2024年 2月22日 木曜日

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2夜 家族が増えるよ

NOVEL冥王の征服録2夜 家族が増えるよ

——冥王は、魔物の支配者だ。

滅ぼされた魔王に代わる存在。新たな人類の天敵である。けれども、魔物のなかでは最弱と言っていいだろう。頂点に君臨している魔物の王者が、個体として最強と言うわけではなかった。

ルキディスの身体能力は、平均的な人間を上回る程度である。

「ご主人様。無理をなさらないでください。重たい荷物は私が積み込んでおきます」

「そ、そうか。すまないな。頼んだ。シェリオン」

ルキディスが持ち上げられなかった木箱をシェリオンは軽々と持ち上げる。そして、玄関先に停車している荷馬車に積み込んだ。

(不甲斐ないことだが、俺は何もしないほうがよさそうだな)

冥王には4人の眷族がいる。眷族4人のなかで冥王より弱い者は、1人もいない。単純な殴り合いなら、冥王は数秒で敗北してしまう。

冥王の持つ武器とは、人間の雌に種付けをする生殖能力だ。敵との戦いは戦闘に秀でている眷族や血族に任せればいいのだ。冥王の魔素を受け入れた眷族は、最上級の力を持つ魔物となり、冥王の身を守る最強の兵となる。けれども、眷族になれる素質を持つ者は少ない。

荷馬車に乗せたのは、眷族になれなかった成り損ないの苗床である。

木箱の中には、冥王が種付けした娼婦が入っていた。苗床となった娼婦は、死ぬまで冥王の血族を産んでくれるだろう。

冥王の眷族になれず、繁殖母体となっためすは、箱詰めにして、本国に送ることになっていた。ラドフィリア王国内で魔物を産まれても処理に困るからだ。ここよりも本国のほうが、魔物を隠す体制が整っている。

「木箱の中には我が国にとって貴重な品物が入っている。事故にだけは気をつけてくれ。安全第一で頼む」

ルキディスに言葉をかけられた御者は力強く頷いた。荷馬車はゆっくりと進んでいき、通りの向こうへと消えていった。

荷馬車の御者はサピナ小王国の外交官であった。慣例上、外交官の所持品は検査されない。そのことを冥王は上手く利用していた。木箱の中に魔物の赤子を宿した娼婦が入っていたとしても、外交官が運んでいるのなら、検問で露見することはまずない。

木箱は簡単に開封できないように細工を仕掛けてある。冥王は表面に魔術式を刻み込んでいた。事故で木箱そのものが全壊しない限り、中身が出てくることはないのだ。

——送り先はサピナ小王国。

サピナ小王国はラドフィリア王国の隣にある小さな国だ。約1年前、奴隷たちによる革命が起こり、暴君として知られていた愚王が処刑された。今は革命によって即位した新たな王がサピナ小王国を治めている。

――表向きにはそうなっている。だが、実際は違う。

奴隷たちが蜂起し、革命が起こったのは冥王ルキディスが裏工作をした成果だ。サピナ小王国に君臨する愚かな王と貴族達を、革命の名の下に皆殺しにした。そして、冥王は自らの国を手に入れていた。

サピナ小王国の新王とは、冥王ルキディスのことである。

民衆達による蜂起が成功したのは、ルキディスが魔物を使役して革命を支援したからだ。魔物達が影で暗躍していなければ、革命は失敗に終わるどころか、始まりすらしなかっただろう。

サピナ小王国の民はこの真実を知らない。そして、知る必要もないだろう。

ルキディスは王族や貴族など、旧支配層を皆殺しにしている。だが、国民に対しては寛大な統治を行なっていた。身分差を極力無くすように努め、国全体が豊かになるように政策を実施している。以前の統治があまりにも酷すぎて、未だにサピナ小王国は貧しい。けれど、国民の生活は徐々に改善されていっている。

