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【フランス書院eブックス】記憶喪失になった俺だけど、学年一の美少女と赤ちゃんを作る約束をしていたらしい(孕間せん)

 目を覚ました俺の前には、おっぱいを揺らして顔を近づけてくる美少女が!記憶喪失になっていた俺は、たった一瞬で彼女に一目惚れしてしまった。柔らかい垂れ目でボブカットの、誰にでも優しい学年一の美少女・鳴橋菜々果。友人曰く、なぜか‘俺とだけ’は仲が悪かったらしいけど、彼女とある約束が……「今すぐ赤ちゃん作っちゃおうっていう約束。本当に覚えてないの……?」実は恋人関係だった菜々果との、思い出を取り戻すイチャラブ生ハメ生活が始まった!Webで大人気の記憶喪失ラブコメ、3万字オーバーの書き下ろしも大収録!

著者孕間せん
イラスト奎珍
価格880円(税込)
発行日2025/11/28

エンジェルクラブMEGA Vol.125

エンジェル出版(双葉社)
『エンジェルクラブMEGA』
(毎月27日)

圧倒的巨乳コミック誌、『ANGEL倶楽部』に待望の姉妹誌が誕生! その名は『エンジェルクラブMEGA』!!

巨乳/人妻/調教/凌●/アナル/ネトラレ/痴女/義母/姉妹/ポッチャリ過ぎるメガボディやラバーフェチまで、男の妄想や欲望を具現化してきた「エンクラ」が更に進化。「MEGA」では毎号特集テーマを設定し、豊富な過去作品から編集部が厳選したイッキ読み必至の作品を詰め込んだ夢のアンソロジーをお届けします。誌名のとおりまるで性に仕える天使のような美女痴女が満載で、ヌキどころは正にメガ盛りです!!!

★Vol.125の特集テーマは、「地味メスファック(ジミメスファック)」。
「地味」とは、あまり良い意味で使われる事はありませんで、多くの場合は派手さが足らず華やかさに欠ける目立たないものとして認識されてしまいます。その「地味」を人に、特に女性に適用させようとするのは甚だ失礼な話ですが、必ずしもマイナスイメージばかりにならないのが男の好みの面白きところ。 性格や服装や体型が「控えめ」なだけで、実はメガネの下に美貌を隠していたり・化粧っけも無いのに透き通るような柔肌が光り輝いていたり・露出度ゼロなのに服の上からでも分かるボンキュッボンの艶めかしいボディラインを有していたり・真面目な顔してヨダレ垂れ流しまくりのアヘ顔が眩しいS●X大好きっ娘だったり…するかも知れず、地味の中に隠された本性を垣間見たその時、千差万別な好みを持つ我らが息子たちは大いにチンピクし、そそり勃つのだ。 皆が認める自分よりも上位のイイオンナを征服する喜びもさることながら、パッと見の評価は低くても実は好みの地味娘ちゃんを思うままに突きまくる悦びが勝ることもあるのです。 地味娘にかける情けは無く、好かれようとも思っていないから優しさも不要、容赦のない自己中ファックが堪能できちゃう…そんな都合の良すぎる地味メスF●CKストーリーの数々を是非お楽しみ下さいッ!!!

【収録作品・作家】 Kloah「黒の淫乳[1][2][3][4][5(最終話)][After]」/黒小枝「新入生の味わい方」/オジィ「露出M女 ドスケベ爆乳OL」/あかつき茜「ココロの衝動」「ココロの衝動 〜私の隠れた欲求〜」/ぶーちゃん「隣の地味巨乳お姉ちゃん」/れむ「地味子はヤリサーの肉便器」/阿部いのり「ぼっち姦し」/真夜中足穂「先生は僕だけの女神さま」/雨山電信「サブリミナル・ラブ・ビート」

表紙イラスト
執筆陣Kloah,黒小枝,オジィ,あかつき茜,ぶーちゃん,れむ,阿部いのり,真夜中足穂,雨山電信
価格1,100円(税込)
発行日2025/11/27

メロンブックス 新創刊の成年向け雑誌『コミック ルクセリア』発行延期、発売日は12月11日に

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 メロンブックスは成人向け雑誌『COMIC LUXURIA(コミック ルクセリア)』の発売日を12月11日に延期すると、公式サイトおよびX(@COMIC_luxuria)で発表した。

 当初は11月29日発行を予定していたが、メロンブックスは「弊社の不手際が発覚し、再印刷を行う」と説明。これに伴い、FANZAブックスで先行配信予定だった電子版も12月11日にずれ込んだ。

メロンブックス 創刊記念POPUP SHOP 開催日が12月11日に延期

 創刊を記念したPOPUP SHOPが、11月28日から12月7日まで東京都千代田区の「Akiba Melon Gallery – 4F vision」で開催される予定だ。11月26日時点では、開催日の変更に関する告知は出ていない。一方で、雑誌発行が12月11日へと遅延していることが明らかになっており、来場を検討している人は最新情報を確認する必要がある。

 創刊記念POPUP SHOPは12月11日から12月21日に延期し、メロンブックスの秋葉原・大阪・名古屋3店舗で開催する。

同人書店が新創刊、名を連ねる人気作家

 『コミック ルクセリア』は同人ショップを展開するメロンブックスが創刊する成人男性向けのエロ漫画雑誌。10月2日にティザーページが公開され、同人誌の専門書店による雑誌創刊が注目を集めていた。

 予定価格は税込み1180円、発売スケジュールは隔月30日、サイズは変形B5(257mm x 179mm)。創刊号は1号と2号を同時刊行する。掲載作家は次の通り。

COMIC Luxuria(コミックルクセリア)vol.1

▼表紙イラスト

みちきんぐ

▼ピンナップ

xxzero

そらなにいろ

ちりぬ いろは

ちろたた

とりの唐揚

ながねこ

はましま薫夫

やまこんぶ

間垣りょうた

▼カラー漫画

やまこんぶ

黒悪13

相川めるお

▼モノクロ漫画

↑野介

92M

DISTANCE

KUUTAMO

MK

あおひも

あめぐみ

アリマセカイ

けい志ろう

スピリタス太郎

ぜっきょ

たまごろー

はにぃ

みちきんぐ

雨宮ミズキ

円つくも

真宮原ヒトシゲ

赤木クロ

長瀬徹

日向あお助

氷室しゅんすけ

眠田

さかいワカ(巻末4コマ)

COMIC Luxuria(コミックルクセリア)vol.2

▼表紙イラスト

santa

▼ピンナップ

イキヌキ。

クゥロン

ちろたた

ひらり

pn🔞

むちゃ

間垣りょうた

直かめ

防波堤

▼カラー漫画

70B

北澤産業

▼モノクロ漫画

EBA

KANIKORO

santa

あびすぐる

イキヌキ。

うぃんたぁ

クゥロン

くぐろふ

ケミガワ

なんだそのパンツは・・・

ネッシートマト

ぱすたすきい

ふともも大魔王

モチヂ

海老名えび

鬼塚クリス

幻想ポンプ

五百川

仲村ユキトシ

朝木 貴行

藤翔

俵緋龍

木山ヒト

龍炎狼牙

楪らんち

三月(巻末4コマ)

猫忍(巻末4コマ)

月刊隣の気になる奥さん vol.103(表紙:ロッコ)

一水社『月刊隣の気になる奥さん』
(毎月26日)

いよいよ迫るクリスマス!

奥さんも張り切って貴方をお迎えする準備です。
ターキーではなくチキンよりも奥さんの熱気でうだる爆乳!

甘いケーキよりもさらに濃いお味の奥さんの蕩ける名器!
聖なる夜だからこそ淫らに楽しむ!!?

◆ふじいあきこ【性欲が強い人妻は】
性欲が強くて困っている奥さん!
◆ムラさん【隣の人妻と異文化交流】
異国のわがままボディの奥さん!!

★収録作品★
【性欲が強い人妻は】ふじいあきこ
【隣の人妻と異文化交流】ムラさん
【人妻ナースの復讐劇】武蔵ダイチ
【欲求不満な奥さんに誘惑されまくったら天国だった件】湖月神無
【サレ若妻の仕返しH】かんち
【旦那のトモダチと…】けーき
■表紙イラスト/ロッコ

愛読者様への誌面のご奉仕強化月間!
年末を迎えてさらに求め合う人妻肉肌!!

残り少ない今年もまだまだ極めまくりです。
癒しを求めて、イヤラシの極致へ!

むっちりばっちり出し惜しみなく、全ての奥さんの魅力を出しまくり号!

表紙イラストロッコ
執筆陣ロッコ,ふじいあきこ,ムラさん,武蔵ダイチ,かんち,けーき,湖月神無,一水社編集部
価格770円(税込)
発行日2025/11/26

【第3話】竜郷ドラカ=ヴェルグの惨劇

 魔軍に蹂躙された竜郷ドラカ=ヴェルグは、目を覆いたくなる惨状だった。

 魔獣の姿は既になく、死体の山が無造作に積み重ねられていた。炎に蝕まれ、骨すら残らず、灰になっている遺骸が数多くあった。老若男女、一切の例外なく、民族浄化の大虐殺は完遂された。

 ゼフィラの生まれ故郷であった竜郷ドラカ=ヴェルグには、千人の竜人族が暮らしていたという。しかし、原形を留めていた遺体は多めに見積もっても十数人程度。ほとんどの遺体は灰燼かいじんに帰してしまった。

「広場の井戸を見てきた。子供の服が浮いてたよ……。隠れたみたいだ。でも、死体がなかった。衣服だけが水面に浮かんでいる。……井戸の水は真っ赤に染まってた」

「そこに転がってる大蛙の死体があるだろう。人体を溶かす魔獣だ。強酸を吐き出す。……私が逃げ出した時にぶっ殺した」

 ゼフィラは墓穴を掘っていた。鉄製の円匙ショベルで大穴を長方形に広げ、同胞の遺体や遺品を丁寧に並べている。

「最後まで戦ったんだ。恥じる必要はないと思うけどな。……ゼフィラ以外、誰も生き残ってなかったんだ。ここで戦い続けるより、隠れるとこの多い山林に逃げ込むべきだよ。実際、それで俺と巡り合えたんだ。正しい判断だった」

「私を慰めてくれるのか……」

「故郷を襲われた人に容赦ない言葉を浴びせかける冷徹漢と思われたなら心外だ。人並みの配慮はできるぜ」

「私は死を恐れた。それを取り繕う気はない。私の弱さだ」

 ゼフィラは自嘲する。契約の直前、絶命の間際に「死にたくない」と泣いた情けない姿をキサラギは目撃している。

「死を恐れるのは弱さじゃない。正常な反応だ。それよりも、この服、本当にもらっていいのか?」

「構わん。冥府に旅立った同胞は文句を言うまい。似合っているぞ」

「尻尾用の穴は後で塞ぎたいな。俺、尻尾は生えてない」

 キサラギは竜人族の子供服を着ていた。

 契約の第四条において「死は捧げられた供物を所有する」と権利規定が定められている。キサラギが異世界の物を所有する条件は、誰かに捧げてもらうこと。ゼフィラが捧げた物は、キサラギの供物となる。

 住居の焼け跡から見つけた竜人族の衣服。脚部だけが残っていた少年の亡骸から拝借した革靴。体格に合うサイズの衣服をかき集めた。

(服が襤褸布だけじゃ不便だ。ゼフィラが俺に渡してくれた物なら自由に動かせる。食べ物も味わえそうだ。グロテスクな現場を見過ぎて、今はまったく食欲が湧かないけど)

 漆黒の襤褸布は相変わらず、キサラギの身体に纏わりついてくるが、これで人前に出られる姿となった。

 上半身の皮鎧が焼け落ちて、半裸状態だったゼフィラも新しい服を着ている。魔軍が戻ってきた時、迎え撃てるように装備を整えていた。

(予想してたとはいえ、生き残りはゼフィラだけか。井戸は使えなくなってたし、食糧倉庫も駄目になっていた。ここに長居はできない……。とはいえ、竜人族の遺体を放置はできないしな)

 沈痛な面持ちでゼフィラは、真っ二つに折れた大槍を見詰めている。知り合いの遺品を墓穴に埋める。その両目は復讐心の焔が揺らめいていた。

「魔軍の目的は何なんだ? 竜人族を皆殺しにすることだったのか? 俺達が竜郷ドラカ=ヴェルグに到着した時、魔獣は一匹も残っていなかった。ここを侵略拠点にする気はないらしいな。あの化け物達に水や食料を必要とするのかは知らないけど、井戸と食糧倉庫は潰されてた」

「狙いは竜人族の宝玉だったのだろう。魔軍は竜郷ドラカ=ヴェルグで祀られていた竜玉卵を持ち去った」

「それって、どんな宝玉? 特別な力があるのか?」

「竜玉卵の由来を知っているのは巫女だけだ。特別な力が宿っているとは聞く。だが、そもそも私は実物を見たことがない。巫女であった母様だけが隠し場所を知っていた。おそらく聖廟の祠に安置されていたのだろうがな……」

「ゼフィラのお母さんが巫女? でも、守ってた宝石が持ち去られたってことは……」

「竜郷ドラカ=ヴェルグは竜人族しか入れぬ結界が張られていた。古の大結界を維持する役目を担うのが巫女だ。どのような外法げほうを使ったかは知らないが、魔軍は竜人結界を突破した。……母様は殺され、竜玉卵が奪われてしまった」

「…………」

 キサラギは魔軍襲来時の状況を整理してみる。

 ゼフィラの母親であった巫女は、聖廟で竜人結界を維持していた。竜人結界が機能している限り、魔軍は竜郷ドラカ=ヴェルグに侵入できない。侵入できなければ、魔軍は巫女を殺せない。

「本当に巫女は殺されたのか?」

 疑念が強まる。竜人結界が説明通りの効力を発揮しているのなら、魔軍が巫女を殺す方法は存在しない。

「巫女が健在なら竜人結界は破られない……。聖廟の警護は竜人族最強の戦士アシェラ様が担っていた。……カザルドの仕業だ。聖廟は紅蓮の業火で焼き払われている」

「ん? じゃあ、聖廟は竜人結界の範囲外にあったのか?」

「聖廟が結界の中心。何らかの手段で……巫女を……母様を殺害した。そして、竜人結界を崩壊させたのだ」

 それは無理のある説明であった。理屈に合わない。口にしたゼフィラ自身が一番よく分かっている。

「なぁ、ゼフィラ? 言いにくいことを指摘していいか? 竜人結界は魔物の侵入を拒む。それは魔天使のカザルドだって例外じゃないんだろ。なのに、結界の中心地である聖廟で巫女が殺されてしまった。おかしいよな?」

「…………」

「竜人族以外の侵入を拒む。だったら、結界内で巫女を殺せるのは竜人族だけじゃん。状況を考えると誰かが裏切っているぞ。……ゼフィラだって分かってるんだろ」

「…………」

 ゼフィラの無言だった。理解はしている。だが、受け入れたくないのだ。

 巫女は竜人結界の外には出られない。巫女を殺せるのは竜人族の誰かだ。竜人族の裏切者が巫女を殺害した。それしか説明がつかない。

 裏切者の有力な候補が一人いた。その者の名をキサラギは挙げる。

「巫女を護衛してた戦士は、竜人族最強で間違いないか?」

「……そうだ」

「ゼフィラよりも強い?」

「アシェラ様は私の師匠だ。戦士を束ねる長だった」

「……これも言いにくいけど、アシェラの死体は残ってないよな?」

「いいや」

「じゃあ、殺されたところを見たか? 魔物と戦っているところでもいい」

「アシェラ様の姿は見ていない……」

「聖廟に籠ってた巫女を殺せる奴はアシェラだけなんじゃないのか? 他に裏切者がいたとしても、竜人族最強の戦士が護衛してたなら、巫女を守りきれたはずだ」

「ありえない!! あのアシェラ様が……! 裏切者であるはずがない……!! 母様とは血の繋がった実妹じつまいだ」

 絞り出すようにゼフィラは言う。裏切者の存在は疑わねばならない。けれど、ゼフィラにとっては血縁の叔母であり、敬愛する師匠だった。

 キサラギは冷静に質問を続けた。

「血縁者だからって仲が良好とは限らんだろ。姉妹ねぇ……。二人の歳は近かったのか?」

「双子だ。巫女のミレイユ、戦士長のアシェラ……。姉妹がお互いを支え合って生きてきた。……絶対にありえない。魔軍は竜人結界を出し抜く方法を見つけた……。その可能性もあるだろう」

