2024年 9月20日 金曜日

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【173話】危険な旅路

NOVEL亡国の女王セラフィーナ【173話】危険な旅路

 グラシエル大宮殿の一室に駆け付けた医務女官と神官は、目覚めたベルゼフリートとセラフィーナの心身を徹底的に検査した。入れ替わり立ち替わり押し寄せる医術の専門家達は、深刻な面立ちで三皇后に診断結果を奏上する。

(怒られるかもとビビってたけど⋯⋯。小言さえ言われないのはむしろ恐いな。よろしくない状況ってことだよね。たぶん⋯⋯。久しぶりにやらかしたかも⋯⋯)

 ベルゼフリートは居心地悪そうに大人しくしていた。

 女仙達は動揺していた。医務女官長アデライドの顔色は特に悪かった。青ざめた表情で半蛇娘ヒュギエイアは蛇腹を震わせている。

 ベルゼフリートの魂魄が著しく目減りしていたからだ。

「考えられないことですわ。どうやって陛下の魂に干渉できたというのでしょう? 魂魄は強固な殻です。一般的な人間の魂でさえ、その殻を破る方法は限られていますわ⋯⋯。ましてや破壊者の荒魂を⋯⋯一体どんな方法で⋯⋯?」

 魂魄の減衰。転生体にその症状が現われるのは晩年だ。寿命が近づいた転生体は、少しずつ魂魄が消滅していく。聖大帝や栄大帝といった厄災を生じさせなかった皇帝は、一千年の寿命を使い切り、永眠の準備に入ったという。

「落ち着いてください。カティア猊下が処置をなされました」

 神官のアストレティアは、大神殿から持ち出した写本をアデライドに手渡す。転生体についての知識であれば、大神殿の巫女以上に知識を持つ者はいない。

「敵の狙いは器の入れ替えで、まず間違いありません。陛下の肉体に封じられた破壊者の荒魂を吸い上げ、別の器に入れようとしたのでしょう」

「この本は⋯⋯。転生体の魂に関するものですか? なぜ今まで医務女官の私にこれを提供してくださらなかったのですか!?」

「死恐帝の時代、この本の知識を得て不届きな考えに至った皇后がいたからです。転生体の魂に干渉する御業は、神官でもごく一部の者だけが知る秘匿の知識でした。全ては皇帝陛下を災いから遠ざけるためです」

 アストレティアの鋭い視線は、セラフィーナに向けられていた。祭礼の触媒はセラフィーナの子宮だった。公安総局の機関長は女仙を処断できる。状況が好転するのなら、アストレティアはセラフィーナを殺すのも選択肢だと考えていた。

 まんまと敵に利用されてしまった愛妾は、申し訳なさそうに豊満な肢体を縮こまらせる。ベルゼフリートは詰め寄られるセラフィーナに寄り添った。

「魂にくさびは打ち込んだが事態は深刻じゃ。仲間内でいがみ合っている場合ではない。其方そなたらはもう下がってよいぞ」

 神官長のカティアに諫められ、集められた女官と神官は退出させられた。警務女官長ハスキーも例外ではなかった。不服はあったが、三皇后と女官総長の決定に従う。

「残るのは三皇后と女官総長、それと関係者のセラフィーナじゃな。おっと⋯⋯! 陛下も出て行ってはならんぞ。ここに残るのじゃ」

 暗い雰囲気の室内から逃げだそうと、警務女官に引っ付いて出て行こうとしたベルゼフリートは、女官総長ヴァネッサに両肩を掴まれて連れ戻された。

「やれやれ⋯⋯。困ったのう。どうしたものか」

「帝都アヴァタールに攻め入った魔物は撤退していきました。混乱していますが、退魔結界の復旧も完了しています」

 帝都アヴァタールは魔物の強襲を受けて、大きな被害がでていた。それにも関わらず、三皇后は事態の収拾を部下達に一任した。

 ベルゼフリートの身命に関わる一大事が起きてしまった。皇帝の案件は何よりも優先される。他の国では、民の支えがあって君主は存在できる。しかし、メガラニカ帝国は君主が健在でなければ、民が生きていけない。

「――単刀直入に問おう。私は誰を倒せばいい?」

 帝国最強の女傑は、凄まじい殺気を両目に宿していた。帝国元帥レオンハルトの怒りは、皇帝の玉体を害した魔物に向けられている。

「敵は魔物です。大妖女レヴェチェリナ。廃都ヴィシュテルに潜んでいたメガラニカ帝国の闇⋯⋯。通常の魔物とは大きく異なります。魔狩人やユイファン少将の報告によれば、レヴェチェリナは退魔結界をすり抜けている疑いがあります」

