2024年 12月5日 木曜日

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【11話】母から愛する息子への手紙

NOVEL勇者母の魔物堕ち【11話】母から愛する息子への手紙

 ——愛する息子エニスクへ。

 元気にしていますか? お母さんです。

 こうして手紙を送れる日が来るとは、想像してもいませんでした。

 私はちゃんと生きています。攫われてからの4年間、ずっと魔王城に囚われていました。

 エニスクが勇者として戦場で活躍していることは、耳にしています。母として息子の武勇が誇らしく思う一方で、その身を案じてもいました。

 私達の故郷を襲撃した馬頭鬼族の大君主アスバシールが討たれたように、いつかエニスクも魔族の誰かに復讐されてしまうのではないか⋯⋯。

 私はずっと恐れていたのです。

 人類と魔族は19年にも及ぶ戦争で、双方が深く傷つきました。

 今回の停戦は事実上の終戦を意味すると聞いています。

 魔族との停戦⋯⋯。エニスクは反対なのですか? 魔族の宰相が教えてくれました。だから、私は貴方に手紙を送ろうと思ったのです。

 エニスク⋯⋯。貴方の気持ちは、お母さんもよく分かっています。大切な家族を殺された恨みは簡単に拭えず、洗い流せるものではありません。

 ずっと戦場で魔族と戦い続けたエニスクは、きっと私なんかよりも分かっているとは思います。だけど、私は捕虜となった4年間、魔族と暮らしを知って、気付いたことがあるのです。

 私は酷い扱いを受けていません。

 魔王城には魔族の長達の暮らす御屋敷がたくさんあります。私が暮らしているのは馬頭鬼族の大屋敷です。

 私の身柄を引き受けたのは、馬頭鬼族の族長を継いだオロバスという若い馬頭の魔族です。

 彼の父親はエニスクが殺した馬頭鬼の大君主アスバシール。遺児であるオロバス君は今年で19歳。

 4年前、最初に出会ったときは14歳。エニスクと同い年の少年でした。

 子供が父親を失う辛さ。エニスクは知っているはずですね。私がオロバス君と初めて出会ったとき、彼は父親の戦死を知ったのです。

 私が魔族に対する偏見を捨てたのは、そのときだったかもしれません。

 泣くまいと目を潤ませる幼い子供は、魔族と人間で違いはありませんでした。

 馬頭鬼族の方々は、私を戦利品として扱っています。前族長のアスバシールが身命を賭して得た戦果であること。

 また、私が勇者の実母である事情もあり、他の捕虜に比べれば、良い待遇で生活していました。

 餓えや寒さに苦しんだことはありません。用意してくれた服は薄着が多くて、ちょっと肌寒かったりもしますけどね。

 それと、食事は人間のものと違うため、最初は美味しく食べられませんでした。けれど、4年も経つと順応するみたいです。

 魔王軍の捕虜となった人間は、一部を除いてほとんどが辺境の強制収容所に送られています。魔界の環境は厳しく、命を落とす方もいるそうです。

 自由を認められた状態で、魔王城で暮らしているのは私くらいかもしれません。

 馬頭鬼族が庇護者となってくれたため、他の魔族は私に手出しできないのです。

 捕虜の身分ではありますが、私にも仕事があります。

 私は子守りの仕事を与えられ、赤ちゃんの世話をしています。もちろん、人間のではなく馬頭鬼の乳飲み子です。

 おぞましいと思いましたか? でも、お母さんは牧場の娘です。お世話は得意です。

 今や人類の英雄となった勇者エニスクを育てたのだって私なのだから、子育ては得意だと自慢してもいいですよね?

