【168話】反魂妖胎の祭礼(♥︎)

 ――三月二十三日の昼過ぎ。

 帝都アヴァタールの退魔結界が崩壊した直後。

 牛頭鬼の魔物キュレイが国民議会議事堂の天蓋ステンドガラスを破壊し、襲撃が本格化したのと同時刻、メガラニカ帝国の最強戦力たる帝国元帥レオンハルトは街道の途上にいた。

「元帥閣下! 副都ドルドレイからの伝令です! 大至急、お伝えしたいことがあると!」

「すぐに通せ。何が起きた?」

 副都ドルドレイの視察に向かっていたレオンハルトは、息を切らした伝令から変事の知らせを受ける。

「申し上げます! 元帥閣下! 副都ドルドレイの火薬庫で爆発が発生! 何者かの破壊工作によるものだと思われます! この先にある連絡橋も爆破され、この先の通行は不可能です!」

「⋯⋯火薬庫が吹き飛んだか。それでドルドレイでの人的被害は?」

「多数の死傷者が出ておりますが、詳細は把握しきれておりません」

 視察先で起きた変事。大規模な軍事演習を間近に控えた副都ドルドレイでの破壊工作。

「⋯⋯⋯⋯」

 帝国軍の最高位にある帝国元帥レオンハルトは立ち上がった。

「――緊急事態だな。分かった。私は帝都アヴァタールに戻る」

「え⋯⋯! 帝都に戻られる⋯⋯!? お待ちください! 元帥閣下! 爆発が起きたのは副都ドルドレイであります! おそらく何者かが仕掛けた爆発物によるもの⋯⋯!」

 伝令の兵士は慌てた。帝国元帥が帝都アヴァタールと副都ドルドレイを取り違えていると思ったのだ。

「貴公の報告は聞いた。だから、。あからさまな誘導だ。わざわざこの先にある連絡橋を破壊したとして、何の意味がある?」

「それは⋯⋯」

 早馬を走らせ、副都ドルドレイから馳せ参じた伝令はハッとする。

「途絶が敵の目的か? 考えにくい。貴公は連絡橋を渡って、副都ドルドレイから私のところに来た。どうせ渡り終えた後で破壊されたのだろう?」

「は、はい。確かに⋯⋯大渓谷の連絡橋が崩落したのは、伝令の私達がこちらに渡り終えてからです⋯⋯」

「まるで副都ドルドレイにと言っているようなものだ。嘗めた真似を⋯⋯。行くわけなかろう」

 副都ドルドレイにレオンハルトを近づけさせたくないのなら、伝令の兵士が無事に辿り着けているのはおかしい。連絡橋を潰す前に、急報を伝えに来た兵士を始末するべきだ。

 遠ざける振りをしながら、実際にはドルドレイに呼び寄せている。

「私はウィルヘルミナ宰相から事前に通達を受けた。『もし副都ドルドレイで異変が起きた場合、何があっても帝都アヴァタールに即時帰還し、皇帝陛下の安全を確保せよ』とな」

「まさか⋯⋯!」

「敵の狙いは帝都アヴァタールだ。天空城アースガルズに侵入し、帝城ペンタグラムを爆破した不届き者による謀略であろう。あちらにはヘルガを残してきたが、ユイファンをアルテナ王国に行かせたのは失敗だったな」

