カールには家族が四人いる。母親と姉、そして妹と弟。
カールは貧民街の集合住宅で家族と共に暮らしていた。父親はいない。いるのかもしれないが、どこで何をしているのか、そもそも生きているのかさえ分かっていなかった。
母親はカールの父親が誰なのか知らなかった。カールの母親は貧民街の娼婦。産まれた子供は全員が客の子で、おそらく全員が種違い。父親が異なる兄弟姉妹だった。
娼婦だというのなら、避妊くらい徹底しろと言いたかった。しかし、母親が避妊を徹底していたら、自分は産まれてきていない。なので、カールは何も言えなかった。
不思議な家族だったが、仲は悪くない。母親は四人の子供に等しい愛情を注いでくれた。
一家の稼ぎ頭は長女のナタリーだ。酒場で給仕として働いている。母親は自分のような娼婦になってはいけないと、常連客だった酒場の主人に頼んでナタリーを定職に就かせた。
その酒場の主人こそが、ナタリーの父親なのではないかとカールは疑っている。その酒場の主人は姉だけを妙に可愛がっているからだ。
カールの妹と弟はまだ幼いので、母親が家で面倒をみている。娼婦の仕事は休業中だ。
長男のカールも姉のように一家を支えるため、働かなければならない。しかし、日雇いで手に入る金は微々たるものだ。
カールは副業でスリや引ったくりを繰り返すようになる。小柄なカールは俊足だ。何度か警備兵に捕まりかけたが、今のところ収監されずに済んでいる。
窃盗はカールなりの親孝行だった。真っ当な稼ぎだけでは、貧しい暮らししかできない。
妹と弟が成長すれば、母親が働けるようになる。だが、母親に娼婦の仕事を続けさせたくなかった。
娼婦を買う客が良い人間ばかりとは限らない。暴力を振るってくる下衆な輩だっている。小さい頃、顔に痛々しい青アザを作った母親を見たことがあった。
妻に頭が上がらない弱い男は、金で買った娼婦に暴力を振るった。家庭内での苛立ちを解消する下種な奴が、常連客の中にいた。
母親に娼婦を辞めさせたいのは、それだけが理由じゃない。近頃、娼婦が行方不明になっている噂をカールは耳にした。
母親の知り合いにも失踪してしまった娼婦がいた。
どこかで金持ちの男と一緒に暮らしているのだろうと、母親は楽観的に考えていた。だが、殺されて埋められているかもしれない。カールは母親が被害に遭わないか心配だった。
(――お金さえあれば家族が幸せになれる)
カールは盗品を扱う店で盗んだ黒革のカバンを売り払った。そこそこ上質な黒革だったので、高値で買い取ってくれた。
カバンに入っていた人形は、買い取りを拒否されてしまった。捨てるのももったいないので、妹と弟のために持ち帰った。
いつも通りの日常だった。
外れのカバンを盗んでしまったというだけ。それが発端になって、こんな惨事が起こるとは考えてもいなかった。
「――やれやれだ。カール。何でこんなことをした? ママから人の物は盗んじゃいけないと教えてもらわなかったのかぁ?」
男達が自宅に押しかけてきたのは、カールが黒革のカバンを盗んだ翌日の夜だった。
家には長女のナタリーを除く全員が集まっている。夕食を用意して、ナタリーが勤め先の酒場から帰ってくるのを待っていた。
ナタリーが帰ってきたと思って、玄関のドアを開けた瞬間、見知らぬ男達が押し入ってきた。最初は押し入り強盗かと思ったが、貧民街の集合住宅に暮らしている貧乏一家が金品を持っているはずがない。
――男たちの目的は、カールが盗んだカバンの中身だった。
男達は手際よく、カール達を縛り上げる。そして、何かを探し始めた。男達は目的のモノをすぐに見つけ出した。
黒革のカバンに入っていたボロい人形だった。
リーダーらしき男は人形を引き裂いた。何の価値もないガラクタだとカールは考えていた。だが、男たちにとっては、大切な物が隠してあるお宝だった。
「よしよし! 隠してたお薬は、大丈夫のようだな。あ〜。よかった。これがなかったら俺も始末されていたかもしれない。いっひひひひ!」
