帝国元帥レオンハルトは筋トレ用の握力ボールを握り潰した。衝撃波で部屋全体が震動する。何ごとかと隣室で控えていた秘書官の側女が執務室を覗きに来る。
「何でもない。下がれ」
職務机の上には書類の山が築かれていた。いっそ、本当の山であれば、実力で消し飛ばせたかもしれない。敵を一撃で薙ぎ倒せる絶対強者であっても勝てぬ存在。それは書類仕事だった。
「いつになったら私の仕事は終わる⋯⋯? なぜだ。一向に終わりが見えてこないぞ⋯⋯」
仕事は常日頃から真面目にこなしている。眼前に広がる書類の大山脈はひとえに、レオンハルト・アレキサンダーの処理能力を上回る速度で、重要案件が発生しているためだ。
「机に張り付く日々⋯⋯。苛立ちで脳が爆発しそうだ」
「爆発したのは私が丹念を込めて創り上げた力作〈握々パワーボール伍式〉だが? 弾力性は陛下の睾丸を参考にした後宮の人気商品なのだから、大切に扱ってほしかった」
「その無駄な拘りは何なのだ⋯⋯?」
「開発者の愛だとも!」
万年筆を握力で粉砕し、インクを飛び散らせること三回。軍閥派の次席にして主席宮廷魔術師のヘルガ・ケーデンバウアー王妃が開発した特注の握力ボールもついに限界を迎えて爆散した。
「楽しげな貴公が羨ましい。⋯⋯この業務量は狂気じみているぞ」
「軍事費削減に伴うメガラニカ帝国軍の再編成は、この時期に終わらせてしまいたい。元帥閣下も承知されていたはずだがね? 先般の軍議でその重要性を軍閥派の妃達に説いていたのは、何方だったかな」
助け船を出すべき補佐役は意地悪く笑っていた。
全身鎧を着込んだヘルガは、帝国元帥の執務室でくつろいでいる。
「分かっている。いや、分かっているつもりだった。まさか帝都に帰ってきてから、こんなに仕事が立て込むとは⋯⋯。誤算だった」
「陛下のお誘いを辞退するほどの誤算かね?」
「⋯⋯⋯⋯貴公はさぞ楽しかっただろうな」
「いやはや、私は元帥閣下のおかげで美味しい思いをさせてもらった。伽役を譲ってもらった礼はいつか返すとも」
多忙を極めるレオンハルトは休日返上で職務にあたっている。そのため、前々から約束していたベルゼフリートとのデートを直前でドタキャンしていた。
暇になったベルゼフリートは、宰相派や長老派のところに行きかねない。そこで、レオンハルトの代役となったのがヘルガだった。
「海底から持ち帰った大王イカの足先を陛下に食べさせたそうだな? 女官から苦情がきてたぞ。陛下に変なものを食べさせるなと⋯⋯」
「口に入れただけで、胃袋には入れておられない。ご存知ないかな? 大王イカは食用に適していないのだよ。干物にしても不味いものは不味い。しかし、エグ味こそあれど無害だ。危険は皆無。陛下の好奇心を抑圧するのは女官の悪い癖だ」
「女官総長、医務女官、庶務女官長が激怒していたとだけは伝えておくぞ」
恨み節を吐きたくなるレオンハルトだったが、仕事を滞らせているのは自分自身だ。まだ八つ当たりをするほど、追い詰められてはいない。
腹立たしいことにヘルガは、自分の抱えた職務を片付けている。仕事を増やすことに定評のある奇人であるが、仕事を処理する速度は異常に早かった。
ヘルガに業務の一部を肩代わりしてもらう。それも一つの選択肢であり、ヘルガからの申し出を受けていた。しかし、レオンハルトにはそれができない理由もあった。
「――というわけで、宮廷魔術師の開発局に特別予算をよろしく」
「どういうわけでそうなる!? 却下だ。却下! どうしてもやりたいことがあるならケーデンバウアー侯爵家の自費でやれ!」
「今年はうちも厳しいのだよ。観光税を上げなければならなくなった。旧帝都ヴィシュテルで起きた事件の風評被害も大きい。なにせ我が領地は最前線だったからね。観光客が西岸地域に奪われつつある」
