「――子供が産まれてしまえば、母親は用済みですわね」
セラフィーナは去年の出来事を思い出していた。
皇帝の御子を孕んだ後、母親がどういう扱いを受けるか。それは身をもって知っていた。そもそもメガラニカ帝国の本命は妙齢のヴィクトリカで、セラフィーナの後宮入内は偶然の産物だった。
セラフィーナが今も愛妾の地位にいるのは、ベルゼフリートの温情である。三皇后は用済みのセラフィーナを切り捨てる選択肢があった。
皇帝の血を引く御子を産み落とした瞬間、王家の女は役目を終える。
「セラフィーナも目聡く見抜くようになったね。その通りだよ。子供ができちゃえば用無し。母親がどうなっていようと関係ないみたい」
「くふふふ。本当に恐ろしい。他人事とは思えませんわ」
「だよねぇ。セラフィーナも気を付けな~。僕の娘を三人産んじゃってるから」
「ご心配いただき、ありがとうございます。肝に銘じておきますわ」
「そんでイシュチェルだけど⋯⋯」
「イシュチェルがバルカサロ王家の人間と見做せるかが問題ですわね」
「血族ではないけど、地位は王妃だ。⋯⋯王家の人間って考えていい気がするね」
「試してみれば分かることですわ。おそらく三皇后はそのおつもりでしょう⋯⋯」
「かもね。三頭会議では『やれるならやって』くらいの軽い態度だった。セラフィーナを孕ませるときみたいな命令じゃない。それに⋯⋯あの会議では疫病の話は出てこなかった⋯⋯。あの時点で判明してたのかな」
ベルゼフリートとセラフィーナの二人は、イシュチェルの下腹部に刻まれた聖印を凝視する。
「さて、イシュチェル。私とベルゼフリート陛下の話をちゃんと聞いていたかしら? バルカサロ王国を大飢饉から救えるかもしれませんわね。バルカサロ王国の王妃である貴方が孕めば⋯⋯ですけれど」
「セラフィーナ様⋯⋯。私にその話を信じろと仰るのですか?」
「ベルゼフリート陛下の御力は本物ですわ。イシュチェルが死の淵から戻ってこれたのは、血酒を飲んで女仙になれたから。女仙化していなければ、生きた屍のままだったはずでしょう」
「⋯⋯⋯⋯」
「今さらベルゼフリート陛下の御力を疑うおつもり? まあ、信じないのも自由でしょうね。飢えに苦しむ民が無関係と思えるのなら⋯⋯。くふふっ。ご自分の意地と純潔を貫き通せばよいわ。無慈悲な王妃になる覚悟はある?」
悪女は嘲笑う。セラフィーナにはイシュチェルが感じる痛みがよく分かった。
(⋯⋯ッ!! よく言えますね。売国女王セラフィーナ⋯⋯! 貴方だって一国の主⋯⋯! アルテナ王国の女王でしょうに⋯⋯!! 故国の民を⋯⋯罪のない人々を救うためには⋯⋯!)
ぐしゃぐしゃの顔でイシュチェルは苦悩する。
もし本当にバルカサロ王国で飢饉が起きていて、凶作を解決する手段が目の前にあるならば、飛び付くのが王妃であろう。しかし、メガラニカ皇帝の子を孕み、産み落とすのは、亡くなった国王チャドラックへの裏切りだ。
「あのさ。二人で盛り上がってるところ悪いけど、破壊者ルティヤの力も万能ってわけじゃないよ。仮にイシュチェルが僕の子供を孕んで、上手い具合に〈浄化の雨〉がバルカサロ王国に届いたとする。⋯⋯でもね、収穫までは時間がかかる」
植え付けから収穫までのサイクルが短い芋類でさえ、年に収穫できるのは二回。春に植えた芋は初夏、秋に植えた芋は初冬。現在進行形で起きている食糧不足が解決されるのは早くとも冬だ。
ベルゼフリートは純粋な善意で指摘する。
「もう手遅れじゃない? 跡目争いなんて馬鹿なことしてないで、中央諸国に泣きついたほうが現実的だ。食糧を恵んでもらいなよ。外交的に孤立してるメガラニカ帝国と違って、バルカサロ王国の友好国はたくさんいるじゃないの」
収穫した穀物を流通させる期間も考慮すれば、どんなに楽観的な見通しでも年を越してしまう。
ベルゼフリートが気付いた非情な現実。しかし、それすらも想定が甘かった。優秀な統治者はその先を予見していた。
中央諸国が豊作とは限らない。ただでさえ大穀倉地帯のアルテナ王国からの供給が今年から途切れたのだ。しかも、農作物を侵す疫病は中央諸国にも広まりつつあった。
ルテオン聖教国が聖女マリエールを皇帝に嫁がせ、メガラニカ帝国との関係改善を図った政治背景である。
一方、バルカサロ王国では軍師団が最終手段を講じた。内乱を利用し、食糧不足に苦しむ難民を国外に逃がした。また、第二王子と第三王子の戦いを静観し、戦死者で事実上の口減らしを行っている。凶作に対処する統治能力をバルカサロ王国は喪失してしまった。
