アルテナ王国の近衛騎士団は、もっとも栄誉ある職業の一つとして、国民から尊敬を集めていた。しかし、女王を救出しようと無謀な蜂起を起こし、無惨な結果に終わった。
その責任を取る形で、主君のセラフィーナから解散令が下った。近衛騎士団の歴史は終わった。
赤毛の女騎士ロレンシアは、たった一夜で多くのものを失った。
近衛騎士団は解散、レンソンとの夫婦関係は断たれ、胎に宿っていた我が子は流産した。
ロレンシアに残されたのは女王への忠義と、祖国を蹂躙したメガラニカ帝国に対する憎悪のみだった。
「女王陛下……!」
駆け寄ろうとしたロレンシアに警務女官が薙刀を向ける。武装が許されていたのなら、己の剣を抜き、無礼な女官の制止を振り払っていただろう。しかし、今のロレンシアは小剣の所持さえ許されていない。
警務女官長ハスキーが立ちはだかる。苛立ちを募らせるロレンシアに忠告する。
「今後、貴方は後宮で暮らすのです。言葉遣いを改めなさい。メガラニカ帝国で『陛下』と呼ばれる御方はベルゼフリート陛下のみです」
「ご生憎だけど、私が『陛下』と呼ぶのは、私が忠誠を誓った相手だけと決めているわ!」
「矜持を貫くのは結構。しかし、その意固地がご自身だけでなく、主人の立場を危うくしますよ。臣下の矮小なプライドで、主人はさぞ苦労するでしょう。何を優先すべきは自明だと思われますが?」
「……! よくもぬけぬけとっ⋯⋯!!」
内心を渦巻く怒気は殺意に変わった。しかし、ロレンシア如きの小娘に臆するハスキーではない。
「当初、セラフィーナ女王は『王妃』として、迎え入れられるはずでした。ご本人が婚姻を拒絶し、帝国内で議論が起こっています。そこで、当面は『愛妾』扱いが決定しました」
朝食を済ませたばかりのロレンシアは、ベルゼフリートが寝所として使っている貴賓館の一室に呼び出された。
室内は猛烈な淫臭が充満していた。乾いた精液から発生する特有の甘い香りが漂っている。扉を開けただけで、ロレンシアは生々しい淫気で、むせ返りそうになった。
「妃の位を持たない愛妾は、皇帝陛下の情婦。皇帝陛下にお仕えする仲間です。女官はセラフィーナさんを粗雑に遇したりはしません」
ハスキーはロレンシアを招き入れ、セラフィーナと対面させる。
「衣食住の保障はいたしますのでご安心ください。この通り、愛妾に相応しい素敵なドレスを用意してさしあげました」
メガラニカ帝国がセラフィーナのために用意した愛妾の衣装。それは黒衣の花嫁衣装であった。
最初に目に付く特徴は、隠すべき恥部を丸出しにした煽情的なデザイン。胸部を覆う布は一切なく、ノーブラジャーの爆乳がコルセットから突き出ている。
スカートの丈は非常に短く、尻肉を隠しきれていない。おそらくは意図的に見せびらかしている。俗に言うマイクロミニスカートで、Tバックの食い込みが露わとなっていた。
前からは乳房が揺れ動く様子を、背後に回れば桃尻が波打つ有様を眺めることができるだろう。
「セラフィーナ様……!」
卑猥な衣装を着させられていても、セラフィーナの美貌は貶められない。ロレンシアの哀れみは、主人を冒涜してしまう。平時と変わらぬ素振りで、女騎士は女王の足下に跪いた。
「心配しないで……。私は大丈夫ですわ……」
淫靡なブラック・ウェディングドレスは、股間の恥部を当然の如く隠さず、女陰が丸見えだった。
セラフィーナが穿いているTバックは、クロッチの布地が欠けていた。女陰の割れ目が見えるように穴が開いている。
膣口を晒す女王の恥辱は想像を絶する。見世物にされている娼婦の姿だ。黄金色の茂みは愛液で濡れている。昨晩の性交で注がれた大量の精液が未だに滴っていた。
(絶対に大丈夫じゃない……。こんな惨い見せしめをやるなんて……! 精神的な拷問じゃないっ……! このままでは女王様の精神が壊されてしまうわっ!)
