天空城アースガルズで、神官達が暮らすエリアは禁裏と呼ばれている。停泊する際は、禁裏を北側へ置くようにされていた。
神官長の皇后カティアを頂点に、王妃4人、公妃5人が暮らしている。妃に仕える側女も含め、禁裏に住むは者達は全て神官だ。
神官達の職務は皇帝を祀る儀礼。そして司法神殿を隷下に置く最高裁判所の組織運営であった。神官の出身種族はエルフ族などの長命種が大半を占める。そのため神殿仕えの妃達は長老派と呼ばれる。
「そこまで目くじらを立てることかな?」
その日、皇帝ベルゼフリートは神官長カティアの暮らす大神殿に滞在していた。
最高裁判所の長官にして、長老派の指導者であるカティアは、皇后特権で皇帝を招来した。
「査問会ね。ウィルヘルミナは僕には何も教えてくれなかった。小難しい事情は分からないけど、騒ぎを起こした近衛騎士団は解散したんだから、それで終わりでいいじゃん」
「近衛騎士団を解散したからといって、それで済む問題ではないのう。儂も宰相府の方針に同調しておるぞ。アルテナ王国の責任を問うつもりなのであろうな」
ハイエルフの少女。カティアの見た目は十三歳のベルゼフリートと大差ない。
二人が並べば同年代の少年と少女に見える。しかし、カティアは長命種のハイエルフ族。実年齢を知る者は一握りだが、ベルゼフリートに嫁いでいる妃の中で、ぶっちぎりの最高齢であるのは疑いない。
「うーん。そっか。カティアはさ。アルテナ王国が今後どうなるか聞いている?」
「さてな。政治は宰相の管轄、軍務は元帥の管轄じゃ。儂は法の番人。だが、子飼いの属国とするか、完全に滅ぼして取り込むか。どちらに転んでもおかしくはないのう……」
カティアの腹部は大きく膨らんでいる。子宮にはベルゼフリートとの間にできた胎児が眠っていた。
生殖能力の低いハイエルフは妊娠の確率が低い。それにも関わらず、カティアの妊娠はこれが二回目だ。
「カティアのお腹、また少し膨らんだ? アルテナ王国に行く前より大きくなった気がする」
「陛下から授かった御子は妾の胎ですくすくと育っておるぞ。近頃は活発に動くようになってきてのう。あと2カ月で臨月じゃ。そろそろ名前を決めてやらねばならん」
子供の命名と処遇は生母の専権。カティアの第一子は女児で、次代の皇帝に仕える神官とするべく、下界の神殿で養育中だった。
「今度はどっちだろうね。元気が有り余ってるなら男の子かな?」
「調べておらぬが、姉より暴れがちじゃな。元気が良いから男児かもしれんのう。そうなると、暁森の族長に養子として送らねばならん」
「暁森ってどこ……?」
「エルフ族と妖精が暮らしておる古い森じゃ。帝国の辺境地じゃよ。良い薬樹が育つ森林地帯でな。暁森の一族には大きな借りがあるのじゃ。儂が男児を産んだら、養子に送ると約束した」
皇帝ベルゼフリートの子胤は、母胎の才能を引き継いだ子供を作る。皇后カティアの産んだ子供なら、養子として欲しがる有力者は数えきれぬほどいる。
特に皇帝ベルゼフリートは復興の象徴。彼の誕生で正式に〈リバタリアの災禍〉は終息したと認められた。長期の安寧を築いた2代目の聖大帝、大陸平定という偉業を成し遂げた4代目の栄大帝に続く、英主として期待されていた。
5代目の破壊帝、6代目の哀帝、7代目の死恐帝と災禍が続いた。その反動で特段の業績もないのだが、皇帝ベルゼフリートは帝国全土で絶大な人気を博している。
「カティアとの子供は2人目だよね? 僕って何人の父親なんだろう? 最初は全員の名前を覚えようとしてたんだけどなぁ……」
相手をしている女性の数が多すぎた。これまで何人の女性を抱いたか分からない。
ベルゼフリートは皇帝に即位してから、すぐに子作りを始めた。記憶に残っているは最初に産まれた子供達だけ。しかも、赤子とはすぐに引き離されてしまうので、記憶に残りにくい。
「陛下はこれから千年以上も励むのだぞ。覚えようとするのは無理じゃよ。歴代の皇帝で、もっとも多くの子孫を残とされる栄大帝の皇胤目録は、公文書館の一室を丸々埋め尽くす冊数があるそうじゃ」