 縋りつくような弱々しい口調だった。屈強な竜人族の女戦士にはふさわしくない。乙女の弱さが顕れている。

「希望的観測だな。まあ、俺だって断定はしないさ。竜人結界を通り抜ける方法があって、魔軍はそれを知っていた。……ただし、そういう都合の良い話じゃなかった場合、誰かしらが魔軍を手引きしている。虐殺から撤収までが計画的。用意周到で手際が良い」

「…………」

「千人以上の住人を皆殺しにするのって、すごく難しいと思うぜ」

「深夜の襲撃だった。聖廟から火の手が上がったとき、魔軍の包囲は完成していた」

「里の地理を熟知してなきゃ、そんな殲滅戦は無理なんじゃないか?」

「アシェラ様が同胞を裏切り、母様を殺めたというのか……」

「残酷だけど、復讐を志すなら、裏切者は想定しとくべきだ」

 巫女のミレイユと戦士長のアシェラは、美しい双子姉妹だった。聡明な姉には巫女の才能。勇猛な妹には戦士の才能。竜郷ドラカ=ヴェルグの中枢を担う二人であった。

 魔軍襲来の深夜、巫女が祈りを捧げていた聖廟はカザルドの業炎で焼き尽くされた。竜人結界が散逸し、魔天使デーモンが率いる魔獣の軍勢が竜郷ドラカ=ヴェルグを侵略した。竜人族の戦士達は果敢に戦ったが、夜明けまで生き残った者はゼフィラだけだった。

(アシェラ様が裏切者……。本当にそうなのか? だとしたら、私は……!)

 ゼフィラには思い当たる節があった。襲撃が起こる数十日前、ミレイユとアシェラが幽世の森で口論している現場を目撃した。実母と叔母の言い争い。姉妹喧嘩などという生易しいものではなかった。

 言い争いの原因は分からない。会話の内容を盗み聞きするつもりはなく、すぐさまゼフィラは立ち去ってしまった。その判断を今は後悔している。

(母様とアシェラ様の間には、深い確執があったのかもしれない)

 竜人族最強の戦士と謳われるアシェラは、幼少期に竜郷ドラカ=ヴェルグを出奔し、帝都で冒険者になっていた時期があった。その理由をゼフィラは察している。巫女の地位をミレイユが継承し、族長のラウルと結婚した。結婚式の日と重なっている。

 ゼフィラの父親であるラウルは、元々アシェラと恋仲だった過去がある。しかし、竜人族の掟により、族長は巫女と夫婦めおとにならねばならなかった。

 姉に恋人を盗られた。妹はそう感じていたかもしれない。

 アシェラが竜郷ドラカ=ヴェルグに帰ってきたのは、娘のゼフィラが産まれた年だった。巫女の祭祀で多忙だったミレイユは子育てをする余裕がなかった。帰ってきたアシェラは実母に代わって、乳飲み子のゼフィラを育てた。

 因縁は解消されたものだと誰もが思っていた。しかし、過去は消えない。竜郷ドラカ=ヴェルグを滅亡へ導いた運命は、双子姉妹の歪んだ関係に起因する。

 ◆ ◆ ◆

 人類と敵対する深淵の勢力は魔軍と呼ばれている。

 世界の呪怨から生じた魔獣モンスター。深淵の眷属者である魔天使デーモン。そして深淵と契約した元人間の魔族フィーンド。魔軍は主を復活させるため、世界の各地で蠢動していた。

 竜郷ドラカ=ヴェルグの巫女が守っていた竜玉卵は、封じられた主を復活させる鍵の一つだった。

「契約を守ってもらわないと困りますわ。半端な仕事をしておきながら、代価は先に支払えというのかしら?」

 裏切者の美女は嘲り笑う。

 深淵と結んだ契約は「竜郷ドラカ=ヴェルグの完全なる滅亡。アシェラ以外の住民を皆殺しにする」ことである。しかし、契約は完全には履行されていない。戦士ゼフィラが生き残り、竜郷ドラカ=ヴェルグの復興を目論んでいる。

「一匹、生き延びているわ。包囲を破られて、殺し損ねたのでしょう? 放った追手も全滅。あの憎たらしい小娘がこの世で生を謳歌している限り、私の望みは叶っていないわ。早く殺してきなさい」

 竜人族の美女は聖廟で祀られていた竜玉卵を見せびらかし、魔天使デーモンを挑発する。引き渡しを求める魔軍は、眼前の竜玉卵を奪えない。深淵と結んだ契約は、魔軍を絶対的に支配する。

「契約は遵守する。しかし、そのためにも竜玉卵が必要なのだ。その竜玉卵は封印を解除する鍵の一つなのだ。深淵の主を封じる力が弱まれば、魔天使デーモン魔獣モンスターの力は底上げされる」

「あら? あらあら? それはおかしいわ。順序が逆でしょう? まずはゼフィラの死体を持ってきなさい。まさか竜玉卵がなければ、竜人族の小娘すら殺せないというの……? 魔軍大参謀の名が聞いて呆れますわ」

「あのカザルド殿が滅ぼされた。聞いていた話と違う……。ゼフィラは魔法が使えぬ戦士ではなかったのか?」

「そのはずよ。けれど、忌まわしいことに、私と血が繋がっているわ。不思議な力を覚醒させているかも……。でも、今は言い訳を聞きたくないわ。幽世の森に逃げた死にかけの戦士を始末できなかった。それは貴方達の不手際でしょう?」

「……魔軍はカザルド殿を失った。この大損失は無視できない」

「私は言われた通り、竜郷ドラカ=ヴェルグの地図を渡し、魔軍の侵入を阻んでいた竜人結界も壊してあげたじゃない。ここまで御膳立てをしたのよ。まだ足りないのかしら?」

 美女は竜玉卵を指先で回転させる。

「…………。深淵の主から天命を授かった。今すぐに竜玉卵を渡してくれるのならば、貴殿の希望を叶える。深淵の主は譲歩なされている」

「へぇ。譲歩……ねぇ……?」

「何卒、お願い申し上げる」

 大参謀は真摯に頼み込んだ。

「分かったわ。そこまで言うのなら……。ふふふっ……! 要求はたった一つ。魔獣モンスターの支配権を私に授けなさい。魔天使デーモンと同格の権能が欲しいわ。深淵の主なら容易く叶えられる願いでしょう?」

「貴殿は既に契約を交わした魔族。魔軍の一員となっている。他の者達から強い反発もあるだろうが……前例はある。……深淵の主も受諾した。貴殿に我ら魔天使デーモンと同等の支配権を付与する。これ以後、この世に産まれ墜ちた呪怨の魔獣達は、貴殿の意思に服従するであろう。――契約は成された」

「ふふっ! あら。あら。こうもすんなり言うことを聞いてもらえるのね。魔軍は相当焦っているのかしら? 私にとっては好都合♥︎ 話が早くて助かるわ。いいでしょう。竜玉卵を渡してあげるわ。ただし、これは契約代価の先渡し。努々ゆめゆめ、忘れないように。竜郷ドラカ=ヴェルグの生き残りを必ず殺しなさい」

「無論だ。契約は絶対。醜悪な人間達とは違う。深淵は裏切らない」

「あら? なにそれ? 私に対する皮肉? 私は竜人族を同胞だなんて思っていないわ。掟に縛られて生きている愚物。あぁ……。本当に薄気味悪い民族だったわ。時代に取り残された化石。竜人族の滅びは必然だったわ」

「……深淵と契約を結んだ貴殿は魔族だ。もはや人間社会では暮らしていけないぞ。魔軍の契約に助力いただければ、それなりの地位を約束する」

「お断り。私と魔軍は利害が一致しているだけ。深淵に迎合する気はないわ」

「…………」

「これからの私は自由に生きる。信仰心は解き放たれたの。忠告しておくわ。誰の指図も受ける気はない。契約に明記したはずでしょう?」

「分かっている。重ねて宣言しよう。深淵の契約は必ず遵守されであろう。我ら魔軍は竜郷ドラカ=ヴェルグの生き残りを殺す。そして、貴殿の行動に一切干渉しない」

「ああ、それとね、私のことは今後、と呼びなさい。闇巫女のエクリピア。――末永くよろしく♥︎」

 先祖代々の竜人族が死守してきた竜玉卵を売り渡し、裏切者の美女は魔獣モンスターの支配権を手にした。魔天使デーモンと同格の権能を得た闇巫女は、暴虐凶悪の覇道を進み始めていた。

 深淵の主が封じられた螺旋迷宮〈不浄の祭殿〉。魔物の巣窟となった最深部に招かれたエクリピアは、竜人族から穢れた魔族に変貌していた。竜郷ドラカ=ヴェルグを滅ぼし、竜玉卵を差し出した見返りで、深淵と優位な契約を交わした。

 過去に未練はなく、同族の大虐殺に加担した罪悪感は微塵もない。彼女は竜人族の掟を誰よりも恨んでいた。積年の恨みを晴らし、気分は爽快だった。酷く不愉快なのはゼフィラが生き延びたことだ。

 魔軍大参謀との話を終えて、蠢く肉壁の回廊を歩む。天上から毒汁が垂れてくる。常人ならば皮膚が溶けてしまう。魔族に成り果てた人外は深淵の瘴毒が効かない。

「ご主人様。ご安心ください。魔軍は私との契約に逆らえませんわ。深淵の主は契約を遵守する。そういう存在ですわ」

 エクリピアの周囲には誰もいない。けれど、明らかに独り言ではない。誰かに語り掛けている。

「魔獣の支配権を手に入れましたわ。魔天使デーモンは深淵と深く繋がり、契約の仲介人となる能力を持っております。……ええ。そうですわ。おかげで、ご主人様の憑代を作りやすくなりました。これからもっと愉しくなりますわ」

 闇巫女エクリピアは虚空に話しかけ続けた。

「はい。そうですわ。ゼフィラが生き延びたのは誤算でした。まさか業炎の魔天使が屠られるとは……。大参謀も驚いていましたわ。いいえ、戦慄していたかしら?」

 先ほど行われた魔軍大参謀との会話で、エクリピアは本心を表に出さなかった。竜郷ドラカ=ヴェルグ殲滅戦の陣頭指揮官だったカザルドは、魔軍で五指に入る実力者だった。

「あの娘が包囲を突破して幽世の森に逃げ込んだ時、とても深い傷を負っていましたわ。あの手傷でカザルドを返り討ちにするのは不可能でしょう。ええ、はい……。私も嫌な予感がいたします」

 両目を細め、エクリピアは静寂に耳を傾ける。

「魔軍に任せきりでは頼りない気がします。もちろん、直接は出向きませんわ。……ええ。まさしく、その通り。ご主人様と私で刺客を差し向けましょう。ゼフィラは巫女と族長の血を受け継いだ竜姫。あの小娘が生きていたら、竜郷ドラカ=ヴェルグを復興させるかもしれない。そんなことは絶対に許しませんわ……!!」

 剥き出しの憎悪をたぎらせる。溢れ出した強烈な殺気は空間を淀ませた。

「魔軍から与えられた異空間は自由に扱えますわ。伏魔殿パンデモニウムと名付けました。私の欲望が具現化した心象領域です。ここでなら邪魔されることなく孕魔降誕の儀式を探究できますわ♥︎ ふふふっ……♥︎ ご主人様もお好きでしょう?」

 エクリピアはドレスの胸元を緩める。漆黒の花嫁衣裳を想起させる淫靡な装束。膨れ上がった爆乳を包み込む布地の内側は、粘液塗れの肉襞にくひだひしめいていた。

 魔獣の屍を融合させて作った触手衣裳。生肌にびっちりと張り付き、エクリピアの母乳を吸い上げている。乳房のみならず、女陰を覆った股布部分クロッチでは二本の肉棒突起が形成され、オマンコとアナルを貫いている。

 大参謀との真面目な会話中、エクリピアは身に纏った触手衣裳と性行為に耽っていた。こうしている今も愛するご主人様に性奉仕をしている真っ最中だ。

 肉欲を宿した漆黒のウエディングドレスが毛羽立ち、膣穴に挿入されたオチンポが子種を発射する。魔族に堕ちた妖艶な竜人は、身を震わせて性悦に浸った。子宮に大量の精子が注がれ、下腹部に熱が滞留する。

「んぅっ……♥︎ ふぅっ……♥︎ くふっ♥︎ ご主人様のオチンポだけが私のオマンコを満たしてくれる……♥︎ この上なき幸せですわ♥︎ あぁ、♥︎ 可愛い忌仔が産まれてくる日が待ち遠しい……♥︎ 世界を滅ぼす終焉竜……♥︎ 必ずや私の胎から産み堕としましょう♥︎ あぁ♥︎ 愉しみですわ♥︎」

 闇巫女エクリピアは世界滅亡を願う。深淵の主を復活させようと企む魔軍勢力とは、似て非なる目的で動いていた。魔軍は人類文明を憎んでいるが、世界そのものを滅ぼすつもりはない。

 他の魔族フィーンド魔天使デーモンに真意を知られてしまったら、闇巫女エクリピアは窮地に立たされる。それゆえに深淵と契約を交わした。深淵は契約に縛られつつある。

 闇巫女エクリピアの行動に一切干渉してはならない。深淵は契約者の正体を見誤った。世界滅亡を企む破滅主義者とは考えが及んでいなかった。

 契約代価の竜玉卵は支払った。そして、竜郷ドラカ=ヴェルグの殲滅戦を生き延びたゼフィラが死んだ時、深淵を縛る契約は完成する。

 お互いに課せられた義務が成された瞬間、結ばれた契約は何者にも解けないことわりとなる。

(ふふふっ……♥︎ 深淵と人類……♥︎ 好きなだけ争いなさい。どちらが勝っても、最後には全てを滅ぼし、ご主人様と私だけの世界となるのだから……♥︎)

