押し寄せてきた魔獣達は、驚愕の光景を目撃する。
獲物は死に体はずだった。半死半生の死に損ない。同胞を守りきれず、幽世の森に逃げ込んだ敗走者。しかし、魔獣を待ち構える女戦士の傷は癒えていた。
構えた長剣から紫色の血が滴っている。里の防衛戦では千体以上の魔獣を斬り伏せ、屍の山を築いた。しかし、いかに竜人族の剣豪なれども、圧倒的な数の力には勝てなかった。
多勢に無勢。状況は今も同じだ。けれども、一つだけ変わった。
死の化身と契約を交わし、永生の加護を授かった。女戦士を死に至らしめる手段は、異世界に存在しないのだ。
「――どうした? 来ないのか? 醜い獣どもめ。よもや、怖気づいたか? 竜郷ドラカ=ヴェルグの生き残りはここに一人残っているぞ」
白刃が鞭のように舞う。凄まじい剣撃の閃光が吹き荒れ、群れの先頭に陣取っていた魔獣が細切れになった。
「ピギャァアアアアアアアアアアアァァ!」
豚顔の魔獣が絶叫する。骨肉が断裂し、紫色の血液が溢れ流れた。女戦士は鮮やかな足捌きで、返り血を掻い潜る。群れの前衛を崩し、中央に斬り込み、蹂躙を開始する。
「喚け! 叫べ! 苦しめ!! 貴様らの情けない断末魔は死んでいった同胞の手向けとなる!!」
万全の状態であれば、雑魚を相手に遅れは取らない。一振りで三匹の魔獣が胴体を寸断された。
恵まれた体格から繰り出される轟力無双の斬術。反撃を試みる蛮勇な魔獣もいたが、数秒後にはバラバラの肉塊へと変わった。
キサラギは戦いを離れた場所で見物していた。魔獣達の混乱ぶりは著しい。既に勝利を確信し、意気揚々と追いかけてきた者達の醜態は滑稽だった。
「うわぁ。めっちゃ、つえーじゃん。雑魚狩りって感じだ。あっ、モンスターがぶっ飛んだ。斬り上げて、あそこまで頭部が刎ね飛ぶもんかねぇ……? どんな筋力してんだ?」
逆襲を受けるなど、予想もしていなかったのだろう。実際、契約を交わさなければ、竜人族の女戦士は絶命していた。
追跡してきた魔獣達はその死体を嬲り、持ち帰るだけの簡単なお仕事。しかし、この世ならざる者の介入により、運命はねじ狂った。
「グガァァアアアアアアアァッ!!」
助走をつけた一角獣が突進する。切り刻まれた仲間の骸を踏み砕き、一直線に超加速した。鋭利な先端の角が女戦士に迫る。
猪突は好都合であった。一匹一匹の魔獣は取るに足らない雑魚だ。しかし、魔獣の軍勢が数十、数百、数千となれば、一騎当千の猛者であっても圧殺されてしまう。ゆえに、深淵の魔獣は脅威だ。
「数の利を捨てる愚物め。単騎でこの私に勝てるものか」
長剣を振り上げ、高速の一閃で両断する。
一角獣の外殻を切り裂いた刃が激しく赤熱し、斬撃の威力を物語る。
「貴様らは一匹も逃がさんぞ。竜郷ドラカ=ヴェルグを侵犯した獣は皆殺しにする! 次に死にたい奴はどいつだ!? 私の前に進み出ろ!!」
恐怖で浮足立ち、逃げようとした魔獣を刺突で貫き、串刺しの見せしめとした。魔獣達は無残な敗死を確信しながらも、最後の一匹となるまで、逆襲者の血塗られた刃に抗い続けた。
キサラギは鏖殺の完遂を見届けた。
見事な戦いっぷりであり、勝者に惜しみない拍手を送った。地面に散らばった魔獣の死体を避けながら歩み寄る。ゼフィラは呼吸一つ乱れていない。余裕の表情だった。
「ゼフィラって強いんだな。そんだけ強いのに、なんであんな大怪我していたんだ?」
「厄介な魔獣も存在する。こいつらは雑魚だ。異能を使う奴は一匹もいなかった」
「異能……? 魔法ってことか。ゼフィラは戦士だもんな。敵が魔法を使うと戦いにくいのか?」
