【238話】秘匿の女仙 婢女(♡)

「ベルゼフリート陛下。お聞きしたいことがございますわ」

「ん? なに、なーに?」

「この一ヶ月、ベルゼフリート陛下の御子を身籠る妃が増えているとお聞きしましたわ。子種をお授けになっているのは、三皇后のご命令ですか?」

 セラフィーナはロレンシアに母乳を与えながら、休憩中のベルゼフリートと雑談を始める。

「さぁ~。どうだろ? どうなんだろうねぇ? 気になる? 知りたい?」

 悪戯好きな幼帝は、質問の答えをはぐらかした。こうしていると、お調子者の息子を育てている母親の気分になる。

「先程、軍閥派の公妃と廊下ですれ違いました。将校の軍服を着ておられたのですが、懐妊されて間もないご様子でしたわ」

「ふーん。軍閥派の公妃で⋯⋯。将校⋯⋯。妊娠中⋯⋯。あー! 僕みたいに肌が色黒?」

「はい。褐色系の肌でしたわ」

「そんでさ、顔に白い刺青をしてる?」

「ええ。その通りです。独特な刺青で目元を彩られておられましたわ」

「あらら⋯⋯。じゃあ、なんか言われなかった? 苛立ってたでしょ? 特に最近は機嫌が悪いみたい。妊娠初期の悪阻つわりが酷い時期だと⋯⋯偶にあるんだよね」

「とても下品な舌打ちをされました。帝国流の作法に則った素晴らしいご挨拶でしたわ」

「あっはははは。そっか。セラフィーナも図太くなったね」

「一年かけてたっぷり教育された賜物ですわ。そのおかげで後宮の暮らしを謳歌しております」

「相手は公妃だ。しかも、同じ軍閥派に属する将校。喧嘩しないでよ? 黄葉離宮には元一級冒険者の手練れが揃ってるけど、帝国軍の将校が相手だと多分⋯⋯難しいだろうね⋯⋯。士官学校を首席で卒業したって聞いたし。ユイファンみたいに超ギリギリで卒業した劣等生とは違う。まあ、その代わり、腹黒な手は使わないとは思う」

「妃殿下に無礼はいたしませんわ。愛妾の身を弁えております」

「ともかく、荒らっぽい性格してるから、黄葉離宮の女仙は近づかないほうがいいよ。特にセラフィーナとロレンシアは⋯⋯。でも、そうだね⋯⋯。リアだったら、まだ許容範囲かな?」

 ベルゼフリートは公妃の名を明かさなかった。セラフィーナも問い質すつもりはなく、わざわざ事を荒立てない。これも後宮で心得ておくべき生き方だ。

 宮中の序列を持ち出されれば、愛妾のセラフィーナは蔑視されて当然だ。妻が夫の愛人を憎むのは納得できる。

 愛人に仕えている従者達も同様に侮蔑される。黄葉離宮の女仙でリアだけが例外となるのは、王妃ヘルガ・ケーデンバウアーの庇護下にあり、帝国軍の重鎮ウィリバルトの孫娘であるからだ。――とセラフィーナは思い違いをする。

「オッパイの大きい人を毛嫌いしてるの」

「は?」

「ん? 分からない? オッパイの大きい人が嫌い。セラフィーナとロレンシアは完全にアウトだね。デカパイだもん」

「え⋯⋯? あの公妃は巨乳の女性がお嫌いなのですか? それは⋯⋯まさか嫉妬で⋯⋯?」

「いいや。羨ましいわけじゃないみたい。見た目が気に食わないそうだよ。ぶくぶく太って醜いって愚痴られた。美的感覚は人それぞれだよね」

「ですが⋯⋯レオンハルト元帥も十分に巨乳ではありませんか?」

「ちゃんとした強さがあれば別みたい。それに、レオンハルトのは胸筋で盛ってるところもあるし⋯⋯」

「な、なるほど⋯⋯。私や今のロレンシアはともかくとして、黄葉離宮の女仙は帝都で名を馳せた元一級冒険者ですわ。強さを言うのであれば⋯⋯」

「帝国だとね、冒険者は怠け者の遊び人扱いだからさ。日雇い労働者って正職じゃないし⋯⋯」

「そういえば⋯⋯冒険者はそういう社会的地位でしたわね⋯⋯」

「僕はそう思ってないよ。でも、由緒正しい軍人貴族はマッチョイズムを重んずる。晩酌の相手をしたとき『宮中は肥えた豚が多すぎる。次の入内は選定基準を厳格化すべき』って聞かされた」

