——翌朝、黄葉離宮の食堂で遅めの朝食をとる男女3人。
ベルゼフリートの右隣にセラフィーナが腰掛けている。ロレンシアは対面の席に座らされていた。
昨晩の淫事をロレンシアが目撃していたと当人達は知らない。セラフィーナはいつもと同じ爽やかな笑顔でロレンシアに挨拶をしてくれた。
「大丈夫? ロレンシア? なんだか顔色が悪く見えますわ」
「いいえ、大丈夫です。枕が変わったせいか、近頃は眠りが浅くなってしまって……。きっと、そのせいだと思います」
ロレンシアは本心をはぐらかした。通常、側女の臨席は許されない。ロレンシアが朝食に呼ばれたのは、ベルゼフリートの要望だった。
料理を運ぶのは皇帝付きの女官だ。朝食を作ったのも女官である。
妃に仕える側女と皇帝直属の女官は、厳格な差が設けられている。皇帝の滞在中、リアは掃除の手伝いすらさせてもらえなかった。
「やだな。そんな顔しないで。意地悪で呼んだわけじゃないんだよ?」
「申し訳ございません。朝食にお招きいただき、皇帝陛下には感謝しております」
「感謝しているような目つきには見えないけどね」
「⋯⋯私の目つきは生まれつき悪いのです。特に寝起きなものでして、お許しください」
ロレンシアは頭を下げる。心に宿った憤怒は燃え続けていた。
苛立ちの理由。性奴隷の扱いを受けている女王の境遇。そして、不遇に扱われている同僚のリアも理由の一つだ。
皇帝への拝謁を強く望み、短い間であったが言葉を交わし、リアは大喜びしていた。しかし、皇帝付き女官たちから邪魔者扱いされている。
宮廷ではありふれた光景だった。しかし、ロレンシアは憤る。側女を見下す高慢な女官達が腹立たしかったのだ。
「赤毛の番犬って感じ。ご主人様に手を出したら、ガブッと噛み付かれちゃうかな?」
ベルゼフリートはセラフィーナの実り豊かな乳房に手を伸ばす。ブラジャーやコルセットは着用していない。両肩をむき出しにしているベアトップの寝衣だけが、盛り上がった爆乳を包み隠していた。
指先をひっかけ、軽い力で胸元をズリ下げれば、ピンク色の乳輪が露わとなる。
「あっ……ダメですわ……今は食事中……っ……」
「僕も食事をするだけだよ。セラフィーナのデカパイが美味しそうなんだもん。はぷっ♥︎」
乳首を甘噛みする姿は、乳離れしていない子猫であった。
ベルゼフリートはセラフィーナの乳首を吸い始めた。ちょっとした悪ふざけだったようで、すぐに唇を開けた。
「うーん。汗の味しかしないや。たんまりミルクが詰まってそうなオッパイしているのに。オッパイミルクを飲みたい気分なのに残念だなー」
頬をほんのり赤らめたセラフィーナは寝衣の乱れを直す。見知った相手であるロレンシアに授乳プレイを見られたくなった。ロレンシアも反応に困り、視線を窓の外に向けた。
気不味い雰囲気をぶち壊したのは、身を乗り出してきたハスキーだった。
「陛下はミルクをご所望ですか? それなら私のミルクをご賞味ください」
特注のメイド服を引き千切りかねない勢いで、興奮状態のハスキーはベルゼフリートに迫る。産後間もない身体であるため、ハスキーの乳房では新鮮なミルクが蓄えられていた。
「最近は胸が張り気味で痛むのです。どうか私の乳房を揉んで、絞り取ってください」
「搾乳してあげたいけど……。女官の相手はしちゃいけないってヘルガに厳命されてるんだ。また今度ね。あとメイド服を破るとヴァネッサに怒られるよ」
「そうですか……。とても残念です」
ハスキーは大袈裟に落胆した態度を演じ、不機嫌な顔を作って引き下がった。
「ロレンシアはハスキーと同じだね。たぶん」
「え……っ?」
不意に話題を振られ、ロレンシアは戸惑う。
「ずっと胸を気にしてるでしょ。乳房が痛むんじゃないの? 女仙化したときの後遺症かな。体が死産を出産と勘違いしてるせいで、そうなっちゃうらしいよ。僕がロレンシアの痛みを和らげてあげようか?」
ベルゼフリートは、ロレンシアが悩まされていた胸痛の原因を見抜いた。
女仙にさせられたせいでロレンシアはレンソンとの子供を死産している。意図せぬ堕胎は、ロレンシアの肉体に変調を与えていた。
微々たる痛みであるため、周りには相談していなかった。ロレンシアが感じていた胸痛の原因は、ストレスだけでなく、乳腺の発達に起因するものだった。
子供を産んだと誤認したロレンシアの体は、母乳の生成をした。食欲をそそる女仙のミルク。ベルゼフリートは乳房に溜まったご馳走を欲した。
「どうぞっ⋯⋯!」
ロレンシアは自発的に動いた。命じられる前に上衣を脱ぎ捨てたのは、反逆心を押さえ込むためだ。指図されれば、抗いたくなる。だから、己の意思で乳房を差し出した。
「私でよければ好きなようになさってください」
ベルゼフリートが座る席まで歩み寄り、母乳で膨らんだ乳房をさらけ出した。
ほんの一瞬、女官達は警戒を強めた。だが、ロレンシアはベルゼフリートに危害を加えたりしない。不敵に笑い返してやると女官は警戒を解いた。
(好きなようにすればいいわ。セラフィーナ様は苦難を耐えている。従者の私だって、同じ辱めを受け止めるまでよ⋯⋯! 私はこんなクソ餓鬼に好感を抱いたりはしない。でも、私の奉仕でセラフィーナ様の負担が減るのなら、喜んで身を捧げてあげるわ!)