「問題なのは数だ。小規模な群れならどうとでもなる。しかし、敵が大地を轟かせる大軍となれば、こちらも相応の戦力を求められる。圧倒的な数で消耗させられれば、どれほどの力を持っていても押し負けてしまう。私は里を守りきれなかった」
「ゼフィラは竜郷って言ったよな。それが竜人族の里?」
「竜郷ドラカ=ヴェルグを知らない……?」
「ああ、知らないぜ」
「キサラギは幽世の森に棲みついていたんだろう? 死の化身と言っていたが、精霊なら聞いたことぐらいあるはずだ。今まで人間と接触したことがなかったのか?」
「異世界で暮らしてたわけじゃない。俺は何も知らないんだ。教えてくれよ。竜郷どらぐ=べるか? 有名な場所? ドラゴンが作った里だったりする?」
「竜郷ドラカ=ヴェルグ。正しく覚えてほしいな。竜人族の郷里だ。古竜の大賢者が里を拓いたとされている。口伝によれば大賢者は巨大な両翼を誇るドラゴンだったそうだ」
「ドラゴン! いいじゃん。で、ゼフィラに翼は無いのか? 剣で戦ったけど、戦闘でドラゴンにならんの?」
「現代の竜人族には『竜角』と『竜尾』しか形質が残っていない」
「え? じゃあ……。変身とか……できない……?」
「変身だと? 我らは古竜の血脈を受け継ぐ末裔だが、そんな馬鹿げた能力はない。他の種族よりも体格に優れ、強靭と頑強を兼ね揃え、金剛石をも握り潰す膂力を誇る」
「あぁ。うん。そ、そっか……。そう……」
「無性に腹が立つな。そのがっかりした顔……。竜人族は戦士と祈祷師の適性を持つ。他の種族よりも優れた血統だぞ?」
ゼフィラは長剣に付着した魔獣の血を振り払う。竜人族の怪力がなければ、軽々とは扱えない重量武器であった。
(武器がデカい。俺の背丈と同じくらい? 改めて近くで見ると……身体もデカいし……胸もめっちゃデカい……。何もかも大きい……。俺って、この世界じゃ小人……?)
キサラギは「小柄な種族もいるのか」と聞くために口を開いた。しかし、その質問をする前に新たな敵が襲来した。
「部下の魔獣を屠られて、やっと本命が来たな。下がっていろ。あれは厄介な敵だ」
焦げ臭い匂いが漂ってくる。ゼフィラは嬉しそうに上空を見上げた。
「なにあれ? めっちゃ、燃えてない? あれが異能持ちの魔獣か?」
「キサラギは本当に何も知らないのだな。あれは魔天使。魔獣を統率する深淵の眷属者だ」
飛来した怪物は全身が業火で燃え盛っていた。
ゼフィラが斬り刻んだ魔獣達より数段上の存在だと一目で理解できる異形の姿。炎の表皮では巨大な目玉がいくつも蠢いている。周囲の木々が焼け落ち、降り積もった枯れ葉に発火する。
「戦士ゼフィラ……。どういうことだ? なぜ生きている? お前の臓腑を焼いた炎が消えた」
空から降りてきた魔天使は、無傷のゼフィラが気に食わない様子だった。高度な治療魔法を使ったとしても、炭化した内臓が元通りに再生するわけがない。地面に散らばった部下の遺骸を見下ろし、次に仲間らしき少年を睨んだ。
「そこの貧相なガキは何者だ? 竜人族ではないな」
「へえ、さっきの獣っぽいモンスターと違って、こっちは言葉が話せるんだ。初めまして。キサラギだ」
「口の利き方をしらないのか。不遜な人間めが……! いや、お前……。人間か?」
暗闇のような襤褸布を羽織った少年。見かけは普通の人間。しかし、魔天使は得体の知れぬ恐怖を覚えた。触れてはいけない怪物。関わってはならぬ禁忌。この世ならざる気配を感じ取った。
「敬語を使えってこと? 悪いな。話し相手が傲慢な性格の人だったからさ。影響を受けてるところはあると思うぜ。だけど、お前は見るからに悪い奴っぽいじゃん。仲良くできる感じしない。そういうわけで、お相手はゼフィラに任せる」