 今、魔界は魔王生誕祭の真っ最中です。連日連夜のお祭り騒ぎ。

 赤ん坊のお世話をする子守りが少ないので、手紙を書いている私の傍らに、生後間もない赤ちゃんが8人います。

 赤ちゃんの父親は若くして馬頭鬼の族長となったオロバス君。驚いちゃいますよね。だって、エニスクと同じ歳なのに、もう子どもがいるんですよ。

 母親は身分の低いお妾さんなので、この子達は正式な世継ぎではないそうです。

 オロバス君は頭から生えた角をいれても、背丈は私より低い少年です。魔族の成年は100歳だとか。子作りの訓練をお妾さんと始めているんですって⋯⋯。

 私があやしている8人の乳飲み子は、毛並みが真紅です。父系の容姿が色濃く受け継いでいると、お妾さんが喜んでいました。

 お妾さんの獣毛は漆黒で、産まれた子供も黒毛が多かったのだけど、今回は珍しく8人とも赤毛でした。私は黒毛の子供も可愛いと思いますけどね。

 出産にも立ち会いました。赤毛だったので、オロバス君の機嫌は良かった気がします。八つ子を産んだお妾さんは、ちょっと疲れ気味でした。

 馬頭鬼族の子作りは多胎が普通のようです。黒毛のお妾さんは2年前の冬、16人の赤ちゃんを産んでいました。

 お腹が重たすぎて、階段を上がることができず、苦労していらしたのをよく覚えています。陣痛が始まってから、お腹の子が出てくるまで二晩もかかったそうです。

 全ての赤ちゃんの面倒を私が見ているわけじゃありません。虜囚の私がしているのは、ちょっとしたお手伝いだけです。でも、任された仕事です。

 絶対に手を抜いたりはしません。

 赤ちゃんの布オムツを取り替えていると、小さかった頃のエニスクを思い出します。

 周りの方達も私を認めてくれるようになりました。

 話は変わりますが、デラーシュ家の双子姉妹とはその後どうですか? 私のいなかった4年間で進展は?

 お父さんはエニスクが、姉のリリーシャちゃんに惚れ込んでいると決めつけていました。ですけど、私は妹のナナリーちゃんだと思ってます。

 問いただしてもエニスクはずっと顔を赤らめて、しどろもどろしていましたね。お付き合いをするなら、不純なことはしてはいけませんよ?