皇帝の血縁を記録した皇胤目録。暗殺された死恐帝を除き、歴代皇帝の女性遍歴が公文書館には保管されている。
「赤子といえば、アルテナ王国の女王に種付けをしているのじゃろう。もうその女は孕んだのか?」
「まだじゃない? まだ数回しかセックスしてない。しかも、アースガルズに戻ってきてからは会ってないよ。帰ってきてすぐウィルヘルミナに呼び出されて、その後はカティアのところにいるから、セックスする機会がないんだ。まあ、孕むかどうかは創造主の気分だしね。気長に頑張るつもり」
「実を言うと、宰相と結託して会わせぬようにしていたのじゃがな」
「あーやっぱり! そうだと思ったんだ。今はレオンハルトがいないから、ウィルヘルミナとカティアの邪魔ができる人もいないし」
「あの女王にとっては嬉しかろう。セラフィーナ女王が心から愛しているのは、バルカサロ王国に逃げたガイゼフという夫なのじゃろう?」
「うん。セラフィーナは僕をちっとも愛してないよ。処刑された息子の仇だから、帝国を憎んでるはず。でも、僕とのセックスは気持ち良かったみたい。途中から僕もちょっと本気になっちゃったかも?」
「夜伽相手に気に入っておるのか? ふむ。儂が手を回してやってもよいぞ。査問会は儂ならどうとでもできる」
カティアはベルゼフリートを手招きする。
「そこまでは別にいいよ。レオンハルトのためにやってるだけだし。どうしてもアルテナ王家の子供が欲しいって言うから、作ってあげるんだ。どうせセックスするなら楽しんでやりたい。それぽっちの本気度だよ」
「そうか。それならば儂は余計なお節介をせぬほうがよさそうじゃ。人生は楽しむものじゃからな」
カティアはマタニティ・ドレスを脱ぎ捨て、ベルゼフリートに孕み腹を押しつける。
「大丈夫? オマンコに挿れていいの? お腹の赤ちゃん、驚いちゃうかもよ?」
「適度な刺激を与えてやると、元気の良い赤子が生まれる。これも胎教の一種じゃよ」
カティアはベルゼフリートの腰巻きを剥がし、極太の男性器を握りしめる。輪を作った手で、猛る肉棒の扱き始める。
「エルフ族は数を大きく減らしておる。上位種のハイエルフ族にいたっては、両手で数えきれる人数しかおらん。皇后の立場上、出身種族の繁栄ばかりを考えてはならぬのだが……」
「繁殖能力の低いエルフ族は、異種の血を取り入れてきたんだってね」
「純血のエルフ族など、この世におらぬよ。自称する者は多いがのう。混血の子を成せるヒュマ族がおらねば、とうの昔にエルフ族は滅びていた。皇帝の子胤で産まれる子は、生殖能力が高いと歴史書に記されておる。儂が陛下の子供を産み続ければ帝国のエルフ族は安泰じゃ」
カティアはベルゼフリートをソファーに座らせ、勃起した男根へ小ぶりな尻を向ける。陰唇を二本指で開口し、亀頭の挿入を誘う。
「挿れるね」
ベルゼフリートとカティアは背面座位で交わる。腹部が丸々と膨らんだ身重の短躯に、太々とした男性器が飲み込まれていく。
「んくゅっ……! んぅっ……♥︎ あぁぅふぅ⋯⋯♥︎」
艶めかしい喘ぎ声を囀りながら、ゆったりと股間を上下に動かす。控え目な乳房の先端から母乳が滲み出た。分泌液は薄紅色の乳輪を白く染色していく。
「んっあぁっ♥︎ あんっ! んひぃ、んあぁふぅ♥︎ 陛下の帝気が流れ込んできているっ♥︎ あぁ⋯⋯感じるぅ⋯⋯♥︎ 儂の膣内で暴れ回る猛烈かつ濃密な穢れた精気……っ! 甘美な悦楽に包まれた魍魎の魔性……! んひぃ……♥︎ 性欲の薄いエルフさえも抗えぬ悦楽じゃ……♥︎」
性行為を伴う浄化儀式で破壊者ルティヤの魂を清めなければ、穢れを溜め込んだ皇帝は災厄の主に覚醒する。カティアを始めとする神官は、幼少からメガラニカ皇帝に奉仕するため、特別な修行を積んできた。
数多くいる女仙の中で、カティアは皇帝の荒魂を鎮める能力がもっとも高い。
「さあ……濃密な子胤を子宮の奥底に吐き出してたもれ♥︎ 血の一滴に至るまで、儂の身体は皇帝陛下に捧げておる。陛下の昂ぶる情欲を慰め、血を混ぜた赤子を孕み、帝国の安寧を築く……♥︎」
カティアは結合部を通じてベルゼフリートから精気を吸い上げる。
