ベロニカは生理が止まっても単なる不順と思い過ごしてしまった。己の懐妊を自覚したのは悪阻の苦しみで嘔吐していたからだ。
妊娠による身体の変調はすぐに現れた。
爆乳に張りが戻り、乳輪の色が日に日に濃くなっていった。そして、ついに母乳の分泌が始まった。ベロニカは二十六歳のときにカレンティアを産んだ。それ以来、赤子に母乳を飲ませたことはなかった。
「ダザリーヌは美味しそうに飲んでるね」
ヴォルフガングは食欲旺盛な愛娘にご満悦だった。産まれたばかりの長女は、歯も生え揃っていない乳飲み子。子育てを手伝うベロニカは、母乳が出始めたので授乳もするようになった。
無垢な赤子は可愛い。しかも、親友が産んだ娘であり、顔立ちが瓜二つだ。あと十数年も経てば容姿端麗な母親を完璧に受け継いだ美少女になるだろう。
「ベロニカ様の豊かな乳房を見ていると羨ましくなります。ダザリーヌは私のミルクだけでは満足してくれません」
騎士兜で素顔を隠したダミエーラは愛娘を撫でる。旧友の貌はもう二度と見られない。きっと幸せそうな母親の顔をしているのだろう。「結婚はしない。好きな相手もいないし、貰い手もいない」と公言していたダミエーラが幸せを掴んだ。素直に祝福している。事情を複雑にしているのは自分の立場だ。
(私も妊娠してしまったわ。ヴォルフ坊ちゃんの赤ちゃんが子宮にいる……)
子供を産むかどうかはベロニカが決められる。ダミエーラは痛みに耐えてダザリーヌを産んだ。ベロニカは迷っている。そして躊躇いで心が乱れる。出産に伴う苦痛を恐れているからではない。左手の薬指に嵌められた結婚指輪が枷になっていた。
(まだ結婚指輪を外す気になれないわ……。私はヴォルフ坊ちゃんに恋している……と思う。こんな年齢になって……年若い乙女のように……。でも、夫への想いを忘れ去ったわけでもないわ)
満腹になったダザリーヌはすやすやと可愛い寝息を立て始める。ベロニカは快眠中の乳児をダミエーラに渡した。子供に愛情を注ぐ権利は生母にある。
「ベロニカ様……。私を恨んでおられますか?」
「いいえ。むしろ私が恨まれていると思ったわ。ダミエーラは私が駆け落ちしたせいで、伯爵家にはいられなくなったでしょう。当時は私も考えが回らなかったわ。幼い従者に手助けしてもらうなんて……。残されたダミエーラの立場を考えるべきだった……」
「恨んではおりません。地位を捨てたお嬢様を羨ましいとは思いましたけれど……。今になって思えばお止めするべきでしたわ。お互いに幼かったのです。……けれど、今はもう分別を弁えた大人の淑女ですわ」
「ええ。そうね。……私が闇樹館に残ると言ったとき、ダミエーラも驚いていたわね。リリトゥナはともかく、私をよく知る従者なら……お見通しだと思ってたわ」
「付き合いの長さや親しさで、相手の心が読めるわけじゃありませんよ。ベロニカ様だって私の手紙を罠とは思わなかったでしょう?」
「ええ……。そうね。とてもよくできた内容でしたわ」
「このままヒースウッド修道院に帰らなければベロニカ様は失踪扱いです。伯爵家やカレンティア様は心配なさるでしょう」
「レーヴェ家の名前は誰にも教えていないわ。……ここは帝国辺境よ。捜索依頼が出されても、誰も辿り着けない。私は隣町にも寄らずに来てしまったから」
「ベロニカ様は御決心なされたのですね」
「ええ。ここで暮らすわ。ヴォルフ坊ちゃんの子供を授かったのは運命だと思いますの。ヒースウッド修道院に戻る気にはなれません」
頬が赤くなったベロニカは照れながらヴォルフガングを見た。ヴォルフガングも恥ずかしそうにしている。
「ヴォルフ坊ちゃんは罪作りですわね。私とリリトゥナの野望を挫き、入念に練った伯爵家の乗っ取り計画を潰し、まさかベロニカ様を口説き落すなんて……。年上が好みなのは知っておりましたけれど……。ふふっ……」
「それ。リリトゥナにも嫌味を言われたよ。でもさ。僕の知らないところで大それた計画を立てないでほしいかな」
ヴォルフガングはベロニカを帰すつもりだった。しかし、ダミエーラとリリトゥナは反対した。ベロニカはレーヴェ家の秘密を知り過ぎた。だが、その懸念は杞憂に終わる。ベロニカはヴォルフガングに恋心を抱いた。この地に留まり、共に暮らすことを選んだ。
「リリトゥナはどこに行ったのかしら? 私の中にはいないみたいだわ」
ベロニカは黒森の主にも順応した。リリトゥナに肉体を明け渡し、ダミエーラと同じ憑依先の受肉者になっている。
「私の身体にもいませんね。おそらく黒森の見回りでしょう。隣町の司祭が嗅ぎまわっているせいです。荘園の者達が言っておりました。隣町は良からぬことを企んでいるのでしょう」
ダミエーラは吐き捨てる。隣町の司祭は今すぐに殺してやりたい。しかし、ヴォルフガングの許可が下りなかった。
「追い払えばいいよ。五年前と違って重武装になった自警団がいるんだ。武器商人から強奪した疑いで、商会からの信頼も失った。たいしたことはできないよ」
「レーヴェ家の土地に入ってきたら八つ裂きにします。それは荘園で働く者達の総意ですよ。ヴォルフ坊ちゃん」
「分かってるよ。土地に入ってくればね……」
ヴォルフガングは復讐を望まなかった。隣町の司祭がレーヴェ家の土地に踏み入ってこない限り、手を出しては厳禁。侵入した場合に限って殺害を認めた。
「私はダザリーヌを子供部屋に寝かせてきますわね。ベロニカ様はヴォルフ坊ちゃんのお世話をお願いいたします。――ベロニカ様、ごゆっくりどうぞ♥︎」
ダミエーラは我が子のダザリーヌを抱いて寝室から去った。残されたベロニカとヴォルフガングは無言で互いを見詰めた。男の視線はミルクが滲み湧く爆乳、女の視線は男根の膨らみに向けられた。
「ずっと思ってたんだけど、ベロニカってセックスが好きなの?」
「はい。夫に先立たれてから我慢していましたが、性欲はとても強い……イヤらしい女ですわ……。こんな……年齢で……妊娠しちゃうくらい……」
全裸になったベロニカは這い寄る。白金色の美髪を解きほぐし、ヴォルフガングの矮躯をベッドに押し倒した。
「僕の子供を産むの? たぶん……子供を産むためには……」
「ええ。分かっておりますわ。それでもお腹に宿った命を……。ヴォルフ坊ちゃんの子供を愛したい……♥︎ ダミエーラのように……♥︎」
左手の薬指で輝きを放つ結婚指輪に謝罪する。永遠の愛を誓った夫婦の象徴。絶対的だった情愛は色褪せた。
未亡人は若々しい男根に欲情する。騎乗位セックスでデカ尻を叩きつけて、熟れたオマンコでオチンポを扱く。失踪した自分を探しているであろう家族や友人を忘れ、ヴォルフガングだけに想いを寄せる。
その年、ベロニカは女児を出産した。
母親譲りの美貌と白金色の髪が生えた赤子だ。レーヴェ家の血を引く娘はアヴェロアナと名付けられた。



