2025年 2月10日 月曜日

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【133話】皇帝と宰相の悪巧み

NOVEL亡国の女王セラフィーナ【133話】皇帝と宰相の悪巧み

 

 ベッドの床板が激しく軋む。マットレスで吸収しきれなかった勢いが振動となって、ぎしぎしと音を上げている。

 堅苦しい軍服を脱ぎ捨て、逞しい肉体美を解放したレオンハルトは、仰臥ぎょうがするベルゼフリートの肉棒に跨がっている。極太の男根は珍しく避妊具ゴムを装着していた。

 特注の皇帝専用コンドーム。馬ほどの太さと長さ、握り拳サイズの亀頭を誇るベルゼフリートの逸物に合わせた製造した一品である。幼い少年の矮躯に似つかわしくない人間離れした巨根は、両親の近親相姦で産まれたことが原因だった。

 ベルゼフリートは大きすぎる生殖器を恥ずかしく思っている。だが、情事を愛するサキュバス族、雄々しさを求めるアマゾネス族には好評だ。

 帝国軍最強、大陸最高の女戦士の子宮を穿つに相応しい肉槍。避妊具ゴムという薄皮の外装に身を包み、戦場で無敗を誇る猛者の弱点を貫く。だが、ベルゼフリートが優位に立つことはまずない。

「んっ♥︎ んぁっ♥︎ 陛下♥︎ 一段と逞しくなられたっ♥︎」

 レオンハルトは尻を打ち付ける。根元まで咥え込まれ、膣口が締まった。堪らずベルゼフリートは射精した。

 両脚をピンッと伸ばし、性悦に身を委ねる。陰嚢の蓄えが流れ出ていく快感に酔いしれた。

「突き破りそうな勢いっ⋯⋯♥︎ 私に強き子を授けてくれる極農の孕ませ汁♥︎ アマゾネス族の女戦士としては誘惑を感じてしまう⋯⋯♥︎ 帝国元帥の職責さえなければ⋯⋯。あぁ♥︎ 実に惜しい⋯⋯♥︎」

 肉厚の膣襞で絞られる。避妊具の先端部分、精液溜めが水風船のように膨らむ。鼻息を荒げ、苦しそうに空気を吸い込む。

「精気のみなぎりが伝わってくる⋯⋯♥︎ 小さく愛らしい身体に宿った強大な力⋯⋯♥︎ 奔流の飛沫でさえ、これほど⋯⋯♥︎」

 レオンハルトの首筋から垂れた汗粒が乳間に流れ落ちた。頬が朱色に染まる。粛然と絶頂していた。

「くっ! んっ⋯⋯!! レオンハルトのオマンコ⋯⋯強すぎるよ⋯⋯! 膣圧⋯⋯すごっ⋯⋯!!」

 寝所に女官の姿はない。皇帝にべったりと引っ付いている警務女官を追い出せるのは皇后だけに許された特権だ。

 ベルゼフリートは両手を伸ばし、レオンハルトの豪然たる乳房を揉む。柔らかさよりも弾力が勝り、指先の圧を跳ね返す。硬めの豊胸は肉鎧を想わせた。

(やっぱり揉み心地は姉妹で似るね。あととも⋯⋯。いけないことだっていうのは分かるけど、僕にも事情がある。レオンハルトは許してくれるかな⋯⋯。あぁ~ぁ⋯⋯。バレた後が怖いや)

 後ろめたさを感じながらも、ベルゼフリートがレオンハルトの母親、すなわち義母との不義密通に及んだのは理由があった。

 事の発端はセラフィーナがアルテナ王国での公開出産を終え、天空城アースガルズがメガラニカ帝国の帝都アヴァタールに帰還した日まで遡る。

 ◇ ◇ ◇

 ――新年を迎え、大神殿の祝賀祭礼が終わった。

 催事は始まったばかりだ。近々、皇帝と三皇后は地上に下り、帝都アヴァタールのグラシエル大宮殿で年始参賀が行われる。その後の巡幸では三皇后の郷里を訪問する予定だ。

「けほっ!」

 帝国宰相ウィルヘルミナの星嵐后宮せいらんこうぐう午餐ごさんを食べていたベルゼフリートは、思いもよらぬ指示を受けてむせ返った。

「ごめん。もう一回、言って? さっき何て言った? 僕の聞き違い?」

「ナイトレイ公爵領の湯治場に滞在した後、陛下はアレキサンダー公爵領に向かう予定です。その際、大御所のヴァルキュリヤ殿に私の密書を届けてください。もし私との取引に応じると答えたなら、周囲に悟られぬように交合をお願いします。陛下の子を孕ませるのです」