現時点において国民から不満の声は聞こえない。革命から1年が経って、やっと混乱が収束しつつある状況だった。人間という生き物は、希望があれば多少の苦労は気にしない。人間を統治するようになった魔物は民衆の心理を理解するようになっていった。

「さてと、今日も御国のため頑張るとしよう」

ルキディスは祖国を発展させるため、隣国ラドフィリア王国で遊学している放浪学徒と身分を偽っていた。実際にはサピナ小王国の王であり、その正体は魔物の支配者である。そのことを知るのはルキディスの配下だけだ。

木箱を運んでいるサピナ小王国の官吏は真実を知らない。

新王の特命を受けて、異国の地で奮闘している国士だと尊敬しているようだった。だが、その評価が大間違いというわけでもない。ルキディスはラドフィリア王国で学んだ知識を、本国に送り届けていた。

ラドフィリア王国はサピナ小王国とは比べ物にならない国力を誇る大国であった。この国で学べることは多い。また、ルキディスはラドフィリア王国で出会った優秀な職人や学者を、サピナ小王国に招待している。

大国では技術者や知識人が数多くいる。当然、優れた者同士で競争が行われ、破れた者は十分に優れた能力を持っていても仕事にありつけ無いことがある。そういった技術者や知識人は人材不足のサピナ小王国が必要としている人々であった。

長らく愚王の暴政が続いていたサピナ小王国は、国民に対して教育が施されておらず文盲率が高かった。外国から優秀な人材を招聘しょうへいしなければ、自国民の育成すらままならない惨状だった。

「では、本日も職人組合で人材発掘をなさるのですか?」

「俺達の国は人材が不足している。国家を立て直すためにも、優秀な技術者の確保が急務となっている。革命のときに少し殺しすぎたな……。確固たる政治体制を実現するためには徹底した粛清が必要だった。仕方のないことではあったが、少しくらいは残しておくべきだったか……」

「私達が産んだ子供では駄目なのですか?」

シェリオンを始めとする4人の眷族は、冥王の子供を幾人も産んでいる。苗床となった繁殖母体から産まれる低級魔物と違い、眷族が産むのは能力の高い冥王の血族だ。

妊娠期間が伸びるものの、人間に擬態できる魔物を産むことだってできる。

「サピナ小王国は俺達の隠れ蓑だ。いくら化けるのが上手い魔物でも、バレるときはあっけなくバレる。冥王や眷族は、完璧な擬態ができる。だが、血族はそうじゃない。ちょっとした間違いで、国を支配しているのが魔物だとばれたら、今までの苦労が水の泡だ。今は人間の力だけで、サピナ小王国を復興させなければならない」

冥王の使命は、人類を滅亡させることだ。その冥王が、人間の国を栄えさせるために腐心している。その事実はまったくもって皮肉なことであった。

*****************

ラドフィリア王国の都ペイタナ、その治安を守る兵士は2種類いる。

憲兵と警備兵である。憲兵のほうが地位は上だ。警備兵は重要ではない雑事などを主な職務とする。憲兵となれるのは、生まれが特別であるか、飛び抜けて優秀な人間のみである。一方で警備兵は庶民でもなれる職業であったが、出世をしても憲兵に従う立場であり続ける。

「――アマンダ・ヘイリー。彼女を含めると失踪した娼婦は14人となった。娼婦が行方知れずとなるのは、珍しいことじゃない。しかし、今回のような消え方は異常だ。何の前触れもなく娼婦が次々に消えていく。何一つとして有力な手がかりは見つからない。そんな不気味な失踪事件がこの数カ月で頻発している」

