【221話】夫婦双愛、宰相の后宮にて〈下〉

「ねえ。ウィルヘルミナ。久しぶりに地上でデートしない? お出かけしながらイチャイチャしたいな。お忍びでさ、他の妃達にも秘密で⋯⋯。やってみない?」

「いけません。しばらくの間、地上外泊は禁止です」

 ウィルヘルミナは断固たる態度で首を横にふる。

「ちっ! ダメか」

「皇帝陛下、おそれながら言葉遣いが悪いですよ。ネルティの悪癖が移っていますね」

「サキュバスなのにウィルヘルミナはお固いよ~。もっとさ、オッパイと同じくらい柔らかくなろうよ~。楽しくデートして、いっぱいセックスしようよ。ね?」

「ダメなものはダメです。きちんとした理由があります」

「それは何度も聞かされた」

「⋯⋯冒険者組合が本部機能を帝都アヴァタールから移そうとしている動きは分かっておりますね?」

「えーと、うん。この前にやった交渉でしょ。ちゃんとアルテナ王国の王様として、セラフィーナと一緒に取引をしたよ。⋯⋯それって関係あるの?」

「国外の情勢が荒れております。冒険者組合によれば、中央諸国ではメガラニカ帝国に対する危機感が高まり、軍事力を増強しています」

「そりゃ、そうだろうね。アルテナ王国をケーキみたいに分割しちゃったんだ。嫌われもするよ。でもさ、僕らからすれば、先に喧嘩をふっかけたのは向こうだ」

 ベルゼフリートは口を尖らせる。戦争回避のために三皇后が最後まで動いていたのをベルゼフリートは知っている。

 始まってしまった戦争はメガラニカ帝国の圧勝であった。しかし、戦場に投入された兵士の厭戦機運は、三皇后の想定を超えていた。

 女官総長の大反対を押し切り、皇帝ベルゼフリートを制圧後の王都ムーンホワイトに派遣し、現場の士気を高めなければならなかった。

「もしかしてさ。中央諸国でメガラニカ帝国の悪評を流してるのは⋯⋯」

「セラフィーナの前夫だったガイゼフ・バルカサロです。帝国の脅威を喧伝しています」

「あの人も頑張るね。ご苦労なことだ」

「恐れながらメガラニカ帝国の皇帝に私的な恨みが深いようで⋯⋯。なぜでしょうね。心当たりがございますか?」

「ウィルヘルミナだって分かってるくせに⋯⋯。白々しい」

「息子を殺され、妻を寝取られたからでしょうね。あと愛娘も辱めて妊娠させたりも」

「はい、はい。業の深さは自分自身が分かっておりますよー。僕とセラフィーナに対する怨恨はいかほどかな? 道徳的には反論できないのが辛いところだ。一つだけ言い訳をするなら、戦争を終わらせるには、僕とセラフィーナが子作りするしかなかったじゃん、って感じかな?」

「それらのことは講和条約で中央諸国に飲み込ませました。不本意であれ、中央諸国は女王セラフィーナの再婚を認めています。前夫が騒ぎ立てたところで、そこまで問題はなかったのですが⋯⋯」

「不穏な言い回し⋯⋯。復讐心に燃えたガイゼフが東アルテナ王国を焚きつけて攻めてくるとか?」

 ベルゼフリートは地図を指差す。グウィストン川の東側では女王ヴィクトリカが反帝国感情を持つ民衆を集めている。メガラニカ帝国も逃げていく民を黙認していた。

 反乱分子を抱え込んでも持て余すだけだ。恭順しないのなら、捨ててしまえと放置していた。

「いいえ。戦争の最前線に立たされたアルテナ王国はメガラニカ帝国の力を思い知りました」

「現場の兵士は復讐戦をする気にはなれないだろうね。少なくとも戦力が揃うまでは」

「東西の経済格差は如実に現れています。分断といえど、東西で三対七です。穀物地帯は西側に集中しているため、国力差は覆りません」

「儲けすぎって話まであるじゃないの? 僕のところに陳情が来てたよ。『メガラニカ帝国との交易で西アルテナ王国の商人が大稼ぎしてる。あいつらはずるい!』ってさ。旧帝都ヴィシュテルの復興費を捻出させるから、少しは落ち着いてきたみたい」

「東西のアルテナ王国で大きな問題は起きていません」

「東側も?」

「東側の統治にガイゼフは関われていないようです。ヴィクトリカはそれなりに賢明な君主です」

「勝ち目のない戦いをするほど馬鹿なわけじゃないと⋯⋯。ん~。どうだろね? ヴィクトリカはメガラニカ帝国に単身で侵入するくらい無謀だよ?」

「無謀さはバルカサロ王家の血筋かもしれません。我が国として懸念してるのは、むしろバルカサロ王国の本国です」

「最初の戦争だって発端はバルカサロ王国だった。まだ帝国の土地を諦めてないの?」

「予測がつきません。国内情勢の混乱に拍車がかかり、行き過ぎた国粋主義がどんな暴走を起こすか⋯⋯。危険視しています」

 バルカサロ王国はメガラニカ帝国との正面衝突を避ける程度の狡賢さがあった。

(損得勘定ができる軍事国家でした。しかし、それは先の戦争で大敗北を喫する前の話⋯⋯。伝え聞く情報を分析すると、国家の著しい変質が起きているように思える)

 ウィルヘルミナは地図上のバルカサロ王国を睨みつける。国家の規模でいえば、小国のアルテナ王国とは比較にならない国土を誇る。

(最大の友好国であったアルテナ王国とは断絶している。反帝国勢力の東側ですら、バルカサロ王国を卑怯者と罵る状況です)