赤毛の美女は女官達をせせら笑った。リアを見下した意趣返しだ。
「ほら、セラフィーナ。ロレンシアの乳首を吸ってあげなよ。あっ! そうだ! 口移しで僕にも飲ませて。どんな味なのか、ちょっとだけ気になるからさ」
「えっ……。私がロレンシアに……?」
「僕はセラフィーナの相手しかできないからね。苦しむ従者を助けてあげなよ」
困惑するセラフィーナだったが、ベルゼフリートは本気だった。拒絶すれば、機嫌を損ねる恐れがある。
ロレンシアもベルゼフリートに授乳するより、セラフィーナのほうが受け入れやすいはずであった。
「その……っ……痛かったら……教えてくれるかしら?」
「は、はいっ……!」
慌てふためくロレンシアは、顔を真っ赤に染めていた。
セラフィーナは金色の前髪を掻き分け、毛先が乳房に触れないように配慮する。
躊躇うこと数秒、恥じらいながら遠慮がちに、ロレンシアの乳首を咥えた。
ロレンシアは従者であると同時に娘の友人だ。
同性の母乳を吸う異常行為。これまで被虐の立場にたセラフィーナが、従者に行う加虐の淫行。ベルゼフリートに強制された行為だが、セラフィーナは良心を痛めていた。
「んんっ…………。んぅ………っ!」
「……んっ……あっ……! セラフィーナ様……っ♥︎」
母乳を吸われるロレンシアは、どんな表情をすればよいか分からなかった。セラフィーナの優しい鼻息が乳房の上部にあたる。
(私のオッパイをあのセラフィーナ様が絞っているなんて……。乳房が少しずつ軽くなっていく。乳首の先端から⋯⋯母乳が溢れてるのが分かるわ)
左右の乳房から交互に母乳を吸う。もちろんロレンシアは嫌悪感を示していない。こんな淫行を主君にさせてしまっている自分に恥じ入っていた。
「セラフィーナ。独り占めはだめだよ。僕にもロレンシアのミルクをちょーだい♪ 口移しでね」
「んぁひぃ……っ!」
セラフィーナは口内をロレンシアの母乳で満たし、カエルのように頬を膨らませている。求められるがまま、ベルゼフリートに接吻した。
唇を組み合わせ、舌を絡ませる。母乳と唾液のミックスジュースをベルゼフリートに流し込む。
「……んぃにゅぅじじゅずゅゅぅうう♥︎ んじゅゅゅるぅるんっんぅ……んぅ♥︎」
淫猥な水音を奏でながら、セラフィーナはベルゼフリートの口吸いに応じる。キスシーンを見つけられているロレンシアは、腹を空かせた雛鳥に親鳥が餌付けする光景を想起していた。
「じゅるり♥︎ んっぷ♥︎ ふぅ、ごちそうさまでした♥︎ ロレンシアのミルクも悪くないね。溜めておくのは体に悪いから、定期的に搾乳してもらったほうがいいよ」
差し出されたナプキンで、ベルゼフリートは口元の汚れを拭き取る。
「セラフィーナは恋人のキスが上手になってる。昨日の夜に仕込んだばっかりなのに覚えが早いね」
「はぁ……んっ、はぁ……はぁはぁはぁ……♥︎」
乱れた呼吸を整えるセラフィーナは、自身の変貌に愕然としていた。
濃厚なマウス・トゥ・マウスを覚えさせられたのは昨晩の出来事。ベルゼフリートと唇を重ねた瞬間、無意識に教えられた舌使いを再現してしまった。
「セラフィーナ様……!」
「私は大丈夫ですわ。ロレンシア。少しむせてしまっただけ……。それより胸元を隠しなさい。女の子なのだから、体を冷やしてはいけませんわ」
守るべき主人に気遣われている。ロレンシアは心の底から己の不甲斐なさを恥じた。だが、同時に忠誠心が揺らぐ。皇帝と唇を重ね合う女王に不信感を覚えた。
——昨夜からセラフィーナは変わってしまった。
「食事が終わったら、お風呂で続きをしよう。誤魔化してるけど、興奮してるんでしょ? お礼にセラフィーナの子宮を満足させてあげる」
