2024年 10月13日 日曜日

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【177話】日常の維持(♥︎)

NOVEL亡国の女王セラフィーナ【177話】日常の維持(♥︎)

 ハスキーは私服を着用していた。特注ミニスカメイド衣装は目立ち過ぎたのだ。有名な剣闘士だったハスキーは面貌が知られている。警務女官長ハスキーの存在は、近くに皇帝ベルゼフリートがいると宣伝しているのと同じだ。

 セラフィーナはハスキーの私服姿が物珍しく思えたが、ベルゼフリートはそれほどでもないらしく、特段の反応を示していなかった。ミニスカを愛用するのはの拘りなのだろう。

 ハスキーとの入れ替わりでレギンフォードが護衛番に入る。すれ違い様、レギンフォードは囁く。「女官メイドなんだからもうちょっと愛想を良くしたら?」と肩を竦めた。

 ハスキーは「十分に弁えておりますので⋯⋯」と唇の動きだけで伝える。皇帝以外に愛想を振りまいて何になるのだと開き直っていた。

「⋯⋯⋯⋯」

 シャーゼロットは終始無言だった。元帥仕えの側女であり、帝国軍内の地位は高い。さらに言うなら、異母姉妹の関係にあたるレオンハルトやタイガルラと異なり、肉親の情を向けたりはしない。長女のシャーゼロットからすれば、ハスキーは赤の他人だった。

 母親が捕まえた種馬の娘。父親を奪われたのは気の毒に思う。だが、多額の報償金をアレキサンダー公爵家は支払っていた。大貴族の武力と大金で黙らせたとも見做せる。ハスキーの一家は人気者の剣闘士。しかし、所詮は下賎の身分だ。貴族階級ではない。

 一方でシャーゼロットは公爵家の長女。帝国全土に名が知れ渡っている大貴族の一門。救国の英雄アレキサンダーの孫娘だ。ところが、後宮の序列は血筋だけで決められない。

「お疲れ様。ハスキー。また明日ね」

 部屋から出て行くハスキーに、ベルゼフリートは手を振った。

 。後宮で寵愛に勝るステータスはない。

 愛妾のセラフィーナと逢瀬の最中、目と鼻の先には皇后のウィルヘルミナが座っている。そんな状況下でベルゼフリートはハスキーに言葉をかけた。

 そこいらの妃に比べ、ハスキーとベルゼフリートは深い関係で結ばれている。女官のくせに御子も産んでいた。

「⋯⋯⋯⋯」

 長女のシャーゼロットは小さな溜息を吐いた。家督争いに勝利し、三皇后の一角を占めていれば、少しは面目が立った。実力や血筋、帝国軍での階級、さまざまな地位では勝っていても、後宮の女という面では劣後する。

「姉上もお休みになられては?」

 長女と三女の関係は良好だ。早朝から護衛役を引き受けていたシャーゼロットに小休止を勧める。

「それもそうだな。武具の手入れも飽きていたところだ」

 シャーゼロットは戸棚から碁盤を持ち出してきた。富豪が連泊する高級宿には娯楽用の盤上遊戯ボードゲームが置いてある。

 ハスキーがいる間は警戒を緩められなかった。戦える女であるとは認めるが、同列には見做さない。女官メイドはあくまで皇帝の世話係だ。交代でレギンフォードが来てくれたのなら、自分一人で張り詰めている必要はなくなった。

 ――私が見ているので詰碁つめごをどうぞ。

 息抜きは必要だ。出来の良い妹は長女を立てる。数秒のアイコンタクトで姉妹は意思疎通を終わらせた。通常時であれば伽役を狙ったのだろうが、今はセラフィーナとウィルヘルミナの二人だけが皇帝の慰安を許されている。

 一刻を争う旅路にも関わらず、高級宿を貸し切って悠長に北上しているのも、楔が抜けぬようにするためだった。器の心身が病めば、魂魄が一気に引き抜かれかねない。焦燥に駆られるレオンハルトは不満だったが、カティアの進言に従った。ウィルヘルミナもカティアに賛成だった。精神的な負担はなるべくかけたくない。

