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【2話】洗脳解除(前編)

 闇樹館の食卓では、ダザリーヌが会話の中心となる。

 この子が産まれてから、レーヴェ家は本当に賑やかになった。しかし……本当によく喋る娘だ。そこが可愛くもあるわ。底抜けに明るい性格は、両親のどちらから受け継いだ形質?

 育てている私にも分からない。だが、どちらかといえば大火事で家族を亡くす前の御主人様に似ているかも? 手足を失う前のヴォルフ坊ちゃんは好奇心が旺盛だった。けれど、ダザリーヌほど騒々しくはなかったと思う。

 次女のアヴェロアナは読書家だ。まだ三歳だというのに、書庫の童話集を読み漁っている。特に冒険譚が好きなようだ。内向的な性格だけど、冒険者に強い憧れを抱いているらしい。

 今は本を読んで想像を膨らませるだけで満足している。成長して大人になったら、この子はどんな令嬢になるだろう?

 姉妹の性格は正反対に見える。だけど、根幹は似ているのだと思う。相性も抜群だ。

 ダザリーヌとアヴェロアナは喧嘩をまったくしない。いつも二人で仲良く遊んでいる。

「――お母様はどんな冒険をしてきたの?」

 ダザリーヌが私に問いかける。

「僕も気になる。カレンティアは帝都で有名な冒険者だった。そう聞いたよ」

 ヴォルフ坊ちゃんも興味を示している。アヴェロアナは食事の手を止め、私を見ていた。つまり、全員が私の過去を知りたがった。

 帝国辺境の北部で暮らす私達は、山中に広がる荘園が世界の全てだ。外界の情報は隣町や行商人を介して伝わる。都会の冒険者が辺境のド田舎に来ることはない。話を聞きたがる気持ちも分かる。

「えっと、そうですね……」

 意識の微睡まどろみが弱まっている今、記憶を掘り起こしたくはなかった。想いは繊細だ。封じ込めた自我が呼び覚まされる。だけど、ちょっとした昔話なら平気だと思った。

「私は――」

 ヴォルフ坊ちゃんと娘達はカレンティアの冒険譚を喜んで聞いてくれた。しかし、自分語りは痛恨の過ちだった。

 ◆ ◆ ◆

 頭痛がする。ヴォルフ坊ちゃんに心配されてしまった。だけど、我慢できる程度の痛みだ。

 私を悩ませた立ちくらみはすぐに鎮まった。

 夕食は何事もなく終わり、食器の片付けを済ませた後、お風呂の準備を整える。湯浴みの順番は最初にヴォルフ坊ちゃんと私、次にダザリーヌとアヴェロアナと決まっている。

 就寝前に戸締りを確認して、私はヴォルフ坊ちゃんの寝室で同衾どうきんする。

 一緒のベッドで寝るのはセックスをするためでもあるし、ヴォルフ坊ちゃんのお世話がしやすいからだ。両足がないから自力では歩けない。車椅子はあるけれど、望む方向に車輪を転がす腕もないのだ。

(私は――)

 主寝室の暖炉に視線が吸い寄せられた。燃え盛る薪がパチパチと音をあげている。思い出す。帝都の酒場で仲間達と暖炉の近くで語り合った。店主に促されるまで居座った。酔っぱらった私の肩を支えるがいる。

 ふざけるな。とは誰だ?

 私には御主人様しかいない!!

 私の身体に触れてよい殿方はヴォルフガング・ゴットフリート・レーヴェ卿だけだ。私に恋人はいない! 帝都の婚約者など存在してはならない! 

(私は――)

 娘達が寝静まった深夜は大人の時間だ。

 いつものようにヴォルフ坊ちゃんとの純愛セックスで忘れさせてやる。

 今度こそ、誰にも邪魔されずに性交を愉しもう。私はベッドで騎乗位セックスを堪能する。

 メイドの願いは御主人様の赤ちゃんを妊娠すること。ヴォルフ坊ちゃんと毎晩の営みで子作りに励んでいる。

 性奉仕に集中しなさい。下らない妄想だ。メイドの使命を果たせ。

(――違う! 私は冒険者だ!!)

 溢れ出た主人格の記憶を引き裂く。

 私はレーヴェ家の使用人。ヴォルフ坊ちゃんにお仕えするメイドだ。

 冒険者であったのは過去。もはや忘れ去られるべき過ぎ去った経歴だ。いや、違う。消してしまえ! 私は冒険者なんかではなかった。ずっとレーヴェ家の使用人。生まれながらに忠実な奴隷メイドだ。

(――違う! 私はメイドなんかじゃない!)

 さっきからやかましい女だ。

 五月蠅い! 五月蠅い! 五月蠅い! 五月蠅い! 頭が割れそうだ!

 さっさと首を刎ねてしまえば良かった。

 この五月蠅い頭は、なぜ私に逆らうのだろう? レーヴェ家のメイドになれて幸せなはずだ。何が不満なの? 冒険者なんて社会の底辺! 組合に扱き使われる使い捨ての傭兵じゃない!!

 私のおかげで由緒あるレーヴェ家の従者になれたのよ。

 可愛い赤ちゃんだって産めるわ。優しい御主人様! 愛らしい娘達! 暖かな家! 美味しい食事! 裕福な生活! お前は何も不自由していないわ!!

 与えられたに満足すべきだ。喚きたてるな! 黙りなさい!

(――貴様こそ黙れ! 化け物め! 私の身体から出ていけ!)

 こんなことは初めてだ。私の意識が押し出される。憑代よりしろになった女は喚き続けている。

 腹立たしい! 脳髄を潰したくなる!

 忘却の彼方に追いやった過去が蘇る。

 夕食の自分語りをしたせいだ。過去を掘り起こしが、目覚めの切っ掛けになった。

「私は――」

 やめろ! 戯言を抜かすな! 黙れ! 忘れてしまえ! お前はレーヴェ家のメイドだ!! ヴォルフ坊ちゃんの手足になれ! 奴隷女に頭はいらない!!

 御主人様の前で私に恥をかかせる気なの!?

「――私は母さんを探しに来た」

 カレンティアの自我をあなどっていた。このままでは肉体の主導権を奪われてしまう。

 私は今になって後悔する。

 この女の首をねて、氷漬けにするべきだった。なんたる手抜かり……! 痛恨の失策……!! この美貌でヴォルフ坊ちゃんを愉しませたかった。私は判断を誤った。

「あぁ……♥︎ んぅっ……っ♥︎」

 最悪だ。肉体を奪い返された。

 私が味わうはずだった絶頂をこの女が盗んでいる。

「はぁはぁ……。うっ……。頭が痛い……。なにこれ……。そうじゃなくて私は……? なんで、こんなこと? ここは? どうしてヴォルフガングさんとセックスしぃっ……んぁっ♥︎」

 ヴォルフ坊ちゃんのオチンポが射精していいのは、私のオマンコだけだ。それをこの女はっ……!! 憎い! 憎い! 憎い! 殺してやりたいわ……!!

 ――私の御主人様を寝取るんじゃぁないっ!!

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