2024年 2月22日 木曜日

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【96話】真相への入り口

NOVEL亡国の女王セラフィーナ【96話】真相への入り口
 

 車内のロレンシアは外の喧騒と無縁だった。馬車を牽引する馬達の足が動く。止まっていた車輪がゆっくりと回り始めた。

 関所の衛士は最敬礼の姿勢で静止している。窓越しに視線が重なった。若い衛士だった。おそらくどんな貴人が馬車に乗っているのか気になったのだろう。

 通常、敬礼中に目線を上げるのは非礼にあたる。礼を欠いていた。だが、ロレンシアは微笑を返してあげた。幼い頃、自分も女王セラフィーナの顔を見たくて、ついやってしまった覚えがある。

 そのときのセラフィーナは優しい微笑み返してくれた。

 案の定、かつての自分と同じように視線を向けてきた若い衛士は、先輩に後頭部を押さえ付けられた。ロレンシアも父親にまったく同様の扱いをされた。

(不思議なものだわ。平伏する家臣の側だった私が、今は帝国の衛士に敬意を払われる地位となっている⋯⋯)

 ロレンシアの生まれはフォレスター辺境伯の令嬢。地元の領民からはお姫様の扱いを受けている。けれど、ここまで仰々しくはない。基本的な地位は王族を護衛する近衛騎士。王族に頭を下げる家臣だった。

 そんな中、異様な振る舞いをする者達がいた。帽子を取らず直立不動の一団。関所を進む馬車をジッと見ている。

「なに? あの人達は⋯⋯?」

 馬車には女僧侶のテレーズが同席していた。ロレンシアが借りたのは、優に六人が座れる大きな馬車だ。テレーズを乗せても空間にはゆとりがあった。

「彼らは魔狩人ですね。アルテナ王国では見かけませんでしたか?」

「魔狩人⋯⋯。聞いてはいるわ。でも、アルテナ王国は魔物が出ないから見たのは初めて」

「魔物狩りを専門としている方々ですよ。不敬ではありますが、俗世との関わりを捨てています。彼らはそういう者達です」

「あんな装備をしているのね。本当に猟師みたいな格好⋯⋯」

 メガラニカ帝国は広い領土を持つ。地方では魔物の被害に悩まされている。

 一方でアルテナ王国は滅多に魔物が出ない。魔物が湧くのは国境など、人里離れた地域だけだった。しかし、メガラニカ帝国との戦争で国土が荒れた。今後もそうであるかは分からない。

「私達のような冒険者も魔物を退治します。ですが、魔狩人は魔物だけを狩る対魔の専門家です」

 魔物を駆逐する狩猟者。人々に感謝される存在であるが、同時に畏怖される異質な存在だった。

「魔狩人は冒険者以上に国家への帰属意識がありません。歴史的背景で、メガラニカ帝国は皇帝信仰が根強い国柄です。しかし、魔狩人だけは例外なのですね」

「魔狩人は国境や関所を自由に越える特権持ちと聞いていた。でも、実際はちゃんと関所を通るのね」

「おそらく補給目的でしょう。彼らがわざわざ関所を通るのは、食料や情報を調達するときです。慣習法上、魔狩人に課税や検問はできません。関所の衛士達は素通りさせています」

 魔狩人の頭目らしき人物は、ロレンシア一行に道を譲ると手振りで示してくれた。俗世と交わらぬ魔狩人なりの礼節を帝室に示したようだ。

「⋯⋯メガラニカ帝国には魔物がたくさん出るの?」

「帝都近郊は安全です。ですが、戦争で国内の兵士が不足し、農村部で被害が出ていたと聞きます。ララノアさんは、死恐帝が眠られる前と比べれば、天国だと言っていましたけどね。犠牲者が亡者にならないだけで百倍ましだとか⋯⋯」

「死恐帝⋯⋯。ララノアさんは先帝の時代から冒険者をしているのね」

「ええ。私達のリーダーはベテランです。今回の旅も安全は保証いたしますよ」

 死恐帝の災禍が続いていた時代、メガラニカ帝国の魔狩人は帝国軍と協力関係にあった。本来、魔狩人は国家に組みしない。だが、魔物退治のために協力を一方的に要請してくる事例はあった。

 そんな魔狩人の態度を不遜だとか都合が良すぎると、君主や領主が怒ったりはしない。魔狩人は見返りを求めない者達だからだ。

 魔物を狩り尽くせば、魔狩人は次の土地に移動する。統治する者にとっては、都合のいい掃除屋だった。

 死恐帝の時代は緊急事態でもあった。魔物の大群が跋扈し、魔狩人と帝国軍の協力体制がなければ、人々の暮らしを守れない時代が続いた。国家に与しないと公言する冒険者ギルドでさえ、裏で帝国軍を支援していたと噂されている。

