戦場から逃れた影の魔物は分散させていた肉体を集合し、欠損した部位を修復する。影を切り裂いたレオンハルトの大剣には、物質を捻じ裂く次元斬が付与されていた。帝国最強を未だに心のどこかで侮っていたと自省する。
(帝国元帥レオンハルト⋯⋯。なんという人間だ。あのキュレイが手も足も出なかった理由がよく分かりました。あの女は強すぎる⋯⋯)
ピュセルがレオンハルトを引き付けてくれなければ、どうなっていたかと震え上がる。レヴェチェリナのもとまで帰ってこられた。だが、ここが安全とは断言できない。アレキサンダー公爵家の姉妹は他にも侵入している。
(分散させていた影を集めても、残ったのは通常時の四割未満⋯⋯。かなり削られてしまった。ビュシュテルの全域探知はもうできない。侵入者の位置を探るのは難しくなった)
損耗は著しいが生命核は守り抜けた。万全の状態ではないものの、かろうじて転移能力は維持できている。
「中央塔で帝国元帥レオンハルトとピュセルが交戦中です。神域結界が発動しました。計画通りです。深傷を負わされましたが、私の転移能力はまだ使えます」
影の魔物はレヴェチェリナに報告する。待ちに待った吉報だった。
「そう♥︎ 嬉しいわ♥︎ この時を待ちに待ったのだから⋯⋯♥︎ んぁっ♥︎ あっ♥︎」
レヴェチェリナの豊満な肉体は魔帝に抱き上げられている。
魔帝はセックスに夢中で、周囲の様子をまったく気にしていない。
「〈相剋相殺の封陣〉で次元操作を封じ込めました。帝国の最高戦力であるレオンハルトを神域結界に縛っています」
「んふぅっ♥︎ 一番厄介なレオンハルト・アレキサンダーを拘束できているのね♥︎ さすがはピュセル♥︎ くふっ♥︎ ふふっ⋯⋯♥︎ すばらしぃいっ~~♥︎ わぁ♥︎ んぁっ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ んふっ♥︎ あぁんっ♥︎」
魔帝は凶悪な男性器でレヴェチェリナの子宮口を壊そうと果敢に挑む。一部の昆虫は他の雄と交尾させないために、輸精管で雌の生殖器官を破壊する。レヴェチェリナが普通の女であったなら、とっくに壊されていただろう。
「あぅっ⋯⋯♥︎ あ゛ぁっ⋯⋯♥︎ んぅっ⋯⋯♥︎ あんっ♥︎」
胎内に宿る赤子を挽き潰す勢いで魔帝は挿してくる。レヴェチェリナは我が子を守るため、膣道を引き締め、肉襞で絡め取り、魔帝の荒ぶる魂を鎮める。
(転生体は破壊者ルティヤを抑え込む器。女仙との性交で溢れ出た穢れを濯ぎ落とす⋯⋯。それが古来からの仕組み。人外の肉体である魔帝だって理屈は同じだわ♥︎)
先に限界を迎えたのは魔帝だった。呼吸が大きく乱れ、手足が強ばる。
(ふっふふふ♥︎ 私は血酒を飲んだ女仙でもあるのよ。だからこそ、魔帝の穢れを受け入れられるッ⋯⋯♥︎ さあ、私の妖胎にたっぷり吐き出しなさいっ♥︎)
レヴェチェリナの膣内で大量の白濁汁を解き放った。逆流した精液が結合部から滴り流れる。
「ふふっ♥︎ 気は済みましたか? 私の胎は壊せないわ」
「ハァハァ⋯⋯ハァ⋯⋯アゥ⋯⋯」
「私の子宮は特別製♥︎ 女王セラフィーナ・アルテナの模倣した複製なのです」
