黄葉離宮の浴室に二人の美女が全裸で向かい合っている。
キャルルとセラフィーナ以外、この場には誰もいない。互いに陰部を隠さず、恥じらいなく堂々と見せひけらかす。後宮で皇帝の夜伽役を一度でも経験すれば、粗末な羞恥心など掻き消える。普段は真面目に職務をこなす堅物の上級妃であっても、夜の愉しみでは豹変するものだ。
「ふ~ん。たしかにベルゼフリート陛下が好きそうなエロいオッパイしてるわ。大きさはブライアローズお姉ちゃん以上で間違いない。ってことは、あのデカパイ宰相閣下と同等なんだ。天然モノでしょ? 最上級サキュバスに比肩する爆乳なんて早々お目にかかれないわ」
(褒めてくださっているのかしら? 同性に乳房を批評されるのは悦ぶべき? 反応に困りますわ)
セラフィーナの女陰は金色の恥毛が茂っている。見苦しくない程度に整えて、ベルゼフリートの望み通りにしていた。肌を日焼けで黒く焼いても、アルテナ王国の女性らしさは残した。
異国の女というステータスは宮中でセラフィーナとロレンシアだけが持っている。これを活かさない手はない。
その一方、メガラニカ帝国で生まれ育ったキャルルは綺麗に脱毛している。花街を遊び歩くような、若女のファッションを好む。アレキサンダー公爵家の末妹は、武人らしさが薄く、富豪のお嬢様っぽい振る舞いだった。
(あえてキャルルさんは私と二人っきりになった⋯⋯。狙いは何なのかしら?)
一対一の会談はキャルルの意向だった。
「大きなオッパイ。いい柔らかさと張りをしてるわ」
値踏みするように、キャルルはセラフィーナの乳房を揉む。ベルゼフリートの鷲掴みとは異なり、触り方に性的ないやらしさはなかった。
「ブラジャーをせずとも型崩れしないの? 羨ましがる女仙は多そうだわ」
(荒っぽい触り方ですわ。けれど、不快感はありませんわ。慣れている手つきですわね)
畜産業者が乳牛の発育具合を調べる業務行為は、こんな風に行われているのであろう。さも当然とばかりにキャルルはセラフィーナの乳首を絞った。
薄桃色の乳輪から乳汁が飛び散る。
「すごい量の母乳。ちょっとだけ妬ましいわ。私はね、母乳があまり出ない体質だったのよ」
「そうだったのですか? ⋯⋯私もこんなに母乳が出るようになったのは、ベルゼフリート陛下の御子を産んでからですわ」
昨年末に赤子を出産して以来、セラフィーナの乳袋はミルクを生成し続けている。母乳の大量分泌で張った乳房は、軽い力で絞るだけで乳汁が噴き溢れてしまう。
(あぁ♥ 漏れてしまったわ。陛下にご賞味いただくため、溜めておいたのに⋯⋯♥)
腹を痛めて産んだ三人娘が飲むはずだった母乳は、ベルゼフリートが独占している。
(まるで穴の空いた水風船ですわね。ほんのちょっとだけ、指先で挟まれた程度の刺激で⋯⋯♥ こんなに母乳を吹き出してしまうなんてぇ⋯⋯♥)
噴乳の勢いに、セラフィーナ自身も驚いていた。
ガイゼフとの間に出来たリュートやヴィクトリカを産んだとき、肉体にこれほどの大きな変調は起きなかった。
(セックスの影響もあるのかしら? 揉まれたせいで乳腺が発達したなんてことも? 三つ子を妊娠したのが一番の理由だとは思うけれど⋯⋯。いずれにせよ、ベルゼフリート陛下が私の心身を淫女に変えた⋯⋯♥ くふふふっ♥)
肉体改造を受けたロレンシアほどではないが、セラフィーナも乳汁の生成が早いせいで、胸部の張りに悩まされている。近頃は搾乳機を使って乳量を調整していた。
「キャルルさん。私と二人きりで話したいことがあるのでしょう? そろそろ本題をお聞きしたいわ。ベルゼフリート陛下をお待たせするわけにはいきませんもの」
セラフィーナはキャルルの真意を探る。
オッパイを弄るためだけに、黄葉離宮の側女や警務女官を遠ざけたはずがない。
「深い意味はないわよ。どうせ話すのなら邪魔されたくないでしょ。それだけ」
(焦らしますわね。⋯⋯七姉妹の末妹、キャルル・アレキサンダー。アマゾネス族は全員が大柄で筋肉質な女性と思い込んでいたわ。けれど、キャルルさんは例外ですわね)
