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【魔法少女フェアリーナ ~怪人女王に悪堕ち変身~】第三章 怪女繭獄、怪人女王インフェリーナ

 阿松星凪が死亡して二年が経った。

 姫神美羽がリバイヴの研究施設に拉致監禁されてから二年の歳月が流れている。

「細胞分裂が止まった。増殖を繰り返した体細胞がついに進化を終えたんだよ」

 外の世界では偽りの平和が続いていた。巨悪の化身が再び目覚めたと知る者はいなかった。

「魔法少女フェアリーナはさらなる変身を遂げ、怪人が復活する」

「……私がこの赤児を吸収すればいいの?」

「うん。彩花音さんの胎内から摘出した胎児の瓶詰め。血縁的には星凪の妹になるはずだったモノ。もはや呪物だね。大変だったんだよ? 医者に胎児が死んだと誤診させて堕胎させたんだ。赤ちゃんの骸を病院から盗んで薬漬けにするのも一苦労さ」

「ねえ、ちゃんと殺したのよね……? 動いてない? まだ生きているように見えるけど」

「魚でいうところの神経締め? 人間的な意味でなら完全に死んでいるよ。死んだら腐っちゃうからね。脳だけ殺して、肉体的は生かしてある。生体機骸として加工したんだ。魂のない生きた屍。クローン体のホムンクルスでは駄目だったけど、その胎児をフェアリーナが吸収すれば、肉体に宿る魔力は堕落する……」

 リバイヴは拘束器具の固定を解除した。

「拘束を解除した。どうかな。二年ぶりの自由は? 電気信号を筋肉に送り続けたから、衰えてはいないはずだよ」

 四肢の自由を奪われていたフェアリーナは二年ぶりに自分の両足で床を踏みしめる。解き放たれた左右の手で、自分の爆乳を揉み上げた。

「身籠もっているとはいえ、身体がとても重たく感じるわ」

「臨月の状態で一年以上も育て続けた。身重の肉体には慣れてもらうしかないかな。僕とフェアリーナの愛が実っているんだもん」

「たくさん注がれたものね。身体がはち切れそうだわ。魔法少女の衣装が窮屈……。本当に子供っぽい服。こんなもの……はやく脱ぎ捨ててしまいたいわ」

 フェアリーナの魂は深淵へと墜ちた。

 人の良心を捨て去り、善と正義を否定する。己の欲望のままに魔法の力を振るう悪しき邪女となった。

「リバイヴ……。薬瓶を渡しなさい。吸収するわ」

 京一郎と彩花音の胎児が詰められた瓶を献上させる。魔力で蓋を吹き飛ばし、胎児の遺骸ごと新鮮な細胞を吸収する。

「あ゛ぅ~んっ! ごぉっくっん!!」

 巨鳥の卵を呑む込む蛇を彷彿とさせた。

「ん゛っ! おほぉお゛ぅっ! ううぅううぉおぉおお゛っ……! おぅっ!」

 顎を外し、無理やり喉を押し通す。喰われた胎児の遺骸は消化器官を素通りし、機胎蠱毒で巨大に孕んだ子宮へと運ばれる。

「んっごおっぉおぅう゛ぅっ……! ん゛ぅぅううぅぅぅっん……!」

 無垢な赤児の血肉は極上の供物。

 魔法少女フェアリーナをおぞましいモンスターへと堕落させる生け贄なのだ。

 魔法少女の衣装が腐食していく。もはや善の側には戻れない。

「すごい、すごい! 蛇みたいに丸呑みだ! で、お味のほどは?」

「はうぅ……♥︎ とっても美味しいわァ。復讐は蜜の味。肉体の隅々まで充ち満ちる。胎内に反響する怨嗟の声が心地好い。愉悦の極みだわ……!! 病みつきになっちゃう! 深淵から魔力が沸き立つ……!」

 人間であったころの美羽ではなくなった。悪に染まった魔法少女の瞳は、邪鬼の妖光が宿っていた。聖なる少女から、禍々しい魔女へと穢れていった。

(怪人王ジェノシス様……! 地獄の深淵で見ていますか? 僕は葬られた怪人達の遺志を果たしました。新たな災厄の誕生を祝福してください! 怪人の新たな支配者! 彼女こそ人類に仇なす災禍の化身……!)

 興奮を隠せないリバイヴは鼻息を荒くしている。

 大きな修正が加えられた怪人王復活計画。怪人王ジェノシスの核であった宿魂石がないのなら、別の者を怪人王に仕立てればいい。

 怪人の生み出した元凶であり、強大な魔法現象を引き押す異形の存在。すなわち、魔法少女フェアリーナこそが新たな怪人の王となるのだ。

「ふぅ……♥︎」

「禍々しい汚染魔力。今のフェアリーナは本物の怪人だ。素晴らしい!」

「リバイヴ……。貴方は私を騙していたわね?」

「子作りの目的? 嘘はないよ。星凪が抱いていた人妻への劣情は、今も僕の心で生き続けている。でも、僕とフェアリーナの交わりで、怪人王が産まれるわけではないね。その辺はずっと濁してた」

「機胎蠱毒は暗黒物質を私に生成させる手段……」

 フェアリーナは醜く膨らんだ下腹をさする。

「ご名答♪」

 前部に大きく突き出たボテ腹には悪の結晶が生成されていた。胎児の形をしている。母胎の腹を蹴り、激しく胎動する異形の子。かつてフェアリーナが破壊した暗黒物質と同質の気配を感じ取っていた。

「私の子宮で生成されたのは暗黒物質……。怪人王ジェノシスのコアだった宿魂石と同じ。魔力を汚染する怪人細胞の結晶。魔法少女だった私は堕落し、ダークパワーを身に宿した」

「胎内の暗黒物質は母胎を汚染する。供物を喰らったことで、人間性の枷が外れたんだ」

「やっぱりね。……魔法少女フェアリーナを怪人の支配者へと変身させる。最初からそういう計画だったのでしょう?」

「途中で軌道修正はあったけど、概ねはその通りだよ。怪人王を産ませるより、魔法少女フェアリーナを造り変えるほうが簡単だ。それでも二年はかかってしまった。まあ、そもそも成功率がゼロパーセントの計画だったし、よくやったほうだと自画自賛したいよ」

「私がリバイヴを褒めてあげる。誇らしいわ。貴方は一人でよく頑張ったわ」

 フェアリーナはリバイヴを手招きする。照れている姿は、生前の星凪と全く同じだった。

「ちょっと、恥ずかしいってば……!」

「あら? 意外に初心ね。あんなに大胆で激しく私を愛してくれた子とは思えないわ。私を身籠もらせたのは誰? 私の身体を誰よりも知っているのは貴方よ」

「今までずっと拘束器具で固定してたから、今のフェアリーナが相手だと緊張しちゃう……。この二年間で機骸に宿ってた恋心は……強まっていった。生前の星凪が抱いてた愛情だけとも思えない……。おかしいよね。僕は電脳機巧……ただの機械だっていうのにさ」