 帝国宰相ウィルヘルミナは、アルテナ王国に派遣した情報将校ユイファンから得た情報を分析した。さらにベルゼフリートやセラフィーナの証言で確信を得た。

「ありえんな。今回の襲撃で、敵は帝都アヴァタールの退魔結界を解除して攻め込んできたのじゃぞ?」

「断言はできませんが、レヴェチェリナだけなのでしょう。結界を越えられるのは⋯⋯」

「だとしても、信じられぬ。魔物は破魔石の退魔結界を越えられん。それが世の理じゃ」

「世の理を超越する存在もいます。レヴェチェリナは魔物であると同時に、女仙なのやもしれません」

「むぅ⋯⋯。アルテナ王国で見つかった瘴気は其奴そやつの痕跡であると考えれば⋯⋯妥当な推測ではあるのう。しかし、女仙だからといって退魔結界を抜けられるとは思えぬが⋯⋯」

「そちらの真偽は置いておくとして、レヴェチェリナは胎で何かを育てています。廃都ヴィシュテルに引き籠もり、産むつもりなのでしょう」

うつろから生じる魔物が胎で子作り? まるで人間の真似事じゃな⋯⋯」

「これまでの騒動と暗躍は、たった一つの目的を達成するための下準備だったと考えられます」

「回りくどい話は十分だ。敵が廃都ヴィシュテルにいるのなら、帝国軍の総力をもって叩き潰す。私はいつでも出陣できる」

「簡単に片付く問題ではありません。そうであったのなら、私が廃都ヴィシュテルを棚上げにしておくと思いますか? 帝国元帥であり、アレキサンダー公爵家の貴方は、事情をよくご存知のはずです」

「⋯⋯先代神官長ロゼティアの結界か」

「はい。今でこそ廃都と呼ばれていますが、ヴィシュテルはかつての帝都です。しかも、破壊帝と哀帝の災禍を乗り切った堅牢無比な城塞都市でもありました」

 死恐帝の災禍でメガラニカ帝国は帝都ヴィシュテルを放棄した。だが、二度の災禍を乗り切った歴史を有する。

「幸いにして生き証人がここにいます」

 ウィルヘルミナとレオンハルトの視線は、カティアに向けられた。救国の英雄アレキサンダーの旅に同行し、廃都ヴィシュテルの攻略戦で生き延びた数少ない人物だった。

「カティア神官長。貴方が一番の有識者です。現状の戦力で廃都を、いいえ、魔都と化したヴィシュテルを攻略できますか?」

「不可侵領域結界の突破は無理じゃな。先代の神官長ロゼティアが構築した旧帝都の大防壁術。あの術式は解体できぬ。救国の英雄アレキサンダーでさえ、破壊できなかった代物じゃよ」

「祖父は〈闇祓いの玉石〉を用いて結界を破壊した。教皇が所持していた栄大帝の遺産⋯⋯。同様の手段を使えないのか?」

「〈闇祓いの玉石〉は失われてしまった。製法も失われておるのだ。同じ手段は使えぬ」

「他に方法はないのか?」

 レオンハルトは苛立ち混じりに確認する。

「不可侵領域結界の維持には、無限に等しいマナが必要じゃ。その供給を絶てば術式は崩壊するじゃろう」

「無限に等しいマナ。つまり、不可侵領域結界を構築するには、破壊者ルティヤの転生体が必要不可欠なわけですか?」

「そうなる。敵側に器があるのじゃ。こちらと同じようにのう」

「レヴェチェリナは魔帝と呼んでいました。心当たりは? 大神殿の記録には何か記述がありましたか?」

「ない。だが、想像は及ぶ。魔物の器を作ったのじゃろう。信じられぬが、そうとしか説明ができぬ。表と裏、光と闇、相反する対極の存在を創り上げたのじゃ」

 話が逸れそうになり、レオンハルトは強い口調で言い放つ。

「私が知りたいのは一つだ。を破壊する方法はあるのか? それともないのか? どっちだ」

其方そなたの祖父にも言われた台詞じゃな。あるにはあるぞ」

「だったら、勿体ぶらずに教えてくれ。どんな犠牲を払ってでも私は実行する」

「こちらも破壊者ルティヤのエネルギーを使えば良い。魂を奪われ続けているものの、陛下のほうが魔帝に比べて大きい存在じゃ。力を制するのは、より大きな力。大きな問題があるとすれば、陛下をヴィシュテルにお連れしなければならぬ点じゃな」