アルテナ王家の王墓を曝き、胞衣壺から盗んだ胎盤。三十七年前に生誕したセラフィーナを胎内で育てた臓物。反魂妖胎の祭礼を発動するために必要だった触媒である。
「苦労して拵えた名器のオマンコですわ」
レヴェチェリナは、自分の子宮をセラフィーナと寸分違わぬ形に造り変えた。
「お分かりでしょう? 貴方様の御体は王子リュート・アルテナの屍骨を触媒に受肉しているのですわ♥︎ 私と陛下の身体は、母子の因果で結ばれ呪われている⋯⋯♥︎ 我が子のように愛していますわ♥︎」
「嘘吐きめ⋯⋯」
魔帝は弱々しい声で罵る。だが、射精は止まらない。ベルゼフリートから奪い取った魂が妖胎に吸い取られていく。大妖女レヴェチェリナは魔帝を逃さぬように抱きしめる。
「子は母に従わねばなりません♥︎」
「く⋯⋯んっ⋯⋯ぁ⋯⋯!」
「さあ、陛下⋯⋯♥︎ 飢えているのでしょう? 母の乳を飲んで、微睡みに⋯⋯♥︎ 全てを捧げてください♥︎」
魔帝は弱っていった。レヴェチェリナの巨尻を支えていた両手が下りる。
「良い子ですわ♥︎」
自由を得たレヴェチェリナは床に両足を付けた。爆乳の突起から溢れ出す乳汁を魔帝に飲ませる。
「やっと御せましたわ。くふふっ⋯⋯♥︎ これで可愛い乳飲み子ですわ♥︎」
胎児を殺そうとしていた魔帝の男根がレヴェチェリナのオマンコから抜ける。
「自分の子供に嫉妬だなんていけませんわ。運命は螺旋となって繰り返される。さあ、永久にお眠りなさい♥︎」
微睡みに導かれた魔帝は、妊婦の母から母乳を授かる赤子に変貌した。黒蝿の帝王はレヴェチェリナの妖術に縛られる。
(キュレイと違ってレヴェチェリナには魔帝を操る方法を持っていた。しかし、なぜ魔帝はレヴェチェリナの胎児を殺そうとした⋯⋯? 自分の子供でもあるはず⋯⋯)
影の魔物には理解できなかった。魔物には親子愛や同族愛がない。しかし、親が子を愛する生物的本能は、知識として知っている。
(もう用済みということなのですか⋯⋯? キュレイが孕んだ子を殺そうとはしなかった。ならば、レヴェチェリナの胎にいるのは⋯⋯)
魔帝をあやすレヴェチェリナの孕腹が蠢く。臨月に達したボテ腹で育つ赤子は精液を糧に成長する。力強い胎動が大気を震わせる。
「私は魔帝の力で人類に対抗すると聞いていましたが?」
「ええ。そうよ」
「なぜ魔帝の身体から魂を引き剥がし、胎内の赤子に移したのですか?」
「反魂妖胎の祭礼は輪廻転生の一種よ。私がセラフィーナなら、魔帝の役はリュート。耳にしているでしょう? 王子は絞首刑で命を絶たれ、女王は不義の子を孕む」
「再現をしていると⋯⋯?」
「安心しなさい。魔帝よりもすごい子が降誕するわ♥︎ 破壊者ルティヤの荒魂が定着するまであと僅かよ。さて♥︎ ふふっ♥︎ 皇帝ベルゼフリートの位置は分かるかしら? あちらに残っている魂を搾り取らないと⋯⋯♥︎」
「残念ながら、城内の探知網を維持できなくなりました」
「あらら。本当に手酷くやられたのね?」
「身体の半分以上を削ぎ落とされました。しかし、この程度で済んだのは幸運でした」