キサラギはゼフィラの後ろにするりと隠れた。
「眷属者カザルドは炎を操る魔天使だ。竜郷ドラカ=ヴェルグを焼き払った魔軍の指揮官。ついでに私の腹に穴を空けた」
「ゼフィラにとっては仇そのものだ。魔天使に勝てるのか? 逃げる準備をしておいたほうがいい?」
「それなりに手強い。だが、好機だ。護衛も連れずに単騎でご登場とは……。くっくくく! 間抜けな阿呆め。仕留めてやるっ……!」
ゼフィラは剥き出しの殺意を怨敵カザルドに向けた。
「クッククククク!! 間抜けな阿呆はお前だ! 傷を癒した手段は分からんが、次は全身を炎獄に焚べてやろう! 逃げ出す暇は与えんぞォ! お前は一瞬で灰燼に帰すのだ! 我は盟約に従いィ! 竜郷ドラカ=ヴェルグの竜人族を一匹残らず殲滅するゥゥウ!!」
四枚の炎翼を広げたカザルドは、ゼフィラとキサラギに灼熱の息吹を放った。超高温の火炎放射が直撃すれば即死。竜人族の戦士であろうとも絶命は免れない。
(私は死の化身と契約を交わし、死に至らない〈永生の加護〉を得た。契約の条文通りなら私は死なない……。さて、どう戦うかな)
与えられた能力は本物だ。確信は既に得ている。〈永生の加護〉が発動したおかげで、ゼフィラの傷は完治した。契約を試してみたい気持ちが芽生えた。
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第一条「加護」
本契約の有効期間中、生者は死に至ることはないものとする。
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攻撃の回避は可能。だが、ゼフィラは火炎の直撃を全身で受け止めた。不滅の肉体が燃え上がる。激痛を感じるが突き出した両手は、炭化と再生を繰り返す。火力が一段と増したが、比例するように再生力も強まった。肉体が再構築され続ける。
(驚愕だな。なんたる再生力だ! さすがは死の化身が与えてくれた加護! 素晴らしい! カザルドの吐く業炎に拮抗している!!)
焙られた細胞の蒸発速度は凄まじい。けれども、〈永生の加護〉はゼフィラの肉体を補完し続けた。
「くっくくく! いいぞ! はっははははははははは! これが永生の加護! いかなる攻撃を受けても死に至らぬ恩寵!!」
炎獄の中心でゼフィラは笑った。興奮で瞳が竜眼に変貌していた。
「馬鹿な! ありえん! なぜ耐えられる!? その異常な再生能力は……うぅっ……うぎゃぁあああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁぁ!!」
魔天使はのたうち回り、鼓膜をつんざく悲鳴を上げた。突如として苦しみだした敵の様子にゼフィラは困惑する。
「……?」
まだ自分は何もしていない。カザルドは激痛に悶え苦しみ、操っていた炎が鎮火した。怨敵を仕留める好機であったが、ゼフィラは仕掛けられなかった。
自分の背後にいたキサラギは黒焦げの無惨な姿で死んでしまった。
「あ……。えぇ……? まさか死ぬのか?」
死の化身でありながら、キサラギは焼死体になっていた。〈永生の加護〉は契約を交わしたゼフィラにのみ付与されている。灼熱の息吹に耐えきれず、キサラギは絶命していた。肉体は灰燼と帰した。けれど、漆黒の襤褸布は不気味に蠢いていた。
(私の服は燃えたのに、この襤褸布は火の影響をまったく受けていない……。生き物のように動いている。これは一体、どういう理屈なのだ……?)