【第2話】永生の契約

 押し寄せてきた魔獣達は、驚愕の光景を目撃する。

 獲物は死に体はずだった。半死半生の死に損ない。同胞を守りきれず、幽世の森に逃げ込んだ敗走者。しかし、魔獣を待ち構える女戦士の傷は癒えていた。

 構えた長剣から紫色の血が滴っている。里の防衛戦では千体以上の魔獣を斬り伏せ、屍の山を築いた。しかし、いかに竜人族の剣豪なれども、圧倒的な数の力には勝てなかった。

 多勢に無勢。状況は今も同じだ。けれども、一つだけ変わった。

 死の化身と契約を交わし、永生の加護を授かった。女戦士を死に至らしめる手段は、異世界このよに存在しないのだ。

「――どうした? 来ないのか? 醜い獣どもめ。よもや、怖気づいたか? 竜郷ドラカ=ヴェルグの生き残りはここに一人残っているぞ」

 白刃がむちのように舞う。凄まじい剣撃の閃光が吹き荒れ、群れの先頭に陣取っていた魔獣が細切れになった。

「ピギャァアアアアアアアアアアアァァ!」

 豚顔の魔獣が絶叫する。骨肉が断裂し、紫色の血液が溢れ流れた。女戦士は鮮やかな足捌きで、返り血を掻い潜る。群れの前衛を崩し、中央に斬り込み、蹂躙を開始する。

「喚け! 叫べ! 苦しめ!! 貴様らの情けない断末魔は死んでいった同胞の手向けとなる!!」

 万全の状態であれば、雑魚を相手に遅れは取らない。一振りで三匹の魔獣が胴体を寸断された。

 恵まれた体格から繰り出される轟力無双の斬術。反撃を試みる蛮勇な魔獣もいたが、数秒後にはバラバラの肉塊へと変わった。

 キサラギは戦いを離れた場所で見物していた。魔獣達の混乱ぶりは著しい。既に勝利を確信し、意気揚々と追いかけてきた者達の醜態は滑稽だった。

「うわぁ。めっちゃ、つえーじゃん。雑魚狩りって感じだ。あっ、モンスターがぶっ飛んだ。斬り上げて、あそこまで頭部が刎ね飛ぶもんかねぇ……? どんな筋力してんだ?」

 逆襲を受けるなど、予想もしていなかったのだろう。実際、契約を交わさなければ、竜人族の女戦士は絶命していた。

 追跡してきた魔獣達はその死体を嬲り、持ち帰るだけの簡単なお仕事。しかし、この世ならざる者の介入により、運命はねじ狂った。

「グガァァアアアアアアアァッ!!」

 助走をつけた一角獣が突進する。切り刻まれた仲間の骸を踏み砕き、一直線に超加速した。鋭利な先端の角が女戦士に迫る。

 猪突は好都合であった。一匹一匹の魔獣は取るに足らない雑魚だ。しかし、魔獣の軍勢が数十、数百、数千となれば、一騎当千の猛者であっても圧殺されてしまう。ゆえに、深淵の魔獣は脅威だ。

「数の利を捨てる愚物め。単騎でこの私に勝てるものか」

 長剣を振り上げ、高速の一閃で両断する。

 一角獣の外殻を切り裂いた刃が激しく赤熱し、斬撃の威力を物語る。

「貴様らは一匹も逃がさんぞ。竜郷ドラカ=ヴェルグを侵犯した獣は皆殺しにする! 次に死にたい奴はどいつだ!? 私の前に進み出ろ!!」

 恐怖で浮足立ち、逃げようとした魔獣を刺突で貫き、串刺しの見せしめとした。魔獣達は無残な敗死を確信しながらも、最後の一匹となるまで、逆襲者の血塗られた刃に抗い続けた。

 キサラギは鏖殺おうさつの完遂を見届けた。

 見事な戦いっぷりであり、勝者に惜しみない拍手を送った。地面に散らばった魔獣の死体を避けながら歩み寄る。ゼフィラは呼吸一つ乱れていない。余裕の表情だった。

「ゼフィラって強いんだな。そんだけ強いのに、なんであんな大怪我していたんだ?」

「厄介な魔獣も存在する。こいつらは雑魚だ。異能を使う奴は一匹もいなかった」

「異能……? 魔法ってことか。ゼフィラは戦士だもんな。敵が魔法を使うと戦いにくいのか?」

「問題なのは数だ。小規模な群れならどうとでもなる。しかし、敵が大地を轟かせる大軍となれば、こちらも相応の戦力を求められる。圧倒的な数で消耗させられれば、どれほどの力を持っていても押し負けてしまう。私は里を守りきれなかった」

「ゼフィラは竜郷って言ったよな。それが竜人族の里?」

「竜郷ドラカ=ヴェルグを知らない……?」

「ああ、知らないぜ」

「キサラギは幽世の森に棲みついていたんだろう? 死の化身と言っていたが、精霊なら聞いたことぐらいあるはずだ。今まで人間と接触したことがなかったのか?」

異世界このよで暮らしてたわけじゃない。俺は何も知らないんだ。教えてくれよ。竜郷どらぐ=べるか? 有名な場所? ドラゴンが作った里だったりする?」

「竜郷ドラカ=ヴェルグ。正しく覚えてほしいな。竜人族の郷里だ。古竜の大賢者が里を拓いたとされている。口伝によれば大賢者は巨大な両翼を誇るドラゴンだったそうだ」

「ドラゴン! いいじゃん。で、ゼフィラに翼は無いのか? 剣で戦ったけど、戦闘でドラゴンにならんの?」

「現代の竜人族には『竜角』と『竜尾』しか形質が残っていない」

「え? じゃあ……。変身とか……できない……?」

「変身だと? 我らは古竜の血脈を受け継ぐ末裔だが、そんな馬鹿げた能力はない。他の種族よりも体格に優れ、強靭と頑強を兼ね揃え、金剛石をも握り潰す膂力を誇る」

「あぁ。うん。そ、そっか……。そう……」

「無性に腹が立つな。そのがっかりした顔……。竜人族は戦士ウォーリアー祈祷師シャーマンの適性を持つ。他の種族よりも優れた血統だぞ?」

 ゼフィラは長剣に付着した魔獣の血を振り払う。竜人族の怪力がなければ、軽々とは扱えない重量武器であった。

(武器がデカい。俺の背丈と同じくらい? 改めて近くで見ると……身体もデカいし……胸もめっちゃデカい……。何もかも大きい……。俺って、この世界じゃ小人……?)

 キサラギは「小柄な種族もいるのか」と聞くために口を開いた。しかし、その質問をする前に新たな敵が襲来した。

「部下の魔獣を屠られて、やっと本命が来たな。下がっていろ。あれは厄介な敵だ」

 焦げ臭い匂いが漂ってくる。ゼフィラは嬉しそうに上空を見上げた。

「なにあれ? めっちゃ、燃えてない? あれが異能持ちの魔獣か?」

「キサラギは本当に何も知らないのだな。あれは魔天使デーモン。魔獣を統率する深淵の眷属者だ」

 飛来した怪物は全身が業火で燃え盛っていた。

 ゼフィラが斬り刻んだ魔獣達より数段上の存在だと一目で理解できる異形の姿。炎の表皮では巨大な目玉がいくつも蠢いている。周囲の木々が焼け落ち、降り積もった枯れ葉に発火する。

「戦士ゼフィラ……。どういうことだ? なぜ生きている? お前の臓腑を焼いた炎が消えた」

 空から降りてきた魔天使デーモンは、無傷のゼフィラが気に食わない様子だった。高度な治療魔法を使ったとしても、炭化した内臓が元通りに再生するわけがない。地面に散らばった部下の遺骸を見下ろし、次に仲間らしき少年を睨んだ。

「そこの貧相なガキは何者だ? 竜人族ではないな」

「へえ、さっきの獣っぽいモンスターと違って、こっちは言葉が話せるんだ。初めまして。キサラギだ」

「口の利き方をしらないのか。不遜な人間めが……! いや、お前……。人間か?」

 暗闇のような襤褸布を羽織った少年。見かけは普通の人間。しかし、魔天使デーモンは得体の知れぬ恐怖を覚えた。触れてはいけない怪物。関わってはならぬ禁忌。この世ならざる気配を感じ取った。

「敬語を使えってこと? 悪いな。話し相手が傲慢な性格の人だったからさ。影響を受けてるところはあると思うぜ。だけど、お前は見るからに悪い奴っぽいじゃん。仲良くできる感じしない。そういうわけで、お相手はゼフィラに任せる」

 キサラギはゼフィラの後ろにするりと隠れた。

「眷属者カザルドは炎を操る魔天使デーモンだ。竜郷ドラカ=ヴェルグを焼き払った魔軍の指揮官。ついでに私の腹に穴を空けた」

「ゼフィラにとっては仇そのものだ。魔天使デーモンに勝てるのか? 逃げる準備をしておいたほうがいい?」

「それなりに手強い。だが、好機だ。護衛も連れずに単騎でご登場とは……。くっくくく! 間抜けな阿呆め。仕留めてやるっ……!」

 ゼフィラは剥き出しの殺意を怨敵カザルドに向けた。

「クッククククク!! 間抜けな阿呆はお前だ! 傷を癒した手段は分からんが、次は全身を炎獄にべてやろう! 逃げ出す暇は与えんぞォ! お前は一瞬で灰燼かいじんに帰すのだ! 我は盟約に従いィ! 竜郷ドラカ=ヴェルグの竜人族を一匹残らず殲滅するゥゥウ!!」

 四枚の炎翼を広げたカザルドは、ゼフィラとキサラギに灼熱の息吹を放った。超高温の火炎放射が直撃すれば即死。竜人族の戦士であろうとも絶命は免れない。

(私は死の化身と契約を交わし、死に至らない〈永生の加護〉を得た。契約の条文通りなら私は死なない……。さて、どう戦うかな)

 与えられた能力は本物だ。確信は既に得ている。〈永生の加護〉が発動したおかげで、ゼフィラの傷は完治した。契約を試してみたい気持ちが芽生えた。

ーーーーーーーーーー

第一条「加護」

 本契約の有効期間中、生者は死に至ることはないものとする。

ーーーーーーーーーー

 攻撃の回避は可能。だが、ゼフィラは火炎の直撃を全身で受け止めた。不滅の肉体が燃え上がる。激痛を感じるが突き出した両手は、炭化と再生を繰り返す。火力が一段と増したが、比例するように再生力も強まった。肉体が再構築され続ける。

(驚愕だな。なんたる再生力だ! さすがは死の化身が与えてくれた加護! 素晴らしい! カザルドの吐く業炎に拮抗している!!)

 焙られた細胞の蒸発速度は凄まじい。けれども、〈永生の加護〉はゼフィラの肉体を補完し続けた。

「くっくくく! いいぞ! はっははははははははは! これが永生の加護! いかなる攻撃を受けても死に至らぬ恩寵!!」

 炎獄の中心でゼフィラは笑った。興奮で瞳が竜眼に変貌していた。

「馬鹿な! ありえん! なぜ耐えられる!? その異常な再生能力は……うぅっ……うぎゃぁあああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁぁ!!」

 魔天使デーモンはのたうち回り、鼓膜をつんざく悲鳴を上げた。突如として苦しみだした敵の様子にゼフィラは困惑する。

「……?」

 まだ自分は何もしていない。カザルドは激痛に悶え苦しみ、操っていた炎が鎮火した。怨敵を仕留める好機であったが、ゼフィラは仕掛けられなかった。

 自分の背後にいたキサラギは黒焦げの無惨な姿で死んでしまった。

「あ……。えぇ……? まさか死ぬのか?」

 死の化身でありながら、キサラギは焼死体になっていた。〈永生の加護〉は契約を交わしたゼフィラにのみ付与されている。灼熱の息吹に耐えきれず、キサラギは絶命していた。肉体は灰燼と帰した。けれど、漆黒の襤褸布は不気味に蠢いていた。

(私の服は燃えたのに、この襤褸布は火の影響をまったく受けていない……。生き物のように動いている。これは一体、どういう理屈なのだ……?)

 襤褸布は炭化したキサラギの焼死体に取り憑き、滅びた肉体を再構築していく。その修繕が進んでいくにつれて、苦しみの声を上げる哀れな者がいた。

「ぎゃあぁああああああああああああああああぁぁっ! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 熱い!! 焼ける! 私の身体がぁあぁっ! たまじいぢぃいぁがあぁ焼けるぅぅうっ!!」

 カザルドは業炎を支配する魔天使デーモン。火による攻撃は完全無効。火傷を負うはずがない。けれども、その肉体は自身が放った火に脅かされていた。

「なるほど。これが契約の第五条か……。攻撃の跳ね返り……。いや、そんな低次元なものではない。因果の逆転なのか?」

 ゼフィラは理解した。死の化身はいかなる存在をも殺傷しない。しかし、例外規定が設けられている。

ーーーーーーーーーー

第五条「帰属」

 死を殺傷した者は死に帰属する。

ーーーーーーーーーー

 死の化身に与えた攻撃は移し替えられてしまう。火炎に巻き込まれたキサラギは死んだ。死の因果は加害者に回帰する。

「あのさぁ……。ちゃんと守ってくれないと死ぬんだけど? なんでド正面で敵の火炎攻撃を受けちゃうんだ。巻き添えで死んだぞ」

 肉体の修繕が終わったキサラギは起き上がるなり、ゼフィラを非難する。焼け焦げた全身は何事もなかったかのように無傷だ。その一方、倒れたカザルドは己の炎で焼かれて死んでいた。

「すまなかった。私と同じで平気なものだとばかり……」

「一瞬で死ねたから良かったが気分は良くないぞ。てかさ、ゼフィラ……。わざと攻撃を避けなかったろ?」

「許せ。授かった加護の性能を確かめたかった」

「はぁ……。マジかよ。舐めプは足元をすくわれるぜ? そのせいで服が焼けちまってるじゃん」

「なめぷ?」

「舐め腐ったプレイ。いくら死なないからって、余裕をこき過ぎでしょ。オッパイ丸だしの痴女になってるぞ。視線のやりどころに困る。どうにかしろよ」

「服が直らないのは不便だ。身体だけが治るのか」

「俺に苦情を言われたってどうにもならない。〈永生の加護〉なんだから衣服は対象外だろ」

「……よかろう」

「よくねえ! 竜人族には慎みって感性がないのか!? せめて両手で乳首を隠せ! 成人エロ漫画の表紙絵でも乳首は隠すんだぞ!?」

「まんが? よく分からんが、剣を握っているのだ。そもそも隠してどうなる。騒ぐことでもなかろうよ。服は後で見つける」

 女戦士は羞恥心を持ち合わせていなかった。それよりも優先されるべきは魔天使デーモンカザルドの生死確認だ。

「なにやってんの?」

「カザルドの死体を確認している。魔天使デーモンは深淵の眷属だ。半日もすれば塵になって消える。その前に死因を調べる」

「焼死だろ。炎を操ってたくせに、焼け死ぬんだから間抜けな死に方だよな。人間の姿をしてないから、そこまでグロくない……ってのは撤回する。うわぁ……。きも。俺はこういうの無理だ。目玉が全身にいくつもついてる。多すぎ。蓮コラじゃん。きっしょ……」

「業炎の瞳だ。カザルドは視界に収めた火を自在に操る魔天使デーモンだった。念のために急所を破壊しておく」

 長剣の先端で焼け死んだカザルドの心臓を貫き、首を切断した。

(私の手で殺してやりたかったが、あっけない結末だ……。しかし、こうも簡単に死んでしまうのか? あのカザルドが……。自身の炎によって……)

 カザルドは名の知れた深淵の眷属者であった。竜人族の里を殲滅した強大なる魔天使デーモンの一柱。竜郷ドラカ=ヴェルグの勇猛な戦士達を焼き殺した。

「…………」

 ゼフィラは自分の腹部を確認する。傷一つない綺麗な肌だ。傷口は消えている。それどころか、幼少期に鍛錬で負った古傷も無くなっていた。

「どうしたんだ? ゼフィラ? 身体が痛む?」

「大丈夫だ……」

 不意を突かれたとはいえ、ゼフィラに致命傷を与えたのはカザルドの一撃であった。乱戦の最中、放たれた炎弾は腹部を貫通し、死に至る火傷を臓腑に負わせた。

「決着に納得がいかないのか? でも、復讐ってそんなもんらしいぞ。偉そうに説教をする気はないけどさ」

「…………」

「消化不良って顔だな」

「復讐の手段は問わない。里を襲った奴らに復讐する……。竜郷ドラカ=ヴェルグは滅びてしまった。私が契約を交わしたのはそのためだ。私自身が手を下さずとも、全員を殺せるのなら一向に構わない」