細身の容姿は一般的なアマゾネス族の種族特性に反する。身長はセラフィーナよりも低く、分厚い筋肉の重装甲は装着していない。
(キャルルさんのご年齢は⋯⋯。私の娘⋯⋯、いいえ、ヴィクトリカ・バルカサロとさほど変わらない気がしますわ。肉体的成長の伸び代を残して、女仙になられたのでしょうね)
ちょうど良い大きさのバスト、引き絞られたウエスト周り。理想的な美少女の体型である。キャルルが成熟した女性であると示す部位は太ましいヒップだ。
キャルルは全身の筋繊維を奥底に隠している。
可愛らしさを第一とするキャルルはアマゾネス族の過大な筋肉を凝縮し、内部に押し入れた。しかし、アマゾネス族の種族特性は完全に消し去れない。
脹脛、太腿、臀部、肉付き豊かな下半身には贅肉に偽装した筋肉が詰まっている。
小柄な体付きを装っているため、ヒップの大きさがより引き立って目立つ。
(皮膚にたるみがないわ。若々しい少女の身体⋯⋯。身のこなしも軽やか⋯⋯)
キャルルの精悍な身体は、美少女の清らかさが色濃く残る。
(若々しさに嫉妬しそうですわ)
セラフィーナの蠱惑的な美体とは対照的だった。
爆乳巨尻のセラフィーナは妊娠中であるため、ウエスト回りが普段よりも太ましい。何もかもが大きく、熟しきった媚肉の艶態。清らかな国母から、ふしだらな淫母への堕落。その姿は淫欲を体現していた。
「キャルルさんから宮中の事情をよくお聞きしておくように、とベルゼフリート陛下から申し付けられおりますわ」
「私、広報官を希望し続けているの。血生臭い仕事よりも、そっちをやりたいわ。お姉ちゃん達に比べれば社交性だってあるつもりよ」
「ベルゼフリート陛下もそう仰っておられましたわ。もっと早くに面識を持っておきたかった」
「私もよ。前々からベルゼフリート陛下やお姉ちゃん達からセラフィーナのことは聞かされていたわ。同じ軍閥派の女仙でもあるし、それなりに関心があった。今まで顔合わせする機会がなかったけれどね」
どこまでが本心で、どこからが社交辞令なのか。互いに胸襟は開かず、上辺だけの世辞を交わす。女仙の思惑が交差する後宮らしい一幕であった。
「キャルルさんとお会いできて嬉しいですわ。これで七姉妹の皆様と顔見知りになれました」
「へえ。そう。ブライアローズお姉ちゃんとも? ずっと寝てたでしょ?」
「ええ、はい⋯⋯。寝てましたわ⋯⋯。なぜかベルゼフリート陛下のベッドで⋯⋯」
セラフィーナはグッセンハイム子爵領で開かれた海水浴バカンスの最中、ベッドで眠り続けるブライアローズを目撃していた。
「ブライアローズお姉ちゃんは生まれつきの過眠症。一日の大半を眠って過ごすのは仕方ないわ」
「ブライアローズさんは⋯⋯、その、失礼ですがご病気なのですか?」
セラフィーナは以前、ベルゼフリートに同様の質問をしてしまった気がする。
やはり返ってきた答えは同じだった。
「生来の気質。色々あるのよ。私だってアマゾネス族では変わり者よ。お姉ちゃん達みたいにマッチョでゴツい身体は嫌い。だって、可愛くないじゃない? そう思うでしょ?」
「好みは人それぞれですわ」
否定とも肯定とも解釈できる曖昧な返事をした。
「気を使ってくれるのね。まあ、些細なことよね。そもそも私達はたった一人の殿方を愛する女仙。肝心の皇帝陛下は選り好みをしないのだから。セラフィーナみたいなデカパイ好きと言われてる。けど、実際はどうかしら?」
「身に余るご寵愛を賜っておりますが⋯⋯。さて、どうでしょう」
セラフィーナは意味深に言葉を濁した。
お気に入りの一人に数えられているが、無位無官の愛妾でしかない。講和条約を締結し、子供が産まれた時点で、セラフィーナの役目は終わっている。
「皇帝陛下は乳房が大きいだけの端女を二度も胎ませたりはしないわ」
乳房を絞っていたキャルルの手はセラフィーナの孕み胎に触れる。
一度目の懐妊は軍務省の意向によるものだった。セラフィーナとベルゼフリートの意思に関わらず、女王と皇帝の子供が必要とされた。
完全なる屈服を内外に示し、幼帝に従属する後宮の愛妾として生きていく。セラフィーナは己の女心を満たすため、売国女王に堕ちた。