「あの魔狩人達は政府に旧帝都ヴィシュテルの魔物退治を進言したのでしょう」

「新聞に書いてあった気がするわ。宰相府は要請を断ったと⋯⋯」

「英雄アレキサンダーが死恐帝を鎮め、旧帝都を奪還してから数十年、新帝が即位された今も復興は未着手です⋯⋯。魔物が湧きやすい廃墟群となっています」

 魔狩人は掃討作戦の共同実施を強く求めている。しかし、宰相府からの返答は渋い。人員と予算の都合がつかず、着手は無理との結論だった。

 死恐帝の災禍で帝都を放棄してから五〇〇年以上の歳月が経つ。首都機能は現帝都のアヴァタールに移行している。しかし、ドワーフ族を筆頭に不満を抱く者達、旧帝都の復興を願っていた。

 旧帝都ヴィシュテルはドワーフ族の都。現帝都アヴァタールはエルフ族の都だった。

 新旧の帝都問題は、種族の利権争いを内包している。帝国宰相ウィルヘルミナは軽率な判断を下せず、問題を棚上げにしていた。

 ◇ ◇ ◇

 それからの数週間、ロレンシアとヴィクトリカは冒険者パーティーと共にナイトレイ公爵領マルスフィンゲンを巡った。旅費はラヴァンドラ商会から支給される資金で賄えた。宿泊する宿は常に最上位ランクだ。

 この頃になると、ロレンシアとヴィクトリカの逆転した主従関係は、次第に自然体となっていた。ヴィクトリカは地位に固執する狭量な性格ではなかったし、妊婦で苦労の多い旧友を進んで介助した。

 ヴィクトリカは負い目を感じていた。実際、ロレンシアは身代わりになった面がある。

 もしヴィクトリカが王都から逃げ出さず、帝国に身を捧げていれば、ロレンシアがこんな目に遭わなかった。罪悪感で苦しむヴィクトリカは贖罪を求め、ロレンシアに尽くした。

「陛下の昔話はいろいろ聞けたけれど、肝心のナイトレイ公爵家に保護される前、出生は謎のまま⋯⋯。手がかりが一つもないわ」

 ロレンシアは表情を曇らせる。大きな成果をあげられず、焦っていた。

 マルスフィンゲンの中央都市で手当たり次第に聞き込みを行い、住民からの証言は集まった。意外にもベルゼフリートの暮らしぶりは、領民の多くが目撃していた。

 ナイトレイ公爵家の居城で軟禁生活を送っているわけではなく、護衛付きで城下街を自由に出歩けたようだ。

 ——パン屋の主人は言う。

「皇帝陛下? よく知っているぜ! 俺っちの手作り菓子パンが大好きだった! 公爵様のお城で暮らしていたときは、世話係の兎娘と買いに来てくれたよ! 天空城に引っ越しされた後、料理係の女官がやってきて、『菓子パンのレシピを教えてほしい』って頼みにきたんだぜ‼ なあ、一つどうだい? 正真正銘の帝室御用達だ!」

 ——公園の散歩を日課にしている夫人は言う。

「ウィルヘルミナ様と公園を散策されているお姿を見かけたよ。当時はまだ皇帝陛下とは存じなかったわ。陛下のお姿をまた拝見したものねえ。それにしても貴方、お腹が大きいわねえ。出産予定日はいつ?」

 ——獣人向けの服を作っている仕立屋は言う。

「陛下は護衛を引き連れて城下街によく来ていたよ。私の店? 服を買いに来ていたんだ。ネルティは良い子だったね。陛下が気に入るのも分かる。言葉遣いは荒っぽいが素直な娘さ。血の繋がった姉弟みたいな仲だった。宮廷でも仲良くやっていると嬉しいねえ」

 ——魔術具を取り扱っている魔導師は言う。

「僕は気付いていたよ。あの白髪の幼子が皇帝陛下だったとね。考えてもみなよ。新帝が即位されればウィルヘルミナ様は妃となられる。そんな高貴な女性が幼子とはいえ、男を連れ添うのは風聞が悪い。だけど、ウィルヘルミナ公爵は気にしていなかった。もう分かるだろう? 連れているのが皇帝陛下だったからさ。ウィルヘルミナ様の慧眼で、マルスフィンゲンは皇后直轄地になった。ありがたい話さ」