「竜人族の生き残りはゼフィラだけ?」

「私だけだろう。カザルドの他にも魔天使デーモンがいたようだ。私の師匠や父親も殺されてしまった。生き残っている者は一人もいない」

「竜人族はこの世界にゼフィラしかいないのか?」

「いいや、そうではない。世界のどこかには、他の竜人族がいるだろう。竜郷ドラカ=ヴェルグのような竜人族だけが住む里はないだろうがな」

「だったらさ、同胞を集めて復興すればいい。仇討ちは立派な復讐だけど、故郷を復興させるのも最高の復讐だと思うぜ。どう? いい助言だろ」

「…………」

「思い詰めても人生楽しくないぜ。どうせ復讐するなら、楽しくやっていこう」

「それはいいな。竜郷ドラカ=ヴェルグの復興……。里を守りきれず、生き残った私の責務だ。キサラギは協力してくれるのだな?」

「もちろん。他にやることないし。俺は契約を交わした人間の近くにいなきゃ駄目みたいだ。ゼフィラの左手にある指輪は互いを結びつける契約の証だ」

「指輪……。カザルドの業炎を浴びても融解していない。性質はキサラギが纏っている襤褸布と同じようだ。普通の物質とは気配が違う」

 漆黒の指輪は黒い光沢を放っている。

 左手の薬指に嵌め込まれた契約の証。指先で表面を撫でると、契約の内容が頭に流れてくる。

「……私に有利な契約だ」

「ん?」

「契約は必ず代償を払う。加護と代償は等価交換だ。〈永生の加護〉に釣り合う義務が私に課せられていなければ理屈に合わない」

「そうなのか?」

「私の義務は何だ? 第四条で定められた供物か? 私はキサラギに何を捧げればいい?」

「えっと、第四条は『死は捧げられた供物を所有する』だったな。供物……? 特に欲しいものはないぞ。いて挙げるなら服とか靴だ。この襤褸布だけで人前に出るのは抵抗を感じる」

「…………」

「どうしたんだ?」

「釈然としない。この契約は私に有利過ぎる。加護を得た者が支払う代償や対価、義務に関して明記されていない。しかも、私は契約を一方的に破棄できる」

 契約の破棄は簡単だ。ゼフィラが指輪を外し、自分の意思で棄てたとき、死の化身と交わした契約は破棄される。互いの合意は必要とせず、その気になればゼフィラはいつでも契約を白紙にできてしまう。

「利用するだけ利用して、棄てたのは良くないぞ! 善意には善意で報いるべきだ。俺はこの世界について何も知らない。こんな山中で放置されたら困るんだが?」

「恩を仇で返すつもりはない。……だが……あまりにも奇妙だと思っただけだ。キサラギはもっと有利な条件で契約を結べたはずだろう」

「それって気にすることか? 細かいことはどうでもいいじゃん。ゼフィラにはデメリットが無いんだ。破格の契約条件でお得だったろ。末永く、よろしく」

【第1話】転移

 「――腫瘍細胞の全身転移が判明した。医学的にはステージフォーに分類される」

 医師は十二歳の少年に告知した。

 ステージ四は病巣が全身に広がった最終段階を意味する。 残酷な診断結果を笑い飛ばし、少年はおどけてみせる。

「そいつはすげえ。ステージファイブは?」

「ない。ステージフォーが末期を意味する。君の症例は世界的にも非常に珍しい。主治医である私の見解は異なるが、病院側は君の余命を一年と見積もっている」

「まいったな。先生……。エイプリルフールは一昨日だぜ?」

「私はそういう行事に興味関心がない人間だ」

「……。余命宣告ってさ、未成年の俺に言って言いわけ?」

「ご両親には説明している。だが、君には教えないだろう。だから、伝えておくことにした」

「ありがたいね。死ぬ前に読みかけの小説を全部読破しなきゃな」

 ライトノベルを大仰に開帳する。しおりを挟んだページには、美少女キャラの裸体が描かれている。必要最低限の局部は隠されているが、全年齢向けとは思えぬ過激な性的描写が目立つ。

「……その小説を読むのは進めない。内容がくだらない」

「その選評は内容を読んでからにしたら? 目の前にいる余命いくばくもないファンに失礼だよ。先生」

「……最終巻の発売日は未定。早くても再来年だ」

 少年は読みかけのファンタジー小説をベッドに置いた。

「わざわざ調べてくれたんだ?」

「書店で見かけただけだ」

「人気作ってわけでもないし、店員に聞くか、ネットで調べなきゃ分からんでしょ。いつもの先生らしくないな。患者の余命が一年だからセンチメンタルになってる? 優しいじゃん」

「患者に寄り添うのは医師の仕事だ」

「じゃあ、先生の見解を教えて。病院側とは違う意見なんでしょ。そっちを信じるよ。俺の寿命はどれくらい?」

「分からない……。先例が一件もない稀有な症例だ」

「いいね。じゃあ、不死身って可能性もあるわけだ。希望が湧いてきた」

「…………。腫瘍細胞のメカニズムを完璧に解き明かせば、人類は不老不死になれる。そういう説を主張する研究者はいる」

「さっきのは冗談だったんだけど……? 本気マジ? 真面目に返されちゃった。今日はいつもの先生らしくないな。このままだとドライアイスより冷たいって定評が覆っちゃう。普段だったら子供相手でも大人げなく『くだらない本ばかり読んでいたら、くだらない人生を送るぞ』って切り捨てるじゃん」

「大学病院と政府は君の医療費を全額負担している。慈善的な理由ではない。君の病気は人類を不老不死に導く可能性を秘めている。これは事実だ。医学界だけでなく、大手メディアも君に注目した」

「取材系はぜーんぶ、先生が断ったじゃん。俺の病気が不老不死の鍵ね……。でも、俺は死にかけている。今年になってから、歩けなくなった。ナメクジ以下の筋力しか残ってないぜ。ラノベを持ち上げるのも一苦労だ。そのうち、指先どころか、まぶたすら開けられなくなるかも。あー、やだやだ。本が読めないのは困る」

「そこまでして読むのが、その低俗な小説か……? もっと教養のある本を読むべきだ」

「大衆小説だって教養じゃない?」

「それは大衆小説以下だろう。児童書とも言えん。私には分からないな。……くだらん空想にふける人間の気持ちは理解に苦しむ」

「先生がお薦めする本って、古典ばっかりじゃん。そんなのを読む子供がいる?」

「私は幼少期に読んでたぞ」

「先生は気張りすぎ。もっとさ、くだらない本を読むべきだったんじゃない? 人生は無駄使いすべきだ。そうじゃなきゃ、面白くない」

 少年は肩真面目な医師に読みかけのライトノベルを差し出した。表紙にはドラゴンが描かれている。本を手に取った医師は仏頂面だ。

「これ、本当に子供向けか……? イラストにほぼ全裸の少女が描かれてるぞ」

「それ。エルフだから三〇〇歳越えの老女キャラだよ? のじゃロリ婆の神官長カティア。合法ロリ。先生はもっと異世界ファンタジーを勉強しなよー。トラックにき殺されて異世界転移とかはかなりメジャーなジャンル。実は読者層も高いんだよ。先生くらいの人も読んでる。ブラックな社会に嫌気がさして、来世に期待しちゃうんだろうなぁ」

「異世界なんて存在しない。人間の空想だ。死後の世界はない。人間の妄想だ。死者は蘇らない。人間の願望だ。――この世に魔法や奇跡はない」

「詰まんない感性。先生ってさ。無宗教で無神論者でしょ。子供のころにサンタクロースを信じてないタイプ。この世界じゃ圧倒的に少数派だ。人類の大半はね、死後の世界を信じているんだ。最後の日に全人類が復活して、審判を受けるって話もあるよ。世界一売れたベストセラー本に書いてある」

「未婚の処女が男子を産むくらいの信憑性だな」

「うわぁ……。痛烈。まぁ、でもさ、答え合わせは死後にしかできない。先に答えを知るのは俺だ」

「そうだな。この低俗なエロ本は返す。別の仕事がある。何かあればナースコールで呼びたまえ」

「その本は先生にあげるよ。物語の完結まで読めないなら、意味ないしさ。最終巻は早くても再来年だっけ? 俺はこの世にいないかもしれない。残念。――まあ、打ち切りじゃないだけマシだな」

「余命宣告は病院の見解だ。不老不死などというくだらない研究に取り憑かれている病院や政府と違って、主治医である私の仕事は、君を一秒でも長く生かすことだ。最後まで読め。そのために私は力を尽くす」

「…………。先生ってさ、嫌な性格してるけど善い人だよな」

「知らなかったか? それが数少ない私の美徳だ。気に食わないことには抗い続けた。だから、理不尽な運命を覆すために医者を目指した。私の足掻きに付き合う気はないのか? 君、次第だ」

「オッケー。じゃあ、頑張るよ。やる気が出てきた。俺も運命に抗う。それが数少ない俺の美徳だ」

 余命はたったの一年。日本でもっとも権威のある大学病院の診断は大外れであった。主治医は死に物狂いで、残酷な死の運命を覆そうと奮闘した。患者も死力を尽く、最期まで抗った。

 四年後の冬。――如月きさらぎ神夢威かむいはこの世を去った。十六歳の少年だった。

 ◆ ◆ ◆

 よどんだ深淵に意識が沈む。闇の底でまばゆい光がきらめく。絶命は一瞬であったように思えたし、永劫の時間を過ごした気もした。永眠から目覚めるとキサラギは霧深い森を彷徨っていた。

「……?」

 両足で地面を踏んでいる。指先に力が入る。ずっと開かなかったまぶたを見開いて、原生林の風景を眺めた。まだ現実感が乏しい。まるで夢を見ているようだった。

「ここは? あの世か……? はははっ……! 何だよ。やっぱり、あるんじゃないか。先生は間違ってたな。自信満々だったくせに……。科学と医学ばっかりで、オカルトを貶してたけど、死後にも世界はあった」

 寒さは感じない。

 身にまとっているのは漆黒の襤褸布ぼろぬのだけだ。

「さて、問題はここが地獄と天国のどちらかってことだ。初期装備は真っ黒な襤褸布ぼろぬのだけかよ。病院服は嫌だけど、まともな服を着させてくれ。死に装束をケチりすぎだろ」

 自分の肉体を確認してみる。痩せ細っているが、健康体だった。

「おぉっ、髪の毛が復活してるじゃん。いいね。しかも黒髪だ! これは嬉しい! 十四歳のとき、総白髪も抜け落ちちゃったからな。あっ! ひょっとして……! これって十三歳の身体か!? そんな気がするぜ」

 カムイは十二歳で余命一年を宣告された。本来ならば十三歳で死ぬ運命になった。それを気力で生き永らえ、十六歳まで粘った。死後の世界では十三歳の身体に戻っていた。

「なるほどな。この痩せ具合。三年前の感じだ。幸先がいい。身体の自由が利く。あの世でも寝たきりじゃ詰まらない」

 周囲を見渡すが、濃い霧が辺り一面を覆っている森だ。

「……てか、案内人とかいないの? あの世ってセルフ式?」

 文句を言いながら、自分の両足で歩き回れる喜びを味わう。誰の助けも借りずに動ける。当たり前の幸せが心を充足させる。

 カムイが迷い込んだ森は人の手が入っていない原生林だった。見たことのない樹木が天高く伸び、大空を枝葉で覆っていた。日光が地表に届かないせいで、低木は淘汰されている。

「あの世って思ったよりも生態系が豊かだな」

 樹液に群がる昆虫を見つけた。不思議な形の甲虫はカムイが近づいても逃げない。試しに指先で触れてみる。

「……逃げないのか? いや、触れていない?」

 甲虫を掴み上げようとしたが駄目だった。感触はある。だが、動かせない。

「俺って幽霊……? 足はあるぞ? 地面には立ってる」

 地面を踏んでみた。足の裏で腐葉土を踏んでいる感覚がある。

「生物に触れられない感じ?」

 足元に落ちていた枯れ枝を掴む。だが、持ち上げられなかった。

「…………。動かねえ。重いわけでも、すり抜けるわけでもないのに……なんで?」

 考えたところで答えは出ない。

「石ころも駄目か……。裸足で踏んずけても痛くないからいいけど……。霊体? 魂だけになってるのか? 意味わからん。おもしろ。ファンタジーじゃん」

 さらに進んでみようと前方を見た瞬間、白い霧の中で揺らめく人影を視界に捉えた。

「お? 誰かいる……!」

 カムイは小走りで森を駆ける。呼吸が乱れる。だが、酸欠の感覚とは何かが決定的に違った。細胞に疲労は溜まらず、魂そのものが弱まる。魂魄にも体力があるのだと実感した。

(外国人……? ん? いや、人間じゃない? 頭に角があるぞ?)

 血塗れの女戦士は絶命寸前だった。体中に大きな傷がある。猛獣に引き裂かれたかのような致命傷。大地には血が滲んでいた。

「何だ。貴様は……? 魔物の追手……じゃないな……。幽世かくりょの森に棲むといういにしえの精霊か?」

 苔の生えた大岩に背中を預けて、死にかけの女戦士はキサラギに問う。日本語を喋っていない。しかし、キサラギには異世界の言葉が理解できた。自分もその言葉を話せるようになっていた。

「精霊ってか、亡霊だ。……酷い傷だな。喋らないほうが良さそうに見えるぜ」

「ごほっ! ぐほぉっ!」

 女戦士は血反吐を吐き捨てる。肺に血が入り込み、上手く呼吸ができていない。

「大量の出血だ。これじゃ止血しても……。素人目に見ても手遅れだ。しかも、この火傷……。溶岩を泳いできたみたいだな。このままだとお前は死ぬよ」

「小童……。亡霊と抜かしたな?」

「俺は死んでるからな。お前は死者と話しているぞ」

「ならば、貴様は冥界の使者か? 最悪だ……」

 とても美しい女性であったが、鍛えられた肉体と凛々しい顔立ちは、勇猛さが大きく勝っている。戦いに敗れて逃げてきたようだが、命懸けの死闘を繰り広げたことは容易に想像できる。

(何かに襲われたみたいだ。……殺伐としてるな。治安が悪そうだ)

 握り続けている長剣には、紫色の鮮血が滴っていた。

(なんか……。世界観が違う気ような……? あの世か……? むしろ……ここって俗に言う異世界か?)