「分かりましたわ。ですが、朝食を終えたら、ほんの少しだけ食後の休憩をいただけるでしょうか?」
「もちろん、いいよ。あっ、でもさ……」
「どうされたのかしら? 陛下?」
食事を再開したセラフィーナに、ベルゼフリートは聞いてしまう。
「まさかテーブルに並んでる料理⋯⋯完食するつもり……?」
食材を無駄にできない庶民の食卓とは違う。ここは皇帝と高貴な妃達の住む天空城アースガルズ。食べ残す前提で、女官は多めに料理を作っている。
「⋯⋯⋯⋯陛下」
ロレンシアから向けられる冷たい視線。ベルゼフリートは気付いた。
「⋯⋯⋯⋯あ」
赤毛の従者は睨む。だが、憎しみによるものではなかった。デリカシーの無さを非難する圧力。幼き皇帝は己の失言を自覚する。だが、もう遅い。口から出た言葉は戻しようがないのだから。
「えっ……あぁっ……! 本当にごめんさい。美味しかったのでつい⋯⋯! 私、食べ過ぎでしたか……?」
「いや、えーと⋯⋯。好き嫌いしないのは良いことだよね……!」
「気が回らずに失礼いたしましたわ」
おどおどするベルゼフリートに、セラフィーナは大皿を差し出す。野菜の煮物が満載されている。
「……へ?」
「どうぞ。私ばかり食べていましたわ。陛下が育ち盛りだとすっかり忘れて……」
そういうつもりで言ったわけではなかった。しかし、ベルゼフリートは反論をためらった。
誤解しているのなら、そのままでいい。角が立たない。しかし、一つだけ大きな問題があった。
(僕、もう食べられないよ……! ていうか、食べきれる量を作ってないんだって! それ……!)
「どうされたのです?」
「その、僕はもういいかなって。ロレンシアのミルクがすっごく美味しかったから、食べたい気分じゃないっていうかさ……」
「もしかして、陛下が野菜をちょっとしか食べていなかったのは⋯⋯。お嫌いだからですか?」
(えぇ……。普段より食べたんだけど、あの量でちょっと……?)
「差し出がましいですけれど、ちゃんと食べないと大きくなれませんわ」
「いや、もう無理……!」
野菜嫌いではない。しかし、この大皿を空にできる大食漢ではなかった。いくら育ち盛りだとしても、こんな量は食べられない。胃袋の許容量を超えている。
結局、ベルゼフリートは残った料理を全てセラフィーナに譲った。
朝食を独占していると思い込んでいるのか、セラフィーナは申し訳なさそうな顔で完食した。
「とても美味しかったですわ」
セラフィーナは調理を担当した二人組の女官に深々と頭を下げる。
皇帝の料理番となっている女官だ。その腕前は一流である。文句の付けようがない絶品揃い。しかし、全てを完食できる量ではない。数人前の料理をセラフィーナは平らげた。
(こんなに食べるんだ。胃袋どうなってるんだろ……?)
体内で質量保存の物理法則が無視されている。異能の一種ではないかとセラフィーナを疑った。ベルゼフリートはひき気味だった。
セラフィーナの妖艶な肉体は、奇跡的なバランスで成り立っている。
摂取した食事量とウエストの細さは比例しておらず、吸収した栄養は全てバストとヒップに回される。そうに違いないとベルゼフリートは思った。
「なるほどね、育つわけだ……」
「……? どうされたの?」
「人体って不思議だなぁって……」
ベルゼフリートの推察は正しい。セラフィーナは太らない体質だった。贅肉は胸と尻に集約され、弾力性に富む乳房と臀部を備えた妖艶なボディが出来上がった。
今のセラフィーナは胎児を宿した妊婦。栄養の大部分は子宮に育つ新しい生命に注がれていた。