上司は娼婦連続失踪事件について説明していく。この1ヶ月間で娼婦が立て続けに失踪した。

娼婦が犯罪の被害者になるというのは珍しくない。普通の市民と違って、娼婦が消えても最初は誰も騒がない。そのせいで大事になってからようやく世間は異常に気づき始める。

この事態を治安維持を担う王都の兵士達が把握したのは、14人目の娼婦アマンダ・ヘイリーが失踪してからだった。

「何らかの組織的な犯罪に巻き込まれているのでしょうか?」

「さあな。分からない。川に死体が浮いていれば、いかれた殺人鬼の仕業だが、今回は消えただけだ。死体は一つも出てこない。行方知れずとなった娼婦のなかには、自ら失踪するとは考えにくい裕福な者もいた。失踪者に共通点はない。失踪した娼婦同士に交流はなく、出身地域もバラバラ。強いて言うなら、胸が大きくて、若い女ということくらいか……?」

シルヴィアは上司を睨む。

「おいおい。そんな顔をするな。犯人がそういう娼婦を好んで拉致しているかもしれないだろうが」

「14人も失踪しているのなら、普通は組織的な犯罪を疑います。いつも偉そうにしている憲兵達は、なぜ捜査をしないのですか?」

「死体が出てきていないからだ。そもそも、消えているのは娼婦だ。現段階で憲兵は事件性があるとは考えていないのだろう」

「そんな……っ! 娼婦だからって軽視しているのですか!? 信じられないっ! 職業差別です……!」

「だが、今回はさすがに消えた人数が多い……。情報を集めろと憲兵団から通達が来た」

「いまさらですか? もっと早く分かっていたのなら、すぐ動くべきです。遅すぎますよ。そんなの……」

「ずっと動かないよりはいいさ。そこで本題だ。6日前に失踪したアマンダ・ヘイリーは、シルヴィアが担当するペタロ地区で目撃されている。お前に頼みたいのは、聞き込みだ。情報収集以上のことはしなくていい。気になることがあったとしても首を突っ込むなよ。事件に発展するなら管轄は警備兵じゃない。憲兵団だ」

「……要するに警備兵の私はまた憲兵の下働きですか」

警備兵になって既に2年となるが、やっているのは全部それだ。

「仕方ないだろう。我々警備兵は雑兵だ。どんなときも憲兵様に従わなければならないのさ。お前も警備兵の端くれなら、ちゃんと覚えておけ」

上司は憲兵に服従することに慣れきっている。若い頃はプライドもあったのだろうが、この歳になるとそんなものはなくなる。

頭を下げて、腰を低くしていればいい。それだけで大半の面倒事は回避できる。事を荒立てるのは馬鹿のすることだ。しかし、血気盛んな若い女の警備兵は割り切れていない。

「分かりました! そうおうことなら聞き込みに行ってきます!」

「おい! 余計なことはするなよ。シルヴィア。聞き込みだけだからな!」

「分かってます。支部長」

シルヴィアは、資料に添付された写絵を見る。

名前はアマンダ・ヘイリー。美しい妙齢の女性だ。

彼女は娼婦街の路上で客を引っかけるような下品な売り方はしていなかった。小金持ちの商人がわざわざ屋敷に呼ぶような高級娼婦である。お金に困っていた様子はなく、失踪するような理由は見当たらない。

アマンダは6日前、仕事をすると言って出かけたきり、行方不明となった。

彼女の常連客だった商人が憲兵団に相談したことで、やっと国は重たい腰を上げた。動いたといっても警備兵団に聞き込みを命じただけであるが、それでも何もしないよりはいい。シルヴィアは自らが担当するペタロ地区へ赴く。

――ちょうどその頃、サピナ小王国に木箱が到着した。

木箱に箱詰めされているのは、冥王に種付けされた繁殖母体である。腹は大きく膨張して、赤子を産むのに適した肉体へと変化しつつある。約1ヶ月の時間をかけて苗床は完成するだろう。そして死ぬまで冥王の子を生み続けるのだ。