家族と幸せに過ごしていた頃、セラフィーナの瞳には暖かい光りが宿っていた。しかし、今は仄暗く淀んでいる。
生気を感じさせない。一種の虚脱状態だ。ロレンシアは不安を抱く。セラフィーナは余生を魂が欠けた状態で過ごすのではないかと。
ロレンシアは熟考したが、なんと声をかければいいのか頭に浮かばなかった。気まずい沈黙が続くかと思われた。だが、静寂はすぐさま破られた。
「ねえ……もう一泊していけないのかな……。出発の時間をずらすとか。セラフィーナとやり過ぎちゃって、すっごく身体だるいよ」
髪を濡らした皇帝ベルゼフリートが寝室に戻ってきた。淫臭を醸すセラフィーナと違って、湯船で汚れを清めてきたようだ。しかし、その表情には疲労の色が深く現れ、げっそりとしていた。
「そういうわけにいきません。道中の安全を確かめるため、近衛軍の先発隊が露払いをしております。ご辛抱ください。道中は我ら女官が陛下をお世話いたします」
連れ添いの女官は、優しい声でやつれ気味の皇帝を宥める。
「睾丸に筋肉痛ってあるのかな……。セラフィーナとレオンハルト、二夜連続で射精しまくった反動が来てる。樽が満杯になるくらい精子は出した気がするよ⋯⋯」
セラフィーナの淫穴から白濁色の雫が流れ落ちた。
ロレンシアは昨晩、寝室で繰り広げられたベルゼフリートの蛮行を想像した。
陵辱に堪えるセラフィーナの悲痛。淫欲を発散する悪帝の姿。内心に溜まる怒りは爆発寸前だった。
「僕よりもセラフィーナのほうが辛そうだね。下腹が苦しそう」
純白の新郎衣装を着た幼帝は、黒衣の花嫁に寄り添う。
年齢と身の差は親子と見間違えるほどある。この男女が並ぶ姿を見て、新郎新婦の組み合わせと思う者はまずいない。
「お待たせ。それじゃあ、行こう。城下街の大通りでパレードをしたりはしないけど、城内はその衣装で一緒に歩いてもらう。僕とセラフィーナがセックスするくらい親睦を深めた。その事実を周知させるためにね」
ベルゼフリートはロレンシアに視線を向ける。
「不満だろうけど、君はセラフィーナの従者役。後ろから付いてきてね。いざという時、女王様を守るのは君だけだ。よろしく」
憎き皇帝の命令に従いたくない。
(女王の精神は壊れかけている⋯⋯。私がお支えしなければ⋯⋯)
ロレンシアはベルゼフリートの善意に気付いていた。主人と引き合わせてくれたのも、気遣いの一つと考えれば合点がいく。ロレンシアは身を挺して、主人を守ると決意する
「ゆっくり歩こう。セラフィーナってオッパイが大きいから足下が見えないんでしょ?」
「ええ。見えておりませんわ……。真下はほとんど乳房が邪魔して、死角となっています」
「手を出して」
セラフィーナは頷く。ベルゼフリートが差し出してきた手を握り、ゆっくりと漆黒のハイヒールで、少しずつ前に進んだ。
歩く度に豊満な乳房が上下に揺れ、振動が左右へ伝播する。足下の視界を遮る巨大な乳房。精液で汚れた膣部を見せつけがながら、セラフィーナは白月王城の廊下を進んだ。
貴賓館の庭園を抜け、城門へと続く大廊下まで、ロレンシアと皇帝付きの女官達を引き連れて行進する。
「——お披露目だ。王都にいる有力貴族を大廊下に集めてるんだって。僕と子作りした証拠を見せびらかそう」
白月王城の大廊下は、磨き上げられた大理石の床に、深紅の絨毯が敷かれている。黄金細工の装飾が壁面を埋め尽くし、天井に満月を模した数十のシャンデリアが並ぶ。
「すごいね。慕われているね。セラフィーナは」
足を止めて、ベルゼフリートは小声でつぶやく。幼い皇帝の無邪気な感想は、静寂が支配する大廊下によく響いた。
荘厳な大廊下の両脇、左右にアルテナ王家に仕える貴族と官僚がひざまずいていた。数百人の臣下は、全員が顔を上げず、床に頭を押しつけている。
——女王の辱められた花嫁姿を見ないためだ。
対照的に立哨している帝国兵の視線が迷子となる有様だ。見ていいのか、見てはならぬのか、そわそわと落ち着かない。主君のベルゼフリートは苦笑いしている。
「減るもんじゃないし、セラフィーナのエッチな姿を見てもいいんだけどね。そもそも見せるためにやってるんだから」
セラフィーナの淫靡な痴態に惑わされる帝国兵を睨む者がいた。帝国元帥レオンハルトは青筋を立てている。目線を泳がせるなと、怒鳴りつける一歩手前だ。
帝国軍の男性兵は複雑な顔をしている。股間を膨らませてしまう男性兵が少なからずおり、女性兵の冷ややかな視線を浴びせられていた。
