ルテオン聖教国の仲介で、メガラニカ帝国とバルカサロ王国の和議は結ばれた。
アルテナ王国の東西分割統治。東西を分断する境界線であるグウィストン川は非武装中立地帯に設定された。
メガラニカ帝国はアルテナ王国領土の約三割を手放す結果となったが、ガイゼフが率いた王国軍八万人の武装解除および帰国をバルカサロ王国に承諾させた。
さらに、女王セラフィーナの新夫となった皇帝ベルゼフリートはアルテナ王国の共同君主に即位した。
事実上、アルテナ王国の西側はメガラニカ帝国に飲み込まれた。
皇帝の愛妾となった女王は三つ子を孕み、出産が間近に迫り、生まれ育った白月王城で出産に臨もうとしていた。
三人の赤児は、メガラニカ帝室とアルテナ王室の血統を受け継いでいる。長子と次子はアルテナ王家の新たな王統の開祖となる。末子は取引に基づき、ラヴァンドラ商会に引き取られ、メガラニカ帝国で育てられる予定だ。
バルカサロ王国とルテオン聖教国は、セラフィーナとベルゼフリートの略奪婚を追認した。交換条件はヴィクトリカ王女の身柄引き渡しであった。
ガイゼフは苦悩の末、セラフィーナとの離婚を認めた。
愛する娘ヴィクトリカを救うため、苦渋の決断を下した。
調印式は白月王城の貴賓館で執り行われる。外交上の手続きは完了し、アルテナ王国の両君主が署名した瞬間に有効となる。
アルテナ王国の国王夫婦――ベルゼフリートとセラフィーナ。各国の外交使節団は主役の到着を待っていた。
◇ ◇ ◇
季節外れの時期に咲き乱れる黄銀桜。
冬風が通り抜けてゆく、貴賓館の庭園にルテオン聖教国の外交使節団がいた。使節団の一人が花弁を摘み取った。
「狂い咲きですね⋯⋯。黄銀桜の開花時期は夏。真冬に開花する植物ではありません」
真冬での開花は凶事と吉事、どちらとも解釈できる。なんにせよ、異常な出来事だ。
「もしや教皇猊下の仰っていた予兆でしょうか?」
「ええ。おそらく。一千年以上昔の伝承にも残っています。栄大帝の時代、アガンタ大陸から冬が消えたと⋯⋯」
「つまり?」
「アルテナ王国の西側は皇帝の支配下に入った。そういうことだと思います」
「はぁ。予想はしていましたが、一国の犠牲で食い止めたいものです」
頭上に光輪を浮かべた天使達。
純白の両翼を折り畳み、寒風から身を守っている。
ルテオン聖教国が派遣した外交使節団は、教皇直属の天使達だった。
教会の頂点に立つ教皇から託された指令は、皇帝ベルゼフリートと三皇后の本質を見定めること。
「今回の三皇后⋯⋯。貴方はどう思います?」
「帝国元帥レオンハルト・アレキサンダー。彼女は教皇軍の手は負えませんね。祖父母は相当な実力者だった聞いています。教皇軍の精鋭を動かしたとして、討ち取れるかどうか⋯⋯」
「武人なら搦め手が使えます。むしろ警戒すべきは神官達です。道を誤った神族がいるのですよ」
「聖婚の大神、伝録の女神、⋯⋯あとは鎮守の武神。我らの耳に届いていないだけで、他の天神や魔神がいるでしょうね。メガラニカ帝国にいる天使や悪魔の数は多い」
「それ以上に恐ろしいのは大神殿の神官長です。ハイエルフのカティアは筆舌に尽くし難い傑物でしょう。史実通りの人物なら戦歴が桁違いです。しかも、父親と母親はおそらくあの――」
天使は言い淀む。カティアの名が歴史に現われたのは、大陸全土を破壊帝が荒らし回った混沌の時代。黒金の勇者が救い出した姉妹。その片割れである可能性が高かった。
結局、天使はカティアの両親と推測される男女の名をあげなかった。
「――ですが、帝国を牽引しているのは帝国宰相ウィルヘルミナと聞いています」
「あのサキュバスですか? 皇帝のお気に入りというだけでは?」