(後宮においてベルゼフリート陛下の御子を孕むのは至上の誉れですわ。私を含め、黄葉離宮の女仙は全員が妊娠している。この前の海水浴で孕み腹を見せびらかした効果は絶大でしたわね)
妊娠三カ月目を迎えたセラフィーナは、日ごとに子宮の重みが増していくのを感じ取っていた。
御子をたて続けに授かり、セラフィーナの住む黄葉離宮にベルゼフリートは足繁く通っている。側女や妃どころか、三皇后も意識はしているはずだ。
(――とはいえ、高い矜持をお持ちの面々ですわ。いつまでも腹の探り合いをしているわけにはいきませんし、私から頭を下げてお願いするとしましょう)
メガラニカ帝国の宮廷で生き残るためにセラフィーナは死力を尽くす覚悟だ。
血酒を飲んだ女仙は不老不病となる。皇帝ベルゼフリートの在位が続く限り、生を謳歌しなければならない。セラフィーナの人生は長引くだろう。
亡国の女王として哀れまれ、惨めな終生を送るつもりはなかった。
「キャルルさん。黄葉離宮の護衛になっていただけませんか?」
「それは貴方の側女になれと? 随分と大きく出たわね」
「とんでもない。誤解をされていますわ。元帥閣下の側女を奪うなど、卑しき愛妾ごときには許されませんわ。黄葉離宮で暮らす女仙をキャルルさんの御力で守っていただきたいのです。私だけでなく、ロレンシアや他の側女も⋯⋯」
「ああ、早合点したわ。そういうことね。アルテナ王国の元女騎士や帝都の元冒険者じゃ、伏魔殿の宮廷で暮らすのは大変でしょう。妬みの嫉み。子宝に恵まれてしまったら、それこそね」
黄葉離宮で強大な後ろ盾があるのはリアだけだった。ヘルガ・ケーデンバウアー妃殿下の側女で、祖父が帝国軍の重鎮ウィリバルトである。
皇帝ベルゼフリートは精一杯の勇気を振り絞り、リアの処女を散らしている。
当の本人は自覚していないが、性悪な女官達が煙たがるほど、扱いに困る側女だった。そこらの妃よりも背後に潜む勢力が強大である。
「具体的に何をすればいいのかしら?」
「まずは情報ですわ。私達は何も知りませんの。たとえば、今日の護衛にシャーゼロットさんがいなかった理由とか⋯⋯。知りたいことは沢山ありますわ。けれど、私達には知る方法がない。自衛のためにも情報が不可欠ですわ」
夜伽の最中にベルゼフリートが教えてくれたり、リアが噂を聞きつけてくることはある。しかしながら、黄葉離宮の情報源は非常に乏しかった。
「手を組むとして、私に対する見返りは?」
「キャルルさんが私に望まれるものを差し上げますわ。三皇后や冒険者組合がそうであったように」
「イリヒム要塞をくれるなら、黄葉離宮と個人的な同盟を組んであげてもいいわ」
「アルテナ王国とメガラニカ帝国の国境にあるイリヒム要塞ですか?」
「そうよ。先の戦争では激戦地の一つになった要衝。私もお姉ちゃ⋯⋯じゃなくて、レオンハルト元帥の部隊に参加していたわ。⋯⋯イリヒム要塞は立地がいいわよね」
(ガイゼフが率いた王国軍は、イリヒム要塞の戦いで大敗を喫していますわ。レオンハルト元帥だけでなく、キャルルさんまで⋯⋯。よくガイゼフは生き残れたものですわ)
その後に起きる出来事を考えれば、イリヒム要塞で名誉の戦死を遂げていたほうが良かったかもしれない。
「イリヒム要塞の陥落後、なだれ込んだ帝国軍の大軍勢は王都ムーンホワイトを包囲し、戦争の趨勢は決しましたわ。けれど、アルテナ王国がメガラニカ帝国に恭順した今は⋯⋯」
イリヒム要塞の軍事的価値は薄れている。だが、セラフィーナの認識は甘い。
「交易都市になりつつあるわ。メガラニカ帝国とアルテナ王国を結ぶ要衝ですもの」
(言われてみればその通りですわ。帝国軍が頻繁に使う性質上、イリヒム要塞を通る主要道はもっとも安全な交易路となる⋯⋯)
「中央諸国と断交状態にある西アルテナの商人は穀物類を帝国に売るしかない。イリヒム要塞はいずれ交易都市に生まれ変わるわ」
「キャルルさんも領土をお望みなのですね。理由をお聞きしてもよろしいかしら?」