 ——市場でアクセサリーを売っている商人は言う。

「よく覚えているよ。護衛の殺気が半端なかった。陛下と兎族の世話係が市場で買い物をしているときだ。飛獣に乗った商人が真上を通ろうとしたんだ。そしたら、護衛の魔術師は飛獣を撃ちとしたんだ。威嚇や警告はなかった。その日、上空を飛ぶなと勧告はあったさ。でも、あんなのは始めてだ。撃ち落とされた飛獣と商人は大怪我をしたよ。護衛は殺すつもりで攻撃したんだ。ところで、安産祈願のアクセサリーはどうだい? 安くしておくよ。お若い奥様」

 ——喫茶店の店主は言う。

「店に来ていたよ。珈琲を出したら、こんなの泥水だと言われてしまった。うちの珈琲は苦味が強いから仕方ない。周りの護衛さんは笑ってたかな。口直しに甘いチョコレートココアを出してあげたら喜んでくれた。お客さんは帝都から? 戦勝式典のパレードで陛下のお姿を見たのかい? 店の仕事がなければ、私も陛下の尊顔を拝みに行きたかった」

 何人かの市民はベルゼフリートが、とんでもない大物だと気付いていたようだ。

 買い食いをするときは、随伴の神術師が毒物検査術式で調べ、毒味していたという。物々しい警備体制が敷かれていた。白髪の少年こそがナイトレイ公爵家の次期当主だと噂する者までいたという。

 ナイトレイ公爵家の私設騎士団から選抜された精鋭の護衛達は、命に代えてもベルゼフリートを守れと厳命された。ベルゼフリートが新帝だと知らされていたのは、ナイトレイ公爵家の一部と護衛者のみであった。

 ロレンシアはマルスフィンゲンで地道な聞き込みを続ける。しかし、ベルゼフリートの出生を知る者はいなかった。

 ウィルヘルミナが何処かからベルゼフリートを連れてきた。分かった事実はそれだけだった。

 ◇ ◇ ◇

 ある日、ロレンシアは聞き込みのために城下街を歩いていた。すると、関所で出会った魔狩人の一団がいた。彼らは寄り道をしながら、徒歩で来たらしい。今日、マルスフィンゲンに到着したようだ。

「ちょっとまった⋯⋯! ロレンシア様、あいつらに話を聞くのは無理だと思う。魔物以外は興味がない連中だ」

 狐族のエルフィンはロレンシアを呼び止めた。

 冒険者の立場を弁えている。一線は引いているものの、ロレンシアが皇帝の過去を探り回っている事情は把握した。

「魔狩人は色々な領地を渡り歩いているのでしょう? もしかしたら何かを知っているかもしれないわ」

 重たそうなお腹を抱えるロレンシアは、魔狩人達が陣取る酒場の野外席に近づく。

「——我々に何か御用かな? お若いご婦人」

 代表者の魔狩人が口を開く。顔に不可思議な刺青を彫った初老の男性だった。よく見れば魔狩人達は顔や首に刺青を彫っている。刺青は魔狩人の証となっているようだ。

「知っていれば、教えてほしいわ。皇帝陛下の話を知っているかしら? かつてナイトレイ公爵家で暮らしていた昔の話よ」

「この地で破壊者ルティヤの転生者が過ごしていたのは知っているとも。有名な話だ。我々でなかろうと帝国で暮らす人々は知っているだろう」

「陛下がナイトレイ公爵家に保護される以前の話はどう? どんな些細な噂でもいいの。報酬はちゃんと払うわ」

「お若いご婦人よ。魔狩人は補給と宿泊以外で金銭の授受をしない。魔狩人は俗世に関わらぬのが掟」

「そうなの。知らなかったわ」

「ご婦人はロレンシア・フォレスター殿だろう? アルテナ王国の貴族で、メガラニカ帝国においては皇帝に仕える女仙。あまりにも国権に近すぎる。なおさら、金銭を受け取らぬな」

「邪魔をしてごめんなさい。あれ? ちょっと待って。変な言い回しだわ。金銭を受け取れない? 知らないわけじゃないってことよね?」

「⋯⋯⋯⋯」

「魔狩人は知っているのね⋯⋯?」

「魔狩人は金銭を好まない。しかし、魔物狩りの取引と情報は歓迎する。巡り合わせに感謝しよう。そのお身体で立ち話は疲れるだろう。ご婦人に席を用意しなさい」

 初老の魔狩人は、仲間に命じて椅子を用意させる。膨らんだお腹を重たそうに抱える赤毛の妊婦は喜んで座った。足を休めたい気持ちもあったが、それ以上に有益な情報を得られそうな期待感で興奮していた。

