快楽だけじゃなく、精神的な繋がりが官能の核心にある――そう語るのは恋愛小説を執筆する喚くゴブリンさん。心中、不倫、セフレといった重めなテーマの短編を手掛けてきた。大切なこだわりは「エモ」。かつて暗い思考と日々を過ごしていた中、執筆が自分を救う一つの道だった。「執筆を通じて、素晴らしい方々との出会いがありました」と感謝を述べる。そんな喚くゴブリンさんにインタビューした。
【取材:三紋昨夏】
――創作活動を始めた「きっかけ」について教えてください。
実は、この話を公にするかどうか、かなり迷いました。というのも、自分の執筆の原点は、婚約者の自殺というとても個人的で重い出来事にあります。
彼女は少し精神的に不安定なところがあったのですが、ある日突然、「もう疲れてしまいました。さようなら」というメッセージを残して連絡が途絶えてしまったんです。その瞬間から嫌な予感がして、いてもたってもいられず警察に相談しましたが、法的には「他人」という扱いになるため、何もできないと言われました。
その後、彼女が自ら命を絶ったことがわかり、そこからしばらくは本当に暗い思考と日々を過ごしました。正直に言うと死にたかったんです。このままではダメになる、なんとか前を向かなければと、セルフカウンセリングの一環として小説を書き始めました。
書くことは「あの出来事」を整理する手段だったんです。最初はただの吐露のようなものでしたが、書いているうちに少しずつ精神的に安定していくのを感じました。特に、ノクターンで官能小説を書き始めてからは、執筆が自分を救う一つの道になっていきましたね。
執筆を通じて、素晴らしい方々との出会いがありました。
師匠筋にあたるゆなふぁい先生、先生枠の月見ハク先生、そして友人枠のしじままどせ先生をはじめ、多くの方々に人生の暗い時代を支えられました。
彼らの存在がなければ、きっと自分はどこかで野垂れ死んでたと思います。本当に感謝しかありません。
「喚く」の愛称、今では自分の一部に
――ご自身のペンネームに由来はありますか。
自分でもこのペンネーム、ちょっと作風と合ってないんじゃないかなって思うんですよね。
もっと漢字を使った小洒落た感じ、たとえば遠藤透(えんどうとおる)で「エンドロール」みたいな、ニュアンスのある名前のほうがしっくりくるかな、なんて今でも考えることがあります。
きっかけはある小説投稿サイトで出会った、ものすごく美しい文章を書く先生の存在です。その方の作品が本当に大好きで、完全なファンボーイ状態だったんですよ。
毎回、作品の全話に感想を書いて送っていたんですが、その先生が本当に律儀な方で、毎回丁寧に、しかも品があってウィットに富んだ返信をくださるんです。
その文面があまりにも素敵で、比べて自分の感想なんて「喚いてるだけのゴブリンみたいだな」って思った瞬間があったんです。それが頭に残って、いつの間にか「喚くゴブリン」がペンネームとして定着していました。
半ば冗談でつけた名前だったんですが、創作仲間からも覚えやすいと好評で、だんだん愛着が湧いてきたんです。確かにインパクトはあるし、創作仲間に親しみを持って呼んでもらえるので、今ではこの名前が自分の一部みたいな感じですね。それにしても遠藤透いいですね……。
――専門の活動ジャンルは? 性癖やエロに関する「こだわり」はありますか。
よく「エモエロ」なんて冗談めかして言うんですけど「エモ」って実は言葉で説明するのが難しいものだと思うんです。
たとえば、文芸部の後輩に「エモって何ですか?」って聞かれたら、つい「懐かしさの響き」とか「『えもいえない』感情の揺れだよ」なんて語っちゃう。でも、そうやって説明した瞬間、後輩は「そんなの知りたくなかった」ってがっかりした顔をするんですよね(笑)。その子の直感のほうが、実はエモの本質を捉えてる。
日本の「粋」や「わびさび」に近い、言葉を超えた感覚的なものだと思うんです。
――執筆時にはどんな心がけを?