「転移能力に影響はどれくらいあるのかしら? 計画の要よ? しかも、相手はカティア神官長とアレキサンダー公爵家の姉妹。レオンハルト元帥には及ばないけれど厄介な相手だわ」
「何とかしてみせましょう」
「期待しているわ。それじゃあ、さっそく魔帝を〈淫獄の揺り籠〉に送っておきなさい」
レヴェチェリナは魔帝が完全に死なぬように妖力を流し込む。
「魔帝は生きているのですか?」
「自我が消し飛んでいるけれど、肉欲だけは残しているわ。捕まえた人間の女達と交配させてあげましょう。地下牢の女達も淫獄に移しておきなさい」
「分かりました。皇帝ベルゼフリートと護衛の分断はいつ? もしかすると市街地に隠れているやもしれません。宝物庫に来ない可能性も十分にあります。今の私では位置を探り出せません」
「心配いらないわ。皇帝ベルゼフリートは必ず宝物庫に逃げ込む。魔都ヴィシュテルで私達が掌握できていない領域はあの階層だけだもの。私の妖術やピュセルですら突破できない隔離領域。人外魔境で唯一安全な場所♥︎ くふふっ♥︎ あぁ、忌々しい♥︎ 古代ドワーフ族の最高傑作♥︎ ただ、知らないでしょうね。宝物庫の頭がお固いことには⋯⋯! ふふっ⋯⋯♥︎」
「当初の予定通りに?」
「ええ。宝物扉が開かれたら、貴方にはもうひと頑張りしてもらう。さあ♥︎ 侵入者を追い込みましょう⋯⋯♥︎ 皇帝ベルゼフリートは風前の灯火。器に残った破壊者の荒魂は半分以下になったわ⋯⋯!」
破壊者ルティヤの荒魂は約七割奪えた。残り三割はベルゼフリート側の器にある。
「私の妖術を発動するわ。破壊者ルティヤは無限の力を秘めた渦。子を身籠もった私であれば、効果範囲はヴィシュテル全域に及ぶ♥︎ 妖術はさらに飛躍するっ⋯⋯♥︎ くふふふっ♥︎」
広間に刻んだ魔女の妖術式が起動する。
魔物を生じさせる虚界の影響力が一段と増した。
「主よ、来たれ! 傲慢なる人から、我は主を解き放つ! 真なる業魔! 真なる帝王! 真なる災禍! 万象を壊し、万物を砕き、万劫の滅びを齎す! 破壊者の荒魂は再び反転する! 深き眠りより覚め、妖魔に恩寵を授けたまえ! 魔帝の暗闇は世界を覆い尽くす! 冥府より舞い戻れ!!」
宝物庫の扉が開かれた。その瞬間、レヴェチェリナは呪文を叫ぶ。
「妖胎伏魔殿⋯⋯♥︎ 魔女の瘴園は開かれたわ♥︎」
◆ ◆ ◆
災厄の予兆を真っ先に感じ取ったのは、意外にもセラフィーナだった。難なく宝物庫の階層に辿り着き、扉を開ける準備を終えた瞬間、セラフィーナの子宮に鈍痛が走った。
「痛っ⋯⋯! うくぅっ⋯⋯!! お腹が⋯⋯!!」
セラフィーナは片膝をついてうずくまる。
「セラフィーナ、腹に触らせてもらうぞ⋯⋯。むぅ⋯⋯不味いのう。禍々しい気配が近付いてきておる」
邪悪な力を感じ取ったカティアはすぐさま駆け寄り、セラフィーナの腹部に触れた。セラフィーナの子宮を依代とした妖術を使ったのなら、すぐさま術式を反転させられる。その細工は施してあった。
(レヴェチェリナの妖術に子宮が同調しているようじゃな? もとよりセラフィーナは感受性の高い体質⋯⋯。宝物庫が開かれたこのタイミングで敵は何を⋯⋯?)