「何もおかしくないわ。リバイヴは私を愛しているのよ。絶対に裏切らない。可愛い子供……♥︎ 今度は私が望みを叶えてあげる。ふふふふっ♥︎ 私の欲望でもあるわ……♥︎ 魔法少女フェアリーナは怪人に変身するのよっ……♥︎」

「やった! 僕、嬉しいっ! ついに怪人が復活するんだ!! 怪人の新たな支配者! 魔法少女フェアリーナが女王様になるっ! 僕のご主人様……!」

「魔法少女フェアリーナの名は捨てるわ。人間だった頃の……姫神美羽も……志乃原家の娘として産まれた過去を消し去る……!」

「分かった。手伝うよ。僕は二年前に交わした魔法契約の解除を求める。お互いの同意があれば、あのときに交わした契約は取り消される」

「認めるわ……。人間に復讐しましょう。今の私は身も心も怪人になったわ。人殺しだって厭わない。ひたすらに自分自身の欲望を満たすわ。だって、望んでしまったの。私は悪に染まるっ♥︎」

 妖精の光羽が腐り墜ちた。その代わりに生えてきたのは、おぞましい模様が浮かび上がった醜悪な蛾の羽根だった。

「――これからは私を怪人女王インフェリーナと呼びなさい」

 人間の表皮が剥がれ落ち、青紫色の皮膚に変貌する。

 髪は淫靡なピンク色に生え替わり、頭部から触角が突き出した。人外の肉体へと変じる最中、口から大量の糸を吐き始めた。

 まるで人間の少年を捕食しようとする女怪人だ。吐き付けられた糸は、二人の身体を覆う。

「じょ、じょうおうさま? インフェリーナ様……!? これは何をしているの……?」

「転成の繭を造っているわ。まだ怪人への変身は終わっていないのよ。生まれ変わらないと人間だったときの残滓が消えないわ。名前を棄てるだけじゃ駄目よ。記憶を完全に消去しないと、人の心は残ってしまう。星凪くんの死体に私への恋慕が残り続けたようにね」

「なるほど。繭のなかで身体を造り変えるんだ! すごくいいアイディアだと思う! ……近くで見守らせてもらうね」

「あら? 何を言っているのかしら? 貴方も一緒に入るのよ?」

「え?」

「私に仕えるのだから貴方も怪人になりなさい。機械と人間の融合した電脳機巧……。もしプロトコルを上書きされたら、貴方は私を捨てちゃうでしょう……? そんなのは許さないわ。一生涯の隷属……未来永劫……私に仕えるのよ」

 機骸で魂を得たとはいえ、機械生命でしかないリバイヴは、組み込まれたプロトコルに従うマシーンだ。製造者は先代の怪人王ジェノシスであるため、怪人女王インフェリーナをマスターと呼ぶこともない。

「で、でも、でも! 魔法と機械は相性が……! 僕、壊れちゃうかも……!」

「私は怪人女王になったのよ? 全ての怪人を支配する絶対の女王。裏切りを許さないわ」

 幾重に絡まった糸はリバイヴの逃走を阻む。

 かつて姫神美羽を拉致監禁したリバイヴは、逆の立場に追い詰められた。怪人の力に目覚めたインフェリーナは魔力の糸で巨大な繭を編む。

「まって! まってよ! 女王様! ちゃんと検証や予備実験をしてからにしようよ⋯⋯!」

「女王の愛で生まれ変わりなさい――怪人魔法クイーン・オブ・クリーチャーズ♥︎」

 秘密研究所に巨大繭が形成される。周囲の実験器具を薙ぎ倒し、縄状に絡み合った魔力糸が天井と壁にへばり付く。強大な魔力が込められていた。繭の内側に閉じ込められたリバイヴは身動きがとれない。

「ふふっ……! 怪人女王に変身する私を間近で見られるのは嬉しい? 特別なのよ。貴方は特別な愛しい男の子。可愛い愛玩怪人にしてあげるから」

 魔法少女の衣装から解き放たれたインフェリーナはリバイヴの矮躯を抱きしめる。

 繭が汚染液で満ちていく。胎内から溢れ出した凶悪な魔力が液状化し、リバイヴの研究白衣を熔解させた。

「……っ! 女王様っ……!! こんな魔法の液体に浸けられたら、僕の身体が溶けちゃうってば!?」

「大丈夫。私と一緒にいれば溶けたりしないわ。ほら。いつもみたいに私を慰めて。私を愛しなさい。私もリバイヴのために全てを捧げる。人類に仇なす絶対悪の化身、怪人女王インフェリーナになってあげるわ♥︎」

 人間だったころの記憶を消し去る。精神にこびり付いた善良な心を削ぎ落とし、完全無欠の怪人へと変貌するのが、インフェリーナの目的だった。

 リバイヴの意図とも合致するが、自分まで繭に囚われるのは想定外だった。胎内の暗黒物質で生成された汚染液は、インフェリーナとリバイヴの肉体に染み渡る。

(怪人細胞への変成……! 僕の肉体はもともと阿松星凪の死体を加工して造った機骸。暗黒物質に汚染されれば、怪人の力を得られるかもしれない。でも、問題なのは電脳だ……。液体金属のナノマシーンが魔法の影響を受けたら、どんな障害が出るか分からない)

 自己防衛プログラムは危険信号を飛ばしている。けれど、今さら怪人女王インフェリーナを止めることはできない。

(わずかに残った姫神美羽の人間性を……、魔法少女フェアリーナの善良な心を消滅させる気なんだ。怪人王ジェノシス様以上の化物に墜ちる……。僕が望んだ以上の存在に変身しようとしている)

 恐怖はある。しかし、それでも見てみたかった。

 正義の化身として、人類のために戦い抜いた最強の魔法少女フェアリーナが絶対悪に変じる瞬間を見届けたい。

(培養槽みたいな居心地。まるで羊水で満たされた子宮の中だ。二人で入るにはちょっと窮屈だけど……)

 身に着けていた衣類は完全に溶けてしまった。強酸性の液体に漬け込んでも破れないはずの研究用白衣が跡形もなく消えた。真っ裸のリバイヴは魔法少女の衣装を脱ぎ捨てたインフェリーナに抱きしめられている。

「痛っ……!」

 臍の穴に鋭い痛みが走る。汚染液に薄らと血液が滲んでいる。リバイヴの腹から流れ出した鮮血だった。

「これは……? 女王様……? 僕のお臍に触手が入り込んでる。極太の血管……?」

 赤黒いグロテスクな触手を臍の穴を貫通し、体内の臓腑に侵入していた。触手の根元はインフェリーナのボテ腹。機胎蠱毒で暗黒物質の胎児を宿した孕み腹の臍穴から伸びていた。

「臍の緒じゃないかしら? 繭は私の欲望を叶える邪悪な揺籃ようらん、いわば私の胎内よ……。母胎と胎児は臍帯で繋がっているわ。いつも注がれてばかりだったから、そのお礼とでも思ってちょうだい♥︎」

