「ようこそ! 魔王様! さあ、どうぞ! こちらへ!!」
馬頭鬼族の族長オロバスは、意気揚々と魔王を案内する。
「ご覧ください! これが4年間の成果です。完璧に仕上がっています!!」
二足歩行する馬の魔物〈馬頭鬼〉。現族長のオロバスは戦死した父の後を継ぎ、4年前に魔王軍の幹部となったばかりであった。
最年少の幹部は若々しさよりも幼さが目につく。長身痩躯の魔王と並べると、その小さな身体がさらに際立つ。巨体を誇る馬頭鬼であるが、今のオロバスはまさしく仔馬。発展途上であった。
「⋯⋯ふむ。これが4年前に捕らえた勇者の母親か?」
魔王は念のために確認をとる。眼前にいる女は見覚えがあった。
「はい! 我が父アスバシールが命と引き換えに人間領から攫ってきた勇者エニスクの実母です! 魔王様、4年前の姿を見たことがありますよね?」
「ああ、もちろんだ。ずいぶんと⋯⋯以前から姿形が変わりしているな」
「はい! 最高の母胎となっているでしょう? この4年間、あちらこちらに協力をお願いして、妊娠に耐えられるように肉体を弄くり回しました」
オロバスは笑みを浮かべる。勇者の母は変貌していた。度重なる肉体改造。そして、魔族との異種交配を可能とする子宮の魔改造。その集大成をオロバスは魔王に披露していた。
「人間は脆弱で死にやすい。とても弱々しい生き物だから、肉体改造はとっても大変でした」
馬頭鬼族の拠点となっている大屋敷は、魔王城の敷地内にある。その最奥部、人間領から遠く離れた魔界の中心地で囚われている女性。
——ルミターニャ・ヴァリエンテ。
彼女こそ、人類の希望〈勇者〉を産んだ母親であった。
事の発端は、魔族と人類の戦争だ。
往古の時代、大賢者が当時の魔王を破り、魔界を世界の果てに封じた。だが、19年前、現魔王は大賢者の封印を解除し、魔界と現世は再び繋がった。
魔王は人類に宣戦布告、種族の命運をかけた大戦が始まった。
大侵攻を開始した魔王軍は当初、連戦連勝の快進撃で大戦果を得た。人間領を蹂躙し、約10年の時間をかけて人類軍を駆逐。王都ミットラスを完全包囲。あと一歩で人類領を完全征服することができた。
人類は絶体絶命の窮地に立たされた。その渦中、一人の英雄が戦場に現れた。
「憎き勇者エニスク……!!」
オロバスは憎悪を込めて怨敵の名を叫ぶ。戦局をたった一人で逆転させた人類の英雄——勇者。失われた歴史上の伝説が蘇ったのだ。
「我が父アスバシールだけでなく、多くの同胞が勇者のクソ野郎に殺された! 奴さえ現れなければ、魔王様はこの戦争に勝利していたはずです!!」
「ああ、その通りだ⋯⋯。勇者の覚醒は予想外の出来事だった。我が軍は甚大な被害を受け、かけがえのない朋友を失った。私の失態でもある⋯⋯」
魔王は重たい溜息をつく。
「魔王様のせいではありません! 臣下たる我々が不甲斐なかったのです!!」
「結果は結果だ。勝ち戦だと慢心していたのは事実。私の失態である。慰めてくれているのだろうが、それは私が望むところではないぞ。オロバス」
全戦全勝の盤面を一人の少年が引っくり返した。王都を包囲し、戦争の勝利を確信していた魔王にとって、悪夢そのものだった。
勇者エニスクは魔王軍の筆頭幹部を討ち滅ぼし、それまで一人も戦死者が出ていなかった軍の重鎮が尽く殺された。息を吹き返した王国軍によって、補給部隊を徹底的に叩かれ、王都の包囲網を維持できなくなり、魔王軍は撤退した。
陥落寸前の王都ミットラスは、たった一人の勇者によって救われたのだ。
壊滅的な被害を受けた魔王軍は再編成のため、大きく後退した。人間達からすれば、戦線を押し戻した形となる。
