風が凍てつきを孕み始めた晩秋。
ハンスは父親が眠る墓園に赴いた。
「肌寒くなってきたな。こういう季節のほうが好みではある。いつも父さんへの墓参りは真夏だったもんな」
父親とは一度も会ったことがない。ハンスが生まれた十八年前、父親のヴィクトールは戦争で命を落としている。
――そして、一家の不幸は続いた。
ハンスの母親ベネデッタは、女ながら剣豪の称号を持つ、凄腕の武芸者だった。
剣術で名高いアルネクティーナ家が編み出した絶技、破魔一刀流の総師範、ベネデッタ・アルネクティーナの名声は各国に知れ渡っていた。
夫のヴィクトールも優れた剣士であったが、才気溢れる妻には及ばなかった。
それでもヴィクトールが戦場に向ったのは、戦争が激化していた当時、ベネデッタがハンスを身籠もっていたからだ。もし妊娠していなければ、夫婦で戦場に立っていたことだろう。
(母さんはどんな気持ちだったんだろう。故郷に一人残されて⋯⋯俺を産んでくれた⋯⋯)
戦争で愛する夫と死別したベネデッタは、息子のハンスと破魔一刀流を守るために奔走した。
乳飲み子だったハンスは、朧気に母親の顔と声を覚えている。道場の門弟達を厳しく扱き、稽古場では常に鋭い声が響いた。ベネデッタは鬼の形相で指導し、甘えを許さなかった。
ところが、ハンスを前にした途端、柔らかな猫撫で声で子供をあやす、子煩悩な母親に様変わりする。
「父さんが世界大戦で死んで十八年⋯⋯。母さんがいなくなって、もう十五年か」
ハンスは墓園の入口で独り言をつぶやいた。
ベネデッタは亡夫ヴィクトールの遺志を継ぎ、破魔一刀流の興隆に努めた。
他流試合を積極的に行い、剣豪ベネデッタの名声は一段と高まった。
そして十五年前、あの事件が起こる。
ハンスが三歳だった頃、ベネデッタは因縁の宿敵に決闘を申し込んだ。
――勇者アモン。
戦場で最愛の夫を殺害した男。魔王を討伐し、人類の連合軍も返り討ちにした世界最強の存在。勇者アモンは世界の全てを一掃し、新たな秩序を世界に作った。
十五歳の少年が世界を変えた。
勇者アモンは歴史に名を残す大偉人である。勇者の偉業を讃える民衆は多い。しかし、多くの犠牲があって成し遂げられた偉業だ。
魔王側と人類側、旧勢力を壊滅させることで生み出された平和は、事実上の世界革命だった。
革命は失敗すれば大逆犯。しかし、成功した完遂者は英雄となる。
勇者アモンの悪逆非道を糾弾できる者はいなかった。
無慈悲な勇者は、敵対する勢力を全て駆逐した。
勇者アモンにも言い分はある。魔王を倒した直後、用済みとばかりに謀殺を仕掛けてきた国々に対する不信感。魔王を討伐し、世界の救世主となった勇者アモンは、裏切り者を許さなかった。
(身を粉にして戦い抜いて、意気揚々と凱旋したら、反逆者扱いで処刑されかけたんだ。各国の王にとっちゃ、死んだ魔王よりも生きてる勇者が恐ろしかったんだろう。⋯⋯勇者アモンはきっと失望したに違いない)
ハンスは父親を殺した仇敵に同情してしまう。
勇者アモンの怒りは正当だ。自衛のために反撃するしかなかった。
猜疑心の強まりは当然の反応だった。「話せば分かる」そんな子供染みた言い訳には、まったく耳を貸さなくなっていたという。
降伏した敵の兵士を鏖殺した虐殺行為は、史書の片隅に一筆だけ書かれているだけ。負の歴史は忘れ去られる運命にあった。
(⋯⋯だけど、母さんは父さんの死に納得できなかった)
戦死が正当な行為によるものであれば、仇敵を恨む気などまったくなかった。
ヴィクトールの最期を伝えた戦友によれば、勇者アモンは敵軍が降伏した後も苛烈に攻撃を続けた。そして、白旗を上げて戦意がないと訴えたヴィクトールを斬り捨てたのだ。
武器を持たぬ者を殺害し、敵軍を徹底的に潰し回った。
勇者アモンの事情は聞き及んでいる。魔王殺しの恩人を奸計で貶め、謀殺を図った権力者達は薄汚い。裏切り者達に向ける怒りと憎悪は理解できる。
――しかし、それでも、ベネデッタは勇者の蛮行を許せなかった。
武器を捨てて、白旗を上げていた夫を一方的に殺した勇者アモン。
私怨で復讐をしようとは思わない。それでは薄汚い権力者と同じだ。
勇者アモンに過去の蛮行を謝罪させたかった。夫ヴィクトールの墓前で頭を下げてくれればいい。ゆえに、ベネデッタは命ではなく、互いの名誉を賭けた決闘に挑んだ。
(母さんが決闘に負けて⋯⋯破魔一刀流は断絶した。そして、今! 俺が再び看板を掲げる! これからは弟子集めや道場の再興と⋯⋯。やることが盛りだくさんだ)
剣豪ベネデッタは勇者アモンに敗れた。
破魔一刀流の看板は焼き捨てられ、門弟達は散り散りになった。
ハンスは母親の生死を知らない。
破魔一刀流の離散後、門弟の一人がハンスを引き取り、養親となってくれた。ベネデッタの消息については、この十五年の間、何一つ教えてもらえなかった。
生きているのか、死んでいるのかすら、今も分かっていない。
(俺に復讐なんて馬鹿なことを考えさせないため⋯⋯。そうだったのかもな)
物事の分別がつく年齢になってからは、母も勇者アモンに殺されたのだと察した。
剣豪ベネデッタは一騎打ちを挑み、勇者アモンに負けた。そうに違いない。相手は魔王を殺し、人類の軍勢を単騎で壊滅させた生きる伝説だ。
総師範の無惨な敗北をもって破魔一刀流は取り潰された。
一子相伝の流派は途絶え、門弟達は離散した。
この客観的事実は変わらない。
「まだまだこれからさ。やらなきゃいけないことは山積みだ」
ハンスは破魔一刀流の復興を成し遂げた。散り散りになった母親の弟子達を探し当て、失伝しかけた剣技を蒐集し、再び「破魔一刀流」の看板を掲げた。
破魔一刀流の指導を受けていた門弟達は、総師範ベネデッタの息子であるハンスに協力してくれた。
門弟達は騎士や用心棒、冒険者など、さまざまな職域で活躍しており、破魔一刀流の剣技は生きながらえていたのだ。
(結局、母さんの行方は分からなかったな。勇者アモンに敗れたとしか⋯⋯。十五年前、決闘があった日、そこで母さんの身にいったい何が起きたんだ?)
一つだけ気になったのは、元門弟達の不審な態度だ。ハンスを応援してくれているのに、行方知れずの母親についてだけは、頑なに語ろうとしなかった。
破魔一刀流の門弟達は、決闘に敗れたベネデッタがどうなったかは教えてくれなかった。
その態度は育ててくれた養親とまったく同じだった。示し合わせたかのように口を噤んだ。
たとえ勇者アモンに殺されてしまったと言われても、今のハンスに復讐する気はなかったというのに。
「王都の武闘大会では優勝したけど、知名度を求めるなら他国でもやらなきゃ⋯⋯だよな⋯⋯。俺も母さんみたいに剣豪の称号が欲しい。今は誰が剣豪の称号を持ってるんだろ。いや、その前に道場を構えて資金繰りのほうか? うーん。冒険業で荒稼ぎしてきたが、このままじゃ、単なる冒険家になっちゃうしな。俺が目指すのは破魔一刀流の完全復活だ」
父親が眠る墓所を訪ねようと思い立ったのは、破魔一刀流の復活を報告するためだ。
ハンスは散逸した破魔一刀流の剣技を全て修得した。
各地に散らばった元門弟達を訪ね歩き、破魔一刀流の技を一つ一つ教わった。奥義だけは総師範のベネデッタだけが知っており、門外不出の秘伝技であった。
奥義の修得を諦めかけていたとき、奥義書を養親が渡してくれた。
奥義書は総師範のベネデッタが決闘に敗れたとき、看板とともに焼き捨てられたはずだった。しかし、養親は破魔一刀流の奥義書を隠し持っていたのだ。
奥義書を託されたハンスは、一年に及ぶ過酷な修業で破魔一刀流を極めた。
今では両親の技量に並んだと自信を持っている。
(アルネクティーナ家の墓所には父さんだけじゃなく、母さんも眠ってるんだろうか? でも、墓碑に名前は刻まれてない。敗死で破魔一刀流を潰したから、名を遺さなかったってことか? いずれにせよ、母さんにも⋯⋯。いや、破魔一刀流の先代総師範には報告しないとな)
アルネクティーナ家の墓所が近付いてくるにつれて、万感の思いが込み上げる。
ハンスは墓園を威風堂々と歩く。一度は消え去った両親の流派が息を吹き返すのだ。
剣の名声で輝いていたアルネクティーナ家が、ついに栄光の日を取り戻す。その第一歩が始まる。亡き父親ヴィクトールの命日である今日、破魔一刀流は蘇る。
「⋯⋯⋯⋯?」
ハンスの歩みが止まる。墓園の別れ道で、真っ黒な人影が立っていた。
(あれは? 人がいる⋯⋯?)
よくよく見ると、それは影ではなく、漆黒の喪服を着た貴婦人だった。
黒の色合いは深く、ドレスには上等な布が惜しみなく使われていた。女性にしては背が高く、ハンスと同じくらいの身長がある。
(高そうな装いだ。間違いなく貴族階級の女性だな。顔は見えないが美人な気がする)
帽子から垂れたベールで面貌を隠している。
手提げのフォーマルバッグは、丹念に磨き上げられた上質な黒革。それ一つで庶民の年収を上回る高級品であった。
(随分と身なりが整ってる。うん、やっぱり貴族の女性だな。こんな墓園のど真ん中で何してるんだ? あの貴婦人、道に迷ってるのか? それとも誰かと待ち合わせ?)
喪服の貴婦人は数歩進んでは、周りをきょろきょろと見渡し、再び同じ場所に戻ってきている。
ハンスは離れた場所で立ち止まり、貴婦人の様子を窺っていた。
(近くに従者はいなさそうだ。道迷いっぽいな。急ぎの用があるわけでもない。よし、人助けだ。俺から話しかけてみよう)
こちらから声をかけようかと思った矢先、観念した貴婦人がハンスに近付いてきた。
「お聞きしてもよろしいかしら? 私、道に迷ってしまいましたの」
香水の匂いが漂ってくる。妖艶な色香を感じさせる貴婦人は、凜々しい声色でハンスに助けを求めた。
「ええ、お力になりますよ。ここは初めてですか?」
貴婦人は考え込んでから、首を横にゆっくりと振った。
「いいえ、昔に何度も来ていたわ。でも⋯⋯それなのに⋯⋯」
「⋯⋯?」
「道を忘れてしまって⋯⋯。どっちに進めばいいか分かりませんの。お恥ずかしい限りですわ」
(ん? この女性⋯⋯。お腹の膨らみは⋯⋯)
近付いて初めてハンスは、貴婦人のお腹が盛り上がっているのに気付く。遠目ではふっくらした肥満体に見えてしまった。しかし、実際は豊満な乳房と膨れたボテ腹のせいで着太りしているのだ。
(ああ、そうか)
腹部が大きな曲線を描いて盛り上がっている。
肥満というには出っ張りが大きい。
(この貴婦人は妊娠しているみたいだ)
貴婦人のボディラインは、喪服のドレスで包み隠されて分かりづらい。だが、本来であれば長身でスラリとしているのだろう。
スタイルが良いせいで、膨れ上がった腹部が余計に目立った。
(重たそうなお腹だ)
垂れたボテ腹を両手で抱えているのは、胎児の重みを支えるためだ。
高価な喪服ドレスをわざわざ妊婦仕様に調え、腹帯のガードルを巻いていた。
(身重の身体だってのに、付き添い無しでここまで来たのか? おいおい。旦那さんはどこで何やってんだ?)
医者でなくとも、孕み腹の育ち具合で理解できる。重たげな足取りだった理由がよく分かった。産み月が間近に迫っている。
「貴方はこのあたりにお住みなの?」
貴婦人はハンスの刀剣を興味深げに見ている。破魔一刀流は薄刃の湾曲刀を使う。物珍しさを感じているのだろうとハンスは思った。
「墓守というわけじゃありませんが、地元の人間です」
「そうですの。珍しい刀剣をお使いになるのね。冒険者かしら?」
「ええ、まあ。そんなところです。未仕官の自由戦士とでも名乗りましょうか」
「あら。古風な言い回しですわ。昔、そういう言い方を好む殿方がおりました。懐かしいですわ」
声の落ち着きよう、気品ある淑女の所作が振る舞いに染み付いている。二十代で醸し出せる佇まいではなかった。容貌はベールで隠れて見えないが、おそらく三十路は越えている。
「探しているのは出口? それとも誰かのお墓でしょうか?」
「お墓を探しております。ヴィクトール・アルネクティーナが葬られている墓所はどこでしょうか⋯⋯。ここまでの道は覚えておりますわ。でも、どっちに行けばいいのか⋯⋯」
表情は帽子のベールで隠れて見えないが、沈痛な面持ちで貴婦人は語っている。今にも泣き出しそうな震え声だった。
(アルネクティーナ家を探してる? 俺の家じゃないか。それにしても、道が分からなかったくらいで涙ぐむか? この貴婦人? 父さんか母さんの知り合い? それとも元門弟の人か?)
悲しみではなく、羞恥心からの悲壮。惨めで、恥ずかしい。貴婦人は下唇を噛んで、自身の不徳を悔やんでいる。絶えきれぬ羞恥心が漏れ出していた。
「アルネクティーナ家のお墓に? なぜ?」
貴婦人の正体が気になったハンスは、つい問い返してしまった。ヴィクトール・アルネクティーナは父親の名だ。この貴婦人は十八年前の戦争で亡くなった父親の墓を探していることになる。
「⋯⋯? おかしな質問でしたか? ここにアルネクティーナ家の墓所があるはずでしょう? 貴方はご存知ではないのかしら?」
「いいえ。知ってはいますよ。もちろん、案内できます。⋯⋯えっと⋯⋯ご婦人はなぜ? お名前を聞いてもよろしいですか? ヴィクトール・アルネクティーナとはどんな関係で?」
「私は椿ノ宮と申しますわ。その⋯⋯ヴィクトールとは⋯⋯。何と申し上げれば良いのでしょうね。とても古くから⋯⋯付き合いがある殿方でしたわ」
(付き合いがある殿方だって⋯⋯? なんだか妙な言い回しだな。アルネクティーナ家の親戚?)
