【248話】皇帝の御心、悪疫の足音(♥︎)

 黄葉離宮の廊下を美しい妊婦達がり歩いている。

 先頭を進む赤毛の美女は、妖艶な超乳を誇らしげに揺らす。ニップルピアスで溢れ湧く母乳を留めた乳房は、うっすらと静脈の青筋が透けている。肉体改造の豊胸効果で膨れ上がった代物であるが、天然モノでは成し得ない傑出の巨物が実った。

 子産みに最適化された苗床胎の美女は、ほんの数年前までアルテナ王国の凛々しき女騎士であった。重厚な鎧に身を包み、長剣を雄々しく振るう。羨望の眼差しを向けられていた女騎士ロレンシアは過去を語る。

「――私がバルカサロ王国を訪問したのは七年前です。先の王妃であったエルシェベナ様が身罷られ、国葬が執り行われました。エルシェベナ様はガイゼフ様の生母で、当時は重要な同盟国。大規模な弔問使節団の派遣をアルテナ王国は決定しました」

 女王セラフィーナはアルテナ王国に留まったが、そのかわりに王婿であったガイゼフ、さらにリュートとヴィクトリカが参列した。近衛騎士のロレンシアは王族の護衛兼従者として弔問使節団に加わった。

「イシュチェル王妃との面識はないのね?」

 狐の尻尾をばたつかせながら、エルフィンはバルカサロ王国で起きた出来事を聞き出している。帝都で名を馳せた一級冒険者のエルフィンだろうと国境は越えられない。国外の情報を持っているのは特級冒険者か、他国と情報交換をしている冒険者組合の上層部だけであった。

 ロレンシアは七年前のおぼろげな記憶を手繰り寄せる。

「実はあります。向こうは覚えてないと思いますけれど。盛大な国葬でしたから、教会の高位聖職者も参列していました。当時はまだ修道女でしたが、イシュチェル様は聖歌隊の一人だったのです。お恥ずかしながら王宮で迷子になっていたところを助けてもらいました」

「え? 迷子? ちょ、まって? 王族護衛の近衛騎士が迷子になったの?」

「エルフィンさん⋯⋯。それを言わないでください。私だって過去を恥じているんです。だって⋯⋯七年前ですよ?」

「七年。ってことは、ロレンシアはまだ⋯⋯」

「はい。十二歳の私は初任務に浮かれていたんです」

「その年齢なら仕方ないわね。でも、十二歳の少女騎士を護衛に指名するアルテナ王家って⋯⋯。それはそれで、どうなの?」

「今にして思えば、近衛騎士ではなくフォレスター辺境伯の娘として弔問使節団に参加させられていたのでしょう。こう見えても私は有力貴族の一人娘です」

「フォレスター辺境伯の一人娘だものね。今、ご両親とは?」

「実家には無視されています。私は皇帝陛下の御子を産みましたから⋯⋯。下手を打てば所領を帝国に奪われかねない。西アルテナ王国の執政官職を打診された際も、父は病気療養を理由に辞退しています。領地に引きこもり、王都ムーンホワイトに上洛する気はなさそうです」

 二人の会話を後ろで聞いていたルイナとアリスティーネは、辺境泊という単語に反応する。メガラニカ帝国では馴染みのない爵位である。

「辺境伯って⋯⋯。辺境の⋯⋯田舎貴族?」

「ルイナのお馬鹿⋯⋯! 辺境伯ってのは侯爵と同格!! 国境に広大な領地を持つ大貴族だよ。フォレスター辺境伯は帝国と近いんだから、聞いたことくらいない? 私だって知ってるのに⋯⋯」