「勇者エニスクが戦場に現れてからの5年⋯⋯! 僕らは何度も煮え湯を飲まされてきました。でも、やられてばかりじゃありません。今こそ逆襲の時です! 魔王軍に勝利をもたらす最高の兵器が出来上がりました!! 勇者を殺すには、同じく勇者を使えばいい!!」
拘束椅子に座らせた黒髪の妊婦。人間領から拉致され、4年もの間、囚われていた勇者の実母。勇者に対する切り札である。それは人質としての価値ではない。
「ルミターニャ・ヴァリエンテ! この人間は19年前に勇者エニスクを産んだ女です。人間達でさえ忘れていた歴史ですが、ヴァリエンテ家の一族は、魔界を封じた大賢者の末裔。ルミターニャの血脈は退魔の力が宿っています」
「こちら側の伝承にも残っておる。大賢者ヴァリエンテ⋯⋯。魔界を世界の果てに封じ込めた伝説の大魔法使い⋯⋯。間違いない。私の体を流れる魔王の血がざわめいている。この女はかつて魔王を打ち破った大賢者の血縁者だ」
「はい。強大な破魔の力。勇者エニスクと同質の能力です」
「19年前に魔界の封印が緩み、私は現世へと続く道を開いた。それと同時期に勇者の血筋も覚醒したと聞く。封印の解除と同時に、退魔の血が目覚めたのだろうな」
大賢者ヴァリエンテは魔王が封印を破り、再び人類に牙を向けると予見していた。魔王はそう分析する。
「今、この世界で大賢者ヴァリエンテの血を引く人間はたったの2人だけ。ルミターニャとエニスクの親子だけです。どちらも上級魔族を脅かす潜在能力を肉体に秘めています。ですが、覚醒者のエニスクと異なり、その母親であるルミターニャは力の使い方を知りませんでした」
「そうだ。この戦争で勇者は最大にして唯一の障害だった。ゆえに私は血統断絶計画を命じた。これ以上、勇者が増えぬようにな」
4年前に実行された勇者の故郷を襲撃する計画。実行部隊の指揮官を務めたのは、馬頭鬼族の前族長であり、オロバスの父親アスバシールだった。
任務の目的は勇者エニスクの肉親を拉致し、魔界に連れ去ること。その狙いは、新たな勇者を誕生させないための予防措置であった。
ある情報筋から、勇者エニスクの弟妹が産まれようとしていると噂が流れてきたのだ。一人でも厄介な勇者がもう一人現れる。それだけは絶対に避けねばならなかった。
「多くの犠牲を払うことになりました。でも、これで勇者エニスクの弟妹は生まれません。エニスクの母親を捕らえ、父親の殺害に成功しました」
「捕らえた母親を処刑しろとの意見は多かったがな」
「僕も聞き及んでいます。ですが、魔王様は処刑に反対されていた」
「当然だ。勇者エニスクがいる以上、ヴァリエンテの血統は続く。母親殺してどうなる? エニスクを殺せぬのなら、血統は断絶しない。せっかく生け捕りにしたのだから有効活用したほうが良い。母と息子、同時に殺す⋯⋯。そういう目論みであったのだがな」
肉体改造をすると聞いたとき、魔王は子を産めないように避妊手術をするのだと思っていた。生きていれば人質となる。だが、血統は断ちたい。それなら妊娠できない身体とすれば良い。
ところが馬頭鬼族の幼い族長は、正反対の発想で肉体改造を行った。避妊だけが女を妊娠させない方法ではない。
「生け捕りにした苦労は報われました。この膨れ上がった胎。見事に孕んでいるでしょ?」
孕んでいる女が新たに懐妊することはない。それがオロバスの導き出した答えだった。勇者の母ルミターニャは身籠もっている。だが、子宮に宿る胎児は〈勇者〉と真逆の存在だ。
「んぅ⋯⋯あぁ⋯⋯ぅ⋯⋯」
孕女は艶めかしい喘ぎ声を漏らす。
(性奉仕婦の衣装⋯⋯。勇者エニスクに同情を禁じえぬな。攫われた母親が性奴隷にされようとは思ってもおらぬだろう。管理は馬頭鬼族に委ねたが、まさかこうなるとはな⋯⋯)
拘束椅子に縛りつけられた勇者の母親ルミターニャは、卑猥なピンク色のベビードールを着ている。ショーツやブラジャーといった恥部を隠す下着はない。