ハンスは首を傾げる。父親のヴィクトールが亡くなって十八年も経った。命日であるとはいえ、近親者くらいしか墓参りに来る人間はいないと思っていた。
「アルネクティーナ家のお墓ならこっちです。案内しますよ。俺も実は用があって⋯⋯。どうしたんです?」
「⋯⋯その⋯⋯ちょっと⋯⋯。はぁ、はぁ⋯⋯! うっ⋯⋯!」
椿ノ宮と名乗った貴婦人は呻き声を上げる。
お腹を押さえて、その場で踞った。苦しげに呼吸を乱している。
「だっ、大丈夫ですか!?」
慌てたハンスは駆け寄って身体を支える。
「うっ⋯⋯。はぁ⋯⋯ん゛ぁ⋯⋯。はぁはぁ⋯⋯うぅ⋯⋯!!」
「具合が悪いなら、向こうの階段に座りましょう。休んだほうがいい。肩を貸します。俺に掴まってください」
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。ごめんなさい。お腹の赤ちゃんが急に⋯⋯。この子は特に暴れん坊だから⋯⋯。はぁはぁ⋯⋯。ふぅ⋯⋯はぁ⋯⋯」
悶え苦しむ椿ノ宮は、石造りの階段に座り込んだ。
産気づいたのではないかとハンスは焦ってしまう。
「医者を呼んできましょうか? 町医者ですが腕は確かですよ。すぐに連れてきます」
「ありがとう。大丈夫ですわ。胎動はいつものことよ。少し休めばよくなりますわ」
子宮に宿った胎児は元気いっぱいに腹を蹴っているようだ。
「元気な赤ちゃんですね」
「ええ。父親に似ておりますわ。元気に育っているのは嬉しいのですれど⋯⋯うぅ⋯⋯! んっ⋯⋯!!」
喪服の上からでも激しく動いているのが分かった。
胎内はよほど窮屈なのだろう。母胎の苦労も知らずに、羊水を掻き回している。
出産に備えての準備運動というには、苛烈な胎動だった。
椿ノ宮は息を整えて、活発すぎる胎児を宥める。内側から蹴りつけられる腹部は、破裂しかけた水風船のように蠢いていた。
(腹どころか、服まで破れそうな大暴れだ。苦しんでる母親の前では言えないが、腹にいるのは本当に人の子か? 胎児だってのに、なんて力だ。元気どころじゃないな。小さな猛獣を胎内に押し留めてるようだ)
荒々しく波打ち、蠕動を繰り返す孕み胎に、椿ノ宮は子守歌を聞かせる。
(子守歌⋯⋯? これって⋯⋯? 俺はどこかで⋯⋯。聞いた。そうだ⋯⋯! 昔⋯⋯道場で⋯⋯!! 母さんに⋯⋯!)
椿ノ宮は歌う。
普段の凜々しい口調とは真逆、愛する子供をあやしつける、柔らかな猫撫で声だった。
「――眠りなさい、良い子よ、眠れ♪」
「――お母さんの近くで眠りなさい♪」
「――森に出かけたお父さんを追いかけてはだめよ♪」
「――飢えた狼が可愛い赤ちゃんを狙っているわ♪」
「――お母さんの腕に抱かれて眠りなさい♪」
「――良い子よ、眠れ♪ 私の可愛い赤ちゃん♪」
母親の愛情をたっぷり注がれた胎児は鎮まった。
最初から子守歌を目当てに暴れていたのかもしれない。苦しげに呼吸を乱していた椿ノ宮も安心したようで、息をゆっくりと吐き出した。
「その声⋯⋯。その歌⋯⋯。まさか⋯⋯?」
頭上に落雷が落ちた。
そんな錯覚に陥るほどの衝撃をハンスは受けた。
どこの家庭でも母親が歌ってくれる、ありふれた子守歌。だが、ハンスには分かった。幼き頃、母親のベネデッタから聞かされた音色の響きだった。
「どうされましたの?」
運命の悪戯であろうか。墓園を突風が駆け抜けた。冷たい秋風が貴婦人の素顔を隠していた漆黒のベールを捲り上げた。
「⋯⋯⋯⋯ッ!!」
黒衣をまとった貴婦人、椿ノ宮の正体が曝かれる。
十五年前、勇者アモンとの決闘で敗北し、姿を消してしまった実母。生きていれば三十代後半。椿ノ宮と名乗った貴婦人は、幼少期の思い出に刻み込まれた母親の美貌と重なった。
「嘘よ⋯⋯!」
椿ノ宮は目を見開いて驚愕している。
「どうして? ヴィクトール⋯⋯!? 貴方なの⋯⋯?」
貴婦人の口から漏れた「ヴィクトール」の名を聞いてハンスは確信する。
(やっぱりだ。間違いない。この女性は⋯⋯俺の⋯⋯!)
目の前にいる身重の貴婦人は、破魔一刀流の総師範だった剣豪ベネデッタ。つまり、自分の母親だ。
「なぜ? 貴方が⋯⋯? ここにいるの? だって、ありえないわ! 十八年前の戦争で貴方は殺されたと⋯⋯。生きてたの⋯⋯?」
椿ノ宮の震える指先がハンスの頬に触れる。
「違うよ。ハンスだ」
「えぇ?」
「俺はハンスだよ。まさか生きてるとは思わなかったよ。ベネデッタ・アルネクティーナ」
「ハンス⋯⋯? その名前は⋯⋯? 貴方は私を知って⋯⋯?」
困惑する椿ノ宮は唇が真っ青だった。
「⋯⋯まあ⋯⋯十五年ぶりだもんな。でも、貴方がベネデッタ・アルネクティーナなら、俺が誰だか分かりそうなもんじゃないか?」
「⋯⋯え? ぇ?」
息子の名を聞いても思い出すまでに時間がかかった。その時差はハンスを大きく失望させた。
母親が自分を忘れていたと見抜いてしまった。
「母さんは俺を忘れてるんだな」
ハンスは落胆した。だが、それほどまでに自分の外見は亡父ヴィクトールの生き写しなのかとも思った。
「ハンス⋯⋯? ハンス⋯⋯。あぁ⋯⋯! あ! そんなことって! あぁあぁっ⋯⋯!! ごめんなさい! 私⋯⋯! 私は⋯⋯!!」
椿ノ宮はやっと失態に気付いた。
「やっぱり、貴方は俺の母さんか。記憶喪失じゃないみたいだ。答えてくれ。俺の前にいる貴方はベネデッタ・アルネクティーナ、本人なんだよな?」
「⋯⋯ええ、そうよ。私はかつて⋯⋯ベネデッタと名乗っていたわ」
血の繋がった母親と息子。
ベネデッタとハンスは十五年ぶりに再会を果たした。
「ごめんなさい⋯⋯。本当にごめんなさい⋯⋯! 酷い母親だわ。また会えるとは思っていなかったの。まさかハンスだったなんて⋯⋯! こんなこと⋯⋯信じられないわ⋯⋯」
「俺もだよ。母さんは死んでいるものだとばかり思ってた」
ハンスが三歳のとき、行方知れずとなった実母が十五年の時を経て突然現われた。
勇者アモンとの決闘に敗れ、破魔一刀流が断絶する原因を作った総師範、剣豪ベネデッタ・アルネクティーナには、言いたいことが沢山あった。
――だが、ハンスは何も言えなくなってしまう。
「⋯⋯⋯⋯」
視線の先は、母親の膨らんだお腹だ。
十五年前に消息不明となった母親は、誰かの子供を妊娠している。
(母さんは生きていた。あれほど探しても見つからなかった母さんが⋯⋯! でも⋯⋯! どういうことだ? なんで⋯⋯?)
母親は居心地悪そうに押し黙る。
自責の念を感じているからだろう。感動の母子再会とはいかなかった。
母親と再会した喜びは掻き消え、当惑のあまり、距離を置いてしまう。
椿ノ宮はベネデッタ・アルネクティーナで間違いない。お腹に宿る胎児はハンスの弟妹というわけだ。
大きな疑問、――否、巨大な疑惑が生じる。
(父親は誰なんだ⋯⋯?)
十八年前、ヴィクトールは戦場で勇者アモンに殺された。
ハンスは夫婦の間に産まれた一人息子だ。十五年ぶりに現れたベネデッタが、ヴィクトールの子種で孕んでいるはずがない。
(誰かが母さんを⋯⋯妊娠させた⋯⋯)
受け入れがたい残酷な事実。しかし、認めるほかない現実だった。
「――今までごめんなさい」
消え入りそうな声で母親は謝罪する。
椿ノ宮ではなく、ベネデッタ・アルネクティーナの立場で息子に詫びていた。
一体何に対する謝罪であるのか。ハンスは苦悩する。だが、おそらくは全ての不義に対する釈明だった。
破魔一刀流の総師範としての使命。亡き夫ヴィクトールの名誉回復。遺された息子を守る母親の責務。それらの一切合切を果たさず、ベネデッタ・アルネクティーナはどこぞの男に抱かれ、子を孕まされていた。
成長した息子に妊娠を知られ、母親は我が身の恥に耐えきれず、顔を俯かせた。
出産の適齢期はとっくに過ぎているのだ。
なにせ十八年前にハンスを産んだ母親である。女の全盛期を過ぎてなお、未だに美しい見た目ではあるが、熟れた色気と引き換えに、身体は若々しさを失っている。
「母さん⋯⋯。今は椿ノ宮って名乗ってるのか?」
「⋯⋯ええ。そうよ。ハンスは⋯⋯私のことを⋯⋯何も聞かされていないのね?」
「ああ、聞いちゃいないよ⋯⋯! 誰も! 何も教えてくれなかった!! 十五年前に母さんが決闘に負けて⋯⋯。今まで、どこにいたんだ!? 何があったんだよ!? どうして、俺の前から消えた? 母さんが行方知れずになったせいで破魔一刀流は⋯⋯。俺がどんな思いで⋯⋯!!」
「⋯⋯ごめんなさい。ぜんぶ⋯⋯私が悪いのよ⋯⋯。辛い思いをさせて⋯⋯ごめんなさい⋯⋯!! ハンス⋯⋯!!」
大粒の涙をこぼして謝る母親が哀れに思えた。
怒りよりも、とても言葉では表せない鬱々しい感情で、気分が悪くなった。しかし、それでもハンスは事実を確かめねばならなかった。
「答えてくれるよな。母さん。お腹の子供は? 父親は誰なんだ⋯⋯?」
こんな質問はしたくなかった。それでもハンスは確かめねばならない。
再会した母親に真実を明かしてもらわなければ、一生涯の後悔となる予感があった。
「⋯⋯⋯⋯」
「十五年ぶりに現われて、黙りはないだろ。母さん。それは誰の子供なんだ? そんな身体で父さんの墓参りをする気だったのかよ」
ハンスは母親の子宮を指差した。
「母さん今までどこにいたんだ!? そのお腹の子供は!?」
「お腹にいる赤ちゃんは、勇者アモン様の子供よ。私は貴方の父親を殺した男の子供を孕んでいるわ」
嘘、偽りなく、父親の名を答えた。
身重の身体に宿る胎児は、勇者アモンに注がれた子種で孕んだ。
息子のハンスに真実を包み隠さず話すのが、ベネデッタ・アルネクティーナとしての償いだと覚悟した。
「勇者だって⋯⋯? 父さんを殺した奴の⋯⋯! 何でだよ! 母さん!! どうしてそんな男の子供を⋯⋯!!」
「決闘に敗れるまでの私は、破魔一刀流の総師範ベネデッタ・アルネクティーナでしたわ。ハンス、貴方だけの母親だった。⋯⋯でも、今の私は椿ノ宮に名を改め、勇者様の聖胎妃となってしまったの」
「勇者アモンの聖胎妃?」
「私は再婚したの。勇者アモン様の伴侶に⋯⋯」
「無理やり結婚させられたってのか!?」
「妻には違いないわ。けれど、普通の夫婦とは違う。勇者の血筋を残すための子産み女よ。私以外にも大勢の聖胎妃がいるわ。私が娶られたときは、二十八人目だったかしら⋯⋯。今はもっと多いわ」
「一夫多妻制ってことか?」
「ええ。⋯⋯まだ知りたい? 本当に聞きたいの?」
「母さんは俺の前から消えた十五年間、ずっと勇者アモンのところに?」
「子供を産ませるために、優秀で強い女が集められているのよ。決闘で敗れた私は勇者様に見初められて、この十五年間、ずっと子供を産まされていたわ」
「そんな⋯⋯! じゃあ、お腹の子供は⋯⋯」
十五年間、勇者の子を産まされ続けた母親は頷いた。
「ええ、そうよ。お腹の子は一人目じゃないわ。私は既に勇者様の子供を十二人産んでいる」
「じゅ、じゅうににん⋯⋯!? そんなに⋯⋯」
「男の子が四人、女の子が八人⋯⋯。今、お腹にいる赤ちゃんは、十三番目よ。とても信じられないでしょうね」
種違いの弟妹が十二人もいる衝撃の告白に、ハンスは精神的ショックを受けた。
母親が妊娠している事実だけでも胃が痛む。だというのに、お腹にいるのは十三番目の子供だ。勇者アモンは休む時間を与えず、ハンスの母を孕ませ続けていた。
信じられないのではなく、信じたくなかった。
「勇者の子供を産むのは、身体にとても大きな負担がかかるわ。普通は一人か二人を産んだら身体が壊れてしまう。私は子宮が頑丈だったおかげで、こんな歳になっても孕まされているわ。十三人目でやっと蟄居をお許しいただいたのよ」
椿ノ宮は最年長の聖胎妃だった。
勇者の肉体には強大な力が漲っている。人類の枠から外れた逸脱者は、花嫁を探すのに難儀していた。
普通の女では生殖行為に子宮が耐えきれず、勇者の子供を妊娠できなかった。苦労の末に見つけ出した優秀な女でさえ、身体が壊れて不産女となってしまう。
椿ノ宮は十二回の過酷極まる出産に耐え、十三回目の懐妊を遂げた。
その正体が十五年前に消息を絶った剣豪ベネデッタ・アルネクティーナと知る者は少ない。
「破魔一刀流の元門弟達が、俺に何も教えてくれなかったのは⋯⋯」
母親の行方について、言葉を濁していた破魔一刀流の元門弟達を思い浮かべる。
敬愛する総師範が勇者アモンの妻にされているなどと、息子のハンスには言えなかったのだ。
「私の名誉を⋯⋯。いいえ、破魔一刀流の名誉を守ってくれたのでしょうね⋯⋯。あの出来事を⋯⋯。決闘の顛末をハンスが覚えていなくて、本当に安心したわ」
「待ってくれ。俺が覚えてない? 忘れたってことか? あの出来事って何だよ⋯⋯?」
「⋯⋯できれば教えたくはないわ。けれど、これは私の身勝手⋯⋯。ハンスが知りたいのなら⋯⋯。私は全てを語るわ。それが⋯⋯責任⋯⋯。私の償いだと思うの⋯⋯。十五年前の全てを聞いたうえで、ハンスが私を恨んでも⋯⋯。それは仕方ないわ。⋯⋯むしろ私を恨んでほしい」
「恨みはしない! だけど、折り合いを付けたいんだ! 俺は母さんがずっと死んだと思い込まされてた! 十五年前の決闘で母さんは⋯⋯。頼むから⋯⋯! 教えてくれよ⋯⋯! いったい、何が起きたのか! ちゃんと向き合う!」
「そう⋯⋯。分かった。私が勇者様に決闘を挑んだのは知っているわよね?」
「ああ、もちろん。父さんの墓前で詫びさせる。そういう条件だろ⋯⋯? 母さんが負けたときは⋯⋯」
ハンスは顔を歪ませる。剣豪ベネデッタ・アルネクティーナが敗北したとき、勇者アモンが何を要求したか。
膨らんだ腹を見れば、下種な要求が透けて見えた。
「私はとても不様な負け方をしたの⋯⋯。決闘は破魔一刀流の道場で行われた。完膚なきまでに叩きのめされて、アルネクティーナ家伝来の宝刀も折られてしまったわ。そして、私は――」
過去を語り始めた椿ノ宮は、在りし日の自分に立ち返る。
大勢の門弟を抱えていた破魔一刀流の総師範ベネデッタ。剣豪の称号を誇り、アルネクティーナ家の当主に相応しい女傑だった。
不当に命を奪われた夫ヴィクトールのため、未亡人ベネデッタは勇者アモンに刃を振り下ろした。
◆ ◆ ◆
十五年前、破魔一刀流の道場で決闘試合が開かれていた。
破魔一刀流の総師範にして、女剣豪の称号を持つベネデッタは、亡き夫の命を無惨に奪った勇者アモンに挑みかかる。
「くっ⋯⋯!! まさか破魔一刀流の奥義までも⋯⋯!!」
片膝を床につき、悔しげに目を細める。
肉体的なダメージよりも、破魔一刀流の奥義を破られた精神的な動揺で、足下がふらついてしまった。
「へえ、僕の魔力に触れても意識を保ってるんだ。それどころか傷がまで再生してる」
勇者アモンの赤い瞳は、ベネデッタの肢体を興味深げに観察する。
治癒魔法を使っていないにも関わらず、打撲や骨折がたちどころに癒えている。
「ふーん、なるほど、なるほどね。アルネクティーナ家の人間は、魔法吸収を使うと聞いた。チンケな技かと思ってたけど、そんなんじゃないね。生まれつきの特異体質ってことかな?」
勇者アモンが発する強大な魔力は、常人の心身を破壊する。
灼熱の光線を放つ太陽を無防備に直視するようなものだ。脆弱な魂は魔力の熱気に炙られ、最悪の場合は死に至る。
「僕は勇者だから特別なんだ。同じ技は一度しか効かない。⋯⋯まあ、初見の技でも弱すぎれば無効化しちゃうけどさ」
「⋯⋯ッ!」
ベネデッタはアモンを睨みつけた。
(どこまでも破魔一刀流を侮辱して⋯⋯!! 許さないッ!!)
