2024年 9月20日 金曜日

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【166話】御守りの鬼札

NOVEL亡国の女王セラフィーナ【166話】御守りの鬼札

 公爵家の眠り姫と揶揄されるブライアローズ・アレキサンダー。

 彼女には二つの異能力スキルがあった。

 一つは言わずと知れたアレキサンダー公爵家の血統異能〈次元操作〉である。

 もう一つは父方の遺伝で発現した霊媒の体質。すなわち、先天的な精霊使い。

 同じ父親を持つ七女のキャルルは、多種多様な戦闘精霊を使役し、一般的な精霊術式にも精通する。だが、ブライアローズは一点特化。生来の守護霊〈夢羊〉しか操れない。

 ブライアローズの守護精霊〈夢羊〉は異界を創る。

 霊障夢幻結界〈夢の世界ドリーム・ワールド〉。

 創りあげた異界領域は夢の主が想像した世界。敵を捕らえる悪夢の牢獄ともなれば、護衛対象を避難させる桃源郷ともなる。

「しばらく宰相閣下は出さなくていいや。働け働けって小煩いし、他にも敵が出てくるかもしれないもんね⋯⋯。ふぁわぁ⋯⋯。この椅子。誰も見てないから座っちゃお。はぁ。座り心地いい。議長の椅子⋯⋯。昼寝するには最高かもぉ⋯⋯」

 夢幻の獄にキュレイを堕としたブライアローズは、無人になった議事堂でくつろぎ始める。バレないのをいいことに、帝国宰相の議長椅子に座ってみた。

「外がちょっと騒がしいけど、キャルルちゃんに任せればいいや。私の仕事は宰相閣下の護衛。ここでのんびりしよ」

 帝国宰相ウィルヘルミナやその他の人々は安全な異界に匿っている。牧歌的な平原が広がる穏やかな夢に運んだ。

 一方でキュレイを堕とした悪夢は悪夢の亡羊ナイトメア・シープが湧く処刑場。

 不死身の化物羊は獲物を死ぬまで嬲る。たとえ牛頭鬼の覇者たるキュレイだろうと殺せないものは殺せない。

 弱者を絶対に守護し、弱者を絶対に確殺する。夢のように理不尽な異能力であった。

「久しぶりにお仕事した気分。今晩はゆっくり眠れそう。はふぁわぁ~」

 この場に年長の姉達がいれば殴られていただろう。気分ではなく、実際に数年ぶりの実労働だった。

 一日の大半を惰眠に費やすブライアローズは、帝国軍の仕事を任せられない。非常に有用な能力を持っているが、ほとんど役立てられていなかった。

 ――しかし、それ以前の大きな問題点。

 ブライアローズはに欠けていた。

 母親や姉達は典型的なアマゾネス族。子作りの相手を遺伝子で選別する。優秀な子を産ませてくれる男か否か。しかし、ブライアローズの価値観は母親や姉達とは大きく異なる。

「あとで皇帝陛下に褒めてもらおう。宰相閣下や国民議会の議員を守ったら勲章もらえるかも⋯⋯ふへへ⋯⋯。たっぷりお休みをとろう」

 ブライアローズが求める強さとは寛容性。家事をせず眠ってばかりの自分を受け入れ、大切に養ってくれる社会の成功者。姉達のように口煩く働けと言わず、甘やかしてくれる旦那。

 すなわち、皇帝ベルゼフリートこそ理想の結婚相手だった。

 長女のシャーゼロットはブライアローズを「寄生虫」「怠け女」「落伍者」と叱りつける。当主となったレオンハルトも優しくではあったが、諭すように仕事をしてみてはどうかと勧めた。

 ――断固拒否した。

 ベルゼフリートだけがブライアローズの怠惰を許容してくれた。というより、一緒にサボり始める始末だったので、女官総長ヴァネッサが二人を引き離した。

(誰が何と言おうと労働は絶対悪⋯⋯! 兵士だとか戦士だとか、物騒な暴力装置は暇なほうがいい。⋯⋯だって、平和が一番だもん。戦いなんて弱い人間がやること。本当に強い人間は戦う必要すらない。ついでに働かなくたっていい)