富豪の貴族。印象論だけで語ると、まっさきに名が上がるのは、大財閥を率いるラヴァンドラ伯爵家、高級リゾート地の開発で成功しているグッセンハイム子爵領などである。しかし、それらは実態とはかけ離れている。
帝国貴族の資産や収入を比較したとき、飛び抜けているのはアレキサンダー公爵家やケーデンバウアー侯爵家のような軍門の名家。そして古くから続くナイトレイ公爵家など、大領地を所有する名門貴族ばかりだ。
大貴族の資産と収入は巨額である。しかし、私利私欲を満たすために富を蓄え続けている者は一人としていない。
アレキサンダー公爵家は国防産業を維持し続けていたし、ケーデンバウアー侯爵家は研究機関に資金を供給しなければならない。ナイトレイ公爵家は分家に委任した地方都市への資金を融通し、流通の要である主要な街道の整備を負担していた。
「さて、せっかく押しかけてきたのだ。ちょっとした雑談でもしよう」
「まさか貴公は暇なのか? 今の私がどういう状況か、口で説明しなくとも分かると思うが?」
「そんな顔をしないでいただきたい。仕事の話だとも。下僚とのコミュニケーションは大切にしたまえ。例の件がどうなっているか知りたくてね。気になって夜しか眠れていない」
「しっかり寝てるわけだな。で? 何の件だ? 抱えている仕事が多すぎて、何を指してるのかさっぱりだぞ」
「魔狩人が囲っている女、やはり話は進まなさそうかな?」
常日頃から鎧兜を装着しているヘルガの感情は見えにくい。けれど、声に込められた感情の推察はできる。
「あれは無理だろうな。身柄の引き渡しを拒否された。帝国軍の管理下に置きたいところだったが⋯⋯。引き続き交渉はしていく」
「それは残念だ。胎児のほうも無理かね?」
「現段階では人間の胎児と見做されている」
「人間⋯⋯ねぇ⋯⋯? 私は懐疑的に見ている」
「魔狩人は誓約上、人間を殺せない。帝国軍が引き取ったら殺処分すると思っている。産まれても渡さないだろう」
「実際、そのつもりではあったがねぇ⋯⋯。神喰いの魔物が残した遺児。ろくなものではない。それでも、神殿の御老人達が慎重姿勢を取るのは分かっていた。そのうえ、帝国宰相ウィルヘルミナが保留とは⋯⋯。当てがはずれてしまった。三頭会議で結論が出ない場合、軍部は動きにくくなる」
「ウィルヘルミナ宰相の内心は分からん。しかし、過去の事件が影響しているのかもしれんな。カティア神官長も表向きは魔狩人との対立を理由としていたが、殺すことのリスクも考えていたはずだ」
ナイトレイ公爵家はベルゼフリートの肉親を処刑している。族滅刑の判決を下したのは司法神官、帝国の法律に従って、刑を執行したのはナイトレイ公爵家だった。
「いずれにせよ、葬り去った大妖女レヴェチェリナよりも、神喰いの魔物ピュセル=プリステスが残していった置き土産のほうが私は恐ろしい」
ヘルガは警戒を怠らない。大妖女レヴェチェリナの陰謀も一歩間違えれば、メガラニカ帝国が滅んでいた。ベルゼフリートが殺されてしまったら、ありとあらゆるものが瓦解する。
「その点は同意だ。ベルゼフリート陛下に害を為す存在だと判明すれば、強硬手段を使ってでも抹殺する」
「影の一族を使っての暗殺は十分に可能と聞いた」
「それは確認を取った。毒が有効なら病死に見せかけて抹殺できるそうだ」
「帝国軍の特殊部隊を使ってもいい。もちろん、元帥閣下の許可がなければ、動きはしないがね」
「いいや、回りくどい手段は使わない。やると決めた際は、邪魔な魔狩人ごとでも殺す。我らが最優先すべきは皇帝陛下の安全。魔狩人と敵対することになろうと、迷う必要はない」
「ふむ。ああ、確かに⋯⋯。仰る通りだ。くっくくくく。元帥閣下は書類仕事よりも荒事の処理が向いておられる」