「あっ……んぁ……女王様……! 僕の体にエキスが入ってくるっ!!」

「繭での変身には長い時間がかかりそうだわ。一年はずっと繭の中にいるかもしれない。たっぷり愛し合いましょう。私は貴方を怪人にしてあげる。その代わりに、私から記憶を奪い取って……。怪人の肉体になったけれど、私にはまだ人間性が残っているわ。貴方が私の心を奪い尽くすのよ」

 インフェリーナは自慢の爆乳でリバイヴの顔面を包み込む。

「さあ、私を食べて……♥︎ 私を愛して♥︎ 私を求め続けなさい♥︎ 過去を忘れさせて♥︎」

 怪人の新たな支配者となったインフェリーナは、たった一人の愛しい子を抱擁する。

「女王様……! 女王様っ……!!」

「ふふっ♥︎ もう立派な男の子ね……♥︎ 好きなだけ……貪らせてあげるわ……♥︎」

 秘密研究所の天井にぶら下がる薄気味悪い繭は揺れ動く。羽化の刻が訪れるまで、愛の巣は邪悪の化身を育むのだ。

 ◇ ◇ ◇

 姫神美羽の失踪から約三年後、警察の捜査は終了し、保管期間を過ぎた記録は破棄された。

 海辺に白骨体が打ち上げられたのだ。残された家族も美羽の自殺を受け入れていたが、捜査を続けている者達がいた。

 

 ――公安特務局、魔法少女の支援機関である。

 

 もし姫神美羽が普通の人間だったなら自殺はありえる。しかし、魔法少女の能力を宿す者は絶対に死なない。そのことを知っていた公安特務局は、姫神美羽の失踪と自殺を不審に思った。

 怪人王ジェノシスが滅ぼされ、休止状態だった公安特務局にエージェントが再び集まり、真相の究明が続けられていたのだ。

 一向に手がかりが掴めないまま三年の年月が流れたのは、電脳機巧リバイヴの優れた偽装工作があったからだ。インターネットに接続された電子データは全て改竄されてしまう。科学捜査に頼った弊害であった。難航する捜査の中、ついに公安特務局は手がかりを見つける。

 阿松星凪の遺体が病院から盗難された事件に着目した。同時期、病院に勤務していた男性医師が行方不明となっていた。

 目撃証言を辿り、海に沈んでいた男性医師の死体と運転していた自動車を発見。後部座席から阿松星凪の血痕が見つかり、病院から死体を盗み出した犯人だと特定した。

 さらに興味深かったのは自動車に残っていた放射性物質だった。健康に害を及ばない微量の放射性物質だったが、自然界には存在しないものだった。

 病院勤務の医師であれば治療の関係で放射性物質を扱うケースはある。しかし、自動車に放射線の痕跡があったのは不自然だ。

 疑いの目は近くの原子力発電所へと向けられた。怪人王ジェノシスが秘密裏に建造した施設がある場所としても、その原子力発電所は疑われていた。

 放射性廃棄物保管庫になる予定だった地下空間があった。近隣住民の反対運動で保管庫の設置は見送られ、使われていないはずの空間に三年前から電力が供給されている。

 送電で発生するエネルギーロスとして、巧妙に改竄されていたが、記録を人間の手で計算したところ、やはり電力が秘密裏に送られている事実が判明した。

 公安特務局の疑念が確信に変わった瞬間だった。

「アルファ部隊から本部へ。分厚い鋼鉄製の扉を発見した。ちょうど原子炉建屋の真下だ。設計図に記載は?」

「記載はない。アルファ部隊が進んでいる地下道も存在しないことになっている。本来なら地下水を流す配管があるだけの空間だ」

「……つまり、ここは本命かもしれないってことだな」

 怪人災害の被災救助、魔法現象の隠蔽を担う公安特務局の特殊部隊は、電脳機巧リバイヴの秘密研究所に辿り着いた。

「扉を開けられそうか? 言っておくが爆発物の使用は許可できないぞ」

「分かっているさ。ここは原子力発電所。そもそも発破ようの爆発物を持ち込ませてくれなかったろ。時間はかかりそうだが、電動ドリルで穴を開けさせてる」

「そうか……。慎重にやってくれ。もし無理なら一度、引き上げていい。公安特務局の最終兵器を使う」

「最終兵器ね……。正直な話、俺はまだ大佐の話が信じられませんよ。この任務を言い渡されたとき、俺がどんな顔をしていたか見てたでしょう?」

 無線越しに軽口を叩くアルファ部隊の隊長を指令本部の大佐は諫める。

「無駄口は慎め。怪人王ジェノシスの秘密研究所なら、何かが潜んでいるかもしれない。貴様は怪人災害を知らないヒヨッコだ。怪人が出てくれば、我々には対抗手段がない」

「それで頼りにするのが魔法少女ですかい……? でも、今日は校外学習で動物園に行っているんでしょう。呼びつけるのは気が引けますよ」

「……異変があったらすぐに待避しろ。何度でも言うが、怪人に現代兵器は通じない。接敵したら一方的に虐殺される」

「了解。二階級特進は魅力的ですが、まだ生きてやりたいことがありますしね。いつでも撤退できるようにしときますよ。おっ! やっと扉を開けら……そ……で……。これ……ら……大佐……に……入り……。今の……異常は……な……」

「どうした。アルファ部隊? 通信が途切れている。よく聞こえないぞ。くそ。原子炉建屋の地下にあるせいか。待機中のブラボー部隊を向かわせろ。先行するアルファ部隊を呼び戻せ。すぐ撤退させるんだ」

 魔法少女フェアリーナが怪人王ジェノシスを倒して十三年の時間が経過した。再招集された公安特務局には、怪人と交戦経験がない者ばかりだった。

(嫌な予感がする……)

 本部で隊員の安否を危惧する大佐は、祈るように手を組む。

 十三年前に倒された怪人王ジェノシス。復活を目論んでいたのは公安特務局も把握していた。だからこそ、最強の魔法少女であったフェアリーナと連携し、徹底的に悪の芽を潰した。しかし、三年前に姫神美羽は姿を消してしまった。

 ――悪は再び息を吹き返す。

 アルファ部隊のエージェント達はセキュリティゲートを突破し、地下研究施設に突入する。彼らが目撃したのは、人間を包み込めるサイズの巨大な繭だった。

「なんだこりゃ? 昆虫の繭か?」

「不用意に触れるなよ。これほど巨大な繭は自然界に存在しない。……大佐が言っていた怪人とやらの繭か?」

「例のファンタジックな話、本当なんですかねえ。魔法少女と怪人……。先輩達は大真面目に語ってましたけど、俺はエイプリルフールのジョークだとばかり」

「ああ。吹き出すのを堪えるのが大変だった。精鋭のレンジャー隊員を選抜して、どんな特殊任務かと思ったら、魔法少女のサポートだとさ」

「おい。本部の大佐に聞かれたら不味いぞ」

「無線が断絶してる。だが、本部への報告ができない。とりあえず戻ろう。この繭を除去するにしたって、火炎放射器くらいは必要だ。それにしてもこりゃ何なんだ?」

「生体実験の産物ですかねえ。放射能の影響で巨大化?」

「ガイガーカウンターの数値は正常だ。放射能漏れの心配はないぞ」

「そうだとしてもここは原子炉の真下なんでしょ? 火炎放射器の使用許可が下りますかね?」

「ダイナマイトで吹き飛ばすよりはいいだろ? だけど、場所が場所だけに火も厳禁かもな」

「じゃあ、この不気味な繭を解体して外に運び出すのか? 面倒だな。ん、待て? 繭の中で何かが動いたぞ……?」

 銃身に装着したタクティカルライトで繭を照らす。

 浮かび上がるのは、大人と子供が絡み合ったシルエット。親子とも恋人とも見える交わりの陰影。周囲に近づく人間の気配を感じ取り、繭の人影は蠢いている。

「生きてるな……」

 先ほどまで緩みきっていたアルファ部隊の隊員はアサルトライフルを構え直す。犯罪者や猛獣のたぐいなら、銃火器があれば安心できる。しかし、相手が魔法を使う怪物に常識は通じない。

