ラヴァンドラ伯爵家は、帝都アヴァタールの一等地に屋敷を構えている。
広大な敷地を有する本邸のほか、複数の別邸がある。
帝都随一の大財閥ラヴァンドラ商会の本拠も兼ねているため、普段から大勢の商人が出入りしていた。
当主のラヴァンドラ王妃は天空城アースガルズで暮らしており、屋敷に立ち寄る機会は少ない。伯爵家の管理は執事長に委ねられている。
商会に傭兵部門はあるものの、領地持ち貴族と異なり、私的戦力の騎士団は抱えていない。屋敷の守衛は騎士や帝国軍人に比べれば、練度は大きく劣る。素人に武器を携行させている程度の者達だ。
ラヴァンドラ伯爵家の最大戦力はゴーレム達だった。
守衛は侵入者を発見次第、警報を作動させてゴーレムを起動させる監視要員に過ぎない。
緊急時に出動する液体金属製のゴーレム達は、ケーデンバウアー侯爵家から買い付けた特注品である。一般的な騎士や帝国軍人よりも純粋な戦闘能力は高い。欠点があるとすれば、ゴーレムには自我がないため、判断能力に欠けることであろう。
主席宮廷魔術師ヘルガ・ケーデンバウアーの自信作であったが、メガラニカ帝国軍では採用を見送った。
貴重なマナメタルを大量に使用する生産コストの高さ、そのうえ維持費も莫大なのである。ゴーレムの強さは兵士の平均を上回るものの、組織運用の面で人間に劣っていた。
そして、不採用となった最大の理由は、鍛え上げた精鋭に比べれば弱すぎること。
低コストで大量生産できるのなら、使い道はいくらでもあったが、軍縮を掲げて人員削減を進めている今、高価なゴーレムを購入する余裕はなかった。
「中尉! 部隊の配置を終えました!! 敷地外は帝都警備兵が固めております! 現在のところ異常はありません!」
現在、ラヴァンドラ伯爵家の屋敷では、最精鋭の特殊部隊が警戒にあたっていた。
指揮を任された中尉は、国軍所属の経験豊富な軍人である。
「警戒を維持せよ。皇帝陛下の御訪問は一部の者にしか知らされていない。ラヴァンドラ伯爵家の使用人や帝都警備兵を頼みにするな」
「はっ!! 承知いたしました!!」
皇帝ベルゼフリートと愛妾セラフィーナは、天空城アースガルズを離れて帝都アヴァタールに降り立っていた。
冒険者組合との会合場所に、ラヴァンドラ伯爵家の屋敷が選ばれた。
通常時であれば、グラシエル大宮殿で話し合いが行われいたはずだ。しかし、大妖女レヴェチェリナの一件があり、安全性の問題で候補から外された。
国軍最精鋭の特殊部隊は、帝国元帥レオンハルトの命令で動いている。ベルゼフリートには警務女官達がついているが、瘴気を撒き散らす女仙は大規模展開が難しい。
屋敷全域の警備には百人以上の数が必要だった。
アルテナ王国の白月王城に滞在したときは、隔離区画を設けることで、瘴気の影響を最大限に抑制した。女仙の宿泊施設があるグラシエル大宮殿も同様である。
一方、商業活動を営むラヴァンドラ伯爵家は人の出入りが頻繁で、立ち入り禁止の区画を作れば怪しまれてしまう。
皇帝ベルゼフリートの訪問を悟られる可能性があった。
「正門に帝都冒険者組合のギルドマスターが到着しました。随伴者は特級冒険者ネクロフェッサーだけです」
「一人か? 天文監察補助隊は?」
「ネクロフェッサー、一人だけです。一体というべきかもしれませんが、手勢は連れてきていません」
「特級冒険者ノエル・ウェイジャーはどうした?」
「別働隊の定時報告によれば、冒険者組合の宿泊所に残っています」
「事前の申告通りだな。ギルドマスターの本人確認を済ませたら通せ。ただし、武装解除を徹底させろ。帝国に多大な貢献をしてきた冒険者であっても警戒は必要だ」