「実績と家柄ある皇后二人を押し退ける実力者です。贔屓で得られる地位とは思いません。大宰相ガルネットの再来かもしれない」
「買いかぶりです。あれほどの超人は不世出。ガルネットほどの才気はないと思いたいですね。そうでなければ、我々に勝ち目がなくなってしまいます」
「我々の封じ込め政策⋯⋯成功するでしょうか?」
「やけに弱気ですね」
「メガラニカ帝国の増長は止まらない。数百年かけて軍備を整えれば、帝国全土の支配を目論む。そうなったとき我々が対抗する手段は⋯⋯」
「まだ時間はありますよ。グウィストン川に防衛線を築き、中央諸国の団結を呼びかけるのです」
「東アルテナ王国が防波堤の役割を果たすのですね」
「ええ。バルカサロ王国は自国領を戦場にしたくないのでしょう。聖教国の要請を聞き入れず、性急に帝国と和議を結ぼうとしていました。足並みを揃えねば突き崩されます。だからこそ、緩衝地帯は必要です。ヴィクトリカ王女⋯⋯いえ、真なるアルテナ王国の女王には頑張ってもらわねば」
「⋯⋯娘が相争うのは実母。酷な話ではありませんか? 煽る我々が言える立場ではありませんけれど」
「そうなるように仕向けたのは、祖国を売り渡したセラフィーナ女王ですよ。アルテナ王家の責任です。おそらく帝国の支配を拒む者は多いでしょう。保護を求めて東へ逃れる民は多いと見ています」
「どうでしょうか⋯⋯。私は不安です」
「私が楽観的だと?」
「帝国の羽振りは良さそうに見えます。帝都アヴァタールに入り込んだ商人の情報によれば、帝都アヴァタールの発展具合は目を見張るものがあるそうですよ」
「商人? ああ、つまり、情報元は例の老婆なのですね?」
「ええ。アルテナ王国の上級女官リンジーにつないでもらった老女の商人です。ヴィクトリカ王女を一時的に保護したのはその商人だと聞きます」
「そのとき、王女の身柄を教会に託してくれれば、辱めは受けなかったでしょうに。単身で帝国に潜入するなど無謀でした。当人の意思を尊重したのでしょうが⋯⋯」
「仕方ないでしょう。そもそもバルカサロ王国が早まった真似をしたからです。ヴィクトリカ王女は殺されるところでした。メガラニカ帝国とバルカサロ王国、双方の刺客から逃げ延びたのはまさしく奇跡。創造主様の御業でしょう」
「ともかく正確な情報が必要です。帝都に送り込んだ商人は大事に扱っていくべきでしょう。不正確な情報に惑わされぬためにも」
「過信は禁物ですけれどね。金次第でどちらの味方にもなるのが商人です。奴らはがめつく、信心がない。帝国の内情を探るならば、いっそのこと⋯⋯おや? 詰まらない話をしている間に、主役のご登場ですよ」
「卑しき姦通夫妻のお出ましですか。⋯⋯アルテナ王国の人々を哀れんでしまいます。なんと品のない⋯⋯。目の毒ですね」
「教皇猊下のお言葉を忘れたのですか? 影口や皮肉を言うために来たわけではありませんよ」
「分かっています。教皇猊下の指令ですからね。ベルゼフリート・メガラニカの本質を見定めましょう」
天使達は礼服姿の少年に視線を向ける。
灰色髪の幼い子供。矮躯に封じられた破壊者ルティヤの絶大な力。高位種族の天使は、空気に溶け込む濃厚な生命力の奔流を感じた。
「言い伝え通り、大陸を滅ぼしうる絶大な力。神格を持つ大神すら、あれに比べれば石ころ程度でしょう。納得の化物です。正しく力を使えば安寧の大帝と呼ばれるわけですね。しかし⋯⋯あの少年は⋯⋯」
「ええ、私も同感です。強い邪念が宿った眼をしている。道を誤らせる蛇の瞳です」
「他人の妻を寝取った少年皇帝です。命じたのが皇后であれ、魂の本質は悪に違いないでしょう。邪悪な存在⋯⋯。必ずしも禍を成すとは限りませんが⋯⋯。しかし、何という艶気⋯⋯。おぞましい。魔性の生き物です」