「ねえ。ウィルヘルミナ。明日の出立は早いの?」

 女仙を瘴気を残す。特に今回は連れている面子が大物ばかりだ。愛妾のセラフィーナでさえ、後宮に移住してからの一年間で相当の穢れを蓄えてしまった。

「いいえ。早起きはいたしません。ケーデンバウアー侯爵領では運河を使います」

「ああ、なるほどね。船を使うんだ」

「屈強な軍馬を用意していましたが、そろそろ限界のようです」

「お馬さんには悪いことをしたね。でも、死んだのが人じゃなくてよかったよ」

 神官長カティアは瘴気を祓っていた。しかし、皇帝や女仙以外の者には命を脅かす猛毒である。つい先日、馬車を牽かせている軍馬が泡を吹いて頓死した。遅かれ早かれ、いずれは人が倒れる。帝国兵からも体調不良者が現れ始めていた。瘴気に当てられてしまったせいだ。

 廃都ヴィシュテルまでの護衛を命じられた兵士は、任務を完遂しようと無理をしがちだった。

「山越えの運河を使えば、廃都ヴィシュテルまで安全に行けるんだよね?」

「はい。遷都するまで、ヴィシュテル近郊の水路網は物流の要でした。ナイトレイ公爵領の運河は埋め立てていますが、ケーデンバウアー侯爵領など、いくつかは現役で使われています」

 メガラニカ帝国が全盛期を迎えた栄大帝の時代、帝都だったヴィシュテル近郊に運河が築かれた。ケーデンバウアー侯爵領を縦断する運河は、西海まで繋がっている。

 山腹を削り裂き、数百年の工事期間を必要とした大規模な水路網。死恐帝の災禍でいくつかのルートは機能不全に陥った。しかし、廃都ヴィシュテルの監視を続けていたケーデンバウアー侯爵家は運河を維持した。

「宿屋に泊まれるのは今日が最後なんだ。寝台ベッドでしかできないプレイは今夜のうちにしておかないと♪」

 ベルゼフリートはセラフィーナの母乳を吸い始める。

「船は良いものを買い上げました。不自由はしないと思います」

「それはいいね」

「⋯⋯しかし、ヴィシュテルに着いてからはご容赦ください」

 魔都ヴィシュテルに安全で快適な寝室は存在しない。レオンハルトが敵の首魁を討ち滅ぼし、諸悪の根源を絶つまでは敵陣での持久戦を強いられる。

「うん。分かってる。辛抱するよ」

 ベルゼフリートの力で不可侵領域を破壊した後、敵が再構築できないようにしなければならない。

(こちらの手勢は少数⋯⋯。けれど、帝国が誇る最強戦力、レオンハルト元帥さえいれば、勝てる勝負なのは間違いありません。ヘルガ王妃とアストレティア王妃を連れていくかで最後まで迷いましたが⋯⋯。人数は少ないほうが好ましい)

 主席宮廷魔術師を兼任するヘルガ王妃、大神殿の次席であるアストレティアを連れてこなかった理由だ。敵は強大だが、死恐帝に匹敵する脅威度ではなかった。

(敵の考えが読めない。引き籠もられるより、国外に逃げられるほうが厄介でした)

 未知数なのは魔物の肉体を器にした魔帝である。敵が勝利する条件は、ベルゼフリートに宿る破壊者ルティヤの荒魂を完全に吸い取ること。皇帝が死ねば仕える女仙も全滅する。

(敵はまだ陛下を殺せないはず⋯⋯。そうだとすれば、窮地に立たされているのはあちら側。なぜ逃げもせず、魔物どもは一所に留まる?)

