ムーンライトノベルズのアプリ『ムーンブックス』 1年もたずにサービス終了へ、表現規制や決済手段の制約も影響

 「小説家になろう」などを展開するヒナプロジェクトは、女性向けR18小説サイト「ムーンライトノベルズ」のアプリ『ムーンブックス』のサービス提供を2025年4月25日で終了すると発表した。

 2024年6月にリリースした『ムーンブックス』では、ムーンライトノベルズとは異なる「新しい作品との出会い方」や「文字に集中できる快適な読書環境」を提供していたが「昨今の表現規制や決済手段に関する制約等の事情により、今後のサービス継続は困難であるとの結論に至った」と説明。1年もたずにサービスの終了が決まった。

 サブスクリプションの新規契約および自動更新、アプリ内アイテムの購入は、2025年3月19日をもって停止する。サブスクリプションの自動更新が停止するため、追加の料金は発生しない。

 アプリの完全停止まで1ヶ月ほど期間を設けており、現在契約中のプランが終了するまでは利用できるため「サービス終了に伴う返金対応は原則として行わない方針」としている。

 サービス終了までのスケジュールは次の通り。

▼2025年3月19日(水)

 ・アプリの新規インストールの停止
 ・サブスクリプション(定期購読)の新規契約および自動更新の停止
 ・アプリ内アイテム「書庫」の購入の停止

▼2025年4月25日(金)

 ・サービスのご提供を終了

▼各種の手続き

サービス終了日までに退会・解約の手続きを行う場合は下記のページから。

 退会のお手続き:https://moon-books.jp/app/help/delete_account/

 プラン解約のお手続き:https://moon-books.jp/app/help/cancellation


【三紋昨夏の見方】

1年未満でサービス終了、表現規制・決済手段だけの問題だったか?

 まずアプリのレビューを見ると分かりますが、かなりの低評価アプリでした。

 有料を前提とした読書アプリで、その金額は月額380円。比較的安価ではありますが、お金を1円でも取るとなったらユーザーの獲得が大変になるのがネットサービスです。1年課金したら4500円なわけで、本が4~5冊買える値段となってしまいます。

 「昨今の表現規制や決済手段に関する制約等の事情により、今後のサービス継続は困難であるとの結論に至った」と発表ではあるものの、はたしてそれだけが原因かと勘ぐります。

 ーーというのも、ヒナプロジェクトさんは、男性向けに展開していたR18SNS+R18コミッション「onaco」を2024年末にサービス終了したばかり。その原因はUI(ユーザーインターフェース)の扱いにくさがありました。

 VISAやMastercardの表現規制は確かに影響していますが、JCBなどの手段は残されているわけで、表現規制や決済手段の問題だけでなく、収益性に大きな要因があったと考えざる得ません。

 小説投稿サイトとして一世を風靡した「小説家になろう」ですが、見ている限りプラットフォームにおけるマネタイズ(サブスク型&課金型)の経験値は低そうです。サービス開始から広告収益を主体にしてきた弊害でしょう。

 「Google Play」での低評価レビューに目を瞑るとしても、ダウンロード数が「1000+」はユーザー人口が少なすぎます。

 この規模なら最低でも1万ユーザーは欲しいです。

 仮にサブスクだけを収益源として、ユーザー数を1000人としたとき、サービスを提供した10ヶ月で稼げるのは下記のお値段です。

 ムーンブックスの売上(仮定)⇛月額380円×サービス期間10ヶ月×1000ユーザー=売上380万円

 ここからさらに決済手数料を引き、アプリ開発費、広報費、人件費などを引いたら収益はマイナスです。もしユーザーが1万人なら3800万円となり、リリース1年目の成長途上だと考えれば及第点になります。

 サービスを打ち切ったのはおそらく売上が500万を下回ったからではないかと予想。私が経営者ならアプリ開発費の回収すら不可能と断じた時点で切ります。アプリ開発&維持費に600万以上は掛かっているはずですから、1年や2年、あるいは3年たっても回収できないのなら、損切りを考えても仕方ないです。

 さて、アプリ『ムーンブックス』ですが、このサービスは読書環境を売りにしていました。

 ①広告なしの快適性、②新しい作品と出会える等です。しかし、考えてみてください。ツイッター(現X)で課金してまで広告を消したいユーザーはどれほどの割合でしょう?

