ネタばれありなので注意(‘Д’)
結論から先に述べると、素晴らしいアニメ映画でした。
平日真昼間に意気揚々と映画館に赴き、階段でポップコーンを盛大にぶちまけて係員に平謝り。「よろしければ代わりのポップコーンをご用意しましょうか?」と気遣われたものの、既にLサイズのポップコーンは半分近くを胃袋に収容済み。そもそも溢したのは己の過失なわけで、謹んで辞退して映画鑑賞に臨みました。
映画はトガシ君と小宮君のW主人公。少年時の声は親の声よりも聞いた種崎敦美さんと悠木碧さん。青年時の声優は俳優になると聞いていたので不安でした……いい! 実によかったです。いわゆる話題目的の起用ではなく、実力とキャラに見合う良質な演技でした。TBSが制作に協力しているらしく、実況や取材シーンも本物のアナウンサーが演じているようで、陸上競技のリアル感がひしひしと伝わってくる。
原作の漫画は『チ。』で知られる魚豊さん。私が魚豊さんが作るキャラクターの台詞が好きです。人生を燃やし尽くしている。どういう人生を送っていれば、あんなキャラを生み出せるのだろう。漫画家として成功されているけど、ドラマや映画の脚本・原作を手掛けるべき人材だったという気がします。日本は優秀なクリエイターの漫画やアニメに引き寄せられる傾向がある。そんなことを考えてしまう。
――100メートルを誰よりも早く走れば、全部解決する。
小学校時代のトガシ君は超然としていました。天才児の走り。全国の小学生で一番早い。中学校でも負けなしとなれば、そりゃあね。と思っていました。高校で陸上を辞めかけたものの、潰れかけの陸上部を復活させる青春劇。ここを原作と大きく違うらしいです。実は漫画は未履修。ワンクールアニメでしっかり見たくなりました。
トガシ君がこのまま成功する物語かと思いきや、小学生時代に走りを教えた小宮君に打ち負かされる。まさに完敗。陸上で得たものは陸上で失う。それが怖いなら0.0001秒でも勝ち続けるしかない。高校時代は1年時の敗北で締めくくられ10年後に場面転換。けれども高校時代の3年間、小宮君に勝てなかったことがよく分かりました。
青年編では超然としていたトガシ君が愛想笑いを浮かべる社会人に……。痛々しい。現実を突きつけられた元天才児。転落した惨めな気分を見せつけられます。陸上のPRポスターで花形を務めるのは小宮君、そして王座に君臨し続ける財津選手の二人。小学校、中学校で持て囃されたトガシ君は過去の人扱い。……マジで辛い。
周囲から侮られてるわけじゃないのが、本当にね。後輩達からは慕われてるし、「指導者やコーチになれば、そこそこ満足感のある人生を送れるかも?」と思わせられる。なんせ新人選手が「トガシさんの走りに憧れて陸上を始めました!」と握手を求めてくるんだもん。逃げたくもなる。
そこで刺さったのが万年2位に甘んじてきた海棠選手の言葉。「現実が何かわかってなきゃ、現実からは逃げられねえ」現実逃避にも種類がある。目を開けて直視しつつ逃げるのと、目を瞑るのはまったく違う。
――例え周りがどんな正論、洞察、真理、啓蒙を振りかざそうと、俺は俺を認める
ずっと財津選手に負け続けた海棠選手が言うから説得力がある。全盛期を過ぎたとはいえ、年上の海棠選手が財津選手を打ち負かして、引退させるシーンには痺れました。準決勝の競技中、海棠選手が財津選手と小宮君に引き離され「これが現実か……」とつぶやき、敗北を感じさせた瞬間、反転して「現実から逃げようか!」と猛追し、見事に1位を掻っ攫う。
陸上の王座に君臨し続けた財津選手が決勝進出できずに敗退。ここは意外でした。海棠選手は当て馬だとばかり……。全盛期では財津選手の一強だったのだろうけども、最後の最後に勝つ執念は……もはや狂気でした。理屈と正論を積み重ねたうえで「そんなの知るか!」と駆け抜ける海棠選手は魅力的でした。
挫折を味わい、思い悩みながらも、本来の調子を取り戻したトガシ君。誰よりも100メートルに人生を捧げた小宮君。この二人が決勝で競い合う姿でエンディング。良いものを見ました。
リマスター版「もののけ姫」を摂取した後にだったので、やや首は疲れましたが……本当に良かったです。



