セラフィーナの意識が覚醒する。
目覚めた世界は、景色の輪郭がぼやけていた。五感で感じる全てに現実味がない。絵画の中に迷い込んでしまったかのようだった。
「ここは? いったい⋯⋯?」
無意識のうちにお腹を撫でる。
(えっ⋯⋯?)
妊娠でお腹回りが膨らんでいるはずだった。しかし、なぜかほっそりと痩せている。身軽な身体となっていた。
(この服は⋯⋯? 何の素材で編んでいるのかしら? ごわごわしている。着心地がとても悪いですわ)
貧相な麻布の薄衣を着ていた。王族生まれのセラフィーナは、こんな見窄らしい服を身につけた覚えがなかった。
「夢のわりには意識がはっきりしていますわ。これは本当に夢? 現実ではなさそうだけれども」
重たい荷物を背負い、未舗装の農道を歩いている。左右に広がる田園地帯では、見慣れない植物が育てられていた。
(⋯⋯見覚えのない作物ですわ。帝国の特産品かしら?)
セラフィーナが生まれ育ったアルテナ王国では見かけない穀物だった。
「パパ、ママ。僕、疲れた⋯⋯。もう歩きたくない! 足の裏が痛いよ」
視線を下に移すと、そこにはベルゼフリートらしき男児がいた。ただし、セラフィーナが知っているベルゼフリートより遥かに幼い容姿だ。
(この子? 幼いころのベルゼフリート⋯⋯?)
背丈は四歳児ほど。特徴的な浅黒い肌、黒みのある灰色髪、整った顔立ち。今とさほど変わらない。年相応の愛らしさがある。
とてとて、と歩く様子は初々しい。疲れてへたり込んでいる。つい抱きかかえたくなった。
「――駄目だ。休めない。夜までにあの山を越えるぞ」
先頭を進む男は大荷物を背負っていた。
頭髪は灰色。ベルゼフリートよりも肌の色は濃かった。細身ではあるが、がっしりとした筋肉質な体付きだ。
(もしかすると、あの男性はベルゼフリートの父親かしら?)
後ろ姿しか見えないが、魅力的な美男子だった。ベルゼフリートが成長し、大人になったらこんな男性になる。セラフィーナはそう思った。
(これは私の夢じゃない。ベルゼフリートが見ている夢⋯⋯? いいえ、きっと違うわ。もしかすると⋯⋯私は過去を見ている?)
セラフィーナには娘のヴィクトリカと違い、特別な異能がなかった。しかし、他人の過去を覗き見ている。
(理屈はわからないけれど、私は過去を追体験しているわ)
この世界はベルゼフリートの封じられた記憶を再現していた。
ベルゼフリートの母親を通して、過去の世界を幻視している。メガラニカ帝国の田園地帯を一家は歩いていく。家族は何者かに追われていた。小さな子連れだというのに早足だ。
(荷物が多すぎますわ。旅行には見えない。どこかへ引っ越しをするのかしら⋯⋯?)