「え? ロレンシアってめっちゃ良いとこのお嬢様!?」

「女王の側近が底辺貴族なわけないでしょ。たくっ⋯⋯。世間知らずなんだから」

「私はこれまでの人生を狭い世間で生きてきたんだもの」

「冒険者を引退して宮中の女になった自覚を持ちなさいよ。ちょっとは社会勉強するべき。私まで恥ずかしくなるわ」

「え~。勉強が嫌いだから冒険者になったのにぃっ!」

「もう私達は冒険者じゃないの。天上人の女仙。せっかく不老にしてもらったのよ。賢くなる努力をしたら?」

「私の娘に期待する。なんたって皇帝陛下の娘。一流の教育を受けさせるわ」

「そういう母親は嫌われるわよ」

 最後尾を歩く女僧侶は仲間達の談笑を物静かに眺めている。こうして黙っていれば完璧な聖職者である。

 冒険者時代においても得難い医術師ヒーラーの逸材だった。人格に目をつむり、能力面だけなら、医務女官の登用試験に合格していたであろう。

「くんくんっ⋯⋯。おや?」

 テレーズの鋭い嗅覚は性臭を感じ取る。発情したオスメスが交わる濃厚な匂い。

「リーダーとリアさんは、もう皇帝陛下のお相手をされているようです。全員が揃うまで待つと言っていたのに⋯⋯♥ お気の早いお二人ですわ。それとも皇帝陛下が我慢できなかったのかしら? ふふふふっ♥」

 テレーズに言われて一行は耳を澄ませてみる。

 静かにしていると、聞き覚えのある嬌声が廊下の先から聞こえてきた。

 妊婦達は示し合わせたように笑みを浮かべた。五人の美女は全員がたった一人の少年を愛し、子宮に新たな生命を授かっている。

 真紅の長髪を靡かせた美女、宮中最大の巨胎超乳を誇るロレンシア。

 儚さと幸薄な雰囲気を纏わせた美女、見事な毛並みを誇る狐族のエルフィン。

 屈強な女戦士の肉体美はボテ腹になっても健在、剛強なアマゾネス族のルイナとアリスティーネ。

 物静かを装う狂信者、見た目だけなら完璧な美女僧侶テレーズ。

 部屋から溢れ出た帝気に酔い痴れ、美女達は股を濡らす。己の胎に御子を宿す栄誉にとどまらず、女の幸せも強く欲してしまう。幼帝の巨根に子宮は惚れ込んでいる。

 警務女官に入室の許しを得て、ロレンシアを筆頭とした側女達は皇帝ベルゼフリートが滞在する一室に足を踏み入れる。

 室内では予想通りの淫景が広がっていた。

 リアとララノアはソファに腰掛けている。衣類の乱れは激しく、恥部が丸出しの状態だった。だらしなく両足を開き、アクメ汁を撒き散らした痕跡がある。

「おぉお゛ぉぉ⋯⋯っ♥ あぁっ♥ んぉおおぉ゛ぉっ♥ 陛下ぁぁあっ♥ もっと強ぐぅう゛ぅう♥ オチンポくださいっ♥ わだしのオ゛マンゴォを突き上げてぇっ⋯⋯♥」

「ララノアってばお腹に赤ちゃんいるんだよ?」

「あふぅっ♥ だいじょうぶっ♥ んぁっ♥ ですぅっ♥ あぁっ♥ んぁああっ♥ きてぇ♥ お願い♥ んぃっ♥ 皇帝陛下と一つにっ♥ なるゅぅうのぉっ♥ あぁっ♥ んぁっ♥ 」

「んっ⋯⋯くぅっ⋯⋯! ララノアはもっと激しいのがお好み? 大神殿のエルフはもっと上品でお淑やかなセックスをするのに。ほんと、ドスケベエルフなんだから」

「あんっ♥ んぁっ♥ 私は街育ちの粗野なエルフですから♥ あ゛ぁっ♥ ん゛っ♥ ああぁ♥ 気持ち良いですぅっ♥ もっと、もっとぉ♥ セックスで気持ちよくなりたいっ⋯⋯♥」

 悶え悦ぶララノアはベルゼフリートの背中をがっしりと抱きしめる。陰茎の裏筋が波打つ。皮膚下の尿道が隆起し、大量の精子が激流の勢いで進む。一級冒険者の体力を存分に活かして、挿入された巨根に媚びる。