 キサラギは女戦士の風体を間近で観察してみる。値踏みするように細部を確かめていく。頭からドラゴンの角が生えていた。立派な二本の捻じれ角だ。よく見ると尻尾も生えていた。服装は民族衣装色の強い皮鎧。プラチナブロンドの長髪は血染めの穢れが目立つ。

 鍛え上げられた女体に備わった豊満なる乳房。けれど、美女の艶めかしい媚態よりも、焼け焦げた腹部の大穴に吸い込まれる。臓腑が炭化していた。生きながらに焼かれ、それでも彼女は生きている。近づくと火の粉が舞った。業炎の残り火が傷口で燻っていた。

「こんな身体でよく生きていられるもんだ。……長剣に付着した紫色の血は? お前の血じゃないな。何の血だ?」

「はぁはぁ……うっ……。魔物の血に決まっているだろう……」

「魔物の返り血? 魔物と戦ってたのか?」

 この世界には魔物が存在する。そして、その血液は紫色だと知った。

「里が襲撃を受けた。竜人結界を破られた……。魔天使デーモンが魔獣の大軍を率いて押し寄せてきた。戦ったが……このざまだ……ぐっ……げほっ……!!」

「竜人ね。ご説明どうも。通りで。その見た目。普通の人間と違うみたいだが、その負傷はヤバいだろ。治療魔法とかで治せないのか?」

 魔物がいる世界だ。魔法くらい実在しているだろうと当たりを付けた。

「魔法を……使えない……。私は戦士だ……」

「じゃあ、助けが来なければ死ぬしかないわけだ」

「来ない……。里の者達は皆殺しにされた……。私が最後の生き残りだ」

「俺の知り合いに名医がいるんだ。最高に性格が悪くて、めっちゃ腕の良い最高のお医者様。……だけど、ここには連れてこれない。仮に助けを呼べても、その重傷じゃもう無理だ。死相が出てるぜ。俺にできることはなさそう。悪いな」

 キサラギは両手を合わせる。

 竜人の女戦士は死期を悟る。息も絶え絶えに、悲涙の雫を流し、最期の言葉をつぶやいた。

「――嫌だ。死にたくない」

 生と死の狭間で魂は叫ぶ。その瞬間、キサラギは己の能力を認識した。

 異世界に降誕せし、この世ならざるもの。キサラギは死の化身であった。死は契約によって生者に加護を与える。

「――生者の魂に問う。汝、契約を交わすか?」

 キサラギの舌が勝手に動き、女戦士に契約を提案する。身にまとう漆黒の襤褸布から糸がほつれ、細い糸が空中を踊り舞い、長ったらしい契約の全文を紡ぎだした。

――――――――――

第一条「加護」

 本契約の有効期間中、生者は死に至ることはないものとする。

第二条「手続」

 本契約は契約全文を開示した上で、生者の自由意志に基づき締結されるものとする。

第三条「誓約」

 死はいかなる存在をも殺傷しないものとする。

第四条「権利」

 死は捧げられた供物を所有する。

第五条「帰属」

 死を殺傷した者は死に帰属する。

第六条「契約の記録、変更および破棄」

 第一条以降の契約全文は、指輪に記録されるものとする。本則に反しない限り、双方の合意に基づき、契約の変更または追加を行うことができる。契約者が自己の意思により指輪を棄てた場合、本契約は破棄されたものとみなす。

――――――――――

 死の化身は生者に契約を迫る。異世界に降り立ったサラギは超常の存在。絶命の淵にいる女戦士が生き延びる唯一無二の手段が提示された。

 契約の第一条によって与えられる「加護」は永生を意味する。

 どのような方法で殺害を試みても、契約者は絶対に生き続ける。臓腑を黒焦げにされていようが、致死量の血を垂れ流していようが、生命は失われない。

「この世界だと俺は死■だ。……ん? あれ? ■って言えない? この世界だと■様って概念がないのか? すごいな。まぁいいか。俺は死の化身みたいだ。実際、死んだことがある。俺と契約すれば、お前は助かるみたいだぞ。良かったな。死にたくないんだろ?」

「貴様……。精霊ではないな! 魔物ですらない……! 冥界から這い出た魑魅魍魎か……!!」

 凄まじい形相で睨みつけてくる。手を差し伸べているにもかかわらず、猛烈な嫌悪と警戒心を向けられた。

「安心してくれ。俺には分かるんだ。この契約は絶対に確かなものだ。『本契約の有効期間中、生者は死に至ることはないものとする』死にたくないというのなら、契約に応じるべきだ。俺は第二条に基づき、契約全文を開示した。あとは、そちらの返答次第さ。さぁ、どうする?」

「口の達者な化け物が……!」

「予想外の反応だな。悪くない契約内容じゃん。もっと喜んでもらえるかと……」

「…………」

「死生観や道徳に反するのか? 里を魔物に襲われたんだろ。永生の加護を得れば復讐できるぞ。どんな攻撃を受けても死なない。無敵の身体だ。……やられっぱなしで死ぬのが望みか?」

「……悪辣な奴だ」

「たぶん、今は仮契約中だ。今際いまわきわってヤツ。だから、まだお前は生かされている。この状態は長続きしないぞ。契約の意思がなければ、お互いにさようならだ」

「邪悪な死の化身め……。いいだろう。私に永遠の命を与えろ!! 我が名はゼフィラ! 竜人族の戦士! 同胞の仇を……! 復讐のために貴様と契約してやる……!!」

 苦渋の決断だった。

 得体の知れぬ異形と取引を交わす。相手が禁忌の存在であるのは分かっていた。それでも気高き竜人族の女戦士は復讐を選んだ。愛する故郷を踏み躙り、同胞を皆殺しにした魔物を殺したかった。

「――代償は支払われた。ここに永生の契約は結ばれた」

 死の化身は身毛がよだつ笑みを浮かべ、竜人の女戦士ゼフィラと契約を交わした。

 空中で契約文を紡いでいた黒糸が凝結し、漆黒の指輪が形成される。キサラギはゼフィラの左手を取り、薬指に契約の指輪を填めた。契約の指輪を棄てない限り、その者は死に至ることはない。

 ゼフィラの致命傷は、ほんの数秒で完治した。損傷の超再生、肉体の再構築。焼け焦げた腹部の大穴が塞がり、失われた血液が再生成される。

「死の化身よ。貴様の名前を聞かせてほしい」

 傷の癒えたゼフィラは立ち上がり、救い主の少年を見下ろした。

「キサラギ・■■■」

「……? 何と言った? きさらぎ……?」

「あぁ……悪い。下の名前は駄目っぽい。こっちじゃ発音できない。キサラギって呼んでくれればいい。これからよろしく。俺はこの世界について、何にも知らないんだ。――ちなみに、こっちの押し寄せてるモンスターの群れ。あれがゼフィラの里を襲った魔物か?」

「そうだ。来たな。魔物どもめ。血の匂いを追ってきたか……」

「どうすんの? 逃げる? 数が多いぞ」

「いいや。傷は完治した。身体が動く……!! 感謝するぞ。死の化身キサラギ! 貴様のおかげで、私は奴らを皆殺しにできる……!!」

【第0話】前日譚『異界の竜巫女』

 ――世界が憎い。

 ――死に際の少年は世を呪う。

 ――幸せな人間が妬ましかった。

 小学校で隣の席になった男の子と友達になった。いや、女の子だっただろうか? 名前は思い出せない。顔も忘れてしまった。

 きっと相手も忘れたはずだ。

 たったの一カ月だけ、地元の小学校に通った。学校を楽しみにしていた。だが、奇妙な発熱が続き、小児医療クリニックで診察を受けた。

 深刻な面持おももちの町医者から「珍しい病気かもしれない」と告げられた。もっと大きな病院で検査入院する必要があると紹介状を書いてもらった。

 大学病院に入院して精密検査を受けた。その結果、家にも帰れなくなった。医師や看護師のざわつきは覚えている。症状が落ち着けば自宅療養に移れると、気休めの言葉をかけてもらった。

 当時、幼い子供ながらに「ああ、この大人達は気遣いで嘘をついている」と感じ取っていた。

 病状は悪化の一途を辿った。薬の副作用に蝕まれた身体は、枯れ木のように細くなった。けれど、この薬のおかげで少年の寿命は伸びた。

 小学校に通えないまま、中学生の年齢になった。二足歩行どころか、四つ足で這うことも難しくなり、日に日に身体は衰弱した。院内学級にも通えなくなった。両親のお見舞いも減った。少年の話し相手は、主治医の先生が多くなった。

 先生はとても傲慢な性格で気難しい人だ。

 周囲から疎まれていた。でも、とても尊敬されている名医だ。

 患者の人命を救う。その一点に関しては誰よりも本気の人だった。誰がどう考えても死ぬ運命にある患者でさえ、救おうと全力を尽くしてくれる。奇病を発症した少年が十五歳まで生き永らえたのは先生のおかげだ。

 両親は既に希望を捨てた。新しく生まれた弟に夢中で、衰弱していく最初の子供を見ようとしなかった。責められはしない。人並の愛情はあった。だけど、並外れた愛情はなかったのだ。

 衰弱しながらも、生き続ける息子を直視できなかったのかもしれない。あるいは恐怖していたのか。

 ――あの子はいつ死ぬんですか。

 ――あんな姿になるくらいなら。

 ――なぜ生かす必要があるのですか。

 ――ずっと苦しみ続けるのなら。

 いっそ死なせたほうが幸せだ。ある時、そんな口調で両親は先生に質問した。聞かれていないと思ったのだろう。先生は頭がいいから、病室では答えなかった。指先すら動かせなくなっても、バイタルサインで患者の意識があると分かっていたのだ。

 実際、周囲の会話を少年は認識し続けている。

 ――安らかな死を望まれても、少年は死に抗い続けた。

 生への執着は恐怖心からではない。自分を見ようとしてくれない肉親へのささやかな復讐。そして、自分を生かしてくれている名医への返礼だった。

 ――けれど、その抵抗の日々もついに終わる。

「来週、生命維持装置を止めることになった。君のご両親は尊厳死を希望した」

 その予想はついていた。ベッドの上から動けず、指先すら動かせなくなった息子。この半年は生きているだけの状態だった。

「患者本人の同意がなければ、安楽死はできないのだが……。君は意思表示ができない。でも、意識はあるんだろう? だから、私は反対した。だが、担当医を外されてしまってね」

 一方的に先生は語りかけてくる。十年の付き合いがある。少年が視力を失ってからは、ライトノベルを音読してくれた。

 誠心誠意、患者に尽くす。先生の気高き美徳には感服してしまう。なにせ、不服そうに異世界ファンタジーの低俗な文章を読み聞かせてくれたのだ。

「珍しい症例だから、君の治療費は病院と政府が負担している。だが、人道的な見地から君を安らかに眠らせるべきだという意見がある。世論やメディア曰く、私は子供を実験体にしている税金泥棒のマッドサイエンティストだそうだ。……低能の相手は本当に疲れる」

 先生の悪い癖は未だに直らない。

 頭は良く、口が悪い。いつも人を見下す。だから、いつも悪者にされる。誤解とはちょっと違う。

 子供にだって分かる明らかな悪癖。

 ある種の自業自得だ。あからさまな態度を偽る性格であれば、きっと順風満帆な人生だったに違いない。でも、自覚している当人はまったく直す気がなさそうだ。

 付き合いの長い患者や同僚、看護師達だけは先生の本気を知っているから、尊敬が嫌悪を凌駕する。疎みながらも敬服の念を抱く。

「君と私の付き合いも十年に及ぶ。君は六歳で発病し、十二歳で余命一年の宣告を受けた。だが、十六歳まで生き延びた。……凄いことだ。よく頑張った」

 十年の闘病生活。まさに死闘だった。少年は人生のほとんどを病室で過ごした。

「私は天国だとか、地獄だとか。あの世を信じちゃいない。だが、君は違ったな。……死後の世界では好きにすればいい。自由を謳歌したまえ。魔法や奇跡はあるのだとしたら、君は確認できるはずだ」

 先生の非科学的な言動に驚いた。こんなことを口にする人ではなかった。

 手足が動いた頃、異世界転生の小説を読んでいたら、小馬鹿にされたのを思い出す。死後の世界を先生は否定していた。神だとか幽霊だとか、宗教やオカルトを嘲り笑う嫌な人だった。気遣いだって下手だ。子供相手の配慮にも欠けている。

 ――だから、確信する。もうすぐ死ぬのだ。死神の足音が聞こえる。

「力及ばず申し訳ございませんでした……」

 先生は深々と頭を下げて謝罪する。

 死ぬのは嫌だ。しかし、もはや死ぬしかない。

 今日まで自分を生かしてくれた名医はいなくなる。来週には生命維持装置を外れて、家族に看取られてこの世を去る。

(そんな惨めな末路は嫌だ。自分で生き方を決められなかった。死に方まで奪われて堪るか……!!)

 己の意思で死に手を伸ばした。今まで押し退けてきた死を引きずり込む。病魔に肉体を食い散らかされても、その魂だけは強靭であり続けた。

 ――如月きさらぎ神夢威かむいはこの世を去った。十六歳の少年だった。

 ◆ ◆ ◆

 清らかな光の中に意識が沈む。天上のいただきを深淵の光が覆った。絶命は一瞬であったように思えたし、永劫の時間を過ごした気もした。永眠から目覚めるとキサラギは霧深い森を彷徨さまよっていた。

「……?」

 両足で地面を踏んでいる。指先に力が入る。ずっと開かなかったまぶたを見開いて、原生林の風景を眺めた。まだ現実感が乏しい。まるで夢を見ているようだった。

「ここは? あの世か……? はははっ……! 何だよ。やっぱり、あるんじゃないか。先生は間違ってたな。自信満々だったくせに……。科学と医学ばっかりで、オカルトを貶してたけど、死後にも世界はあったぜ」

 寒さは感じない。

 身にまとっているのは純白の襤褸布ぼろぬのだけだ。

「さて、問題はここが地獄と天国のどちらかってことだ。初期装備は真っ白な襤褸布ぼろぬのだけかよ。病院服は嫌だけど、まともな服を着させてくれ。死に装束をケチりすぎだろ」

 自分の肉体を確認してみる。痩せ細っているが、健康体だった。

「おぉっ、髪の毛が復活してるじゃん。いいね。白髪のままだけど、まあいいか。十四歳のとき、総白髪も抜け落ちちゃったからな。あっ! ひょっとして……! これって十三歳の身体か!? そんな気がするぜ」

 カムイは十二歳で余命一年を宣告された。本来ならば十三歳で死ぬ運命になった。それを気力で生き永らえ、十六歳まで粘った。死後の世界では十三歳の身体に戻っていた。

「なるほどな。この痩せ具合。三年前の感じだ。幸先がいい。身体の自由が利く。あの世でも寝たきりじゃ詰まらない」

 周囲を見渡すが、濃い霧が辺り一面を覆っている森だ。

「……てか、案内人とかいないの? あの世ってセルフ式?」

 文句を言いながら、自分の両足で歩き回れる喜びを味わう。誰の助けも借りずに動ける。当たり前の幸せが心を充足させる。

 カムイが迷い込んだ森は人の手が入っていない原生林だった。見たことのない樹木が天高く伸び、大空を枝葉で覆っていた。日光が地表に届かないせいで、低木は淘汰されている。

「あの世って生態系が豊かだな」

 樹液に群がる昆虫を見つけた。不思議な形の甲虫はカムイが近づいても逃げない。試しに指先で触れてみようとしたら、すり抜けてしまった。

「触れられない?」

 甲虫を掴もうとしたが駄目だった。それどころか伸ばした手が樹木を貫通した。

「俺って幽霊……? 足はあるぞ? 地面には立ってる」

 地面を踏みつける。足の裏で平面を踏んでいる固い感覚がある。

「生物に触れられない感じ?」

 足元に落ちていた枯れ枝を掴む。だが、持ち上げられなかった。

「……すり抜ける。どんな原理だよ」

 考えたところで答えは出ない。

「石ころも駄目か……。裸足で踏んづけても痛くないからいいけど……。霊体? 魂だけになっているのか? 意味わからん。おもしろ。ファンタジーじゃん」

 さらに進んでみようと前方を見た瞬間、白い霧の中で揺らめく人影を視界に捉えた。

「お? 誰かいる……!」

 カムイは小走りで森を駆ける。呼吸が乱れる。酸欠の感覚とは何かが決定的に違った。細胞に疲労は溜まらず、魂そのものが弱まる。霊体にも体力があるのだと実感した。

(外国人……? ん? いや、人間じゃない?)