 めちゃくちゃ少ないです。これはどのサービスでも言えます。お金を払うくらいなら広告を見る。この層はネットユーザーの大多数を占めます。

 そもそもウェブで無料で見られるものをわざわざ有料アプリで見る層は稀有です。買い切りのアプリであったならまた別だったでしょう。あるいは有料ユーザー向けに特別なコンテンツを用意していれば、課金する動機づけになったかもしれません。

 また、お試し版が存在せず、利用⇛即課金の導線は不親切でした。ユーザーからすると中身が分からないサービスにいきなり個人情報+380円を支払うわけです。抵抗感は大きかったと思われます。

 ②新しい作品と出会えるという強みも、Web版に劣っていたとあります。正直な話を言えば小説は人の好みがはっきり出ます。

 性的愛好が絡む18禁小説では特に。これを完璧にマッチングするのは現在のAIを用いても困難です。そんなものがあったら商業で使いたいくらいです。

 プラットフォーム側が読者に提供できるマッチングシステムは、「新着順」「ランキング順」「お気に入り作家の更新」くらいでしょう。ニコニコ等のように作品に課金して、広告で目立たせるなど、いわゆる投げ銭システムもありますが、これは実装にとてつもない労力がかかりますし、エロの規制を考えると難しいでしょう。

 読者と作品のマッチングは、作品をレビューしてくれる奇特なスコッパーさんを地道に増やすか、適切なランキングシステムを構築するくらいしかないと思われます。プラットフォーマー側が出張る場合、どうしても広告案件(タイアップ)になりがちですし、やるなら不公平感をなくすためにも広告費をもらって特定作品を取り上げるべきでしょう(当然「PR作品」などの明記は必要です)。

 さて、話は変わりますがヒナプロジェクトさんは新規採用を募集しており、その職種が「WEB広告運用職」です。

 勝手な想像になりますが読者ユーザーのサブクスでマネタイズするのは困難と判断し、原点回帰の広告主体に舵を切ったのだと感じました。

 実際にそういう判断をしたのかは分かりません。ですが、三紋昨夏としてはその判断は間違っていないと思います。

ちょっとした小話

 ーーと、言うのも「小説家になろう」「ムーンライトノベルズ」「ノクターンノベルズ」のアクセスは非常に多く、カクヨムなどに読者を奪われていても魅力的な媒体ではあり続けているからです。

 アフィリエイトではなく例えば「出版社の新刊広告(コミックスや小説)」だとか、「新しい漫画サイトの広告」や「ソシャゲーの広告」などを直接取ってこられれば収益性はグッと上がります。

 電子コミックなどは成長市場で読者の奪い合い。そんな中でラノベなら「小説家になろう」、成人女性向けなら「ムーンライトノベルズ」、成人男性向けなら「ノクターンノベルズ」でデカデカと広告を出しませんか? と大手版元に持ちかければ数千万は軽く稼げます。というか、私がヒナプロジェクトの人だったらそれをやってしまうかな。

 あとはECサイトを立ち上げて書籍化作品を自分たちで売ってしまうとかでしょうか?

 「ムーンブックス」に関してもサブスクではなく、買い切りのビューアーアプリだったなら私は可能性はあったと思います。そこで広告を無くすのではなく最適化する道を選ぶべきでした。

 表現規制や決済規制は確かに大きな問題ですが、これは特定の一社だけでなく業界全体が悩まされる一種の障害です。この難局を誰よりも先に一歩突き進めれば、大きなサービス成長に繋がります。

 ヒナプロジェクトさんが新しい挑戦をしてくれることを切に願っています。

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