 問題点を言われた途端、レオンハルトは手の平を返す。どんな犠牲を払ってでも実行する。その意気込みが即座に崩れ去った。

「⋯⋯論外だ。陛下を連れて行くのは危険過ぎる。遠隔ではできないのか? 他の手段は?」

 ベルゼフリートを魔都と化したヴィシュテルに向わせる。想像すらしたくなかった。メガラニカ皇帝は自衛手段を持たない。

 例外は剣技を極めていた栄大帝であろう。だが、力を欲して道を踏み外した破壊帝の例を見れば、皇帝に戦いの業を教えるのは危険を孕んでいる。

「儂らには時間が残されておらぬ。魔帝の力が強大になればなるほど、陛下の魂は減衰し、弱っていくのじゃ。力関係が逆転してしまえば、不可侵領域結界の突破は不可能となるじゃろう」

「敵は陛下の魂魄を盗んでいった。同じ事ができないのか? 盗まれたのなら奪い返せばいい」

「魔帝や大妖女レヴェチェリナとやらに接触できれば可能じゃろうな。しかし、連中が不可侵領域結界の境界を越えるとは思えん。魔都の護りを突破せねば不可能じゃ」

「現地の魔狩人とケーデンバウアー侯爵家からの報告によれば、ヴィシュテルに潜む魔物達は篭城の姿勢です」

「じゃろうな。死恐帝の時代に屍都となったヴィシュテルは五〇〇年の間、不落だったのじゃ。あの都は難攻不落。敵は引き籠もるじゃろう」

「国外の動向も気になります。先ほど、特級冒険者ノエル・ウェイジャーから情報が届きました。何者かが上位種の魔物を帝国内に呼び寄せている。その兆候を確認したそうです」

「特級冒険者のノエルだと⋯⋯? 元帝国兵のくせに、なぜ宰相府に情報を渡す!」

「軍が嫌いだからでは?」

「ふざけた奴だ。名誉除隊にしてやったのに⋯⋯。普通は古巣の帝国軍を頼るべきであろう。まったく⋯⋯。帝国の特級冒険者は、どうしてこうも使いにくい奴ばかりなのだ!」

「その点には同意します」

 メガラニカ帝国の冒険者組合には、二人の特級冒険者がいる。

 一人は〈星詠の大聖ネクロフェッサー〉である。天文監察補助隊ネクロ・アストロモアを率いる歴戦の冒険者にして、規則を平然と破る問題児。

 もう一人の認定者がノエル・ウェイジャー。帝国軍に所属していた過去がある。規律の厳しい軍隊生活に馴染めず、脱走に近い形で除隊し、冒険者に転職していた。つまりは軍が苦手なのだ。

 メガラニカ帝国は他国との国交がないため、諸外国の動向は魔狩人や冒険者、一部の商人だけが貴重な情報源だった。

「特級冒険者ノエル・ウェイジャーによれば、南海の大瀑布だいばくふを縄張りにしていた〈影の魔物〉が消えたそうです」

「連中の魂胆は分かりやい。転移門で大陸中の魔物を喚んでおるのじゃ。破壊者ルティヤの荒魂を使えば、転移の重たいコストは無視できるからのう」

 破壊者ルティヤの転生体はエネルギーを生産し続ける永久機関で。膨大なコストを気にする必要がなくなる。メガラニカ帝国が栄華を極めたのは、無限大の力を自由に使えたからだ。

「刻々と状況は悪化しています。手をこまねいていれば手遅れになる。打って出るしかないでしょう」

 帝国宰相ウィルヘルミナは決断を下した。

「不可侵領域結界を突破する方法は唯一無二。ベルゼフリート陛下を魔都ヴィシュテルに護送し、少数精鋭で帝嶺宮城ていれいきゅうじょうに攻め込み、元凶を滅ぼす。よろしいですね。帝国元帥?」

だと? 実行するのなら全軍を動かすべきだ」

「招集の時間がありません。それだけの猶予を敵は与えてくれない。そもそも廃都ヴィシュテルは大軍で攻め落とせません。だからこそ、救国の英雄アレキサンダーは少数で挑んだ。違いますか?」

「世間には知られていない事実もある。少数精鋭は結構だが、被害も大きくなるぞ。ケーデンバウアー侯爵家が率いた当時の騎士団は壊滅している。アレキサンダーが率いた七人の仲間もそうだ。生き残ったのは、たったの二人だぞ」