 ――怪人女王インフェリーナの繭が羽化する。

 約一年もの間、汚染液の繭獄で愛し合っていた女王と少年は、この世に再び現われた始祖の怪人であった。

「ふふふっ……。間抜けな獲物が沢山いるわ。どんな魔法で殺してあげようかしら?」

 瘴気を放つ腐食性の汚染液が床に垂れ流れる。繭に空いた裂け目から、美しい妖女が現われた。

 泥々の粘液に塗れた身重の妊婦は、魔女の黒装束で着飾っている。異形の怪物であるが、一目で人間の魂を吸い出してしまう妖艶な美貌の持ち主だった。

「まずはその野蛮な武器を捨てなさい。銃弾で私を傷つけるのは不可能だけど、とても不愉快な気持ちだわ」

 胸に実った西瓜サイズの乳房がたぷんたぷんといやらしく揺れる。

 ゴシック風の魔女ドレスは恥部を局所的に隠しているが、重量感たっぷりの乳間を大胆に見せつけ、臍ピアスで彩られたボテ腹は青紫の痴肌を晒す。スカートも極端に短く、巨尻の形がありありと分かった。

 アルファ部隊の隊員には少数ながら女性もいたが、指先すら動かせず、恍惚の表情でインフェリーナに見とれている。

「んっ♥︎ あぁんっ♥︎ 人間には刺激が強すぎたかしら? 鼻血が垂れてるわよ?」

 かかとが細く尖ったスティレットヒールで悠然と歩く。媚肉は卑しく震えるが、身体の中心を通る重心の線は微動だにしない。ファッションショーのモデルを彷彿とさせるが、人外であるインフェリーナには本物の触覚と羽根が生えていた。

「たっぷりと味わいなさい。怪人女王インフェリーナのエクスタシー・フェロモン……♥︎ 科学的な毒ガスとは違うわ。化学防護服で怪人魔法を防ぐことはできないの。あぁ~ぁ~。なんて情けない奴ら。可哀想だわ。魔力が使えない雑魚生物は死に絶えなさい」

 醜い模様が刻まれた蛾の羽根を広げる。散布する鱗粉は、怪人細胞で汚染された胞子が混ざっている。吸い込めば肺が壊死し、粘膜や皮膚に触れるだけで、致命の毒性を発揮する殺戮魔法。右手に顕現させた魔法杖を掲げる。

「黒焔は愚者に制裁を下す。己の弱さを思い知りなさい。――必殺魔法イビルウィッチ・インフェルノ!」

 漆黒の火花が散る。鱗粉の連鎖爆発はアルファ部隊の隊員を一瞬で蒸発させた。轟音と爆風が地下で炸裂する。姫神美羽が清らかな少女だった頃、魔法少女フェアリーナが怪人王ジェノシスを葬り去った必殺魔法は人類殺戮の悪色に染まった。

「あはっはははははははっ! 消し飛んじゃった! 肉片すら残っていないわ! ほんと、雑魚ばっかり……! 弱い生物だわ! ちっぽけな人間ども! あぁん……♥︎ もっと、もっとォ! たくさん殺してあげるんだからっ! 残酷に、冷酷に、悪辣にィ! 人間を殺し尽くしたいっ!! 全ての人類は怪人女王インフェリーナに殺人の愉悦を捧げるのよ♥︎」

 消し炭と血痕だけが残る凄惨な研究室で、インフェリーナは高笑いをあげる。実験器具があらかた吹き飛ばされたが、天井からぶら下がる繭は被害を受けていなかった。

「お寝坊さん♥︎ ほら、出てきなさい。リバイヴ♥︎ 人間達は皆殺しにしたわ」

 インフェリーナは鋭い赤色の鉤爪が付いた五本指で手招きする。

「女王様……。人間がここに侵入したってことは、公安特務局に気付かれたんだ。すぐに移動した方がいいと思う」

 怪人に変身させられたリバイヴは、身体にべったりと付着した粘液を払い落とす。

 ほんの三年前までリバイヴは単なる人工知能、魂を持たぬ機械生命だった。しかし、阿松星凪の機骸で自我に目覚め、インフェリーナとの長期間にわたる交わりを経て、愛玩怪人に改造された。

 怪人女王インフェリーナに一生涯の忠愛を誓った臣下。最初に造られた怪人一号となった。怪人細胞で変質した肉体は小悪魔に変質し、蚕の白い両羽が背から伸びている。

「何も心配はいらないわ。私の魔法で守ってあげる」

 インフェリーナの臍に付いているのと同じピアスが、リバイヴの臍にもある。繭にいる間、二人は臍の緒で繋がっていた。そして、今も見えない魔力の臍帯で結ばれている。

 お揃いの臍ピアスはインフェリーナとリバイヴの深い関係を象徴していた。

「でも、使い捨ての手駒は必要になるわ。どこかに怪人生産プラントを作りましょ。見込みのある人間を拉致して、怪人の兵隊を生み出すの。先代の怪人王ジェノシスよりも上手にできるわ。私とリバイヴならね」

 インフェリーナは姫神美羽だった記憶を完全に失っている。第十三目の魔法少女フェアリーナとして戦ったことすら、完全に忘れ去っていた。

 電脳機巧であるリバイヴは、かろうじて記録という形で覚えているが、その事実を話すのは魔法で禁じられてしまった。

(怪人女王インフェリーナ様と魔法少女フェアリーナはまったくの別人だ。怪人化したせいで、顔立ちが同じでも気付く者はいなさそう。たぶん、肉親の家族だろうと……)