上級将校ともなるば肝が太くなる。皇帝の前で好々爺を気取っていた老将二人は柱の陰で猥談を交わしていた。
「青二才どもめ。色仕掛けへの耐性が低すぎる。眼福と思って遠くから眺めておけば良いのじゃ……」
「全くだ。しかし、何ともまあ、デカい胸と尻だ。あれは安産型だな。妻の若い頃を思い出す」
「貴殿の奥方には何度か会っているが、似ても似つかないが?」
「今でこそ酒樽のような体型だが、子供を産む前は細身の多いエルフには似つかわしくないナイスバディだったのだ。もう何百年も前の話だが……」
「……エルフ? 貴殿の奥方はドワーフだとばかり……」
「冗談抜かせ。俺は翠森育ちの純潔エルフだぞ。穴モグラのドワーフ族と婚姻するものか」
アルテナ王国に敗北感を植え付けるの催しであった。しかし、淫猥な花嫁姿の女王を嘲る者は皆無だ。
これはセラフィーナの腹心であった忠臣リンジーが、貴族達に根回した成果だ。列席した貴族の全員が顔を伏し続けるのは、愛国心と女王への敬愛ゆえにである。
消えかけの蝋燭の火が、煌めきを増すのと同様、アルテナ王国の人々は抗う心を強固にしていた。
臣下の勇姿を見て、廃人になりかけていたセラフィーナの精神に火が灯った。
妻が息子を殺した男と、あのような淫行に耽っていたと知れば、夫は深く傷つき、きっと妻を軽蔑する。けれど、愛する夫に見放されたとしても、まだセラフィーナにはアルテナ王国の臣民がいる。
「もう、大丈夫……。私は一人で歩けますわ……」
セラフィーナはベルゼフリートの手を振り払った。
恥部を強調する淫靡なブラック・ウェディングドレスで、王室の尊厳は粉々に砕けた。しかし、今のセラフィーナは羞恥心を感じていない。
臣下の忠誠に見合う主君となった。毅然とした態度で大廊下を進む。
膣穴から零れ落ちた精液が、深紅の絨毯に白濁色の染みを作る。点々と続く淫液の汚れ。肉体に染み付いた淫臭が、大廊下を通る風に乗る。
見世物となった女王は気高く行進する。セラフィーナは、アルテナ王国を背負う女王の顔となっていた。
「ベルゼフリート陛下。残念ですが、私は陛下との婚姻を受け入れられません」
「ここで言うんだ? 王国の貴族が集まったこの場で」
「はい。言わせていただきます。私には夫がおります。我が夫は、バルカサロ王国の王族ガイゼフ。彼に共同統治者の地位を与え、今日までアルテナ王国の統治を委ねておりましたわ」
大廊下にいる全員がセラフィーナ女王の言葉を聞いていた。
「我が夫ガイゼフは陛下の軍勢に敗れ、バルカサロ王国に逃走しました。しかし、アルテナ王国軍の本隊は健在ですわ。まだ負けてはいません。陛下がガイゼフよりも優れた主君であるのなら、私は正式に婚姻を受け入れましょう」
「ふーん。なるほどね。僕が夫として相応しいか見極める。そういう体裁を取るってこと?」
「その通りですわ。私が陛下を夫と認めざるを得ない場合、求婚を受け入れ陛下の妻となりましょう。ですから、今は愛妾の立場に甘んじます。そして、私が留守の間、一時的にはではありますが、アルテナ王国の統治をメガラニカ帝国に委任いたしましょう」
「僕は別に構わないけれど、帝国元帥の顔が恐ろしいことになっているよ。皇帝に決定権はない。軍権の長たる帝国元帥は、なぜ敗国の女王如きが上から目線で物を言うのか、と言いたそうだ。どう説き伏せるつもりかな?」
「私が留守の間、嫌が応でもメガラニカ帝国はアルテナ王国を治める。しかし、この場で私が帝国の支配に徹底抗戦せよと命じれば、どうなるでしょうか?」
「動乱を煽る気? 僕でも分かるよ。それをやらかしたら、アルテナ王国の民が沢山死ぬよ」
「その通りですわ。しかし、私が扇動しようと、自らの意思で戦うかどうかは、アルテナ王国の人々が決めるのです。そうではありませんか、皇帝陛下?」
「物騒な話をしようか。ここにいる全員を口封じで皆殺しにする。それならどう? こっちにはレオンハルトとハスキーがいるから、1分もかからずに、屍の山と血の海が出来上がるよ。君が余計な失言をしたせいで、たくさんの人間が死ぬんだ」
「そのような虐殺行為をなさるのなら、私が煽るまでもなく、確実に暴動が起こるでしょう。メガラニカ帝国の器量が狭いと認めるようなものです」
「僕のは軽い冗談だよ。後宮に着いたらセラフィーナを愛妾として扱うけれど、この国ではまだアルテナ女王だ。敗戦国であったとしてもね。だから、ここでの発言は不問になると思う。そもそも僕は罰する立場にない。好きなようにすればいいさ」