 もしものことがあったら、私はデラーシュ家の奥様に顔向けができません。

 エニスクがリリーシャちゃんとナナリーちゃんを連れて、家出同然で冒険に出かけたとき、私とお父さんがデラーシュ家の夫妻にどれだけ謝ったか⋯⋯。

 ああいうことは二度とさせないでくださいね。

 次は手紙ではなく、直接会って話しましょう。エニスクと再会できる日を楽しみにしています。そして、殺されてしまったお父さんのお墓参りがしたいです。

 お父さんだけではなく、巻き添えで犠牲になった衛兵のカインさん。私を守るために派遣されたロタール将軍⋯⋯。

 亡くなられた方々に、私は謝らないといけません。

 この戦争が終わり、人間と魔族が争わない、平和な時代が訪れることを祈ります。子供達が戦場に行くことを私は望んでいません。

 ——体に気をつけてね。心配性のお母さんより。

 ◇ ◇ ◇

 母親からの手紙を読んだ息子は、呆れと嬉しさの混じった溜息を吐いた。そして後頭部を掻く。

「間違いなく母さんからの手紙だよ。意外と図太いところがあるから⋯⋯。魔王城で何やってんだよ」

 この手紙を最初に調べたのは、王国軍の参謀本部だった。

 羊皮紙に付着した染みが、牛乳に類似した成分だったため、隠されたメッセージがあるのではないかと疑ったのだ。

 無色の液体で文字を書き記し、火で加熱するなどの〈炙り出し〉をすることで、秘密の文章が浮かび上がる。参謀本部の情報官はそう確信した。

 その話を聞いたエニスクは即座に否定し、「たぶん、飲み物をこぼしたとか、そういう理由です。母さんにそんな知識はありませんよ」と断言した。

 むしろ細工がしてあるのなら、母親が書いた手紙ではない。

 エニスクの考えは正しかった。いくら調べても隠された文章などなく、牛乳のような液体が飛沫状に飛び散っているだけだった。

 ただし、付着していた染みの成分を解析した神官は、飲み物ではないと指摘する。

 少なくとも人間には猛毒だという。

 人間界には存在しない毒素。特に魔族の血中で採取される未知の害毒が含まれていた。

 結局、牛乳に類似する魔界生物の体液、あるいは紙虫対策の防虫用液と推定された。

「たくっ⋯⋯。俺が必死で戦ってる最中、母さんは馬頭鬼のベビーシッターかよ。敵に情が湧いてそうだな⋯⋯こりゃ⋯⋯。てか、すごい染みだ。どんだけこぼしたんだ⋯⋯?」

 手紙に記された文字は、間違いなく母親の筆跡だった。そもそも書かれている内容がルミターニャの人格を顕していた。魔族が捏造できる代物ではない。

(あれ⋯⋯? この染み? 牛乳なのか? この匂い⋯⋯どこかで⋯⋯? でも、どこでだ? すごい昔に嗅いだ記憶が⋯⋯)

 羊皮紙から香ってくる懐かしい匂い。

 何かを思い出しかけたそのとき、勇者エニスクは美少女二人に両脇を掴まれる。

「良かったですね。勇者様、それでどっちですか?」

「うん。どっちなのかな? 勇者様?」

 デラーシュ家の双子姉妹、リリーシャとナナリーはエニスクを問いただす。

「⋯⋯えっと、いきなり何? 何なんだよ⋯⋯? 尋問?」

「分かっているくせによく言いますね。勇者様。決まってるでしょう? ルミターニャおば様が手紙に書かれていましたよ。ここです。目を背けない」

「そうそう! いつかはちゃんと選ばないとね。私とお姉ちゃん。どっちなのかな〜? どっち? どっちが好み?」

「うぅ⋯⋯。大斧の馬頭鬼にやられた古傷が痛んできた。ちょっと教会で湿布をもらってくる⋯⋯!」

 顔を真っ赤に染めた勇者エニスクは、絡み付いてくる双子姉妹を振りほどき、この場からの逃走を試みた。

「教会に逃げ込むなら、コンドームもお願いしますね」

「うんうん。昨晩ので品切れ。それとも今晩からは避妊せずにやってみる? ルミターニャおば様が帰ってくるときに孫が出来たって報告しちゃう? 私とお姉ちゃんで♡」

「あらあら、ナナリーちゃんは恐れ知らずね。城下街の若い娘は勇者様にメロメロなのよ? ただでさえヘイトを集めてる私達が、もっと叩かれちゃう」

「城下街のじゃじゃ馬娘達なんて怖くない。あぁ、でも〜、お姉ちゃん! あの行き遅れのお姫様はちょっと怖いかも? あの人、絶対にエニスクのこと狙ってアプローチしてるもん。刺してきそう。くすくす」

「人生賭けてるみたいですものね。行き遅れた大人の女って怖いわぁ」

「おいおい⋯⋯。ここ王城なんだぞ。たくっ。性悪姉妹め⋯⋯。いつか不敬罪で捕まるぞ⋯⋯」

 双子の姉妹というよりは、双子の子悪魔だった。リリーシャとナナリーは声を揃えて、甘酸っぱい口調で言う。

「『その時は無辜の罪で囚われた私達を牢獄から助け出してね♡、愛しの勇者さまぁ〜ん♡』」

「⋯⋯⋯⋯冗談になってない。人前では絶対にやめてくれよ」

「あらら〜? お姫様の真似だって気付いたのですね?」

「私たち、上手でしょ。お姫様の発情声。エニスクと話すときのお姫様って完全に声を作ってるよね。この前の晩餐会、エニスクも引きつった苦笑いしてたの、私達知ってるんだからね?」

