の身体に何かしたの!?」

 眠っている間に何かをされた。胎の違和感に強い恐怖を覚える。

「女仙化の直後、儀式触媒〈朱燕の乙女貝〉を使いました。効果は純潔の復活。このアーティファクトを使ってイシュチェルさんの処女膜を再生しました。無垢な乙女の身体はどうですか?」

 アストレティアは綺麗な貝殻を取り出して見せる。大神殿が所有するアーティファクトであり、以前はアルテナ王国の宝物庫にあった。処女膜を再生させ、純愛の加護を授けてくれる秘宝である。

「無垢な身体⋯⋯」

 処女の身体に戻されたイシュチェルは困惑する。同時に強い悪寒で背筋が凍った。

 後宮はメガラニカ皇帝のハーレム。性奉仕をする美女の一人として、イシュチェルは入内させられる。

 処女膜の再生は、汚れていた貢物を綺麗に磨き直すようなものだ。

「私も自分で使ってみた経験があります。二度目や三度目の処女喪失は⋯⋯病みつきになります。私は血が出てしまうため、破瓜でシーツを真っ赤に汚してしまいますが⋯⋯ね⋯⋯。愛しの皇帝陛下に純潔を捧げる愛の営み⋯⋯♥ 男根の貫きは、言い表せぬ女の至福です♥」

 アストレティアは身をくねらせ、公然と淫情に満ちた愛を説いた。

「⋯⋯っ!」

「おや? 少女のように顔を赤くされてどうしました? まさかセックスはお嫌いですか?」

「ひっ、卑猥なことを言わないでください⋯⋯!」

「ベルゼフリート陛下は床上手ですよ。私達がこぞって性技を仕込みましたから⋯⋯。〈朱燕の乙女貝〉で再生した処女膜は、最愛の男性だけが破れる。イシュチェルさんはいつまで純潔を守れるでしょうね」

「なんという⋯⋯。卑劣です⋯⋯! 私の身体を辱めるために、命を救ったのですね⋯⋯!!」

「三皇后の決定です。皇帝陛下の新しい玩具としても最適だろうと⋯⋯。私は女官総長と同意見で、好ましく思っておりませんけれど。はぁ、近頃の皇帝陛下はよくない遊びを覚えてしまわれた」

「貴方達は最低です! 下劣極まります! これがメガラニカ帝国のやり方なのですか!?」

「無益な内乱で無辜むこの民に犠牲を強いる方々よりは上等なつもりです」

「⋯⋯⋯⋯ッ!」

「他に言いたいことは? 私は多忙の身です。何もなければ私は天空城アースガルズに帰らせていただきます。イシュチェルさんはとてもお元気なご様子。これ以上の治療は不要でしょう」

「お待ちなさいっ! 一つだけ教えて⋯⋯。私以外に生き残った人は?」

「素直に自分の子供が心配だと言われてはどうですか?」

「⋯⋯アーロンは? メガラニカ帝国はアーロンも捕まえているというのっ!?」

「私も母親です。我が子を心配する心。その点に関しては共感できます。心情も深く理解いたします。西アルテナ王国に流れ着いた生存者はイシュチェルさんだけです。帝国軍が捜索を続けていますが、第六王子を含め、誰一人として見つかっていません」

「そんな⋯⋯誰も⋯⋯。私以外が⋯⋯死んでしまった⋯⋯?」

「落胆しているのですか? 吉報ですよ。帝国軍が第六王子を見つけた場合、アルテナ王国の王子と同じ末路を辿る可能性が高い」

「なんですって⋯⋯!? 王子を殺す⋯⋯?」

「ええ。宰相派と軍閥派はやるでしょうね」

「まだ⋯⋯小さな赤子よ⋯⋯? 帝国に人の心はないのですか!?」

「赤子殺しは反対です。しかし、宰相派と軍閥派は必要とあれば冷徹な判断を下します。だから、アーロン王子が見つかっていないのは幸いです。良かったですね」

「⋯⋯⋯⋯」

「もちろん、生存の見込みはとても低い。しかし、遺体が見つからない限りは、一縷いちるの希望を抱き続けることができましょう」

「⋯⋯⋯⋯。ええ。そうですわね。東岸に、東アルテナ王国に流れ着いているかもしれないわ」

 希望的観測であった。しかし、イシュチェルは信じるしかなかった。

「もう一つ、老婆心で助言を差し上げましょう。アーロン王子が東側で生き延びていると信じているなら、まずはご自身が後宮で生き延びることです」

「媚びろとでも言いたいのですか? 帝国の支配に屈したアルテナ王国の売国女王セラフィーナを見習えと?」

「そこまでは言いませんよ。⋯⋯ベルゼフリート陛下の寵愛を授かり、御子を産めばご褒美が与えられます。例えばの話です。帝国軍がアーロン王子を見つけたり、捕らえた場合、イシュチェルさんのお立場次第では我が子の助命を嘆願する権利も得られましょう」

 アストレティアの助言はイシュチェルを苦悩させる。

 万が一、第六王子アーロンが生き延びていて、メガラニカ帝国に捕まったらどうなるか? 殺される可能性が高いとアストレティアは示唆する。しかし、イシュチェルが売春婦のように身体を差し出し、皇帝の御子を産めば、褒美で助命を願えるかもしれない。

 究極の選択を迫られた。

 夫婦の誓いを破りたくはない。しかし、第六王子アーロンを守るためなら、どんな辱めだろうと耐えられる。

(耐えてみせますわ⋯⋯。これは私に課せられた試練⋯⋯! 私が生き延びたのなら、アーロンもきっと生きている⋯⋯!!)