人形の中に入っていたのは、袋詰にされた麻薬。この時になってカールは自身の大失敗を理解した。カールは麻薬の運び人が持っていたカバンを盗んでしまったのだ。
麻薬の価格について詳しくはない。だが、人形に隠されていた麻薬は、金貨単位の値で取引される量はあった。価値があるからこそ、麻薬組織はカールの家を探し当て、取り戻すために押しかけてきたのだ。
「さてと、カールぅ! 盗んだカバンは、貧民街の盗品市場で売ったようだな。いけない子だなぁ。だが、見つかってない物があるぞ。本はどうした? 誰かに売ったのか? それともこの家にあるのか?」
「…………」
「おっとぉ! すまない。猿ぐつわをしていたら、喋れないな。外してやるよ。だが、叫んだりして助けを呼んだら、お前の家族をぶっ殺す。分かったな?」
男はカールの猿ぐつわを外した。
「……カバンは道に捨ててあったのを拾ったんです。盗んでません」
「嘘はよくないぞ。カールぅ……。嘘つきは泥棒の始まりだ。ちゃんと教育を受けていないようだな。嘆かわしい。お前が引ったくりの犯人ってことはお見通しだ。お前の足跡を辿って、この家を見つけたんだ。苦労したんだぞぉ?」
「ほぉ……本当に! 拾ったんです……!」
「嘘が上手いなぁ。でもな、俺達は盗人の足跡を頼りに、王都のあっちにいったり、こっちにいったり、そして……ようやくここを見つけたんだぞぉ……。俺の苦労を否定する気か? ええ? おい?」
麻薬組織は粘体の使役獣を使って、カールの痕跡を辿った。貧民街の盗品店で盗まれた黒革のカバンを発見し、カバンを売ったのが不良少年カールであると突き止めたのだ。
カバンの運び人から得た証言とカールの風体は一致している。盗人がカールなのは明白だった。
「もう一度聞くぞ。本をどうした? 答えろ。カバンの中に一冊の本が入っていたはずだ。まさか鍋敷きにでも使っているのか?」
「……それは、その……!」
カバンの中に入っていた本が今どこにあるのか。カールには分からない。通りすがりの誰かに押し付けてしまったからだ。答えられない質問だった。
「見上げた度胸だ。この状況下でも喋らないなんて、中々できることじゃないぞ。俺にだってできない。俺としても不本意だが……、こうなっては仕方がない。しょうがないことだ。嘆かわしい。俺だって仕事で来ているんだ。うぅううう……。あぁ。涙が出てきたぜ……。おい。そっちのメスガキを殺せ!」
男が命令する。カールの妹が死んだ。男の部下が鋭利な短剣で、妹の喉元を突き刺していた。
突然の出来事にカールは事態を飲み込めない。さっきまで自分の足にじゃれついていた幼い妹の首から、真っ赤な血が溢れ出ている。
「あぁぁ! あぁああああああぁっ!! 待って! やめてください!!」
カールは、悲鳴に近い声で叫ぶ。幼い弟は呆然とした顔で妹の死体を見ている。
母親は拘束を解こうと足掻いた。だが、解けない縛り方をしているので、抜け出すことはできない。仮に拘束を解いても、この状況はどうにもならなかったはずだ。
「幼い子供が死ぬというのは、本当に嘆かわしい……! 罪もない幼い子が死んじまった! 俺としても心苦しい。だが、こうでもしないとカールは素直な子になれないのだろう? さあ、教えてくれ。本はどこにある? 早く言え。死体をもう一つ作ってやろうか?」
「知らない! 本は知らない人が持っていったんです。どこにあるのか分かりません。お願いです。お願いだから家族は殺さないでください! なんでも喋ります。もう嘘は絶対に言いません!!」
「素直ないい子になったなぁ、カールぅ! おじさんはとっても嬉しいぞ! 教育というのは、こういうものだ。人間は身体の痛みと心の痛みでしか成長できない。だが、ちょいと待て! 本がどこにあるのか分からない? はぁ!? 一体全体どういうことだ……!?」
カールは白状した。
金にならないと思って、石橋の上から本を捨てようとしたこと。通りすがりの男に見咎められて、盗んだ本を押し付けてしまったこと。その男が本をどうしたのか自分は知らないこと。