「特級冒険者ネクロフェッサーに枷を付けますか? 能力制限の異能所持兵を正門に配置しています」
部下の提案を中尉は思案する。ネクロフェッサーの実力は、特殊部隊の総力を上回る。
死恐帝の災禍を生き延びた熟達の老冒険者。帝国の古き英雄が、皇帝に危害を加えるとは考えにくい。しかし、皇帝の護衛任務ではあらゆる可能性を考慮する必要があった。
「能力制限はしなくていい。冒険者組合はメガラニカ帝国と交渉するためにやってきた。交渉材料の一つにされるかもしれない。許されるのは武装解除までだろう」
中尉は交渉の具体的内容を聞かされていない。
この時期に皇帝がわざわざ出向いていることから、国政の重要事項だとは分かる。三皇后の決定がなければ、皇帝が天空城アースガルズを離れて、地上に降り立つはずがない。
「警務女官長ハスキーに詳細を伝達だ。愛想の悪いメイド達だが、普段に比べ向こうも歩み寄りを見せている。誠意には誠意で応じろ」
「中尉殿、先にルアシュタイン大将へ報告したほうがよろしいのでは?」
「無論だ。ルアシュタイン大将には私が口頭で伝える。アレキサンダー公爵家の方々がおられれば、特級冒険者も恐るるに足らん」
「肯定であります! それにしても、すごい戦力ですね。まさか四人もいらっしゃるとは思いませんでした!」
「レオンハルト元帥やヘルガ上級大将が警護にあたる案もあったそうだ。しかし、ほんの数ヶ月前に帝都襲撃があったばかりだ。三皇后も皇帝陛下を地上に送りたくなかったはず⋯⋯。それだけに重要な会合だ。今一度、気を引き締めろ」
「はい!」
軍務省は皇帝の護衛にアレキサンダー公爵家の七姉妹から四人を選んだ。
次女のルアシュタイン、三女のレギンフォード、五女のタイガルラ、七女のキャルル。帝国軍の最強戦力を担う姉妹達は、いずれも一人で一軍に匹敵する。
(アレキサンダー公爵家の七姉妹がいれば恐いものはない。しかし、妙な人選だ。長女のシャーゼロット様がおられないとは⋯⋯)
中尉はシャーゼロットの不在を訝かしんだ。
皇帝護衛の重要任務に帯同するのは、年長組と呼ばれる長女から三女までの三人衆。姉妹の力関係は外部からも透けて見える。
公爵家の当主であり、帝国元帥の地位に立つレオンハルトが頂点なのは当然として、その次に強い発言権を持つのが長女のシャーゼロットだった。
(個人的な勘繰りを部下の前で口にはしないが、陛下の護衛以上に優先される重要任務があるというのか?)
◆ ◆ ◆
ベルゼフリートは二台のベビーベッドに寝かされた赤ん坊と対面する。転落防止用の木製フェンスに手を掛けて、つま先立ちの姿勢で我が子の顔をじっと見下ろす。
「自分の子供と会うのは、いつも不思議な気分だ。あんまり会う機会がないからさ」
金髪の女児と赤髪の男児、どちらも生母の特徴を色濃く受け継いでいる。
言葉を知らぬ乳幼児達は、覗き込んでいる少年が実父だとは分かっていない様子だった。
産まれたばかりの乳飲み子は、自らに課せられた運命をまだ知らない。
「ギーゼラの顔立ちはセラフィーナにそっくりだ。ジゼルはロレンシア譲りの赤毛だけど、肌の色は僕と同じ。むしろ僕より濃いめかも? 先祖返りしてるのかな」
ベルゼフリートは手を差し出して、我が子と自分の肌色を見比べる。暗褐色の濃さは、ジゼルのほうが若干強めだった。髪色以外は父親の血筋が現われている。
「ヴァネッサ達がジゼルの養育権を欲しがるわけだ」
