ルキディスは自白剤を投与したシルヴィアから全ての情報を聞き出した。
喜ばしいことが2つ判明する。憲兵と警備兵は、娼婦失踪を重大な事件と考えていなかった。もう1つはシルヴィア・ローレライが孤児の生まれで家族がおらず、恋人などもいないことだ。
特に憲兵団の動きは鈍重で、捜査に積極的ではない。娼婦失踪を重大事件と見做していないのは明らかだ。娼婦がこれ以上消えなければ、事件として捜査されることは無さそうだ。
シルヴィアは孤児である。幼いころに流行り病で両親を亡くしており、家族や親類はいない。育ての親だった孤児院の修道女は1年前に死んでいるので気にする必要はない。
恋人がいればシルヴィアに化けて、その恋人を手酷く振る必要があった。けれど、意外なことに恋人はいなかった。シルヴィアという女は、色恋よりも職務一筋な生き方をしてきたようだ。
娼婦の行方を追っていたのは、目覚ましい成果を上げて騎士の称号を得たいという彼女の野心が影響していたらしい。
実際、着眼点は悪くなかった。ルキディスの家まで辿り着いたシルヴィアの捜査能力は優秀である。しかし、功を焦るあまり一人で突っ込んでしまったのが運の尽きだ。
「優秀ではあるが、少し抜けてるな……」
憲兵や警備兵が捜査をしたとしても、ルキディスの家には辿り着けないように情報をばら撒いていた。けれどもシルヴィアは探し当てた。
警備兵としての資質、騎士になるという強い執念、そして運が味方して、シルヴィア・ローレライはルキディスの家に辿り着いた。
彼女の過ちはたった一つ。単独で動いたこと。それに尽きる。シルヴィアが上司や同僚に逐次、捜査の状況を報告をしていれば、ルキディスは手を出しづらかった。
さらに言えばシルヴィアが誰かと組んで、複数人で捜査をしていれば、このような状況に陥ることは絶対になかった。
全ては手柄を独り占めしたいというシルヴィアの野心が招いた失敗だ。騎士になりたかったシルヴィアは誰よりも成果を求めていた。その貪欲さが破滅を招いた。
「家族なし、親しい親類なし、恋人なし。これなら何もせずとも大丈夫だな。シルヴィアは、仕事ばかりしていたようだ。友人関係は職場の同僚に限定されている。いなくなっても騒ぐ人間はいないはずだ。……しかし、アマンダ・ヘイリーは不味かったな。入れ込んでいる常連客が、憲兵に捜索願(そうさくねがい)を出しているとは……」
「どうされます? その常連客、病死に見せかけて殺しておきましょうか?」
シェリオンの提案を、ルキディスは却下する。
「いいや。放っておこう。憲兵団は本気で動いていない。数ヶ月すればその男は別の娼婦を追いかけるようになる。余計なことはせず様子見だ。この1ヶ月間で娼婦を14人も使い潰してしまった。娼婦を買うのに使っている仲買人は、口が固いし、金さえ払っていれば割り切ってくれる奴だ。しかし、今後はどう動くか分からない。使い続ければリスクが増大する。娼婦を買うのは打ち止めだな」
――尋問を終えた後、シルヴィアは黒い部屋に運び込まれた。
シルヴィアの身体は清められ、汚れ一つ残っていない。シェリオンが丁寧に細部まで、それこそ爪の間まで洗ったからだ。自白剤を注入された際、溢れ出した体液は運び込む前に洗い流してある。
黒い部屋の中央には大きなベッドが置いてあり、シルヴィアは仰向けで寝かされていた。自白剤が身体から抜けきっていないため、意識が覚醒していない。
薬の副作用である体液の異常分泌は収束しつつあるが、膣からは愛液が滴っていた。
この黒い部屋は、白い部屋と同様に地下室の異空間にある。白い部屋は尋問を行う部屋だ。そして今いる黒い部屋は冥王にとって重要な儀式を行う部屋であった。
「シルヴィアから聞き出すことはもうない。となれば、後は試してみるだけだ」