「晩酌? 妊娠中にですか?」

「晩酌は孕ませた夜のお話。子作りセックスを何度かしてたんだ。懐妊が分かった後は飲んでないはずだよ」

「キャルルさんに教えてもらいましたわ。帝国軍の幕僚は許可なく妊娠できないと⋯⋯。軍務省の許しがなければ、たとえベルゼフリート陛下といえど、軽率に軍閥派の妃を孕ませてはならない」

「うん。そうだよ。産休とか色々あるじゃん? 妊娠で体調を崩すことだってある。軍務に差し障るから、帝国元帥レオンハルトにお伺いをしなきゃいけない。でも、例外はあるよ」

「そうなのですか?」

「その規定ルールの対象者ってさ、女仙の役職や階級にもよるんだ。たとえば愛妾とかは例外。セラフィーナとユイファンは好きなときに妊娠できる。愛妾は皇帝とセックスするのがお役目だ。性奴隷だからね」

 ビシッと指差してベルゼフリートは決め顔のポーズを取った。

「情報将校のユイファンさんは、沢山のお仕事を抱えられているのでは? 参謀本部付きとお聞きしておりますわ」

 先日の化猫騒動を起こした主犯は変人王妃ヘルガであったが、裏ではユイファンも関わっていたとセラフィーナは聞いている。

「まあね。ユイファンは参謀本部の中枢を担う人物だから、あとでゴチャゴチャ言われることもある。その点、セラフィーナは恵まれているよね。好きなタイミングで胎み放題♪」

 ベルゼフリートはセラフィーナのボテ腹を指先でくすぐった。

(本題から逸れてしまっているわ。質問した話に戻したいけれど、ベルゼフリート陛下の態度を察するに⋯⋯)

 投げた質問にベルゼフリートは答えてくれない。

 意図的であるとセラフィーナは感じる。妃達の相次いで妊娠した裏事情を探るには、もう一段階の踏み込みが必要だった。

「ベルゼフリート陛下、私に聞きたいことがあるのですね?」

 セラフィーナは目を細める。碧色の瞳が怪しく光った。見惚れるほどに美しい。けれど、邪悪な微笑で口が歪んでいる。

 悪女の美貌は狡猾な大蛇を想わせる。

「うん。情報交換ってこと。分かってくれるよね。僕と取引しよう」

「承知いたしましたわ。私は何を差し出せばよろしのでしょう?」

「セラフィーナさ。故郷の人と文通してるでしょ? 西アルテナ王国の占領統治を任されてる貴族。名前はえーと⋯⋯忘れちゃった」

「執政官のグレイハンク伯爵に手紙で指示を出しておりますわ。文通といえば、文通ですけれど⋯⋯」

「そう、その人。グレイハンク伯爵! お手紙の内容を知りたがってる妃が大勢いるんだよね」

「あら? 所定の検閲は通っておりますわ。悪巧みをしていると勘ぐられたら大変ですもの」

「意地悪。セラフィーナだって分かるでしょ。内容を知ってるのは、報告を受けた三皇后や検閲担当の上級妃だけじゃん。下々の妃達が興味津々きょうみしんしんなわけさ。情報を聞き出してほしいって頼まれちゃった」

「⋯⋯知りたがっている妃殿下のお名前を知りたいですわ」

「匿名希望。ちなみに、一人や二人じゃないよ。最近の手紙に重要な情報が書いてあったんでしょ?」

「そうですね。ですが⋯⋯」

「ん?」

「執政官のグレイハンク伯爵が送ってきた手紙は、アルテナ王国の国王夫妻に宛てられたものですわ。ベルゼフリート陛下のお手元にも写しをお送りしておりますが?」

「え⋯⋯? じゃあ⋯⋯僕も読んでる? 手元にあるかな?」

「はい。おそらく」

「⋯⋯え? 本当に? ちょっと待って。確かめてくる」

 ベルゼフリートは考え込んで硬直した後、ベッドから降り立って女官のところに駆けていった。何人かに聞き込みを終えて、再びベッドの上に戻って来る。

「僕も目を通してるみたい。あの手紙に重要な情報あったかな? 直近の内容も今までと似たような感じだった。妃達が知りたがる情報⋯⋯。娘のセラフリートが僕と同じ癖毛ってこと? ドワーフの髭を引き抜こうとしたとか? ん~? むむぅ? ⋯⋯自分で言っておいてアレだけど絶対に違うよね」