「はぁ⋯⋯。自分が一番分かってる。こういう細やかな仕事は苦手だ」
「旧帝都の復興計画が一段落すれば、少しは業量も落ち着くであろうさ。産みの苦しみだと思って踏ん張るほかあるまいよ」
「私は出産でここまで苦しんだ覚えはない」
「アマゾネス族の膣道がガバガバだからでは?」
「せめて安産型と言え」
「何にせよ、今は耐えて機が来るのを待つしかない」
「⋯⋯そろそろ帝都の冒険者組合が皇帝陛下と謁見する。そこで大きく動くだろう。愛妾セラフィーナの評価が変わるきっかけとなる」
「謁見の場所は帝都の冒険者組合なのだろう? 皇帝陛下は地上に降りたがっていると聞いた。警務女官だけでは護衛が心許ないのではないかね?」
「帝国軍で選抜した護衛戦力を伴わせる。場所も冒険者組合の事務所ではなく、ラヴァンドラ伯爵家の本邸にさせた」
「軍の施設が望ましかったが、宰相派に配慮かね?」
「宰相派のラヴァンドラ王妃は己の利潤に繋がるのなら、喜んで協力するだろう⋯⋯。問題はその後だ」
「今回、ベルゼフリート陛下のお立場は?」
「おそらく中立だ。三皇后の要請を受けて、セラフィーナに働きかけている。関係各所の橋渡し役だな。どこかの派閥に偏ることはまずあるまい」
「軍閥派に寄り添ってほしいが仕方あるまい。小賢しく口煩い女官達はどうかね?」
「女官総長ヴァネッサが静観を決め込み、財務女官どもはおとなしい。しかし、旧帝都アヴァタールの帝嶺宮城に残された財物管理は女官のテリトリーだ」
「歴代皇帝の宝物は、順当にベルゼフリート陛下の御物とするのが筋だ。揉めるのは所有者不明の遺産。死恐帝の死後、リバタリアの災禍で帝都を棄てる決断を強いられた。先代ケーデンバウアー侯爵の日記でも記されていたが、当時は想像を絶する大混乱だった。旧帝都に残された遺物は多い」
単なる金品だけであれば問題視はしない。ヘルガが懸念しているのは、旧帝都アヴァタールが魔物達の支配下にあったことだ。
大妖女レヴェチェリナや神喰いの羅刹姫が忌物を置き土産として潜ませているのではないか。その可能性を憂慮していた。
「冒険者は危険物の濾過装置になるだろう。冒険者組合は鑑定の有識者を抱えている。民間の人材を上手く利用したいものだ。⋯⋯民間に委託すれば、軍の仕事が減る。それは万々歳だ」
「帝国軍は東側を見張るので忙しい。元帥閣下、あれは相当にきな臭い。率直な意見を申し上げるなら、内政にまで人員を割きたくない」
「東側⋯⋯か⋯⋯。ヴィクトリカを担ぎ上げた東アルテナ王国は我らとの国力差を知っている。しばらくは動けぬだろう。警戒すべきは大敗を喫したバルカサロ王国。復讐の機会を虎視眈々と狙っているに違いない。中央諸国が教会勢力で大連立を目論んでいるとも噂されている」
宗教対立をレオンハルトは軽視できなかった。反帝国の枢軸は教会圏の国々である。教皇の教えは、皇帝崇拝を国是とするメガラニカ帝国と相容れない。
「挑まれれば応戦するほかなしだ。しかし、この時期に対外戦争は望んでいない。厄介なのは国内世論。我が国にも領土拡張を強弁する国粋主義者が跋扈している惨状だ。実に嘆かわしい」
ヘルガは床に落ちていた帝都新聞を拾い上げた。商会発行の民間新聞は、世相を如実に反映している。
「勝って終わり。それで片付くと思い込んでいると、破壊帝のような悲惨な結果に終わる。国民には自制を促していかねばな⋯⋯」
歴史上、戦争に負けて滅んだ国は数多くある。しかし、戦争に勝ってしまったせいで滅んだ国も存在する。負け戦にしろ、勝ち戦にしろ、重要なのは終戦の落とし所だ。
栄大帝と大宰相ガルネットの偉業は、大陸全土の侵略ではなく、平定を成し遂げたことだ。約一千年の期間、アガンタ大陸の治世は揺るがなかった。