国王チャドラックの暗殺を防げず、国家運営の主要人物が皆殺しにされた時点で、バルカサロ王国の悲惨な運命は決まった。
「農作物を毒で汚染する疫病が解決しなければ、被害は広がり続けますわ。来年はもっと酷くなるかもしれない。周辺諸国にも広がる。そうなったら難民の数も膨れ上がり⋯⋯。追い詰められたバルカサロ王国は戦争を引き起こすわ」
「戦争は前々からやる気だったもんね。うげぇ。吹っ掛けられて迷惑だよ。ほんとさ⋯⋯。帝国軍は軍縮計画を実行中だってのに⋯⋯。踏んだり蹴ったりの帝国元帥が可哀そうだ。レオンハルトは頑張って軍縮してたのに⋯⋯。また議会から計画の見直しを迫られそうだ」
「三皇后がどんな決着を望んでいるかまでは分かりません。しかし、イシュチェルの胎にバルカサロ王国の命運がかかっている。これだけは確かな事実ですわ」
「セラフィーナの言う通りだね。さて、ここまでの話を聞いたイシュチェルはどうする? このままだとバルカサロ王国の人間がいっぱい死んじゃうよ。死亡濃厚のアーロン王子より、生きてる国民の救済に尽くすのが王妃なんじゃないの?」
「皇帝陛下の赤子を孕んで、国民が救われる保証はあるのですか⋯⋯」
「現時点ではないね。〈浄化の雨〉をバルカサロ王国で降らすと三皇后が決定するかは微妙だ。疫病問題が片付いても、政治闘争の決着はつかないかもしれない。アルテナ王国みたいに国家分裂も起こりえる。⋯⋯でも、ほんのちょっぴりの希望はある」
「私には無理ですわ。皇帝陛下⋯⋯」
「えー。そんなに僕が嫌い?」
「貴方を最愛の男性とは認められません。私はバルカサロ王国の王妃ですわ。そして、教皇猊下から授かった聖印がある限り、私は妊娠いたしません。私の子宮は王家に忠誠を誓っております」
「国が滅んでもいいの?」
「⋯⋯創造主様と開闢者様が定められた運命を私は受け入れますわ」
「ふーん。そう。じゃあ、試してみる? 運命とやらを」
ベルゼフリートの両手が伸びてくる。イシュチェルの太腿を押し広げ、股の女陰を開帳させた。
「っ! 無駄ですわ!」
「それはどうかなぁ?」
皺の深い陰唇に男根の先端が触れる。幾度も退けられた挿入を敢行する。
「再生した処女膜は最愛の男性だけを受け入れる⋯⋯。そう説明されたのはメガラニカ帝国の方々ですわ」
「うん、うん。そうだね」
「〈朱燕の乙女貝〉の効果は本物ですわ。そんなアーティファクトを私に使った意図は計りかねますが、失敗だったのではありませんか? 何度試そうと無意味ですわ。私は皇帝陛下を好いておりません。⋯⋯私の愛は不変ですわ」
「愛は不変ね。⋯⋯僕にも大好きな人がいるよ。初めてセックスした特別な相手。こう見えても昔は人見知りだった。よく知らない人は苦手だったし、好きな人とだけ愛し合いたかった。でも、皇帝に即位してからは学んだ。教えてもらったんだ」
「⋯⋯?」
「愛は千差万別、人それぞれなんだ。僕が好きな女性は、すごく責任感が強かった。だから、皇帝である僕に尽くしてくれる。それが彼女の愛なんだ。その想いに応えるのが僕なりの愛。⋯⋯〈朱燕の乙女貝〉は愛があれば破れる」
ベルゼフリートは腰に力を込める。ベッドの床板が軋んだ。
「ウィルヘルミナから助言をもらった。帝国宰相からの手紙。『王妃イシュチェルが本当に愛しているモノを探りなさい』って書かれてあった」
「私が愛しているのはバルカサロ王の国王⋯⋯! チャドラック陛下ですわ⋯⋯!!」
「ウィルヘルミナは違うと考えた」
「まさか⋯⋯私とアーロンについての噂を⋯⋯。あれは出鱈目ですわ⋯⋯!!」
「勘違いしないでよ。不貞の噂を鵜呑みにしたわけじゃない。ウィルヘルミナが疑ったのは、清廉潔白な修道女だったイシュチェルが強引な求婚を受け入れたこと。⋯⋯前王妃が急死した直後の再婚だ。どうして素直に受け止められたの?」
「私は⋯⋯国王陛下をお支えするために⋯⋯! 不純な想いは微塵もありませんわ!」
「そこなんだよね。イシュチェルってさ、セラフィーナやユイファンと違って野心がないでしょ。かといって、ウィルヘルミナやレオンハルトみたいな乙女の愛執もない。そういう女仙を僕は何人か知ってるよ。欲が薄い女。滅私奉公⋯⋯。個人の感情よりも、大衆の幸福を優先する自己犠牲。どこまでも立派な聖職者だよね」
ベルゼフリートが思い浮かべる人物は、メガラニカ帝国を支え続けた神官長カティアの姿であった。
「なっ、なにを言ってい⋯⋯っ⋯⋯!?」
固く閉じられた膣穴に変化が起きた。
(なっ、なんで⋯⋯!? どうして⋯⋯! 押し込まれる⋯⋯ッ!!)