宝物庫は帝嶺宮城の階層一つが丸ごと使われている。扉は一種の転移装置であり、異空間化した宝物庫の内部に入る唯一の道だ。
鍵は皇帝の玉体、さらに帝国宰相か女官総長が随伴していなければ、宝物庫の扉は起動しない。
「陛下を宝物庫へ⋯⋯!! 儂らが扉を閉める前に侵入するつもりなのやもしれぬ⋯⋯!!」
カティアは敵の狙いを誤認した。宝物庫の扉が閉じられたら、敵はベルゼフリートに手出しができない。扉が開かれている間に、奇襲をしかけて侵入する気なのだと思い込んだ。
「セラフィーナさん離れないように。置いて行かれたら死にますよ」
ハスキーがセラフィーナに肩を貸す。
「うくっ⋯⋯。は、はい⋯⋯」
宝物庫の扉は物理的には開かない。大理石の床に描かれた六芒星の法陣が入口となる。
「敵が襲ってくる前に転移します。六芒星の内側に入ってください。言い伝えの通りなら、開門条件を満たせば宝物庫の内部に招かれるはずです」
開門の条件は満たされている。六芒星の上に皇帝ベルゼフリートを背負った帝国宰相ウィルヘルミナが立った。
「――宝物庫よ。帝国宰相ウィルヘルミナが命じる。扉を開きなさい」
ウィルヘルミナは命じた。宝物庫の扉がゆっくりと動き、眩い光りが溢れ出てくる。
妖胎伏魔殿の瘴気が迫り来る。灰色の濃霧は青紫に変色していた。護衛隊の女仙達は即座に理解する。あの霧をベルゼフリートに吸わせてはならない。
破壊者ルティヤの器を壊す妖女の毒霧がヴィシュテル全域に発生していた。
「どうしたのじゃ? なぜ転移せぬ?」
敵の攻撃が目前まで迫っている。瘴気は宝物庫の内部に入り込めない。転移できればベルゼフリートの安全を確保できるが、宝物庫は奇妙な反応を返してくる。
「何かの声が聞こえます。警告音⋯⋯?」
「音? 儂には聞こえぬぞ」
宝物庫への転移が始まろうとした刹那、ウィルヘルミナの脳内に甲高い警告音が響いていた。他の者達には聞こえていないようだった。
「⋯⋯うぅ⋯⋯ぅ⋯⋯!」
背負っているベルゼフリートは唸り声をあげた。
(この警告音は私と陛下にだけ聞こえているようです。敵の罠が宝物庫に仕掛けられて⋯⋯? いや、違う! 私や陛下に対する害意は感じられない。むしろ敵意は⋯⋯!)
ウィルヘルミナは宝物庫の真意を察知した。
「まさか⋯⋯!」
長齢のカティアですら知らなかった宝物庫の国家機密。帝嶺宮城の宝物庫には自我があった。
(宝物庫そのものが〈知恵を持つ道具〉⋯⋯!! 条件が満たされれば扉が開かれる。つまり、門番がいるということ⋯⋯!! 古代ドワーフの名工によって自我が植え付けられている⋯⋯!!)
人工精霊を定着させることで創り出される自我を持つアーティファクト。宝物庫は皇帝ベルゼフリートと帝国宰相ウィルヘルミナを認証した。しかし、魂が抜けつつある皇帝は死にかけている。
(敵は宝物庫破りを一度は企んだはず。それなら宝物庫の仕様を知っていたはず⋯⋯!! くっ⋯⋯! 私達は知らなかった。カティア神官長ですら⋯⋯!! 死恐帝時代に知識の継承が途絶えた。よりにもよって、こんなときに! 歴史のツケを支払う嵌めになるとは⋯⋯!!)
ウィルヘルミナは護身用で持っていた剣を投げ捨てる。突然の行動に他の者達は戸惑った。
「貴方達! 武器を捨てなさい! 今すぐにです!! 宝物庫が警告を発しています!」
自我を有する宝物庫は、帝嶺宮城が敵に占領されている認識だった。
レヴェチェリナやピュセルが扉を強引な手段で開こうとしたため、警戒度はさらに高まっていた。そんな緊迫した状況下、衰弱した皇帝と武器を持った同行者が現れ、開門を要請した。
――異常事態は明らかである。
開門条件は満たされた。しかし、それは門を開く条件である。
誰を宝物庫に入れるかは、宝物庫自身の裁量に委ねられている。
「武器を持った貴方達を宝物庫は敵だと認識し――」
レヴェチェリナの魔霧が迫り来る。皇帝の身に危険が及ぶと宝物庫は認識した。最優先すべきは衰弱した皇帝の保護。そして、武器を捨てた帝国宰相は味方だと判断する。
(不味い! 私と陛下だけに転移をかける気ですか⋯⋯! 宝物庫の内部が安全だとしても、護衛戦力との分断は望ましくない⋯⋯!! せめて治療の心得があるカティア神官長は⋯⋯!!)