メガラニカ帝国の国力は増しているが、黄金時代に比べれば衰退は著しい。
◆ ◆ ◆
「あっ♥︎ くぅゅうぅっ⋯⋯♥︎」
ロリ巨乳の美少女は、四つ這いの姿勢で喘いだ。尻を後ろに突き出し、背中を弓なりに反らす。
「あぅ♥︎」
ラヴァンドラが連れてきた五人の側女は、順番に処女を捧げていった。最後の一人は小人族の巨乳美女。彼女の背丈はベルゼフリートよりも低かった。
小柄な体躯に実った大きな乳房が揺れる。未開発の膣穴は、ベルゼフリートの巨根を半分ほどしか受け入れていない。だが、亀頭は子宮口に接着していた。肉茎が蠕動する。放精の予兆を感じ取ったロリ巨乳の側女は、身を震わせた。
「あぁっ⋯⋯♥︎ おぉ⋯⋯♥︎ あぁんっ⋯⋯!!」
仕える王妃と同僚の側女達が見守ってくれている。
「じゃあ、中に出すよ」
「は、はいっ♥︎ あっ、ありがとうございますぅっ♥︎ 陛下っ♥︎ あぁっ♥︎ んぁああぁぁっーー♥︎」
処女膜を失ったばかりのオマンコに皇胤が注がれた。幼き皇帝は初体験の生娘にセックスの悦楽を教える。これでラヴァンドラが連れてきた五人の側女全員が御手付きとなった。
ベルゼフリートが側女にまで伽役を求めたのは、扱いを公平にするためだった。
(セラフィーナが連れてきたロレンシアを抱くなら、ラヴァンドラの側女も可愛がってあげなきゃね。これで全員分が完了だ)
呼吸を荒げる側女からオチンポを引き抜いた。貫通した膣道から逆流した精液が流れ落ちる。
「ふぅ。はぁ~。休憩、休憩~!」
ふらふらと立ち上がったベルゼフリートは、女官が用意してくれたベッドに横たわる。左右にラヴァンドラとセラフィーナを抱えて、水着越しに乳房を揉んだ。
「プールに来たのはいいけどさ。実は水着を見たかっただけで、泳ぐつもりはあんまりないんだよね。そもそも、ここのプールは底が深くて、僕じゃ足が付かないし⋯⋯。まあ、あと数年もすれば僕もぐーんと背が伸びるはず」
ベルゼフリートは自分の身長を気にしているが、まったく伸びる気配はない。
「ちょっとだけ⋯⋯。寝ちゃおうかなぁ。すぐ起きるから⋯⋯。ふふあぁぁ~~」
幼帝の異名と終生の付き合いになるとは、まだ思っていなかった。
「あらあら。寝てしまわれましたわ」
ベルゼフリートはすやすやと寝息を立て始めた。セラフィーナは寒くないように爆乳を密着させる。ラヴァンドラも寄り添って体温でベルゼフリートを暖める。
「溜まっていた性衝動を発散し、御心が満足されたのでしょう」
ラヴァンドラはベルゼフリートを愛しむ。眠りを妨げぬように頬を優しく撫でた。
「⋯⋯⋯⋯」
そして、セラフィーナの乳輪からに染み溢れる母乳を注視する。
「ラヴァンドラ妃殿下? なにか?」
「母になる⋯⋯というのは、どういうお気持ちですか?」
「陛下の御子を産むのは至高の悦楽♥︎ きっとラヴァンドラ妃殿下が初産を終えられたら、きっと、間違いなく、私の気持ちに共感してくださりますわ♥︎ あの経験は⋯⋯♥︎ そう⋯⋯♥︎ とても言葉では表現しきれませんわ♥︎ 白月王城の王座で三つ子を産んだ瞬間、全身を突き抜けた言い知れぬ多幸感⋯⋯♥︎」
退屈で恵まれた人生が破壊し尽くされ、愛欲で塗り潰された瞬間。胎に植え付けられた子種が芽吹いた記念日を反芻する。
「お胎の子が産まれるのを愉しみにしていますわ。安産だといいのだけど⋯⋯♥︎」
ラヴァンドラはベルゼフリートを抱きしめる。いつかは正妻の立場で傍らに立ちたい。たとえ何十年、何百年かかろうとも帝国宰相の座に挑み続ける覚悟だった。
ラヴァンドラ伯爵家の野心は切っ掛けにすぎない。心の奥底に秘めた欲求は単純明快。愛する異性を独占したい。三皇后の一角である帝国宰相の地位に登り詰めれば、正妻の特権が与えられる。