「⋯⋯それはノーコメント」

「顔に出ていますわよ」

「ねー。もうちょっと嘘が上手になってほしいかな。イケメンなんだから、言い寄ってくる女の子を泣かせてみたら?」

「俺は女を泣かせない。⋯⋯いつも女に泣かされてきた男だ。ようするにお前らに」

 エニスクは昔からデラーシュ家の双子姉妹に頭が上がらない。

 周りからはエニスクが双子姉妹を連れ回している。そう誤解されてきたが、まったくの逆だった。

 そもそも家出同然で故郷を飛び出したのも、全ては腹黒な姉妹が仕組んだことだ。勇者エニスクをプロデュースしたのは、リリーシャとナナリーだった。

「コンドーム、忘れないでくださいね〜」

「責任とって、認知してくれるなら、生でもいいよ。今日は危険日だけど〜」

「あら? ナナリーちゃんも? 実は私も危険日♡」

「コンドームは絶対に、何があろうとも、買ってくるから安心しろ。腹黒姉妹」

 きっとこの3人の関係は未来永劫、変わることがない。廊下に出たエニスクは大きな溜息をつく。

「教会じゃ売ってねえだろうだなぁ⋯⋯。変装して城下の繁華街まで行くか。⋯⋯って俺、戦争の英雄なのに⋯⋯どうしてコンドームを隠れて買わなきゃいけないんだよ⋯⋯」

 魔族との戦争は終わる。これを機にと、王家はエニスクの婿入りを画策していた。

 それを邪魔して楽しんでいる腹黒姉妹のせいで、いつもエニスクの胃がキリキリと痛む。

「お姫様の件だけじゃないな。母さんが帰ってきたら、3角関係になってるのは、俺のせいだって怒られそうだ。リリーシャとナナリー。絶対に猫被るだろうしな⋯⋯」

 勇者エニスクは魔王軍の大軍勢に突撃したとき以上の顔付きで意を決する。

「覚悟を決めとくか。すまない。母さん⋯⋯。俺に選択肢なんて無かったんだよ。てか、リリーシャとナナリーからは逃げられないだろうな⋯⋯永遠に⋯⋯。⋯⋯悪い気はしないけどさ」

 真実を知らざることは幸福だ。

 ルミターニャが隠してきた秘密が暴露されてしまったら、全ての人間関係が破綻していたに違いない。

 何も知らないから、リリーシャとナナリーは奔放に振る舞える。

 もし姉妹の父親であるカインがルミターニャに恋慕し、強引に肉体関係を結んでいたと知ったら、今の関係はありえなかった。

 リリーシャとナナリーは、大人しく身を引いていたはずだ。

 さらに言うなら王家との関係もそうだ。勇者の血脈を増やすため、傷痍軍人のロタール将軍とルミターニャの子作りを裏で2年間も進めていた。

 ロタールは王家の傍系で、エニスクに剣を教えた師匠の一人。当時は幼いエニスクではなく、母親のルミターニャを王家に取り込もうとしていた。

 そんな裏事情を露程も知らぬエニスクは、師匠が母の専属護衛につき、故郷の村に赴任したと知ったとき、心の底から安堵した。

 剣の師であるロタール将軍を信頼していたのだ。

 けれど、エニスクが考えているほど世界は清らかなはずもなかった。むしろ穢れきった大人達に比べれば、腹黒と恐れるリリーシャとナナリーは、年相応に清らかな乙女なのだ。

 聡い双子姉妹は王家の意図には勘付いていた。エニスクを譲りはしない。だが、エニスクが王女との間に子を作るのは仕方ないと受け入れていた。

 ——しかし、それは子供の浅知恵。

 老獪な王家は手段を選ばない。

 勇者の血を取り込むため、最初に狙ったのは母親のルミターニャだ。

 アスバシール率いる魔王軍の襲撃がなければ、ルミターニャはロタール将軍の子を夫の子だと偽って産み落としていた。

 夫に隠れて2年の不倫妊活をしていたのだ。もし上手く出産までこぎ着けていれば、確実に2人目も孕まされ、さらに3人目も産まされていたに違いない。

 王家は勇者の血統であるヴァリエンテ家を取り込むため、悪辣な手段を講じてきた。

 たとえ醜聞が明らかとなっても、強引に離婚を迫り、ルミターニャとロタールを再婚させ、孕めなくなるまで子作りを強いる。そんな未来もありえた。

 ルミターニャは数奇な運命を辿っている。肉体関係をもった3人の男達は全員が死んだ。そして、ルミターニャを孕ませ、子を産ませる権利を得たのは、馬頭鬼の幼き君主オロバスである。