「冗談⋯⋯? それとも本気マジな話?」

おお本気マジです。まだ酔ってはいません」

「何の悪巧み⋯⋯?」

「陛下、人聞きの悪い。ちょっとした保険です。ふっふふふ」

「悪い顔になってる⋯⋯。ちょっとした保険でお家騒動になっちゃうよ。アレキサンダー公爵家の七姉妹に睨まれる身にもなってくれないかな。武力の面なら帝国最強の勢力だ。いくらなんでも相手が大物過ぎる⋯⋯」

「夜の営みでは善戦なさっているとお聞きしますが?」

「⋯⋯負けっぱなしだよ。体力無尽蔵。イかせまくっても、まったく疲れないんだ。勝てない。あれは無理⋯⋯。というか、あの姉妹を全員怒らせたら怖い。武人だから風聞だって気にする」

「アレキサンダー公爵家はいつだって騒がしいでしょう。今さら風聞など気にされないかと」

「⋯⋯対抗意識? もしかしてさ。ナイトレイ公爵家が面白味に欠ける地味な貴族だって風評、気にしてたりする?」

「由緒正しき貴族とは本来、世間を騒がせぬものですよ。陛下」

 ウィルヘルミナは大好物の白子焼きを頬張る。

「ウィルヘルミナは肝が据わってるよ。羨ましい⋯⋯。ところでさ、美味しいの? それ?」

 フグの精巣はメガラニカ帝国の高級珍味。猛毒の海魚であるが、精巣部分は毒素が薄く、人体にほとんど影響がない。しかし、毒魚には違いなく、ベルゼフリートが口にできない食材の一つだった。

「いつ見ても下手物ゲテモノ⋯⋯」

「とっても美味しいです。口煩い女官がいなければ、陛下にも味わっていただきたかった」

 サキュバス族は魚類の白子をこよなく愛する。白子は精巣、すなわち精子。飲精の種族特性を持つ淫魔には、ことさら美味なのである。

 取り寄せた新鮮なフグの白子を綺麗な流水で濯ぐ。生臭さを洗い流し、水気を十分に切ってから、軽く小麦粉をまぶす。

 揚焼鍋フライパンにオリーブオイルを垂らし、表面を油で馴染ませる。白子を弱火で炒め、仕上げに清酒を振りかける。味付けは魚醤。酒精が蒸発し、焼き目が付いたら完成だ。

「料理も女も同じです。食べてみないことには分かりません」

「そうは言うけどさ。アレキサンダー公爵家の大御所って、つまり⋯⋯、レオンハルトのお母さんだよ? 正妻の母親を孕ませるだなんて⋯⋯スキャンダル。いくら僕でも躊躇する」

「陛下はお会いしたことはありましたね」

「そりゃ、よく知ってるよ。何度か可愛がってもらった」

「おや? おやおや?」

「性的な意味じゃないよ。鷹狩りに連れて行ってくれたの。ちゃんとした婿と義母の関係だってば!」

「揶揄っただけです。ヴァルキュリヤ殿は鷹狩りの名手と聞いています」

 熟成させた精液瓶を開封する。喉越しを良くするために酒や炭酸水で割るサキュバスもいるが、ウィルヘルミナは泥々の特濃精液を好む。当然、豚や馬の家畜から搾り取った低廉な胤ではない。自身の手でベルゼフリートから搾り取った極上の皇胤である。