彼女は6日前までは人間だった。今は自我を失っている。肉体は生きているものの、人格は永久に失われ、廃人と化している。

孕み腹のめすは淫猥な喘ぎ声を漏らす。子宮内では冥王の子供達が蠢いていた。魔物を産み落とし続ける繁殖母体は静かに啼いた。

「おぁっ! んっおぉ! んぃいぃ……! んぉぉ! んぉぉぉおお……っ!」

魔物の苗床と化した哀れなめす。人間だったころの名前をアマンダ・ヘイリーという。

********************

空が茜色に焼けてきた夕暮れ時、その客はやってきた。革鎧を着た首都警備兵はシルヴィア・ローレライと名乗った。

金髪で瞳の色は緑色。顔立ちは小顔で整っている。美女と呼んで差し支えない。年齢は20歳になるかならないといったところだろう。革鎧で胸部を押さえ込んでいる。けれど、おすの本能で胸部の隠された発達具合を知覚できた。

めすの肉体的ポテンシャルを読み取る能力が冥王にはあった。年齢だけでなく、肉体的にどれほど成熟しているかなど、生殖適しているかを把握できる。読み取れるのは人間の女に限定されるが、排卵日を含めて多くのことを知ることができる。

本音をいえば、こんな分析能力ではなくて、身体能力を高くしてもらいたかった。しかし、冥王の力はやはり繁殖に特化していた。

姿を自由自在に変化させる能力でさえ、好意を寄せられやすくするためだ。

強大な存在に化けても所詮は見てくれだけの張りぼてである。体細胞を強化し続けようと人間の平均を超える程度が上限だった。

この場で、一般的な警備兵であるシルヴィアと腕相撲をしたとしよう。その場合、僅差で負けてしまう程度の身体能力しか冥王にはないのだ。

体格差があるので、殴り合いならおそらく勝てる。しかしながら、鍛えている女性兵士ですら、ぎりぎりでしか勝てないのだ。普通の男性兵士ならば、余裕でルキディスを殺すことができる。それが冥王という最弱の魔物だった。

「この女性が行方不明なんですか……」

「東区の歓楽街に住んでいた女性で、6日前にこの近辺で目撃されています。心当たりはありませんか?」

「いえ。残念ながら、見かけてません」

警備兵シルヴィアは、行方不明者を探していた。

見せられた写絵は、数日前に本国送りにした娼婦の横顔が精巧に描かれている。この娼婦に何が起こって、今現在どうなっているか。ルキディスはこの世の誰よりも知っていたが知らないふりをする。

「話は変わりますが、ルキディスさんは1ヶ月前に引っ越して来たそうですね。出身は隣国のサピナ小王国とのことですが、なぜラドフィリア王国の首都に?」

シルヴィアはペタロ地区で入念に聞き込みを行った。努力も虚しく、アマンダ・ヘイリーについての情報は得られなかった。この数日間でシルヴィアが得た成果はない。

娼婦がどこに消えたのかは、依然として手がかりが見つからなかった。落胆していると、ある住人が1ヶ月前に引っ越してきた人物がいると教えてくれた。

娼婦が消え始めたのも1ヶ月前である。

何か関連があるのではないかと思ったシルヴィアは、ルキディスという放浪学徒の青年が住む家を訪ねていた。

「国の仕事ですよ。サピナ小王国は改革の真っ最中です。有能な人材を見つけて、サピナ小王国で働いてくれないか勧誘をしています。職人や知識人が不足していてね……。国内で育てる程の余裕がないので、外部から招くほかない。いわゆるヘッドハンティングです」

「移民を募集しているということでしょうか?」

「移民だけでなく、帰国事業もしていますよ。サピナ小王国はかつて愚劣な王が統治をしていました。獣人を家畜扱いして、外国に売り飛ばしていたり……、本当に酷い時代だった。そのときに売り飛ばされた国民を買い戻して、祖国に帰国させたりもしています」

「売られた国民を連れ戻しているのなら……、たとえば娼婦を帰国させたりもしますか?」

「ええ、あると思いますよ。売られた先で娼婦に身を落とした獣人は多い。自分の家族が売られて、行方知れずになっているというのは、珍しいことじゃありません。うちの国ではね。離散した家族を再会させるための帰国事業でもあります」