 エニスクに深手を負わせた馬頭鬼族の戦士隊。その正体はルミターニャが産んだ異父弟である。

 真実を知らぬ者は幸せだ。誰にとっても真実は都合が悪い。

 だから、ルミターニャは虚実を織り交ぜた嘘の手紙を愛息に送り付けた。

 ◇ ◇ ◇

 魔王城の郭内、馬頭鬼族が暮らす大屋敷。普段は空室となっている本邸の育児室に灯りが点いていた。

 庭園では今日も盛大な祝宴が催されている。

 昨日よりも羽目を外している者が多かった。

 食と酒を存分に味わう者。戦場から帰ってきた戦士の武勇伝を聞く者。そして、獣魔の女中に誘われてセックスに耽る者。

 宴の楽しみ方は各人の自由だ。

 宴の歓声を聞きながら、ルミターニャは羊皮紙への清書を終える。

「——体に気をつけて。心配性の母より」

 約4年間、顔を会わせていない息子エニスクに宛てた手紙。記した内容は真実が2割、粉飾が2割、嘘が6割だった。

「あら⋯⋯? もうお腹が空きました? ダメです。ちゃんと順番を守りましょうね。まずはお兄ちゃん達から♡」

 腹を痛めて産んだ我が子への授乳を開始する。最初に産まれた兄2匹を抱きかかえ、爆乳の先端を押し付けた。

 馬頭鬼の乳飲み子2匹は、茶色に変色した母の乳首にかぶりつく。乳腺から湧き出す甘いミルクをガブ飲みする。

「旺盛な食欲⋯⋯♡ ママのオッパイは美味しい?」

 ルミターニャは母親として、血の繋がった我が子を抱擁する。

 惜しみない愛情を注ぐ。エニスクを授かり、育てたときと同じように、馬頭鬼の混血児を慈しむ。

 オロバスは赤毛の子を8匹産んだルミターニャに褒美を与えた。魔王誕生祭という祝いの記念日であったから、普段よりも寛大だった。

 ルミターニャが望んだ褒美は、産まれたばかりの我が子達に愛を注ぐこと。

 普段はすぐ養育係に我が子を引き渡してしまう。だが、今回は特別に許しを得た。

 魔王誕生祭で産まれた8匹の兄弟は、ルミターニャが育てている。

「ふふふ⋯⋯♡ オッパイの飲み方がオロバス様にそっくり。お腹の中でパパのやり方を見ていたのかしら? あぁ⋯⋯本当に♡ 可愛い私の赤ちゃん⋯⋯♡」

 雄の馬頭鬼は、顔が馬とほぼ同じだ。腹を痛めて産んだ乳飲み子は、たとえ異形の血を引き、人の姿をしておらずとも愛らしい。

 ルミターニャは化け物達の母親なのだ。

「オロバス様と同じ赤毛の赤ちゃんたち⋯⋯。たとえ道徳に背き、人の道を踏み外しているとしても、ママはちゃんと愛してあげます。私の愛しい息子達⋯⋯♡」

 順々に乳房を押し付け、栄養タップリの生乳を飲ませる。

 八つ子の胃袋は母乳汁で満たされた。布オムツを新品に取り替えて、揺り籠式のベビーベッドに寝かしつける。

 子育てが一段落し、机に広げたままの羊皮紙を丸め込む。ちょうどよく黒インクが乾いていた。

「あっ! あんぅゅ⋯⋯♡」

 右乳房に装着していた母乳止めピアスが外れる。授乳を済ませた後、上手く付け直せていなかったようだ。

 慌てて羊皮紙を遠ざける。しかし、噴き出た母乳の飛沫がかかってしまった。

「あぁん♡ もぅ、あら⋯⋯。私としたことが、うっかり手紙を汚してしまいました。これくらいなら大丈夫かしら? また書き直しは⋯⋯困ってしまいます⋯⋯」

 かつて勇者エニスクを育てた聖母の母乳は、人外の体液との分析結果が出るほどに、穢れきっていた。

 御産を終えても胎は膨張したままだ。兄弟8匹分の重みがなくなったので動きやすくはなった。

 胎盤や臍帯は、料理人が持っていった。馬頭鬼族は胎盤をご馳走として扱っており、こうした祝宴で食べしまう。

 ルミターニャには理解できない文化だった。なにせ死産した場合でも料理にされてしまうのだ。

(この世に降り立てなかった赤子を父親の血肉に戻し、次こそは元気に産まれてくるのを願っている。そう聞くけれど……)