(今、この瞬間だけはッ♥ 私だけの皇帝陛下おとこぉッ♥)

 絶頂に達したララノアはベルゼフリートの顔面を乳間に沈める。黒茶色に染まった乳輪の突起が硬く勃つ。放精中の幼帝はなされるがまま、もみくちゃにされる。

「ん゛んぅ♥ あ゛ぁうぅ⋯⋯♥」

 蕩けきった満足顔でララノアは肺に溜め込んだ息を吐き出した。室内に入ってきた同僚達と目が合った。幾分の正気と節度を取り戻し、気恥ずかしそうに笑った。

「先に始めようと皇帝陛下が⋯⋯♥ そうですよね。リア?」

 ソファーに腰掛けたリアはえの荒い呼吸を必死に整えていた。

 ぽっかり開いた膣穴から精液の濁流が漏れしたたる。

 よくよく見れば尻穴アナルにも大量射精された痕跡があった。リアはベルゼフリートの手マンで盛大な潮吹きアクメを披露し、ララノアよりも先んじて二穴の性奉仕を愉しんだ。

「はいっ⋯⋯♥ 皇帝陛下のオチンポにご奉仕しておりました⋯⋯♥ んっ♥ あぁ⋯⋯♥」

 子宮の奥底で沸き起こる胎動にリアは喘いだ。臨月のボテ腹が力強く動いている。胎児の活発さを感じ取り、母胎は悦びを感じる。

「――さぁ、私達も皇帝陛下にご奉仕しましょう」

 唇を緩めてロレンシアは妖艶に笑う。ネグリジェが床に滑り落ちる。黄葉離宮の妊婦達は一斉に衣服を脱ぎ捨てた。女陰を愛液で濡らし、射精直後の息を切らした幼帝にまとわりついた。

「順番だよ。僕の身体は一つなんだからね」

 セラフィーナが不在の黄葉離宮で側女達の性宴は始まる。

 ◇ ◇ ◇

 皇帝ベルゼフリートが黄葉離宮でお愉しみの頃、宮中祭祀が延期された大神殿では重大な話し合いが行われていた。事の発端はマリエールの護衛役を任された帝国軍大佐からの報告だった。

 護送の道中、バルカサロ王国の難民が街道で揉め事を起こし、大佐はその対処に人員を割いた。

 教会圏で忌み嫌われる悪魔族の医術師ヒーラーに対する種族衝突を起因とする騒動。大佐は報告書にそう記そうとしたが、さらに問題を深堀りすると新たな事実が判明した。

 副都ドルドレイの悪魔名医は周囲の制止を跳ね除けてまで、難民の治療で駆け回っていた。第一の理由は社会奉仕であるが、栄養失調に陥った難民の間で疫病が流行り始めているという話を耳にしたからであった。

 伝染病は初期の封じ込めが肝要だ。メガラニカ帝国で疫病が広まってしまったら、領土全域を清める大規模な祭礼をしなければならない。悪疫浄化の祭礼も皇帝ベルゼフリートがいればこそ為せる。

 体調不良の難民は大勢いたが、特に子供や高齢者に重篤な症状が現れた。奇怪であったのは、伝染病の疑いがあったにも関わらず、大規模な集団感染はなく、散発的に難民の間でだけ病人が発生した。

 人から人には感染しない。難民が連れている家畜の病死も相次ぎ、そこに原因があるのではないかと調べていた矢先、くだんの大佐がある事実に気づいた。

 難民が持ち込んだ紫芋は白い病斑に侵されていた。

 メガラニカ帝国で紫芋はほとんど栽培されていない。帝国の人々が好む里芋は白色だ。紫色の芋は食用で忌避され、土壌や気候の不一致もあって、ごく一部の地域で流通している。