 森で出会った人物は長身の女性だった。派手な民族衣装を着ている。

 遠目からだと真っ黒なウエディングドレスの花嫁衣裳。近くで観察すると淑女の喪服だ。細部に施された金糸の刺繍は、何やら儀式的なものを感じさせる。爆乳を圧迫するドレスの胸部は、破裂寸前で窮屈に思えた。

(すげえ長身の美女……。乳房やケツが馬鹿デカい。ん? そもそも全身のサイズスケールが大きい)

 端正な顔立ち、日本人離れした長身のスタイルを誇る。しかし、映画で見た外国人女優とも違った雰囲気の美女。天女のような気高き美顔だ。生涯で一度も訪れたことはないが、美術館で飾られている美女の彫像はきっとこんな要望なのだろう。

「あの……。言葉、分かる? あの頭から生えてる角って……本物……? トカゲの尻尾もあるし……。人間じゃない? もしもーし? ハロー? グーテンターク? ボンジュール? オラ? ブエノスディアス? ズドラーストヴィチェ? ニーハオ?」

 カムイの問い掛けに美女は無反応だった。

 思いつく限りの外国語で話しかけてみる。けれど、美女はカムイの存在に気付く素振りを見せない。

「これ……。俺の声が聞こえてねえな……」

 美女の周囲を歩き回ってみる。こちらの動きには無反応。やはりカムイの姿を認識できていなかった。

「ガン無視じゃん。バグまみれのゲームをプレイしてる気分だ。NPCエヌピーシーが無反応だとこんな気持ちになるんだな」

 カムイは間近で角と尻尾が生えた美女を観察する。コスプレイヤーの作り物ではない。リアルな角の質感、左右に動く尻尾、本物の亜人種だ。

「まあ、でも、いくつか分かった。ここは日本じゃない。別の世界だ。角と尻尾が生えた人間は、俺の生きてた世界にいなかった。この美貌も人間離れしている。すごい完成度の美女だ。ハリウッド映画の女優よりレベル高いぜ」

 人間で例えるなら二十代後半くらいに見える。容姿は若々しいが、幼さは残っていない。表情は暗く、苦労が滲んでいた。

 とんでもない闇を抱えていそうな薄幸の美女であった。

「竜人かな? 翼はないけど、トカゲよりはドラゴンって雰囲気だ。それにしても、オッパイと尻がデカい。グラビアアイドルとかセクシー女優すら比較にならないような肉体ボディ……。俺の顔よりオッパイがデカいぞ……。重そう……。ここまでデカいと邪魔なんじゃ? JカップとかKカップ? もっと大きいかも?」

 漫画雑誌の表紙を飾っていた巨乳グラビアアイドルよりも遥かに肉感的なスタイルだった。

 カムイの主治医は「そのグラビア女優は豊胸手術と画像修正で乳房を大きくしているだけだ。美容整形もしている。医者だから分かる。高望みするな」と、少年の夢を冷酷に破壊していた。

 余命宣告を受けた翌日の出来事だったので、カムイは鮮明に覚えている。

「見えてないから、好きなだけエッチな悪戯イタズラできそうだ。ああ、でも触れないのか」

 指先で乳首を突っついてみるが、通り抜けてしまった。物理的接触は不可能だった。

「このデカ乳女……。一人で何やってんだ? お散歩か? 何にも喋らない……。いや、待てよ。俺みたいに独り言をベラベラ喋っているほうが変か?」

 思い悩んだ表情で美女は歩き続ける。

(うげ……! この思い詰めた絶望顔……! 病院で何度か見たな)

 しばらく観察していたカムイは気付いてしまった。

「――お前、死ぬつもりだな」

 末期患者として病院で十年近く暮らしていた経験で分かった。案の定、美女は手提げから縄を取り出した。

 太い高枝に縄を括り付ける。美女は体重を支えられる首吊り用の木を探していたのだ。しかも、根本には苔の生えた大岩がある。足場にはぴったりだ。

「ここ。天国や地獄じゃなさそうだ。別の世界……。異世界か? はぁ……。なんでもいいや。ほんと、詰まらねえ。なんで自殺を見守らなきゃいけないんだ」

 カムイの推測は正しかった。死を決意した美女は首吊り自殺の準備を着々と進める。

「お前さァ。健康な体で五体満足じゃん……。そんで、すげえ美女。生まれながらに勝ち組だろ。なんで死ぬ?」

「…………」

「あー。胸糞悪い。俺の声なんざ、聞こえちゃいねえか」

 大きな石の上に立った美女は、首縄に頭を通した。静かに呼吸を整える。そして、一度だけ空を睨みつけると、足場の大岩から飛び降りた。

 ――美女の両足が宙に浮かぶ。臀部から生えた尻尾が苦しそうに荒ぶる。

 カムイは美女の首吊り自殺を妨害したくなった。

 善意からの行動ではない。嫌がらせだ。せっかく気分良く、異界の森を散策していたのに、不愉快な思いをさせられた。だが、カムイは生物に触れられなかった。物を動かしたり、破壊することもできない。

 腹を立てながら美女の首吊り自殺を眺めていた。

「――

 主治医の口癖だった言葉を呟く。カムイは魂魄だけの自由な身体となって異世界に降り立った。異世界降臨、直後に見たのが美女の首吊り自殺である。

「――本当にくらだない」

 唾を吐き捨てたくなるくらい不愉快だった。

 人生から逃げた自殺者に背を向け、立ち去ろうとした。その時だった。纏っていた純白の襤褸布ぼろぬのが絡みついて、カムイの歩みを阻んだ。

「そこの貴方? 何方どなた? 幽世かくりょの森に住まう聖霊様……?」

 呼び止められたカムイは振り返った。

 美女の首吊り死体が喋っていた。

「今は俺が見えるのか? ひょっとして……死者になったから俺を認識できるようになった? なるほどね。ああ、なぜか分かるぜ。――俺はそういう存在みたいだ」

 襤褸布の糸が解れていく。白い糸が空中を漂い始めた。

「あぁ……。ありがとうございます。幽世の聖霊様。私の罪深い魂を清めていただけるのですね……!?」

「おいおい。待てよ。勘違いすんな。感激してるところ悪いが、そんな尊い存在になった覚えはないぜ。俺は■様じゃない」

 カムイの言葉が一部だけ掻き消された。

 異世界に存在しない概念を口にしてしまったのだ。自分や美女が日本語を話していないことに気付いた。

「聖霊様? 何を仰っているのでしょう? 私には理解できない言葉が……」

「はぁ? マジぃ? この世界に■はいない? くそ! 説明が七面倒だな。都合よく翻訳とかできないもんなのか?」

「え……。あの……。申し訳ありません……!」

「いや、いい。謝るな。怒ってない。てかさ、お前、自分が悪いとは欠片も思っちゃいないだろ。謝るのが癖になってる奴の謝罪ほど、無価値なものはないぜ」

「……ぁ……はぃ……」

「この世界の人間じゃ、きっと理解できない。■の説明はこちらの言語だと不可能らしい。まあいいさ。とりあえず自己紹介。俺の名はカムイだ。お前の名前は?」

「私はミレイユと申します。幽世かくりょの聖霊カムイ様……。お会いできて光栄でございます」

「違う。俺は……。くそっ……。なんだ……。この知識は……? 知らないのに、全てを知っていることになる。あー。気味悪い」

 カムイの脳内に不可思議な記憶が流れ込む。誰かに教えてもらったわけではない。己の能力は最初から知っていたのだ。

(この世界に降臨した俺は人間じゃない。超常の存在だ。俺には特別な能力がある。契約を交わすことで発動する奇跡……! 能力に関する記憶を刷り込まれた。知らない間に知っている知識に置き換わった……! ゲームのチュートリアルかよ……! 薄気味悪いな)

 カムイの裸体に纏わりついた襤褸布が千切れ、白い細糸が浮かび上がった。空中を漂う糸は文章を紡いだ。それは死者と交わす契約の全文であった。

「ミレイユはこの文字が読めるか? この世界で使われてる言語だろ」

「はい。読めますわ。これは契約……なのですか?」

「俺にはさっぱりだ。この文字は読めない。異世界の知識が皆無だからな。だが、示された契約文の内容は分かっている。よく聞けよ。そして驚け! これは死者復活の契約だ。すげえだろ? 俺は超常的な存在で、死んだ奴を蘇らせる能力がある!」

「死者を蘇らせる力……!?」

「そうだ。お前は自殺した。愚かにも死んじまった。死者になったお前は俺と契約できる状態になった。だから、こうして仲良くお喋りしているわけだ」

 カムイは契約の第一条を指差した。そして、内容を読み上げる。

「第一条〈加護〉本契約の効力が及ぶ限り、巫女は蘇り、不死の加護を享受するものとする」

 その瞬間、美女は慌てた様子で叫んだ。

「待って! お待ちください! カムイ様! 蘇りたいわけではありません! 不死も欲してはおりませんわ!! 私は死にたかったのです!!」

「生憎だったな。俺の能力は蘇りだ。生き返りが嫌なら契約を断れ。そんで永眠しろ。続けるぞ。――第二条[手続]本契約は、全文を明示した上で倶生くしょうと巫女のをもって締結される」

「…………」

 ミレイユは糸で紡がれた契約文を見詰めていた。

「ん? ってなんだ……? まあいいや。とにかく契約の全文を読み上げるぞ」

 契約における倶生くしょうとは、異世界降臨したカムイ。巫女は契約を持ち掛けられた死者、すなわちミレイユを示している。人生経験の浅いカムイはの意味を理解していない。しかし、竜人の巫女であるミレイユは知っている。

 交合こうごうとは男女の契り。儀式的な性行為セックスを遂げることで、カムイとミレイユの契約は結ばれるのだ。

 そうとも知らずにカムイは、全ての契約条件を律義に読み上げる。契約の全文を開示しなければ、契約締結の手続きは始まらないからだ。

―――――――――――――――――

第一条「加護」

 本契約の効力が及ぶ限り、巫女は蘇り、不死の加護を享受するものとする。

第二条「手続」

 本契約は、全文を明示した上で倶生くしょうと巫女の交合をもって締結される。

第三条[義務]

 倶生くしょうは契りを交わした巫女に奉仕する。

第四条[権利]

 倶生くしょうは貢がれた贄物にへものを所有する。

第五条[受肉]

 倶生くしょうの肉体は巫女の愛妄あいもうかたどり、顕現する。

第六条[契約の記録]

 本契約の全文は指輪に刻印され、永劫の誓いとする。

―――――――――――――――――

 契約は全六条で構成される。

 倶生くしょうの化身と契りを交わした死者は蘇り、不死の巫女となる。巫女は加護を得る代わりに、倶生くしょうに貢がなければならない。

 契約条件は対等だ。倶生くしょうは巫女に奉仕する義務を負っている。お互いが契約で拘束され、契約を破棄する条項は設けられていない。

「お前って死にたかったんだろ。じゃあ、余計なお世話だな。まだ誰とも契約してないから分からんけど、蘇ったら二度と死ねなくなる感じだぞ。これ」

「そうみたいですわね……」

「ミレイユだっけ? なんで自殺した? 病気? 借金? それとも犯罪者?」

「違います。……私は自分の人生が嫌になったのですわ」

「人生?」

「嫌な男と結婚して、生きているのが辛くなりました」

「えっ? お前……。離婚すればいいじゃん。そんな理由で死んじまったの?」

 挑発的な態度で問い返した。

 竜人族の美女は瞳孔を見開き、口から火花が散った。逆鱗に触れたのだ。感情を抑えていたミレイユの冷めた表情から、溶岩のごとき怒気が一気に漏れ出した。だが、美女の激昂で怯むカムイではなかった。

 十年以上も闘病生活を耐え忍び、モルヒネですらも緩和できない激痛に抗って生き永らえた。生に対する執着と誇りは誰よりも強い。自殺を選んだ人間の感情も弱くはなかった。

「私にとっては十分な理由ですわ! 私は竜人族の里で生まれ、古い掟に縛られて生きていました。竜郷ドラカ=ヴェルグの結界を維持する巫女……! 霊媒の才能があったせいで、私は辺境の地で一生を終えなければならない……!! 好きでもない男と結婚して、愛したくもない娘を産んで……!!」

(変わった服装だと思ったけど、竜人族の巫女か。聖職者かな? そんで夫と娘がいると……。言われてみれば、人妻の雰囲気がある……。実はかなり歳上? そこそこ若く見える)

「私はこの世に生まれてからずっと我慢してきたわ……!! 自分の幸せを諦めて、一族のために尽くしてきたのにっ……!!」

(首吊り死体が愚痴を吐き散らかす姿はシュールだ。しかも、喋る、喋る……。ストレスを貯めてたんだな。俺はこの愚痴をずっと聞かなきゃならんのか?)

「私は夫が嫌い! 大嫌い!! 昔からあの気取った男が嫌だったわ。族長の家系だから結婚させられた。嫌だったのに!! あんな粗暴な男! 時間が経てば……夫婦になれば変わると思ったわ……。でも、何も変わらなかったの……。娘が産まれた後も……。私は家族を愛せなかったわ。こんなの……私が望んだ幸せじゃないのっ……!!」

「不幸な結婚と役目を負わされたのは同情するが……。そんなに嫌なら離婚とかすればいいじゃねえの?」

「ええ。そうね……。男ならそう言うわよね? 正しいわ」

 美女は怒った顔より、笑った顔が恐ろしい。カムイは新たな経験を味わった。

(なんだろう。ヤバい地雷を踏んだ気がする)

「夫から離婚を申し込まれたわ。あの男……! 私の妹と浮気してたのよ! あぁ……! あああぁあ!! あぁああああああああああああぁぁああ!! 双子の妹……! 私と違って巫女の素質がないから自由な生き方を許された妹! 掟に縛られず、あちらこちらを旅して、自由を謳歌している妹! 私が堪えてきたとも! 我慢も知らずに!! あの女!!」

(え? なに? 急に発狂した。こいつ、こわ……)

「私の夫は妹をずっと愛してたんですって……!! ふざけないで! だったら! だったらっ……! 結婚する前に駆け落ちすればいいじゃない……!! 今さら? 私の人生を踏み躙って男が『古い掟から脱却して、お互いのために生きよう』と言ってきたの!! 私の幸せを壊してきた奴が!!」

(しばらく黙っておこう。口を挟むと矛先がこっちに向きそうだ)

「私は我慢したのに! 掟のために! 里のために! 同胞のために! 自分の幸せを棄てたのに……!! 嫌いな男の子供を産んで……!! 憎らしい娘に愛情を注いで……!! ずっと! ずっと耐え忍んで!! 本心を殺し続けた! その結果が……!! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せないぃッ! 私を不幸にした奴らの幸せを見るくらいなら死ぬわ! それが責められること……!?」

「…………。どんな理由であれ、俺は自殺する奴に共感できねえよ。俺は生きたくてしょうがなかった。でも、死ぬしかなかった。不幸や理不尽から逃げるために死ぬ。そんな考えは理解したくもない」

「じゃあ、やっぱり……私が悪いっていうの!? 聖霊の貴方まで私を責めるの!」

 凄まじい形相で睨まれ、怒鳴りつけられた。

「そうは言ってねえだろ。俺がミレイユだったら、気に入らねえ奴らにするけどなァ。恩師からも『自由に生きろ』って言われたし……。お前、この世が憎くないのか? 理不尽や不合理を受け入れちまう気か? 情けねえな」

「…………」

「まぁ、人生は千差万別、人それぞれだ。責めはしねえさ」

「…………」

「さっきの愚痴で自殺した理由はよ~く分かったぜ。俺との契約でミレイユは蘇りたくないだろ? いいさ。他を探す。だけどなァ、返事を聞かなきゃ、この場を離れられない。だから、言っとく。――死者の魂に問う。汝、我と契りを交わすか?」

 ミレイユの返答は拒絶。

 そうに決まっているとカムイは油断していた。

「――契約をお受けいたしますわ」

 死者の魂は答えた。その瞬間、仮契約が結ばれ、ミレイユの死体が息を吹き返す。首に巻き付いた縄がほどけた。

「はい、はい。それじゃ、さような――。え? なんった? は? 俺と契約すんの?」

「はい」

「死にたかったんじゃなかったのか? 俺の話をちゃんと聞いてた? 不死になるんだぞ? 死ねないからな? 契約したら蘇るんだ」

「カムイ様と出会う前だったら、自殺で人生を終わらせていましたわ。けれど、天恵を与えてくださった……!」

「へ? 俺……なんか言っちゃった?」

「私を不幸にした奴らの幸せを見たくないなら……!! そうですわっ! ふふふっ! 復讐すればいい!! 何もかもメチャクチャにすればいいのよっ……!」

(俺の余計な一言で変なスイッチが入った。狂気に取り憑かれるってのは、このこと……?)