激しいセックスはしていない。けれど、全身から汗が噴き出し、呼吸と心拍数の乱れは著しい。汗の蒸れで身体を包まれ、熱されている。
「そろそろ限界なのじゃろう? 陛下のオチンポは快楽に素直じゃ。くふふふふっ♥︎ 愛らしく膣道でビクビクと反応しておるのう。遠慮することはないのだぞ。宿っている赤子ごと、儂をもっと染め上げてたもれ♥︎」
カティアは手を伸ばし、ベルゼフリートの玉袋を優しく揉む。
膣穴に肉棒を挿入してほんの十数秒。ベルゼフリートは意地を張って射精を我慢していた。しかし、ベルゼフリートとカティアは肉体こそ同じ少年少女であるが、その精神年齢は桁違いである。
「あっ……、カティア……そっ……もう……!」
「儂を絶頂させてから射精するつもりじゃったな? 初心な小娘たちと儂を同列に扱ってほしくないのう。儂を手玉に取りたいのなら、300年は精進してからじゃなっ♥︎」
「……げっ、限界っ! ……出すからっ! もう出ちゃうから金玉を揉むのはやめてよ……っ!」
「んんぁ♥︎ 儂の胎に出ておる♥︎ 熱々の孕ませ汁が出てしまったのう♥︎」
「だから……、それはくすぐったいからやめてほしいの……」
「なぜやめねばならぬ? セックスをしているとき、陛下は嘘が下手じゃのう。照れ隠しはいらぬぞ。本当は気持ち良いのだろう。現に精液がどばどば出てきておるぞ? 下半身は本当に素直で良い子じゃ」
「もう。カティアは意地悪だー」
精神だけは成熟している大人の美女が、無垢な少年から若々しい精子を絞り取る。
射精の間も左右の睾丸を入念に手揉みする。常人より遥かに長いベルゼフリートの射精時間が引き延ばされる。
「全部、膣内に出しちゃっていいの?」
「遠慮は無用。陛下は破壊者ルティヤの転生体なのじゃ。我慢はむしろ精神的な負荷となる。荒魂の穢れと一緒に、身体の外に発散させるよう心掛けるのじゃぞ♥︎」
極太の男根から噴出し続ける射精を受け止め、ロリ妊婦は微笑む。安定期とはいえ、胎児には良い迷惑かもしれない。
「カティアと僕の赤ちゃん……すっごく動いてる。精液が入ってきて驚いてるみたいだよ」
背後から妊婦腹に手を回していたベルゼフリートは、胎児が激しく蠢く様子を感じ取った。この最中も射精は続いていて、淫事に熱中する両親に抗議しているかのように思えた。
「昼寝を邪魔してしまったかのう? まあ、儂も眠りを邪魔されると不機嫌になる。子供が親に似るのは仕方ないことじゃよ」
「親に似ちゃうか⋯⋯。それなら、カティアが次に産む子供はやっぱり男の子かな。男の子は母親に似るって聞いたことがある。たしか僕も母親似だって……。あれ……? 僕が母親に似てる? 」
ベルゼフリートの思考が止まる。一方、カティアは中指に嵌めている指輪を確認していた。指輪は緊急用に神術式が込められた触媒であった。
「誰に聞いたんだっけ? ウィルヘルミナじゃない。誰? 誰かに教えてもらったんだ。誰かだろう。誰かが僕に言った……。セラフィーナ? 何で? セラフィーナって誰? そうじゃない。……僕は孤児院で育ったから……。孤児院……? 違う僕は……」
記憶の混濁が生じていた。カティアは戸惑わず、記憶消去の神術式を発動させる。
「龍宮の廻廊は迷い道。忘却の微風が足跡を隠す——ブレイン・アムネシア」
人格形成の根幹である深層記憶に干渉するのは、熟練の神術師であっても危険な行為だ。しかし、カティアはベルゼフリートの精神構造を知り尽くしている。精神崩壊のリスクはない。
「すまんのう。許しておくれ。陛下の精神を安定させねば、恐ろしい凶事が起こってしまうのじゃ。この子をアルテナ王国に行かせるべきではなかった。記憶の封が緩んでおる」
深い眠りに落ちたベルゼフリートをカティアは哀れむ。
膣穴から肉棒を引き抜き、性行為を中断した。子宮を小突かれる騒音に迷惑していた胎児には朗報であった。
「はぁ……さて、面倒になったのう……? 警務女官長ハスキーよ。許しなく皇后の私室に侵入するとはどういう了見じゃ?」
振り返らずとも侵入者の正体は分かった。皇帝の身辺護衛を担うハスキーの危機察知能力は、未来予知に匹敵する鋭さだった。