襤褸布は炭化したキサラギの焼死体に取り憑き、滅びた肉体を再構築していく。その修繕が進んでいくにつれて、苦しみの声を上げる哀れな者がいた。
「ぎゃあぁああああああああああああああああぁぁっ! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 熱い!! 焼ける! 私の身体がぁあぁっ! たまじいぢぃいぁがあぁ焼けるぅぅうっ!!」
カザルドは業炎を支配する魔天使。火による攻撃は完全無効。火傷を負うはずがない。けれども、その肉体は自身が放った火に脅かされていた。
「なるほど。これが契約の第五条か……。攻撃の跳ね返り……。いや、そんな低次元なものではない。因果の逆転なのか?」
ゼフィラは理解した。死の化身はいかなる存在をも殺傷しない。しかし、例外規定が設けられている。
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第五条「帰属」
死を殺傷した者は死に帰属する。
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死の化身に与えた攻撃は移し替えられてしまう。火炎に巻き込まれたキサラギは死んだ。死の因果は加害者に回帰する。
「あのさぁ……。ちゃんと守ってくれないと死ぬんだけど? なんでド正面で敵の火炎攻撃を受けちゃうんだ。巻き添えで死んだぞ」
肉体の修繕が終わったキサラギは起き上がるなり、ゼフィラを非難する。焼け焦げた全身は何事もなかったかのように無傷だ。その一方、倒れたカザルドは己の炎で焼かれて死んでいた。
「すまなかった。私と同じで平気なものだとばかり……」
「一瞬で死ねたから良かったが気分は良くないぞ。てかさ、ゼフィラ……。わざと攻撃を避けなかったろ?」
「許せ。授かった加護の性能を確かめたかった」
「はぁ……。マジかよ。舐めプは足元をすくわれるぜ? そのせいで服が焼けちまってるじゃん」
「なめぷ?」
「舐め腐ったプレイ。いくら死なないからって、余裕をこき過ぎでしょ。オッパイ丸だしの痴女になってるぞ。視線のやりどころに困る。どうにかしろよ」
「服が直らないのは不便だ。身体だけが治るのか」
「俺に苦情を言われたってどうにもならない。〈永生の加護〉なんだから衣服は対象外だろ」
「……よかろう」
「よくねえ! 竜人族には慎みって感性がないのか!? せめて両手で乳首を隠せ! 成人エロ漫画の表紙絵でも乳首は隠すんだぞ!?」
「まんが? よく分からんが、剣を握っているのだ。そもそも隠してどうなる。騒ぐことでもなかろうよ。服は後で見つける」
女戦士は羞恥心を持ち合わせていなかった。それよりも優先されるべきは魔天使カザルドの生死確認だ。
「なにやってんの?」
「カザルドの死体を確認している。魔天使は深淵の眷属だ。半日もすれば塵になって消える。その前に死因を調べる」
「焼死だろ。炎を操ってたくせに、焼け死ぬんだから間抜けな死に方だよな。人間の姿をしてないから、そこまでグロくない……ってのは撤回する。うわぁ……。きも。俺はこういうの無理だ。目玉が全身にいくつもついてる。多すぎ。蓮コラじゃん。きっしょ……」
「業炎の瞳だ。カザルドは視界に収めた火を自在に操る魔天使だった。念のために急所を破壊しておく」
長剣の先端で焼け死んだカザルドの心臓を貫き、首を切断した。
(私の手で殺してやりたかったが、あっけない結末だ……。しかし、こうも簡単に死んでしまうのか? あのカザルドが……。自身の炎によって……)