書くとき、いつも心にあるのは、「人を本気で抱きしめたいと思ったとき、身体ってどこか邪魔になる」という感覚です。官能小説家として、当然、身体的なシーンを描くわけですが、たとえそれが風俗嬢やセフレのような「体だけの関係」であっても、必ず「心」の動きを織り込みたいんです。
身体は愛や感情を伝える大切な媒介だけど、同時に隔たりでもある。だから、行為のなかで感じる「体温みたいに気持ちまで伝わったらいいのに」とか、「神様、どうかこの気持ちを恋と呼ばせてください」みたいな、切実な思いを作品に込めたい。
それが私のこだわりですね。快楽だけじゃなく、精神的な繋がりが官能の核心にあると信じているんです。
まあ、でもそこが原因でよく叱られるんですよね(笑)。
――あれ? 𠮟られてしまうのですか?
ある尊敬する作家の先生に、「ストーリーは素晴らしいのに、ポエムが多すぎる。現実でそんなこと考えながらしないだろ」って指摘されたことがあって。確かに、現実のそんな場面でポエティックなことを考える人は少ないかもしれない。でも、どうしても心こそを気持ちよくしたい。
官能の魅力って、身体の快感以上に、気持ちが震える瞬間の積み重ねだと思うんです。それを作品で表現できたら、読者ともその震えを共有できるんじゃないかって。そんなふうに、いつも書いています。でも、だから抜けないって言われるのか(笑)。
失恋は星、届かなくてもいい遠い光
――「処女作」「代表作」など、思い入れのある作品を教えてください。
ここだけの秘密なんですが、私の作品のヒロインって、実はみんな元カノがモチーフなんですよ。
さっき話した「セルフカウンセリング」の一環ってわけじゃないんですけど、男って結構、昔の恋を引きずるものじゃないですか。だからかな、どの作品にも思い入れがあるんです。
恋愛って、思い入れがなかったなんてこと、ありえないですから。不思議なもので、どんなに当時は苦しくても、振り返ると綺麗な思い出しか浮かんでこない。失恋って、まるで星になるんですよ。届かなくてもいい、遠い光みたいなものに変わっていくんです。
処女作ではないんですが、『心中オフ会』という作品は、私の今の作風を決定づけた特別な一作ですね。実はそれまで、『女勇者強制操作』という、いわゆる「抜きモノ」系の作品を書いていたんですけど、なかなか思うように反響がなくて。ちょっと気分を変えようと、息抜きで暗い短編を書いてみたのが『心中オフ会』だったんです。テーマがテーマだけに、ノクターンノベルズで削除されるかもしれないって覚悟してました。
――実際の反響はいかがでしたか?
そしたら普段の官能小説とは全然違うジャンルだったから、物珍しさもあってか、ノクターンの作家の先生たちが集まって読んでくれたんですよ。本当に優しいですよね。
最初は「へー、こんなのも書くんだ」って、ちょっとからかうような反応だったんですけど、読み進めてくれるうちに「いや、これめっちゃいい!」「めちゃくちゃ好き!」って熱い感想をくれて。なかには2周、3周と読み返してくれた方もいて、泣くほど嬉しかったんです。いや、泣いたんじゃないかな。
そのときの感想が嬉しすぎて、スクショ撮ってスマホの壁紙にしてたくらい。あの作品が、ただの息抜きから始まったのに、こんなふうに受け入れてもらえたことで、自分の書きたいものに自信を持てた気がします。
どれだけ本音をさらけ出せるか
――作品作りのコツなど、創作するにあたっての「ネタ出し」「企画」はどのように考えていますか?