ロレンシアに寄生卵子を仕込んだ女官達は、ジゼルの養育権を得ようとしていた。その理由がよく分かる。一目でベルゼフリートの子供だと分かる外見をしていた。
生後半年ほどで、ここまで特徴が現われているのだ。育ちきれば、ベルゼフリートと瓜二つの少年となるだろう。
対照的にギーゼラは雪のような真っ白い肌をしていた。肌触りの良い絹糸を思わせる金髪は、間違いなくアルテナ王家の血筋である。
幼帝に犯されて産まれた女王の忌み子。しかし、セラフィーナの心が完全に堕とされた今、ギーゼラは嫡子になった。
メガラニカ帝国の皇帝ベルゼフリートに、女王セラフィーナはアルテナ王国の王冠を与えた。略奪婚による即位を認めていない者は大勢いるが、三つ子の姉妹が女王の胎から産み落とされたとき、婚儀は成った。
「女王の後継に指名してるのは、一番上の子なんだっけ?」
振り返ったベルゼフリートは、壁際に待機しているセラフィーナに問いかける。
「三皇后はセラフリートを後継に推しておりますわ。私とベルゼフリート陛下の長女ですから⋯⋯。次女のコルネリアは大神殿の巫女に。三女のギーゼラはこれからの話し合いで処遇が決まりますわ」
帝国憲法の規定に基づき、皇帝の御子は生母に養育権があったが、セラフィーナは娘達の養育権を譲渡している。
長女セラフリートは西アルテナ王国に残り、白月王城で次代の王となるべく、大切に育てられている。次女コルネリアは大神殿が引き取り、将来は巫女となるだろう。
「ギーゼラも大変だ。名目上とはいえ、帝都の冒険者組合に担がれるっていうんだからさ。お飾りって意味じゃ、皇帝の僕とまったく一緒だ。出生の経緯もあるし、父親としては娘の将来が心配かな。当たりくじを引いたのは、大神殿で伸び伸びと暮らせるコルネリアだろうね」
ベルゼフリートは我が子達に手を振って別れを告げる。控えていた乳母達がベビーベッドを運んでいった。
「瘴気のせいで触れあえないのは可哀想だね。セラフィーナも近くで見たかった?」
「ええ。少しだけ寂しいですわ」
女仙が帯びている瘴気は健康を害する。母親と子供であっても、臍帯の繋がりが絶たれた瞬間からは他人だ。ベルゼフリートと頻繁にセックスをしている女仙ほど、瘴毒の濃さが増していく。
「僕が抱きまくってるから、今のセラフィーナってエグいくらいの瘴気が宿ってるでしょ。大神殿の護符で抑制しても、接近禁止令が出ちゃうくらいだもん」
「それはもう⋯⋯♥︎ 身に余るご寵愛をいただいておりますから」
女仙の近くにいられるのは、同じく穢れた身の女仙か、破壊者の器である皇帝だけだ。
「今日は真っ白なドレスなんだ。日焼けした黒肌とのコントラストが映えるね。お尻をちょい見せする斬新なデザインは嫌いじゃない」
「んぁっ⋯⋯♥︎」
ベルゼフリートは手を伸ばし、セラフィーナの巨尻を撫でた。悦び悶えながら、淫欲に溺れた愛妾は快楽に身を委ねる。
「冒険者組の交渉だけど、僕は立ち会うだけ。頑張ってね。ギルドマスターはよく知らないけど、ネクロフェッサーは⋯⋯なんていうのかな? 狡賢いお爺さん⋯⋯? ともかく一筋縄ではいかないと思う。お気を付けて~」
他人事とばかりにベルゼフリートは脳天気に笑う。アルテナ王国の王としての初仕事だが、政治に関する一切の権能がメガラニカ皇帝にはない。三皇后からは「何もせずに推移を見守ってほしい」と命じられている。
(セラフィーナを焚き付けるところまでが僕のお仕事。旧帝都の利権と負債をどう処理するかの政治抗争。帝国の宮廷は謂わばゲームの盤上。今回はメリットとデメリットが馬鹿でかい)