破魔一刀流に対する侮辱。怒りが込み上げる。しかし、それが許されるだけの圧倒的実力が勇者にはあった。
「そこに並んでる弟子達も雑魚にしてはやるじゃん。誰も気絶してない。才能が無いなりに鍛えてるね。でも、間近にいる君は平気そうだ。身体が特別だからかな? 魔法は使えないかわり、無敵の魔力耐性だったりする? 剣技は肩透かしだった。けど、魔法吸収の体質には興味がある」
決闘を見守る門弟達はかろうじて意識を保っている。
破魔一刀流の厳しい修行を耐え抜いた修練者でさえ、勇者の覇気には圧倒されてしまった。
「あのさ。僕。質問してるよね? 君の魔法吸収は一族の遺伝体質? どうなの? もっと教えてよ」
門弟達は総師範が苦戦する姿を初めて見る。
敗色は濃厚だ。破魔一刀流を極めたベネデッタが手も足も出ない強敵。信じがたい光景だった。しかし、相手が勇者アモンということを考えれば、必死に食い下がり、善戦している。
「質問してるんだけど?」
「今は手合わせの最中よ。暢気に喋ってる余裕があるのかしら?」
「うざ⋯⋯! 生意気な面構えだ。あ! 分かった! もしかして大切な刀を折られて怒ってる? はぁ⋯⋯。いい加減さ、実力の差を分かってくれよ。君じゃ、僕には勝てない。もう君の負けでよくない?」
「貴様! ふざけるな! まだ勝敗はついていないぞッ! 勇者アモン!」
「はい、はい。ご立派な強がりだ」
勇者アモンは千切り取った刀刃を投げ捨てる。
「白刃取りで刃を折るとは⋯⋯。見事な手捌きだわ。幼稚な態度は別として、武芸に身を置く者として勇者の強さは称賛する。けれど、まだ私は戦える。私の闘志が燃え尽きぬ限り、決闘は続くと心得なさい!」
「その折れた刀で戦い続けるつもり? 代わりの武器を持ってくれば? 僕の手刀に勝る武器を君が持ってるとは思わないけどさ」
破魔一刀流の奥義を素手で受けきった超人は、ベネデッタの覚悟を嘲笑う。
(分かっているつもりだった。でも、想像以上に⋯⋯! この子は強い⋯⋯! 強すぎる⋯⋯!! 破魔一刀流の奥義を破られた⋯⋯ッ! それも指先で刀剣をへし折るなんて⋯⋯。滅茶苦茶だわ⋯⋯!!)
アモンはベネデッタよりも小柄な十五歳ほどの青年だった。
侮りは一切なく、全身全霊の攻撃を仕掛けた。その結果、破魔一刀流の剣技は勇者にまったく通用しなかった。
「一撃でも入れれば君の勝ち。そういうルールだ。でもさ、僕に有効な攻撃手段ってあるわけ? ないよね?」
「⋯⋯⋯⋯」
「君がさっき使ったド派手な技。破魔一刀流の奥義だよね。あれが奥の手でしょ?」
わざわざ説明されずとも、残酷極まる実力差はベネデッタが一番理解していた。
剣豪の称号を持つ武芸者であるからこそ、勇者の実力を推し量れる。
(自分よりも強い相手。こんな苦戦を強いられたのは初めてだわ。でも、それでも私は⋯⋯!! ここで退くわけにはいかないッ!! ヴィクトール! 貴方の無念は私が必ず!!)
ベネデッタは他流試合で数多くの猛者を倒してきた。
勇者の底知れぬ実力は、これまで出会ってきたどんな剣士とも比べられない。
(国々が総力を結集しても勝てなかった超越者⋯⋯! 想像をはるかに上回る怪物⋯⋯!! 命を代償にしてでも、傲慢な勇者に一撃を叩き込む!!)
格の違いどころの話ではなかった。次元の異なる強さ。アモンは手加減をしている。
アモンが本気の一撃を放てばベネデッタは為す術なく即死、攻撃の余波で決闘を見守っている門弟達も死ぬ。破魔一刀流の道場は跡形もなく消し飛ぶ。
「もう無理じゃん。いさよぎよく諦めな」
「何度も言わせないで! 私は負けを認めない! 戦うのが嫌なら、貴様が降伏すればいい! 決闘を受けたのだ! 逃げるな! 勇者アモン!! それとも負けるのが恐いか!?」
「あのさぁ。君があまりにもしつこいから、親切心とお情けで決闘を受けたんだ。そろそろ、空気読んでくれない?」
勇者アモンが魔王を倒したのは三年前、人類の軍勢を薙ぎ払ったのも十二歳の頃だった。絶大な力を誇る勇者アモンは、これまでの秩序を刷新した。
「何度でも言う。私は負けを認めていない!! 私と戦え! 勝ち逃げは許さない!!」
「はぁ~。だる⋯⋯。刀を折られたんだから、負けを認めろってば⋯⋯。逆恨みするだけあって見苦しい女だ。剣豪の称号が泣くよ?」
「逆恨みではない! 私は貴様の捻じ曲がった道義を正す⋯⋯!! 亡き夫の⋯⋯! ヴィクトールの墓前で誓ったのだ!!」
「はぁ。さっきから、なんなのそれ? 捻じ曲がった道義? それを世間一般じゃ逆恨みって言うんだよ。三年前の戦争を仕掛けてきたのは、どっちって話さ。むしろ被害者は僕だ」
「戦争にもルールがあるわ。貴様は⋯⋯! 勇者ともあろう者がなぜだ! 降伏した者達を殺した!? 武器を持たぬ者達を⋯⋯!! なぜ殺せるのよ!!」
「変な理屈を押し付けないでくれ。兵士が降伏したから殺すな? よく言うよ。逆にさ、僕が降伏したら、どうなったわけ? 助けてくれた? お情けで守ってくれた?」
「そ、それは⋯⋯」
「喜んで僕の首を切ってた奴らだ。そんな連中に情けをかけるほど、僕はお優しくない。殺しにきておいて、負けたら命だけは助けてくださいってわけ? 馬鹿じゃないの? 戦争は殺し合いだ。君さ、この決闘もそうだけど、真面目に命を賭けてる?」
不機嫌なアモンは、瞬間移動と見間違えるような速度で距離を詰める。
(なっ! はやいっ⋯⋯!!)
「はい。隙だらけ。はやく防御しなよ」
性悪な勇者は弱すぎる女剣豪を揶揄う。
ベネデッタが動き出すのを待ってから蹴り上げた。
「うぐっ!」
かろうじて防御が間に合った。凄まじい膂力で放たれた一撃に耐えきれず、ベネデッタは体勢を崩してしまう。全身の骨が軋み、意識が飛びかける。
「君との決闘は余興みたいなもんだし、手加減はしてあげるよ。本気で蹴ったら、君の身体はグチャグチャになって即死だった。それくらいは分かるよね? 君、弱すぎなんだよ」
「うぐぅ⋯⋯!」
「今だって僕は無防備な君に追撃できる。殺そうと思えばいつでも殺せるんだ。まあ、死んでもらっても困るんだけどさ。決闘のルール的に。僕は約束は守る男だ。卑怯者じゃない」
取り決めた決闘の勝利条件。
ベネデッタが勇者アモンに攻撃を一度でも当てれば勝ち。たとえ掠り傷であろうとも、有効打であれば勝利となる。
「――だから、僕が負けたら謝るよ。絶対にありえないけどね」
その一方、勇者アモンの勝利条件はベネデッタに敗北を認めさせること。降参の意思表示をする前に、ベネデッタを殺してしまったら、決闘の勝敗がつかない。
(ハンデ戦⋯⋯! だというのに、私は⋯⋯手も足も出ない!! 不甲斐ないっ! 悔しいッ!! 破魔一刀流の奥義でさえ、まったく通じなかった! でも、私はまだ⋯⋯諦めない⋯⋯! 諦めきれないッ!!)
ベネデッタは刃先が折れた宝刀を構え直す。闘志を燃やし、心を奮い立たせる。
「はぁああああっーー!!」
夫を殺した憎き勇者に斬りかかった。
「しつこい。でも、こんだけ甚振られて立ち向かってくるのは、ちょっと異常だ。骨を何度か砕いてるし、体力の限界だって超えてる。魔法吸収のおかげだよね?」
アモンはベネデッタの斬撃を躱さない。欠けた宝刀の刃先を指先で受け止めた。
「薄皮一枚でも切れれば、君の勝ちなのにね。悲しいな」
普通なら指先が切り飛ばされ、腕が切り裂かれる一撃である。しかし、高密度の魔力で守られた勇者の肉体は、人間が扱う刃物では傷付かない。
「くぅ⋯⋯!!」
魔力の鎧を突破できない。アモンの身体に掠り傷一つ負わせれば、ベネデッタの勝利となる。
「うぅっ! うぉおぉおぉぉぉっーー!」
満身の力を込めるが、刃は届かない。
「うるさい。耳元で騒がないでよ。まさか僕の鼓膜を攻撃したつもり? せこいな」
「うくっ! きゃぁあっ!」
アモンに押し返されたベネデッタの身体は、道場の壁に叩きつけられる。
「女らしい悲鳴も出せるじゃん。そっちのほうが似合ってるよ」
凄まじい衝撃音で道場が揺れた。昏倒しかけたが、ベネデッタは無理やり立ち上がる。
あまりの執念深さにアモンは呆れ果てた。
「ねえ、リリス。この逆恨み未亡人は僕の魔力を利用してる? 君の眼なら魔力の流れが追えるでしょ? これって限界なし? 無限に続きそう?」
アモンは従者の奴隷騎士リリスに問いを投げる。
決闘を見守る立会人は、破魔一刀流の門弟達と、さらにもう一人いる。勇者に付き従う銀髪の美女は、博学賢美の異名を持つ高名な女騎士だった。
奴隷騎士。本来はそんな蔑称で呼ばれていい人物ではない。
「アルネクティーナ家の血筋から発現する特異体質〈魔法吸収〉は、勇者様の魔力を取り込めるようです」
リリスは主人の問いに答える。
「勇者の力を吸収⋯⋯。へえ。すごいじゃん。稀有な才能だ」
「ベネデッタさんは勇者様の御体から溢れ出た魔力を吸い取り、自身の体力に還元しています。勇者様が近くにいる限り、ベネデッタさんの身体は回復し続けるでしょう」
ベネデッタの奮闘、驚異的な粘り、肉体の限界を凌駕して動き続ける理由が、リリスの言葉で明らかになる。
(リリス⋯⋯。私は彼女の名を知っているわ。南の海上都市同盟で最強の称号を得ていた聖騎士リリス。彼女が勇者アモンの配下になっているとは聞いていたけれど、まさか奴隷扱いだなんて⋯⋯!!)