クリエイターには、大きく分けて職人タイプと芸術家タイプがいると思うんです。自分は圧倒的に前者で、つまり「同じような作品を、ひたすら突き詰めて作り続けるタイプ」なんですよね。
「それって楽してるだけじゃん」って思われるかもしれないけど、自分が一番面白いと思うものを徹底的に磨いて、最高の形でお届けすることって、悪いことじゃないと思うんですよ。
じゃあ、どんな構成かって聞かれると言葉で説明するのはちょっと難しいと思うので、わかりやすくアニメ監督で例えます。
冒頭は、細田守監督みたいな、挫折や人間の脆さを描くシーンで引き込む。
そこから新海誠監督みたいな、爽やかで心が洗われるモンタージュで空気を軽くする。
中盤は湯浅政明監督みたいな、風変わりな面白シーンで読者を掴む。
クライマックスには押井守監督みたいな、予想を裏切る大どんでん返しを仕掛けて。
最後は宮崎駿監督みたいな、生き方そのものを問うようなテーマで締める。
もう、これしかやってない(笑)。だって、この流れが一番面白い話になるって信じてるから。あ、あとアニメ監督ではないけど黒澤明監督みたいに、無駄なシーンと台詞は切り捨てるくらいかな。
ネタ出しはもう、とにかく「数」だと思ってます。毎日、インターネットで妄想を垂れ流してますね。でもそうやってると、たまに金脈を掘り当てるみたいに、「これだ!」ってアイデアがポンと出てくる。その瞬間って、だいたい自分のそのときのテーマとか、人生で感じてることにピタッと重なるんですよね。
クリエイターって、どれだけ本音をさらけ出せるかが大事だと思うんです。勝手に「パンツ脱ぐ理論」って呼んでるんですけど(笑)。
たとえば、新海誠監督の『君の名は。』も悪くないけど、不倫報道の後に作った『天気の子』のほうが断然好き。あのヒロインの部屋、絶対もっと上の世代の女性の部屋ですよね。JKがネギをハサミで切るな(笑)。
日常の出来事や映画鑑賞、創作の燃料に
――執筆で愛用しているツールは何ですか。また、サービスや参考資料など、創作活動で役立つオススメがあれば教えてください。
ちょっと面白味のない話かもしれないですけど、スマホのメモ帳をよく使ってますね。
たとえば、この前、飲み屋街を歩いてたら、酔っ払いにガツンとぶつかられて。「どこ見て歩いてんだよ!」ってつい注意したら、向こうも何か嫌なことがあったんでしょうね、「どこ見て歩けばいいんだよ!」って逆ギレしてきたんですよ。
最初はムカッときて、ぷんすか歩いてたんですけど、ふと観念したみたいにメモっちゃいました。ダブルミーニングな台詞に使いやすいなって。ほんと便利ですよね。
――先ほど、著名な映画監督のお話がありましたね。鑑賞した映画も創作の原動力にしてますか?
やっぱり映画は大きいですね。俗に言うシネフリ——映画狂いなんですけど(笑)。作品数を観れば観るほど、自分の好きなものや表現したいことがハッキリしてくるんです。アメリカに住んでた時期があって映画は字幕で観るんですけど、その時のちょっと意訳っぽい台詞が妙に心に響いたりして、これがしたいんだなって気付きました。
それに、映画って現実を忘れさせてくれるじゃないですか。しんどいときでも、2時間だけ別世界に連れてってくれる。そういう意味でも、創作の燃料になってる気がします。
「take it easy」気楽にいこう
――これから創作活動を始めようとしている人にアドバイスするとしたら?
