気怠げな兎族の美少女は、砂浜に設置された特大のラウンジベッドで尻を上下に振っている。両手を添えてくれている少年は、動きに合わせて男根で子宮を突き上げる。
(はぁ⋯⋯。落ち着かない⋯⋯! いや、というか⋯⋯これは⋯⋯!!)
女官達が皇帝のために設営した巨大な天幕は、もはや御屋敷と呼べる代物だった。
一夜城を建築するかのような手早い土木工事で基礎を固めて、天井を支える柱が何本も立てている。整地済みの砂地は防水性の絨毯で覆われた。帝城ペンタグラムの豪奢な家具を運び入れ、何不自由なく暮らせる快適な空間が出来上がった。
たった一人の主君をもてなすための天幕では、男女の激しい営みが続いている。三皇后の後に呼び出されたのは、妃どころか、愛妾の地位すらなく、単なる側女のネルティだった。
(こんな格好をさせられるくらいなら誘いを断ればよかった⋯⋯! でも⋯⋯! やばぁっ⋯⋯んぅっ⋯⋯♥︎ んぁ⋯⋯♥︎ あんっ♥︎ そろそろくる⋯⋯っ♥︎ きたぁっ♥︎)
宮中諸法度で性器の露出は禁じられていた。しかし、例外はある。皇帝が所望している場合だ。
「ネルティはそろそろ限界かな? それじゃあ、僕も出しちゃうね?」
遊び相手になってほしいと呼び出されたネルティは、逆バニーガールの痴装でベルゼフリートとセックスしていた。
「あっ⋯⋯! あんっ⋯⋯! あうっ♥︎ あっ♥︎ こんな恥ずかしい格好で⋯⋯♥︎ あんひぃっ♥︎」
布地が覆うのは両手両脚と首元のみ。両肩から乳房、さらに股間をも丸出しにした逆バニー服の斬新なエロ水着は、セックスに最適化されたデザインだった。
(あぁ⋯⋯♥︎ やばい。この目付き、本気だ⋯⋯! 孕ませる気で射精してる⋯⋯。朝勃ちは三皇后が鎮めたのに、射精の勢いがちっとも弱まってない。底無しかよっ⋯⋯! こっちは流し込まれた精液で子宮が重たいってのに⋯⋯♥︎)
ネルティは細身の体付きで、バストのサイズは平均以下であるが、ヒップはそれなりにある。綺麗な曲線の美尻が、兎族の獣人らしく飛び跳ねる。極太オチンポで慣されたオマンコは、射精の残り汁を搾り上げた。
「あぁっ⋯⋯♥︎ んっ! くぅっ⋯⋯♥︎」
「オマンコの襞が絡み付いてくる。下のお口は積極的で助かるね」
「はぁはぁ♥︎ んぅっ♥︎」
可愛げのある惚け顔でネルティは絶頂する。強ばった女体から力が徐々に抜ける。跨がられたベルゼフリートは深々と突き挿したオチンポを力ませる。痙攣を繰り返す子宮に追い討ちをかけた。
「あぅっ♥︎ んっ♥︎ はぁはぁ♥︎ んくっ♥︎ はぁはぁ⋯⋯♥︎ ちょっとは優しく⋯⋯♥︎ んぁっ♥︎」
「僕は優しくしてるよ? ネルティのオマンコが強引に搾り取ってるんだ。僕のオチンポと離れたくないってさ」
皇帝の肉体から溢れた穢れを女仙が拭き取る。穢れ祓いの性奉仕は妃達の役目だ。ネルティは愛妾ユイファンの側女。後宮での地位は著しく低く、皇帝と言葉を交わすなど通常は許されない。そんなネルティが大勢の妃達を差し置いて、ベルゼフリートの伽役を務めている。
「ふぅっ♪ やっとイってくれた。騎乗位より正常位のほうが良かった?」
挿入中の男根がさらに締め上げられる。膣圧の高まりでベルゼフリートはネルティの悦びを感じ取った。恍惚とした淫悦な表情が愛らしい。
「はぅ♥︎ あんっ♥︎ セックスの体位は関係ないだろ。はぁはぁ♥︎ まったく⋯⋯! 三回はイかされてる⋯⋯♥︎」
わざとらしい荒い口調はネルティの照れ隠しだ。長い付き合いのベルゼフリートは気付いている。
「僕はその三倍くらい射精したもん」