ウィルヘルミナの要望を宝物庫は考慮しない。厳格に審査する。
同行する女仙のうち、カティアは神官長の地位にある。宝物庫は職位を把握した。しかし、警戒心を高めていた宝物庫は神官長を拒絶する。カティアが咄嗟に行った神術式の詠唱を攻撃行動と捉え、弾き飛ばした。
「ぬぅっ⋯⋯! 強力な護りじゃのう⋯⋯! しくじった⋯⋯!!」
他の者達も同様だった。重武装の軍人、軽装の女官。強力な異能で扉を捻じ曲げようとしている者までいた。すぐさま対象の次元操作を遮断し、侵入を阻む。無論、宝物庫への入室は認めない。
宝物庫に入れて主君を守る。連れているのが護衛者なのか、皇帝と帝国宰相を脅している不届き者か。戦闘能力の有無だけで即決する。
非武装の愛妾が一人だけいた。
宝物庫は一瞬だけ頭を悩ませる。武器を持たぬ女仙が一人だけいた。セラフィーナである。読み取った階級は愛妾。地位は高くないが、皇帝の寵姫にだけ与えられる特殊階級である。
皇帝の子を身籠もっている。
宝物庫はセラフィーナの胎内に宿った赤子の魂を探知する。皇帝の子胤で孕んだ愛妾。皇帝に危害を加える要素は見られなかった。
「え⋯⋯!? えぇっ⋯⋯?」
宝物庫はセラフィーナに転移をかけた。ふわりと身体が浮かび上がり、眩い光に包まれる。
宝物庫の扉は開かれた。だが、招き入れたのは皇帝ベルゼフリート、帝国宰相ウィルヘルミナ、愛妾セラフィーナの三人。護衛隊は門前払いとなった。
「皇帝陛下ニ対スル攻撃ヲ検知。緊急時ノ処理ヲ実行。セキュリティーコード参照⋯⋯。高脅威対象ノ侵入ニ対処⋯⋯。緊急避難室ニ設定。危難ガ終息スルマデ鎖門トスル」
取り残された護衛隊に対し、宝物庫は宣告した。
大理石の床に描かれた六芒星の方陣が消滅し、宝物庫の入口は厳重に封鎖された。
「武装者ニ告ゲル。警告。警告。警告。即刻、城内ヨリ退去セヨ。階層管理者ノ権限ニ基ヅキ、強制排除〈オストラシズム〉実行」
「おい! 御老人! これはどういうことだ? 陛下と宰相、セラフィーナだけが連れて行かれた。聞いてた話と違う。この宝物庫は何なんだ?」
苛立ちで敬語を忘れたシャーゼロットがカティアに問い質す。
「儂も知らなかった⋯⋯。武装していると弾かれるようじゃ。古典的なブービートラップじゃな。武器を持っていなかったセラフィーナは問題なく入っておる」
「チッ! 転移の連結を断ち切られたか⋯⋯。忌々しい。かなり高位の付喪霊が宝物庫に宿っているようだ。ルアシュタイン! レギンフォード! そっちは辿れたか?」
「お姉様と同じです。失敗しました。アレキサンダー公爵家の異能では侵入できない対抗仕様なのかもしれません」
ルアシュタインは首を振り、さらに続けて言う。
「さらに悪いお知らせです。宝物庫は私達をどこかに転移させようとしてます。まずはこれに対処しなければ⋯⋯。この感じだと遠くの座標に送られますね」
レギンフォードは槍先を向けるが、シャーゼロットが止めた。
「やめろ。レギンフォード。攻撃しても無駄だ。仮に扉を壊せても陛下を危険に晒す」
「ですが、シャーゼロットお姉様⋯⋯!」
「宝物庫は私達に強制転移をかけようとしている。そちらの対処が先だ。どこに放り出されるか分かったものではない。警務女官長の面倒は私が見る。運悪く地中や壁にめり込んで死なれては困る。集合地点は宝物庫の手前だ」
上下、左右、表裏、全てが反転し、護衛隊を引きずり込もうと捻れの渦巻きが迫ってくる。次元操作の能力を持つアレキサンダー公爵家の姉妹であれば、どこに飛ばされても死にはしない。
「やれやれじゃな⋯⋯。ところで儂は? ルアシュタインとレギンフォードのどっちが助けてくれるんじゃ?」
「神官長猊下はご自分で何とかしてください」