砂利道に足を取られて、立ち上がろうとしたベルゼフリートは躓いてしまう。
(可哀想に⋯⋯。歩き疲れてしまったのね)
見かねてセラフィーナは、抱きかかえてあげようとした。父親は重たい荷物を持っている。これ以上の荷物は抱えきれそうにない。
「ママ、大丈夫。×××は私が背負うわ。ママだって疲れているでしょ。私はぜんぜん平気だから」
最後尾を歩いていた若い娘が駆け寄ってきた。名前だけが、上手く聞き取れなかった。足を止めたベルゼフリートを背負う。
「ありがと。お姉ちゃん⋯⋯」
「いいのよ。×××はとっても軽いから」
ベルゼフリートから「姉」と呼ばれた娘は、ヴィクトリカと同じくらいの年齢だった。十代半ばだろう。肌の色は弟より若干白く、金髪の美しい少女だ。
(ベルゼフリートには姉がいたのね。母親似みたいですわ)
セラフィーナは自分の肌を確認する。白肌ではある。だが、真っ白ではなく色が濃かった。髪の毛は金色。しかし、絹のような滑らかさはない。
(不思議な感覚ですわ。他人の体を経験するなんて⋯⋯。私はベルゼフリートの母親となっているわ)
セラフィーナはベルゼフリートの母親とすり替わっていた。しかし、視点と感覚を共有するだけで、再現された過去を変える力はなかった。
既定という名の筋書きをなぞっていく。
「ねえ、あなた⋯⋯。少しだけ休憩しましょう。子供達が疲れているわ。朝からずっと歩きっぱなしなのよ?」
「兵士は馬を使って追いかけてくる。日暮れまでに山道まで進むぞ。険しい山道は馬で進めない」
「⋯⋯だけど、もう×××は歩けないわ。明日はもっと疲れてしまう。子供達に長旅は無理だわ。どこかで休まないと」
「無理をさせているのは分かっている。だが、このままだと殺されてしまう。俺だけならまだしも、子供達まで吊し首になるんだぞ!」
「⋯⋯⋯⋯」
「領主殺しは一族郎党死刑だ。俺らの言い分なんか聞いちゃくれない。無理をしてでも、俺達は進まなきゃいけないんだ⋯⋯!」
メガラニカ帝国でもっとも重い罪は主君殺しであった。
弑逆の法定刑は極刑のみ。重罪たる理由は、五〇〇年にわたって続いた死恐帝の災禍に起因する。
約五〇〇年前に起きた皇帝殺し。死恐帝の祟りは、帝国に破滅的災厄を生じさせた。
死恐帝を鎮めるため、帝国の人々は暗殺に組みした反逆者を痛めつけ、残虐な方法で処刑した。一日でも早く死恐帝の怒りが収まり、安らかに眠って欲しいと願った。
――死恐帝の災いは終わらなかった。
何ら意味のない贖罪行為は続いた。反逆に対する刑罰はより苛酷となった。
帝国法で領主殺しは族滅と定められた。例外はない。実行者の親族は乳幼児にいたるまで縛り首となる。
「ケーデンバウアー侯爵領まで逃げるぞ。少なくとも子供達は助かるはずだ。あの侯爵なら助けてくださる。大逆犯の子孫を保護する慈悲深い領主様だ。幼子を殺したりはなさらない。きっと温情をくださる」
父親は藁にも縋る思いだった。何とか子供達だけでも助けたいのだ。
「あなた⋯⋯。ケーデンバウアー侯爵領は遠すぎるわ。普通なら馬車を使わないと移動できない距離なのよ? とても子供達を連れては行けないわ⋯⋯」
「それでも行くしかないだろ⋯⋯! 他に方法があるか?」
「ナイトレイ公爵家に事情を説明すれば⋯⋯。厳しいけれど、慈悲をくださるかもしれないわ」
「山で暮らす賎民の話なんか信じちゃくれない! 殺してしまったシーラッハ男爵は、ナイトレイ公爵家の分家筋だ。しかも、次期当主はシーラッハ男爵家からの養女だ。噂で俺は聞いたんだ。許してくれるはずがない⋯⋯」
セラフィーナは父親の口から出た言葉を反芻する。ウィルヘルミナ・ナイトレイの名が脳裏に浮かんだ。
貴族は血統で地位を世襲する。世継ぎに恵まれない家はどうするか。分家から養子をもらって、本家の断絶を回避するのだ。アルテナ王国でもよく行われていた。
(シーラッハ男爵を殺した⋯⋯? 私の生まれ育ったアルテナ王国でも貴族殺しは極刑だったわ。きっとメガラニカ帝国だって同じはずよね)
夫婦の断片的な会話からセラフィーナは状況を理解する。ベルゼフリートの父親は領主のシーラッハ男爵を殺してしまったようだ。
(なぜなのかしら? 反乱でもなければ、民が領主を殺したりしないわ。どうして?)