カザルドは名の知れた深淵の眷属者であった。竜人族の里を殲滅した強大なる魔天使の一柱。竜郷ドラカ=ヴェルグの勇猛な戦士達を焼き殺した。
「…………」
ゼフィラは自分の腹部を確認する。傷一つない綺麗な肌だ。傷口は消えている。それどころか、幼少期に鍛錬で負った古傷も無くなっていた。
「どうしたんだ? ゼフィラ? 身体が痛む?」
「大丈夫だ……」
不意を突かれたとはいえ、ゼフィラに致命傷を与えたのはカザルドの一撃であった。乱戦の最中、放たれた炎弾は腹部を貫通し、死に至る火傷を臓腑に負わせた。
「決着に納得がいかないのか? でも、復讐ってそんなもんらしいぞ。偉そうに説教をする気はないけどさ」
「…………」
「消化不良って顔だな」
「復讐の手段は問わない。里を襲った奴らに復讐する……。竜郷ドラカ=ヴェルグは滅びてしまった。私が契約を交わしたのはそのためだ。私自身が手を下さずとも、全員を殺せるのなら一向に構わない」
「竜人族の生き残りはゼフィラだけ?」
「私だけだろう。カザルドの他にも魔天使がいたようだ。私の師匠や父親も殺されてしまった。生き残っている者は一人もいない」
「竜人族はこの世界にゼフィラしかいないのか?」
「いいや、そうではない。世界のどこかには、他の竜人族がいるだろう。竜郷ドラカ=ヴェルグのような竜人族だけが住む里はないだろうがな」
「だったらさ、同胞を集めて復興すればいい。仇討ちは立派な復讐だけど、故郷を復興させるのも最高の復讐だと思うぜ。どう? いい助言だろ」
「…………」
「思い詰めても人生楽しくないぜ。どうせ復讐するなら、楽しくやっていこう」
「それはいいな。竜郷ドラカ=ヴェルグの復興……。里を守りきれず、生き残った私の責務だ。キサラギは協力してくれるのだな?」
「もちろん。他にやることないし。俺は契約を交わした人間の近くにいなきゃ駄目みたいだ。ゼフィラの左手にある指輪は互いを結びつける契約の証だ」
「指輪……。カザルドの業炎を浴びても融解していない。性質はキサラギが纏っている襤褸布と同じようだ。普通の物質とは気配が違う」
漆黒の指輪は黒い光沢を放っている。
左手の薬指に嵌め込まれた契約の証。指先で表面を撫でると、契約の内容が頭に流れてくる。
「……私に有利な契約だ」
「ん?」
「契約は必ず代償を払う。加護と代償は等価交換だ。〈永生の加護〉に釣り合う義務が私に課せられていなければ理屈に合わない」
「そうなのか?」
「私の義務は何だ? 第四条で定められた供物か? 私はキサラギに何を捧げればいい?」
「えっと、第四条は『死は捧げられた供物を所有する』だったな。供物……? 特に欲しいものはないぞ。強いて挙げるなら服とか靴だ。この襤褸布だけで人前に出るのは抵抗を感じる」
「…………」
「どうしたんだ?」
「釈然としない。この契約は私に有利過ぎる。加護を得た者が支払う代償や対価、義務に関して明記されていない。しかも、私は契約を一方的に破棄できる」
契約の破棄は簡単だ。ゼフィラが指輪を外し、自分の意思で棄てたとき、死の化身と交わした契約は破棄される。互いの合意は必要とせず、その気になればゼフィラはいつでも契約を白紙にできてしまう。
「利用するだけ利用して、棄てたのは良くないぞ! 善意には善意で報いるべきだ。俺はこの世界について何も知らない。こんな山中で放置されたら困るんだが?」
「恩を仇で返すつもりはない。……だが……あまりにも奇妙だと思っただけだ。キサラギはもっと有利な条件で契約を結べたはずだろう」
「それって気にすることか? 細かいことはどうでもいいじゃん。ゼフィラにはデメリットが無いんだ。破格の契約条件でお得だったろ。末永く、よろしく」