 大佐の郷里は帝国内で紫芋が食される数少ない地域だった。難民が持ち込んだ紫芋は、白いカビのような病斑があり、鼻を近付けると異臭がした。

 飢えに苦しむバルカサロ王国の難民は「痛む前に火を通せば問題ない」と言ったが、体調を崩した病人はこれらの紫芋を食していた。

 大佐は白カビに覆われた紫芋を見た記憶がない。仮に傷んだとしても黒ずんだり、芽が生えてくるのが先だ。バルカサロ王国では栽培している品種がメガラニカ帝国と異なる。しかし、近縁種で大きな違いが現れるとは考えにくい。

 不吉な予感を覚えた大佐は、病人を治療した医術師ヒーラーの証言と合わせて、「難民が持ち込んだ紫芋に白カビあり。帝国本土の作物にも害を与える可能性あり。至急、調査を求む」と軍務省に報告した。

 大佐には伝手つてがあった。帝国内で起きたクーデター派の鎮圧で情報将校ユイファンの指揮下で戦った部下であった。彼自身の軍功が評価され、姉は軍閥派の公妃として入内している。

 かつての上官と姉に頼めば、自分が心配せずとも必ず調査を進めてくれる。大佐は難民が持っていた紫芋を天空城アースガルズに送付した。

 軍務省の調査が一段落し、白カビの生えた紫芋は大神殿に送り届けられた。大神殿には農作物の専門家スペシャリストがいる。

「なんとも⋯⋯。酷い悪臭じゃのう。鼻が曲がりそうじゃ」

 大神殿の一室に運び込まれた紫芋をカティアは見下ろす。軍務省の動きは非常に早かった。軍務省による調査は首席宮廷魔術師ヘルガの手で行われたが、大神殿の意見が必要になると分かるや否や、難民が持ち込んだ紫芋などの食料を買い上げ、女官を動員して送りつけてきたのだ。

「神官長猊下。これを運んできた女官メイドにも嫌味を言われたんだからやめてください」

 研究室を飛び回る農学者のフェアリー達は、紫芋が発する悪臭にうんざりしていた。

 多種多様な種族が共存するメガラニカ帝国ではフェアリー族の女仙もいる。フェアリー・クイーンの称号を持つ種族長は、古代からの習わしで入内すれば必ず王妃の称号を与えられる。

「――で、どうなのじゃ?」

 カティアは小さな賢人に調査の進捗を問う。大神殿は司法機関であるが、医療や公衆衛生などの公的役割を担っている。

 フェアリー族は天候や農林の知見が深い。

「首席宮廷魔術師の変人王妃と同意見。難民が持ち込んだ食料類はぜーんぶ廃棄っ! 没収! 没収! 没収! そんでもって焼却!! 感染源は消毒! 早期に発見できてよかった。うちの脳筋軍団もたまには良い働きをするね」

 小さな妖精の女王は虹色の羽根をばたつかせる。カティアは漂ってくる悪臭から顔を背けた。

「其方は帝国軍を貶しておるのか、それとも褒めているのか」

「貶しながら褒めてるの。ともかく没収して正解! この芋は腐ってるだけじゃない。恐ろしい病魔が引っ付いている。初期段階はちょっと臭う程度だから、焼けば食べられると思っちゃうんだろうね。毒素も少量だから、身体が弱ってる人間じゃなければ、重篤な症状は出ないだろうし」

「ほう。毒があるのか?」

「微弱だよ。普通なら死ぬような毒じゃない。お腹を壊すくらい。でもね。人間ならって話だよ。僕ら人間は色々な毒に耐性がある。⋯⋯だけど、この白カビは土壌の作物を食い荒らし、家畜にとっては致命的な猛毒になる」

「難民が連れていた家畜の死因じゃな。これで難民だけで発生する病の理由も分かった。ごく一部の地域を除いて、帝国の人々は紫色の芋を食わんからな。この白カビは他の農作物にも感染するか?」

「帝国で育ててる作物にも感染しちゃうだろうね。土壌に根を張るタイプの菌だ。芋だけじゃなくて、麦とかの穀物に伝染うつるかも」

「作物に罹る疫病⋯⋯。厄介じゃのう。凶作となれば連鎖的な飢饉を招く。昔の悪夢を思い出す」

「死恐帝の時代に頻発した悪疫の近縁種かもね。皇帝陛下が即位なさった年に駆逐して以来、帝国内では一度も発生していなかった。この白カビはバルカサロ王国で自然発生したんだろうね」