「女を発情させ、酔わせる淫悶の気。天使の我々さえ穢そうとまとわりつく⋯⋯。常人の魂では容易く飲み込まれ、堕落するでしょう。なるほど、なるほど⋯⋯」
天使達は淫女に貶められたセラフィーナとロレンシアを哀れんだ。
純白の花嫁衣装に身を包んだ淫靡な妊婦二人。
皇胤で孕んだ美事なデカ胎を衆目に見せびらかす。陰核の包皮に付けられた祝婚のピアスが光を反射する。
「――はぁ♥︎ あぁっん♥︎」
黄金髪の女王は背後に回された手で尻を揉まれている。
愛妾セラフィーナは頬を染め、幼少の夫に甘えていた。男を知った淫母の貌だった。前夫との間に産んだ息子と娘よりも年下の少年にすっかり心を奪われている。
「――んふぅ♥︎ あぁっ♥︎ んゥ♥︎」
もう一人の妊婦、赤髪の元女騎士は母乳を撒き散らした。伸ばした後ろ髪を一束にまとめ、若娘らしいポニーテールの髪型。化粧は帝国流、花模様の簪で長い髪を彩っている。
白月王城に招集された貴族達は、売女以下の格好でよがり狂うセラフィーナに驚愕するばかりで、赤髪の妊婦が何者か気付けていなかった。
嬌声を耳にして、ようやく正体に勘付いた者が驚愕の声をあげた。
「嘘⋯⋯? あれって?」
柱の影から覗き込んでいた貴族令嬢が同輩の友人を呼び寄せ、小声でひそひそと話し始めた。
「赤髪の妊婦はロレンシアさんじゃないかしら⋯⋯? ねえ見て! そうよ、違いないわ! 近衛騎士団のロレンシアさんよ! 女王陛下と一緒に帝国から帰ってきたんだわ!」
騒めく令嬢の一団はロレンシアの女友達だった。
ロレンシアはフォレスター辺境伯の娘で、アルテナ王家に近しい高貴な姫君だった。
側近中の側近でありながら、近衛騎士の花形。王族に付き従う眉目秀麗な女騎士に、令嬢達は羨望の眼差しを向けていた。王女の影武者を務められるほどの美貌を持ち合わせ、上流階級が集まる社交界で、何かと話題にあがる美少女だった。
目と目が合った。令嬢達に視線を向けられ、ロレンシアは立ち止まった。
「――ぁ♥︎」
ロレンシアも令嬢達に気付かれたと分かった。赤面のロレンシアは視線を下に逸らし、気不味い面持ちで誤魔化し笑いを浮かべる。
セラフィーナの従者として帝国に旅立った女騎士は、精悍な細身の体躯だった。ところが、今のロレンシアは熟れすぎた妊婦の淫体だった。
「まさか? 人違いよ。あの破廉恥な妊婦がロレンシアさんだなんて」
「だって、あんな大きな乳房を垂れ下げて⋯⋯。ねえ? 女王陛下より大きいですわ。別人よ。皇帝の愛人なのでしょう? だったら、帝国の御方だわ」
「そうよ。騎士のロレンシアさんがあんな格好されるはずないわ。酷い姿よ。乳首から母乳が飛び散ってるわ。まるで牧場の乳牛じゃない⋯⋯!」
「ええ、ロレンシアさんはもっと細身の女性よ。面貌がそっくりですけど体格はまったく違うわ。あの女はまるで⋯⋯ねえ⋯⋯。妊娠してるからって、肥えすぎだわ。すごい尻肉よ⋯⋯」
「お腹だって病気みたいに大きい。いくら妊娠したって、あそこまで膨らんだりはしないわ。ちょっと似てるだけの別人よね? そうに決まってるわ⋯⋯」
令嬢達はその先を口にできなかった。ミルクを分泌する超乳は、両腕で抱えきれない大きさだった。
豊実の限度を超越した乳房。真桑瓜など比較にならない重量と体積だ。
「⋯⋯でも、あの声を聞いたでしょ? ロレンシアさんの声だったわ。それに鮮やかな赤髪⋯⋯! やっぱりあの女性は⋯⋯! 信じられないけれど⋯⋯ロレンシアさんだと思うの⋯⋯」
「お胎が破裂しそうなくらい膨らんでいますわ。妊娠してるのよね⋯⋯あれ⋯⋯。なんだか私、気味が悪いですわ。あの妊婦がロレンシアさんだったとして⋯⋯なぜ幸せそうに微笑んでいるのかしら?」