 戦争に巻き込まれた挙げ句、もっとも被害を受けたアルテナ王国はバルカサロ王国に対し、強い怒りを向けていた。バルカサロ王国は同盟国だったアルテナ王国を完全に切り捨てた。

 この事実は国民感情を悪化させた。

 少数ではあるものの、一部の国民は皇帝の愛妾となったセラフィーナを支持している。その背景はバルカサロ王国の裏切りに起因していた。

「バルカサロ王国とは北部で国境が接しております。急峻な山岳地帯であるため、人の往来は制限されていますが、ここ最近になって西アルテナ王国に密入国する民が増加しています」

「え? なんで? わざわざメガラニカ帝国の勢力圏になった西側? まさか敵情視察ってヤツ?」

「着の身着のままで逃げ込んでいるようです」

「⋯⋯難民じゃん」

 ベルゼフリートは呆れた口調でつぶやいた。

「バルカサロ王家の統治が揺らいでいます。アルテナ王国ほどではないにしろ、敗戦の影響は及んでいるはず⋯⋯」

「でもさ、バルカサロ王国は戦場にならなかった。直接の被害は全てアルテナ王国が受けたんだ。どうして難民が出るわけ?」

「地方反乱が起きているかもしれません」

「⋯⋯⋯⋯」

「そんな顔をしないでください。敵国が弱っているからといって、こちらから攻めたりはしません。大妖女レヴェチェリナが帝都を襲撃した際、敵が魔物であったため、バルカサロ王国とルテオン聖教国は静観してくれたのですから」

 中央諸国に対する働きかけでは、魔狩人と冒険者組合が大きな役割を果たしてくれた。

「万が一に備えて、タイガルラやキャルル、それにブライアローズまで国土防衛に動員してたって、僕は聞いてるよ」

「外交は軍事力が大前提です」

「世知辛い世の中だ」

「目下のところ、メガラニカ帝国が取り組まなければならない課題は旧帝都ヴィシュテルの復興です」

「とんでもない金額を注ぎ込むもんね」

「外国に干渉しているような暇はありません。西アルテナ王国の管理だけでも手一杯なのですから」

「そういえばさ、復興したらあっちに遷都するの? しないって話だったよね? 帝都帰還の議論が盛んらしいじゃん」

「ドワーフ族はそう主張していますね。現実的にはエルフ族の反対が根強いので難しいです。私も帝都を遷す気はありません」

「ドワーフ族には悪いけど、今更って感じだもんね。僕も帝都を移すのは非現実的だと思う」

「しかしながら、法律的な話をすると、帝都アヴァタールは未だに臨時首都だったりします」

「じゃあ、五百年くらい臨時首都のまま?」

「当時の事情を知っているのは大神殿の大長老達⋯⋯それこそカティア神官長やアストレティア王妃くらいなものですけれどね。長命なドワーフ族からすれば祖父祖母の悲願と言ったところでしょうか」

 ウィルヘルミナはベルゼフリートの灰色髪を撫でつける。半端な癖毛であるため、伸びてくると毛先がヘンテコな方向に曲がってくる。

(今朝のお相手はヴァネッサですか。女官総長は澄ました顔でヤることはヤっていますね。まったく本当に⋯⋯ショゴス族の女官メイドは節操を知らない)

 上級サキュバスのウィルヘルミナが匂いを嗅げば、誰が夜伽役を担当したかすぐ分かる。

「あ! そうだ。ウィルヘルミナに聞くことがあった! 来年に妃の入内があるんでしょ?」

「予定はしております。派閥間の調整や選定基準で三頭会議を開催することが決まりました」

「じゃあ、年内に女官の登用試験があるってのは本当? ヴァネッサに聞いても教えてくれないんだ」

「工務女官を増員しなければなりません。技巧系の職人枠で募集をかけます。天空城アースガルズの総点検を年内に完了させるためです」

「ああ、なるほど。ここ最近の工務女官は大忙しだったね」

「⋯⋯とは言うものの、技量と美貌を兼ね揃えた逸材は、既に女官登用されています。年齢制限を低くして受験者を増やす予定ですが、合格者は多くとも二十人程度でしょう」

 皇帝の血酒を飲んだ者は、適合すれば不老不病の女仙となる。短命な種族であっても、当代の皇帝が存命する限りは生き続ける。

 生涯現役を貫くことになる。そのため、女仙の質は落とせなかった。後になって暗愚な女だと分かっても、女仙になってしまったら宮廷から追い出せない。

(皇帝陛下にはまだ話せませんが、ルテオン聖教国からの貢女こんにょについて、そろそろ判断を下さねばなりませんね)

 教会の総本山があるルテオン聖教国は、水面下でメガラニカ帝国と接触し、とある交渉を進めていた。すぐさま中央諸国との緊張関係が緩和するわけでないが、突発的な武力衝突は避けたい。それが互いの本心だった。

(教会がどのような女を送ってくるかは興味があります。融和派からの提案と考えれば、それなりの人格者。有能な人間なら皇帝陛下の手練手管で絡め取りたい)

 ウィルヘルミナはベルゼフリートの男根を指先でまさぐり始めた。下着の中に手を突っ込み、陰嚢を揉みほぐし、勃起した肉棒を握る。

(あぁ♥ なんて逞しいオチンポなのでしょう♥ こんなに過敏に反応して♥ 亀頭が我慢汁でベトベトですね♥ くふふふ⋯⋯♥ 今夜のセックスが楽しみです♥)

 悦びを隠せず、淫魔の尻尾が震える。後宮で暮らす女にしか味わえない性悦の極致。一度でも交われば快楽の虜になる。教会の淑女では想像できない世界が後宮にはある。

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