膣穴が徐々に拡がっていく。鉄壁だった処女膜が軟化している。密着してくる亀頭を弾き返せずにいた。
「チャドラックの求婚を受け入れたのは、ご老人が好みだったからじゃないでしょ。立派な王様だったからだ。国王に恥をかかせてはならない。王国の名誉を気にした。イシュチェルが愛しているのは男じゃない。人間でもない。国家そのもの⋯⋯。それは愛国心だ」
ベルゼフリートが言い当てた愛の形。愛情を向ける対象は、必ずしも異性だけとは限らない。イシュチェルにとって最愛の存在とは祖国の人々であった。
「あぁ⋯⋯! あっ⋯⋯!? いっ、いやっ!! やめっ⋯⋯!」
身体の異常に気付いたイシュチェルは慌てふためき、股を閉じようと足掻く。しかし、判断が遅かった。
「イシュチェルの最愛はバルカサロ王国の人々に向けられている。修道女の誓いを捨てたように、王妃の貞操も捨てられるはず。状況が整ってしまった。国民を救える可能性があるんだ。――心優しい王妃様は僕を愛さずにはいられないよね」
残酷な道理を示された。修道院では自己犠牲がもっとも気高い行為と教えられた。教会の教えに感化された修道女イシュチェルは、滅私奉公の殉教者であった。
御国のためであればこそ、老王の求婚を受け入れた。
「あぁっ! 違う! 私は貴方なんか愛してない! 愛さない! 嫌よ! 絶対にそんなっ! んぁああぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ! ダメっ! 挿れないでっ! んっ!? んひぃぃっ! おっ、お願いっ! それだけは!! お願いだからぁ! らめっ! いやぁああああああああああああああああああぁぁぁっーー!」
イシュチェルは絶叫する。暴れ回そうとした両腕は、警務女官達に押さえつけられた。ベルゼフリートは腰を沈めていき、極太のオチンポが狭苦しいオマンコを穿つ。
破瓜の痛みがイシュチェルを襲う。処女喪失の血が流れ出て、女陰を紅色に染めた。
「⋯⋯ぁ⋯⋯あぁ⋯⋯うぅ⋯⋯!」
山峡の修道院で育った三十二歳の修道女は還俗し、王妃となって国王チャドラック・バルカサロに純潔を捧げた。二度目の処女喪失は七年後、皇帝ベルゼフリート・メガラニカに純潔を奪われた。
「膣が弛んでる。ゆるゆるってわけじゃないけどさ。名器とは言えないかな。これじゃ、お互いに気持ちよくなれないよ?」
「んぁっ⋯⋯うっ⋯⋯!」
アーティファクト〈朱燕の乙女貝〉は真なる愛情を司る。祖国を深く愛するがゆえに受け入れてしまった。イシュチェルの愛国心は受難の道を選んだ。
「あとは聖印を掻き消して、妊娠させるだけ。もっと時間がかかると思ってた」
「やっ⋯⋯! いっ⋯⋯やぁ⋯⋯!!」
「本当に嫌なの? イシュチェルは僕やメガラニカ帝国の力が必要なんでしょ。僕との子作りは王妃としての責務みたいなものだ。僕は優しいから子宮に胤をあげる。頑張ってね」
「ふひぃっ⋯⋯!? あっ⋯⋯んぁっ⋯⋯!! 出さない⋯⋯でぇっ⋯⋯!!」
子宮口に押し付けられた亀頭が膨らむ。ベルゼフリートの放精は激流となって注ぎ込まれていった。円熟したオマンコはイシュチェルの意思に関わらず、若々しい精子を嬉々として飲み干した。下腹部に淫熱が籠もり、渦巻く肉欲に酔う。
「あぁっ♥ んおぉっ⋯⋯♥」
教会の聖印が発光する。ベルゼフリートの膣内射精に強く反応していた。
「子宮の聖印がピカピカ光ってる? サキュバス族の淫紋みたいだ。僕の射精に反応してるのかな? それともイシュチェルが絶頂しちゃったせい?」
「ちがっいううぅっ♥ そんなはずぅっ♥ なぃっ♥ あぁっ♥ あんっ♥ んぅっ♥ んう~~♥ やめれぇっ♥ 変になるっ♥ おかしくなっぢゃうぅうっ♥ あぁっ♥ あぁっぁああああああああぁっ~~♥」
交わりは一段と深まる。イシュチェルの血肉にベルゼフリートから表出した穢れが溶け込む。