 グレイハンク伯爵が手紙に仕込んだ小細工は子供騙し。帝国宰相はそう評したが、要するに子供が相手なら通用する。

 幼帝ベルゼフリートは警戒心や女心を読む才能がある。しかしながら、他の素養は見た目通りのお子様だ。

「ベルゼフリート陛下。お耳を近くに⋯⋯」

「りょーかい。答えを教えてー」

 ベルゼフリートはセラフィーナの口元に近づいた。

「バルカサロ王国で混乱が起きておりますわ。グレイハンク伯爵はその原因が王家にあると考えているようです。チャドラック・バルカサロが亡くなった可能性を示唆していますわ」

「チャドラックって確か⋯⋯?」

「はい。バルカサロ王国の国王ですわ」

 セラフィーナにグレイハンク伯爵の意図は通じていた。しかし、かなりの時間と苦労を費やした。

 手紙の雑文から隠された情報を自力で拾い上げ、黄葉離宮の女仙達に助力してもらい、シークレットメッセージを読み解いた。

(手紙の検閲で、三皇后は既に情報を得てしまっているわ。ベルゼフリート陛下には教えられていないのですね)

 一読で見抜いた帝国宰相ウィルヘルミナには遠く及ばないが、セラフィーナもバルカサロ王国の内部情報を読み解いた。

(緊急開催された三頭会議で、バルカサロ王の死が議論されたに違いないわ。他の妃達にもまだ開示されていない⋯⋯。だから、情報を欲しがっているのでしょう。残念⋯⋯。三皇后を出し抜けていれば、もっと有益に情報を取引できたのに⋯⋯)

 セラフィーナはグレイハンク伯爵を責める気にはなれない。

(高望みはできませんわ)

 三皇后は相手が悪すぎる。検閲で手紙の文面が筒抜けである以上、複雑な暗号文でも使わない限り、情報は盗まれてしまう。こればかりはどうしようもない。

 むしろグレイハンク伯爵はできる範囲で、よくやってくれていると高く評価していた。

「王様が死んでるってヤバいじゃん。僕も一時期、死にかけて帝国がヤバかったから、向こうをどうこうは言えないけどさ。そんなの手紙に書いてあった?」

「ちょっとした暗喩で示されていましたわ。バルカサロ王国を象徴する国獣はエルクですわ」

? エルフじゃなくて?」

「エルクはヘラジカとも言いますわ。巨大な角を持つ鹿です」

「大きい鹿⋯⋯? ん~。あぁ! アルテナ王国の宝物庫を探検したときに剥製を見たかも!!」

「その剥製は私も覚えがありますわ。ヘラのように広がった両角が金箔と銀箔で彩られておりませんでしたか?」

「鹿の大きな角が金ピカと銀ピカだった!」

「ガイゼフと結婚したとき、バルカサロ王国から送られた贈呈品ですわ。置き場所に困り、色々と迷った挙句の果てに、手入れが大変だったので⋯⋯。宝物庫の奥に仕舞われました。懐かしいですわ」

「うげー。元彼の話なんか聞きたくなかったかもー。過去なんか懐かしまないでよ」

「ふふっ。そうですわね。失礼いたしましたわ。ベルゼフリート陛下♥」

 本当は違う。セラフィーナはベルゼフリートの嫉妬を煽るために、わざと前夫ガイゼフの名を懐かしむ振りをした。

 エルクの剥製が宝物庫に入れられた理由は、リュートとヴィクトリカが跨がろうとして怪我をしたからだ。王子と王女の幼馴染だったロレンシアは、その出来事をよく知っている。

(母乳を吸うお口が止まっておりますわよ。ロレンシア?)