「移民の名簿などはあります?」

「それなら大使館に勤めている外交官に問い合わせてください。俺は留学をしている学徒です。正式な外交官ではありません。似たようなことをしてますが人手不足ってだけです。大使館に行けば分かると思いますよ。移民の募集は、ラドフィリア王国の許可を得たうえでやっています。記録は絶対に取っているはずです」

特に怪しい点は見受けられない。

ルキディスは絵に描いたような黒髪の好青年だ。屈託のない笑顔で、シルヴィアの質問に答えている。嘘をついているような素振りを微塵も見せない。

シルヴィアは直感に従うことにする。連続失踪事件が起こり始めたのは1ヶ月前。この青年がやってきたのも1ヶ月前だ。そして、アマンダ・ヘイリーが最後に目撃されたのはこの近辺である。偶然かもしれないが、あまりにも出来過ぎている。

「近所の方から聞いたのですが、ルキディスさんには同居人がいますよね? 一緒に住んでいる方からもお話を聞いているのですが、よろしいですか?」

「同居人……? あぁ、シェリオンとユファのことかな? かまいませんよ。彼女たちも知らないと思いますけどね。しかし、聞いてみたら、実はということもあるかもしれない。どうぞ、家に上がってください」

シルヴィアは、ルキディスの自宅に招き入れられた。

ルキディスが住んでいる家は、庭付きの民家だ。元々はサピナ小王国の貴族が所有していた不動産であったという。革命後は国有物とされ、国費で遊学しているルキディスに貸し与えられた。そうルキディスは説明してくれた。

貴族の所有物件だったということもあって、内装は綺麗で庶民が暮らす家より豪奢だ。裕福な商人が住んでいそうな雰囲気がある。

「シェリオン。こちらはお客様だ。警備兵のシルヴィアさん。俺達の住んでいる地区を担当しているそうだ」

「はじめまして。シルヴィア様。私はルキディス様にお仕えしているメイドのシェリオンです」

現れたメイドの美貌に、シルヴィアは目を奪われる。

シェリオンと名乗ったメイドは、牛の角が生えた美しい獣人の女性だった。

高級感のあるメイド服を着用し、挨拶の仕草は洗練されている。使用人の美貌は雇い主の地位が高いことを意味する。顔が良いという理由だけで、出自や階級をすっ飛ばして、大貴族に召し抱えられる使用人だっているくらいだ。

その点で言うなら、シェリオンは王家に仕えていていても、まったくおかしくない絶世の美女だった。

「ユファも呼んできてくれ。シルヴィアさんは2人に聞きたいことがあるそうだ」

ルキディスはもう一人の同居人を呼んでくるように命じる。

彼女たちがやってくる間、シルヴィアは客間で待たされた。ルキディスはシルヴィアにお茶と茶菓子を出して、サピナ小王国の事について語ってくれた。

サピナ小王国は1年前の革命で混迷を極めた。一時は財政が破綻寸前に陥った。崖っぷちに立たされながらも持ち堪えられたのは、隣国ラドフィリアからの支援があったからだ。

しかしながら、その支援は純粋な善意によるものではない。緩衝国であるサピナ小王国が完全崩壊をラドフィリア王国が恐れたこと、さらに大量の難民が押し寄せてくるのを懸念したからである。手前勝手な理由かもしれない。けれど、支援が無いよりはましだ。

ルキディスはサピナ小王国の人間として、手を差し伸べてくれたラドフィリア王国の警備兵に感謝の言葉を伝えた。

「先ほどのメイドさんは、ルキディスさんの奴隷なのですか?」

もしそうだとすれば、ルキディスはサピナ小王国でそれなりの地位にある人間であるはずだ。単なる遊学の学徒に庭付きの家を与えて、さらには使用人まで付けるのは不可解だ。

「いいえ。シェリオンは大切な家族です。それにサピナ小王国は奴隷廃止を目標としています。シェリオンは元奴隷ですが、今は違います。『様』付けで呼ぶのは、絶対に変えてくれませんけどね……。シュティア族は頑固なんですよ。シェリオンの気性はまさしく牛ですね。おとなしそうですが怒ると怖い。しかも、拘っていることに関しては物凄く頑固だ」