隣国との戦争が終結し、暗躍していた魔物達も一掃された。破壊帝、哀帝、死恐帝、三代に渡って築かれた遺産が旧帝都ヴィシュテルにはある。遺産が資産となるか、負債となるかは、分からない。
「レオンハルト元帥の意向はどうなのでしょう?」
「さあ? 考えまでは分からないかな。僕と約束してたデートをドタキャンするくらいには忙しいらしい。レオンハルトは余裕がなさそうだ」
「本日の会合、陛下の護衛にアレキサンダー公爵家から、ルアシュタインさん、レギンフォードさん、タイガルラさん、キャルルさんの計四人がいらしていますわ。⋯⋯シャーゼロットさんがいないのは気になりますね」
セラフィーナはキャルル以外の三人とは面識があった。アレキサンダー公爵家の護衛が付く。そう聞かされたとき、長女のシャーゼロットが責任者になると思っていた。
(シャーゼロットさんは別件で出張中⋯⋯。今回の護衛は次女のルアシュタインさんが責任者となっていますわ)
わざわざシャーゼロットを護衛メンバーから外した理由が気になった。「冒険者組合との交渉に立ち会わせたくなかったのではないか?」と勘ぐりたくなる。そんなセラフィーナの推察をベルゼフリートは否定する。
「あの四人は僕の護衛だ。まず間違いなく口出しはしないよ。アレキサンダー公爵家は軍人貴族。流儀があるんだよ」
「流儀とは⋯⋯?」
「法律があるわけじゃないけど⋯⋯。まあ、だってさ、アレキサンダー公爵家って強すぎるじゃん。交渉事が脅迫になりかねない。国内の揉め事で武力をチラつかせるのはルール違反。しかも、今回は相手が民間の冒険者組合だよ」
「軍閥派が介入をするための人選ではないと?」
「うん。もし介入するつもりなら、軍閥派次席のヘルガ、あるいは情報将校のユイファンあたりが来たはずだ。それは宰相派でも同じさ。ラヴァンドラは同席しないでしょ?」
「このお屋敷を貸していただきましたが、冒険者組合との交渉には参加しないと言っておられましたわ」
「三皇后で取り決めたんだよ。長老派だって気になってはいるだろうに、働きかけはなーんにもない。つまり、三つの派閥は過度な干渉を控えてる。たぶん女官もだろうね。ヴァネッサが指示を出してるはずだ」
「それは派閥争いによる共倒れを懸念して?」
「旧帝都ヴィシュテルの復興計画はドデカい話だもん。派閥でそれぞれ思惑はあるだろうさ。そこで質問、全員にとって一番イヤな展開はなんでしょう?」
「大金と労力を費やしたにもかかわらず、成果が得られない結末ですわ」
「ぴんぽーん。大正解♪ アルテナ王国のお金を引っ張ってくるのは大前提。セラフィーナが重要な位置にいるからこそ、僕という鎖がまとわりついてるわけ」
艶尻を揉んでいたベルゼフリートの手が、セラフィーナの下腹部に伸びる。二回目の妊娠は双方が望んだ結果だ。
皇帝と愛妾、国王と女王、主人と性奴隷。男女の仲はどのようにでも表現できる。
「セラフィーナは僕の女になった。だから、僕らが幸せになるための行動をしてくれるよね。三人の娘、そしてお腹にいるこれから産まれてくる赤ちゃん。大切な子供達だ」
胎の膨らみをドレスの布越しに確かめる。
「⋯⋯全ては私の働き次第ということですわね」
「そうだよ。全てがそうなんだ。ここでも勝敗が未来を左右する。敗北の痛みを忘れちゃダメだよ? 戦争で敗れたアルテナ王国の女王は家族を失った。メガラニカ皇帝が徹底的に壊して奪って辱めた。そうだよねぇ?」
両手を広げたベルゼフリートが抱き締めてくる。背の低い幼帝では、長身のセラフィーナを包みきれない。