両脚をM字に開いているので、漆黒の恥毛と女陰の割れ目が丸見えであった。豊満な乳房を羞じらいもなく露出させ、勃起乳首の先端にはピアスがぶら下がっていた。
「魔王様のご命令通り、勇者の血筋を徹底的に辱めました」
(むぅ⋯⋯。命令した覚えはないのだがな)
魔王が黙認したのは事実。だが、主体的に動いたのはオロバスだ。その行動原理は父親を殺した勇者エニスクに対する報復。母親のルミターニャを辱め、勇者エニスクに募らせた怨嗟をぶつけた。
「勇者エニスクに孕んだ母親の痴態を見せてやりたいです」
「こんな姿、見せられるものではないと思うがな。激怒するやもしれん。実の母親が魔族の性奴隷にされたとあっては⋯⋯」
勇者の実母ルミターニャ・ヴァリエンテは強姦された。その揺るがぬ証拠こそ、妊娠だ。ルミターニャの腹部は、大きく膨らみ、身籠もっている妊婦だと一目で分かる。
ルミターニャは劣情を掻き立てる肉付き豊かな身体であるものの、四十路を目前に控えた熟女だ。若女の魅力は枯れつつあった。だが、豊熟した艶めかしい色気を醸し、猛烈な色香を匂わせている。
臨月に達し、限界まで膨張した腹部が蠢いた。
出生の瞬間を待ちわびる胎児達の脈動。陣痛が始まっているのか、呼吸は荒々しい。
「どうです? 魔王様。報告書は上げていましたが、実物は凄いでしょう。ヴァリエンテ家の血は特別です。勇者を産んだ子宮が魔を孕み、勇者を殺す戦士を育てている。これ以上の復讐があるでしょうか?」
オロバスはベビードールの裾をめくり上げる。風船のように丸々と膨らんだ下腹部。胎内で蠢く赤子が腹を蹴っている。御産が間近に迫っていた。ヒクつく膣口から淫蜜が滴り落ちる。
「仕込んだ種は? この気配は⋯⋯オロバスの子か?」
魔王自身、愚問だと自覚していた。ルミターニャの胎に染み付いた妖気は、間違いなくオロバスのものだ。オロバスが胎児の父親でなければ、同質の妖気を宿すはずがない。
「はい。僕の種で孕ませました。この女が勇者を産んだせいで、僕の父は死んでしまった。もう二度と勇者なんか産めない身体にしてやったんです」
「⋯⋯そうなると、この胎に宿っているのは馬頭鬼族と人間の混血児というわけか?」
「混血ではありますけどね。ルミターニャは生殖器を含めて異種交配ができるように改造を施しています。産まれてくる赤子も人間の要素がどれくらい残っているかは分かりません。今からルミターニャに産ませるので見ていてください」
「え⋯⋯?」
「魔王様には見てもらいたいんです! 僕が勇者の母親を完全屈服させた証拠です!! 憎きヴァリエンテの血統が貶められた姿! 不様な醜態をお楽しみください!」
「いや⋯⋯私は⋯⋯! グロいのは⋯⋯ちょっと⋯⋯!!」
「お待たせはいたしません! この日のためにしっかり躾けてあります! 今すぐ産ませますね!!」
魔王は何かを言いかけたが、オロバスはまったく気付いていない。主君にルミターニャが出産する姿を見せようと準備を始める。
「ルミターニャ。魔王様に出産をお見せするんだ。子宮口の封は切ってある。もう産める状態になってる。ほら、さっさと力んで? 早く僕の子を産め」
オロバスはルミターニャの尻を叩いた。
「あっ♡ んぁ⋯⋯♡ はいっ♡ はぁはぁ♡ はいっ♡」
「もたもたするなよ。出産なんて慣れたでしょ? この4年間、ずっと俺の子を産んできただろ。クソ勇者のエニスクが殺した同胞の数だけ、お前には獣魔を産ませてやる。子宮から捻り出せよ」
「あんぅ♡ オロバス様ぁぁあ⋯⋯♡ きますぅっぅうぅうっ♡ 産まれるぅうっ♡ 私のっ、私たちのぉ⋯⋯赤ちゃんぅうぅ⋯⋯♡ 子宮から降りてきたぁあぁっ⋯⋯♡ んぎぃっ! んおぁほおぉおおおぉおぉ〜っ♡」