「ルキディスさんは、貴族なのですか? 暮らしぶりを見ている限りでは、とても一介の庶民とは思えません」

「貴族であり、貴族ではない。なので、どちらとも言えません。俺は貴族の地位を捨てて革命に参加した人間です。なので、貴族の生まれですが、貴族ではないということになります。サピナ王国で貴族だった人間は、処刑されているか、国外へ亡命しています。そうでなければ、俺のように革命軍側に付いて地位を捨てているかです」

もちろん嘘だ。ルキディスは人間ではなく魔物として生まれた。しかし、サピナ王国の貴族に成りすまして、革命を後押ししたのは事実である。嘘に綻びはない。大使館に問い合わせれば、ルキディスの身分を外交官が保障してくれる。

「ご主人様。ユファを連れてきました」

シェリオンが連れてきたのは、猫の特徴を持つフェリス族の少女だった。

やはりというべきか、彼女もシェリオンと同じく美しい。シェリオンとは違って堅苦しいメイド服は着ていない。露出の多い挑戦的な服装だ。使用人という感じではない。

「はじめましてニャ〜♪」

態度はシェリオンと正反対で砕けていて、見かけ通り軽い口調で挨拶してくれた。

「はじめまして。私は警備兵のシルヴィアです。シェリオンさんはメイドのようですが、失礼ながらユファさんはそう見えませんね」

「僕は家事手伝いニャ。昔は奴隷だったけど、革命のせいで失業しちゃったのニャ。無職になるくらいなら、僕は奴隷のほうがよかったニャ」

「はっはははは……。実を言うとユファのように奴隷制廃止を良く思ってない奴隷もいるんですよ。生まれたときから奴隷だった人は、自由を与えられても、その後どうすればいいのか分からなくなってしまう。革命後すぐに奴隷制度を廃止するはずでした。しかし、今もなお完全廃止できないのはそのせいです」

「ニャハハハハ。自由よりも衣食住ニャ。それで、警備兵さんが僕達に聞きたいことって何なのニャ?」

「実は行方不明者を探しているんです。この女性はアマンダ・ヘイリー。6日前に失踪しました。彼女の他にも14人の女性が行方不明となっています。疾走する直前、アマンダさんはペタロ地区で目撃されています。シェリオンさんとユファさんは、どこかでこの女性を見かけたりしていないでしょうか?」

「私は見ていません。ユファはどうですか?」

「んにゃー。僕も知らにゃい。どこかで見てても覚えてないニャ」

シルヴィアが差し出した写絵を見ながら2人は首を横に振った。

「この1ヶ月間、何か変わったことはありませんでしたか? どんな些細なことでも構いません」

「変わったことと言われても、僕たちは引越してきたばかりニャ。こっちに来てからは新しいことの連続ニャ」

ユファの言うことは、もっともだ。異国から引越してきたばかりの3人にとっては、まだ何が変わったことであるかなど分かりようがない。シルヴィアは自分の質問が失当であったことを恥じる。

「家の前に大きな荷馬車が停まって、大きな荷物をどこかへ運んでいると近所の方から聞きました。サピナ小王国に何かを送っているのですか?」

「主に書籍です。農薬だとか、農法の本を送っていますよ。革命のときにトチ狂った貴族が王城の大書庫を燃やしてしまったので、技術書が足りてないんです。なので、こっちで買い付けた書籍を本国に送っています」