 セラフィーナはロレンシアの頭を撫でた。二人が切り捨てた望郷の念だ。今さら手を伸ばすべきではない。

 ――ロレンシアはまだ覚えている。

 ヘラジカの剥製をよじ登ったヴィクトリカが落下して骨折し、受け止めようと下敷きになったリュートも打撲。慌てたロレンシアは大泣きしながら女官のリンジーを呼びに走り、階段から転げ落ちた。

 子供達の怪我は軽傷で、骨折したヴィクトリカも数カ月後には元気に走り回っていた。再び同じことをすると考えたセラフィーナとガイゼフは、子供達がアスレチックに使っていたエルクの剥製を宝物庫に隠した。

 有名なアルテナ王家のエピソードである。

 ロレンシアは近衛騎士団に入団してから、レンソンなどの同期からこの逸話で何度も冷やかされた。

「んぅっ⋯⋯♥ れろっ♥ んふぅっ♥」

 促されたロレンシアは乳吸を再開する。セラフィーナは満足げな表情で頷いた。

 二人の淫女はこの逸話を懐かしむ資格がない。十年以上も紡いできた幸せな記憶よりも、ベルゼフリートの寵愛を選んだのだから。

「ベルゼフリート陛下♥ お話の途中ですがオチンポを挿入していただけますか♥ 私の心から他の男を消し去ってくださいませ♥ はぁ、はぁ⋯⋯♥ この猛った巨根で⋯⋯子宮に刻み込んでぇ⋯⋯♥」

「浮気性の売国女王様はオチンポで分からせてあげないと駄目ってことかな。いいよ。お望み通り、これが欲しかったんでしょ?」

「んぅぅっ♥ はぃっ♥ ほしかったのぉっ♥ おぉっ♥」

 セラフィーナとベルゼフリートは正常位で交わる。太ましい巨根が膣穴を押し拡げ、肉襞の道を突き進み、最奥の子宮へ達する。ロレンシアも主人の双乳を交互に甘噛し、セラフィーナの快楽を煽り立てた。

「じゃあ、話の続きをしてよ。エルクがヘラジカっていう大きな鹿なのは分かったから」

「は、はぃ♥ グレイハンク伯爵が送ってきた手紙で、エルクの角を取り扱う商人について記述がありましたわ」

「あったかな? うーん。あったかもしれない⋯⋯」

「回りくどい文章表現でしたが、エルクの統率者が斃れたと解釈できる文脈を発見しましたわ。他にもいくつか隠された言葉があり、それらのキーワードを繋げていくと⋯⋯」

「バルカサロ王国の王様が死んじゃった、となる?」

「はい。そして後継を巡って、身内同士の争いですわ。グレイハンク伯爵の推察は概ね正しいでしょう」

「身内の争いか。どこでもやってることは同じだね。せめて僕の子供達は母親が違っても、兄弟姉妹でも仲良くしてほしい。そういえばさ、バルカサロ王国の王家って人数が多いんじゃなかった?」

「バルカサロ王家の血統という意味なら百人以上はいたかと⋯⋯。ですが、継承権を持ち続けている王族は、そこまで多くありませんわ。十数人程度だと思いますわ」

「王位を継げない王族がいるってこと?」

「はい。他国の人間と結婚したら継承権を失う。バルカサロ王家の出身者は、他国の有力者や豪族と政略結婚しておりますわ」

「外国に王族を送り出せるくらい駒数が足りてるわけだ。⋯⋯セラフィーナもガイゼフと政略結婚してたね。じゃあ、ガイゼフは王位を継げないわけだ」

「そうなっておりますわ。教会が私との離婚を正式に認めた後は⋯⋯どうなのかは分かりかねますが⋯⋯」

「ガイゼフって中央諸国で反帝国の活動家になってるんだよね」

「ヴィクトリカとは距離を置かれているようですわ。アルテナ王国の民からは失望されておりますもの」

「戦争に負けちゃったもんね。レオンハルト達を相手によく戦ったと褒めてはあげるよ。戦場でよく殺されなかったもんだ。たださ、ほんと、無謀すぎ。帝国の戦力を完全に見誤ってる」

「その通りですわ」

「他の国はまだ帝国を侮ってるのかな?」

「戦争に敗れたバルカサロ王国は、領土内での被害こそありませんでしたが、大きな損害を被っておりますわ。恐怖はあるでしょう。メガラニカ帝国という眠れる獅子を起こしてしまったのですもの」