うーん、やっぱり「take it easy」——気楽にいこう、ですかね。心中、不倫、セフレみたいな、ちょっと重めのテーマをメインに書いている人間が言うのもなんですけど、創作って根本的には人を幸せに、豊かにするものだと思ってるんです。
それは読者だけでなく、作者である自分自身も同じ。自分が本当に幸せを感じられているか、創作を通じて心が満たされているかを、ちゃんと考えることが大事だと思うんですよね。
たとえば、「自分は何をしたいのか」を考えてみるといいかもしれない。プロの作家を目指したいのか、趣味として小説を楽しみながら書きたいのか、創作仲間を増やしてワイワイやりたいのか。似てるようで、実はアプローチが全然違うんですよね。
そこを意識すると、創作活動がただの作業じゃなくて、人生を豊かにしてくれるものになると思うんです。気楽に、自分のペースで、自分が心から楽しめる創作を続けてほしいなって思います。
それで上手くいかなかったら、ノクターンで官能小説を書きましょう。このサイトにはそれだけの包容力がありますから。スケベ仲間、とでも言うんですかね。読者も作家も優しい方が多いので。
時間を超えるエモ作品、じっくり作り上げたい
――今後の目標、目指しているものを教えてください。
実は、ちょっとした自慢なんですけど、ノクターンノベルズの短編作品で「エモ」タグのTOP5を自分が独占してるんですよ。
そのうち一作は、前に話した師匠筋の先生との合作なんですが、シナリオと台詞は私が担当したものなんで。だから変な話ですけど、界隈では「エモ」についてちょっと一家言あるって自負してます(笑)。
でも、こんなこと言うと問題発言かもしれないけど、エモエロってジャンル、最近ちょっと下火になってきてる気がするんですよね。成人漫画とか見ても、ガクッと数が減ったじゃないですか。でも、それって悲しいことだけじゃなくて。落ち着いた雰囲気の中で、ちゃんと自分を見つめ直せる「チルい」作品とか、個人同士の好意やその世界だけに焦点を当てた「メロい」作品とか、新しい派生が出てきてる。
そういう中で、ちゃんと傑作が生まれてくるんですよ。なんか、文化が成熟していく過程って感じませんか?
流行り廃りなんて、そもそもそんなに気にする必要ないと思ってるんです。いい作品って、5年経っても10年経っても、読んだときの記憶が色褪せないじゃないですか。たとえば、ホムンクルス先生の『バードゲージ』(ワニマガジン社「はじらいブレイク」収録)なんて、10年以上前の作品なのに、台詞まで鮮明に思い出せる。
そういう、時間を超えるような作品を、自分なりの「エモ」の視点でじっくり作り上げていきたいですね。時間がかかっても、それを忘れてもらえるような物書きになる。それが目標です。
――インタビュー取材にご協力いただきありがとうございました!
喚くゴブリンさんのプロフィールとエモい作品を下記でご紹介しています。
読者の皆様、ぜひご覧ください。
【プロフィール】喚くゴブリンさん

プロフ画像は如月先生作(@kisaragi_0154 ) アラサーのエモナー。エモいエロ作品が大好きです。ノクターンで拗らせた恋愛小説を書いてます。ゴブリンみたいに楽しく創作活動ができますように。
◆X(旧Twitter)
 https://x.com/wamekugoblin
◆ノクターンノベルズ
 https://xmypage.syosetu.com/x3610cf/
【作品紹介】ノクターンノベルズで公開中
短編『心中オフ会』

「……あぁ。 私を気持ちよくしようなんて思わないでください。 男の人を気持ちよくするの好きなんで」
人肌恋しい冬の季節。心中オフ会の待ち合わせをする彼の前には現れたのは結婚指輪を付けた暗い美人のヤミヤミさんだった。重苦しい空気の中、二人はどうせ死ぬなら全財産を使い切って死のうと決める。「どうせ死ぬから」まるで魔法の言葉のように、それまで灰色だった世界が嘘みたいに明るくなる。幸せな時間を過ごす二人。
だがそんな時間も終わりを迎え、本来の目的を果たそうとするのだが───。
短編『ドライブ•マイ•カーセックス』

「……こんな暗いところで待ち合わせ?」
どうしてこんなに彼女の運転は落ち着くのだろう。深夜の家出、車のライトに照らされた少年は好きだった塾の先生と再会する。星のように流れていく街灯と、カセットテープの音。変わらないものと、変わってしまった関係。サービスエリアで豪遊し、自由を謳歌する二人だったが、彼女に誘われたのは樹海の入り口で───。
短編『風俗行ったら』

「せっかく思い出の相手とエッチするんですから……最高の体験にしてあげるね」
風俗嬢は天使だ。学生時代の片想いを引きずり自分の人生を生きれない彼が出会ったのは昔好きだった子にそっくりな風俗嬢だった。他人の空似と分かっていても思い出の中の彼女がちらついてしまう。そんな彼を見かねてか片想い相手のフリをするプレイを提案される。夢にまで見た光景、蕩けるような熱、そして過去を清算するような告白。肌を重ねていくほどに二人の影は重なっていき───。
                                    