プシェアァアアァッ!とド派手に破水した。深紫色の液体が膣口から噴出する。ルミターニャの子宮は、獣魔の出産に耐えられるように改造されているため、体液の色素も人間と異なっていた。
「あぅぅ♡ んぉっ♡ んぉぉあぁ♡ おぉぉぉおお⋯⋯お⋯⋯ぉ⋯⋯♡」
一体目の赤子が膣口から這い出てきた。馬頭鬼と人間の混血児だが、人間の血は薄かった。だが、母胎との繫がりはある。漆黒の体毛は反論の余地なく、母であるルミターニャからの遺伝だ。
「うわぁ⋯⋯。きしょ⋯⋯」
「え? どうされました魔王様?」
「ご、ごほん! 何でもないぞ。う、うむ! オロバス。少し咳き込んだだけだ」
魔王は苦笑いで動揺を誤魔化し、ルミターニャの出産を見守る。もちろん辟易した顔で、視線を泳がせていた。
(⋯⋯何を見せられているのだ。私は⋯⋯はぁ⋯⋯)
ルミターニャは苦悶と嬌声が混在した音吐を喉から漏らす。下腹の筋肉を引き強く締めると、産道から馬頭鬼の赤子が産まれ落ちた。
——異種交配で生じた異形の忌み子は意気軒昂な産声をあげる。
子宮内に残る胎盤と繋がる臍の緒は、ルミターニャと産まれた赤子の血縁関係を示す動かぬ証拠だ。
(上がってきた報告書は読んでいたが⋯⋯。マジかぁ。きっちり産ませてたかぁ⋯⋯。可愛い顔してやることやってるな⋯⋯。人間の女を孕ませるなんて。馬頭鬼族の精力は凄まじい⋯⋯)
ドン引きする魔王。一方でオロバスは産まれてきた赤子を掴み上げる。
「勇者の血を取り込んだ馬頭鬼の獣魔です。1度の出産で、ルミターニャは4体から10体の赤子を産みます。これまでの多胎数は最高で16体。妊娠期間は約半月、赤子は生後3カ月で成体へと成長します」
「たった3カ月で? 報告書でそう書いてあったが⋯⋯」
「はい! すごい成長速度です。成長の遅い魔族の弱点を克服しています。僕ら魔族は成体となるまで100年かかりますが、この赤子は驚異的な速度で育ちます。つまり、戦士を量産できます!」
(⋯⋯人間は短命で脆弱だが、繁殖能力は魔族よりも優れている。掛け合わせの結果なのだろう。3カ月で成体になるなんて化け物だな。——ていうか、めちゃくちゃキモい)
「報告書に添付した提案書も目を通していただけたでしょうか?」
「無論だ。⋯⋯提案書は受け取っている。ルミターニャに産ませた子で獣魔兵団を結成し、勇者エニスクを討つ⋯⋯だったか?」
「その通りです。胤は違えど、同じ母親から産まれた弟妹。ルミターニャが産んだ獣魔は、勇者の加護を無効化できます。同じヴァリエンテ家の血脈だからです! 実際に戦果をあげています!」
「実際に勇者エニスクに深手を負わせたらしいな?」
「はい。3年前に産ませた中から、優れた個体を選別し、訓練を施しました。2カ月前、勇者エニスクに差し向け、戦わせたんです。あれは傑作でした。なぜ自分の力が通じないのか、バカな勇者はあわてふためいていたそうです」
勇者エニスクに深手を負わせた謎の獣魔。その正体が囚われの母親が産んだ種違いの弟だと知ってしまったら、さらに動揺していたに違いない。いや、正気を失わずに済んだかも怪しい。
「残念ながら、あと一歩で殺せませんでした。ですが、重傷を負わせています。勇者エニスクに仲間がいなければ、確実に仕留められていたはず! 僕の勇者抹殺計画は完璧です。お願いがあります。魔王様、僕に命令をください! 勇者討伐の命令を僕にっ!!」
「オロバス⋯⋯」
「父の仇を取りたいのです。そのチャンスを僕にお与えください。必ずや勇者エニスクを亡き者としてみせます!!」