「持ち込みを禁じても難民の移動は抑えられぬ⋯⋯。糞尿で広がってしまうか?」

「どうだろ。熱を通せば病原菌は死滅する。毒素は残るけどね。生食だったら⋯⋯病原菌は生きたまま出てくるかも⋯⋯。熱を通す前に皮を剥いたら、生ゴミが感染源になる。問答無用で全部の食料を取り上げたら?」

「説明無しに食料を取り上げれば問題が起きよう」

「説明したところで信じるかな?」

「さてのう。ただでさえバルカサロ王国の民は反感を抱いておるのだ。矜持もあるのじゃろう。大神殿の施しを拒否する者もいると聞く」

「恨んでるならそんな国に逃げてこないでよ⋯⋯って私は思うけどね。うちだって皇帝陛下が降誕される前は崖っぷちで、やっと戦争も終わって旧帝都を復興するってときに⋯⋯。手が回らないよ」

「しょうがないであろう。さて、どうするか」

「農学者の立場としては検疫強化を要望する。副都ドルドレイの周辺は農業地帯がほとんどないから、被害は広がらないだろうけど⋯⋯。帝都アヴァタールの森林地帯やナイトレイ公爵領に近づけちゃ駄目だ」

「ナイトレイ公爵領は難民を一切受け入れておらん。あの地域は保守的じゃ」

「今回の件が明らかになれば、保守的な地域の住民は反難民に偏るだろうね。実際、大問題だ。田畑を汚染されると土地が使い物にならなくなる。⋯⋯まあ、今は皇帝陛下がおられるから、昔みたいに土地を焼かずに済むけどさ。浄化の雨で一掃できるのは確認した。今の帝国なら解決できる」

「ふむ。帝国全土に〈浄化の雨〉を降らせよう。皇帝陛下の御力を使って病魔を駆逐するのじゃ」

「布告を出さなきゃね。週末は大雨を降らすから、洗濯物は干すなって⋯⋯」

「アルテナ王国では既に広がっているやもしれん。〈浄化の雨〉を国外に広げられるか?」

「アルテナ王国の西側は問題なく浄化できる。今は女王のセラフィーナが女仙になってるし、御子も産んでくれた。繫がりは十分にある」

 勢力圏に組み込まれた西側領土は、メガラニカ皇帝の恩寵効果が及ぶ。

 女王セラフィーナと皇帝ベルゼフリートの血が交わった娘セラフリートは王都ムーンホワイトで暮らしている。その効果も大きい。

「問題は東側じゃな」

「東側まで届くかは微妙。グウィストン川が地脈を断絶してる。大河の境界線は霊力の断崖でもあるから。⋯⋯そもそも恩寵を届かせる必要はないかもしれないけど」

「人命は尊重せねばなるまい。バルカサロ王国の難民がもっとも多く流れ込んでいるのは東アルテナ王国じゃ。あちらで女王をしておるヴィクトリカは女仙化しておらぬが、皇帝陛下の御子を産んだ。恩寵の流れが届くのではないか? 地脈は途切れても、血は繋がっておるじゃろう」

「⋯⋯東アルテナ王国の領土内に御子がいるなら血縁を道標に辿れるかな」

「ベルゼフリート陛下の戯れがこんな形で役立つとはのう」

「それに東西分割は地図上での話。全領土を女王セラフィーナの統治圏と解釈させれば⋯⋯まあ、いけるでしょ」

「アルテナ王国の穀倉地帯は西側に集中しておる。まず問題なかろう。それよりもバルカサロ王国じゃな。⋯⋯宰相府の予測は正しかったのう」

「宰相府の予測って?」

「内乱で国外に逃げ出した難民。その数があまりに多すぎると宰相府は前々から怪しんでおった。戦乱によって流通網が麻痺し、都市部で飢餓が発生した。そう思われおったが農村部から逃げてきた者達も大勢いたのじゃ」