「⋯⋯ウィルヘルミナにやれと言われればやるけど⋯⋯大丈夫なの? レオンハルトに話を通してないでしょ。それ」

「知られれば邪魔されてしまいます」

「そりゃそうだろうね。許すはずがない」

「今回の頼み、くれぐれも内密に。女官総長のヴァネッサには話を通してあります」

「根回しがいつも早いね。⋯⋯僕の退路がなくなったとも言えるけど」

 ウィルヘルミナの派閥に属する宰相派の女仙を孕ませろ。そんな命令は今までにも受けてきた。しかし、今回の相手は軍閥派の最大勢力アレキサンダー公爵家の重鎮。

 女仙でない者を孕ませるだけでも異例だというのに、相手が英雄アレキサンダーの一人娘にして、帝国元帥レオンハルトの実母――ヴァルキュリヤである。

「ご不満ですか? ヴァルキュリヤ殿はお歳こそ召されていますが、とても美しい女性です。子持ちの母親を孕ませるのはお得意でしょう?」

「セラフィーナとは違う! ヴァルキュリヤの相手をするのは嫌じゃないけど⋯⋯レオンハルトが⋯⋯。いいの? 後で問題になるって⋯⋯!!」

「母親に陛下を寝取られたと知れば、元帥の脳が破壊されてしまうかもしれませんね。ふっふふふふ」

「笑い事じゃないよ⋯⋯。もぅ。ウィルヘルミナ、相手が誰だと思ってるのさ⋯⋯」

 家格が同列の公爵家といえど、ナイトレイ公爵家とアレキサンダー公爵家では武力が違う。ナイトレイ公爵家の兵士は所領と領民を守る衛士、領主を守る騎士団のみ。

 貴族領主は余剰の軍事力を帝国軍に徴兵されるのが決まりだ。アレキサンダー公爵家も例外ではないが、領主直属の騎士団は精鋭揃い。その力は国軍に匹敵し、余剰戦力を徴兵されてもなお、飛び抜けた武力を誇っていた。

 アレキサンダー公爵家の軍事力に並ぶ者がいるとすれば、ケーデンバウアー侯爵家であるが、両家の友好関係は一千年に及ぶ。事実上の同盟関係にあった。

「ヴァルキュリヤを孕ませる理由くらいは知りたい。密書の内容は? 何をお願いする気? 取引をするんでしょ?」

「陛下は口が軽いから内容を読んではいけません」

「⋯⋯僕、誰にも喋らないよ? 信じて。この目が嘘をついているように見える?」

「私はレオンハルト元帥ほど優しくはありません。どうせ三日と経たず、宮中に言い触らす気でしょう?」

「僕の信頼度、低くない?」

「普段の行いです。陛下」

「ちぇっ! 言っておくけど、そういう男に育てたのはウィルヘルミナだからね」

「ふっふふふ。私好みではあります。だから、ちゃんと責任をとって妻となっているではありませんか。一生、お側におります」

「⋯⋯ヴァルキュリヤに断られたらどうする? どんな密書を渡すのか知らないけど」

「アレキサンダー公爵家の大御所は、私の依頼を聞き入れます。無理難題を押し付けるわけではありません。国内で不穏な動きをしている者達がいます。そのために大御所の力を借りたい」

「⋯⋯だったら、レオンハルトに頼めばいいじゃん。アレキサンダー公爵家の助力を望むのなら、現当主にお願いするのが筋だ。違う?」

「敵を騙すならまずは味方から――と言うでしょう?」

「回りくどい手段。⋯⋯でも、分かった。政治はウィルヘルミナに任せてる。やるだけやるよ。これも御国のためだ。でも、あんまりレオンハルトを虐めないであげてよ」

「妹が一人増えるのです。賑やかでよろしいではありませんか? 陛下の男根でアレキサンダー公爵家の大御所に子を産ませてやってください」

「はいはい、了解。子作り期間は三日か⋯⋯。バレないように励むよ」

「よろしくお願いいたします」

 かくしてアレキサンダー公爵家の大御所ヴァルキュリヤに帝国宰相ウィルヘルミナの密書が届けられた。

 ヴァルキュリヤは三人の男と子作りし、七人の娘を産んだが、相手は情夫という名の種馬。婿入りはさせず、アレキサンダーの名を与えなかった。

 家督を四女のレオンハルトに譲り渡した後は孫娘の養育に力を注ぎ、新たな情夫を探すことは控えていた。そんな折り、ウィルヘルミナが差し出した幼帝の皇胤は垂涎すいぜんものの褒美だった。

 齢は四十路を超え、七人の娘を産んだヴァルキュリヤは父母から使命を託された。新帝を守護する大義。けれども数十年、新帝は現われず、ヴァルキュリヤは使命を己の娘達に託すことを決めた。

 もしベルゼフリートの即位が二十年ほど早ければ、三皇后の一角を預かり、帝国元帥として皇帝を支える女仙となれた。ヴァルキュリヤの心中に燻る無念をウィルヘルミナはよく分かっていた。

 密書を密約は結ばれ、警務女官の手引きでベルゼフリートはヴァルキュリヤとの不義密通に及んだ。人目を忍び、三晩の姦通。妻の実家で、義母の熟れきった子宮に胤を注ぎ込む。

 不穏な気配を勘付かれ、娘達が母親を糾弾したが、何とかベルゼフリートとヴァルキュリヤは誤魔化しきった。しかし、疑り深い三女が騒ぎ続けそうだったので、ウィルヘルミナの入れ知恵を受けたベルゼフリートは、アレキサンダー公爵家で起きた騒動を宮中で喧伝した。

 壮大な母娘喧嘩があったと流布し、その裏で行われていた密書のやりとり、そして三晩の淫交を隠しおおせたのである。


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