三年前の大戦では大勢の人間が死んだ。アモンは敵軍の降伏を認めず、一人残らず殺し尽くしたからだ。白旗をあげても殺されるとしたら、どうなるだろうか。どうせ死ぬ運命なら徹底的に抗う。戦場の兵士達は徹底抗戦の覚悟を固めた。
(リリスは三年前の勇者大戦を終結に導いた功労者。世界中で尊敬される女騎士を奴隷にするとは⋯⋯!! やはり許せない! 勇者の性根は腐りきっているわ⋯⋯!!)
勇者の力は世界を圧倒した。しかし、当時のアモンは十二歳の子供。幼い少年は戦争の終わらせ方を知らなかった。戦争にはルールがある。
誰かが助言をしなければ、敵対する人類を一人残らず皆殺しにするまで、勇者の虐殺は止まらなかった。何も知らない子供は蟻を踏み続ける。たとえ蟻の側が戦意を失っていても、子供は蟻に噛まれたことしか頭にない。
聖騎士リリスは勇者アモンを説得した。聖騎士の地位を捨てて、勇者アモンの奴隷になり、信頼を得た。
勝者と敗者を決めれば争いは終わる。勇者アモンと各国と講和を結ばせて、悲惨極まる勇者大戦を終結に導いた。それが三年前に起きた和平の真相だった。
「痛め続ければ精神的な限界は来ると思います。勇者様の勝ちは揺らぎないものです」
その分析は正しい。そして、アモンはリリスの助言を信頼している。
「うわぁ。最悪⋯⋯。ある意味、魔王よりも厄介じゃん。殺さないように注意しながらボコるって⋯⋯。面倒臭い」
魔力が供給され続ける限り、ベネデッタは魔法吸収で回復し、アモンに立ち向かってくる。
殺害を禁じた決闘のルール上、無限回復するベネデッタを倒すのは不可能に近い。
「謀られましたね。事前に取り決めた決闘のルールもこのためでしょう。ベネデッタさんの敗北条件は自ら負けを認めること」
アルネクティーナ家の血筋から稀に現れる特異体質者。周囲の魔力を吸い上げて、肉体強化に還元する異能。剣豪ベネデッタの魔法吸収は常時発動型。勇者の肉体から垂れ流れた上質な魔力を喰らい続ければ、不眠不休で戦い続けることも可能だった。
「言ったはずよ。私の闘志が燃え尽きぬ限り、この決闘は続くわ」
ベネデッタはほくそ笑む。勇者は無限に等しい魔力を持つ。
その話を聞いたとき、魔法吸収の特異体質が有利に働くのではないかと閃いた。
(思った通りだわ⋯⋯。私の技術は通じず、破魔一刀流の奥義を破られた。けれど、魔法吸収がある限り、私の負けもありえない。これは永遠に続く持久戦。私が諦めない限り、決闘は続く)
勝算は見えた。アモンの表情が物語っている。彼からすれば暇潰しで受けたお遊び。決闘が始まって一時間と経っていないが、すでに飽きているのだ。
(相手は最強の勇者。最初から実力で勝てるとは考えていないわ。必要なのは心の強さ! 決闘のルールが私を勝利に導く!!)
ベネデッタの悲願は二つ。
夫ヴィクトールを殺した勇者アモンに一撃を叩き込む。もう一つは夫の墓前で謝罪させる。
「決闘を受けたのだから、取り決めは守りなさい! 私の勝利条件は貴様に一撃を入れること。そして、負けたらヴィクトールに謝ってもらう! まさか勇者アモンともあろう御方が、約束をたがえたりはしないわよね?」
相手は十五歳の子供。この挑発を受け流せない。
仮に癇癪を起こして、ベネデッタを殺しにきても構わなかった。
「言うねぇ。僕がうっかり本気を出して殺しちゃうかもよ?」
「殺せるものなら殺せばいいわ。勇者アモンは私を屈服させられなかった証になる。貴様は不名誉な敗北者と呼ばれるわ。吟遊詩人がどんな歌を作ってくれるか楽しみね」
決闘で勝てなかった勇者は、腹いせで破魔一刀流の総師範を殺した。不名誉な事実が世間に知れわたる。ベネデッタからすれば、最高の復讐だった。
(今日、ここで死んでもいいわ)
ベネデッタは信頼している一番弟子に遺言と奥義書を託した。
(ハンスには申し訳ないけれど、夫を無惨に殺した怨敵に一矢報いることができるのなら! 私は命だって惜しくない⋯⋯!!)
母親としては身勝手だが、愛する夫の名誉と誇りに殉じ、勇者アモンに挑まんとする気持ちは抑えられなかった。息子のハンスは門弟筆頭に託していた。もしこの場で殺されても、破魔一刀流は生き続ける。
死に対する恐れは微塵もなかった。
「決闘は始まったばかりよ! 剣豪ベネデッタ・アルネクティーナ! いざ、推して参る!!」
一族伝来の宝刀をへし折られたが、心身ともに意気軒昂。ベネデッタの肉体はアモンから溢れ出た芳醇な魔力を取り込み、一種の永久機関と化している。
敗北を拒絶し続ける限り、絶対に負けない。
――しかし、たった一つだけ誤算があった。
アモンは絶大な力を振るう勇者である。幼稚な子供。未成熟な十五歳のお子様。その認識は正しい。だが、ベネデッタは大きな要素を見落としている。
勇者は男であった。
「なぁっ⋯⋯!? なにを⋯⋯!?」
ベネデッタは当惑の声をあげる。
宝刀を手刀で叩き落としたアモンは、ベネデッタの乳房を鷲掴んだ。
「天然モノの爆乳じゃん。盛るどころか、包帯で押さえつけてる。どんだけのデカパイ?」
媚肉が詰まった豊満なデカ乳に五指が食い込む。胸ぐらを掴み損ねたわけではない。意図的にアモンはベネデッタのオッパイを揉んでいる。
「いっ! いやぁ! 離しなさいっ!!」
「脱がしたらどうなるか見物だ」
アモンは制限していた魔力を一時的に解放する。轟風が道場を吹き荒れる。弱者を一掃する魔力波は、決闘を見守っていた門弟達を昏倒させた。
「くぅぅううっ! や、やめ⋯⋯!!」
ほんの数人が息を荒くしつつも持ち堪えた。立会人の中で奴隷騎士リリスだけが涼しげな表情だ。
「これは⋯⋯! なぁ⋯⋯! なんてことを! 貴様っ⋯⋯!! どういうつもりで⋯⋯!?」
ベネデッタは魔力波の狙いを取り違える。
門弟達を傷つけて降伏させるつもりだと思った。しかし、アモンは部外者の存在になど関心がなかった。
「ちょい垂れ気味だけどすげえオッパイ。牧場の牝牛だってこんなに大きくはない。もうちょい若いほうが好みだけど、果実は腐りかけが一番美味しいとも言うよね。牝肉はどうなのかなぁ?」
摘まんだ乳房を引っ張り上げる。アモンの魔力波はベネデッタの衣服を剥がし飛ばしていた。幾重にも巻かれて、爆乳を封じていた包帯は、粉々に千切れて宙を舞っている。
「貴様⋯⋯!! 私の服を剥ぎ取るために魔力を放ったのか!?」
「ぴんぽーん! 大正解♪ 全裸の総師範ちゃん」
「なんたる卑劣!! 勇者ともあろう男がどこまでも⋯⋯!! 決闘の誇りをさえも踏み躙る気か!!」
一糸まとわぬ裸姿。あられもない痴態を晒してしまったベネデッタは顔を赤くした。それは羞恥心ではなく、怒りの発露による赤面だ。
(私を辱めて降伏させるつもりか⋯⋯! どこまでも下種! 見下げ果てた男だわ!!)
アモンはベネデッタに恥を掻かせるつもりで、衣服を破裂させた。
血が上り、沸騰した怒りで、我を忘れそうになる。
「僕はなーんにもルール違反はしてないよ? 悔しければ攻撃を避ければ良かったじゃん。それにしても、だらしない弟子達だね。僕が本気になったら、すぐこれだ。頑張って目を見開いてれば、総師範のドスケベな真っ裸を見られたってのにさ」
「これ以上! 決闘を侮蔑するな! 勇者アモン!!」
全裸にひん剥かれたベネデッタは激昂した。
「オッパイを揉まれながら、何を怒ってるの?」
「ぬぅうっ⋯⋯!!」
己の不甲斐なさに憤る。悪びれもせず、アモンは乳房の揉み心地を堪能している。
何よりも許しがたかったのは、ベネデッタが身に付けていた下着が、破魔一刀流の看板に垂れ下がっていることだ。魔力波で吹き飛ばされた黒パンティは、掲げられた看板に引っかかっていた。
「貴様だけは絶対にッ! 許さな――くぅぁああっ! あぁ⋯⋯!! うぅう⋯⋯ぁ⋯⋯!!」
「魔法吸収って便利だね。僕の魔力が直撃したのに、ますます元気になってるじゃん」
アモンは殴りかかってきたベネデッタを床に叩き伏せた。
「くっ! 私の肌に触れるなっ! 卑怯な下郎め!!」
「まだ決闘の最中だよ。抵抗すればいいじゃんかー。身体強化は肉体の上限があるのかな? 魔力を吸っただけ強くなれるなら、無敵に近い能力だったろうに。まあ、それでも優秀な能力だよね。周囲に魔力があれば無限回復できるんだもん」
体格では圧倒的に劣るが、勇者の筋力はドラゴンを上回る。
長身のベネデッタは力負けし、アモンに押さえつけられた。
「うぅ⋯⋯ぐぅぅ⋯⋯!! はなれろぉ⋯⋯!!」
「それが君の全力? やっぱ弱いねぇ。剣豪を名乗る割りには剣の腕もない。弱っちい破魔一刀流って、この辺だと流行ってるらしいね。あぁ、そっか。道場主がデカパイを揺らしながら、剣術指導してくれるから、沢山の雑魚弟子が集まってるんだ」
「き、きさまぁ⋯⋯!!」
「乳房の大きさと魔法吸収の体質だけは褒めてあげる。あ! ごめん、ごめん。この綺麗で大っきなお尻も付け加えるよ。デカい乳房とお尻を揺らして、頑張って流派を広めてたんだね」
「破魔一刀流への侮辱は許さないっ! このぉぉおっ⋯⋯!!」
「この腹筋は減点ね。こんなエロい身体に筋肉は似合わない。リリスにも言ってるけど、女は柔らかくなくちゃ。男みたいに筋骨隆々なのはキモいよ。――ってわけで、お仕置きね」
ベネデッタの無防備な尻をアモンが引っ叩いた。
「ひぃっ! いぐぅっ!?」
悪童を躾ける親のように体罰を与える。
凄まじい速度で放たれた平手打ちは音速を超えていた。
――バチンィッ!!
巨人が拍手をしたような大爆音が轟く。気絶した門弟達は尻叩きの鋭い肉音で意識を取り戻す。そして目撃する。
崇敬する破魔一刀流の総師範、剣を教えてくれた女剣豪が不様に喘ぐ姿を目にする。
「んぅふぅぅっ!! あ゛ぁっ! おぉっ! お゛ぉっ! おっ! いぃっ! ぃい゛ぃっ⋯⋯!!」
たったの一打で真っ赤に腫れ上がった巨尻。ベネデッタは歯を食いしばり、涙目で痛みに耐える。魔法吸収のおかげで、すぐに身体の痛みは癒えた。しかし、立ち上がる気力まではない。
「いいね。頑丈なお尻だ。魔法吸収のおかげですぐに傷が治る。無尽蔵の魔力を持つ僕が近くにいれば、ほぼ不死身かも。やる気が湧いてきた。年齢的に君は対象外だったけど、アルネクティーナ家の特異体質は血筋に欲しい」
「⋯⋯くっ⋯⋯! はぁはぁ⋯⋯。なにを⋯⋯? 血筋⋯⋯?」
「あれれ? 知らない? 聞いてないの? 僕は勇者の血筋を残すために奮闘中なんだ。だって、僕以外の人間は脆弱だ。強すぎる僕を君らはバケモノと呼ぶけどさ。僕からすると君らは弱すぎて、同じ人間に見えないだよね」
魔王を退治するまで、勇者アモンは心優しい少年だった。人々を苦しめていた魔物を駆逐し、苦しむ病人に頼まれて辺境の果てに薬草を取りに行く善人。感謝という見返りがあれば満足だった。人類共通の敵である魔王が消えれば、平和になると信じ込んでいた。
三年前の戦争、勇者大戦と呼ばれた裏切りは、アモンの性格を豹変させた。
「僕さ。君みたいな正義面してる奴が嫌いだ。道義を正すだとか、正義を実行するだとか⋯⋯。自分の我儘を押し付けてるだけじゃん。この決闘だって、自己満足したいから、僕につっかかってきたんでしょ?」
「ちっ、ちがう⋯⋯! 私はヴィクトールのために⋯⋯!」
「殺された家族が大切だって言うなら、墓参りを毎日やってればいいじゃん。それともなに? 復讐しろって頼まれたの? 遺言でもあった? 違うよね? 君が身勝手に決めつけた。名誉や誇り、君の語る大義名分って薄っぺらな見栄だ」
「黙りなさい⋯⋯!! その口を閉じなければ⋯⋯! きゃっ⋯⋯! どこを触っているの! 離れなさいッ!!」
「今さら乙女ぶって恥ずかしがるの? この決闘は君の公開オナニーみたいなもんじゃん。そこまで溜まってるんなら、僕が発散させてあげるよ。ここを攻めて欲しかったんでしょ?」
アモンの中指がベネデッタの陰唇を弄り、目当ての女穴を見つける。
「やめな⋯⋯っ! ひぃんっ! んなっぁあぁっ⋯⋯! そこは⋯⋯! い、いれないでっ⋯⋯!!」
「意外とキツいオマンコじゃん。デカパイ女のオマンコは緩いもんなのに。処女みたいな反応だ。粗チン男の相手しか経験してないのかな?」
先祖代々が受け継がれてきた由緒正しい破魔一刀流の道場で、当代総師範の恥部が辱められる。入り込んだ指先は、肉厚な膣襞をくすぐり始める。
「ひぃっ! やめっ! あぁっ⋯⋯!! 抜いて! 今すぐ抜きなさいよぉおぉっ!」
膣道に侵入した勇者の中指は、ベネデッタの子宮を激しく揺さぶる。
「やーだね♪」
貞淑な未亡人のオマンコは性的興奮に抗おうとする。
(内側から凄いエネルギーが流れ込んでくるッ!! 神経が焼き切れそうになる!! こんなのっ! こんなっ⋯⋯!! 身体が言うことをきかないッ! 腰が勝手に浮かび上がるぅっ!!)