 極端な思考のブライアローズだったが、実力は七姉妹のなかでも指折り。寝不足でさえなければ、長女のシャーゼロットに匹敵する戦闘能力を誇る。しかしながら、本気を出すことはまずなかった。

 争いを好むのは弱者。真の強者は戦いを嫌う。

「はぁ⋯⋯。しぶとい魔物。どうせ死ぬんだから、はやく羊ちゃんに殺されてよ。戦うしか能のない弱者に生きる価値なんてない」

 悪夢の獄に堕ちたキュレイは悪夢の亡羊ナイトメア・シープに抗い続けていた。

 ◇ ◇ ◇

 凶魔の大斧で化物羊の猛攻を耐える。怪力頼りの魔物は多いが、キュレイは我流で戦闘技術を磨き続けた。武術と呼べる水準まで高められた業で、悪夢の亡羊ナイトメア・シープの暴力を受け流す。

(霊障夢幻結界⋯⋯! 異界領域への強制転移! 物の見事に引っかけられたな。術中に嵌まっていることすら気付かなかった。だが、詰みではないぞ。まだ私は生きている⋯⋯!)

 牛頭鬼の覇者は攻略の糸口を探った。

 魂の本質を見透かす赤瞳は、ブライアローズが想像した異界を解析する。

「周囲の環境は変わったが、私の肉体は変化していない。夢の世界⋯⋯。想像を具現化させた世界という割には不自由だ」

 キュレイが囚われた異界は魂の内側。謂わばブライアローズの心象体内だった。魂を見る瞳は真相に迫る。

(全てが思いのままなら、私をちっぽけな虫にでも変えて踏み潰してしまえばいい。だが、奴はできない。私の身体能力や装備は正常だ)

 化物羊の鋭利な爪先を間一髪で避ける。反撃は諦めた。攻撃を何度か叩き込んだが、効果はなかった。

 魂を見抜く赤瞳は、悪夢の精霊が不死身だと告げている。ならば、攻撃は疲労を招くだけだ。

「確信した。ブライアローズの能力には条件ルールは存在する」

 ブライアローズは嘘を言っている。発動条件の存在を強く否定したが、キュレイは信じなかった。

 理不尽極まる圧倒的な能力だが、必ず法則性はある。

(現実から持ち込まれた存在の本質は変わらない。ブライアローズが操れるのは、夢幻で生み出した空想のみ。つまり、想像力の制限がある。夢の主が想像できないことは、夢だろうと実現しないからだ)

 次にキュレイは怪物の正体に意識を向ける。

 悪夢の亡羊ナイトメア・シープは身体能力値が高い。牛頭鬼の剛力さえも跳ね返してくる。

(私を凌駕する膂力⋯⋯? いいや、こいつは獲物の力をわずかに上回るように設定されている。つまり、悪夢に堕とされた者を殺せる程度の力が宿る)

 牛頭鬼の赤瞳は人間の魂魄から真実を引き出す。

 キュレイはさらなる確信を掴んだ。ピュセルが教えてくれた人類社会での一般知識が活かされた。

「夢と羊⋯⋯! 人間の風習はピュセルから聞かされた。眠れないとき、人間は羊を数えるのだろう? 時間が経過すれば二匹、三匹、四匹と羊は増え続ける。喋り好きの戯れ言も馬鹿にはできないな」

 一匹なら凌げるが、複数になれば攻撃を受けきれなくなる。一刻も早く、この異界から脱出しなければ殺されてしまう。

「霊障夢幻結界の解除方法は、ブライアローズの意識を喪失させることか? もしくは羊の数が一定数に達すれば、維持が出来ずに結界が崩壊する⋯⋯? ちっ! どれも外れか⋯⋯!!」

 赤瞳で捉えているブライアローズの魂に変化はなかった。想像された異界領域にいるからこそ、魂魄の反応はよく見える。

(夢幻に囚われている限り、私は術者を直接攻撃できない。奴が疲労困憊で寝るまで耐えるのは⋯⋯論外だな。そもそも夢は睡眠中に起こる現象。ブライアローズの意識喪失が解除条件とは思えない)