「父を殺された恨みはよく分かる。私も信頼する重鎮だったアスバシールを失ったと知った時は、心が張り裂けそうだった。だが、幼い息子を遺して死んだアスバシールの無念は想像を絶する。たった一人の跡継ぎに、もっと教えたいことがあっただろう⋯⋯」
「魔王様⋯⋯! 復讐の機会を! ここに来た理由は分かっております。僕の計画を採用してくださるから、視察に来たんですよね!? 今のルミターニャは勇者殺しの戦士を産む母胎です! 下準備は終わっているんです! あとはご命令だけ! 同じです! 魔王様!!」
「——いいや、違う。今回は別の件で来た」
「え?」
「冷静に聞いてほしい。人類軍と停戦協定を結ぶ運びとなった」
「⋯⋯てい⋯⋯せん⋯⋯?」
「そうだ。戦争は終わる」
「⋯⋯え? え!? は? 魔王様⋯⋯なにを⋯⋯言ってるの⋯⋯?」
「戦争は終わる。そう言った。停戦だが、実質的な終戦だ」
「ちょ、ちょっと!! そんな! 待ってよ! おかしいよ! 僕知らない! 魔王様! そんなの僕は聞いていないんですけど!?」
「敬語を忘れているぞ。オロバス。別に構わんけどな。昔を思い出す。初めて謁見したとき、緊張してアスバシールの後ろに隠れていたのを私は今でも⋯⋯」
「おかしい! だって! そんなのおかしい! 僕、なにも聞いてないよ!!」
混乱したオロバスは魔王に縋り付く。その背後でルミターニャはお産を続ける。シュールな光景が広がっていた。
「緊急幹部会議で決定した。財政難でな。もう戦争継続は不可能なのだ⋯⋯。このままだと経済破綻してしまう」
「緊急幹部会議って何!? 僕も幹部でしょ! そんな会議しらないよ! いつやったの!?」
「深夜の開催だったからな。子どもは寝ている時間だった」
「子どもでも幹部は幹部! 仲間はずれ! 酷い!!」
「そんなつもりはないぞ。議論が長引いて、徹夜での会議となってしまった。オロバスはきっと途中で眠ってしまったはずだ」
「重要な会議なら起きるってば! ちゃんと呼んでよ!」
「未成年者を深夜まで働かせるのは初代魔王が定めた戒律に触れるのだ。法的な問題もあった。致し方なかったのだ。魔王といえど法には従わねばならん」
「そんなの詭弁だ! 前々から思ってたけど、僕だけ子ども扱いはやめてってば! 会議の資料だって僕のだけ読み仮名振ってあったり、飲み物がチョコレートココアだったり!」
「あれは宰相がやってることだ。私が命じているわけではないぞ」
「重要な会議だって呼び出されたら、僕の誕生日パーティーだったのもあった! あれって魔王様の指示でしょ!!」
「むふふふ。誕生日パーティーのサプライズは私の企画だ。楽しかっただろう?」
「楽しかったけど⋯⋯僕だって魔王軍の幹部なのに⋯⋯。一人だけあんな扱いされたら恥ずかしいよ」
「まだコーヒー飲めないだろう?」
「コーヒー牛乳なら飲めるもん」
「ともかく戦争継続は難しい。戦費の捻出が無理だと結論が出た。それは人類側も同じだ。両陣営とも財政難に陥った。既に前線は休戦状態となった。そして、3カ月後に停戦協定が結ばれる」
「あと3カ月で戦争が終わるの⋯⋯?」
「19年に及ぶ戦争だ。戦費の返済が終わり、経済が通常に戻るまで100年はかかるだろう。財務大臣曰く、戦時国債が天文学的な数字となっているそうだ」
「そんな⋯⋯。じゃあ父さんの仇は? 勇者エニスクを殺すのはどうするの!? せっかく勇者殺しの獣魔戦士隊を作ったのに! こんなの嫌だよ! 魔王さまぁーっ!」
「よしよし。泣くじゃない。私も不本意だが、戦争は不経済なのだ。このままでは双方が共倒れとなる⋯⋯。苦渋の決断だ。⋯⋯というか、財務大臣に泣きつかれた。そして、土下座された。最後に逆ギレされた。国内経済が相当ヤバいらしい」
魔王は泣きじゃくるオロバスをあやす。そして、本題に切り込む。