「はぁ⋯⋯。グレイハンク伯爵の手紙はよく読まないと駄目だね。ありがと。情報は噂話で妃達に流しちゃうから」

「構いません。次はベルゼフリート陛下の番ですわ」

「もちろん、いいよ。取引だもん。セラフィーナの質問にいくつか答えてあげる。まずは妃を孕ませてる理由から話そうか? 妃達の妊活は三皇后が推進してるの」

「三派閥のご意向だったのですね」

「来年には新しい妃を迎えるかもしれないでしょ。まだ妊娠してない妃は超焦ってるの。それで妃同士の諍いもあったりとか、なかったりとか⋯⋯ね」

「妃同士の諍い?」

「僕もよくは知らない。たぶん軍閥派かな。ハスキーとかお喋りな警務女官達はそう噂してたよ。お風呂でマッサージしてくれる庶務女官は宰相派じゃないかって予想してたけど、大穴狙いな気がする。僕は軍閥派と予想。レオンハルトやヘルガが忙しそうだもん」

「妃ではありませんが、つい最近⋯⋯湖の上で眠っていた方を目撃しましたわ」

「アレキサンダー公爵家の姉妹喧嘩とは別件だよ。あっちは大事にはならない」

「妃達の諍いは解決したのですか?」

「和解してる。揉め事は大神殿が仲裁したって、もっぱらの噂。派遣された調停官はアストレティアかな? 神官が出てきたら、妃達もお互いの醜聞になるから聞き分けがよろしくなる。セラフィーナも経験あるよね?」

「思い出したくありませんわ。生きた心地がしませんもの」

「他に質問はある?」

「メガラニカ帝国とルテオン正教国が水面下で接触していたと耳にしましたわ。教会が乙女を貢いだというお話も⋯⋯。その辺りをベルゼフリート陛下はご存知でしょうか?」

「まだ確定じゃないんだけど、中央諸国や教会圏と衝突を避けるために、婢女ひじょとして入内させるかもって言われてる」

婢女ひじょ?」

「秘匿された特殊な女仙。皇后、王妃、公妃、愛妾、側女、女官、そのいずれにも当てはまらない。婢女の存在は人々に一切公開しない。後宮における階級外者。蔑称になるけど、アウトカーストとも呼ばれる」

「何かしらの理由があって、存在を公にできない女仙ということでしょうか?」

「その理解で合ってるよ。実を言うとセラフィーナは婢女ひじょを知ってるよ。ロレンシアにいたっては実物を見たことがある。僕を産んだ母親がまさしく婢女だ。女仙化してたらしいからね」

 ベルゼフリートの産んだ母親は、植物状態で息子の赤子を産んだ。魂は失われ、意識が戻ることはなかったが、繰り返される母子相姦で子供を産み続けた。

 体液を摂取し続けた体は、血酒を飲み干した女仙と大差なく、大神殿は皇帝の生母を婢女と見做した。

 本来、皇帝となるはずだった少年は、実母の生きた屍を抱くことで荒魂を鎮めた。破壊者を封じる器は、相姦児のベルゼフリートに引き継がれ、役目を終えた母子は眠りについた。しかし、それまでにベルゼフリートの姉弟を何人も産み落としている。

「国家が認めた女仙だから、大妖女レヴェチェリナとかは婢女じゃないよ。あれは魔物でもあったしね。とにかく婢女については僕もあまり分からない。皇帝である僕にも婢女の存在は隠されてる」

「今も婢女がいるかどうか、ベルゼフリート陛下は認知されていない?」

「分かんないよ。三皇后とか上級妃、大神殿の記録係とか、女官総長くらいじゃないと知らない国家機密だもん。教会が貢いでくる乙女ってのもさ、もう女仙になってる可能性だってあるよ。そんで一生涯、どこかに幽閉とか」

「ヘルガ妃殿下の仰る通りなら、私の黄葉離宮で預かることになっておりますわ」

「そうなの? じゃあ、僕も会えそう。楽しみだね。教会の乙女ってのがどんな娘か気になる」

 ベルゼフリートとセラフィーナには知らされていないが、婢女は一人存在している。その身柄は魔狩人が預かっており、元魔物であるため軟禁状態が続いていた。

 元牛魔のキュレイと皇帝ベルゼフリートが邂逅する日はまだ先である。

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