カールの話を黙って聞いていた男は、口元こそ笑っているが、目には憤怒の感情が宿っていた。
「なるほどぉ! 本を捨てようとするなんて、いけない子だ。これはお仕置きが必要だな。ついでだ。――そっちのガキも殺しておけ!」
「や、やめてくださいっ!! お願いしますッ!! 弟を殺さないで! 盗んだ本は絶対に取り返してきます! 俺が持ってきます!! だから殺さないでください!!」
必死な叫びは届かない。カールの弟は刺殺された。
「あぁ~あぁ~。死んじまったぜ?」
猿ぐつわのせいで、短剣を突き刺されているのに悲鳴すら上げられない。両目からは涙が溢れ出ている。痛みと恐怖によって歪みきった顔で、カールの弟は息絶えた。
「取り返す……? どうやってだ……? プランを話せ。カールはその男の顔すら覚えてないんだろ。まったく、嘆かわしいなぁ。貧しいながらも幸せに暮らしていた家族四人を皆殺しにするのは、本当に嘆かわしい。だが、一番嘆かわしいのは俺達だ。違うか? え?」
残酷な男は笑う。人殺しを愉しむ目をしていた。
「盗まれた本を取り返せないばかりか、手を汚さないといけない。王の番犬に渡ったわけではなさそうだ。一般人があの本を手にしても、隠された意味には気付かない。ともかく最悪の事態だけは避けられそうだ……」
「待って! やめ――ぁぎゃッ!」
男はカールの顔を容赦なく蹴り飛ばす。
「嘆かわしいぞ。カール。なあ! お前のせいで、罪もない子供を俺達が殺すことになったんだぞ!! それに、可愛い妹と弟に詫びる必要があるじゃないか? これはもうお前自身の命で償うしかないよなぁ!?」
「あぎゃッ! やめぇぎゃぁ! 痛ぃあぎゃがぁッ!!」
「蹴り心地が最高だな! 気に入らない上司の飼い犬を蹴り殺したときを思い出すぞ!! ぐちゃぐちゃの肉塊になるんだぜぇっ!!」
男は蹴って、蹴って、蹴りまくる。顔の原型がなくなるまでカールを靴底で嬲り続けた。
「ふぅ~。爽快だ!」
カールの家族を短剣で殺した部下は、嬲り殺しにされているカールに同情してしまう。死ぬにしても、ああいう殺され方は御免だと思った。
「ああ。くそ! 嘆かわしいな……! 靴が薄汚い盗人の血で汚れてしまったぞ! 匂いも酷い! まるで生ゴミだ! どうしてくれるんだ!! 生まれが下賤だと死に方まで汚えのか!?」
男は腹いせに、カールの死体をさらに蹴りつけた。絶命したカールは呻き声を上げない。そのまま地面を転がっている。
「部屋に盗まれた本はありません。人形だけです」
「ああ、だろうな。素直なカールの言っていたとおりだ。どこかの誰かが本を持っていってしまった。もはや見つけようがない。だが、誰にも見つからないのなら、それでもいい。王立騎士団の手に渡ったというわけではなさそ……」
カールを蹴り殺し、興奮状態の男は違和感を覚えた。用意された食器とカールの家族を見比べる。
「んんぅ……? おいおい! ちょい待てよぉ! これは、どういうことなんだ……?」
「はい? 何でしょうか?」
「はぁ……。嘆かわしい頭だな。それとも目玉の方か? この夕食に決まってるだろ? ちゃんと見えてるよな?」
男はテーブルの上に置いてあった家族の夕食を指差す。
「食器が五人分あるぞ。父親はいないって、お前は言っていたよな!? だったら、なんで五人分の夕食が用意されてるんだ? 四人しかいないぞ。誰の夕食が用意されてたんだ!? まさか俺の分か? 違うだろ!」
転がっている子供の死体は三人。そして生き残ってるのは母親一人だ。なのに、テーブルの上に用意されている食事は五人分。五人分の食事が置いてあるのであれば、もう一人はそろそろ帰ってくる。
「――申し訳ありません! さっき女が逃げていきました。廊下で捕まえようとしたんですが、取り逃がしてしまいました。どうやらこの部屋の住人のようです」
廊下で見張りをしていた部下が報告をする。自分が住んでいる部屋に知らない男達が入り込んでいて、何かをしているのだ。