 正真正銘の化物なのだ。怪人魔法でアルファ部隊の隊員を躊躇いなく皆殺しにした。人間に向ける殺戮衝動は先代を怪人王ジェノシスを上回る。

「抱っこしてあげるわ。こちらにいらっしゃい」

 インフェリーナは魔法杖を次元の狭間に収納し、リバイヴの小さな身体を持ち上げた。生乾きの蟲翅を折り畳み、媚体に実った巨峰を抱きしめる。

「恥ずかしがらずにしがみ付いてるのよ?」

「う、うんっ!」

「ふふふっ……♥︎ 魔力が身体から溢れ出しているわよ。そんなに私と愛し合いたいのね?」

「インフェリーナ様が女王蜂なら、僕は雄蜂だもん。そういうふうに僕を造り変えたのは女王様なんだからね。ほんと、良い趣味してるよ」

「愛玩怪人リバイヴ。私を愛していいのは貴方だけ。そして、私も貴方だけを愛しているわ。繭で魂に刻み込んだ愛欲の本能はけして消えず、どれだけの年月が過ぎようと変わりはしないわ」

 社会性昆虫は巣立ちの際、女王と雄が新たな居住地を求めて飛翔する。

「さあ、外の世界に旅立ちましょう。邪魔者は魔法で消し飛ばしてやるわ」

 リバイヴを抱えたインフェリーナの身体が空中に浮かぶ。蛾の羽根を左右に大きく広げ、鱗粉を撒き散らしながらの結婚飛行が始まった。

 アルファ部隊の救援に駆けつけたブラボー部隊も、原子炉建屋を破壊していたインフェリーナの魔法攻撃に巻き込まれて半数以上が殉職した。

 公安特務局が十三年ぶりに再結集し、最初に挑んだ偵察任務は失敗に終わり、甚大な壊滅的な被害を被った。

 駆逐したと考えられていた怪人の復活。そして怪人の脅威に対抗できるのは魔法少女だけ。魔法少女の能力に目覚めた愛華羽の育成が公安特務局の急務となった。

 この年、九歳になったばかりの愛華羽は、魔法少女への変身能力を会得したばかりだった。これから対決し、死闘を繰り広げる怪人の首魁が実母だとは知る由もなかった。

 ◇ ◇ ◇

 怪人女王フェアリーナは子宮で生成した暗黒物質を胎外に産み落としていない。動きにくい身重の肉体を維持し、巨胎の妊婦体型で過ごしている。

 怪人を作り出す源は暗黒物質から滲み出るダークパワーであった。

 先代の怪人王ジェノシスは玉座に宿魂石として埋め込んでいたが、怪人女王インフェリーナは胎内に宿す赤児のままで留め置いている。

「よしっ! 女王様、植え付けの準備が整ったよ」

 リバイヴは拉致した人間を培養槽に閉じ込め、インフェリーナに捧げる。健康な男女が数十人、生きた状態で培養液に浸けられていた。

「ふふっ……! いつもご苦労様。怪人生産プラントの新造計画は順調かしら?」

 インフェリーナは産卵管を伸ばし、意識のない人間に産み付けていく。怪人女王の寄生卵は人間の体細胞を怪人へと造り変える。

「うん。細胞変異に耐えきれず絶命した者も何人かいたけど、雑兵クラスの怪人戦闘員は問題なし。幹部クラスも既に活動中が四体で、こちらも新しい生産プラントが完成すれば増産できる」

「いいわね。とっても良いわ。もっと手駒を増やして、人間達を奴隷に改造しましょう。より強力な怪人を生み出して、人類を滅ぼすのよ」

 半透明の産卵管から送り込まれる紫色の卵は、電脳機巧リバイヴのナノマシーンと怪人女王インフェリーナの魔法遺伝子が組み込まれた受精卵。愛の営みで成された狂愛の結晶だ。

「一つだけ気がかりなのは、幹部クラスの蜘蛛鬼怪人がやられた一件かな。それとインフェリーナ様が破壊した原子力発電所も復旧してしちゃった」

「あら……? ついに動き出したってこと?」

「公安特務局の力では不可能だよ。怪人を殺すのも、破壊された原子力発電所を元通りにするのも……魔法の力がなければできない」

「――魔法少女ミスティハート。人類の希望とやらが頑張っているようね。ふっふふふふ。幹部にしていた蜘蛛鬼怪人を倒したんだから、ちょっとは歯ごたえがある相手だと期待しているわ」

「油断は禁物だよ。この世に女王様を倒せる存在がいるとすれば、それは魔法少女だ」

「ええ、魔法少女の危険性は認識しているつもりよ。少なくとも先代の怪人王ジェノシスと同じ轍は踏まないわ。でも、配下任せは私の柄じゃないの。手を下すのは私であるべきだと思うわ。たかだか十歳の小娘相手に逃げ隠れなんて……。私は嫌よ」

「変身している間、魔法少女は不死身になる。変身が解けた生身の状態でしか殺せないよ……」

「正体はもう掴んでいるのよね?」

「魔法少女ミスティハートの本名は姫神愛華羽。父親が地元警察署の巡査部長。母親は元看護婦で、今は天羽雷神社の巫女をやっている」

「…………」

「女王様? どうかしたの……?」

「いいえ。何でもないわ。どこかで聞いたような……懐かしい気がしてしまった。どうしてかしら? ……どうでもいいわ。忘れているのなら、大したことじゃないわ」

「うん、そうだろうね」

「身元が割れているなら、魔法少女ミスティハートの肉親を襲えばいいわ」

「調べたところ、姫神家の事情がちょっと複雑なんだ。姫神愛華羽は六歳のとき、交通事故で記憶喪失になってる。今の母親である彩花音は継母なんだけど、実の母親と思い込んでいるみたい」

「実の母親は?」

「死んでるっぽい」

「あっそう。血が繋がってなくても、一緒に暮らしている親子でしょ? 彩花音って女は人質や見せしめの価値があるわ」

「姫神家が暮らしてる天羽雷神社は強力な魔法結界で守られてる。怪人は立ち入り不可。魔法少女ミスティハートが結界内にいないとき、特に防御が固くなる」

「生意気なクソガキの割には考えているじゃないの。留守の間、結界の効力を増す魔法をかけたわけね。じゃあ、手懐けた暴力団関係者を使うのは?」

「公安特務局のエージェントが警備についてる。日本のヤクザ程度じゃ返り討ちかな」

「そう。まあ、いいわ。回りくどい手段なんか使わず、魔法少女を倒してしまえば手っ取り早いもの」

 寄生卵の産み付けを終えたインフェリーナは不敵に笑った。

 怪人の女王が心を許す唯一無二の存在、愛玩怪人リバイヴを抱き寄せる。愛らしい飼い蚕を模した異形の少年は、美しい妖女の孕み胎をマッサージする。

「強い怪人をたくさん造らないとね。女王様」

「ふふっ……。魔法少女ミスティハートを倒すのはどの怪人になるかしら? それとも……私自身が決着を付けるべきかもしれないわ。ねえ。貴方もそう思わない? それとも、ずっと陰でこそこそ隠れているつもりなの? 見えているわよ! 魔法少女ミスティハート!!」

 廃工場の怪人生産プラントは魔法で隠蔽されている。人間には侵入できず、存在を感知することすら不可能。怪人女王インフェリーナの魔法障壁を突破し、潜入まで果たせる者はこの世でたった一人しかいない。

 