冥王と交わった人間の雌は、冥王の瘴気と魔素によって汚染されてしまう。転生して眷族となるか、単なる繁殖母体となって死ぬまで子を生み続けるかは、適性を持つかどうかで決定する。
こればかりは、やってみなければ分かりようがない運要素だ。
眷族となってくれれば、人間から強力な魔物へと変異する。冥王の従順な下僕となり、冥王の子を産み、そして冥王を守る最強の守護者となる。しかし、眷族化に成功した者は今のところ4人のみだ。
苗床は死ぬまで子を産んでくれるが、自我を失ってしまうので人格は消えてしまう。聞きたいことがあっても、苗床化しため雌からはもう何も聞き出せないのだ。扱いは家畜と等しい。苗床は冥王から子種をもらって、下級の血族を産む存在でしかない。
「この子、オッパイが大きいニャ。僕よりは小さいけど、サロメくらいのバストサイズあるニャ。警備兵の革鎧を着ている時は気づかなかったけど隠れ巨乳ニャ!」
ユファは、シルヴィアの乳首を指先でツンツンと弄って遊んでいる。
「巨乳説はないと思うんだがな……」
「僕は冥王陛下に新説を提唱するニャ。ずばり! 巨乳処女説なのニャ!! 今まで眷族になった4人は、巨乳以外に共通点があったニャ。それは処女だったことニャ!!」
「それは……、関係あるのか?」
「あるニャ! あるに決まってるニャ! 処女信仰って言葉があるくらい処女は特別ニャ!!」
「処女であることが条件だとすると優秀な雌を眷属化するのが難しくなる。できれば、俺としてはそうあってほしくない……」
冥王としては処女に特別のこだわりがない。というより、条件なんて無い方がよかった。
今までに作った4人の眷族は、冥王を遥かに上回る最上級の魔物へと生まれ変わった。シェリオンは奴隷メイドで、ユファは奴隷の踊り子でしかなかった。しかし、眷族化した後は一流の騎士を瞬殺できる凶悪な魔物となった。
無条件で人間の女を眷族にできるのであれば、冥王は最強の軍団を作れていただろう。
処女であることが条件だとしたら、それは凄まじく厄介なのだ。仮にユファの言う巨乳処女説が事実だとすれば、苦労して捕獲した女が非処女なら眷族にできないことになる。
「ユファの言っていることが正しいかは、試してみれば分かることです。シルヴィア・ローレライには処女膜があります。男を知らない乙女であることが眷族化の条件なら、彼女は眷族化するはずです」
「娼婦は非処女だったが、今までも処女で試したこと何度はあった。仮にシルヴィアが眷族化したとしても、処女が条件だとは確定できない。もっと試行回数を増やさなければ眷族適性の条件を見つけるのは無理だろうな」
サピナ小王国でルキディスは100人の貴族を使って眷族を作ろうとしたことがあった。
革命で処刑するはずだった貴族の妻や娘、愛人などから見込みがありそうな100人を選抜して試した。けれど、その全員が苗床化してしまった。苗床化した女の中には、もちろん処女も含まれている。
魔素の浪費とまでは言わないが、冥王にとっては残念な結果だった。苗床も魔物を増産するという意味では必要な存在だ。下級血族を産む繁殖母体を大量に作ることができたが、1人も眷族化しなかったのは予想外だった。眷族化の困難性が判明し、少なからずショックを受けた。
「それじゃ、気付け薬でシルヴィアの意識を呼び戻すニャ。ルキディスは臨戦状態になってるニャ?」
ルキディスは自らの生殖器をいきり勃たせる。雌に種付けするのが冥王の権能だ。目の前に雌がいるのなら、いつ何時でも種付けをすることができる。
「お望みでしたら、私の口で準備運動をしませんか?」
シェリオンの口調は提案というよりも強請っている感じだった。自らの誇る爆乳をルキディスに押し付け、発情した雌のように媚びてくる。
「いや、準備運動じゃなくなる可能性が高い。夜に相手をしてやるから今は我慢しろ」
残念そうな顔でシェリオンは引き下がった。それでも勃起したルキディスの男根を物欲しそうに見詰め続けていた。