 無限湧きの悪夢の亡羊ナイトメア・シープ。だが、これにも縛りが見え隠れする。追い詰められながらも、魔物の戦闘意欲は昂ぶる。

「くっくくく! やはり不自由だな。数万匹の羊を一斉に召喚し、私を数で圧殺してもよいはずだ。しかし、できないのだろう。羊は一匹ずつしか増えない。これも条件ルールの一つだ。貴様は常識に縛られている」

 威嚇する悪夢の亡羊ナイトメア・シープは、ブライアローズの感情を反映している。真実を言い当てられて不機嫌なのだ。

「攻略不可能、最強の能力に思える⋯⋯。だが、ブライアローズは帝国元帥レオンハルトに及ばない。帝国最強ですらないのだ」

 至極簡単な理屈だ。もしブライアローズの能力が完全無欠ならば、アレキサンダー公爵家の当主になっていたはずだ。帝国最強の称号を得ていなければおかしい。

「――霊障夢幻結界を破る方法は存在する」

 キュレイの大斧が空間を切り裂いた。夢幻の壁が破れている。

(レヴェチェリナは断言した。アガンタ大陸で最強の人間はアレキサンダー公爵家のレオンハルト元帥であるとな。狂気に取り憑かれた魔女だが、情報は信用できる)

 脱出の糸口が見えた。そもそも夢に堕とされたのなら、這い上がる出口がある。閉ざされ、隠され、誤魔化されているかもしれないが、一方通行はありえない。

 脱出不可能だとすれば、帝国宰相ウィルヘルミナや国民議会の議員はどうなるか。保護した人間を夢から出せないのは論外だ。状況証拠は物語っている。

「夢に堕とす発動条件は貴様が対象を認識していること。条件はあってないようなものだな⋯⋯。しかし、入り口と出口は同じ大きさだ。異能であれ、術式であれ、法理は存在する」

 魔物でありながら、牛頭鬼の覇者は理を説く。温存していた魔素を燃え上がらせ、大斧の刃先を炎上させた。

「緩すぎる発動条件は、脱出方法が簡易シンプルだと示している」

 堕とされた。それだけ入り口が広いのだ。

 ――ならば、脱出できる。

「もう一つ。貴様は護衛対象の帝国宰相ウィルヘルミナを夢幻に退避させた。他の人間達もだ。異界領域は複数存在している。敵を始末するだけでなく、味方を安全な場所に避難させられるわけだ」

 キュレイは最初からおかしいと感じた。とてつもなく便利な異能力だ。護衛をするのにこれ以上の力はない。

「――以上の推論に基づけば、やはり辻褄が合わない」

 たとえブライアローズが一日の大半を寝ているとしても、数時間は稼働できる。勤労意欲が欠如していようとも、それなりの結果は示せるはずだ。

 事実、ブライアローズは上位種の魔物であるキュレイを圧倒している。

「ご大層な異能を誇るブライアローズ・アレキサンダー。貴様が皇帝ベルゼフリートを護衛していない理由は何だ?」

 悪夢の亡羊ナイトメア・シープは凍りついた。夢幻の主が動揺したせいだ。飼い主の精神状態に強く影響される。

「答えは分かりきっている。夢幻の異界に皇帝ベルゼフリートを連れ込めないからだ」

 弱者を護り、弱者を嬲る。

 霊障夢幻結界〈夢の世界ドリーム・ワールド〉の本質。であるならば、強者はどうであるか。

「脆弱な人間は引き込める。帝国元帥レオンハルトや皇帝ベルゼフリートは夢に堕とせない。導き出される真実は一つ。貴様の霊力を上回る者を、夢には堕とせない」

 キュレイは己の血を燃焼させる。

 一時的に魔素を飛躍的に高める奥の手。通常状態の三倍まで魔素の濃度を高める。

 悪夢から逃れる唯一の方法。ブライアローズの魂が許容できない大きさのマナを宿す。己以上の存在を夢は受け入れられない。

 帝国最強のレオンハルトはブライアローズの全能力を凌駕している。基礎値が桁違いだった。

 一方で皇帝ベルゼフリートは破壊者ルティヤの転生体。外見上は矮躯だが、無限に等しいエネルギーを秘めている。大海の水を汲み上げるようなものだ。霊障夢幻結界に収まりきらない。

