セラフィーナに呼び出さされ、ラヴァンドラは黄葉離宮を訪れた。
王妃のラヴァンドラは不快な気持ちを抱く。派閥の異なる格下の愛妾。だが、セラフィーナの立場は特殊だ。相手が皇帝の赤児を身籠もっている以上、出向かざるを得なかった。
「とても信じられないです。その取引、本気ですか?」
「ええ。帝国宰相ウィルヘルミナは間違いなく、現在の地位を追われますわ。宰相の後継はラヴァンドラ妃殿下となりましょう。――私の協力があれば」
「現状、権勢の絶頂期にあるウィルヘルミナ閣下が辞職される? 断言する根拠を教えていただきたい」
「それはお教えできません。陛下と私の秘密ですわ」
「話になりませんね。何が目的ですか? 取引のつもりなのでしょう」
「もちろんですわ。ラヴァンドラ妃殿下」
黄葉離宮の主寝室で密会するラヴァドラとセラフィーナ。室内はよく清掃されている。しかし、精臭の残り香が匂う。
ベルゼフリートが日夜、愛妾の離宮に入り浸っていると宮廷では噂されていた。噂は事実だ。ベルゼフリートはセラフィーナを寵姫と認め、余暇の時間は黄葉離宮で過ごしている。
「私の働きで宰相となったら、我が祖国アルテナ王国の主権を尊重してほしいのです。無理に併呑されれば、確実に内乱が起こります。バルカサロ王国はもとより、中央諸国の代表者ルテオン聖教国が介入してくるでしょう」
「そのあたりの事情は理解できるようになったのですね。喜ばしいです。アルテナ王国は火薬庫。処理を間違えれば派手に爆発炎上するでしょうね」
「ラヴァンドラ商会が発行する帝都新聞。毎朝楽しみにしていますわ」
「取引はやぶさかではありません。セラフィーナさんの言葉通り、ウィルヘルミナ閣下が失脚されるのならば……。しかし、目的は本当に祖国を守るためですか?」
「それ以外に目的があると思われますか? 私はアルテナ王国の女王ですわ。国を守るために努めております」
「殊勝な心がけです。しかし、宮中では不愉快な噂がたっています。陛下の寵愛を得たセラフィーナさんが、愛妾の身分でありながら恐れ知らずな企みをしていると⋯⋯」
「企み?」
「皇后の地位を簒奪し、陛下の御心を意のままに操ろうとしている。そう噂する者が増えていますよ。なにせ、最近の陛下は宰相府に来てくださらない。……ウィルヘルミナ閣下は皇帝陛下を招かれなくなった」
「誤解ですわ。私は無理やり後宮に連れてこられたのですよ。辱められ、不義の子を宿した私は嘲笑の的ですわ。不純な想いは抱いておりません」
「陛下を本心では愛していないと?」
「――私は夫を持つ人妻ですわ。そして一国を背負う女王。情に流されたりはいたしませんわ」
「よろしい。分かりました。私が皇后の地位に就き、宰相府を掌握した暁には、アルテナ王国の存続に力を貸しましょう。ただし、既に交わした約束も守ってもらいます。セラフィーナさんが産む御子の養育権。覚えているはずですよね?」
「以前の取引を忘れてはいませんわ。ラヴァンドラ商会のおかげで、ロレンシアは良い旅ができました。来週には帝都アヴァタールに戻ってくるそうですわ。土産話が楽しみ」
「話は変わりますが陛下は何処に⋯⋯? 珍しく黄葉離宮にはおられないようですね」
「今日は約束があると言って、朝から留守ですわ」
「セラフィーナさんは行き先をご存知ないと?」
「宰相府には行かないでしょうから、ユイファンさんの離宮かもしれませんわね。でも、夜には戻られると思いますわ。ああ⋯⋯そうですわ。夜伽、よろしければご一緒します?」
「結構。乱交には懲りていますし、今日は忙しいのです。人と会う約束が立て続けにはいっています。話が終わりなら、もう帰らせてほしいのですが?」
「お気をつけて。ラヴァンドラ妃殿下」
ソファに腰掛けるセラフィーナはお腹を撫でる。母子ともに健康。出産日は近づいてきている。
セラフィーナが受胎したのは大陸歴八年三月二十三日。メガラニカ帝国とアルテナ王国の間で、講和条約が締結された日の夜だ。
大陸の暦法では一ヶ月を二十八日とし、一年を十三月とする。妊娠から出産までは十月十日かかる。十三月の末日頃、すなわち年末年始がセラフィーナの出産予定日だった。
(⋯⋯やれやれですね。セラフィーナさんは宮廷の恐ろしさをまったく知らない。少しは女王らしく成長したのかもしれませんが、他人を信用するなど愚の骨頂です)
◇ ◇ ◇
ラヴァンドラは黄葉離宮の玄関前に待たせていた馬車に乗り込む。
「どうだった?」
「陛下のおっしゃる通り、セラフィーナさんが取引を持ちかけてきました」
「そっか」
ベルゼフリートは苦笑する。幼い皇帝は実権がない。しかし、立ち回りで女仙を動かせる。朝方に黄葉離宮を出発したベルゼフリートは、ラヴァンドラ王妃の離宮に向かった。
セラフィーナがラヴァンドラと取引する話は、前々から聞かされていた。
会いに行く絶好のタイミングは呼び出される直前。セラフィーナは自由に動かせる部下がいない。だからこそ、まずは機先を制する。