「銀焔は悪に裁きの鉄槌を下す! 己の罪を悔い改めなさい!! ――必殺魔法ジャッチメント・インフェルノ!」

 精霊の羽根が煌めいた。空中を漂う極小の鱗粉が導火線となり、インフェリーナに豪炎の焔龍が襲いかかる。一撃必殺の魔法攻撃は、かつての怪人王ジェノシスを葬った魔法少女フェアリーナの得意技と同じだった。

(魔法少女ミスティハート……!? まさかこの怪人生産プラントに入り込んでいるなんて……! 不味いかもしれない。お互いに記憶を失っているとはいえ……血の繋がった母と娘。直接の接触は避けたかった)

 すぐさま物陰に身を隠したリバイヴは渋い表情を浮かべる。

(四年ぶりの再会……。でも、怪人女王インフェリーナになった美羽さんは、人間だったころの記憶を全て失った。好都合なことに、愛華羽ちゃんも星凪が死んだ交通事故で記憶喪失。僕や母親を忘れている。……それにしても凄い威力の魔法だ。幹部クラスの上級怪人でも直撃すれば絶命は免れない)

 天井に隠れていた魔法少女ミスティハートは降り立った。

 純白を基調とした戦闘服のデザインは、かつて魔法少女フェアリーナとして怪人と戦った母親に酷似している。銀色の長髪を靡かせ、巧みな手つきで魔法杖を振るう。

「不躾なガキね。名乗りの口上すらせず、奇襲攻撃だなんて……」

 インフェリーナの魔法防壁は灼熱の激龍炎を遮断した。余裕の表情で、淫靡なピンク色の髪を指先で弄っている。

「怪人女王インフェリーナ! 災禍を撒き散らす害虫めっ……! 覚悟しなさい! ここで貴方を倒し、世界に平和を取り戻すわ!!」

「大声で言わなくたって聞こえてるわよ。お子様は礼儀作法がなっていないわね。ふふふっ……! 未熟なのは身体と魔法だけにしてほしいわ」

 怪人女王インフェリーナと魔法少女ミスティハートは対照的だった。

 男の劣情を煽り立てる妖艶な美女、淫奔・爆乳・孕胎・巨尻を司る極悪の魔女。相対するは、凜々しさと無垢を兼ね揃えた聖なる美少女、純潔・華奢・秀麗・清廉を司る童女。

「公安特務局のエージェントが言っていた通りね。おぞましい異形の姿だわ。怪物の女王……!」

 嫌悪感を露わにしたミスティハートは、穢らわしい怪人の支配者を心の底から唾棄する。肉付き豊かな蠱惑的な身体を羨ましいとは思わなかった。

 男に媚びる巨大な乳房は醜悪。暗黒物質を孕んで膨らんだ下腹はおぞましい。淫欲に塗れた艶尻は下品で低劣。

 インフェリーナを見てるだけでミスティハートは気分が悪くなった。

「攻撃を防がれたのは初めて? 戸惑いが見えるわ。お子様ねぇ……。ふっふふふっ! 魔法少女ミスティハート! 貴方は魔法の深みを微塵も理解していないわ。決定的に欠けているわ。足りてないのよ。――純粋な殺意が♥︎」

 手本を示すようにインフェリーナの反撃が放たれる。手のひらに凝縮した魔力が光弾となってミスティハートに向かう。

「……っ!」

 魔法防壁を突破され、焦ったミスティハートは回避しようと身を翻した。しかし、ほんの一瞬だけ反応が遅かった。

 背に顕現させている羽根を貫かれ、あっという間に腐食した。無敵の加護が宿る魔法少女の肉体であろうと、怪人女王の殺戮魔法は有効だった。

「さっきの攻撃は魔力を飛ばしただけよ? この程度の魔法攻撃さえ防げない。避け損なう鈍い動き……。はぁ。がっかりさせてくれるわ。もっと私を愉しませてよ。取るに足らない雑魚ね。こんなに弱いのなら、もっと早く殺しておけば良かったわ」

「ふんっ……! 確かに凄まじい魔力ね。でも、貴方は弱いわ。頭に行くはずの栄養が乳房に吸い取られてるんじゃないの。ケバいおばさん……!」

 ミスティハートが回避し損ねたのは照準を定めるためだった。

 培養槽の影に隠れた小さな人影へ魔法杖の狙いを向ける。怪人女王が大切に守っている愛玩怪人。公安特務局は救出した市民から、飼い蚕の姿を模した少年型の少年がいると聞いていた。

「――顔色が変わったわよ。やっぱりアイツは特別な怪人なのね。守らなくていいの? 私の射程圏内にいるわ」

 ミスティハートの魔法攻撃はけして弱くない。飛び抜けた魔力を誇るインフェリーナは軽々と弾けるが、他の怪人にとって魔法少女は大きな脅威であった。

「うわっ! やばっ……!」

 リバイヴは脱兎の如く駆けだし、インフェリーナの背後に隠れた。安全な位置にいたつもりだったが、魔法の直撃は致命傷となる。魔法杖を向けられた本人以上に焦ったのはインフェリーナだった。

 魔法杖の射線上に立ちはだかり、リバイヴを庇おうとした。天敵に襲われる我が子を守る母獣。インフェリーナの行動は、リバイヴが使い捨ての怪人ではないと証明していた。

「べーっ! 卑怯者! か弱い怪人を狙おうとするなんて! 恥を知れーっ! 魔法少女のくせに卑劣だぞー!」

 安全を確保したリバイヴは罵詈雑言を浴びせかける。ミスティハートは魔法杖を向けたが、攻撃は放たれなかった。

(危なかった……! 咄嗟のはったりが通じて良かった。たとえ攻撃を放っても、標的に当てるのは難しかった。でも、これではっきりしたわ……! 怪人女王の意外な弱点……!!)

 ミスティハートは腐食した羽根を治癒する。

(拉致された市民を助け出したいけど、ここで戦ったら培養槽に囚われた人達が巻き添えで死んじゃう。悔しいけど、ここは撤退するしかないわ)

 怪人女王との実力差は明らかだった。

「――怪人女王インフェリーナ! 貴方は必ず私が倒す! 魔法少女ミスティハートの名にかけて滅ぼすわっ!!」

「あら? お家に帰る気? もう門限かしら? ダメよ、ダメダメ……♥︎ 私の可愛いリバイヴを脅した罪。その粗末な命で償いなさい!!」

 飛翔したミスティハートに穢れた魔女の杖を向ける。放たれる攻撃は必殺の怪人魔法。この一年で多くの人類を虐殺した殺戮の奥義である。

「黒焔は愚者に制裁を下す! 己の弱さを思い知りなさい!! ――必殺魔法イビルウィッチ・インフェルノ!!」

 発展途上のミスティハートは、まだ魔法少女の能力が未熟だった。血の繋がった母と娘、ほんの四年前まで大切な家族だった美羽と愛華羽は、互いの絆を忘れている。

 最大の禁忌、子殺し。実の母親が腹を痛めて産んだ娘を殺める。

「黒焦げにしてあげる! さあ、悲鳴をあげなさいっ! 死体は辱めてから、大通りに吊すわ!! あぁ~♥︎ ぞくぞくしちゃうっ♥︎ 魔法少女ミスティハート! いいえ、姫神愛華羽! 貴方の父親と母親! 家族だけじゃ足りないっ! 学校の友人も見せしめに処刑してやるわっ! ほらほらぁっ! もう逃げ場はないわよ。漆黒の邪炎が追いつくわ! 絶望の悲鳴を私に聞かせてぇっ!」