「私の魔素が貴様の霊力を凌駕した。――悪夢は覚める」

 キュレイは悪夢の亡羊ナイトメア・シープから逃れる。大斧で異界領域の壁を打ち砕く。魔素の刃が異界は脱出路を切り開いた。

 ◇ ◇ ◇

 現実世界に帰還したキュレイは、ブライアローズに斬りかかる。

 脳天をかち割ろうと振り下ろされた渾身の一撃。しかし、裏拳で弾き飛ばされた。

「おとなしく殺されていればいいものを⋯⋯。しぶとい魔物だわ⋯⋯」

「抑えていた肉体の魔素を解き放った。肉体の制限を外し、魔素を全開にすれば、貴様の霊力を上回る。約三倍といったところか?」

 壁際まで吹き飛ばされたが、キュレイに目立った負傷はなかった。

「⋯⋯⋯⋯」

「血が流れているぞ。化物染みた人間でも血は赤いのだな?」

 ブライアローズの手からは血が流れる。大斧を受け止めたと考えれば軽傷であったが、数年ぶりの手傷だった。

「ああ、そう⋯⋯。痛みで眠気が覚めてきた。少しだけ⋯⋯ね」

 床に落ちたブライアローズの血溜まりが沸騰している。魔物であるキュレイは思わず後退あとずさった。

「どの子を喚ぼうかな⋯⋯」

 恐怖からではない。人間の強さを認めたからこそ、脅威に備えた。この場において、化物とはアレキサンダー公爵家のブライアローズだ。

 牛頭鬼の赤瞳でブライアローズの魂を見定める。

「芸がないな。精霊召喚か? ここは現実だ。夢の世界なら不死身なのだろうが、ここでなら殺せるぞ」

「私の守護精霊は強いわ。だから、現実だろうと殺せはしないの。夢喰いの黄金羊ドリーム・イーター。とっても美しくて、可愛いでしょう?」

 不気味な夢羊が現実世界に召喚された。黄金色の羊毛は美しい。だが、造型は悪趣味。愛くるしさとは正反対の精霊が降臨した。

「魔物より不細工だ。貴様の趣味が悪いのは分かった」

「不細工な雌牛めうしひがみは聞き苦しい。魔物に女子の美的感覚は分からない」

「言ってろ⋯⋯!」

 大斧を構え直す。キュレイには時間制限がある。退魔結界が復活するまでがタイムリミット。魔素の残量にも気を払わなければならない。

「夢羊ちゃんはマナが大好物⋯⋯。普段は私の霊力が主食。他人の魔力や神力も口にしているわ。でもね、魔物は毒だから絶対に食べさせない。きっとお腹を壊しちゃうから。だから、削らせる」

「そうくるだろうな。私の魔素を減少させ、再び〈夢の世界ドリーム・ワールド〉に堕とす。そういう腹積もりだろう?」

「それだけじゃない。アレキサンダー公爵家の次元操作、体験させてあげるわ。やっと頭が冴えてきた⋯⋯!」

 その刹那、キュレイは空間の膨張を目撃する。

 ブライアローズの次元操作はレオンハルトを除けば、七姉妹で最も優れている。睡眠不足時に安定性が欠ける点を無視すれば、出力と精度は歴代のアレキサンダー公爵に匹敵する。

「くぅっ! 発動速度が速いなっ!!」

 かろうじて回避する。予備動作なしで起きた次元断裂は、議事堂の床を割っていた。

 キュレイが避けられたのは、場数を踏んだ経験によるところが大きかった。考えるよるも先に身体が動いていた。

(召喚された精霊が消え――後ろにいる! くそっ! 挟み込まれたか!! 受け止め⋯⋯いや! 避けなければ死ぬ⋯⋯!!)