「最近、セックスばっかりしてるだろ」
「僕は長期療養なんです~。廃都ヴィシュテルで大仕事があったのー」
「長期療養中で女を五人も十人も抱くもんかね」
「十回くらいの射精は平気になってきたんだ。もしかしたら、僕⋯⋯成長期かも! くすくすっ! これならいつかはウィルヘルミナにも勝てると思うんだ」
「へえ。で、身長は?」
「それはこれからだよ⋯⋯。たぶん⋯⋯」
「縮まないといいな」
「意地悪」
行為が一段落してもベルゼフリートはネルティを離さない。乳繰り合いながらピロートークに花を咲かせる。
(いつにもまして女官達の視線が痛い。人払いするくらいの気遣いが陛下にあれば⋯⋯。いや、帝城の寝所や離宮ならまだしも、ここでは難しいか)
十数人の女官達に見守られる中でのセックスは居心地が悪かった。
広々とした天幕は、狭苦しさを感じさせない。だが、突き刺さる視線のせいで背筋がぞわぞわする。
ベルゼフリートが皇帝に即位する以前、ネルティは専属の世話係だった。ナイトレイ公爵家で暮らしていた数年間、使用人のネルティはベルゼフリートの遊び相手だった。その関係は今も変わっていない。
「ところで、この人はずっと寝たまま?」
「うん。ベッドごと運んできた」
「いいのか⋯⋯?」
「気持ちよさそうに寝てるからいいじゃない?」
ベルゼフリートとネルティが騎乗位セックスに興じる真横で、気持ちよく惰眠を貪る金髪の美女がいた。
「となりでこんだけ騒いでるのによく寝てられるな」
「地上に降りてからは一度も起きてない。朝にシャーゼロットが鳩尾にパンチして、ルアシュタインが頰っぺを引っぱたいて、レギンフォードがデコピンしたけど目を覚まさなかった。僕らが何をしても寝たままだろうね」
アレキサンダー公爵家の六女ブライアローズは、ベッドの半分を占領している。
(これが噂に名高いアレキサンダー公爵家の超問題児か。元帥閣下の金緑后宮で引き籠もってるとは聞いていた。本当に何をしても起きないんだな)
過眠症のせいで軍務がこなせず、休職状態のくせに伽役はちゃっかり受けている。年長の姉達は怠惰なブライアローズに厳しい。しかし、駄目な妹をレオンハルトは見捨てられず、かなり扱いが甘かった。
「せっかくだからブライアローズのデカパイを触ってみたら?」
ベルゼフリートは手を伸ばして巨乳をぶるぶると弄んだ。眠れる美女は涎を垂らして笑った。幸せな夢の世界を謳歌しているようだ。
「柔らかくて、ひんやりしてるよ。揉み心地が最高なんだ。枕にもなるしね」
パジャマ姿のブライアローズは上衣が乱れている。むき出しの爆乳は七姉妹で一番の巨峰で、先天的に筋肉質なアマゾネス族の割りには贅肉が目立った。昼寝中のだらけきった牝牛だ。
「遠慮しとく。元帥閣下の妹君にセクハラする勇気は持ち合わせてない」
「揉むとネルティのおっぱいも大きくなるかもよ?」
「そんなわけあるか」
ネルティは無防備な美女に性的な悪戯をしたいとは思わない。ただ、ほんのちょっとだけ、ありありと存在感を示す爆乳が羨ましかった。
「冗談だよ。あっ! おっぱいを大きくしたいなら、ヴァネッサに頼む? 医術師免許持ちのショゴス式豊胸手術はすごいよ」
「それはやだ。ショゴス族に子宮を貸すつもりはない」
膨乳手術はショゴス族の肉体改造とセットだ。子宮を借り腹にされたいとは思わない。たとえロレンシアのように宮中最大の乳房を手に入れられるとしてもだ。
「そろそろ休みたい。オチンポを抜くから、そのまま⋯⋯♥︎ ちょっ、陛下! 動かないで⋯⋯♥︎ うぅっ⋯⋯ふぅっ⋯⋯♥︎ はぅっ⋯⋯あっ♥︎」