道場の床に倒れ込んだベネデッタは、捧げるように巨尻を突き上げる。突き挿した指に誘導され、服従する牝犬の痴態を晒してしまう。つい先ほどまで刀剣を構えて、吠えていた女剣豪の面影はない。
「へえ。試しに指先から魔力を出したら、めちゃくちゃ吸収してるじゃん。内側の吸収効率は良さげ。おもしれーオマンコじゃん。もっと魔力を入れてみよ」
「ひぁっ!? あぁぁ!? あぁっ⋯⋯!! はぁはぁ⋯⋯ふひぃぃ⋯⋯! はぁはぁ⋯⋯! やめ⋯なさ⋯⋯いぃ⋯⋯!! 指を動かさないでっ! いぎぃっ!? だめっ! これっ! そんな魔力を注がれたら、たえられぇなぁ⋯⋯!! んぁあぁっ! んぎぃにぃぃぃぃぃッ! んぁああああああああああぁぁぁぁっ⋯⋯!!」
全身をぶるぶると震わせてベネデッタは叫んだ。手マンの攻勢に合わせて、アモンは膨大な量の魔力を注ぎ込んだ。
「まだまだ♪ 僕の本気はこんなもんじゃないよ♪ さらに倍だ。どんな反応をしてくれるの?」
「あぁっんぅうぅっ! んおぉぉっ! ぉおっ! お゛おぉぉ⋯⋯! おっ⋯⋯!! あぁぁぁああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!」
子宮に流し込まれた魔力の濁流は、ベネデッタの肉体を染め上げる。魔法吸収は、生来の特異体質ゆえに制御ができない。
与えられた魔力を貪欲に喰らい尽くし、取り込んでしまう。
「オマンコで味わう僕の魔力はどうだった? 負けを認めたら、この辺りでやめてあげる。ただし、僕が殺した旦那の墓前で報告しなよ? 勇者様の指が気持ちよすぎて、完全敗北しましたってね」
「くぅ⋯⋯こんなの⋯⋯!」
「それとも気持ちいいからやめてほしくないのぉ?」
「貴様なんかに触られて気持ちよくなんか! あぅ! あぁっ! ぐぅう⋯⋯。あぁ、あぁぁああああああぁぁぁぁっーー!!」
「愛液で濡れてきたせいで感度が上がった。ほら、ほら♪ 頑張れ♪ 頑張れ♪ もっと下腹に力を入れなよ。可愛い門弟達にもっとよく見せてあげな。はぁーい。ごちゅうもく♪ これが師範代のオマンコでぇーす!」
意地悪なアモンは、門弟達にベネデッタのオマンコをひけらかした。陰毛が繁った陰裂の秘孔を陵辱する中指。敏感になった膣口は、溢れ出た愛液で濡れている。
「次はもっと濃い魔力を大量に流す。壊れちゃう? そんなわけないよね」
断続的に魔力を子宮に流され、ベネデッタは吸収してしまう。勇者の絶大な魔力が全身を駆け巡り、魂が絶叫をあげた。両足をバタつかせ、息を荒げている。
「――くっ! これ以上は! ベネデッタ先生の負けでいい! 決闘を終わらせてくれ! いや、これはもう決闘なんかじゃない!! 先生を辱めるな!!」
門弟筆頭の女剣士が立ち上がった。他の門弟達も同じ気持ちだった。
「あのさぁ。立会人は黙っててくれない? 決闘は一対一でしょ。混ざりたいの? 乱交プレイは僕の好みじゃないんだけど?」
「そうではない! アモン殿! 勝敗はついた! ベネデッタ先生はもはや負けを認めたも同然! これ以上の所業は勇者の名を貶めますぞ!」
不純な思いを抱く者は一人もいない。淫惨な光景を見せつけられて、心が張り裂けそうだった。ある者はこのままではベネデッタが廃人にされるのではないかと恐怖した。
「立会人として申し上げる! この決闘は終わりだ! アモン殿の勝ちでいい。先生から離れてもら――」
「――そこの貴方、動かないでください。まだ決闘は続いています。勇者様の邪魔をするのなら、私も動かねばなりません」
割り込もうとした女剣士の喉元に刃が突きつけられる。
「リリス殿⋯⋯! 聖騎士であった貴方がなぜ勇者の蛮行を止めないのですか!? 主人の過ちを諫めるのも従者の役割でしょう!?」
「負けを認めない限り決闘の勝敗はつかない。破魔一刀流の総師範であられるベネデッタ・アルネクティーナが決めた取り決めです。まさか自分達で決めた約束を破られるのですか?」
「違う!」
「違わない、私はそう思いますが?」
「いいや、違う!! それは決闘のルールだ! あんな陵辱行為は認められない!! あれは戦いになってない!!」
「そうでしょうか? 女遊びに夢中な今こそ、絶好の好機です。一撃を入れれば、そちらの勝ち。もちろん、負けを認めれば、それでも決闘は終わりです」
「⋯⋯⋯⋯っ! お願いだ。リリス殿! 勇者を止めてくれ! ベネデッタ先生の負けだと言っているでしょう! 破魔一刀流の立会人は敗北を認める! だから⋯⋯どうか⋯⋯!」
「立会人が決闘の勝敗を決めるルールはなかったはずですが? ベネデッタさんは何も言っていません」
「くっ! ふざけるなぁ! 貴方も⋯⋯! 女でしょう⋯⋯!! どうして! あんな卑劣な行為を許していいのか!!」
門弟筆頭の女剣士は怒鳴った。アモンは立会人の喚き声を意に介さず、指先でオマンコを攻め続ける。恥部が奏でる場違いな水音の演奏、悶え苦しむベネデッタの喘ぎ声が道場内に響いている。
「三年前に結ばれた大協定をご存知ないのですか? 勇者様の行為は裁かれません。たとえこの場にいる全員を殺したとしても、罪には問われないのですよ?」
「リリス殿⋯⋯! 聖騎士であった貴方は⋯⋯!! 正義の心を捨てたのか!?」
「見るに堪えないのならご退席されてはどうです? これからもっと酷くなりますよ」
「⋯⋯⋯⋯ッ!」
門弟筆頭の女剣士は真っ青になる。公正な決闘試合の結果、総師範が敗死するのなら、割って入って止めるつもりはなかった。
ベネデッタが受けている陵辱は、決闘を逸脱している。断じて許しがたい陵辱行為。しかし、アモンはこの程度で止めるつもりがない。従者のリリスはそう言い切ったのだ。
「決闘を邪魔するのなら、私を倒してください。ただ、私を倒せたとしても、勇者様を止められるとは思わないことです」
リリスの冷めきった視線は、破魔一刀流の門弟達を震え上がらせた。その昔、清らかなる乙女騎士と讃えられた女奴隷の表情は、絶望と諦観に満ちていた。
「貴方も女でしょう。下がられたほうが賢明です」
その言葉に悪意は含まれていない。むしろ善意からの警告だった。
「⋯⋯わ⋯⋯わたしが⋯⋯先生の代わりに⋯⋯!」
「貴方では命を落としかねない。身代わりを立てるなど、考えてはなりません。決闘の立会いは私だけで十分でしょう。顛末は終わり次第、貴方達に報告いたします」
立会人の門弟達は道場から逃げ出し始めた。勇者が発する莫大な魔力に蝕まれて、顔を真っ青にしている。
自力では歩けず、這うようにして逃げる者までいた。とても正気を保てる環境ではなかった。
「――うぷッ!!」
ベネデッタを助けようとした門弟筆頭の女剣士も、胃袋が引っくり返る吐き気に襲われている。猛烈な倦怠感で今にも倒れそうだった。
「早く貴方も去りなさい。ベネデッタさんも御自身の醜態を弟子に見られたくはないでしょう」
リリスは剣を鞘に収める。
「妙なことは考えてはなりません」
何気ない仕草だけで、相手が圧倒的に格上の剣士だと分かった。リリスは女剣豪ベネデッタに匹敵するほどの強者だ。
それほどの人物が、勇者アモンに従属し、奴隷騎士の蔑称で呼ばれている事実。ベネデッタを救える者がいるとすれば、それは本人だけだ。
――決闘の敗北を認める。
「あぅうっ! あぁっ! あん! あぁあぁっ! あぁあぁっ! あぁああああああああああぁぁぁぁぁーー!! あぁっ! あぅうぅあぁぁあああああああぁぁぁーー!!」
魔力の爆ぜりが閃光をきらめかせる。アモンは魔力の出力を段階的に上げていき、ベネデッタの魔法吸収が勇者の全力に耐えると確かめた。
「魔力耐性は魔王軍の幹部以上だ。いいね。すごくいいっ! 壊すつもりで魔力を注いだのに、傷一つ負ってないよ。僕の思ったとおりだ。魔法吸収の副次効果は、魔力に対する絶対的な耐性なんだ」
ぢゅぽぉんっ♥︎
道場に卑猥な淫音が響く。アモンはオマンコに突っ込んでいた中指を抜き出した。粘り気の強い愛液が名残惜しそうに糸を引いている。
「あぁ⋯⋯はぅ⋯⋯! はぁはぁ⋯⋯! あ゛⋯⋯あぅ⋯⋯ぁ⋯⋯!!」
口から涎をこぼし、不様に突っ伏したベネデッタは、全身が汗だくだった。勇者の激しい指入れで、肉体は何度も限界を迎えた。しかし、魔法吸収の特異体質で強制回復してしまう。
「どうだった? 僕の指使いは? 夢見心地の極楽だったでしょ? これで壊れちゃう女も多いけどね」
意識を失っていたなら、どれだけ幸いだったろうか。門弟達の前で痴態を晒した事実は、しっかりと認識している。
(こんなの⋯⋯おかしい⋯⋯!! 苦しいはずなのに⋯⋯!! 気持ち悪いだけのはず⋯⋯!! どうして⋯⋯私の女陰はこんなにも⋯⋯!!)
ピンク色の膣口は性悦に酔い狂う。最愛の夫ヴィクトールに抱かれたときには、感じられなかった暴力的な興奮。自分より強い男に尻を振ることが、当然の摂理であると子宮を躾けられた。
「よし、決めた。君に僕の子供を産ませる」
「ぇぇ⋯⋯? は⋯⋯?」
ベネデッタはアモンの言葉が理解できなかった。間抜けに口を開けて、困惑の表情を浮かべている。
「最初は適当にあしらって終わりにするつもりだったけど、魔法吸収の特異体質は稀有だ。無尽蔵の魔力を持つ勇者の形質と合わされば最強じゃん」
「な⋯⋯なにを⋯⋯言って⋯⋯?」
「勇者の血脈を増やすために奮闘してるって説明したばっかりだよね。もう忘れちゃった? 三年前の戦争が終わってから、ずっと勇者の子を産ませる女を集めてるんだ。奴隷騎士のリリスもその一人だった」
名を呼ばれたリリスは、主人の前に跪いた。自らの髪を差し出す。アモンはベネデッタの膣液で汚れた指先を美髪で拭った。
「リリスがベネデッタに説明してあげなよ。ついこの前までは、リリスも聖胎妃だったんだからさ。君のオマンコがどうなってるかを見れば話が早い」
「承知いたしました。勇者様」
リリスは堂々とした態度でスカートをたくし上げる。
道場の床に倒れ伏したベネデッタは、リリスの惨たらしく痛んだオマンコを見てしまう。
「ベネデッタさん、見苦しいものをお見せして申し訳ございません」
まるで拷問を受けたかのような傷がある。リリスが下着を穿いていないことなど、気にも留まらなかった。
「私は勇者様の子を産む聖胎妃でした。しかし、私の弱い子宮では三度の妊娠が限界だった。子供を三人産んだ後、子宮が壊れて生殖能力を失ってしまいました。今は六番目の性奴隷として、勇者様にお仕えしております」
「は⋯⋯? なによ、それ⋯⋯?」
「勇者様の子を産むのは名誉なことです。しかし、弱すぎる女では性交で絶命してしまう。勇者様の子種は特別です。孕める女は一部の選ばれた者だけ⋯⋯。出産で命を落とす者もおりますし、何度か出産すれば私のように子宮が壊れます」
リリスの女性器が傷だらけなのは、子産みの後遺症と日常の性処理で酷使された結果だった。
全力の勇者にとって、常人は壊れやすい人形。抱かれる女も命懸けとなる。そのうえ、子宮に宿った胎児は、母胎の栄養を吸い尽くす。
博学賢美の聖騎士リリスは三度も出産をしている。十分に長持ちした女だ。一人目か二人目の出産で壊れる聖胎妃がほとんどだった。
「リリスは抱き心地がいいし、献身的な性格が気に入ってるから、子供が産めなくなっても連れ回してるんだ。僕の愛する性奴隷六番さ。不妊になっても床上手だから、性処理には使える。グロマンなのを除けば、気持ちよい名器だよ」
「お褒めの言葉を頂戴し、身に余る光栄です」
「じゃあ、そろそろ本番に移ろうかな。リリス、僕の服を預かって」
リリスは慣れた手付きで、アモンの衣服を脱がせていった。勇者の身体は磨き上げられた宝玉のように美しい。古傷や痣は一つもなく、これまでの戦いでまったく傷を負わなかったことを物語っている。
「さぁて、ベネデッタの胎は勇者の子を孕めるかな?」
勇者の逞しく神々しい男根に、女剣豪は惹きつけられる。愛する夫を殺した悪逆非道な青年に、恋い慕う想いを一瞬でも抱くわけがない。理性は強く否定するが、原始的な性衝動を抑えきれなかった。
(おかしい⋯⋯! こんなのは⋯⋯! 私は⋯⋯私が愛しているのは⋯⋯ヴィクトールだけ⋯⋯!! 精神的な攻撃をされているに違いないわ。くぅっ! 目を逸らさないと!! 直視し続けたら不味い! 勇者に魅了されてはいけないっ⋯⋯!!)