 酒場の野外席でロレンシアは、初老の魔狩人とテーブル越しに向き合う。目敏い魔狩人はロレンシアの同伴者に視線を移した。

「そちらの御方は、そのままでよろしいかな。身重のご婦人には配慮が必要だ。けれど、血統には礼節を払わぬものでな。無作法を許してほしい」

 狩人帽子を深く被った魔狩人は、間違いなくヴィクトリカを見ていた。

「⋯⋯っ!?」

 五人の女冒険者がいる中で、目立たぬ従者の振る舞いをしていたヴィクトリカに語りかけた。「貴様の正体を知っているぞ」と言わんばかりの口調だった。

「⋯⋯私はお構いなく。単なる付き添いだから」

 ヴィクトリカはぶっきら棒に言い返した。

「構わんと。我々は名乗らない。魔狩人に名誉は不要。魔物を狩り、人々の安寧を守る。人同士の争いには関わらぬ。それが絶対の掟だ。よろしいかな?」

 ロレンシアは唾を飲み込む。魔狩人の遠回しな警告だ。政争には巻き込むなとの警告。その意図を察した。

「分かっているつもりよ。お金はいらないのでしょう。それなら、私に何をしてほしいのか教えなさいよ。欲する見返りは何?」

「ご婦人は皇帝の子を宿している。宮廷事情には疎い。しかし、高位の妃を除けば、一握りの寵姫だけが子を成せると聞く。ご婦人は妃ではないし、女官ですらない。異国から嫁いだ身でありながら、皇帝と親密な関係にある。戦勝式典のパレードを拝見したが、皇帝に好かれていると見えた」

「どういう意図の質問? 陛下からは可愛がってもらっているわよ。とても⋯⋯たくさん⋯⋯」

 ロレンシアの頬が紅潮する。胎児の宿る孕み腹を撫でた。愛するベルゼフリートの血を引く胎内の赤児達。ショゴスの苗床胎に宿った子供は、巨大に膨れ上がったロレンシアの愛欲を証明していた。

「我々は魔物を狩り尽くしたい。懸念は旧帝都ヴィシュテルの荒廃だ。英雄アレキサンダーが死恐帝を鎮めてから数十年、亡者の群れは消え去った。しかし、放置すれば悪しき者の巣窟となりかねない」

「旧帝都ヴィシュテルの問題ね。聞き及んでいるわ」

「幾度も陳情はしているが、帝国は隣国とのに夢中で、対処を怠っている。ほとほと困っているのだ」

 ヴィクトリカは下唇を噛む。魔狩人が下らないと吐き捨てる戦争で、アルテナ王国は滅びかけている。

 魔狩人にとって国家の存亡は小事だ。魔物の被害を抑える。魔狩人の目的は明確だ。アルテナ王国が滅びようと何ら問題はない。魔物を抑えられるのなら、メガラニカ帝国の征服統治でよいと思っているはずだ。

「国民議会の代表や護民官、ドワーフ族の大頭目達に働きかけた⋯⋯。しかし、評議会が動かなければ宰相府は動かない。宰相府が動かねば、軍務省も動かぬ」

 現下、メガラニカ帝国の実権を握っているのは、帝国宰相ウィルヘルミナだ。三皇后の筆頭者が頷かなければ帝国は動かない。

「雁字搦めなのだ。魔狩人の戦力のみで旧帝都ヴィシュテルに巣くった魔物どもは掃討できぬ。帝国軍を動かし、冒険者ギルドに大規模な魔物退治の依頼をしてもらわねばならん」

「私にしてほしいのはそれ?」

「そうだ。皇帝に働きかけ、可能であるなら三皇后を動かしてほしい。隣国との戦争などやめて、足下の火を消すべきだとな。今は小火だが、いずれは国を焼く大火となるやもしれん」

「分かったわ。できると思う。私がお仕えするセラフィーナ様はアルテナ王国の女王よ。戦火の拡大を望まれていないわ。確実に結果が出せるとはいわないけど⋯⋯。内政に専念してほしいと働きかければいいのでしょう?」

「宰相府は予算の都合と返答してきた。隣国との戦争で増大した軍事費が減らぬというのだ。戦争が遠退けば、無益な人殺しではなく、魔物殺しに金を使う気になる。我ら魔狩人は戦乱の終息を所望しておる」