膣道に深々とめり込んだ巨根を外すべく、ネルティは中腰になって沈めていた下半身を浮かせる。射精を済ませたオチンポは萎えて縮んでいる。だが、反り返った亀頭のカリ首が引っかかり、オマンコの結合は解けなかった。
「え~。もう終わりにするの? もうちょっとやろうよ? あとちょっとだけ! ネルティは動かなくていいからさ。皇帝の僕が奉仕してあげる」
ベルゼフリートの指先がネルティの兎尾を撫でる。
「昼過ぎには黄葉離宮の女仙を呼ぶって自分で言ってたろ。その前に帰らせてくれ」
「ん? あれれ? まさか嫉妬しちゃった? セラフィーナに? それともロレンシア? まさかリアだったりして?」
「違う。皇帝陛下を独占しようだなんて思うか。一足先に戻って、ユイファン少将の夕食を作らなきゃいけない。側女には仕事があるんだよ」
アルテナ王国から帰ってきたユイファンは自分の離宮で静養中だった。往路の長旅で相当な疲れが溜まっていたため、今回の催事には参加していない。
「あー。そっか。ユイファンって家事できなそうだもんね。紅茶を淹れるのは上手だけど」
「紅茶の淹れるは家事に含まれないと思う。少将は後片付けがいい加減だ」
「ユイファンのお世話で苦労してるんだ。料理が得意な女官を貸してあげようか? いいよね? ヴァネッサ?」
控えていた女官総長ヴァネッサが前に進み出る。
「もちろんでございます。ユイファン少将は身重の御体。皇帝陛下の御子を宿しているのなら、お手伝いの女官を派遣できます」
「女官総長のご厚意には感謝しますがお断りしますよ。軍務省の陣地に女官を常駐させるのは問題があるので⋯⋯。どうしてもというのなら、元帥閣下かヘルガ妃殿下の許可を得てください」
「さようでございますか。人手が必要なときは遠慮なく、いつでも遠慮なくご相談くださいませ。女官がお力になりましょう」
「お気遣いどうも」
女官は皇帝直属の臣下。他の妃には従わない特権階級。皇帝の正妻である三皇后、そして皇帝の子供達にも女官は忠義心を向ける。しかし、あくまでも仕えるのは胎内に宿った皇帝の御子。治療は医務女官に頼むしかないが、身の回りの世話は自分の側女にやらせる。敵対する女官の手は極力借りない。それが宮中の常識だ。
「意地っ張りだよね。皆で仲良くすればいいのに」
「事情があるんだ。お互いに⋯⋯。んっ! ちょっ、と⋯⋯! いっ、まは⋯⋯抜いてるんだから抱き付くな⋯⋯! 引っ付いたら抜けないだろ」
「離れたくないのー! 抜かせないー!」
「ふう⋯⋯んっ⋯⋯! んゅ⋯⋯! あんっ♥︎」
ネルティは歯を食いしばり、腰に力を込める。ぢゅぷりと淫音が鳴る。膣穴から巨根が引き抜かれた。愛液の糸が垂れる。粘っこい精液は子宮にへばり付き、遅れて流れ出てきた。
「はぁ⋯⋯はぅ⋯⋯。これ全部、精液⋯⋯? ほんと⋯⋯出し過ぎだ⋯⋯」
「最近は調子が良いの。だからね? もう一回やろ?」
「やらない」
「ネルティの貞淑! 清楚! お淑やか! 節操あり!」
「それ。罵倒じゃなくて美徳だからな」
逆バニーの痴態を晒すネルティは天幕の入口に顔を向ける。大勢の側女を引き連れたウィルヘルミナが帰ってきていた。オマンコから白濁液が流れている姿を見られてしまった。
「娼婦街で客引きをしている淫魔のような衣装ですね」
「宰相閣下⋯⋯。すぐ出て行きますので」
「ネルティを追い出したりはしません。似合っていますよ。しかし、私の屋敷で働いていたとき、そんな衣装は持っていなかったでしょうに⋯⋯。陛下からの贈り物ですか?」