 レヴェチェリナが仕掛けた時間稼ぎの策は裏目に出た。

「まあよい。敵が現われたのなら、私が出れば解決する話だ。政治のくだらん言葉遊びよりも楽に片付けられる」

 副都ドルドレイで何が起きようと大した被害にはならない。最優先すべきは皇帝ベルゼフリートだった。

「副都ドルドレイの騒動は現地の司令官で対処しろ。私は陛下の元に帰る。ここからなら半刻で戻れるだろう」

 完璧な次元操作を会得した超越者は、転移の連続発動で長距離を移動できる。付いてこれる従者がいないため、単身での帰還となるが無問題である。 

 帝国最強の女に護衛は不要だ。

 いかなる妨害があろうともレオンハルトは帝都アヴァタールに帰還する。

「グラシエル大宮殿の防備が破られていた場合、皇帝陛下を連れてアレキサンダー公爵領に向かう。しかし、陛下の護衛には姉上達を付けている。まずありえぬだろうがな」

 悪業の魔女レヴェチェリナに与えられた猶予はわずか半刻に縮まった。

 三皇后の不在を狙って、皇帝の魂を盗み出す。虎穴に入らずんば虎子を得ず。もはや後には退けなかった。

 穢らわしき妖術の秘奥――反魂妖胎はんごんようたいの祭礼が発動する。

 ◇ ◇ ◇

 その日、ベルゼフリートはグラシエル大宮殿の祭拝堂で戦没者の慰霊祈祷を終えた。

 メガラニカ皇帝の公務の大部分は祈りが占めている。大別すると祈祷の種類は二つ。

 年穀ねんこくの豊穣祈願など、生者の安寧と繁栄を祈る例祭。

 もう一つは死者の慰霊だ。先帝達を悼む鎮魂喪礼、戦没者といった国に殉じた者達へ捧げる祈り。

 正しく祀られ、器に収まってさえいれば、破壊者ルティヤの荒魂は生きとし生けるものに盛栄を授け、この世を去った死者には冥福を与える。

 皇帝の祈祷は重要な行為であったが、近頃のベルゼフリートは悶々と沸き立つ性欲に悩まされていた。

「ふぅ。今日は寝坊せずに済んでよかったよ」

 男子を産みたがってるセラフィーナは子作りに積極的だった。

 深夜遅くまで続いた情交で、たっぷりとオマンコで搾精してもらった。甘美な母乳を吸いながら、孕みたがる子壺に中出しを繰り返した。

「女仙の関係者しか列席しないとはいえ、寝過ごしで慰霊祭に遅刻なんてしてたら体裁が悪い。三皇后やヴァネッサに叱られてしまうよ」

 昨晩の営みをベルゼフリートは反芻する。肢体をくねらせる金髪の美女に、己の遺伝子を植え付ける極上の優越感。陰嚢の精液を空っぽにして安眠する爛れた性生活。

 朝になればベルゼフリートの男根は復活し、猛々しく勃っている。以前から性欲は盛んだったが、今は昔と比べものにならないほど精力が湧き出してしまう。

「ところでさ、人間にも発情期ってあると思う? 僕は成長期が来てほしいのにさ」

 ベルゼフリートは礼服の上着を警務女官に投げ渡す。追悼式で着る黒衣の礼装は布が分厚く、しばらくすると両肩が重たくなってくる。

「背丈をぐーんと伸ばしたい。牛乳を飲むと大きくなるって話があるけど、母乳で代用できたらいいな」

 寝室に連れ込んだセラフィーナを抱き寄せた。喪服に身を包み、未亡人然とした爆乳美女は頬を染める。背徳感を漂わせる触れ合い。スカートを捲り上げ、陰裂に手を伸ばした。

「お仕事も済ませたし、そろそろ始めようよ。セラフィーナ」

「ええ。ですけれど、何だか外が騒がしいようですわ」

 ベルゼフリートの護衛達も動きが慌ただしかった。警務女官長のハスキーが呼び出され、何やら廊下で話し込んでいる。

(なにかしら⋯⋯? 不穏な気配。胸騒ぎがしますわ)

 大きな窓は遮光カーテンで閉ざされ、警務女官が近づけさせぬように立ち塞がる。昼下がりで外は明るいというのに、結晶灯が室内を照らしていた。

「外が気になる? また暴動でも起きてたりして。アルテナ王国と半端な講和を結んだ去年も凱旋門広場で小火があって大変な騒ぎだったよ」

「そういえば、後宮に連れてこられたばかりの頃、暴動があったと陛下から聞きましたわ」

「血気盛んな人もいるってことだよ」

 今より一年前、メガラニカ帝国は戦争に勝利したにも関わらずアルテナ王国の賠償を得られず、さらには全土の併合を見送られ、一部の民衆は激怒した。

「盛大な戦勝式典を開いて、民衆の鬱憤は発散させたはずだけどね。溜飲は下がったと思ったのになぁ」

 帝都アヴァタールの大通りを練り歩いたパレードで、セラフィーナとロレンシアは大衆にボテ腹をお披露目した。敗国の美女二人が皇帝に孕まされた姿を見て、人々は戦勝に酔い痴れた。