か弱い女なら部屋に飛び込んできたりはせず、まず警備兵を呼んでくるだろう。
「ちっ……! クソっ! やっぱりもう一人いたんじゃないか。嘆かわしい状況だぞ。全員が帰ってきてから襲うべきだったな」
男はカールの死体を腹いせで踏ん付ける。
「おい! 何をぼさっとしてる!? 無能どもが! さっさと追いかけろ! 逃げた女は適当にぶっ殺して、川に沈めておけ!! この部屋の後始末は俺がやる!」
男は部下達に抹殺を命じる。逃げていった女を追って、部下達は夜の貧民街を駆けていった。
「嘆かわしいな。奥さん……。可愛いお子さんが一夜で三人も死んでしまった。心からお悔やみ申し上げるよ。ひょっとして今追いかけられている女も、奥さんの子供か? だとしたら、本当に可哀想だ。申し訳ない気持ちになってしまうよ」
男はテーブルの上に用意してあった夕食を床に叩き落とす。
「えーと、確か名前は……、ああクソめ! 駄目だ。思い出せねえな。部下から聞いたはずだが……まあいいか。ともかくだ。奥さん。俺は申し訳なく思っている。ガキを殺しにしちまって本当にすまなかった。これから奥さんも死んでもらうが、俺なりの償いをさせてくれ」
「――んぅぅ!」
「遠慮するなって。ガキを四人もこさえるくらい好きなんだろ。最後にヤらせてくれよ」
男はカールの母親を持ち上げ、食卓の上に乗せる。縛り上げられている母親は下着を脱がされた。悪漢は泣きじゃくる母親の膣に陰茎を突き刺す。
「へへっ! 濡れてやがる。嘆かわしい売女だ! 我が子を殺されて興奮してたのかよ? おらっ! お望みのオチンポだぞ!」
手足を縛られた母親は、愛する子供を殺した男の生殖器を受け入れてしまう。
カールの母親が娼婦をしていたのは、身体を売るしか能がない女だったからである。彼女自身、性行為が嫌いでなかった。けれど、今やっているセックスは最悪だ。
「ンぅぅぅぅ……! んんぎゅぅぅう……!!」
腰が振り下ろされ、男根が打ち込まれる。悪漢は鼻息を荒くしながら腰を振ってくる。娼婦として使い込まれたオマンコは男の肉棒に奉仕してしまう。
「気持ちいいのか? 俺の一物に吸い付いてるぜ。近所迷惑になるから猿轡ははずしてやらねえがな!」
猿ぐつわのせいで、言葉を発せない。だが、近所の住人に助けを求める悲痛な声であることは分かった。
無意味な叫びだ。
貧民街の住民は助けに来ない。警備兵が来るまで隣人は部屋に閉じこもっているだろう。それを知っているから男は、思う存分陵辱を堪能できた。
子供の死体が転がる部屋で、男は容赦なく母親のオマンコを犯す。
「さすが淫売だ。悪くねえ締め付けだぜ! 自分のガキを殺した男のオチンポはどうだ? 気持ちよくて最高って顔をしてるぞ!」
男の手が母親の首を掴んだ。強い握力で首を締め上げる。気管が絞られ、首の骨が軋む。
「んぐぅぁ……ぁぁ……!」
「イきたいんだろ? イかせてやるぜ。いっひひひひ! 死ぬ瞬間に俺の精子で孕めよ! 奥さん!! あの世で俺のガキを産んどけ!」
悪漢は射精すると同時に握力を一気に高めた。カールの母親は精子で子宮を汚される絶望のなかで絶命する。
「おぉっ……! すげえ! 死んでるのに締まるぜっ!」
殺した後も男はセックスを続け、三度も死体に膣内射精した。
「ふぅぅうう……。出た出た。死んでからのほうが抱き心地はよかったぜ。あの世で俺の子によろしく言っておいてくれよ。奥さん!」
男は陵辱した死体のオマンコから肉棒を引き抜いた。
現場に残されたのは、幼子の刺殺死体が二つ、顔の潰れた少年の死体。そして、膣口から白濁した液を垂れ流す娼婦の死体だ。
男はちょっとした遊び心で、わざわざ死体の足を開脚して、母親の陰部を晒しておく。死体を最初に見つけた警備兵の顔を想像すると顔がニヤけてしまう。
「――まったく嘆かわしいぜ!」
女を犯してスッキリした極悪非道の強姦魔は、乱れた着衣を整えて凄惨な現場を後にした。