領主殺害にいたる事情や背景がまったく見てこない。意図して殺したとは思えなかった。領主に反逆する理由がこの一家には存在しない。
「パパ。ママ。ケーデンバウアー侯爵は私達を助けてくれるの?」
質問したはベルゼフリートの姉だった。
彼女くらいの年齢ならば貴族殺しの意味を知っている。一方、幼児のベルゼフリートは状況を飲み込めていないようだ。
「ちょっと風変わりな御方だけど、とっても聡明な貴族様よ。ママはケーデンバウアー侯爵の救貧院で育ったの。私達のような平民に寛大で、種族や地位に関係なく、平等に接してくださるわ」
地方自治は領主の権限に基づく。帝都アヴァタールには国民議会や軍務省など、各種の統治機構が存在する。しかし、地方では事情が異なる。細かな自治は領主に一任されていた。
ナイトレイ公爵家は古風な大貴族だった。
帝国法を遵守し、風紀に厳しい。悪評ではない。ナイトレイ公爵家は護民官や司法神官の目を欺き、圧政で領民を苦しめる悪徳貴族ではなかった。
領地で刑罰の軽重に差があるのは、広大な領土を持ち、多種多様な種族が暮らすメガラニカ帝国の特性だ。
ナイトレイ公爵家および傘下の分家は、徹底した法治主義を標榜している。
一切の不正を許さず、厳正な法制度で領地を治めていた。好ましい言い方をすれば清廉潔白。悪く言えば、柔軟性を欠く峻烈。現地の裁判を担当する司法神官は、領地の方針を尊重する。
保守派がいる一方、開明派と称されるケーデンバウアー侯爵家は、情を重んじる貴族だった。死恐帝の時代、帝国貴族で唯一、大逆犯の子孫を保護した逸話で知られる。
苛酷な刑罰に対しても否定的だ。一族全員を死刑する「族滅」をいち早く廃止している。
「あと半日歩けば、ケーデンバウアー侯爵領まで続く山道に出る。猟師仲間から教えてもらった地図に載っていない道だ。厳しい峠越えになるが、関所を通らずに済む。⋯⋯お前達はそっちを進め」
「あなた⋯⋯?」
「俺は街道を戻る。別行動だ」
「いけないわ! 街道に戻ったら捕まってしまう! 殺されるわ‼」
「俺はどうせ助からない。ケーデンバウアー侯爵がどんなに慈悲深い人物だろうと、実行犯の免罪はありえない。どうせ死ぬのなら、どこで死のうと同じだ。俺が囮になる。お前達は逃げろ」
「そんな⋯⋯っ!」
「気にするな。最低限の荷物だけ持っていけ。逃げ延びて、シーラッハ男爵を殺してしまった事情をケーデンバウアー侯爵に説明するんだ」
父親は覚悟を決めていた。子連れの遅々とした歩みでは、追っ手の兵士に追いつかれる。
(あぁ⋯⋯。分かってしまう。自分を犠牲にしようとしている。この方は死を受け入れているわ)
妻子を守ろうとする姿は、戦地に赴いたガイゼフの姿と重なった。
メガラニカ帝国との戦争が始まったとき、帝国軍の越境を防ぐため、イヒリム要塞に向かったガイゼフと同じ眼をしていた。
ベルゼフリートの父親は、それより重たい覚悟を背負っている。
街道に戻れば兵士に捕まる。確実に処刑されるだろう。死地に赴くのではなく、死そのものに進んでいこうとしているのだ。
「子供達を頼んだぞ。ケーデンバウアー侯爵は、あのアレキサンダー公爵と繫がりが深い。国を救った英雄の一族だ。正義を重んじている。たとえナイトレイ公爵家が出てこようと、子供達を守ってくださるはずだ⋯⋯!」
ベルゼフリートの母親は覚悟を汲み取る。もはや夫を引き留められない。
我が子を殺される悲痛をセラフィーナは知っている。
帝国軍は息子のリュートを処刑した。愛する家族を失う悲しみ。精神的苦痛は、淫女に堕ちた今だろうと忘れてはいなかった。
「駄目っ! パパ! そんなの⋯⋯! パパが死ぬなんて、そんなの、絶対におかしい! ⋯⋯だって、殺したのはパパじゃない! 私なのに⋯⋯!!」
娘が叫んだ。父親は周囲を見渡し、誰にも聞かれていないか確認する。その目は見開き、顔色は真っ青になっていた。
「やめろ⋯⋯っ! 絶対に口にするな!! 俺がやったんだ。お前は見ていただけだ。シーラッハ男爵を殺したのも、死体を山に埋めたのも俺だ。俺が一人でやった。分かったな?」
姉に背負われている男児は、会話の一部始終を目撃していた。
(ナイトレイ公爵家が、皇帝の出自を徹底的に秘匿している理由! これに違いないわ。宰相ウィルヘルミナと皇帝ベルゼフリートが血縁関係にあると疑われたときでさえ、ナイトレイ公爵家は反論をせずに沈黙をしていた。過去を掘り起こされたくなかったから、言い返せなかった⋯⋯)
セラフィーナは確信する。ベルゼフリートの一家は逃げ切れなかったのだ。
もしケーデンバウアー侯爵家の領地まで、逃げ切っていたのならヘルガ王妃はこの事実を知っているはずだ。
(王妃ヘルガ・ケーデンバウアーは皇帝の過去を知らなかったわ。もし、逃げ延びていたのなら、最初に皇帝を発見したのはケーデンバウアー侯爵家となっていたはず。けれど、実際に皇帝を最初に保護したのは、ナイトレイ公爵家だった。そのとき、ベルゼフリートの父親、母親、姉はいなくなっていた⋯⋯!)