「……っ!」

「悪足掻きは止めなさい! 魔法防壁じゃ防げないわよ。だって、貴方は弱すぎるもの! くふふふふふ♥︎ 脆弱、貧弱、惰弱! ざぁ~こっ♥︎ 弱っちい魔法少女ミスティハート♥︎ ふふふっ♥︎ 私の五パーセント以下の魔力しかないわね♥︎ ほら、死んで♥︎ はやく死んじゃえ♥︎」

「いやっ! こんなところで死ねないっ!! 私は貴方なんかに負けはしないわっ……! 絶対っ! 絶対にっ……!!」

 空中で炎獄に囚われたミスティハートは、幾重にも魔法防壁を展開して、インフェリーナの黒炎に耐える。しかし、限界が訪れようとしていた。

「なんでっ!? どうしてこんなに強いのよ!! 魔法少女は正義の味方……! 怪人に負けたりなんかしない……! ……ひっ! いやっ! 熱いっ! やめてっ! いやぁぁぁあああああああああああああぁあ!! 痛いっ、痛いっ痛いっ……!! 怖いっ! やだ、やだっ!! 助けてっ! 誰かっ……!! パパっ!! ママぁ……!!」

 最後の魔法防壁が突破された。

「パパもママもいないわよ♥︎ 死ねばすぐにあの世で会わせてあげるけど♥︎ あっははははっはは♥︎」

 もがきながら飛翔しているが、逃れきれないのは明らかだった。灼熱の炎に足先を喰われる。 

「いぃぃわぁ~~っ♥︎ 最高ぉおっ~~♥︎ その不様な悲鳴……っ♥︎ 涎が止まらないわ♥︎ 泣き叫ぶ絶望の歌声♥︎ とってもいいわよぉ……♥︎」

 足が焼け焦げる痛みに呻くミスティハートは、死の恐怖で失禁した。変身状態はかろうじて維持できているが限界だった。中身は年相応の弱い少女に戻っていた。

 泣き顔で慈悲を求めたところで、怪人女王は悦んで魔法少女を甚振るだろう。もはや一欠片も人間の良心は残っていない。

(死ぬの……? 私……死んじゃう……? 殺されちゃう!!)

 死の直前、走馬灯がよぎる。魔法少女の能力が宿ったのは四年前、交通事故に遭う前の記憶は消えていた。

 奥底に封じた実母の記憶。周囲は精神が不安定だった愛華羽を心配して、新しい母親と馴染めるように、彩花音を本物の母親だと思い込ませた。

(誰も助けてくれない……!)

 天羽雷神社の巫女装束を着た美しい女性。純白の小袖、朱色の紅袴、境内の石畳を掃除している。愛華羽には彼女が誰なのか分からない。

「――え?」

 怪人女王の炎撃が止まった。死を覚悟していたが、わずかな希望を掴んだ。妖精の羽根にありったけの魔力を注ぐ。障壁が張り巡らされていた廃工場の天井を突き破る。

「はぁ……! はぁはぁ……? くっ! 今のうちにっ!!」

 九死に一生を得たミスティハートは、何が起こったのかと振り返る。魔法少女を仕留め損なったインフェリーナは困惑していた。

「ちょっと? どういうつもりかしら?」

 確実に殺せたはずの魔法攻撃を止めさせたのは、インフェリーナに残っていた姫神美羽の魂――ではなかった。

 魔女の杖を掴み、止めの追撃を止めさせた人物は、怪人女王の腹心にして愛人のリバイヴであった。しかし、当の本人も驚愕していた。

 焼け焦げて落下するミスティハートを期待し、わくわくしていたのに、リバイヴの右手は正反対の行動を取っていた。

「あれ……? うそ。信じられない。僕ってば何やってるんだろ?」

「……それ、私の台詞よ? 逃げられちゃったわ」

 すぐさま手を離すが、既にミスティハートは窮地を脱していた。不審の目つきで、インフェリーナはリバイヴを睨む。

「リバイヴ……? なぜ魔法少女ミスティハートを助けたのかしら? あとちょっとで葬れたのよ?」

「ごめんなさい。女王様」

 リバイヴは自分の右手を眺める。異常はなかった。怪人細胞に変異した肉体は、魔法による洗脳や操作を受け付けない。

(ミスティハートの魔法で何かされた? いや、ありえないね。女王様が近くにいるんだ。魔法をかけられたのなら絶対に気付く……。魔法じゃない力? まさか機骸に宿った遺志? あはっはははは! すごいやっ! 脳の大部分を捨てて、肉体だって一年も掛けて怪人細胞に置き換えた。なのにまだ阿松星凪の遺志は死んでない……!!)

 不快感よりも驚きが勝った。

 異母妹を守ろうとした星凪の遺志が右手を動かした。四年前にリバイヴが仕掛けた交通事故から、愛華羽を守り切った自己犠牲の精神。怪人女王に墜ちた魔法少女フェアリーナよりも、はるかに強い愛情が肉体を動かした。

(……そもそも繭で怪人に改造されたとき、僕の記憶も消えるものだと思ってた。でも、僕は美羽さんや愛華羽ちゃんを覚えている。愛は不変ってことかな? くすくすっ! 凄いなぁ! 阿松星凪の肉体を手に入れた僕は世界で一番の幸せ者だ)

 リバイヴはニタニタと薄気味悪い笑みを作る。怪訝な顔付きでインフェリーナは、ミスティハートが天井に開けた穴とリバイヴを交互に見る。そして、ある可能性に気付いて、怒りを募らせた。

「まさかリバイヴ……! 貴方っ!! 私というものがありながら、あんな貧相なメスガキに……!! だから、攻撃を止めさせたのっ……!?」

 沸々と奥底から込み上げる嫉妬心と憎悪は、忘却の彼方に追いやった姫神美羽の記憶に起因する。愛していた夫の京一郎を彩花音に寝取られた女の怒り。信じ切っていた夫は、妻が死ぬと不倫で子供を産ませた若い女と再婚した。

 星凪の肉体を奪ったリバイヴは京一郎の息子。若い娘に惚れたのではないか。恐ろしい鬼の形相でリバイヴに詰め寄った。

「違うよ。そういうわけじゃない。僕は浮気しないよ。僕が愛してるのは女王様だけ」

「だったら、どうしてよ!?」

「遊び心。もうちょっと泳がせたほうが面白そうじゃん。殺したら退屈になる。あの程度なら、いつでも殺せるよね?」

「…………本当でしょうね?」

「僕がどれだけ女王様を愛しているか確かめてみる? 言葉よりも行動で僕は証明したいかな」

 魔法少女ミスティハートになった愛華羽を助けたい気持ちは本物だ。しかし、怪人女王インフェリーナに墜ちた美羽を愛しているのも、真実の想いだった。

「――僕だけの可愛い女王様、今夜もたっぷり愛を注いであげる。僕らは未来永劫の愛を誓った恋人同士。一緒に気持ち良くなろう。だから、機嫌を直してね」

 リバイヴはインフェリーナの淫体を抱きしめる。人間が嗅げば発狂死を免れない猛烈な女王フェロモン。怪人の支配する女王インフェリーナを慰められるのは、愛玩怪人リバイヴだけだった。