ベルゼフリートはセラフィーナの下腹部、子宮のあたりに手を添える。
「僕は邪魔をしないよ。国を守るために抗いたいのなら。応援もしないけどね。僕の仕事は、セラフィーナ女王に子供を産ませることだけ」
覚悟を決めたセラフィーナは、胎を弄られようとも臆さなかった。幼帝の瞳に宿る雄の眼光を、正々堂々と受け止めた。
「この場で抱きたいというのなら、私は構いませんわ……」
セラフィーナは脚を開き、膣口をベルゼフリートに差し出した。
「別人みたい。大胆だね。お誘いは遠慮しておくよ。本妻がいる前で、愛妾とイチャついたら立場が悪くなる。でも、少し気持ちよくしてあげる」
ベルゼフリートはセラフィーナの女陰に指を差し込む。穴あきのエロパンティーを穿くセラフィーナの膣口は無防備だ。挿し込んだ指先をねっとりと動かして手淫を行う。
「あぅんっ……♥︎」
ぐちゅぐちゅと淫穴を弄くられ、愛液と精液が混ざった汁が飛び散る。精液の詰まった胎がキュンキュン反応する。
「お腹に精液が溜まってる。詰まってるのかな? 11回も射精させるなんてすごい快挙だったよ。さっきの勇気にも敬意を表してキスしてあげる。このままだと届かないから屈んでくれるかな?」
ベルゼフリートはセラフィーナの唇を奪う。それは長い接吻だった。
黒衣の花嫁は口内に侵入した舌を受け入れる。膣壁を指圧されながら互いの舌を絡ませ、流れてきた唾液の飲む。
「んぅ、はぁはぁ……♥︎ んうぅ♥︎」
「んふぁっじゅるり……っ! セラフィーナは大人のキスになれてないね。これからたっぷり仕込んじゃお」
「望むがまま、ご自由に使ってください。私は陛下の妾なのですから⋯⋯♥︎」
熱烈な接吻を終えた皇帝と女王は大廊下を後にする。城門には両君主のために、六頭立ての儀装馬車が用意されていた。
乗り込む間際、セラフィーナは数秒だけ黙祷を捧げる。城門はリュート王子の遺骸が吊されていた場所だ。
家族への愛は忘れていない。再起した女王は、国を守るために抗う。家族より大きな存在を認識した。
セラフィーナ・アルテナは即位後、初めて本物の女王として君臨していた。
女王の変化に戸惑うレオンハルトは、ハスキーに影武者と入れ替わっていないかと確認を取る。
「『窮鼠、猫を噛む』との格言があります。あの様子なら雌獅子や女豹が跋扈する宮廷で暮らしていけるのでは? 初対面とは比較にならないほど好印象ですね」
変化を歓迎するハスキーは、不敵な笑みを浮かべる。
「貴公と違って、好感は抱かぬ。セラフィーナ女王が単に増長しているだけならば、無用な対立が生じるのだぞ。さすがに面倒を見切れぬ」
荒事が得意なレオンハルトだが、宮廷内のいざこざは専門外だ。宰相派や長老派の妃と騒動を起こさないように祈るしかなかった。
「それと道中のことだが……」
「ご安心ください。万全の警備体制で行軍します。女王の奪還を狙うなら、帰路の移動中。帝国軍の精鋭と私の率いる警務女官達がいれば、まず問題は起こりません」
「そちらも心配だが、私が言うまでもないことだ。気がかりなのは⋯⋯うむ⋯⋯。貴公なら分かるであろう?」
「分かりかねます⋯⋯。レオンハルト元帥閣下は何を懸念しているのですか?」
「次の休憩地点で皇帝陛下とセラフィーナの馬車は別々にしろ」
「大人げない………」
「私は帝国元帥だ。皇后だぞ」
「皇后ともあろう御方が、愛妾如きに嫉妬されるのですか? そもそも皇帝陛下に種付けを命じたのは元帥閣下でしょう」
「黙れ。あのフィルム・クリスタルを見てから、精神が荒立っているのだ。陛下も陛下だ。あそこまで可愛がれとは命じていない⋯⋯」
「さぞ面白かったでしょう」
「面白くない⋯⋯! ちっとも面白くない!」
「あの程度の営みは普通です。しかし、残念です。セックスの記録映像より、先ほどの宣言を聞かせたほうが、ガイゼフ王の心的なダメージは深いかもいれません。実際そうではありませんか? レオンハルト元帥閣下?」
豪胆なレオンハルトに似つかわしくない繊細な乙女心を、ハスキーは笑っているのだ。
「⋯⋯何がおかしい?」
「いいえ、笑ってなどおりません」
「貴公は可愛くないな……」
「父や兄からはよく言われておりました」
本心を吐露すれば同じ女として、少しは共感してくれると期待していた。
腹を割って話したのにおちょくられた。女官は性格が捻じ曲がっているとレオンハルトは立腹していた。