もしもナイトレイ公爵家が、ベルゼフリートの肉親を処刑していた。
その過去が明るみとなったら、どうなるだろう。しかも、あと少しで皇帝さえも処刑しかけていたとしたなら。それは致命的な不祥事だ。
(発端の領主殺し⋯⋯。シーラッハ男爵をベルゼフリートの姉が殺した。その殺人だって、原因がシーラッハ男爵の側にあったとしたら?)
ベルゼフリートの父親は言った。
事情を説明すれば絶対にケーデンバウアー侯爵は助けてくれる。アレキサンダー公爵が救ってくれる。
その言い振りから察するに、領主殺しに関して、同情や酌量の余地があると思われた。
(勝てるっ⋯⋯! あぁ⋯⋯これがナイトレイ公爵家の秘密なのですわっ! 隠された真相を掴めば、あのウィルヘルミナ宰相を手玉に取れる⋯⋯‼)
過去を再現した夢の世界が歪んでいく。
セラフィーナは自分の身体が、元の自分に戻っていくのを感じ取った。お腹が膨らみ、乳房の重みが増す。身長も伸びて、金色の長髪は絹の肌触りとなる。
(うっ⋯⋯! 夢の世界が閉じる⋯⋯! 私の赤ちゃんが胎内で動いていますわ⋯⋯! これは夢じゃないっ! 現実の感覚⋯⋯っ!)
空間が渦巻き状に収縮する。セラフィーナの臍に吸い込まれていった。
ベルゼフリート自身ですら忘却した過去を覗き見れた理由に、セラフィーナはようやく勘付いた。
(分かった気がしますわ。お腹にいる赤ちゃんは、特別な異能を宿しているっ! だから、私はベルゼフリートの過去を覗き見ることができた⋯⋯! 胎児を通じて、過去の出来事を体験してしまったんだわ!)
異能を発動させていた胎児は、疲れて眠ってしまった。夢の世界は閉じる。
セラフィーナは現実に引き戻された。夢の中でもはっきりとした意識を持っていたが、今度こそ本物の世界で目覚めた。
◇ ◇ ◇
「——はぅっ! んぅ⋯⋯。んっ、はぁ⋯⋯はぁはぁ⋯⋯!」
セラフィーナは両目を見開く。今となっては見慣れた黄葉離宮の主寝室に戻ってきた。
隣に寄り添うベルゼフリートを見つめる。セラフィーナの乳房を吸いながら、すやすやと寝息を立てていた。
(甘えている顔は小さいころから、変わらないみたいですわね)
ベルゼフリートは母親に甘えている夢を見ているのかもしれない。
セラフィーナが見た通りなら、ベルゼフリートの母親は金髪だった。ベルゼフリートは父親似で、姉は母親似なのだ。
「オチンポ、朝勃ちしているのかしら? 眠っているのにこんなに硬くなっているわ。くふふふ♥︎」
セラフィーナは就寝中のベルゼフリートを起こさないよう慎重に動く。体勢を変え、少年の矮躯に覆い被さった。オッパイを吸わせたまま、勃起オチンポに女陰を降ろす。
ズブッ!と亀頭の先端を裂け目に捻じ込む。極太の男根を妊娠オマンコで包み込み、恍惚の表情を浮かべた。
(この子を私のモノにしてみせますわ⋯⋯♥︎ アルテナ王国を守るためですもの♥︎ メガラニカ帝国の宰相を意のままに操れる弱味。糸口は見つけた! あとは証拠を掴むだけ⋯⋯!)