「停戦協定の内容だが捕虜の交換が条件となっている。要するに我々が捕らえた人間を返さねばならんのだ」
「捕虜を返す? つまり人質もですか?」
「そうだ。特に勇者の実母ルミターニャ・ヴァリエンテは名指しされている。勇者エニスクは王国政府に働きかけたようだ。肉親を救おうとするのは当然であろう。そういう事情で、攫われた母親が無事に返ってこなければ、停戦協定に従わないと豪語している。単騎でも魔界に攻め込むとな」
「⋯⋯返せばいいんですよね?」
オロバスは分娩台に座らせたルミターニャを見る。股を大きく開いて、膣口から胎児を押し出している最中だった。
「はあんぅ〜♡ んぅぉおおほぉぉーっ♡ はぁはぁっ♡ んくぅうぅ〜〜♡ はぁはぁ♡ んぉぉおおぉっ♡ おおぉおっ〜〜♡」
子宮から最後の赤子が胎外に排出された。御産の叫びに呼応し、馬頭鬼の産児7体も元気に産声をあげている。
胎盤はまだ子宮内に残存し、母体の膣口から伸びる7本の臍帯は赤子と繋がったままだ。遺伝子の螺旋を想像させる母子の絆。出産を無事に終えたルミターニャは息を必死に整える。
「え〜と、うん。魔王様。魔王様から絶対に殺すなと命じられていたので、ルミターニャはとても健康な身体です」
母子ともに健康。それは事実だった。赤子の出生体重は4.3キログラム超。ルミターニャの胎から産まれた巨大児7匹の重さは総計30キログラムとなる。
それだけの肉塊を胎で育て、そして産み落とした。人間の身体で耐えられるはずがない。だが、ルミターニャは立派に馬頭鬼の七つ子を産んだ。
「出産を終えた状態でもこんなに元気です。しかも、五体満足ではありますよ⋯⋯」
「いやいや、ちょっと待て!」
「⋯⋯なんです?」
今度はオロバスがすっとぼける番だった。
「健康な身体と呼べるのか? 色々と問題があるだろう! これは何なのだ!? 五体満足どころか、尻尾が生えてないか!?」
「⋯⋯え? そんなに驚くところですか? ただの尻尾ですよ? 僕や魔王様だって尻尾が生えてるじゃありませんか」
「誤魔化すんじゃない! ルミターニャの尻から馬の尻尾が生えている! これはどういうことなのだ!?」
「あははは。魔王様、何を言ってるんですか? 尻尾は元から生えてましたよ?」
「そんなわけあるか! ルミターニャは人間だ。人間に尻尾は生えていない! オロバス! 肉体改造で生やしただろう!?」
「あれれ⋯⋯? 難しいことよく分からないけど、そうだったかな?」
「都合のいいときだけ、子どもぶるな。魔王軍の幹部だろう」
「えーと、見た目が気持ち悪かったから両足を蹄に改造したとき、尻尾を付け足した気がしないでもないです⋯⋯」
「『気がしないでもない』ではなくて、絶対にしたはずだ」
「魔王様。逆に考えてみましょう。それくらいは別にいいのでは? だって、四肢を切除したわけじゃないんですよ? 減ったならともかく増えてるんです。むしろお得です」
「得なわけあるか」
「そもそも人間は馬鹿だから気にしないと思います」
「馬鹿はお前だ。人間にも知能はあるぞ。気付くに決まってる。切除は問題だ。だがな、人体に余計な部位を付け足すのは、もっと不味いだろうが!」
「は、はい⋯⋯」
魔王はルミターニャの変わり果てた肉体を観察する。4年の陵辱と調教、度重なる肉体改造によってルミターニャの人体は、人間から掛け離れたものとなっていた。
「——で、オロバス。怒らないから素直に言ってほしい。この他に何をやった?」
「⋯⋯たしか⋯⋯膨乳施術? 母乳が出やすいようにオッパイを改造したと思います。あとオマンコとアナルは僕のオチンポが入っても壊れないように魔族の細胞移植して拡張手術を⋯⋯。人間の人体って弱々しくて裂けちゃったから⋯⋯」
「⋯⋯生殖器は原型が残らないくらい改造したか?」