「その美貌も、金絹のような美髪も、豊満な乳房も、大きなお尻も、ぜーんぶ僕がもらった。真っ白だった肌も今じゃ僕とお揃いの色だ。とっても似合ってる」
セラフィーナの皮膚は日焼けで黒肌に変色した。生まれて初めての経験だった。ベルゼフリートの望まれるがまま、一時的な変化とはいえ白い肌を捨てた。
「セラフィーナは家族を亡くした。祖国を売って、夫を裏切って、子供を棄てた。酷い女王様だよねぇ。そんな売国女王が僕を新たな夫に迎え、子供を産み落とした」
「どれだけ誹られようとも、後悔はありませんわ。心から愛しております。ベルゼフリート陛下に抱かれて、私は初めて女になれた。これから、ずっとお側で尽くしますわ」
「母親にもなってくれるんだよね?」
「はい。もちろん。私の可愛い子♥︎」
セラフィーナも抱き締め返す。乳房の谷間をベルゼフリートの鼻筋に押し付ける。求めていた温かい母性を甘受し、寂しがり屋な幼帝は満足げだった。
しばらくの間、無言の包容が続いた。乳間の匂いを堪能するベルゼフリートは、セラフィーナに警告する。
「宮廷で蹴落とされないように頑張ってね。地位向上の機会であると同時に、失敗すれば責任を負う立場だ。セラフィーナの不幸を願う人間は、宮廷にだって沢山いる」
「ええ、よく分かっているわ。女は嫉妬深い生き物ですもの」
親子団欒の時間は終わる。見慣れた警務女官達に続いて、軍服姿のルアシュタインが現れた。
◆ ◆ ◆
「定刻です。ベルゼフリート陛下」
「ごめんよ。ルアシュタイン。親子団欒の時間が長引いちゃってたね。遅れ気味かな?」
「もとよりスケジュールには余裕があります。大丈夫です」
微笑んだルアシュタインは、眼鏡の角度を調整しながら、手帳の記載を確認する。その背後には三人の妹達、レギンフォード、タイガルラ、キャルルが並ぶ。
アマゾネス族は筋骨隆々な大柄女と思われがちだ。実際、その通りでもある。しかし、アレキサンダー公爵家の七女、キャルルはその固定観念に当てはまらない。
可愛らしく、愛くるしい、可憐な少女体型を維持している。
「陛下~♥︎ 子供が好きならいっぱい産んであげますよー。私、いま孕み盛りで~す♥︎」
キャルルーは軍服を捲り上げて、恥部をチラ見せする。即座にレギンフォードの鉄拳制裁が行われた。
「警護任務中よ。キャルル。弁えなさい」
「痛ったぁあっ⋯⋯! だって、だって! 最近はお姉ちゃん達ばっか陛下の護衛でズルしてたじゃん! 私とタイガルラお姉ちゃんに帝国軍の雑用任務を押し付けて、美味しい仕事ばっかり独占し――んぎゅもぉっ!?」
問答無用でレギンフォードがキャルルを黙らせた。
優等生のタイガルラは苦笑いしながら、なんとかこの場を取り繕おうとする。
「愚妹が申し訳ございません。そのキャルルは⋯⋯久しぶりに陛下と会えて興奮してるようです」
「キャルルは元気そうだね。最近のタイガルラは雑用任務ばっかりだったの?」
「そのようなことはありません。帝国軍の仕事は全て大切な任務です」
「レオンハルトが仕事で急がしそうだから、金緑后宮には行かないようにしてたんだ。休暇の日を教えてよ。僕の予定も空いてたら伽役をお願いするからさ」
「もったいないお言葉。ありがとうございます」
タイガルラは深々と頭を下げる。レギンフォードに羽交い締めにされてるキャルルは叫ぶ。
「わ! わたし! 来週の連休は仕事ないです! デート! デートしましょ!! 陛下!! 芸術讃美の祝祭節、お暇ですか? 私は予定をなーんにもいれてな――。ちょっ! もう! 邪魔しないでよ! レギンフォードお姉ちゃん!」