ベルゼフリートを眠姦しながら、セラフィーナは野心を燃え上がらせる。
かつての女王は清純でお淑やかだった。陰謀や策謀とは無縁、無垢で潔白な慈母。この半年足らずで、セラフィーナの心は変貌した。
「おっ⋯⋯♥︎ あんっ⋯⋯♥︎ んおぁっ⋯⋯♥︎」
豊満な双乳をベルゼフリートの願面に押し当て、尻をゆるやかに前後させる。オマンコで咥えたオチンポを搾る取る。高めた膣圧で射精を煽った。
(幼い皇帝を私の身体で籠絡する! 心を虜とすれば、メガラニカ帝国の宮廷で強大な権力を得られる。妃位は不要だわ。だって、皇帝と妃を操る影の僭主となればいいのだから⋯⋯!)
ベッドがギシギシと軋んだ。二人の身体を覆おう薄手の毛布が、激しく蠢いている。
今はユリアナが休憩に入っている。その代わり、四人の警務女官が室内にいた。セラフィーナが何をしているのかはお見通しだ。
ベルゼフリートに危害を加えない限り、警務女官は手出しはしない。セラフィーナの眠姦は夜伽の範囲内だ。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯♥︎ んぉっ♥︎ んぅっ、んゅうぅぅうぅう⋯⋯♥︎」
安眠中のベルゼフリートから、たっぷりと精子を搾り取る。
セラフィーナの遠い先祖、淫魔の気質が顕現していた。昨晩は夕食を抜いている。餓えを感じていた。
性的快楽は飢餓を忘れさせる。子宮内に放精させた子胤で、胃袋の空腹を誤魔化した。
「くふふふふ♥︎ もっと⋯⋯♥︎ もっと私のオマンコを味わってくださいっ♥︎ 私にも陛下のオチンポを愉しませて⋯⋯♥︎」
三十六歳の熟れた人妻の女王は、十三歳の幼帝を眠姦で犯し抜いた。
全ては祖国アルテナを守るためだと言うだろう。
幼帝の心を操るために、女の武器である肉体を使って誘惑している。だが、そんな言い訳は戯れ言だ。自身の本心を偽っている。
セラフィーナは、淫女と化した。ベルゼフリートとのセックスを欲しているのだ。ガイゼフに誓った夫婦の愛は強い。しかし、恋心とは知らず知らずのうちに、移ろっていくものだ。
人妻女王の愛心の大部分は、若すぎる間男に注がれていた。
ガイゼフやヴィクトリカ、処刑されたリュートへの家族愛は失われていない。帝国を憎む気持ちはある。しかし、ベルゼフリートという一人の少年を愛し、執着する感情は、セラフィーナの中で最も強固な意志へと成長していた。
(この子が私を捨てる⋯⋯? くふふふっ♥︎ ありえないわ。ネルティさんは本当のベルゼフリートを理解していない。分かった気になっているだけ。この子は寂しがっている。だから、私が包み込んで、愛して、支配してあげますわ⋯⋯♥︎)
不遜な欲望を抱くセラフィーナは、ネルティの諫言を嘲笑う。皇帝の男心を理解していない小娘と見下し、心の醜さを増長させた。
セラフィーナには飛び抜けた美貌がある。
大陸随一と中央諸国に噂が届く美しい顔立ち、色香溢れる女体、柔らかな金糸の如き御髪。外見の魅力は、大言壮語するに相応しい実力が備わっていた。
(アルテナ国を侵略し、女王たる私を辱めた報復ですわ。メガラニカ帝国の妃達が一番大事にしている皇帝を掠奪してやるわッ♥︎ くっふふふふふ⋯⋯♥︎)
胎児の異能を借りて、セラフィーナが過去の断片を垣間見たころ、ロレンシアとヴィクトリカはシーラッハ男爵領を訪れていた。
――従者と王女は、皇帝の秘された過去に辿り着く。