 イシュチェルは後宮の生活をまだ知らない。

 極太の巨根が膣道を埋め尽くし、激しい脈動と共に子胤が胎で弾ける快感。王妃から婢女になったイシュチェルは性の悦楽を知ってしまう。

 ◆ ◆ ◆

 生存者の捜索は東アルテナ王国でも秘密裏に行われていた。

 亡命を希望していた王妃イシュチェルがグウィストン川で行方不明となり、難民船が襲撃を受けて沈没。推理をするまでもなく、何が起きたかは分かる。

 リンジーは下流域の捜索結果をヴィクトリカに報告する。

 遺体は発見できず、依頼を受けた冒険者が持ち帰ってきたのは、木片に絡まっていたネックレスだけだった。

「見覚えがあるわ。私がバルカサロ王国に行ったのは、七年くらい前だったかしら⋯⋯? チャドラック陛下とイシュチェル殿下の結婚式に参列したとき、このネックレスを見たわ。⋯⋯清貧を好む修道院からの贈呈品よ。黄金や銀のような高級素材は使わず、手作りのアクセサリーを渡した」

 王女だった頃、ヴィクトリカは結婚式に出席した。王妃イシュチェルと言葉を交わし、女王セラフィーナと王婿ガイゼフの親書を手渡した。

(七年前か⋯⋯)

 東アルテナ王国の女王を名乗り始めてから、両親とは関係を断絶している。

 売国奴になった淫母だけでなく、父親のガイゼフとも距離を置いた。

「駄目よ。リュート。まったくもう⋯⋯なんでもかんでも口に入れようとするんだから⋯⋯。やめなさい」

 抱きかかえた乳児が金属製のネックレスを噛む。リンジーにネックレスを返し、お腹を空かせた愛児のために乳房を取り出した。

 懐妊と出産を経験し、ヴィクトリカの身体は成長した。少女から若母へ、肉体は進化を遂げる。乳房が膨らみを増し、肉付き豊かな美体は、在りし日のセラフィーナに酷似する。一つだけ大きく異なるのは、子育てを自分でしていることだ。

 皇帝ベルゼフリートに孕まされ、産まれた男児にヴィクトリカは亡兄の名を授けた。正式名はリュート二世である。乳母は雇っていない。

(あいつの血を引く赤子。おぞましい。可愛くなんかない。この子は道具よ。必要以上に入れ込むのは論外だわ。お兄様と同じ名前にしたのは、私達を捨てたに対する意趣返し⋯⋯。秘密出産だったけれど、私が男児を産んだのは知っているんでしょう? 悔しがってくれたかしら?)

 リュートはヴィクトリカの母乳を吸う。

 半分は愚帝の血、もう半分は自分の血が流れた我が子。分娩の痛みに呻いている間は、愛せるわけがないと思っていた。

「他に見つかった物はある?」

「ございません」

「イシュチェル殿下の遺留品だけが見つかったの? 残念だわ。せめて御遺体は弔ってあげたかった」

 ヴィクトリカは授乳を続けながら、リンジーに報告の続きを催促する。

「生存の見込みは低いです。しかし、御遺体が見つからなかった以上、捜索は続けましょう。これからの増水期で難しいですが⋯⋯」

「他の犠牲者は?」

「共同墓地に弔いました。流れ着いた御遺体は全て回収を終えております。所持品で身元が判明した者達は教会に情報を与えました。⋯⋯ただし、あの乳母と男児については伏せました。二人の墓所も人里離れた山に隠してあります」

「安らかに眠ってほしいわ。⋯⋯ところで、リンジーはどう思う? 貴方の考えを教えてほしい。バルカサロ王国では大きな内乱が起きているわ。亡くなった乳母が隠し持っていた手記に全て書いてあった。乳母が抱き込んでいた男児の亡骸は⋯⋯」

 乳母は溺死だった。しかし、男児の死因は首を鋭利な刃物で引き裂かれたことによる失血死である。

 襲撃してきた刺客は執念深かった。川に飛び込んだ乳母を追いかけ、男児の首に短剣を突き刺した。乳母と男児の死体は東岸に流れ着き、懐にあった手記は東アルテナ王国によって回収された。