「⋯⋯三皇后を動かすには強力な武器が必要だわ。情報が必要よ。私は陛下の過去を探っている。魔狩人は陛下の何を知っているのかしら?」

「今から八年前、魔狩人の部隊が全滅した。救援要請の飛翔虫が我らの元に届き、部隊を編成して現場に向かった。場所はシーラッハ男爵家の関所。だが、到着したときにはナイトレイ公爵家の騎士団が事態の収拾を図っていた」

「シーラッハ男爵家⋯⋯?」

「マルスフィンゲンの東に領地を持つナイトレイ公爵家の分家だ。関所で魔物が湧いたと人々は言った。現場に踏み入った我々は怪しんだ。ナイトレイ公爵家に止められたが、魔物狩りのために押し入った」

「それで魔物を退治したの?」

「いいや。魔物の姿どころか、痕跡もなかった。魔物が現れた大地は魔素汚染が起こる。ところが荒れ果てた関所には残滓がなかった。そもそも関所には破魔石があった。魔物除けの退魔結界は機能していた」

「つまり魔物はいなかった? でも、それなら人々は何を見たの?」

「目撃者はいない。腐乱死体の山はあった。関所に詰めていた衛士、通りがかった民間人、飛翔虫を飛ばした魔狩人。いち早く到着したナイトレイ公爵家の騎士達が犠牲者を弔っていた」

 魔物が存在していれば、魔狩人は問答無用で介入する。しかし、人間同士の争いには関われない。たとえ、同胞の魔狩人が抗争に巻き込まれて死亡したとしてもだ。

 魔物絡みでなければ、戦う理由とはならない。

「我々は手を引くしかなかった。ナイトレイ公爵家には盗賊団の仕業であると言い張られてしまった。だが、関所の衛士はおろか、訓練された精鋭の魔狩人が賊徒如きに負けるなどありえない」

「話が見えてこないわ。その事件と皇帝陛下がどう関連してくるわけ?」

「関所を制圧した騎士団を率いていたのは、爵位を継ぐ前のウィルヘルミナ嬢だ。ナイトレイ公爵家は公家の一門。しかし、次期当主は公爵家の私設騎士団を率いる古い伝統がある。象徴的な旗手でしかないが、あの場にはウィルヘルミナ嬢がいた。――おそらくは唯一の生存者にして惨劇の目撃者だ」

 初老の魔狩人は、真相の核心をロレンシアに告げる。

「ナイトレイ公爵家の居城や邸宅で、白髪の少年が暮らすようになったのは、関所の事件が起こった直後だ。無関係に思えるかね?」

 点と点がつながり、一直線でつながった。

「他の情報を教えよう。シーラッハ男爵が殺され、領主殺しの罪で処刑された男がいた。その男はシーラッハ男爵家の領地で暮らす森番だという。処刑を目撃した魔狩人によると、罪人は浅黒い肌、濁りのある白髪だった」

「浅黒い肌で白髪⋯⋯!? それって陛下と⋯⋯?」

 外見的特徴が一致している。

「処刑された男には妻子がいた。しかし、妻子は処刑現場にいなかった。即決裁判で護民官は族滅を求刑し、司法神官は領主殺しの男に“族滅”を言い渡した。妻子は逃げおおせ、今にいたるまで見つかっていない」

「⋯⋯それは⋯⋯それって⋯⋯!」

「我々がご婦人に情報を渡したのは、旧帝都の魔物狩りを円滑に進めるためだ。この点はお忘れなきように」

「⋯⋯⋯⋯」

「もっと知りたいのなら、シーラッハ男爵家の領地に向かわれるとよろしい。森番に死刑を言い渡した神殿の巫女は墓守となった。巫女は全てを知っている。どこまで話してくれるかは分からぬがな」

「魔狩人はどこまで知っているのよ? これがとてつもない価値を持つ情報だと気付いていたはず。回りくどいわ。私じゃなくて、レオンハルト元帥に教えて大きな貸しとすればいいじゃない。旧帝都の魔物狩りは円滑に進むはずよ」

「レオンハルト元帥は正善なお人柄だ。かつて皇帝の秘密を調べたカティア神官長と同じ結論にいたる。皇后は幼い皇帝の心を傷つけられない。この世には、忘れてしまったほうがいい事実もある」

「私が追い求める真相は、皇帝陛下の御心を傷つけてしまうの?」

「魔狩人は深入りできない。これで話は終わりだ。旧帝都の魔物狩り。メガラニカ帝国の皇帝ならびに三皇后を動かしてほしい。よろしく頼む。お若いご婦人」

 初老の魔狩人は意味深な笑みを作った。これ以上の情報は渡さないと表情が物語っている。

 八年前の真相を知りたければ、シーラッハ男爵領地にいるという巫女から話を聞き出すしかなかった。


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