 魔帝に移行した魂魄量は少ない。いずれは逆転するとしてもだ。

 現段階でベルゼフリートが死亡した場合、災禍こそ起こる。メガラニカ帝国はさらに衰退し、滅びるかもしれない。だが、魔帝のほうも無事は済まないはずだ。

 吸い取った魂魄が完全に定着するまで、大妖女レヴェチェリナはベルゼフリートを殺せない。

(私とセラフィーナが楔となった時点で、レヴェチェリナの計画はほぼ破綻した。けれど⋯⋯まだ何か勝算が⋯⋯?)

 二度も三度も出し抜かれている。レヴェチェリナには逆転の秘策を抱えて、魔都ヴィシュテルで待ち受けているかもしれない。

「やはり伽役を交代いたしましょうか?」

 セラフィーナの申し出は、愛人から正妻への社交辞令に近かった。

(考えごとをしていただけなのですけどね。妙な勘ぐりをさせてしまったようです)

 ベルゼフリートはやっと射精を終えたらしい。満足げな表情で腰をヒクつかせていた。自身の処女を捧げ、筆下ろした少年の癖は、誰よりも知っているつもりだ。

 童顔で幼さの色濃いお子様だが、二回の射精で種切れにはならない。貞淑な人妻を淫母に堕とせる性豪に育て上げたのは、育ての親であるウィルヘルミナだ。

から頂きましょう」

 ウィルヘルミナは上衣を脱ぎ捨てた。セラフィーナを凌駕する極大かつ美形の乳房を見せつける。ブラジャーを外してもそびえる双峰は、重力に抗って隆起を維持する。

 ベルゼフリートの愛執がウィルヘルミナに向けられる。心の移ろいが如実に顕在化していた。セラフィーナは嫉みの感情を抱かずにはいられなかった。

「七回目? お茶じゃないけど、さすがに出涸らしになっちゃうかもよ?」

 ウィルヘルミナが口にした「七回目」を言葉通りに受け取るのならそうなる。ベルゼフリートはセラフィーナにあと四回、既に放精したのを含めると総計六回の射精。さすがに疲れが見え始める頃合いだ。

「搾り取り甲斐があるでしょう? サキュバスの性文化です」

 下衣を外し、全裸になったウィルヘルミナは、尾骨の先から生えた尻尾を伸ばす。

 サキュバスの貪欲な淫尾はベルゼフリートの小さなお尻をひとしきり撫で回した後、標的を変えてセラフィーナの乳房に襲いかかる。

「セラフィーナの乳房が張っていますね。部屋の空気が乳臭いわけです」

 乳牛の質を調べる牛飼いの手付きで、ウィルヘルミナは母乳の溜まり具合を検める。乳房に巻き付いた尻尾で蛇のように締めあげる。

「⋯⋯⋯⋯っ♥︎」

 ベルゼフリート以外の人間に恥部を触れられて、セラフィーナはやや不快だった。同じ女性であるが、心穏やかではいられない。相手が心を許したロレンシアやリアだったのなら、また違った感情を抱けたのだろう。

「そこそこ搾ったよ? やっぱ三つ子を産んだから、セラフィーナのミルクは三人分なのかな?」

「あるいはセラフィーナが再び孕んだかでしょう。カティア神官長はまだ分からないと言っていましたが、懐妊の可能性は高そうですね」

「年末に産んだばっかりなのに。身体の相性もあるけど、当たるときは、あっさり当たっちゃうもんだ」

「陛下らしい発言です。さすがは黄葉離宮の側女を全て孕ませた御方。赤毛の従者も好みでしたか?」

 黄葉離宮の側女で赤毛といえばロレンシアだ。孕みやすい体質に肉体改造されたが、出産直後に再び身籠もった。帝国宰相の耳にもしっかり届いていた。

「出来ちゃったもんはしょうがないもん。避妊するときは言われたとおり、ちゃんとやってるよ?」

「無事に旅を終えて、後宮に戻ったら宰相府の妃達を可愛がってください。最近の陛下はに偏りすぎです」

 帝国宰相ウィルヘルミナの物言いに護衛組の二人が反応する。碁石の砕け散る音が鳴った。軍務省の頂点に立つレ帝国元帥オンハルトの姉達である。面白くはない話だ。

(それは⋯⋯。今、言うべきことでしょうか?)