元主人の揶揄うような口調に、ネルティはうんざりしていた。気心知れた仲だけに、帝国宰相の言葉に棘はなかった。
「聡明な宰相閣下らしくない質問です。こんな私服を私が持っていると思います?」
「私は何着か持ってますよ。人前では着ませんけれどね。夜の勝負服はサキュバスの嗜みです」
ウィルヘルミナは持っていた釣り竿を近くの女官に渡す。大きな帽子を被った釣り人の服装だった。海の暑い陽射しを防ぐ麦わら帽子は、サキュバスの捻れ角を通すための穴が開けられている。普段の厳めしい黒色の背広姿とは、受ける印象がまったく異なる。
「お帰りなさい! ウィルヘルミナ! 釣果はどうだった?」
ウィルヘルミナの趣味は釣りだった。魚卵や精巣が大好物なサキュバス族は釣り人が多い。
「小物ばかりです。ほとんどリリースしてしまいました」
「そっか。久しぶりの海釣りなのに残念だったね」
「魚が逃げてしまいました。おそらくレオンハルト元帥が素潜りしているせいでしょう」
「素潜り? なんでレオンハルトが? 泳ぐのは好きじゃないって言ってたような」
筋肉のせいで身体が浮かず、身体が沈んでしまう。レオンハルトの水泳は浮力が働かないため、高速魚のような推進力が必要だった。
「海底探索中のヘルガ王妃が帰ってこないので探しに行っています」
「戻ってきていないの? また遭難した?」
「深海の泥に埋もれているかもしれませんし、海流に流された可能性もありますね。あるいは、単に時間を忘れているだけかもしれません。我が国の主席宮廷魔術師は手綱が付けられません」
「忘れてるに一票かな。何年か前に来たときも、野生のクラーケンと戯れてて時間通りに戻ってこなかったじゃん。よいしょっと!」
海パンを穿き直したベルゼフリートは、ウィルヘルミナが釣ってきた魚を確認する。
「どれどれ。おぉ! さすが暖流が直撃するグッセンハイム子爵領の海域! お魚さんの色合いがカラフルだ。熱帯のお魚さんだね」
「陛下、指を入れてはなりませんよ。噛まれてしまいます」
「りょーかいー」
白黒模様が特徴的なパンダフグ、点滅を繰り返す七色光魚、角張った岩鯛、フライング・ロッドフィッシュなどの海魚が釣りバケツで泳いでいた。
「七色光魚は死にかけてる。弱ってるみたいだ」
「私が素手で触ったせいでしょう。瘴気にあてられたようです」
「じゃあ、食べちゃうおうよ。活きが良ければお城の水槽で飼いたかったけど。うん。決めた。君は美味しいし、僕ら昼食になるしかないね」
「ヴァネッサ。釣ってきた魚の調理は任せます。毒魚は取り分けて、陛下の食事には使わないようにしてください」
「承知いたしました。パンダフグは除いておきます」
ヴァネッサは部下に指示を飛ばし、調理係の女官が釣りバケツを恭しく運んでいった。
「ちょっと待った! パンダフグも食べたい! 毒のない箇所もある珍味じゃん。料理係の女官は毒魚調理免許を持ってるでしょ? そもそもさ、毒に当たってもお腹を壊す程度だよ? 僕、知ってるんだからね」
ベルゼフリートに魚の知識を教えたのはウィルヘルミナだった。皇帝の趣味や知識は寵姫からの影響を強く受けている。
「いけません。相手は自然の生き物です。万が一ということもございますので、どうかご容赦ください」
「そんなー。一口だけ!」
「帝都に戻ったら養殖物の無毒なパンダフグを取り寄せてさしあげます。良い子だからヴァネッサの言うとおりにしてください」
ヴァネッサとウィルヘルミナに宥められて、ベルゼフリートは納得した。
「ん~。分かった。帝都に帰ったらパンダフグのお刺身ね。期待してる」
「ところで、ご用意する昼食は何人分にいたしましょうか?」