「戦争が終わってちょうど一年だから、騒動がおきそうなタイミングではあるかな」

 護衛の警務女官と帝国兵は、ベルゼフリートとセラフィーナに帝都アヴァタールの異変を教えなかった。幼い皇帝に不安を与えるだけだと考えたのだ。

「外の様子が気になりますわ⋯⋯」

「大丈夫。何かあれば女官か帝国兵が教えてくれる。外で何が起こっているにせよ、僕とセラフィーナに出番なんかない。部屋で大人しくセックスをしてろってことじゃない?」

 パンティーの留め具を外し、膣穴の濡れ具合を確かめる。肉厚のひだを指先で撫でる。溢れた愛液がぐぢゅくぢゅと淫音を奏でた。

「んぁっ♥︎ あぁっ⋯⋯♥︎ んう゛っ♥︎」

 セラフィーナは折り曲げた両脚の先を痙攣させる。反応を窺いながらベルゼフリートは手マンを続けた。

「どう? 僕の指使いもなかなかのもんでしょ? オマンコをぐりぐりするマッサージ」

 爪先が膣道をなぞる。上目遣いのセラフィーナは愛する幼帝に媚びる。恥ずかしげもなく股を開き、陰部を差し出した。

「はぁ♥︎ んぁ♥︎ んぅっ♥︎」

「あっ、そういえば例のおかしな夢さ。医務女官に相談したんだっけ? どうだった?」

「んぃっ♥︎ 極度の興奮状態でぇっ♥︎ んぅっ♥︎ 譫妄せんもう状態による幻覚の可能性もあるとぉ♥︎ んぅっ♥︎ 言われましたわぁ♥︎ はぅんぅっ! んぅっ♥︎ んっ♥︎ あぁっ♥︎ はぁはぁっ⋯⋯♥︎」

 セラフィーナが見た過去夢は、医務女官を通じて三皇后の耳に届いた。

 単なる夢と見過ごせない。なぜならセラフィーナはベルゼフリートの過去を夢で経験した実績があった。

「夢の有識者を紹介してあげようか? 誰よりも睡眠に詳しい女仙がいるよ。寝てばっかりだから、起きてるときに会えるかは運次第だけどね。金緑后宮にいるとき、会わせておけばよかった」

 股に突っ込んだ右手を引き抜いた。ぬちょりと愛涎が細糸を紡ぐ。縮れた黄金の陰毛が付着していた。

「うわぁ。びしょ濡れ。すごい感じちゃってるじゃん。慰霊の最中に隠れてオナニーでもした? くすくすっ! 淫乱な女王様だね」

「申し訳ございません。近頃は盛り上がるせいか、子宮が敏感になっているのですわ⋯⋯♥︎ 陛下が毎晩♥︎ 愛でてくださるので⋯⋯♥︎ 陛下のお側にいると、つい卑猥な妄想をしてしまうのですわ♥︎」

「僕が発情しまくりなのはセラフィーナのせいかも。この大きなデカパイから催淫フェロモンを出してるんじゃない?」

 ベルゼフリートはガチガチに勃起した男根を取り出した。愛液に塗れた右手をセラフィーナがハンカチで拭う。

「そうかもしれませんわぁ♥︎ 私の先祖にはサキュバス族がいるようですから⋯⋯♥︎ 陛下が目覚めさせてくれるまで、血に宿る本能は眠ったままでしたわ♥︎」

 淑やかさを装いつつ、捲り上げたスカートの奥に隠れた膣穴を見せつける。我慢汁の雫が滴る亀頭を拐かす。

 女王は戦争で亡くなった死者に祈りをささげていた。結果はどうあれ、祖国のために命を捧げた勇敢な者達だ。戦死者の冥福を祈った。喪に服した美しき黒装束の女王は儚さを感じさせた。