「泣きっ面に蜂だね。内乱と飢饉のダブルパンチだったわけだ」

「反感を抱く帝国に嫌々逃れてきたのも、これで納得がいく。飢えに苦しむ人々は行き先を選べぬ」

「⋯⋯。神官長猊下。飢えた難民をどうするおつもりで?」

「可能な限り保護する方針じゃ。三頭会議ではそう決まった」

「人道的見地から可能な限りはするべき⋯⋯。しかしながら、不可能なことを背負いこむのはいかがなものかな」

「⋯⋯⋯⋯」

「今からでも遅くない。⋯⋯帝国軍を動かし、北東の国境を封鎖させるべきでは?」

「⋯⋯⋯⋯。急に改まってどうしたのじゃ?」

「バルカサロ王国で大規模な飢饉が発生しているのなら食料が足りなくなる。ただでさえメガラニカ帝国は人口が増えて、今年はアルテナ王国から大量に穀物を輸入していた。皇帝陛下のご恩寵で豊作は約束されているけど、それにも限度がある。影響は最小限に抑えたけれど、今年は蝗害の被害もあった」

 フェアリー・クイーンの王妃は真剣な眼差しでカティアに具申する。

 周囲を飛び交う側女の部下達も調査の手を止めていた。妖精の一族は農林業を司ってきた。メガラニカ帝国の生産能力は新帝誕生で急増したが、戦争に人手を取られた影響もあり、食料価格は高止まりしている。

「其方が言わんとしていることは分かっておるよ」

 皇帝に豊作祈願をさせれば一定量の収穫は見込める。だが、種を植えた以上の実りはありえない。理論上の最大値が収穫高となるだけだ。

 土地に無限の栄養を与えても、無限に食料が湧き出てくるわけではない。

「⋯⋯バルカサロ王国の土地は悪疫の苗床となった。統治者がまともな状態なら備蓄の食料を人々に分け与え、大凶作を乗り越えられたかもね。しかし、内乱の真っ最中。王や貴族が溜め込んだ食料は今頃、兵糧となっている。人々はこのままだと冬を越せない」

「バルカサロ王家に仕えていた軍師団も同意見じゃろうな。彼奴きゃつらは第二王子と第三王子の戦いを止めず、徹底した情報封鎖だけを続けておる。⋯⋯いや、戦いが激化するように煽っておるだろう」

「⋯⋯⋯⋯内乱を止めずに煽る?」

「死恐帝時代のメガラニカ帝国で大神殿が取った施策を覚えておろう? 食料が減っても、飢饉を起こさぬ方法が一つだけある」

「口減らし⋯⋯。人口の抑制」

 重々しく、苦々しい口調だった。陽気なフェアリー族には似つかわしくない。

 崩壊寸前まで追い詰められたメガラニカ帝国は、養う人口を減少させることで、死恐帝の災禍を乗り切った。人命守護を掲げてきた大神殿は、国民を見捨てることで帝国を存続させた。

 それどころか、帝国を見捨ててでも転生者の守り人であると考えた。

「バルカサロ王国の小賢しい軍師団は内乱で意図的に人を減らしておる。土壌を汚染した白カビの悪疫に対処できぬのなら、そうするほかあるまい。我々もそうであった。⋯⋯内乱にかこつけて田畑に火を放っておるだろうよ」

「メガラニカ帝国では〈救国の英雄〉が現れた。⋯⋯バルカサロ王国にはいるのかな」

「どうじゃろうな」

 救国の英雄アレキサンダーは仲間達とともにメガラニカ帝国の病巣を一掃した。しかし、それだけの傑物が都合よく現れるほど、現実は甘くない。

(不思議なものじゃ。バルカサロ王国の王妃イシュチェルが女仙となって入内した。宰相の思惑通りに事が進めば、バルカサロ王国の民を大飢饉から救えるやもしれぬ⋯⋯。ベルゼフリート陛下次第ではあるがのう)

【248話】皇帝の御心、悪疫の足音(♥︎)

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