「ほら。一途な僕の心が伝わってくるでしょ?」

「あぁ♥︎ ごめんなさい……♥︎ 私……そういうつもりじゃなかったわ。リバイヴを疑ったりなんかして……。そうよね。私を捨てて、あんな小娘に惚れるはずがないわ♥︎ 私、どうかしてた……あぁん♥︎ 疑ってごめんなさい♥︎ 私の可愛い怪人ちゃん♥︎」

「女王様……♥︎ ここじゃダメだよ。魔法少女に潜入されちゃった場所だもん。この怪人生産プラントは破棄して、隣町のセーフハウスに帰ろう。誰にも逢瀬を邪魔されない場所でしよ。……ね?」

 リバイヴは我が物顔でインフェリーナの爆乳を乱暴に揉み回す。発情した女王は火照った身体を捩らせる。

「ふふふっ……♥︎ 邪魔者なんて関係ないでしょ? 近くの繁華街にあるラブホテルがいいわ。私達の交わりを邪魔する者が皆殺しにする。魔法少女ミスティハートは深傷を負ったわ。すぐには戦えない。だから、人間達が大勢いるところに行くの。そこで私への愛を証明しなさい♥︎」

「僕らが愛し合ってる姿を人間達に見せつけるの?」

「顔を真っ赤にしてる。リバイヴは恥ずかしいの?」

「女王様ったら大胆! どうせ人間なんか殺しちゃうくせにさ。くすくすっ……!」

「あら、お好みじゃないかしら?」

「女王様の殺戮魔法でたくさんの人間を殺してね。僕も女王様が満足できるくらいに励んじゃう。好きだよ。愛してる。怪人女王インフェリーナ様……♥︎」

「私も好きよ。好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 好き♥︎ 愛してるわ♥︎ だから、リバイヴのために人間を殺す♥︎ 罪のない人間♥︎ 善良な人間♥︎ 幼い人間♥︎ 若い人間♥︎ 老いた人間♥︎ ぜーんぶっ♥︎ 殺し尽くすわぁ♥︎ あっはっはははははははっ♥︎ 弱っちい魔法少女は虐殺を止められないっ! 見つけたは皆殺しよぉっ♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ 殺す♥︎ んふふ~んぅ~♥︎ 生きてる人間はムカつくから、意味もなく殺しちゃうのおぉぉおぉ~~~っ♥︎」

 捨てると決めた廃工場の怪人製造プラントを魔法爆発で吹き飛ばし、インフェリーナは蛾の蟲翅を広げ、天高く飛翔した。

 爆乳の谷間に挟まれたリバイヴは振り落とされないようにしがみ付く。夜風の冷たさはまったく感じない。熱を帯びた互いの身体で蒸し暑いくらいだった。

 かつて全身全霊を尽くして、怪人災害から民衆を守った魔法少女フェアリーナは悪に墜ちた。邪悪な欲望を満たすため、殺戮と破壊を繰り返す大逆の魔女。怪人王ジェノシスを遙かに凌駕する最悪の存在に変貌した。

 その夜、怪人女王インフェリーナの大虐殺で、少なくとも二百人以上の人命が奪われた。

 皮肉なことに、公安特務局が今回の大事件を隠蔽できたのは、生存者が少なかったからだ。魔法の存在を目撃した者は皆殺しにされた。唯一の対抗手段である魔法少女ミスティハートを出動させられず、民間人を待避させるのが精一杯だった。

 表向きの報道では、ラブホテルでガス爆発が発生し、大規模な火災が発生。逃げ遅れた宿泊客、押し寄せた野次馬、駆けつけた消防士と警察官に犠牲者が出た。そのように処理され、怪人災害の真実を知るのはごく一部の政府関係者のみだった。

 ◇ ◇ ◇

 ――星読の予言は成された。

 

 世界から怪人を絶滅させた最強の魔法少女は、最悪の怪人となって新時代の幕上げを告げる。災禍の時代が始まったのだ。

 人類に残された唯一の希望は魔法少女ミスティハート。姫神愛華羽は惨めな気持ちで、戦後最悪の大事故を報じるニュースを見ていた。

「愛華羽? もう寝なさい。明日は朝一番で病院に行かないとダメなんでしょ? 足の火傷がまだ痛むの? 火傷の跡が残らないといいんだけど……。これからヤカンでお湯を沸かすときは気をつけないとダメよ?」

「うん……。分かってる。ママ。心配させちゃってごめん」

 愛華羽の視線はテレビの画面に釘付けだった。十歳の娘が興味を持つのは意外に思えた。死者数が戦後最悪と報じられる度、愛華羽の表情は曇っていった。

 歴代の魔法少女は、怪人災害の被害を最小限に抑えこんだ。怪人女王インフェリーナに負けた結果、これだけの犠牲者が出てしまった。

「…………っ!」

「ニュースを無理に見なくたっていいわ。……それにしても酷い事故。ガス漏れでこんな被害が出るなんて。オール電化は電気代が高いけど、こういうのを見るとガスより安心ね。パパが非番の日で良かったわ。パトロールしてた同僚の方が亡くなったそうよ。明日がお通夜だって言っていたわ」

「……ねえ。ママ?」

「ん? どうしたの? そんな顔をして?」

「……私って一人っ子だよね? 小さいころ……お兄ちゃんと遊んで……あっははは……。なに言ってるんだろ。変なの。そんなわけないのに」

「どうして急に……?」

「ごめん。疲れちゃったみたい。お兄ちゃんと遊んでたような夢を見ただけ……。単なる夢だよ。あははははっ! もう寝るからテレビは消しちゃうね! 」

「……そう。あまり無茶はしないでね。困ったことがあったら、パパとママに相談するのよ」

「ママってば心配性なんだから。私は大丈夫! トラックに撥ねられても記憶が抜け落ちただけで、奇跡の生還を果たしたんだから! でも、習い事の疲れが溜まってるみたい。ゆっくり休むね。おやすみなさい。ママ!」

「――愛華羽、おやすみなさい」

 ほんの一瞬だけ、母親の顔立ちが変わった。

 脳の錯覚ではあったが、愛華羽の精神は動揺した。

 今の母親が赤の他人だと感じてしまった。なぜなのかは分からない。愛華羽は我が目を疑った。

(え? どうして……? 私……どうしちゃったの……?)

 脳裏によぎった情景を強く否定する。

 繁華街で二百人以上の市民を虐殺した巨悪。極悪非道の怪人女王インフェリーナが微笑んでいる。愛する母親の姿が恐ろしい化物女と重なって見えた。

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