「私にも幼い娘がいる。アレキサンダー公爵家に帰属していれば、不自由はしないでしょうね。でも、どんなに出世しても分家の家臣だわ。安定はしているけれど夢がない」
「アレキサンダー公爵家から独立されるおつもりで?」
「子供達はそうさせてあげたいわ。⋯⋯私はずっとアレキサンダー公爵家の女。皇帝陛下の御子を産めたから不満はないわ。母親になったら、次に考えるのは我が子の将来よ」
「イリヒム要塞はアルテナ王家の直轄地ですわ」
「今の政治状況ならできるでしょ。だって、皇帝陛下はアルテナ王国の国王を兼ねているのだから」
「王の子であれば領主にできますわね。そして、キャルルさんはメガラニカ帝国やアレキサンダー公爵家の名を重んじていない。⋯⋯王族に加わりたいのですか?」
意図を汲み取ったセラフィーナは頷いた。
「そうよ。私の可愛い娘達をアルテナ王国の王族にしてほしい。認知さえしてくれれば、私の娘は立派な王女でしょう?」
「キャルルさんご自身のお立場は?」
「あら? アルテナ王国の第二王妃にしてくれるの? 可愛いし、称号だけは欲しいかも。考えておいてね」
上機嫌なキャルルは口元を緩ませる。
「イリヒム要塞の件は承知いたしましたわ。キャルルさんの娘をアルテナ王家の王女となったとき、差し上げるという条件でなら通るでしょう。場合によっては養子縁組をさせていただくわ」
「⋯⋯⋯⋯。自分で言っておいてアレなんだけど、本当にそれでいいの? 私の娘だから、セラフィーナの血は一滴も入ってないわよ?」
「アルテナ王国の王朝は改められたのです。バルカサロ王家の遺伝子を排除し、ベルゼフリート陛下の崇高な血脈によってアルテナ王家を再興する。⋯⋯私は愛する殿方に王国の全てを捧げたいのです♥」
セラフィーナには思惑があった。キャルルの娘にアルテナ王家の血が入っていないとしても、後から自分の血を混ぜる手段がある。
(キャルルさんは気づいているのかしら? 私と違って経験がないから知らないのでしょうね⋯⋯。王家の娘は世継ぎを産む義務がある。私は政略結婚でガイゼフの子を産み、戦争で負けてベルゼフリート陛下の御子を産んだ。私だって同じことができる⋯⋯。王子さえいれば⋯⋯。くふふふ♥)
セラフィーナは胎の赤子に期待を込める。
(外様の娘を王家に迎えるのだから当然の代償ですわ。私の息子とキャルルさんの娘を交わらせる。異母姉弟で結婚は無理だとしても、絶対に子供を作ってもらうわ)
薄暗い感情に愉悦を覚える。皮肉にも歴史は繰り返される。
帝国軍は一年半前、ベルゼフリートにセラフィーナの強姦を命じた。アルテナ王家とメガラニカ皇帝の子供が必要だったからだ。
(古今東西、よくあることですわ。アレキサンダー公爵家の遺伝子を取り込めるのなら悪くありません)
十数年後、セラフィーナは息子に「異母姉を孕ませろ」と命じる腹積もりだった。
(もちろん、合意での子作りが望ましい。けれど、アマゾネス族は伴侶を選り好みするわ)
過去にアレキサンダー公爵家で起きた騒動をセラフィーナは知っている。
当主に指名されたレオンハルトが「生涯の伴侶は自分で見定める。決められた結婚はしない」と出奔し、家督をぶん投げた。ところが、ベルゼフリートと出会った瞬間「アレキサンダー公爵家の家督を継いで皇帝陛下と結婚する」と帰ってきた。
(どう転ぶかは予測がつかない。拒否されたなら、その時は政治的な強権を用いるしかありませんわね。 あぁ♥ 次の赤ちゃんが男の子であって欲しいわ。くふふふっ⋯⋯♥ 皇帝陛下の⋯⋯♥ 愛するベルゼと私の血筋で紡がれるアルテナ王国の新王朝♥ あぁ⋯⋯♥ 愉しみですわ⋯⋯♥)
淫欲に染まった肉体を差し引いても、セラフィーナはベルゼフリートを愛してしまった。妻であることも、母であることも、女王であることも、ありとあらゆる責任を裏切り、愛妾セラフィーナは幼帝ベルゼフリートに忠愛を誓った。
ベルゼフリートの治世が続く限り、不老不病の女仙は生き永らえるのだ。セラフィーナは子孫達の繁栄を見届けることができる。たとえ後世の歴史家達に悪名蔑称で貶められようと、魂の奥底で花咲いた悪女の眷恋は鎮まらない。