 夢喰いの黄金羊ドリーム・イーターが眩い光弾を発射する。恐るべき威力だった。議事堂に激震が走る。

「逃げないでよ。外れちゃうでしょ?」

 追撃の次元断裂が空間を走る。両脚に魔素を集中させ、天蓋に吊されたシャンデリアを掴んだ。上方へ逃れて、乱れた呼吸を整える。

(何だ。あの威力⋯⋯? 次元断裂はともかく、黄金の化物羊が放つ光弾の威力も桁違いだ。直撃したら防御を固めても一発で消滅しかねない)

 光弾を受け止めない判断は正しかった。超高密度の破壊力。直撃すれば生命核ごと消滅しかねない。

「どういう原理だ? なぜ私以下のマナしか持たない人間が、あれほどの攻撃出力を⋯⋯。瞳術で仕掛けを解析してみるか」

 牛頭鬼の赤瞳で魂に刻まれた異能を読み解く。

(なんというエネルギーの余波だ。⋯⋯議事堂を吹き飛ばす気か? いや、こんなのは浪費だ。すぐに霊力が枯渇するはず⋯⋯いや、まてよ。奴自身の霊力は減少していない。むしろ増加している⋯⋯!?)

 次元操作のド派手な攻撃。さらに精霊召喚の代償。ブライアローズは霊力を消耗しているはずだった。にもかからず、霊力は増大している。

「見えたぞ。エネルギー源は破壊者ルティヤの瘴気。皇帝のマナを食わせているのか⋯⋯! 通りで枯れ果てぬはずだ⋯⋯! 黄金毛の羊は外付けの霊力炉だな?」

 女仙ブライアローズに霊力枯渇はない。

 霊力炉の機能を果たす夢喰いの黄金羊ドリーム・イーターは、皇帝ベルゼフリートのマナを日常的に摂取している。

 天空城アースガルズの動力炉と同じ原理だ。無限のエネルギーを注ぎ込み、溜め込んで運用する。女仙化した際に、ブライアローズが身に着けた新たな能力だ。

「次元断裂を避けたのは褒めてあげる。私よりも戦い慣れているわ」

 圧倒的な戦闘能力を誇るブライアローズだが、たった一つだけキュレイに及ばないものがある。それは戦闘の経験値。死線を掻い潜った場数だ。

「対人戦に慣れているわ。お前は人間をどれだけ殺しているの?」

 相手が戦士なら褒め讃えるべきだ。だが、魔物となれば違う。

 キュレイが戦いを生き延びた数だけ、人間の犠牲者がいるのだ。怠惰なブライアローズだが正義感はあった。

「殺した人間を数えているような性格に見えるか?」

 残忍な笑みを見せたキュレイに対し、ブライアローズは吐き捨てる。

「ああ、ごめんなさい。数を二桁以上は数えられそうにない低脳な魔物だった。配慮が欠けてたわ」

 キュレイは天井を蹴った。攻撃を掻い潜り、大斧で挑み続ける。

「どうした? どこを狙っている? 全て見ているぞッ!!」

 基礎的な能力値で劣っていようと、戦闘経験の差が埋めてくれる。ブライアローズが放つ一撃必殺の攻撃を見切り続けた。

 次元操作の刃は的確に襲いかかってくる。だが、狙いは読みやすい。座標固定による不可避の攻撃でさえ、ブライアローズの処理能力を上回る速度で動けばいい。

(――攻撃が若すぎる。先読みできれば当たりはしない!)

 神懸かり的な立ち回りだった。死角から襲いかかる夢喰いの黄金羊ドリーム・イーターを後ろ蹴りで仰け反らせる。

(ちっ! 相手が普通の人間なら内臓を破裂させる威力だというのに⋯⋯!)

 手応えは薄いが攻撃は効いていた。少なくとも不死身ではない。

(戦闘訓練は積んでいるのだろうが、実戦経験の少なさは致命的だ。的確な攻撃は模擬戦で培った浅い技量。上手ではあるさ。しかし、翻せば読みやすい。死角を狙うのもそうだ。来ると分ければ、見ずとも対処してみせよう!!)