「前戯の必要もなかったかな。セラフィーナが欲しいのは僕の子胤だもんね。お望み通り、オチンポを挿れてあげる」

「はひぃ♥︎ オマンコにお挿れくださいっ♥︎ 陛下♥︎」

 当人以外には分かりようがない。股座を愛液でずぶ濡れだった。

 祖国を征服し、自身の心を染め上げた少年との逢瀬を妄想する。喪に服しながらも希求するのは主君の寵愛。死者の鎮魂は過去の精算でしかない。

 売国妃セラフィーナ。帝国の愛妾に堕ちた女は過去の自分自身を裏切った。

「はぁはぁ⋯⋯♥︎ 今日は排卵日ですわ⋯⋯♥︎」

「そんな気がした。セラフィーナと触れ合ってると分かるよ。色気が匂いまくり。⋯⋯膣内なか出ししたら、絶対に孕んじゃう日だね」

 喪服で着飾ったセラフィーナを押し倒す。興奮状態のベルゼフリートは止まらない。妖術の罠が仕掛けられた女性器ヴァギナに猛る男根を挿れてしまった。

 女王と幼帝の穢れ深き魂が交わる。

 道を踏み外し、道徳に背いてでも、遂げた罪深き愛は、深淵の魔を喚び起こす。

 ――廃都ヴィシュテルで反魂妖胎はんごんようたい呪詩じゅしが歌われた。

 大妖女レヴェチェリナは宿願の成就に手を掛ける。

 非業の死を遂げたリュート王子の屍骨に瘴気を吸わせる。皇帝から血酒を授かった女仙しか帯びぬ穢れ。魔女の肉体は瘴気で満ちていた。

 ――主よ、来たれ!

 ――傲慢なる人から、我は主を解き放つ!

 ――真なる業魔! 真なる帝王! 真なる災禍!

 ――万象を壊し、万物を砕き、万劫の滅びを齎す!

 ――破壊者の荒魂は再び反転する!

 ――深き眠りより覚め、妖魔に恩寵を授けたまえ!

 ――魔帝の暗闇は世界を覆い尽くす!

 ◆ ◆ ◆

 祭壇に祀られた屍骨は肉体の核となった。レヴェチェリナが蓄え続けた膨大な妖力を注ぎ入れ、魔物の血肉で包み込む。

 人間に囚われた破壊者ルティヤを解き放つ新しき器。盗み取ったベルゼフリートの精液で遺伝子の複写は済ませている。

 本来、破壊者ルティヤの転生体はベルゼフリートの実父だった。肉親を処刑され、精神崩壊に陥った転生体は母親を犯し、近親相姦児を産ませた。

 禁忌は器の封印を緩める。親から子に継承された破壊者ルティヤの荒魂は新たな器に収まったが、それこそがレヴェチェリナの狙いだった。

 器から荒魂を抜き出すのは不可能。哀帝での失敗で思い知らされた。ならば、器を破壊してはどうか。それも失敗した。死恐帝の死で学んだ。死んでしまったら手遅れだ。何をどうしたところで、制御不可能な災禍に転じる。