「メガラニカ帝国の邪術ですわ。私、教会の司教様から聞きましたの! 帝国の皇帝は、魂に邪悪な怪物を飼っているんですって。きっと邪術で心身を穢されたのですわ⋯⋯」
皇帝一行が近くまで来ると、お喋りな貴族令嬢達は口元を扇子で隠し、そそくさと庭園の物陰に隠れた。
妖艶で美しい妊婦を両脇に従えた皇帝は、威風堂々たる態度で貴賓館の庭園を練り歩いた。
「これでセラフィーナとロレンシアが僕の女だって、納得してくれただろうね。アルテナ王国の貴族には見せつけたし、さっさと仕事を終わらせちゃおうか? 中庭ではあるけど風が寒いし」
ベルゼフリートはウェディングドレスの薄布越しにセラフィーナとロレンシアの肉厚な媚尻を抓んだ。
「あんぅ♥︎ んぁぁっ♥︎」
セラフィーナは恥じらいを捨てる。旧知の貴族達に見られながら絶頂し、体をくねらせる。
「あぁ♥︎ んゅっくぅぅっ♥︎ あぁ♥︎」
ロレンシアの勃起乳首から乳汁が飛び散った。風船の空気が抜けるように乳白色のミルクが噴出する。超乳の張りに悶えて喘いだ。
臀部の性感帯を刺激され、身震いする金髪と赤髪の孕み女。
縮れた恥毛を膣液で濡らしている。流れ出た淫汁には、オマンコの奥底に塗りつけられた精液が混ざっていた。
約十ヶ月ぶりに貴賓館の扉をくぐり抜け、皇帝ベルゼフリートと女王セラフィーナは調印式に出御した。
正式な夫婦となり、アルテナ王国の共同君主として初めての公務だった。両君が署名を記す後ろには赤髪の従者、ロレンシアの姿があった。
孕まされた美しい国母と女騎士は、幼き皇帝が手にした戦勝の賞杯だった。ほんの一年足らずの時間で、アルテナ王国の尊厳は塗りつぶされた。
護国の中核を担うはずだった女王は嬉々として国土を明け渡し、反帝国の騎手となるべき女騎士は剣を捨てた。
軽蔑の視線を向ける者は多くいた。しかし、二人は女の何物にも代えがたい祝福を得た。
子宮に宿るは貴き皇胤で孕んだ愛し子。セラフィーナとロレンシアの孕み腹が動いた。
お腹の赤児が四肢をバタつかせ、子宮の壁を蹴っている。激しい胎動に身を悶えさせ、二人の呼吸が荒く乱れた。
露出させている恥部に視線が集まった。黄金と真紅、鮮やかな陰毛が茂るオマンコは、皇帝の極太オチンポに開発され、立派な淫穴に仕上がっている。
陰核の包皮を貫く、エンゲージピアスが輝いている。調印式の出席者は、妊婦二人の陰裂から滴る白濁液の雫を目撃した。
「私、アルテナ王国の女王セラフィーナはここに宣言いたします。メガラニカ帝国の皇帝ベルゼフリート陛下と婚儀を結び、永久の忠愛をお捧げする愛妾となりますわ」
壇上のセラフィーナは、アルテナ王家に仕える諸侯を見渡す。
メガラニカ帝国の支配を受け入れられなかった者は、既に白月王城を去っていた。上級女官リンジーだけでなく、近衛騎士団の面々もほとんどいなくなっている。
バルカサロ王国とルテオン聖教国の外交使節団は、怪訝な顔付きで女王の布告を睨んでいた。皇帝の愛妾となったセラフィーナを中央諸国は、君主と認めたくないのだ。
「我が愛しの夫君、ベルゼフリート陛下はアルテナ王国の唯一にして正当な国王となりましたわ。前夫ガイゼフの地位は遡って取り消し、第一王子リュートおよび第一王女ヴィクトリカを廃位。王家の血筋から抹消いたします」
幾人かの王臣はどよめく。十分に予測されていた廃位が、改めて発表されたに過ぎず、大きな混乱は生じなかった。
「本日を以て、アルテナ王家は新たな歩みを始めます。ベルゼフリート陛下の血を引く者だけが正当な王位継承者ですわ。王国の臣下には絶対の忠誠を求めます。んふっ⋯⋯♥︎ んふっふふふふっ⋯⋯♥︎」
セラフィーナはベルゼフリートの頬に接吻し、己の愛を公然と示した。
――大陸歴八年十三月十四日、アルテナ王国の王都ムーンホワイトで議定書が締約された。