「私の人生に犠牲を強いた連中を不幸の底に沈めてやるわ……! 里を滅ぼすことだって、私ならできる……!!」

「は!? 里を滅ぼすだって? え? え? 滅ぼす? マジで言ってんの?」

「ええ、私を掟で縛り付けた忌まわしき竜人族の里……竜郷ドラカ=ヴェルグを滅ぼす……! それが私の願いですわ」

(うわー。こいつ……。マジもんじゃん。トチ狂ってるなぁー。……案外、おもしれー女かも。せっかく異世界に降臨したんだ。ミレイユの復讐劇を見守るのも悪くないか? このデカ乳女は頭がおかしくなってるし、退屈はしなさそうだ)

「カムイ様。契りを交わし、貴方様だけの巫女となりましょう! 契約締結の手続きをお願い申し上げますわ!」

 蘇ったミレイユは美麗な土下座を披露する。両脚を折り畳んだ座位は巨尻と腰の括れが際立つ。豊満な爆乳は、球形の輪郭が背中越しからも視認できた。

「ちょい待ち。契約の手続きね。え~と……第二条の……、ミレイユって交合こうごうのやり方を知ってる? 意味がよく分からん。辞書もスマホもないからな。どーすっかな。手を合わせりゃいいのか? 指を交差する? まさか? キスじゃないよな?」

「ご存知ないのですか?」

「知らねえ。そりゃ、契約を交わすのはミレイユが初めてだ。誰にだって初めてはあるだろ?」

「…………」

「急になんだよ。値踏みするように見て……」

 飢えた獣が美味しい獲物を見詰める。そんな視線だった。

「握手でも、接吻でもありませんわ。カムイ様。交合こうごうとは男女の性行為。すなわち、性儀式セックスですわ」

「へ? それって子作りする的な……?」

「あら。本当にご経験がないのですね」

 優し気な笑みを向けられる。

「なっ! なんだよ! 経験者ぶりやがって!」

「あらあら。ふふっ。私、これでも経産婦ですわよ」

「そうだった……。経験者か! とっ、ともかくさ。俺があるような年齢に見える? あ! え? ん!? てかさ、いいのか!? 夫婦以外でのセックスは浮気じゃん?」

「夫に捨てられた妻ですわ。今さら私だけが貞操を気にする必要がどこに?」

 妖艶な人妻は少年との間合いを詰める。

 にじり寄り、手の届く範囲に距離を縮められた。

「娘がいるんじゃねえの? 本当に俺とヤっちゃう気?」

 カムイは半歩ほど後ろに下がる。すると、ミレイユは半歩、前に進む。

「産み落としたときから、私はあの娘を愛していません。嫌悪すべき男の血が混じった子供……! 今日までは母親として振舞ってきたけれど、もう限界ですわ。母親を辞めるためにも……。どうか……!」

 血走った眼で竜人族の巫女が縋りついてくる。

(え? なにこの展開……? こんなとこで、初対面の女とセックスしなきゃならんのか?)

 この世ならざる少年は困惑した。

 仮契約中の死者が蘇るための契約は、交合が成された瞬間に結ばれる。

「お願いですわ。私を抱いてくださいませ……。カムイ様」

 巫女装束の肩紐を外し、規格外の超乳を露出させた。巨峰に相応しい巨大な乳輪は、焦げ茶色の染みが円形に広がっている。望まぬ婚姻で子を産んだ哀れな人妻の熟体。艶めかしい大人の色気に少年は圧倒される。

「ちょ、ちょっと……まっ……! まじ!?」

 大質量の乳房に顔面を包まれ、カムイは枯れ葉が敷かれた山林の大地に押し倒された。痩せ細った矮躯わいくを覆っていた純白の襤褸布がはだける。

 覆いかぶさってきた人妻が下着の腰巻を解き、恥毛の茂った女陰を男根にこすりつける。素っ裸にひん剥かれた少年は困惑の渦中にありながらも、女体の色香に魅了されていた。

 オスの本能がいきり勃つ。生前は排尿でしか用いられなかった男性器は、死後になって本来の役割を果たす。鼻息を荒くしたメスは、股から愛涎あいぜんしたたり垂らしていた。オマンコは直下にそびえるオチンポが欲しくて堪らないのだ。

 今まさに交合を遂げんとするミレイユは生唾を飲み込み、喉を大きく鳴らした。幽世の森は静寂に包まれていた。

「…………」

 ミレイユは動きを止めて感情を巡らせている。

 掟に縛られた窮屈な人生。鬱屈した生活で心は疲弊していった。愛していない男に抱かれて、子供を産んでしまった。

 夫を愛せないのなら、せめて娘を愛そうと努力した。しかし、腹を痛めた我が子に愛情は湧かなかった。ひたすらに苦痛だった。理想の母親を演じ、因習に固執する竜郷ドラカ=ヴェルグの生活が素晴らしいものだと教育せんのうする。

「カムイ様……。オチンポの先端がオマンコに密着しているのがお分かりになりますか?」

「股がぬめぬめしてるのは分かる……けど……」

「どうされました?」

「……なんか……変なの。ミレイユって上品そうな見た目なのに、オチンポとかオマンコって言う人なんだ」

「上品……? カムイ様。私は下劣な卑女はしためで構いませんわ。これは復讐の第一歩……! 私は不義を犯す……。私を裏切った夫を私も裏切る。カムイ様に抱かれて、生き返りの契約を交わす……!!」

 昂ぶりで竜人族の美女は炎を吐き漏らす。

 ミレイユの瞳孔は開き、唇から噴煙が溢れていた。悦びで流麗な竜尾をなびかせる。

「……俺とミレイユが繋がったら契約完了。自分の力は分かっているつもりだ。契約は永劫の誓い。六条で規定されている。それでも蘇る覚悟はある? さっきは迷っているように見えるけど?」

「捨て去る家族への名残惜しさで、迷ったりはいたしませんわ。私は全てを捧げ、契約を交わしたいと望んでおります……。けれど、カムイ様にもお気持ちはあるでしょう?」

「……まさか俺への配慮で?」

「望まぬ相手に抱かれる苦痛は知っておりますから……。どうしても嫌だというのなら……」

「別にミレイユが好みじゃないとか、嫌いってわけじゃないぜ。ただ……まぁ……初恋の人はいたかな。小馬鹿にされるだろうし、恥ずかしかったから秘密にしてたけど……。今だから素直になれるけど……。言えるうちに言っておけばよかったかな」

「やはり……。想いを寄せている娘がいたのですね」

 ミレイユは妬ましく思った。

 誰かを愛し、愛されること。渇望しながらも、満たされぬ愛情の飢え。

 ミレイユには大切な人がいなかった。

 竜郷ドラカ=ヴェルグの巫女は誰も愛せなかった。嫌いな者ばかりが増えていき、何者も愛せぬまま生きてきた。自分自身すらも嫌悪し、自死の道を選ぶほどに。

「好きだったのは娘じゃないよ。すごく年上の女性。たぶんミレイユと同じくらい? 普通だったら結婚してる年齢なのに、性格が悪くて貰い手がいなかった。だから、俺が貰ってあげてもよかったのに……って考えたりしてた。俺が成人まで生きていたら望みもあったのかなぁ……」

 カムイはミレイユの腰に両手を添えた。くびれを撫で回し、ひとしきり揉んでから、臀部に指先をおろしていった。優しい手付きで巨尻を鷲掴むと、媚肉に指が沈み込んでいった。

「会ったばかりだからミレイユのことはよく分からない。初対面の印象は最悪だったけど、俺が好きになった人も最初は『絶対に仲良くなれないし、仲良くしたくないな』って感じてた。最期まで付き合ってみないと分からないもんだぜ」

 陰毛でうずもれた経産婦の熟れたオマンコに亀頭を押し込む。あともう一押しで陰唇いんしんが開口する。

「初めてが私のようないやしい女でも……よろしいのですか……?」

 ミレイユの鼓動が高鳴る。

 相手は死者を復活させる超常の存在。契約を結べば後戻りはできない。竜郷を守護する巫女の重責。族長の妻としての貞節。腹を痛めて産んだ娘への慈愛。積み上げてきた清らかな道徳を踏みにじり、背徳の交合を成し遂げる。契約は永劫の誓い。

「俺って年上が好きみたい。まさか異世界で脱童貞するとは夢にも思ってなかったな。しかも、相手が竜人族の人妻なんだから面白い。――いいぜ。抱いてやるよ」

 異世界で〈倶生くしょうの化身〉に転成した少年は、竜人族の巫女に導かれて、猛り荒ぶる男根を突き挿した。

(熱っ! これが交合セックス……! 女の股穴にオチンポを突っ込んでる……!! 奥に進むほど肉の熱が強くなる。女の身体って、こんなに重たいんだ。デカ尻や太腿の重量で圧迫される……!)

 カムイはミレイユの鬱憤と悲嘆を全身全霊で受け止め、猛った男根で慰める。

(オッパイが顔面に伸し掛かってくる。竜人族のくせに、牛みたいなデカ乳だ……! 雑誌のグラビアで見た巨乳なんかとは比較にならない大質量……! そんな巨女を俺は抱いてるんだ。繋がって……子宮に精を注ごうと……している……!!)

 死人の肉体は再び命を宿す。

 生気の温もりを欲し、人妻は淫らに股を広げて交合を深める。

倶生くしょうの化身……♥︎ この世ならざる尊き御方……♥︎ カムイさまぁ……っ♥︎ 私はここに我が愛を捧げ、永劫の誓いをぉ……♥︎」

 濃霧があたり一面を覆い尽くす幽世の森。

 竜郷ドラカ=ヴェルグから離れた山峡で、巫女のミレイユは姦通の愉悦に身を委ねた。

(おぉっ、さすが人妻……! セックスの主導権を奪われそうだ……! でも、やられっぱなしは、なんか……! すげぇ、むかつくぞ……!!)

 幼げで小生意気な少年は、力任せに抱きしめてくる。剥き出しの性欲を暴れさせ、荒々しく攻め立てた。童貞の拙いセックスを美熟妻の包容力で受け止める。

(もっとだ! みっともなく喘がせてやる! こうすると気持ちいいんだろ? 思いっきり! 押し挿れれば……!)

 オチンポは絡みついてくる膣道の肉襞を退けて進む。

 熟れたオマンコの最深部に到達した瞬間、左手の薬指に真っ白な糸が巻き付いた。

 倶生くしょうの化身が纏っていた襤褸布から解れた細糸は、純白の指輪を形成した。交合のさながら、光り輝く契約の証に見惚れてしまう。

 終わらせるために、幽世の森で首を吊った。人生に絶望していた。だが、希望は与えられた。同族への復讐。それがミレイユの生き続ける目的だ。

「――あぁ♥︎ 浮気してる♥︎ 私も♥︎ やっと裏切り者になれたわっ♥︎」

 心から憎悪する夫にこの光景を見せつけてやりたかった。

「あんっ♥︎ んんぅっ♥︎ んぉっ♥︎」

 少年と淫らにつがう嬌態。竜郷ドラカ=ヴェルグの聖なる巫女が竜人族ではない幼童に抱かれている。

 人生を縛り上げてきた古の掟を辱め、粉々に破壊する爽快感。何物にも勝る愉悦だった。

(尻肉の柔らかさがすげぇ……! 張りが強めなくせに、めっちゃ柔らかい! マシュマロのクッションみたいだ! 指先が沈む!)

(可愛い手付きでお尻を揉んでくれているわ♥︎ あぁ♥︎ オチンポをもっと奥にっ♥︎ 導いてあげますわ♥︎ 深いところで……つながるぅ……! あぁっ……! 私達の魂が結ばれているのが分かるっ……♥︎ 惹かれてしまう♥︎ カムイ様だけの巫女モノになっていくうっ♥︎)

 尻を鷲掴みにされながら、濡れた膣穴を男根で掻き混ぜてもらう。

 娘が生み落とした人妻の産道は、貪欲な淫乱オマンコに生まれ変わった。

「オマンコの膣内なかってこんなに熱いんだ。すごく火照ってる。それに……気持ちいい……! セックスが好きになるかも……! もちろん、ミレイユのことも……!」

「あぁっ♥︎ あうぅっ……♥︎ カムイ様っ……♥︎ 私も……♥︎ 心が燃え上がっていきますわ……♥︎ まだ出会って間もないのに……♥︎」

「契りは結ばれた。指輪を介して伝わってるよな? 『第三条[義務]倶生くしょうは契りを交わした巫女に奉仕する』つまり、ミレイユに奉仕する義務を負うのは俺だ。どうしてほしい? なにがしたい? 欲しいものは? 不死の加護を得たんだ。欲望のままに、どんなことでもできるぞ」

「だ……っ♥︎ 出してぇ……♥︎」

「出す?」

「私を孕ませて……♥︎ 私の胎に子種を注いでっ♥︎ お願いっ! カムイ様……♥︎ あのおとこに見せつけてやりたいのぉっ! 私にだって……! 私だって……!! 愛する人がいるっ……!!」

「復讐で妊娠すんの? おぉ、こわー。契約に従って奉仕するぜ。面白そうだから付き合ってやるよ。俺の精子で妊娠したいんだよな?」

「はいっ♥︎ あいつの全てを破壊するためにぃっ! ふひぃいぃっ♥︎ ひっ♥︎ ふひっ♥︎ 何もかもぶち壊してあげるんだからぁっ……♥︎ 私のオマンコをカムイ様のオチンポで寝取ってっ♥︎」

「えっと……精子を膣内なかで出せばいいの?」

 射精の経験がカムイにはなかった。

「はいっ♥︎ オマンコの奥にっ♥︎ 種付けしてくださいっ♥︎ あんぅぅううぅ♥︎ ふぅぅふぅっ♥︎ ふぅっ♥︎ そうっ♥︎ それでいいですわ♥︎ そのまま膣内なかで撒き散らしてっ♥︎ んんぅっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ ああぁんっ♥︎ ふひぃっ♥︎ んんぅっ♥︎ いっ♥︎ いくっ♥︎ いっきゅぅうぅう……♥︎ んぅっ♥︎ あぁぁぁっ♥︎ ああぁっ♥︎ んっ♥︎ おぉっ……♥︎」

「んっ……くっ……。っ……!! はぁはぁ……。ふぅっ……! 初めて射精した……! 本当におしっこみたいに出るんだ。変な感じ!」

「あぅうっ……♥︎ あふぅっ♥︎ あんっ♥︎ 初めてなのですね。可愛いわ。カムイ様……♥︎」

(え? 可愛い? かっこいいじゃなくて……? またガキ扱い。それはムカつく。でも、射精って気持ちいいから、今はそれでもいいか……!)