 救国の英雄アレキサンダーは七人の仲間を集めた。しかし、そのうち五人は戦死した。生き残ったのはレオンハルトの祖母、そしてカティアだけだった。

「私が言うより、生き証人の貴公が宰相に教えてやればいい。晩年の祖父がどういう状態だったかを⋯⋯」

 アレキサンダー自身も深い傷を負った。心身を蝕む傷は英雄の寿命を削った。

「英雄譚では語られていない歴史もある。帝国宰相はそれでも陛下を連れて行くというのか?」

 レオンハルトは口にこそしなかったが、ベルゼフリートを守り切れる保障がないと匂わせた。大陸最強の猛者といえど、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする魔都ヴィシュテルは死地であった。

「やらなければ滅ぼされる。分かっているはずです。代案があるのならお聞かせ願いますか?」

「代案がないのも確かではある。だが⋯⋯。あぁ⋯⋯分かっている。私のは我が侭だ⋯⋯。はぁ⋯⋯。陛下を戦場に連れて行く⋯⋯最前線に⋯⋯。気乗りはしないぞ」

「護衛戦力の選抜は一任します。ただし、人数は絞ってください」

「分かっている。私の姉妹を連れ行く。我が国の最高戦力だ」

「国境の守備を疎かにもできません。その点は留意してください。陛下に同伴するのは私とカティア神官長、女官からは警務女官長ハスキーを連れていきます」

 女官総長ヴァネッサは三皇后の会議に口を挟んだりはしない。身の程を弁えているからだ。しかし、今回ばかりは事情が違った。

「お待ちください。宰相閣下! なぜ女官総長の私ではなく、警務女官長のハスキーを選ばれるのですか?」

「適材適所です。ヴァネッサは私の決定に不服ですか?」

「はい。不服です。私には医術の心得があり、護衛の任も十分にこなせます。陛下のお世話係であれば、なおさらハスキーよりも私が適任です! ベルゼフリート陛下もそうお考えになっているはず」

 ヴァネッサはベルゼフリートからの同意を求めたが、幼い皇帝は口をつぐんだ。何を言っても角が立ってしまう。無力な皇帝は、女仙の揉め事に口を挟まない。

「女官総長にお聞きします。殺し合いでハスキーに勝てますか?」

「⋯⋯それは⋯⋯おそれながら宰相閣下⋯⋯答えに困ります」

「どうなのです?」

「状況によるかと⋯⋯」

 純粋な殺し合いでは勝つのが難しい。女官総長ヴァネッサが勝利する可能性もあるにはあった。だが、確実に勝てるとは言いがたい。

 そもそも戦闘能力が秀でているからこそ、警務女官長の役職を与えたのだ。

「警務女官長ハスキーを連れて行きます。私の決定に従えないのなら、帝国元帥にも確認を取ってみましょうか。レオンハルト元帥は、ヴァネッサとハスキーのどちらを連れていくべきだと考えます?」

「二人のうちから選べいうのならハスキーだが⋯⋯。女官から選ぶ前提条件付きだぞ?」

 レオンハルトはそう答えたものの、率直な意見を言ってしまえばハスキーですら不要だった。

 女官の中から一人を選ぶ前提ならば、ハスキーを連れていく。しかし、護衛戦力と考えるのなら、軍務省や大神殿の妃を指名する。もはや女官は戦力外だ。となれば、何か他の狙いがあると察した。

「女官総長にはやってほしい仕事があります。この件はあとで話しましょう」

「承知いたしました⋯⋯」

 ヴァネッサは引き下がるしかなかった。警務女官長にハスキーを抜擢したのはヴァネッサだ。ハスキーは信頼している。だが、愛する皇帝を魔都に送り出すというのに、自分が同行できないのは悔しかった。

「もう一人、連れていくべき者がおる。楔を器から離れさせてはならぬ。結びつきが緩んでしまう」

 ベルゼフリートを〈反魂妖胎の祭礼〉から救い出す際、カティアは器に魂の楔を打ち込んだ。

 楔となったのは、触媒に利用されたセラフィーナだった。さらなる補強として、夢を司るサキュバスのウィルヘルミナを送り込んだ。

「私だけでは厳しいですか?」

「むしろセラフィーナが必須じゃよ。器の強度が脆くなっておる。今まで以上に陛下の伽役は重要となる。魂の引き合いに勝たねばならん。より適合した器に魂は定着するのじゃ」

「レヴェチェリナの邪術はセラフィーナの子宮を触媒としていました。再び利用される恐れは?」

「儂の神術式で、セラフィーナはこちら側の触媒に固定しておる。相手側と繋がれれば、盗まれた魂を奪い返せるやもしれん。その危険性を相手が分かっておらぬはずはない。用済みとなったセラフィーナを再び使うことはなかろう」