「なるほど。本を……」

ひょっとしたらと思ってシルヴィアはルキディスの家を調べにきた。けれど、今のところ何一つとして不審な点は見つからない。

1ヶ月前にルキディス達が引越してきたこと、さらに馬車で大きな荷物をどこかに運んでいると聞いたときは、もしかするのではと疑っていた。

悪い予感が外れるのは良いことだ。しかし、警備兵だけで犯人を突き止めることができれば、警備兵の評価は上がったはずだ。それだけに、空振りだったのは残念に思ってしまう。

「警備兵が捜査しているのなら、この連続失踪事件は大事おおごとになっているんですか?」

「いいえ。大事件だったら警備兵じゃなくて憲兵が動いてます。まだ憲兵団は事件性があるとは思ってないみたいです。なので、警備兵が聞き込みで情報を集めている段階です」

「なるほど。しかし、シルヴィアさんの様子から察するに、有益な情報は見つかっていないようだ。もっと大規模な捜索をしたほうがいいのではありませんか? 14人もの女性が消えているわりには、騒がれていませんね……」

「行方不明というだけですから。死体が出てきたわけでもないので、憲兵団は動くつもりがなさそうです。警備兵だって聞き込みをしているのは私くらい。王都は住んでいる人間が多いので、行方不明はよくあることなんです。借金取りから逃げるためだとか、駆け落ちだとか、単なる家出とか……」

「人がいなくなる理由はたくさんありますからね」

「いなくなった14人は、横のつながりがないので、単なる偶然ってこともありえるんです。捜査に協力していただき、ありがとうございました。お茶までご馳走になってしまって。いつまでもお邪魔していたら迷惑になってしまいます。もう帰りますね」

「いえいえ。警備兵のお仕事を頑張っているのは感心です。事件性があるにしろ、ないにしろ、いなくなったが早く見つかることを祈ってますよ」

ルキディスは、意味有りげに微笑した。

警備兵シルヴィア・ローレライは、気付いてしまう。シルヴィアはこの家に来てから、『娼婦』が行方不明になっているとは言っていない。

アマンダ・ヘイリーの職業がだということは言っていない。

――だというのに、ルキディスは娼婦と口にした。

「……あの、もう帰りたいのですけど。そこをどいてくれませんか?」

シルヴィアは客間から出ようとするが、その退路をシェリオンが塞いだ。不穏な気配をひしひしと感じていた。

立ち塞がるシェリオンは無表情で、シルヴィアを見ている。ユファはニタニタと静かに笑っていた。ルキディスは好青年の仮面を被ったままだが、室内の雰囲気は一変している。

「こういう時は、二人一組で行動すべきだ……。そして相手に情報を与えるべきでもないな。沈黙は金、雄弁は銀と言うだろう。憲兵団は動いていない。警備兵すらも本腰ではない。貴様はそう言った」

「…………っ!」

「さすがに動き出す頃合いだとは思っていたさ。1カ月で14人はやりすぎだったな」

「貴方は……やっぱり……っ!」

「貴様が来てくれたおかげで色々なことが分かりそうだ。感謝するぞ。——シルヴィア・ローレライ」

危機を感じ取ったシルヴィアは腰のレイピアに手を伸ばす。即座に反応したシェリオンが一気に距離を詰め、シルヴィアの腹部に正拳を叩き込む。

「――うぐぁっ!?」

革鎧を貫通した衝撃が鳩尾みぞおちを直撃する。冥王の眷族と化しているシェリオンの怪力は人間の限界を超えている。本気の一撃ならシルヴィアの内蔵を破裂させるどころか、肉体を貫通する威力となる。

シルヴィアにとっては重たい一撃である。一方でシェリオンは手加減をしていた。主君は生け捕りを望んでいる。シルヴィアに死んでもらっては困るのだ。

「くぅうっ……!!」

吐き気と痛みで、意識が薄れていく。視界が朦朧もうろうとしていくなかで、ユファの笑い声が脳内に響いた。

「ニャハハハハハ。これで今日から君も家族ニャ」

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