「あっ! ネルティもお昼はここで食べていったら? 釣ったばかりの新鮮なお魚は美味しいよ?」
「お腹がいっぱいで今は食欲なし。シャワー浴びて、まともな服に着替えて離宮に帰る」
精液が溜まっているのは下腹ばかりではない。本番の前のフェラチオでネルティは精飲させられていた。胃袋にもたっぷりと精液が注がれている。
「昼食が僕の精液だけってのはどうかと思う。精子を栄養にできるサキュバスならともかくさ。ちゃんと食事はしよう?」
「どこかの皇帝陛下が『吐き出さずに一滴残らず飲め』と命じたせいだ」
「ここにいる皇帝はお願いしたの。命令とは語弊があるねえ。嫌なら吐き出したって良かったんだよ? くすくすっ!」
「ああ、そう。次からは口移しするか?」
「やだ! それは勘弁!」
「とにかく俺はもう帰る。グッセンハイム子爵領の海は耐えきれない」
「そう? かなり涼しくしてるよ?」
女官はベルゼフリートが熱中症にかからぬように冷気を送り込んでいた。外に比べれば暑さはかなり緩和されている。
「それでも暑い。湿気もだるい」
ネルティはふらつく足取りで、天幕を出て行ってしまった。
「帰っちゃったよ。ねえ、ウィルヘルミナ。兎族って暑さに弱いのかな? かなり涼しめのバニー衣装なのにね。くすくすっ!」
「ネルティが着ていた逆バニーの痴女衣は、誰に用意してもらったのです? サイズがピッタリでした。特注品では?」
「僕のお小遣いで女官に作ってもらったの。つまり! 衣装代は自費なのだ!」
「よく費用が捻出できましたね」
宮中の妃達が聞いたら、ネルティに向ける嫉妬はより深いものとなるだろう。皇帝に贈り物をする妃は大勢いる。しかし、逆は滅多にない。
「今月のお小遣い支給は多目なんだ。廃都ヴィシュテルで魔物退治をしてきたご褒美なんだ! 今の僕はちょっとした富豪だよ! 今月で欲しかった物を全て買っちゃったのだ!」
「おやおや。珍しく財布の紐を随分と緩めたようですね。ヴァネッサ?」
「皇帝陛下に海での余暇を楽しんでいただく⋯⋯。その⋯⋯。今回は特別です」
ヴァネッサは頭を下げた。天空城アースガルズに帰還してからのベルゼフリートはかなり甘やかされている。
「女官総長の貴方を咎めてはいません。しかし、節度は大切です」
「はい。心得ております」
皇帝のお小遣いは女官総長の裁量で額が決まる。メガラニカ帝国の皇帝は莫大な資産を所有しているが、自由に使う権利はない。
「けちんぼー!」
基本的に国宝に指定された財物は国有財産であり、皇帝の私的な財産も女官の管理下にある。幼い皇帝に与えられるお小遣いは、世間が考えている以上に少額だった。
「皇帝陛下、遊んでばかりもいられませんわ。そろそろ御国の仕事をしてもらいましょう」
「お仕事?」
「はい。陛下にしかできない大切な御役目がございます」
帝国宰相は秘書の側女を指先で呼びつける。あらかじめこのタイミングで渡すと決めていたのであろう。手際よく封書を差し出した。封蝋はすでに剥がされていた。
ベルゼフリートはちらりと女官総長にアイコンタクトを送った。表情は平穏で、帝国宰相が渡してきた手紙を間に入って取ろうとしない。
(へえ。ヴァネッサは知ってたんだ。折り込み済みってことか。あんな事件があったとはいえ、一ヵ月も遊ばせてくれたんだ。いつもの宮廷に戻る頃合いではあるね)
権謀術数が渦巻く大帝国の宮廷。外敵の脅威に晒されて一時休戦状態だった。廃都ヴィシュテルで大妖女レヴェチェリナを討滅して約一ヵ月。戦後処理のあれこれが片付いた頃合いだった。