 哀帝と死恐帝を踏み台にして辿り着いた結論こそ、現在の皇帝ベルゼフリートだった。

 ウィルヘルミナの介入さえいなけば、九年前にシーラッハ男爵領で産まれたばかりのベルゼフリートを確保できていた。しかし、予想外の出来事が起きた。

 破壊者ルティヤの魂が抜けた器は絶命する。けれども、ベルゼフリートの父親は生存した。母親を犯し続け、子供を産ませ続けた。

 はたしてどちらが転生体の器と言えるのか。判断ができなかった。ベルゼフリートが自身の過去を受け入れた昨年末、やっと穢れた器は完成した。

 転生体は高潔な精神の人物である。聖大帝や栄大帝は方向性こそ違うが、名君と喚ぶに相応しい人格者だ。

 災禍で多くの人々を苦しめた皇帝達もそうだった。烈帝、破壊帝、哀帝、死恐帝、いずれの皇帝も本来は道徳心に篤く、人道を重んずる者達である。

 ――しかし、ベルゼフリートは違う。

 隣国の女王を陵辱しろと命じられれば実行する。自国が他国を征服しようとも顔色一つ変えない。

 道徳心は持ち合わせているが、悪徳も許容できる。だからこそ、臣下の腐敗に激怒し、憤死した烈帝のようにはならなかった。

 破壊者ルティヤの器としては致命的な欠陥だった。魔の誘惑に応じてしまう精神の脆弱性。すなわち、ベルゼフリートは人間側から魔物側に堕落できる。

「――お待ちしておりましたわ♥︎ 我らの陛下♥︎」

 幼帝は廃都ヴィシュテルの帝嶺宮城ていれいきゅうじょうで目覚めた。魔物の肉体は心地好かった。

 精髄から怨嗟が滲み出る。触媒となったリュートの屍骨は、新たな肉体の骨髄を形成した。魂が現世を去っていようと、残留思念がメガラニカ帝国を恨み続けている。

「⋯⋯⋯⋯?」

 ベルゼフリートとしての記憶はなかった。骨肉から滲み出た憎悪が精神を汚染する。

「私はレヴェチェリナ・ヴォワザン。陛下にお仕えする宰相ですわ」

「陛下⋯⋯?」

「はい。陛下は世界の魔物を統べる貴き御方。魔帝ですわ。太古の昔、魔王を滅ぼした勇者達は、二度と魔王が出現しないように破壊者ルティヤに魔王核を喰らわせた」

 歴史の闇に葬られた勇者の愚行。創造主の意に反し、魔王を根絶させた結果、アガンタ大陸は呪われた。

 破壊者ルティヤは魔王を喰い滅ぼしたが、この世界に新たな災厄が根付いてしまった。

 勇者はメガラニカ帝国の皇帝に関わろうとしない。破壊者ルティヤが喰った魔王を吐き出しかねないからだ。

 魔王核は約千年で一匹の魔王を生成する。それは破壊者ルティヤの転生体が生きる寿命と同等だった。魔王核が現在も機能しているのなら、複数の魔王が破壊者ルティヤの胃袋にいる。

「わざわざ魔王を再誕させようとは思っていませんわ。魔物を導くのは皇帝であるべきなのですから。勇者に敗死させられた魔王如きでは、増えに増えた人類を滅ぼせませんわ。魔物を導く、真なる帝王は貴方様です♥︎」

 レヴェチェリナの宿願は魔帝降誕。魔王は滅ぼされ、冥王は魔物を見捨てた。王に捨てられた民は新たな皇帝を推挙する。

 魔王を喰い滅ぼした災禍の破壊者。勇者の願いを叶えた深淵の怪物。人間でも魔物でもない。だからこそ、人間にも魔物にもなれる。

 黒蠅の帝王に受肉したベルゼフリートは、見晴らしの良い祭壇から周囲を見渡す。

 魔物が蠢く朽ち果てた帝殿。レヴェチェリナの呼びかけに応じた魔物達や妖魔兵が魔帝を見上げている。

 魔帝は魔物に新たな権能を授ける。生物が持つべき本能。創造主に殺戮を命じられた魔物には与えられなかった欲望。他者を欲する情愛の心。

「薄れていく。なぜ僕の身体から魂が抜け出る⋯⋯?」

 魂が逃げだそうとしている。魔帝は不思議そうに首を傾げた。

「まだ反魂妖胎はんごんようたいの祭礼は終わっておりません♥︎ 陛下の魂を魔物の肉体に定着させる♥︎ 捨て去った器との決別♥︎ 私を犯し、孕ませてください♥︎」

 魔に堕ちる。必要なのは意思だ。無理強いではなく、己の自由意志で選択させる。

「私は祭礼の供物でございます♥︎ 陛下が私を辱めたとき、身も心も魔物となれますわ♥︎ さあ、贄をお受け取りくださいませ♥︎」

 全裸の魔女は魔帝を誘惑する。過去の転生体だったら誘惑を撥ね除けたはずだ。しかし、ベルゼフリートは違う。一年前の今日、敗国の女王を強姦した少年。泣きじゃくり、抵抗するセラフィーナを犯した邪悪な征服者だ。

「――んあぁっ♥︎ あぁっ♥︎」

 魔帝はレヴェチェリナの乳房を鷲掴む。祭壇に投げ飛ばし、荒々しく股を開かせる。魔女の膣穴は薄らと肉膜は張っていた。

 自慰で傷つけぬように守り続けた大切な処女膜。魔帝に奪われるための純潔。破瓜の流血をもって妖胎は成される。

「いぃっ♥︎ 痛ぎぃっ♥︎ あぁ⋯⋯あぁっ⋯⋯♥︎ ふぎゅぅっ⋯⋯♥︎ 破れるぅっ♥︎ あぐぅっ⋯⋯♥︎」

 魔帝の男根が魔女の処女膜を突き破った。

「はぅっ⋯⋯あぁ⋯⋯ぁ⋯⋯♥︎」

 祭壇に穢れた血が流れる。ずぶりと膣穴に沈んだオチンポは子宮へと侵入する。

「――温かい」

 レヴェチェリナの体温が伝わってくる。知るはずのない母親の温もり。魔帝の脊髄はリュートの屍骨で形成された。血肉の一部にもリュートの肉体情報が混ざっている。

「懐かしい胎の心地。許されざる禁忌。僕の魂が欲している」

 魔帝は気付いた。レヴェチェリナの子宮はセラフィーナの複製。すなわち、リュートを産んだ胎だった。擬似的な母子相姦。九年前の再現を目論んでいる。

「あぁ♥︎ んぅ♥︎ んぁああああぁ⋯⋯♥︎ 陛下の貴き胤が子壺に注がれているわぁっ♥︎ くぅふふふふふふっ♥︎ 孕むっ♥︎ 魔の堕とし子をお授けくださいっ♥︎」