 今までブライアローズは苦戦と無縁だった。絶対強者だからこその弱さ。ブライアローズは姉妹との模擬戦でしか敗北を経験していない。

 その戦いも所詮は練習試合。命を賭けた殺し合いではなかった。

「才能の持ち腐れだな。本物の狩りを教えてやる――百鬼牛刀!」

 キュレイは肉体の血液を燃やし、魔素が最高濃度に達する。煉り上げた魔の力を大斧に注ぐ。

 一瞬の隙を突き、一撃で仕留める。格上の相手を倒すにはそれしかなかった。

 主人を守ろうと夢喰いの黄金羊ドリーム・イーターが光弾を吐いた。膨れ上がったキュレイの両脚は音速を超え、光弾の射線ぎりぎりを駆ける。

 次元操作の狙撃をフェイントで躱す。外れない攻撃であろろうと狙いが間違っていれば、恐るるに足らずだ。

(マルファムを翻弄した不可避の攻撃か。そんなのは見切っている。最初に的を指定できなければ無意味! 貴様の眼は私の動きを捉えられていないっ!!)

 ブライアローズの座標固定は正確だった。しかし、帝国最強のレオンハルトに比べれば発動速度が遅かった。

 キュレイの戦闘技法は熟達の極みにある。数千人の武人を敗死させて掴んだ真なる強さ。

 魔物の矜持はアレキサンダー公爵家が誇る次元操作を翻弄した。

「――その首、獲った!」

 大斧の刃がブライアローズの首筋に迫る。だが、キュレイは違和感を覚えた。肌を突き刺す霊力の波長。そして原因に思い至る。

(ブライアローズの霊力総量が膨れ上がっ⋯⋯!?)

 当初、ブライアローズは消耗した霊力を回復していると考えた。しかし、間違っていた。戦い始めたときと比べて、四倍以上に増長を遂げた。

「お前は私の霊力総量を下回った。これが何を意味するか分かる?」

 現実から異界領域への強制転移。世界が塗りつぶされる。

 鼓膜をつんざくをおぞましい叫び。悪夢再来――待ち構えていた悪夢の亡羊ナイトメア・シープが鳴き声を上げた。

「魔物は眠らないから、二度寝の楽しみを知らないか。哀れで惨め。なんて可哀想の生き物」

 鋭い爪がキュレイの脇腹を切り裂いた。

「ぐぁっ⋯⋯んぎぃ⋯⋯! がはっ⋯⋯!! くそがぁっ⋯⋯!!」

 皮膚を貫通し、骨が粉砕される。主人の底意地悪さを反映した羊は高らかに笑っていた。

 キュレイに絶望を叩きつける。ご自慢の脚を潰し、逃走手段を奪い取った。

「――ようこそ、再び悪夢の世界へ」

 追撃から逃れようとするが、背後の一撃でキュレイの脊髄を砕かれた。二匹目の悪夢の亡羊ナイトメア・シープが出現していた。

「ばかなっ⋯⋯。なぜ⋯⋯? うぐぅっ⋯⋯!!」

「寝起きは弱ってるから⋯⋯。完全に目覚めた私の霊力総力は約四倍に跳ね上がる。貴方は戦闘中、私の霊力を下回らないように意識しながら戦った。魔素の節約。それは正しい。でも、時間を使いすぎ」

 悪夢の亡羊ナイトメア・シープはキュレイの下腹部を突き刺す。生命核を破壊しようと八つ裂きにしてくる。ひとしきり内臓を切り刻まれ、核が他の部位にあると勘付かれてしまった。