 幸いにもルミターニャはオロバスとの子供を一度も死産させていない。死産の経験はロタールとの子供を堕胎させられたときだけだった。

(ロタールさんとの赤ちゃんは⋯⋯。夫に隠れて、納屋で何度も抱かれて……授かった不義の赤子。夫のことを思えば、絶対に産まれてきてはいけない子でした……。でも、本当はちゃんと産んであげたかった……。だって、子どもには何の罪もないのだから⋯⋯)

 死体はオロバスが骨まで食べてしまった。骨の一欠片だけ、ルミターニャは保管している。

 食べられた赤子の魂は、オロバスの血肉に宿り、子胤へと転じて、ルミターニャの胎に再び宿ったのだろうか。そうルミターニャは考えてしまう。

「——母様? 母様っ! 庭まで降りてきてくださいませ! オロバス様がお呼びですよ?」

 寝息を立て始めた赤子達をルミターニャは静かに見守っていた。そんな最中、女中に呼びかけられ、はっと我に返った。

「あ……! え、ええ。分かりました。今すぐに行きます」

「母様、お急ぎください。弟たちの世話は私にお任せを」

 ルミターニャを母様と呼び、赤子達の姉を名乗る黒毛の女中。母親譲りは体毛の色だけでなく、胸部に実った大きな乳房もそうだった。

 媚肉の蕾みは、あと数年で開花し、雄を魅了することだろう。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 宴の会場となっている庭園に呼びつけられたルミターニャは、出産を無事に遂げたと列席者に報告した。

 ガバガバの膣口を露出させ、出産を終えたばかりの子宮をさらけ出した。

 もはや恥辱とは思わない。性奉仕婦として当然の振る舞いをしているからだ。

 最後にオロバスの巨根を爆乳で包み込み、パイズリ性奉仕で射精させた。

 その頃合いになると、オロバスはもう就寝の時間となっていた。

 目蓋を眠たげに何度も下ろす仕草を見せたので、副官のビアンキが合図を送る。

 それを受けてルミターニャは自らが誘う形で、オロバスに退席を勧める。

「……うん。眠い」

「主寝室に戻りましょう。オロバス様」

「うん……」

 オロバスはルミターニャに付き添われて主寝室に戻った。服を脱ぎ捨て、そのままベッドに倒れ込み、眠ってしまった。

 ルミターニャも踊り子のドレスを脱衣し、一糸まとわぬ裸体で添い寝する。淫母の肉欲と幼君への母性愛、それぞれが半々に混じった複雑怪奇な感情を抱いていた。

 疲れて眠っている主人を起こすわけにはいかない。

 ルミターニャはオロバスの寝顔をオカズに自慰オナニーを始める。

「あぁ⋯⋯♡ ⋯⋯ん…⋯っ♡ あぁ⋯⋯っ♡ あんふぅ⋯⋯♡」

 指先で陰唇、膣口、陰核を弄くり回し、幾度も肢体をくねらせる。「くぢゅぅっ⋯⋯! くちゅぅう、くぢゅるゅるゅうッ⋯⋯!」と淫らな水音がなる。

(イく⋯⋯っ! オナニーでいっちゃうぅぅう⋯⋯!! 本当はセックスしたいっ♡ オロバス様のオチンポ♡ ほしいぃ♡)

 激しく犯される自分を妄想し、ルミターニャは淫夢の世界へと堕ちていった。


ノクターンノベルズ連載

https://novel18.syosetu.com/n2383hu//


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