決闘は続いている。だが、破魔一刀流の門弟は一人を除いて逃げ出してしまった。
師匠が穢される光景を見たくなかったのだ。唯一残った門弟筆頭の女騎士は、決定的な瞬間を目撃してしまう。
ベネデッタの鍛え上げられた筋肉質な恵体は、勇者の絶大な腕力をもってすれば軽々と持ち上がった。弄くり回されたオマンコは淫蜜の涎をこぼし、受け入れる準備ができていた。
「きゃっ⋯⋯や⋯⋯やめ⋯⋯!!」
無論、それは女体の生理的反応。ベネデッタの魂はアモンを嫌悪し、強く拒絶する。
「それだけは⋯⋯やだ⋯⋯嫌よ⋯⋯! こんなの決闘じゃないわ⋯⋯!!」
愛した男は唯一無二、生涯を誓い合ったヴィクトールだけ。
三年前に戦場で夫が命を落としたとき、ベネデッタは終生を寡婦で過ごすと決めた。亡き夫以外の男に体を許すなどありえない。
「この期に及んで降伏の意思はなしか。感服しちゃうね。強情な女だよ。年齢もいってるし、普段だったら君みたいな年増女は僕の眼中に入らない。でも、魔法吸収の特異体質は勇者の血筋に欲しい才能だ」
「あぁ⋯⋯あぁ⋯⋯! こないでっ⋯⋯! 近づけないで!!」
ベネデッタの女穴に亀頭が触れた。恥毛の繁りで覆われた陰唇を撫でる。
「孕んだら責任を取ってあげる」
「負けだ! 私の負けでいい!! 決闘は私の負けで⋯⋯んぎゅぅっ!? ひぎぃっ⋯⋯!? あ⋯⋯あぁぁ⋯⋯!!」
アモンは逃げようとするベネデッタを押さえつけた。
――ズブブゥッ♥︎
足を左右に開かせて、自分の上に乗せる。開脚した下半身の中央、必死の抵抗を続けていた秘部に亀頭を挿し込む。
「君は負けを認めた。決闘は僕の勝ちね。でもさ。先っちょを入れちゃったし、ここで終わりにするのは無しでしょ」
「そ、そんなっ! あぁっ! んあぁっ! いや! こんなのいやよ!!」
「まじで面倒だ。グダグダ言わずに奥まで挿れさせろっての。どうせ旦那が死んでから、若い男の弟子を連れ込んで性処理してたんでしょ? 今さら清楚な未亡人を装っても遅いよ。このエロ女!」
口汚く罵りながら、アモンは勃起した男根を押し上げてくる。膣道を掻き分けて進むオチンポから、魔力の奔流が止めどなく溢れ出ている。
「そんなことしてなぁ⋯⋯いぃっ⋯⋯! あぁっ! んあぁっ⋯⋯あぁっ⋯⋯!!」
ヴィクトールが死んでから言い寄ってくる男はいた。けれど、ベネデッタは誘いを断り続けた。
ハンスの良い父親になってくれるであろう相手も、その中にはいたが、ヴィクトールのことを忘れさせてくれる伴侶にはなりえなかった。
(こんな⋯⋯! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!! こんな男なんかに! 繋がりたくないッ!! 抱かれるなんて⋯⋯!! 勇者の子供なんか孕みたくない! 私の身体も、心も! ヴィクトールのものよっ!!)
男の逸物が自分の膣内に入り込む。よりにもよってヴィクトールを殺した勇者の男根に犯されている。オマンコの奥底に辿り着いた亀頭は、無遠慮に子宮口を小突いた。
「あぅっ! あんぅっ! おぉっ⋯⋯! あぁ⋯⋯!!」
両目からこぼれ落ちた涙が頬を伝う。圧倒的強者であったはずの女剣豪は不格好に股を開き、夫を殺した勇者と交合する。肉体的な繋がりが互いの体熱を感じさせる。
(憎らしい! 殺してやりたい!! 私の膣内で勇者の汚らわしい男性器が暴れてるっ⋯⋯!!)
膨張した極太オチンポが、ベネデッタのオマンコを押し広げる。
(うそっ! そんなところまで届いくはずがっ⋯⋯! ひぃっ! おっ、おかしいわ! なにか変! 子宮が⋯⋯!! 熱くなって⋯⋯! ヴィクトールに抱かれるのと違う! 放出される魔力の質と量が⋯⋯桁違いでぇ⋯⋯! あぁっ! んぁああぁっ!!)
高密度の魔力が下腹部から全身に伝播し、形容しがたい背徳的な多幸感が脳髄を酔わせた。
「あぁ⋯⋯んぅ⋯⋯♥︎」
ベネデッタの震える唇から、蕩けきった吐息が漏出する。
発情した女の嬌声が静かな道場に鳴り響いた。
(えぇ? わたし⋯⋯のこえ⋯⋯? 喘いじゃった? 気持ちよくなって⋯⋯あんな声を⋯⋯! 聞かれちゃった!!)
勝ち誇るアモンは、右手で豊満な双乳を揉みしだき、左手でクリトリスを捏ねくり回す。
(やめて! もうやめてぇ⋯⋯!! 胸に触らないで⋯⋯。陰核を虐めないでっ⋯⋯!! 突き上げられる男根の快楽を抑え込むだけで精一杯なのにっ! これ以上は⋯⋯もぅ⋯⋯むりぃぃぃっ♥︎)
自分よりも大柄で重たいベネデッタを軽々と抱き締める。
「随分と大人しくなったね。さすがに魔力を吸い過ぎた? それとも僕のオチンポが気持ちよすぎて堕ちちゃった? 本番はこれからだってのにさ。弱っちい女のオマンコじゃ、僕を射精させることすらできないよ」
「あぁっ⋯⋯んくぅっ⋯⋯♥︎ あっ♥︎ あぁ♥︎ ああっ♥︎ ああっ♥︎ ああっ♥︎ ああっ♥︎ ああっ♥︎ ああぅう゛んぅぅん゛っ~~♥︎」
強烈な下からの刺突は、子宮を浮かび上がらせた。
ベネデッタの艶めかしい裸体が、大きく上下に揺さぶられる。胸に実った撓わな爆乳を搾り、柔らかな触り心地を堪能する。
(小さい身体のくせに、とんでもない怪力⋯⋯!! 抗えない! 私の身体が弱すぎる! 強い! 強い! つよぃい♥︎ あぁっ! んぁあぁぁああ゛! 侵入してくる魔力で苦しい⋯⋯! さっきの数十倍⋯⋯? いいえ、数百倍の濃さが結合部から注ぎ込まれる!! あぁ♥︎ おがじくなるぅっ~~っ♥︎ あ゛ぁっ~! はげしくされたらぁ♥︎ あ♥︎ あぁっ♥︎ らめぇえ゛ぇ~~! そこはだめぇえっ!! きぢゃうぅっ! ぐるぅっ!! もう わだしぃ⋯⋯がまぁっんぅ⋯⋯できなっ⋯⋯♥︎)
アルネクティーナ家の血筋に宿る特異体質〈魔法吸収〉が存分に発揮される。傷つき、疲弊した身体が、魔力を吸い上げて回復する。
「んぁっ♥︎ んおぉほぉっ♥︎ ひぃっ♥︎ ふぃひぃっ♥︎ んっぎゅぅぅっ~~♥︎」
ベネデッタの意識が点滅する。
アモンは高速度の刺突運動で子宮に大攻勢を仕掛けた。ベネデッタの重たげな肢体が羽のように浮かび上がる。背面座位の交わりは最高潮に達した。
「くっ! 申し訳ありません。ベネデッタ先生⋯⋯!! 私は⋯⋯もう⋯⋯!!」
門弟筆頭の女騎士は背を向ける。師匠を助ける力はなく、身代わりになることすらも許されない。
噛み締めた下唇から血が滲む。
このまま陵辱を見続けるのは、敬愛する師に対する辱めだった。
他の者達は逃げ出している。それは正しい選択で、もっと早く自分もそうするべきだったと強く後悔する。
駆け出した門弟筆頭の女剣士は、道場の玄関で思わぬ相手とすれ違った。
「――おかあさん! お母さん!? どうしよう!? お弟子さん達が庭でゲーゲーしてるの! 気持ち悪いんだって! あ、あれ? お母さん?」
三歳の男児がつぶらな瞳で首を傾げている。
「ダメ! ハンス君!! 見ちゃいけない!!」
幼いながらに大きな騒動が起きたと気づき、ベネデッタの息子ハンスは道場に来てしまった。
「戻って! こっちに戻ってきなさい!! 今は決闘の最中よ!! どうして入ってきたの!!」
門弟筆頭の女剣士は叫ぶ。それはもはや悲鳴だった。「今日だけは道場に近付いてはならない。大切な決闘試合が行われているから、見学はなし。部屋で大人しくしていない」と、きつく言いつけたのが裏目に出た。
ベネデッタの膣が痙攣する。根元まで挿入された陰茎のうねりが子宮の奥底に轟いた。
道場に飛び込んできたハンスは、口をぽかんと開けて戸惑う。母親の涙ぐんだ両目は必死の形相で訴えかけた。
こんな惨めな姿を見られたくなかった。
「あぁぁぁっーー♥︎ んぁあ゛ぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁっーー♥︎」
膣内を巡る精液の濁流。アモンの大射精と同時に、ベネデッタの甲高い淫叫が上がった。
(膣内に出された⋯⋯!! 精子が遡ってくるぅっ⋯⋯! あぁっ! いけないっ⋯⋯!! 息子の前で⋯⋯孕まされる⋯⋯!! 抗わないと⋯⋯絶対に⋯⋯妊娠なんかしないっ⋯⋯!!)
勇者の精子には超濃密な魔力が宿っている。最奥の秘所に眠る卵子を目指し、勇剛なる子種が膣道を爆走する。精液を蓄えた陰嚢の起伏が波打った。
「初射精までは耐えきれたね。おめでとう。ベネデッタ。一次試験は合格だよ」
「あぁ~っ♥︎ んぁ~っ♥︎ お゛ぉぉっ~~♥︎」
「僕とのセックスに耐えられる女は希少だ。もっと自分の身体を誇りなよ。僕のオチンポと相性がいい。魔法吸収の調子もあがってきたんじゃない? 下手クソな剣術よりも、僕を愉しませてくれるッ⋯⋯!」
「あぁんっ♥︎ おぉぉっ~~♥︎」
「我慢なんかせず、悶え狂っちゃえよ。身体は望んでるよ? 優秀で強い男に身を委ねたくなるのが賢い女の生き方だ。死んだ弱い男に尽くすなんてバカらしい。自分の才能を活かすべきだ。見せかけの抵抗はやめたら? 僕の子供を孕んじゃいなよ」
陵辱を愉しむアモンは、口説き落としにかかる。
反抗を装い続けるベネデッタの本性を曝き、小悪魔の笑みを浮かべた。
心臓の鼓動が高鳴り、膣内射精を続ける男根の脈動と重なる。
「おっ、おかあさん⋯⋯? どうして裸⋯⋯?」
母親が強姦されている姿を目の当たりにしたハンスは、どうすればいいのか分からなくなる。
決闘が行われている道場に来てはいけなかった。その空気をひしひしと感じ取った。
「お風呂じゃないのに服を脱いじゃったの? そのお兄ちゃんは誰⋯⋯? 新しいお弟子さん⋯⋯?」
裸体で交わるベネデッタとアモンを目撃し、心配になったハンスは駆け寄る。
風呂場で母親の裸は見慣れている。しかし、見知らぬ青年が絡み付いている。赤い両目は恐ろしい大蛇を連想させた。
「そのお兄ちゃんと洗いっこしてるの? お母さん⋯⋯? お股から垂れてるの⋯⋯その白い汁は何な⋯⋯。うぅっ⋯⋯! あっ⋯⋯あれ⋯⋯?」
オマンコから漏れ出た精液は、強烈な魔力を発している。勇者に抱かれた女の子宮は、勇者の子種によって壊されてきた。精子の濃さに比例し、魔力の含有量は高くなる。
魔力の波動は近くにいるハンスにも襲いかかった。
「おかぁ⋯⋯さ⋯⋯ひぃっ⋯⋯! くるぃしぃ⋯⋯! ぎぅ⋯⋯ぃ⋯⋯!?」
ハンスは泡を吹いて卒倒した。
勇者の精液から発せられた魔力の暴風は、鍛錬を積んだ破魔一刀流の剣士でやっと耐えられる代物。幼い三歳の幼児が浴びれば、ほんの数秒で意識が吹き飛ぶ。
「ハンス⋯⋯! ハンスぅ⋯⋯!! どお゛ぉうじてぇ⋯⋯♥︎ きぢゃったのぉぉっ⋯⋯♥︎ おぉっ♥︎ んおぁあぁっ♥︎」
「へえ。ベネデッタの子供? 通りでね。乳房を搾ったら、母乳が湧き出てくるわけだ。おや? でも、おかしい。魔法吸収の特異体質者なら、僕の魔力で倒れたりしないよね。その子には才能が遺伝しなかったんだ?」
「あぁ⋯⋯ハンス⋯⋯。いや、いやぁあぁぁ⋯⋯♥︎ お願いぃ⋯⋯!! お願いよぉ⋯⋯!! 息子を早く連れ出して! こんなところを⋯⋯! 私を見せないでっ! 遠くにぃっ! 連れていって! お願い! お願いぃ! お願いだからぁ⋯⋯!!」
「ここで僕の魔力を浴び続けたら死んじゃうだろうね。さすがに子供が死んだら僕も萎える。というわけで、リリス~。安全なところに摘まみ出しておいて。これから本気を出すからさ」
「承知いたしました。勇者様」
リリスは気絶したハンスを抱え上げる。道場の玄関でうな垂れている門弟筆頭の女剣士に預ける。
「この子を遠くへ。気絶しているだけですが、意識が戻らないなら医者に診せてください。この道場はしばらく使わせてもらいます。勇者様の気分にもよりますが、三日ほど籠もるかもしれません」
「⋯⋯ベネデッタ先生は? 先生をどうするつもりですか!?」
「ベネデッタさんが妊娠できなかった場合は、すぐに身柄を解放し、お引き渡しいたします」
「もし妊娠したら⋯⋯!」
「勇者の子を産むのは名誉です。⋯⋯貴方の言いたいことは分かりますよ。ですが、諦めてください。聖胎妃は大切に扱われます」
「⋯⋯っ!」
「貴方は分別を弁えた女性に見えます。賢明な判断をなされるべきです。このままお引き取りください。その子供を助けたいというのなら、なおさらです」
玄関の引き戸が閉ざされた。
「ちくしょう⋯⋯!」
ハンスを渡された門弟筆頭の女剣士は、師匠に預けられた遺言を思い出す。ベネデッタは生きているが、もはや死んだも同然だ。破魔一刀流の道場は今日で終わる。
ベネデッタが再び剣を握る日は来ない。
「ベネデッタ先生⋯⋯。遺言は果たします。今まで受けた恩義は忘れていません。大切なご子息は私が命をかけてお守りします⋯⋯。逃げ出す私を⋯⋯どうか⋯⋯お許しください⋯⋯!!」
妊娠しなければ解放するとリリスは言った。
この説明は逆の文意で解釈しなければならない。
もし勇者の子種で身籠もってしまったら、ベネデッタはアモンに娶られる。
「あ゛ぁぁぁぁあ゛あああああああああぁ~~♥︎ んぅっ♥︎ んあぁぁあああああああああああぁぁぁっ~~♥︎」
刀剣のつばぜり合い、気合いの雄叫び、闘志の籠もった気勢。普段の道場で聞く音とは、まったく違う淫乱な嬌声だった。
身体をぶつけ合う壮絶な交尾の騒音。魔石が炸裂したかのような震動が建物全体を揺らす。
アモンの膣内射精で衰弱し、性交死した女はこれまでも何人もいる。ベネデッタは勇者の子を産む適性が高かった。魔力を吸収し、体力に還元する特異体質のおかげで、喚き叫ぶ余力があるのだ。
「あぁっ♥︎ いぐぅっ♥︎ いぃっ♥︎ お゛ぉっ♥︎ んっ♥︎ んひぃっ♥︎」
「汚い喘ぎ声。やっぱ田舎の女は品性がないねぇ。でも、経産婦のくせに初心なギャップは、男心を燃え上がらせてくれる。立会人はいなくなったんだ。遠慮なく、僕のオチンポでよがり狂いなよ」
「お゛ぉっ♥︎ おぉぉぉおおおっ~~♥︎」
女剣豪ベネデッタ・アルネクティーナは、勇者アモンに決闘を挑み、完全敗北を喫した。
◆ ◆ ◆
十五年ぶりに帰郷した母親は、アルネクティーナ家の墓前で黙祷を捧げる。
通い慣れた墓園の道をすっかり忘れていた。再会した息子を死んだ夫と見間違えるほど、故郷での記憶は薄れていたのだ。
「⋯⋯⋯⋯」
後ろ姿を凝視するハンスは、変わり果てた母親にどんな想いをぶつければいいのか葛藤していた。
(決闘に敗れてから十五年、ずっと母さんは勇者アモンに⋯⋯。里帰りが許されたのは、母さんがもう逃げ出せないと分かりきっているからだ。胸くそ悪い。最低の男だ。勇者アモン⋯⋯!!)