「はい。子宮や卵子も僕の精子に耐えられるように内臓も補強したり、いろいろと取り替えたような⋯⋯」
「よく分かった。つまり内蔵まで細工したのだな?」
「種付けや出産に耐えられなかったので⋯⋯。それとフェラチオで精子を飲ませてたら胃袋が破裂しちゃったんです。だから、消化器官も魔改造しました。死ななければって条件で、他にも改造してます⋯⋯」
「オロバスよ、元通りの身体に直せるんだろうな⋯⋯? 3カ月後に行われる停戦協定の調印式。そのとき、勇者エニスクに母親を引き合わせる約束となっているぞ」
「いっそ死んだことにしません? 骨を送り届けるとかどうです?」
「停戦協定の条件を有利なものとするために、勇者の母親は生きていると伝えてしまった。今さらルミターニャが死んでいるとは言えん。骨を渡すのは論外だ」
「困りました。元に戻すにしても原型を覚えてないから何とも⋯⋯。足の指って何本でしたっけ? たしか7本?」
「人間は5本だ。左右5本ずつ! 改造する前の姿を思い出して復元しろ! 外見だけでもいい! とにかく4年前の状態まで直すのだ!」
「それじゃあ、妊娠の痕跡も?」
「当然だ。魔族の子胤で無理やり孕ませ、獣魔を量産していた事実が露見すれば⋯⋯、人間どもは停戦協定で賠償金をふっかけてくる。隠し通せ。洗脳でもなんでもいいから、4年間の出来事は全て忘れさせろ」
「うーん。⋯⋯できるかなぁ」
「やるんだ。これは魔王としての命令だ。勇者の母親ルミターニャを元通りの身体に戻せ!」
「はい⋯⋯。頑張ります。魔王様⋯⋯」
▼主人公&ヒロインの紹介▼
◆馬頭鬼の族長オロバス(♂)
魔王に仕える魔族君主の一柱。前族長だった父親のアスバシールが戦死したため、未成年のオロバスが後を継ぎました。
魔族は100歳で成年と見做すため、19歳の彼はお子様扱いされてます。まだコーヒーが飲めないお年頃。
旺盛な性欲を発散するため、ルミターニャを性奉仕婦にします。要するに愛妾(性奴隷)。魔族と人間は別種の生き物なのでセックスしても子どもは作れません。ですが、ルミターニャの身体を魔改造して、異種交配できるように変えました。
馬頭鬼は鬼角が生えた馬顔の魔族。二足歩行する馬の怪物です。馬頭鬼の♀は顔が人間と同じ。
容姿端麗ですが、馬頭鬼族は「両脚を覆う獣毛の艶」「蹄の形」「乳房と尻の肉付き」が美女の基準。顔が人間基準でどんなに良くても身体が貧相だと醜女扱い。
馬頭鬼の基準だとルミターニャは整形美人です。
◆勇者の母ルミターニャ・ヴァリエンテ(♀)
人類の窮地を救った勇者エニスクを産んだ母親。
大昔の大魔法使いヴァリエンテの血を引く、退魔の一族です。
魔王城に連れ攫われ、オロバスにレイプされます。オロバスは童貞だったので、最初は滅茶苦茶なセックスでしたが、徐々に性技が磨かれていき、次第に子宮が堕とされていきます。第1話の時点でほぼ完堕ち状態。何匹も子どもを産まされて、妊娠に対する抵抗感もなくなっています。
オロバスと勇者エニスクは同い年。息子と同じ年齢の魔族に孕まされ、性奉仕婦の生活をエンジョイしている図太い女だったりもします。
ヴァリエンテ家の女は、魔王を倒す勇者を産むため、強く優秀な男の精子で孕もうとします。子宮の選別で優秀ではない精子は侵入できません。優秀な人間と子作りするための機能でした。しかし、肉体改造で魔族と異種交配できるようになった結果、オロバスを優秀な♂と認めて孕みまくってます。
ルミターニャが産んでいるのは、「退魔の力を宿した馬頭鬼」とかいう意味不明な存在です。
ノクターンノベルズ連載
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