「いい加減にしなさい。キャルル。天空城アースガルズに送り返すわよ?」
「その辺にしてあげれば? 大人げないよ。レギンフォード。それと、ごめんね。キャルル。来週の祝祭節は先約があるんだ」
「そ⋯⋯そうですか⋯⋯。残念⋯⋯。ちなみに先約は誰ですか?」
がっくりと肩を落としたキャルルは意気消沈してしまった。
「目の前にいる人達だよ」
「え? えぇ? 陛下? 目の前って? しかも、人達?」
「レギンフォードに誘われちゃった。僕がトイレに行ったとき、キャルルだけ外回りしてたでしょ。あの時にさ、持ちかけられちゃった。ごめんね⋯⋯。ちなみに、祝祭節の中日がタイガルラで、最終日はルアシュタインが確保済み」
「陛下。ちょっとだけ耳を塞いでください。――おいおい? お姉ちゃん達? ちょっとそれは狡くない? 酷い裏切りよ。私がいないときを見計らって、それはないよね? 私に庭の偵察を命じたのって、そのため? 任務中だとか偉そうに説教したくせに、自分達がまっさきにやってるんじゃない! お姉ちゃん達の意地悪!」
「先手必勝、アレキサンダー公爵家の家訓を忘れたのかしら」とルアシュタインは語る。
「こういうのは早い者勝ち。それと誘いを掛けるタイミングを選ぶことね」とレギンフォードは冷笑する。
「姉妹である以前に、アマゾネス族の女だから仕方ない。キャルルは動き出しが遅かった」とタイガルラは開き直る。
「姉妹喧嘩は良くない。キャルル、今日の夜は黄葉離宮に泊まりなよ。僕が望めば立派な仕事になるでしょ?」
「ううぅっ! 慈悲深き陛下⋯⋯! 意地悪な姉達に虐められる私に手を差し伸べてくれるなんて! ありがとうございます!! 御礼に何をしましょう? 私、靴の裏だって舐めちゃいます! オチンポだって舐めます! いえ! 舐めさせて!」
「今はちょっと⋯⋯。これから冒険者組合と大事な話し合いがあるしさ」
「そんなこと言わずに! 先っちょだけ! 先っちょだけなら大丈夫だからぁ! オチンポをしゃぶります! 感謝フェラチオをさせ――痛いっ! 髪を引っ張るのはやめてよ! お姉ちゃん! 髪型が崩れちゃう!」
今度こそ、キャルルはレギンフォードに髪を引っ張られて、奥に引きずられていった。
「ともかく、これで万事問題なしだ。家主のセラフィーナは許してくれるよね? 今晩はキャルルと一緒に僕の相手だ」
「ええ、もちろん、キャルルさんを歓迎いたしますわ」
ベルゼフリートの提案でキャルルは不満を抑え込む。強い男の子を産もうとするのは、アマゾネス族の種族習性であり、抑えきれぬ欲望だった。
強さの基準は個々人で異なるが、ベルゼフリートは一般的なアマゾネス族が求める体質的な強さを持っていた。世界を滅ぼす破壊者ルティヤを封じる器。肉体の血には比類無き力が秘められている。
ベルゼフリートはセラフィーナの耳元で囁いた。
「冒険者組合との交渉事がどんな結果で終わるにしろ、情報通のキャルルに相談すればいい。僕の子供を産みたがってるから、きっと今夜は力強い味方になってくれるよ。こういうのも駆け引きだよね」
「キャルルさんは情報通なのですか?」
「ああいう性格だし、任務で外にも出てるから、天空城アースガルズに籠もってる女仙よりも情報を持ってるよ。冒険者組合や魔狩人との共同任務も沢山こなしてるらしい⋯⋯って僕は聞いた。あと帝国軍随一のファッション通だね」
「キャルルさんが引きずられていくとき、熊さんパンツが見えましたが⋯⋯。帝国では熊がお洒落なのですか?」
「一部では熱狂的なファンがいるらしいよ。魅せパンツだとか言ってたかな?」