母親を辱めた男に対する憎悪が沸々と湧き上がってきた。
勇名を馳せた女剣豪が失踪し、破魔一刀流の継承が途絶えたあの日、十五年前に起きた決闘の真相をハンスは知った。
母親の口から語られた内容は細部が濁されていたが、想像を絶する陵辱で穢されたのだ。
「ありがとう。ハンス。貴方が案内をしてくれなかったら、きっと辿り着けなかった。昔は何度もお墓参りに来ていたのに⋯⋯。目をつぶっても⋯⋯辿り着けていましたわ⋯⋯」
「その喋り方⋯⋯。口調⋯⋯。俺が知ってる昔の母さんと違う⋯⋯。俺の記憶違いかな」
「別世界の暮らしに調教されたせいですわね。聖胎妃は高貴な生まれの女が多いのよ。社交界の教養を覚えないと恥を掻いてしまうわ。今の私は勇者アモン様の⋯⋯伴侶ですもの⋯⋯。これは仕方ないの⋯⋯。許して」
「母さんみたいに無理やり結婚させられた人が大勢いるんだろ」
「ええ。美女が数え切れない程いるわ。毎年、貴族や王族の娘が勇者様に献上される。妊娠すれば娶ってもらえますわ。聖胎妃には優雅で豪奢な生活が約束されている。けれど、ほとんどの娘は初体験で廃人になるわ。そして、故国に送り返される⋯⋯。私は恵まれていますわ」
赤子が宿るボテ腹を優しくさすっている。
死んだヴィクトールが知ったら、どんな顔をしただろうか。
死別の悲しみを乗り越えて、新しい夫を迎えたのであれば、ヴィクトールは祝福してくれたかもしれない。だが、愛する妻は荒々しい略奪婚で勇者アモンに孕まされた。
「今は椿ノ宮って呼ぶべきなのか⋯⋯。母さん」
「今の今まで、息子の存在を忘れていた酷い母親よ⋯⋯。ベネデッタ・アルネクティーナの名を称する資格はないわ」
「じゃあ、どうして父さんの墓参りに来たんだ?」
「これを一族の墓所に納めようと思っていたの。剣豪ベネデッタの遺骨として⋯⋯」
椿ノ宮は黒革の手提げから折れた刀剣を取り出した。
「これは?」
布で包まれた刀剣は錆び付いている。
「破魔一刀流の当主が受け継いできた伝来の宝刀⋯⋯。これはその残骸よ。十五年前の決闘で勇者アモン様にへし折られた刀剣。ずっとこれだけは⋯⋯。私が⋯⋯私であった証として守ってきたわ」
椿ノ宮はアルネクティーナ家の墓所に折れた宝刀を供えた。
指先の震えは未練を感じさせる。しかし、執着を断ち切った。自らの亡骸と称した宝刀を手放した意味をハンスは痛感する。椿ノ宮は過去と決別し、かつて愛した男に謝罪するため、アルネクティーナ家の墓所を訪ねたのだ。
「このまま帰るのか? 勇者アモンのところに⋯⋯?」
「勇者アモン様の荘園は、かつて魔王が支配していた土地よ。ここからはとても遠いところにあるわ。私の帰りを待つ子供達がいる⋯⋯。産まれてしまった子供達を私は愛しているの。あの子達を見捨てられない」
ハンスは思い知る。目の前にいる貴婦人は、自分の母親ではなくなった。しかし、異父弟妹に対しては、これからも母親であり続けようとしている。
アモンはアルネクティーナ家の特異体質〈魔法吸収〉を欲した。強い勇者の血筋を残すため、ベネデッタに子供を産ませ続けた。手前勝手な理由であるが、十五年も子供達に囲まれて生活すれば情も移る。
考えてみれば、ベネデッタはハンスと三年しか共に生活していない。ヴィクトールとの生活も十年未満だ。
それに比べ、アモンとの歪な結婚関係は十五年も続いた。
ベネデッタ・アルネクティーナの名を使わなくなって久しい。
椿ノ宮の人生が破魔一刀流の剣豪であった半生を塗り潰した。愛した夫が眠る先祖代々の墓所がどこにあるかも忘れ、あれほど大切に育てていた一人息子の存在さえも覚えていなかったのだ。
「好きなだけ、罵ってくれていいわ。その権利がハンスにはある⋯⋯。私が貴方を捨てたのは事実なのだから⋯⋯」
椿ノ宮は涙を拭いながら、すすり泣く。過去には立ち戻れない。
決闘に負けて、陵辱を受けただけの被害で終わっていれば、今とは異なる運命を辿ったはずだ。
敗北を喫した十五年前、破魔一刀流の道場からは三日三晩、総師範の喘ぎ声が響いていた。魔法吸収の体力回復があったおかげで、ベネデッタは衰弱死を免れた。
アモンが誇る無尽蔵の魔力、ベネデッタの血脈に秘められた体質。
双方の異才が噛み合うことで、一刻の休息すらなく、淫悦な饗宴は続いたのだ。
◆ ◆ ◆
破魔一刀流の道場では、刃を潰した刀剣による実戦式の稽古が行われていた。切れ味が皆無の刃引き刀剣であっても、重たい金属を打ち合えば火花が散る。
些細な油断や不注意で骨折する者は多かった。門弟の誰もが気を引き締めて剣を振る。総師範のベネデッタも張り詰めた空気の中、厳しく指導した。
本当の戦いで用いられる真剣は、肉を切り、骨を絶つ、そして命を奪う。
「おぉんっ♥︎ んぁっ♥︎ ああぁっ⋯⋯♥︎ あぁんっ♥︎ ぃや⋯⋯♥︎ いやぁぁあっ⋯⋯♥︎」
ベネデッタは道場の床で仰向けに転がされた。
床材に使われている杉板の冷気が背中と尻に伝わる。淫熱で火照った肢体には、心地好い冷たさだった。
「ぉぉぉぉおおおっんぅぅ~~♥︎」
凄まじい勢いで男根を突き降ろされた。オマンコは剛勇なる逸物を悦んで受容した。度重なる亀頭の攻めで、子宮口は歪んでいる。
破城槌で壊された要塞の門は敵兵の侵入を防げない。無理やりこじ開けた腔内に精子がぶちまけられている。
「あぁ⋯⋯♥︎」
世界最強の遺伝子は、ベネデッタの卵子を探して泳ぎ回る。淫らに開ききった股に、アモンは己の肉棒を重ねている。
矮躯の少年勇者と大柄な女剣豪は、完璧な形で交合していた。
事情を知らぬ者の目線であれば、覆い被さるアモンを押し飛ばすのは簡単に思えるだろう。しかし、興奮した勇者の膂力は、想像を絶する暴力性が内包されている。
(あぁあっ⋯⋯♥︎ なんて力強さ⋯⋯♥︎ 床に⋯⋯お尻が⋯⋯めり込むぅ⋯⋯♥︎)
床材がメキメキィと軋んでいる。上からの押さえつけで、ベネデッタの大きな尻が道場の床をへこませた。
「やっとオマンコの形が整ってきたね。キツすぎて窮屈だった。これくらい緩まないと出血が酷いんだ。僕の腰打ちが早すぎるせいなんだけどさ」
アモンが本気の腰振りをする度、ベネデッタの臀部は沈降した。バキッと木材の断裂音が鳴った。床板がついに抜けてしまった。
「おぉっ♥︎ んおぁっ♥︎」
種付けプレスで子宮が歪む。押し潰れて破裂しそうになる。
勇者の怪力に驚かされるが、圧倒的な陵辱に耐える女剣豪の肉体は、やはり常人とは造りが違う。
「ここまでやって壊れないのは誇っていいよ。俄然、やる気が出てきた。思わぬ拾い女だ。これだけ頑丈な子宮なら、きっと勇者の子供を産める⋯⋯! もしかすると既に孕んじゃってるかな?」
「あぁ⋯⋯あぁ⋯⋯♥︎」
「気付いてる? もう三日目だ。飲まず食わず、休みも睡眠も一切なしで、僕らは子作りしてたんだ。僕は勇者だから七日くらいは不眠不休で動ける。すごいでしょ? ベネデッタも僕の魔力を吸っていれば、同じことができるみたいだね」
「⋯⋯あぁ⋯⋯んぁ⋯⋯♥︎ し⋯⋯んんぅ⋯⋯でやぁ⋯⋯るぅ⋯⋯。あなたの⋯⋯あかちゃんなんがぁ⋯⋯うまな⋯⋯いぃんっ⋯⋯んぐぁっ♥︎ おう゛おぉっ♥︎」
「ベネデッタのオマンコはそう思ってないみたい。強くて優秀な雄の子孫を残す。それが原生的な雌の欲求であり、本能だよ。人類は弱すぎる。だから、勇者である僕は子孫を沢山残さなきゃいけない」
「そんな⋯⋯みがってな⋯⋯りくつでぇ⋯⋯っ! ぁあうぅ!? んぁっ!? あぁぁっ! んぅぅ~~♥︎ うぅうっんぅ~~♥︎」
「そうかな? こんな道場で剣術指導するより、勇者の血脈を増やすほうがよっぽど世界のためになるでしょ。セックスの相性は良さげだし、胎の強度も十分そうだ。孕みさえすれば、絶対に一人は産める」
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ やめっ♥︎ いやぁッ♥︎ 乱暴に胸を弄らないでぇえ⋯⋯♥︎」
「牝牛のデカパイを搾ってあげてるんだ。母乳を出し切らないと破裂しちゃうよ? 自分のオッパイなんだから分かるはずだよね。僕の魔力を吸収して、乳腺が活性化しちゃったんだ。ほぉお~らぁ~♪ ミルクで水風船みたいに膨れ上がってるよ~?」
「あぁぁっ⋯⋯♥︎ んぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁっ♥︎」
――ブッシャァアアァァァァァッ!!