「分かりました。そういうわけです。話は聞いていましたね? セラフィーナにも同行してもらいます」

「私がヴィシュテルに⋯⋯?」

「ええ。そうです。共に来ていただきます。今の貴方はメガラニカ帝国に忠誠を誓った下僕。そうなのでしょう? 異存はありませんね」

「はい。承知いたしましたわ」

「セラフィーナ。貴方に皇帝陛下のお世話と伽役を命じます」

「謹んで拝命いたします。宰相閣下」

 セラフィーナは神妙な面持ちで叩頭した。大きすぎる巨胸が大理石の床に密着する。四つ這いの姿勢は媚尻の肉付きを際立たせる。

 敵に都合よく利用され、ベルゼフリートを窮地に陥れてしまった。その責任をセラフィーナは痛感していた。

(殺されずに済んだのは運が良かった。私が陛下の魂を繋ぎとめる楔だというのなら、近くでお仕えできますわ。お供いたしましょう。たとえ魔都ヴィシュテルに向う危険な旅路だとしても⋯⋯)

 愛妾が主君に付き従うのは必然。アルテナ王国の女王であったなら、誰かに頭を下げる不様は許されなかった。しかし、現在のセラフィーナはメガラニカ皇帝の後宮で生きる端女はしため。皇帝と三皇后の期待に添えるよう、死力を尽くすのみだった。

 ◆ ◆ ◆

 会議が終わった後、ウィルヘルミナはヴァネッサを廊下に呼び出した。周囲には誰もいない。特にベルゼフリートには聞かれたくない内容だった。

「セラフィーナを同伴させ、警務女官長ハスキーは連れていくのに、女官総長である貴方を残す。私の判断が誤っている。そう思っているのではありませんか?」

「ええ。嘘偽りない本心を吐露するのであれば、その通りでございます。宰相閣下」

「今回の決断は危うい賭けです。レオンハルト元帥が懸念していたように、最悪の事態を想定しなければなりません」

「⋯⋯だからこそ、お許しいただきたいのです! 私は足手まといにはなりません!! 戦闘能力のないセラフィーナを連れて行くのであれば、私がいてもお邪魔にはならないはずです!」

 ウィルヘルミナは誰も聞いていないことを改めて確かめる。

「こちらの最高戦力はレオンハルト・アレキサンダーです。帝国元帥が負ければ、こちらにはそれ以上の切札はありません」

「救国の英雄を祖父に持ち、アレキサンダー公爵家の歴代当主で最強といわれる御方です。敗北はありません」

「どれほどの強者であっても殺される可能性はあります」

 ウィルヘルミナは知っていた。栄大帝の時代にアレキサンダー公爵家の当主が魔物に殺害された。栄大帝に匹敵する剣豪だったという。敗死はありえないと誰もが言った。しかし、殺されているのだ。戦いに絶対は存在しない。

「元帥が死亡もしくは戦闘不能になった場合、ベルゼフリート陛下を帰還させます。勝機が完全に失われたと判断した場合も同様です」

「それは⋯⋯どういう⋯⋯?」

「天空城アースガルズは、これから西海に移動します。我々が敗北したとき、陛下を看取るのは貴方の役目です。哀帝と同じ手段を使います」

「まさか⋯⋯!」

「哀帝を自殺させた寵姫アンネリーの記録を調べました。なぜ哀帝が自死を強いられたのか⋯⋯。今の私達には分かります。皇帝陛下をしいたてまつれば、敵の企みは潰えます。災禍でメガラニカ帝国も滅びるやもしれませんが、魔物に奪われるよりは良いでしょう」

「お待ちください。私にやれと⋯⋯? 私に⋯⋯命じているのですか⋯⋯?」

「他に任せられる者がいません。女官総長ヴァネッサに命じます。レオンハルト元帥が死んでいる状況なら、私やカティア神官長は生きてはいないでしょう。それでも陛下だけは絶対に帰還させます」

「準備はしておきます⋯⋯」

 ヴァネッサは命令を承諾しなかった。準備するとだけ、短く答えた。

「方法はヴァネッサに任せます。苦しませないように⋯⋯」

 敗北が確定したときは、皇帝ベルゼフリートを自害させる。

 天空城アースガルズを西海に移動させるとは、そういう意味だ。亡骸を深海の底に沈めて、起こる災禍の被害を最小限に止める。

 三皇后が不在であれば、皇帝の死を与えるのは女官総長の役目だ。他の者には命じられない。ヴァネッサは留守を命じられた理由を重く受け止めた。

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