「はがぁ⋯⋯! ぐぅっ⋯⋯あぁ⋯⋯!! うぎゅぅぅぅっ!?」

 致命傷を負ったキュレイは大斧を手放さない。キュレイの武器は彼女が触れている間は、絶対に破壊されない。だが、肘を切断されてしまった。凶魔の大斧が砕け散った。

「お前に短期決戦以外の勝ち筋はなかったわ。魔素の消耗を抑制しなければ、私に少しは手傷を与えられたかもね。結果論に過ぎないけれど⋯⋯。現実は悲惨。今度こそ死ぬわ」

 キュレイは実力差を思い知る。まだ心のどこかでアレキサンダー公爵家の力を侮っていた。

 たとえ経験が不足していようと、天才は軽々と努力した凡才を捻り潰す。

「魔物のくせに人間を賢しげに真似るからそうなる。畜生以下の魔物に理屈なんかいらない」

 叩きつけられ、頭蓋が割れた。魔素で肉体を回復させているが、二匹の化物羊はキュレイの破壊を続ける。

「頭部に核がある。頭蓋骨を割れば破壊できそうだわ」

 大脳に隠した生命核を嗅ぎつけられてしまった。何度も執拗に頭を踏みつけられる。頭蓋が砕け散るのは時間の問題だった。

「獣は獣、塵は塵、屑は屑。さようなら。身の程知らずの下等生物さん。議事堂を破壊したの、貴方のせいにしたいから最期に名前を教えてくれる?」

「死ね⋯⋯」

 キュレイは死を覚悟した。自分はマルファムと違う。しかし、それは驕りだった。廃都ヴィシュテルで見送ってくれたピュセルの警告を思い出す。

「答える気はなさそう。牛頭の雑魚魔物って報告しとこ。殺しちゃっていいよ」

 ブライアローズは悪夢の亡羊ナイトメア・シープに処刑を命じる。悪夢から一度でも脱出させてしまったのは油断。だが、二度目は許さない。

 牛頭鬼の覇者は惨死する――はずだった。

「――あはっ♪ こんにちは」

 霊障夢幻結界〈夢の世界ドリーム・ワールド〉が崩れ散った。

「⋯⋯⋯⋯ッ!?」

 キュレイが懐に忍ばせていた護符から青髪の美少女が現われる。二本の角を生やした愛らしい容姿で微笑みかけた。

「へえ。これが帝都アヴァタールの国民議会議事堂! すばらしいわ! 栄大帝が凝りに凝った彫刻真珠式の大装飾! グラシエル大宮殿に及ばないと言われてるけれど十分に優美ね」

 キュレイの血を吸い込んだ護符が蒼白い炎で燃えていた。乱入者を前にしてブライアローズは無言だった。死にかけのキュレイも驚きで言葉を失っている。

「もしかしてタイミングが悪かった? ごめんなさい。私、ホラーは苦手なの。だから、この夢は壊しておくね。キュレイも嫌がってるわ」

 神食いの羅刹姫ピュセル=プリステスは突如として議事堂に顕現した。

「どうせ夢を見るのなら楽しい夢を見たいわ。私、魔物だから夢を見たことがないの」

 指を鳴らす。半壊状態の悪夢を止めの一撃で解体した。キュレイを甚振っていた悪夢の亡羊ナイトメア・シープが消滅していく。

「これでよしっと!」

「⋯⋯⋯⋯」

 ブライアローズは距離を取った。護符の発動とともに出現した新たな敵。無言で睨みつける姿は、普段の彼女からは想像もできない。その眼には驚愕と憤怒が滲んでいた。

「えっと、初めましてだから、まずは自己紹介? 私はキュレイのお友達だよ。それとね。魔物の進化を探求している求道者。これはちょっと気取った肩書きかも? ねえ。お嬢さんのお名前を聞かせてくれる? そしたら私も名前を教えるわ」

「⋯⋯⋯⋯」

「黙ってたら分からないよ? 私はキュレイと違って便利な眼を持ってないの。ねえ。話し合いをしよう。人間さんと交流したい。楽しくお喋りをしましょうよ」

「⋯⋯⋯⋯」

 ブライアローズは無言を貫いた。

 眠気は消し飛んでいる。本気を出すのは生涯で二度目。レオンハルトがアレキサンダー公爵家を出奔し、暫定で次期当主を決めると言われたとき以来だった。

(――全身全霊で殺す)

 この怪物には全力で挑まなければならない。ブライアローズの本能は告げていた。

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