 セラフィーナも無関係ではいられなかった。無位無官の愛妾ではあるものの、軍閥派に所属している身分だ。

(なぜウィルヘルミナは煽るような言動を⋯⋯?)

 力を合わせて共通の敵に立ち向かうべき状況だ。派閥争いをするのは愚行と思えた。だが、数秒後にセラフィーナは狙いに勘付いた。

(ああ、なるほど。分かってしまったわ。陛下のため⋯⋯なのですね)

 後宮で牽制し合っていた三皇后が手を取り合う。傍目はためには美しいが、ベルゼフリートからすれば異常な光景だ。追い詰められて、身を寄せ合っているように受け取られる。

(宮廷では三派閥と女官のよんすくみ。それが日常の象徴でもあるのだわ)

 表面上は派閥間の不和を見せたほうがいい。ベルゼフリートはいつも通りだと安心する。旅が終わった後の予定を口にするのも同じ狙いだ。

「セラフィーナ。下り物が訪れてなくなってどれほどですか?」

 ウィルヘルミナは問いかけた。セラフィーナの膣内に収まった男根が復活の兆しを示している。男心がくすぐられたのだ。妊娠を喜ぶ夫というより、人妻を奪った達成感であろう。

(妊娠しているとして、出産は十月十日後⋯⋯♥︎)

 セラフィーナが本妻のウィルヘルミナに嫉妬するように、ベルゼフリートは前夫のガイゼフに嫉みを抱いていた。

 現在はどうあれ、約二十年の幸福な夫婦生活を共にした。塗り潰しても過去は消えない。最初の男でないからこそ、ベルゼフリートの対抗心は燃え上がりもする。

「帝都アヴァタールを出立してから、月経はきておりませんわ」

 素直に答えた。嘘偽りのない事実だ。旅の最中、生理痛と無縁でいられるのは好都合だ。しかし、身籠もっていたのなら、悪阻に悩まされるかもしれない。

(四回目の妊娠なら、そろそろ身体が慣れてくれないかしら?)

 ベルゼフリートとの子作りが濃すぎるため、第一子と第二子を産んだ記憶は、前世の体験に思えてしまう。それに比べ、家臣団の前で行われた公開出産は絶対に忘れられない。不義と不貞、背徳の最果て産み落とした三姉妹。アルテナ王家の血統は一新された。ベルゼフリートを生涯の伴侶と認め、皇帝の御子だけを世継ぎにした。

(なんて残酷で軽薄な母親なのかしら⋯⋯。かつての想いが薄らいでいく。あれほど子供達を愛していたのに)

 腹を痛めて産んだリュートとヴィクトリカ、大切な息子と娘だった。だが、裏切った。今のセラフィーナが愛する我が子は、皇帝との間に産まれた子供だけだった。いや、新たに産んだ三つ子の姉妹でさえ、寵愛の象徴物として大切にしているだけなのやもしれない。

「あぁんっ♥︎ 陛下ぁっ⋯⋯♥︎」

 三回目の射精が始まろうとしている。セラフィーナは口吸いを求めたが、体格差のせいで上半身を屈折させなければ、ベルゼフリートの唇は届かない。それに加えて、パイズリフェラしたばかりの口との接吻を拒絶した。

「ウィルヘルミナにキスを教えてもらったら? 上手だし、勉強になるよ?」

 嗜虐心を呼び起こしてしまった。ウィルヘルミナはセラフィーナの唇を奪った。どんな表情をすればいいのか分からなくなる。異性愛者であるはずなのに、セラフィーナは顔が真っ赤に染まった。

(確かに陛下よりもお上手ですけれど⋯⋯! だけど⋯⋯! こういうのは⋯⋯ちょっと違いますわ⋯⋯!)

 奥に引っ込めた舌を巻き取られる。ウィルヘルミナは涼しい表情で口吸いを続けた。互いの爆乳が重なり合う。乳房の対衝突をベルゼフリートは面白がっていた。

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