 歓喜の涙を流すレヴェチェリナは叫んだ。微笑を浮かべた魔帝は冷めた声で囁いた。 

「抱き心地は悪くないね。――でも、君からは嘘吐きの匂いがする。僕は嘘吐きが嫌いだ」

 爪を立てた皇帝はレヴェチェリナの皮膚を引き裂く。膣内に射精はしてくれた。しかし、不興を買ったのは事実だ。

「あぎぃっ!? んぁっ♥︎」

 後宮に入れられたばかりの頃、セラフィーナが踏んでしまったベルゼフリートの地雷。メガラニカ帝国の幼き皇帝が嫌うのは嘘吐きだった。

「必死に騙すことだね。騙し通せればそれも真実。でも、露見したときはどうなるかな? 愉しみにしておく」

 爪先に付着したレヴェチェリナの血を嘗める。

「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ んぃっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ ♥︎あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あう゛んおぉ♥︎ んぅぅぅぅうぅぅぅぅぅううううううっ~~♥︎」

「欲しい? いいよ。好きなだけ孕ませてあげる。産みたいのなら頑張って」

「んぁ♥︎ あんっ♥︎ ご主人様ぁっ♥︎ んぁっ♥︎ んぁああああああ⋯⋯っ♥︎」

 魔帝と魔女が交わす言葉に聞き耳を立てている者がいた。反魂妖胎はんごんようたいの祭礼を近くで見守るピュセルだった。

「⋯⋯⋯⋯」

 帝都アヴァタールに顕現した分身を操りながらでは本体の意識が散漫となる。しかし、魔帝の囁きをしっかりと聞き取っていた。

(へえ。面白いわ。魔帝は魔物の思考が読み取れるのかしら? レヴェチェリナはか⋯⋯。魔物ではあるけれど、出自が私達と異なる存在。途中まで歩む道は同じでも、目的地が違うかもしれない)

 今すぐに行動を起こす気はなかった。魔帝を喚べたのはレヴェチェリナの功績だ。ピュセルも手を貸したが、メガラニカ帝国の闇に潜んでいた魔女がいなければ、魔帝降誕はありえなかった。

(まあいいわ。とりあえずは籠城の備えを固めておかないといけない。皇帝ベルゼフリートの魂魄を盗まれた以上、メガラニカ帝国の女仙は攻めてくるわ)

 ピュセルは胸部を触れる。帝都アヴァタールに顕現させた分身体は、レオンハルトが放った一閃で心臓を貫かれた。

 分身が倒されようと本体は無傷だ。しかし、精神的には敗死を意識させられてしまう。

(私の生命核は心臓部にある⋯⋯。分身体の胸部が貫かれたのは偶然? いいえ、そう思ってはいけないわ。相手は救国の英雄アレキサンダーの孫娘。侮りは命取りになるわ。おそらくは歴代最強の当主。勇者を除けば大陸最強の人間に違いないのだから)

 ピュセルは深い眠りに落ちた魔帝へ視線を向ける。新たな可能性を秘めた魔物の希望。魔帝の瘴気はピュセルをさらなる進化を与えてくれるはずだ。

「ふふっ⋯⋯! 長生きはするものね。人類と魔物。破壊者ルティヤの御心はどちらに傾くかしら?」

 ピュセルは今の状況を心の底から愉しんでいた。

「――まだ人間側にも勝ち筋はあるわ」

 レヴェチェリナの計画は一部が失敗した。

 魔帝の降誕は果たせたが、二つの器による魂の奪い合いは綱引き状態。本来であれば魔帝が唯一の器となり、人間の器は衰弱死する予定だった。

 当初の目論見は外れた。最愛の三皇后さえ遠ざければ、皇帝ベルゼフリートを寝取れると思い込んでいた。

 女王セラフィーナは反魂妖胎はんごんようたいの祭礼を発動するトリガー。それ以上の価値はないはずだった。

 所詮はベルゼフリートが戯れで愛でている愛妾。破壊者ルティヤの荒魂を繋ぎ止める楔になろうとは思わなかった。

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