ハスキーは扉を開ける音すらなく、室内に侵入した。戦闘の間合いにカティアを入れるまで、気配を遮断していた。しかし、カティアは侵入に気付く。
「皇帝陛下の御身を対象とする神術式。その発動を察知しました。警務女官は皇帝直属。インペリアル・ガードとして事態を確認しに参りました。カティア猊下は何をなさっていたのですか?」
ハスキーは鞘から剣を抜くべきか迷う。もし明確な害意がカティアから発せられていたのなら、即時に臨戦態勢をとっていた。
「神官長の務めを果たしていたに決まっておろう。子胤が肉壺から溢れ落ちているのが見えぬか? 陛下はお疲れのご様子。良い夢が見れるように、心を静めさせていたのじゃ……」
「皇帝陛下の体調管理は医務女官の職域。いかに皇后といえども……! たとえ帝国の司法府を預かる神官長であっても! 権限の逸脱は許されない!!」
「職務熱心で結構。ヴァネッサは良い番犬を飼っておる。しかし、勘違いで吠えられては迷惑甚だしい」
「それが弁解なのですか? 私は看過できぬ事態が起こったと申し上げているのですよ。誤解だと仰るのなら、誠実に説明していただきたい。さもなくば、この場で剣を抜きましょう」
「頭が硬いのぅ。忠告じゃ。小娘。剣を抜けば、武力を使うのならば、異なる誤解が生じるぞ」
「警務女官を脅迫するおつもりか?」
「忘れているのなら、其方に教えてやろうか? ここは大神殿。司法府の領域、すなわち禁裏じゃ。最高裁判官の儂は、逆臣の処断権を持つ。たとえ相手が女仙であったとしてもな。司法の独立と自身の命、腹に宿す御子をお守りせねばならぬ」
カティアから発せられる威圧感は、帝国最強の武人レオンハルト・アレキサンダーとの立ち会いを想起させた。
(この女⋯⋯強い⋯⋯。あのレオンハルト元帥と同等! しかし⋯⋯陛下をお守りするのが私の役目! 退くわけにはいかないっ⋯⋯!!)
武装は中指に嵌めた神術触媒の指輪のみ。しかも、身重の身体で、全力を出せるポテンシャルにない。けれど、相手は千年以上もの時間を生きた伝説的な神術師。
ハスキーは柄に手を添える。不穏な気配を感じたが、それが悪意による行動であったかは断言できない。それでも皇后の部屋に押し入ったのは、万が一を考慮してだった。
「何で喧嘩してるの? ひょっとして修羅場……?」
絶妙なタイミングでベルゼフリートが目覚めたのは幸運だった。
「⋯⋯お迎えじゃよ。時間が来たから陛下を帰せと女官が喧しくてのう。まったく、近頃の若者はせっかちが過ぎる。ゆとりがないのう」
ハスキーは納得できない。しかし、三皇后の一角を占めるカティアだ。軽率な行動は自身の立場を危うくする。
「陛下、帝城に帰りましょう。こちらへ」
ハスキーはベルゼフリートを抱え上げ、カティアを一瞥する。
「えぇ? ちょっと、待ってよ! まだ服すら着てないんだけど!? そんなに急ぐ必要があるの?」
「宮廷の住人なら陛下の下半身くらい見慣れています。誰も珍しく思ったりしません」
「珍しいとかじゃなくて、僕が恥ずかしいの! それと僕が普段から下半身を晒しながら暮らしてるみたいな言い方はやめてよ!?」
「私の処女を奪ったセックスは数万人が見ていましたし、つい先日は人妻との不倫行為を記録した淫猥なフィルム・クリスタルを敵国に送り付けたばかりです。今さらこんなことで恥ずかしがってどうするのですか」
「それはそうだけど……」
「大丈夫です。陛下のオチンチンは誰に見せても恥ずかしくないくらい立派です」
「デカすぎるのが恥ずかしいの……」
ちょっとした騒動に発展したが、ハスキーは強引にベルゼフリートを禁裏から連れ帰った。
長老派の妃達は、せっかく招来した皇帝を連れていくハスキーに猛抗議した。しかし、派閥筆頭のカティアが容認したため、ベルゼフリートは帝城ペンタグラムに帰っていった。
すぐさまハスキーは医務女官を呼びつけ、ベルゼフリートの診断をしてもらった。精神安定系の神術式を使った痕跡が見つかった。
女官総長ヴァネッサに相談したが、皇帝に危害を加えた確証が得られず、医務女官の職域を侵害したとの抗議を行うに留まった。