 ミレイユのオマンコでカムイは精通した。

「孕めっ! 孕んじまえ!」

 爆乳人妻の膣内に精子を注ぐ。復讐心に取り憑かれた竜人族の巫女は、不貞セックスで懐妊することを望んだ。胎を夫以外の男に差し出し、凝り固まった傲慢な矜持を傷つける。

 これは虐げられてきたミレイユの復讐であった。

「はぁはぁ……はふぅ……。ちょっと疲れた。……次はどうするんだ?」

 膣内射精を終えたカムイは問う。すると、妖しく微笑んだミレイユは答える。

「次……? あらあら♥︎ カムイ様……♥︎ まだ続けますわよ♥︎」

「ふぇ?」

「お互いの精根が尽き果てるまで……♥︎ 私を抱いてくださいませ♥︎」

「え? マジぃ……?」

「契約の義務は果たしていただきますわ♥︎ きっちりご奉仕してくださるのでしょう。ふふっ♥︎ こんなに愉しいのはいつ以来かしら? 一滴残らず、搾り取ってさしあげますわ」

「ひょっとして……ミレイユはセックス好きなの? それとも年下好きの変態だったのか?」

「カムイ様とのセックスは大好きになりそうですわ。だって、とっても小さくて可愛い……♥︎ んふ♥︎ おんんっ♥︎ んっ♥︎ んぅうっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あぁっ♥︎ んぅう! あん~~~~っ!!」

 覆いかぶさったミレイユは、組み敷いたカムイを逃がさない。大柄な体格を存分に活かし、飢えたオマンコは捕食するようにオチンポを貪る。

(うぉっ!? なんつう、締め付け! 勢いでオチンポが引き抜かれそうだ……!)

「あはっ♥︎ ははははははっ! あっはっははははっははははははははははっ♥︎ んぁっ♥︎ 幸せ♥︎ これこそが私の幸福ううぅううっ~~♥︎ はぅあぁんっ……♥︎」

 この世ならざる者に転成したとはいえ、カムイの身体能力は貧弱な少年。それに比べ、ミレイユは屈強な竜人族の成人女性。ぶるりと震えた巨尻が勢い激しく振り下ろされた。

「大丈夫ですわ♥︎ 私が動いてさしあげますからぁっ♥︎ 子種を注ぐだけでいいのですぅっ♥︎ だからっ♥︎ もっとぉっ♥︎ もっとぉおぉっ……♥︎ 抱いてぇ……♥︎ おっ♥︎」

 美女の大柄な体躯は少年を体格差で圧倒する。騎乗位は逆レイプの体勢であった。ミレイユは背徳に酔い痴れる。夫以外のオチンポで味わう性悦は至高の幸福だった。

「お、おい? ミレイユ……!? やっぱり、そろそろ離れっ……! ちょっ……ぉお……? ぐわぉっ……!」

「駄目♥︎ まだお願いします……。寂しいのは……嫌……♥︎」

(くっ、暑苦しい……! いくら家族が嫌いだ嫌いだからって、出会って一時間と経ってない俺にここまで……!?)

「カムイ様はずっと……ずっと……永劫に奉仕してくださる……♥︎ 愛して♥︎ 欲しい♥︎ ずっと欲しかった……♥︎」

 娘持こもちの人妻は初めて愛を自覚し、恋する淫女おとめに変貌した。頭部に生えた美麗な竜角が燃え盛る。発情した竜人族の角は火を宿し、吐息に炎が混じる。

「あぁっ♥︎ あぁっん……♥︎」

 背を大きくらせる。ミレイユの豊満な爆乳も大きく隆起した。艶やかに盛り上がり、高々と極大化した巨峰の谷間で、カムイの顔面が覆い挟まれた。

(何もかもデカい……。オッパイとケツ、それに太腿……! 幸薄でかなり頭がってるけど、めっちゃ美女な人妻……!! くそ! こうなったら、とことん! お望みどおりにっ! してやるよぉ!)

 カムイはミレイユの子宮口を突き上げる。

 渾身の力で男根を捻じ込み、熟れた媚肉の女体に子種を刷り込む。

「あぁ♥︎ ふぅ♥︎ ふぅっ♥︎ あぁっ♥︎ そうっ♥︎ きてっ♥︎ 胎の奥底にぶちまけてぇっ♥︎」

「孕ませてやる……っ! 孕めっ! 浮気女っ!」

「はい♥︎ 私を寝取ってぇ……! 忌まわしき竜人族のしがらみから私を解き放ち、カムイ様の孕女にしてください……♥︎ この世の全てを生贄に捧げますわ♥︎ んっ♥︎ んぅ……♥︎ あぁっ♥︎ んゅ♥︎ んぅっ~~~~っ♥︎」

 望まぬ結婚で娘を産んだミレイユは、心の底から世界を憎んでいた。

 人妻と少年は惹かれ合う。互いの憎悪が繋がった。苦痛からの逃避で自死を望んだ竜人族の死者。死に抗い続けた異世界の死者。二人の契約はここに成就し、禁忌が破られる。

 ――屍は蘇り、不死に成り果てた。

 ◆ ◆ ◆

 ドス黒い厭悪えんおを滲ませながら、ミレイユは竜人族の風習について語ってくれた。竜郷の巫女は結界を維持する人柱だという。竜人結界の効力により、竜血を引かない人間は聖地に立ち入れない。

 竜郷ドラカ=ヴェルグは絶対不可侵の聖域。他種族は当然として、深淵の勢力も竜人族の里に手出しはできない。歴代の巫女は聖廟で祈祷を捧げ、一生涯を尽くし、生まれ故郷を守護し続けてきた。

 竜郷を巫女の祈りが守護し、巫女は戦士達に護られている。

「姉さん! ちょっと待って! 私とラウルは……!! 姉さんを傷つけるつもりなんて……!」

「話は終わり……。自分の持ち場に帰りなさい。アシェラ」

 ミレイユは冷淡に告げて、双子の妹アシェラに背を向ける。

 姉妹の顔立ちは瓜二つであるが、見分け方は簡単だ。巫女のミレイユは肉付きが良く、色っぽい豊満な身体である。その一方で、戦士のアシェラは鍛え上げられた凛々しい細身。髪も邪魔にならないように短く切り揃えている。

「お願い! 姉さん……! 私は……!! 私の話を聞いて!」

「何を聞けと? 話し合いで解決できる問題かしら? 夫からも聞いているわ。貴方、妊娠したんでしょう? その子を産みたいから私に許しを求めている……。勝手な話だわ」

我儘わがままなのは分かっているわ。でも、私は姉さんからラウルを奪いたかったわけじゃな――」

 妹の言葉は、姉の逆鱗に触れた。夫は愛していない。むしろ憎み続けた。しかし、だからこそ、妹の醜い弁明が耳障りだった。

「――ラウルは私と離婚したがっているわよ。私の娘はもう成人しているし、私よりも貴方に懐いている。離婚したってもう問題無い。そう思っているんでしょうね」

「……姉さん!」

「お願いだから、私の前から消えてくれる? 聖廟で祈りを捧げなければいけないわ。これ以上、引き留められると困るのだけど? 結界の外に魔軍の斥候が潜んでいるわ。私達の個人的ないさかいで結界が綻んだら、同胞達はどう思う? 考えが及ばない?」

「姉さん……。ごめんなさい……。ごめんなさい」

 アシェラは頭を下げる。

 本心からの謝意だった。けれども、謝罪がミレイユの感情を逆撫でしていると気付かなかった。

(あぁ……。腹立たしいわ。謝れば私が何でも許すと思っているのかしら……。早く帰りなさいよ。私はカムイ様とお話ししたいの。貴方と無駄話なんかしたくないわ。あぁ、可愛いカムイ様。私にだけ見える。私だけに仕えてくれる御方♥︎)

 姉妹の生々しい口論をカムイは間近で見物している。

 倶生くしょうの化身は契約者以外に知覚されず、認識もされない透明人間だった。

「顔立ちはミレイユにそっくり。さすが双子姉妹だ。ふーん。あれが姉の夫と浮気で孕んじゃった淫乱な妹ちゃんか」

 カムイの侮蔑と嘲笑は、契約を交わしたミレイユ以外に届かない。

「堅物真面目そうな振る舞いをしているくせに、えげつないことをするじゃん。これで戦士なんだ」

 思い詰めた表情でアシェラは立ち去る。不義の子を孕んだいやしい泥棒女。しかも、よりにもよって胎児の父親は姉の夫だ。竜郷ドラカ=ヴェルグの族長ラウルが起こした不名誉。表沙汰となれば、里中で艶聞が囁かれるだろう。

 不祥事の露見を恐れたラウルは、ミレイユに離婚を迫った。

 妻のミレイユと穏便に別れてアシェラを娶る。子宮に宿した胎児を忌子いみこにさせたくないのだ。

「行ったみたいだぜ。……ミレイユ、機嫌が悪そうだ。そんなに妹が嫌いなのか?」

「アシェラは昔から自分勝手な妹でしたわ。まるで自分が被害者のように……! ラウルと一緒になって嘲り笑っていたくせに……。私が知らないとでも思っているのかしら?」

(静かに怒る美女ってメチャクチャ怖い……。口から噴煙があがってる……。おぉ、こわ……)

「カムイ様は私の妹をどう思いますか?」

(え? これなんて言うのが正解?)

 幽世の森で契りを結び、聖廟に帰ってきたところでミレイユはアシェラに呼びかけられた。巫女が急に姿を消したので、警護の戦士達がずっと探し回っていたそうだ。

 カムイはまだミレイユやアシェラのことをよく知らない。姉妹喧嘩の元凶である浮気夫、族長の名前がラウルというのも、先ほどの会話で初めて耳にした。

「よく知らないけど、酷い奴だなと思ったぜ!」

「カムイ様。遠慮なさらずに……♥︎ あの生意気な妹をなぶってみたいと思われませんか?」

「え? どういう意味?」

「あの奔放な妹……。アシェラはずっと私の夫ラウルに想いを寄せていましたわ。あんな男に恋する気持ちは全く分からないけれど、昔からの念願が叶っての懐妊。だから、その幸せを台無しにしてさしあげますわ」

「おぉー、悪巧み? 何する気なんだ?」

「胎児を中絶し、望まぬで孕ませる……。ふふっ……! 私と同じように……♥︎ 最高の復讐と思いませんか?」

って……。まさか俺?」

「はい♥︎ あの妹を生贄にいたしますわ。カムイ様が私の奉仕くださるお礼に、我が愚妹ぐまいを捧げましょう♥︎」

「俺はミレイユだけで満足してるんだけどな~」

「そう仰らずに……♥︎」

 ミレイユはカムイを引き寄せる。純白の襤褸布を纏った貧相な少年は軽々と抱き上げられた。

「すげぇ悪い顔してるぜ。ミレイユ」

「竜郷ドラカ=ヴェルグを滅亡に導く腹案がありますわ。計画通りに進めば、この地に暮らす竜人族を皆殺しにできる。けれど、アシェラだけは殺しませんわ。あの妹は簡単には死なせない。永遠に苦しめる……♥︎ カムイ様にご協力いただきたく♥︎」

「共犯になれってわけか」

「ふふっ♥︎ 夫の前で私を犯し、アシェラを強姦してください♥︎ 竜郷滅亡のフィナーレに相応しい演出ですわ♥︎」

「契約上、俺はミレイユに奉仕しなきゃいけない。それが望みなら叶えてやるよ。でも、どうやってお仲間を殺すんだ? 井戸に毒でも入れるのか?」

 カムイは懐疑的だった。ミレイユ契約で不死の加護を得た。だが、竜郷ドラカ=ヴェルグの住民を一人で皆殺しにするのは難しい。

「魔軍を竜郷ドラカ=ヴェルグに引き込みます。当初の予定では私の自殺で竜人結界を消滅させるつもりでしたわ。聖廟を基点とする結界が消えれば魔物達が侵入できるようになる……。しかし、もっと念入りに殲滅計画を立てますわ」

「魔物を手引きするんだな。外患誘致がいかんゆうちをやらかしたら、もう後には引けないぜ。くっくくくく。悪に染まってるなぁ」

「構いませんわ。私を苦しめた全て滅ぼす。同胞なんて一匹残らず死んでしまえばいいわ。カムイ様がいれば私はそれで幸せなのです。私にずっと奉仕してくださるのでしょう?」

「契約でミレイユは俺の主人だからな。生贄いけにえみついで、養ってもらっているし、ちゃんと奉仕はするぜ。浮気人妻の性欲処理係だろうとな」

「意地悪な言い方をなさらないで。――これは純愛なのですから」

 下腹部が火照っている。子宮のある胎はカムイの精子で満ちていた。

 ミレイユはカムイを子猫のように抱き上げたまま、聖廟の祭祀殿に向かう。祠が安置された祭祀殿に巫女以外の者は近付いてはならない。古竜と祖霊を奉る祠には結界の核がある。霊験あらたかな聖巫女が祈りを捧げる浄域に穢れを持ち込んではならない。

「カムイ様。愚かで卑しい私をおかしてください」

 幽世の森で自死を遂げ、この世ならざる者に魅入られたミレイユは、己の人生を犠牲にして保ってきた聖地を貶める。異界の死者と姦通にふけり、淫楽に酔い痴れ、祠に集った信仰を冒涜する。

「いいぜ。俺、性格の悪い年増女が好みだから」

 竜郷ドラカ=ヴェルグが滅ぶ四十九日前の出来事であった。

コミックトウテツ Vol.118(表紙:葛城ゆう)

一水社『コミックトウテツ』
(毎月25日)

総特集「贈りものは人妻ンコ。」

元カノ財閥令嬢と十年ぶりに【山田タヒチ】、海上フェリーで味わう人妻との逢瀬【鉛棒なよなよ】、女性課長の前で勃起してしまった新入社員は!?【プリ坊】……全3作!

特別な夜は夫以外の男性と…。いけないことは分かっていても、クリスマスサンタになった私を貪り尽くしてくれるのが君なのも知ってるの。社長夫人も眼鏡が知的な人妻たちも、性なる6時間に溺れてゆく…。

◆山田タヒチ「再会のセレブ妻」
人がいる公園でハメ倒される社長夫人。爛れた日々の記憶が私を…!

◆鉛棒なよなよ「差額 -不倫の味わい-」
知ってしまったのは人妻の秘密!それでも僕は彼女を手放せないっ!!

◆プリ坊「女上司に火は付かない!」
夫のある身で若い部下に体を委ねるなんて…。でもこの子の想いに触れたら!

新単行本『妻と欲』ドロップ!の山田タヒチ、大ヒット作『寝とられて人妻』の鉛棒なよなよ、そしてロングセラー『人妻は、服従する』のプリ坊が揃い踏み。奥さま達の性なる夜をお見せします!

すべての人妻を〈オンナ〉に変える! 全方位射精エロコミZINE!
WEB展開「Comicトウテツ(饕餮)」が全力オナニーサポート!

表紙イラスト 葛城ゆう

表紙イラスト葛城ゆう
執筆陣山田タヒチ,鉛棒なよなよ,プリ坊,葛城ゆう,一水社編集部
価格770円(税込)
発行日2025/11/25

【竹書房文庫】ふしだら森の未亡人<新装版>(葉月奏太)

会社員生活に挫折し、あてのない一人旅に出た27歳の多々良啓太は、見知らぬ田舎の駅で降り、山道を歩き、森の中にある湖に辿り着いた。そして、ぼんやりと湖を眺めていると、優美な熟女に声を掛けられる。彼女の名前は宇津井礼子、33歳の未亡人で妹と旅館を営んでいるという。啓太は泊めてもらうことにするが、深夜、礼子が部屋に忍んでくる。驚く啓太だったが、甘く誘われて極上の快楽を味わうことに。さらに翌日には、妹の裕子からも夜●いを掛けられ、啓太はこの妖しい森の宿から離れられなくなっていく…! 淫惑の秘境エロス。

著者葉月奏太
イラスト
価格968円(税込)
発行日2025/11/25