屹立した爆乳から白い汁を噴出する。乳輪の孔が拡がり、勢い激しく、盛大に撒き散らした。
「まだまだっ! もっと魔力を吸わせてやるっ!!」
アモンは魔力を乳房に注ぎ続ける。魔力を吸ったベネデッタの乳房は、本人の意に反して母乳の生成する。
「あぁひぃっ♥︎ んんぅうっ♥︎ んぃっ♥︎ おぉっ♥︎ んお♥︎ んひぃぃっ♥︎」
「道場の床が母乳まみれだ。すごいや⋯⋯! ミルクの洪水! あはははははっ! 搾乳アクメだけで満足はさせないよ。オマンコも楽園に誘ってあげる。全力の魔力と精子を注ぐっ! 覚悟はいい? 受け止めきってよ! ベネデッタ!!」
「あぁぁ♥︎ あぁぁっ♥︎ らめぇっ♥︎ も、もどってこれなくな⋯⋯なるぅぅっ⋯⋯♥︎ んあ゛ぁぁっーー♥︎ んあぁあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああーー♥︎」
辱め尽くされた魂は、ついに大崩壊した。強大な魔力が胎内に放出されている。左右の卵巣に激震が奔り、強制排卵が起きる。
――ぢゅっぷん♥︎
勇者の精子が卵子に群がる。
世界最強の遺伝子は、ベネデッタの胎を魅了した。
たとえ夫を無惨に殺した憎き仇であろうと関係ない。生物の生殖本能は素直だった。
(ごめんなさいっ⋯⋯。 ヴィクトール⋯⋯。ハンス⋯⋯。道場の皆⋯⋯。私はもう⋯⋯たえきれな⋯⋯♥︎)
抵抗を続けていた子宮の最奥が陥落する。
女剣豪ベネデッタの胎内に勇者の堕とし胤が芽吹いた。
「リリス。いるでしょ? ベネデッタが妊娠してるか聖魔法で調べてよ」
道場の片隅で性交を見守っていたリリスは立ち上がる。ベネデッタの下腹部に、光り輝く手をかざした。
「おめでとうございます。勇者様。ベネデッタさんはご懐妊されております。胎内で強い受精卵が誕生しました。着床するのは間違いございません」
「もっとベネデッタが若ければ三日もかからなかった。まあいいや。聖胎妃の一人に娶る。これからは剣なんか握らず、女らしくするんだよ。⋯⋯そうだ。決闘に勝ったんだし、あの看板は僕が好きにしていいんだよね? くっくくくく!」
「あんぁ⋯⋯♥︎ あぅっ⋯⋯ぁ⋯⋯♥︎ はぅっ⋯⋯!?」
ベネデッタの膣穴に挿入されていた男根が引き抜かれる。
三日三晩、中出しされ続けたオマンコから、大量の白濁液が流出する。
「総師範のベネデッタが完敗したんだ。門弟達も離散。破魔一刀流の看板は外さないとね。普通は燃やすんだろうけど、最高のアイディアを思い付いちゃった」
破魔一刀流の看板は、椿の大樹から切り出された。アルネクティーナ家の歴代当主が守り続けた名誉を穢すのは、現当主のベネデッタ自身だった。
アモンは破魔一刀流の看板を、ベネデッタの股に向けて置いた。オマンコを見せびらかすように、両脚の位置を調整する。
「⋯⋯ぁ⋯⋯あぁ⋯⋯♥︎」
「看板にオシッコしてよ。これは命令だよ。ベネデッタ。破魔一刀流はもう終わり。君が終わらせるんだ」
尊厳を粉々に破壊し、敗北者を見下す絶対強者。アモンはベネデッタの顔面を踏み付ける。
「放尿する気力すらない? ご褒美に魔力を吸わせてあげる。僕の魅力に身体は取り憑かれちゃってるね」
「あぁっ♥︎ んぁぁぁあああああああああああああぁっ~~♥︎ あ゛っ♥︎ んぁっ♥︎ んがぁあぁあぁぁっ~~♥︎ う゛~~~う゛~~♥︎ んぁああ~~~♥︎」
腰を浮かび上がらせてベネデッタは失禁した。
(お漏らし⋯⋯した⋯⋯♥︎ 先祖の誇りに⋯⋯♥︎ 今までの⋯⋯♥︎ 終わった⋯⋯♥︎ こわしぢゃったぁ⋯⋯♥︎)
半円の放物線を描いた黄色の尿が看板を汚す。排尿を浴びせかけられた道場の看板は、不快臭の湯気を上げている。椿の木目に汚水が染みた。
「よく出来ました。弱っちい流派を淘汰できて僕も誇らしい」
ベネデッタは泣きじゃくる。漏らした尿はアルネクティーナ家の名誉を穢した。不様極まる醜態だった。破魔一刀流の技は二度と使えない。
「それじゃあ、約束通り、妊娠したから責任を取ってあげるよ。君を荘園に連れ帰る。子産みの聖胎妃として僕に尽くせ。君は二十八人目だ」
(あぁ⋯⋯。わたしは⋯⋯こわれた⋯⋯。あいしてないおとこの⋯⋯あかちゃんを⋯⋯うむ⋯⋯。ごめんなさい⋯⋯う゛ぃくとーる⋯⋯。わたし⋯⋯ゆうしゃのオチンポに⋯⋯まけぢゃったぁ⋯⋯♥︎)
この年、ベネデッタは女児を出産した。
連れ攫われてからの十五年、椿ノ宮と名を改めて勇者の荘園で優雅に暮らすことになる。
三歳の息子ハンスを残し、母親ベネデッタが消えた淫惨な真相。関係者は揃って目を背けた。
破魔一刀流の門弟達は、道場を燃やした。穢された看板を人目には晒せなかった。
総師範を失った門弟達は各地に散らばった。門弟筆頭の女剣士はハンスを引き取り、母親の行方は一切教えずに育て上げた。道場で母親が勇者に犯されている衝撃的な光景は、幼児の記憶からは抜け落ちていた。
母親は決闘で敗れて死んだ。そう信じ込んでくれれば幸せに生きられる。
門弟達は誰もハンスに真相を伝えなかった。
◆ ◆ ◆
十五年ぶりに再会した母親。この出会いはハンスの悲劇だったかもしれない。しかし、椿ノ宮の良心を痛めつける邂逅でもあった。
「破魔一刀流を復興したのね。すごいわ。さすがヴィクトールの血を引く息子だわ⋯⋯」
椿ノ宮はハンスの顔を直視できなかった。
「大勢の人に協力してもらったんだ。十年以上もかかったよ。⋯⋯母さんは⋯⋯いや、椿ノ宮は破魔一刀流を完全に捨てたんだよな?」
「ええ。勇者アモン様の決闘に敗れて以来、一度も私は剣を振れていないわ。鍛錬も許されなかった。筋肉は衰えて、柔らかな媚肉に⋯⋯勇者アモン様が好む身体作りをしたの⋯⋯」
「剣豪の称号は貴方の名誉じゃなくなった。そう考えていいんだよな?」
「ごめんなさい。私はハンスに何も与えられないわ。剣豪の称号は⋯⋯もう⋯⋯受け継がれているわ。破魔一刀流の復興させたいのなら、剣豪の名誉は諦めて⋯⋯」
「剣豪の称号が受け継がれた? それって誰だ? まさか勇者アモンに譲ったのか⋯⋯!?」
「いいえ。違うわ。勇者アモン様はそんな称号を受け取らない。勇者の二つ名が唯一無二の世界的称号ですもの。剣豪の称号を受け継いだのは⋯⋯。知らない方がいいわ。ハンスは戦いを挑むつもりでしょう。でも、勝てないわ」
「俺は⋯⋯父さんの墓前で誓った。失われたものを取り戻す! だから、剣豪の称号だって取り戻したいんだ!!」
ハンスは問い詰める。しかし、椿ノ宮は言い淀む。
「誰だ。誰なんだよ!? 剣豪の称号を持っているのは⋯⋯!?」
苛立ったハンスは椿ノ宮の両肩を掴む。その時だった。鞘付きの刀剣で、手の甲を叩かれた。
「痛っ! うぐぅっ!!」
気配に気付いた瞬間、鳩尾に一撃を叩き込まれ、ハンスは片膝を着いた。
「ちょっと、ちょっと~? お兄さん。アタシのママに気安く触らないでくれない?」
刀剣を担ぐ美少女は椿ノ宮を守るように立ちはだかった。
秋風で寒さに反抗するようなミニスカートの少女は、母親譲りの大きな爆乳を揺らす。豊満な肉付きは異性を見惚れさせる。しかし、武芸の心得がある者は気付く。少女の立ち振る舞いは、ただ者ではない。
「ぐっ⋯⋯!! おっ、おまえは⋯⋯?」
呼吸が乱れる。破魔一刀流を極めたハンスが不意打ちに対応できなかった。
「いくら人気がない墓場だからって、身重の人妻に手を出すのはどーよ? ママは美魔女だから口説きたくなる気持ちは分かるけど、アンタの想像以上の年齢だからやめときなよ」
赤眼の少女は、椿ノ宮を親しげに「ママ」と呼ぶ。
「ママもママだよ? 久しぶりの遠出だからって油断しすぎ」
年齢は十代前半といったところだ。ハンスよりも年下で、椿ノ宮の娘であれば、父親はあの男である。真っ赤に光る双眸は勇者アモンの目だ。
「まさかパパに相手されなくなるからって愛人探し? 男漁りで生まれ故郷に戻ったわけ? それってどーなの?」
「おやめなさい。アルベネーシャ! まったく貴方って子は⋯⋯! 品位に欠けているわ。⋯⋯その御仁は、道に迷っていた私を助けてくれた心優しい青年よ」
「え? まじ?」
「⋯⋯謝りなさい。アルベネーシャ」
「あちゃぁ⋯⋯! ごめん! ほんと、ごめんね! お兄ちゃん。早とちりしてごめんちゃい! そっか、そっか! ママの帰りが遅いとは思ってたの! まさかの迷子だったわけね。親切にしてくれたのに、恩を仇で返しちゃって、ほんとごめん!」
「⋯⋯あぁ⋯⋯ああ。大丈夫だ。平気だよ。君は⋯⋯」
ハンスは激痛を痩せ我慢して立ち上がる。
「私はアルベネーシャ!」
「⋯⋯この子は私の娘ですわ」
「よろしくね! ちなみに聞いて驚いちゃって! 勇者の娘で剣豪だよ!」
「剣豪だって? 君が?」
「そっ! ナイスなリアクション! 十歳の時、アタシは剣豪の称号を得た。お兄さん。やるね~。剣豪に急所を突かれて、すぐ回復できるなんてさ。鍛えてなきゃ無理だ。兄姉の喧嘩でも私って強いほうなの。パパには勝てないけどね。御礼で奴隷騎士直伝のエロ剣舞を特別サービスで見せちゃうかな」
「やめなさい。アルベネーシャ。剣は鞘に収めておきなさい。リリスさんに言いつけるわよ」
「ママ! お師匠に告げ口なんて最低! もうっ! ママは剣士の心ってのが分かってないんだから! パパと結婚してから腑抜けちゃったんだね」
「⋯⋯貴方にはもっと女らしく育ってほしかったわ。これからの時代、剣なんか役に立たないわよ」
「そんなことないもん。パパだって褒めてくれてるし~。いつか自分の流派だって立ち上げちゃうんだから!」
「君が勇者の娘⋯⋯なのか⋯⋯?」
「そだよー。アタシのパパは勇者アモン。魔王殺しの大英雄! そういうわけで私もパパみたいに人助けをモットーに剣士をしてるんだ。 ん? そういうお兄さんって⋯⋯。それ、刀剣? 私と同じ刀剣使い!? なんか、めっちゃ嬉しい! シンパシー感じちゃう! 墓守ってわけじゃないし、冒険者とか兵士? 傭兵? まあ、なんにせよ、ママを助けてくれて、あんがとね!」
アルベネーシャはハンスの手を握って、ぶんぶんと上下に振る。
「うっ⋯⋯! これは⋯⋯あぐぅっ⋯⋯!?」
滲み出たハンスの魔力が吸収されていった。アルネクティーナ家の特異体質〈魔法吸収〉が発動していた。
「おっと! やっば! またまた! ごめん! てへ! 許して! 魔法吸収が勝手に悪さしたみたい。ママ譲りの困った体質なんだ。アタシが触れた相手の魔力を吸っちゃうの。ちょっと休めば大丈夫なはずだから!」
アルベネーシャは目の前にいるのが異父兄だと気付いていない。
(アルネクティーナ家の血脈に現れる特異体質者⋯⋯。この子は俺の⋯⋯妹⋯⋯。俺にない才能を全て与えられた⋯⋯勇者の娘⋯⋯)
もしハンスが魔法吸収の特異体質を受け継いでいれば、血の繋がりを認識できただろう。しかし、ベネデッタはハンスに一切の才能を与えなかった。
「それとママ! もうっ! 時間! 時間! 入口で馬車を待たせてある。知り合いのお墓参りが済んだなら、はやく帰ってきてよ! 心配で探しにきちゃったじゃんかー!」
「ごめんなさい。うっかりしていたわ」
「妊婦がこんな寒い秋空で出歩くのはよくないよ。胎動だって激しくなってるんでしょ」
「故郷の思い出話で盛り上がってしまって時間を忘れていたわ」
「もしかしてママ、このお兄さんと知り合い?」
「⋯⋯⋯⋯。私が昔、恋していた人の息子さん。お墓の前でばったり出会って⋯⋯懐かしんでいたのよ」
椿ノ宮は影のある面持ちで語った。
真実ではある。嘘は言っていない。しかし、大きな偽りがあった。
「え? まじ? あ~。ここのお墓、初恋の人が眠ってるんだ。通りでパパに内緒だったわけね。ちょっと驚きかも。ママの初恋って絶対にパパだと思ってた。普段はあんなにラブラブでイチャついてるのにさ」
「そんなことないわ⋯⋯。嘘を言わないで」
「嘘吐きはママでしょ。そのお腹で言っちゃう? 『歳も歳だし、この子で最後よ』って、毎年聞かされてるお姉ちゃんの身にもなってくれない? 弟妹が多いのは楽しいけどさ」
「本当にこの子で最後よ⋯⋯」
「ふーん。まあ、パパにメロメロなママでも若かりし頃は片想いする乙女だったんだね」
「⋯⋯アルベネーシャが産まれる前のことよ」
「失恋で勇者と結ばれちゃうのがママらしいや。じゃあ、このお兄さん。初恋の人にそっくりだったりするの~。ねえねぇ、パパには内緒にするから教えてよ。ママはどんな初恋しちゃったの? どんな人? アタシ、知りたいな~」
「冷やかすのはやめなさい。他人様の前よ」
椿ノ宮がハンスに語った過去は、ほんの一部でしかなかった。
過ぎた年月で考えれば、勇者アモンの荘園で暮らした夫婦生活のほうがずっと長い。
ベネデッタ・アルネクティーナの名を捨てた母親は、新たな人生を歩んでいた。強姦で産まされた子供だとはアルベネーシャに伝えていない。
世界を救った勇者と愛し合って産んだ大切な娘。その後に生まれた弟妹も、両親は相思相愛だと信じきっている。事実、椿ノ宮は勇者アモンに寝取られていた。
「ハンスさん。貴方と話せて良かったわ。ありがとう⋯⋯。きっと亡くなったヴィクトールさんは、貴方のような息子を⋯⋯誇りに思っているわ⋯⋯。だから、さようなら」
椿ノ宮は感情の変化を隠すために、帽子の黒ベールを下ろした。息子と娘に表情を見せたくなかった。膨れた孕み腹を抱きかかえて、愛した男が眠る墓所に背を向けた。
「ちょっと! ママ! 一人で行っちゃダメだって! もぅ!」
置いていかれそうになったアルベネーシャは、慌てて母親の後を追いかけた。剣豪の称号を受け継いだ異父妹は、勇者の形質も色濃く受け継いでいる。
鞘で叩かれた手の甲は赤く腫れ、突かれた鳩尾の鈍痛は続いていた。もしハンスが戦いを挑めば十五年前の決闘が再演されることになるだろう。
「⋯⋯さよなら⋯⋯か⋯⋯」
ハンスは十五年前、道場で目撃した光景を思い出した。赤い瞳の青年が裸の母親を押し倒し、子胤を注いでいた。母乳を噴き漏らしながら、膣内に流し込まれた勇者の遺伝子は胎で結実した。勇者の堕とし胤で産まれた美少女アルベネーシャは、両親の才能を受け継ぎ、最年少の剣豪となった。
「あぁ⋯⋯。ちくしょう⋯⋯! ちくしょう⋯⋯!!」
もう二度と会うことはない。会うつもりもない。
椿ノ宮から聞いた十五年前の出来事はアルネクティーナ家の墓に弔った。
孕み腹の貴婦人が持ってきた折れた宝刀の残骸は、先代総師範ベネデッタの遺骨となった。
完