「手記の内容は精査が必要です。水を吸ってふやけている箇所が多くあります」

「でも、隠されていた真相が明らかになったわ」

「国王チャドラック陛下に仕えていた側近の視点から見た事実です。主観が歪んでいれば情報も歪みます。本当の真相を知りたいのなら、他の王子や王宮関係者に話を聞かなければなりません」

「分かっているわ。でも、あの手記が真相を記しているなら、チャドラック陛下の行動を説明できるでしょ。前王妃エルシェベナが産んだ王子達を廃嫡した理由も⋯⋯だって⋯⋯!」

「あの手記は公開できません。バルカサロ王国に攻められますよ」

「⋯⋯⋯⋯」

「お分かりのはずです。メガラニカ帝国に睨まれている今、北方の大国を敵には回せません」

「ええ、言われずとも、それくらい分かっているわ。前王妃エルシェベナの産んだ王子達はバルカサロ王家の血筋を一滴も引いていない。そんなスキャンダルを私が言ったら⋯⋯」

「間違いなく口封じで殺されますね」

「貴方はいつだって物事をはっきり言うのね⋯⋯。他にも知っている人はいたのかしら? イシュチェル殿下には知らされていなかったみたいだけど」

「分かりかねます。しかし、亡くなったチャドラック陛下が勘付いていた以上、確たる証拠があったのでしょう。前王妃エルシェベナの王子達や臣下が王統の秘密に気づけば、どんな手段を使ってでも闇に葬る。最悪の場合、自分達の権力基盤がひっくり返るのですから」

「そうね。統治の正当性が揺らぐわ」

「ヴィクトリカ様にとっても好ましくありません」

「私にも? そうかしら?」

「第五王子であるガイゼフ様は前王妃エルシェベナの子供。ヴィクトリカ様にとっては祖母です。父系の王統が否定されれば、ヴィクトリカ様はバルカサロ王室と無縁の人間になってしまいます」

「今さらどうでもいいわ。バルカサロ王家の血統に期待なんかしてない。私はアルテナ王家の女よ。国王の座を争ってる王子達はショックを受けるでしょうけど。ああ⋯⋯でも⋯⋯殺された第一王子のドラホミール様だけは知っていたのかしら?」

「知っていたから、第六王子アーロン様に王位を譲ろうとしたのでしょう。もしかすると第四王子ロアフォード様も勘付いている可能性がありますね。あの方は王位継承権を早々に手放そうとしていました」

「ロアフォード様は切れ者だもの。⋯⋯私のお父様はどうかしら?」

「ガイゼフ様は知らないと思います。そのほうが好都合であり、幸せなことです。バルカサロ王家の一員ですらなくなったら、精神の病が悪化しますよ」

「そうよね⋯⋯」

 第六王子アーロンだけがバルカサロ王家の血筋を受け継いだ唯一の男子であった。

 ヴィクトリカは溜息をつく。王統の真実を突きつけられたらガイゼフは発狂しかねない。父親の扱いには困っている。妻であったセラフィーナを皇帝に寝取られてからは精神が不安定だ。見るに見かねた兄のロアフォードが、教会の医療院に入院させようと画策している。

 その計画にヴィクトリカは賛成していた。

(役に立たない感情論はいらないわ)

 闇雲に戦ってもメガラニカ帝国の脅威は退けられない。

「ともかく今の私ができることは――」

 母乳を欲する赤子の泣き声が室内に響いた。鼓膜をつんざく奇声は心臓に良くない。

「――赤子に母乳を与えることだけね。はいはい、泣かないの。まったくもう……。意気地のない子。お腹が空くとすぐ泣きだすんだから」

 面倒になったヴィクトリカは上衣を脱ぎ捨てる。産後に太った腹は誰にも見せたくなかったが、上裸になれば左右の乳房でミルクを与えられる。

「さようですね。ヴィクトリカ様は授乳がお上手になってきました。立派な母親でございます」

「子育は大変だわ。やっぱり乳母を雇おうかしら? 私一人だけだと荷が勝ちすぎるわ」

「今さらそれを仰せになられる? 一人で全てやると言われたので、乳母を探さなかったのですが?」

「しょうがないじゃない」

を上げて前言撤回をなさるわけですね」

 泣きじゃくる乳飲み子に呼応して、泣き言を漏らし始めたヴィクトリカにリンジーは厳しめの態度だった。

 アルテナ王家の乳母だったリンジーは、子守りの苦労を知っている。

「寝る暇がなくなりますよと、あれほど言いましたのに」

 女王の政務と子育ては両立できないと強めに警告していた。リンジーの表情は、思った通りの結果になったと言わんばかりだった。

「あの時と今じゃ、状況が違うでしょ! 乳房と腕は二つあるけど、母乳を吸われ続ける身にもなりなさいよ! 夜泣きで何度も起こされるし⋯⋯お願いだから信頼できる乳母を探してきて⋯⋯」

「分かりました。女王陛下。どのような人物をお望みですか?」

「私みたいに母乳がいっぱい出る人⋯⋯」