「それで、どうする? ラヴァンドラは宰相になりたい?」
「もちろんです。私は陛下の正妻となりたい。欲深い商家の女だから、私は王妃となったのです。しかし、他人の助けは借りません。自力でウィルヘルミナ閣下を超えてみます」
「意気込みがいいね。影から応援してる。今回の件、僕に協力してくれるんだね」
「私の欲を満たしてくださるのなら悦んで」
ラヴァンドラはドレススカートをめくり股を開いた。ノーパンの女陰は無防備だ。丸見えの陰裂から愛液の涎が滴っている。
誘われたベルゼフリートは脚絆をズリ下ろし、勃起させたオチンポを宛がう。
「馬車でヤっちゃう?」
「皇帝陛下。もう我慢できませんっ♥︎ 貴き子胤を私の卑しいオマンコにお注ぎください。子供を授けてっ⋯⋯ん♥︎ んぁぁ♥︎ あんぁ~~んぅぅぅうぁっ♥︎」
「いいよ。避妊はしない。僕の子胤をラヴァンドラにあげるっ⋯⋯」
馬車の中でセックスを始める。ラヴァンドラの子壺に精を流し込む。ウィルヘルミナに言いつけられた避妊はしない。
(本気で孕ませる⋯⋯! 妊娠を交渉材料に使えば、ラヴァンドラは僕の側につく。セラフィーナの後ろ盾は削らないと⋯⋯)
膣内に精子をぶちまける。恍惚の表情を浮かべるラヴァンドラの両脚を抱え上げ、男根を振り下ろす。ビクッビクンッ!と絶頂する女体を抱きしめる。
「日暮れまで⋯⋯いっぱいセックスしようね。ラヴァンドラ」
「はい♥︎ 陛下ぁ⋯⋯♥︎ んぅ⋯⋯ぁ⋯⋯♥︎」
悦楽に酔うラヴァンドラは満面の笑みで頷いた。
ベルゼフリートの裏工作がなければ、ラヴァンドラはセラフィーナの取引を拒絶していた。仮にウィルヘルミナが失脚し、自身が三皇后の一角に着いても、セラフィーナの助力ありきでは飼い犬だ。
ラヴァンドラは王妃の責任を自覚している。メガラニカ帝国の利潤で動く女だ。地位欲しさで、アルテナ王国を優遇したりはしない。
夜になればベルゼフリートは素知らぬ顔で、セラフィーナの待つ黄葉離宮に帰ってくる。夕食を共に済ませ、湯浴みを愉しみ、寝室で情交する。
セラフィーナは夫を迎え入れるようにベルゼフリートを抱きしめた。
「陛下♥︎ 今日はどちらに?」
「ネルティと会ってた。もしかして嫉妬してる?」
「いいえ。だって、陛下は私を愛してくださっているわぁ♥︎ だから、ご奉仕いたしますっ♥︎ 妊娠オマンコに堪能くださいませっ♥︎」
邪淫に染まった悪妾セラフィーナは、幼き皇帝ベルゼフリートの本心に考えが及ばない。
◇ ◇ ◇
帝城ペンタグラムの一室に三皇后が参集した。メガラニカ帝国の方針を決定する三頭会議。開催を要請したのは、帝国元帥レオンハルトであった。
皇后三人による密室の会議だが、今回は例外的に女官総長ヴァネッサの姿があった。女官は政治に関わらない建前上、給仕をしている体で同席する。
「⋯⋯本当に陛下の意思ですか?」
ウィルヘルミナはレオンハルトに問う。もしも皇帝の意向を捻じ曲げ、利用しているのなら抗う覚悟だった。相手は大陸最強の武人。しかし、それでも皇帝に誓った忠誠心は揺らがない。
「私を見くびるな。帝国宰相」
「失礼しました。先ほどの発言は礼を失していました。しかし、陛下に過度の心労をかけたくありません。幕引きをはかるのであれば、私とナイトレイ公爵家が潔く退場すれば⋯⋯」
「否。結論は決まっておる。そもそも儂が口を閉ざしていた理由は、其方が帝国に必要じゃったからだ。隠居をするには若すぎる。まだ働いてもらいたいのう」
カティアは胸を撫で下ろしていた。上手い具合に着地点が見つかったと安堵している。
「陛下の精神は安定しておる。儂らが思う以上に強い御仁であられたのだ。儂は無用な心配とお節介をしていたのかもしれんのう」
「⋯⋯陛下の意思は分かりました。今後はどうします。特に秘密を知ってしまった者達です」
「後処理をせねばなるまいな。まず冒険者じゃ。ララノアは知っておる。野犬に追い回されてぴーぴー泣いておった小娘が、今や一級冒険者とはのう。月日の流れは早いのう」
「有名な冒険者です。秘密を言い触らす愚か者とは思いません。しかし、万が一がありえます。カティア猊下の神術で記憶を消していただけますか?」
「できはするが、おすすめはせんのう。記憶は魂と直結しておる。繊細なんじゃよ」
「軍務省が手を汚してもいい。冒険者ギルドと揉めるかもしれないが⋯⋯いたしかたないだろう。発端は私の指示による軍務省の企みだ。今回の件、尻拭いは受け持つぞ。陛下の覚悟を無為にはできん」
「手を汚すじゃと? 物騒じゃのう。司法の長がいる前で暗殺を仄めかすでない。祖父と同じ気質じゃな。元帥殿は焦りすぎじゃ。冒険者は五人とも女じゃろう? 天恵とも言うべき巡り合わせと思わぬか?」
「女仙に召し上げるつもりか?」
「妙案です。宮廷に引き上げましょう。飼い殺しとすればいい。穏便な手段を使うべきです。冒険者ギルドと敵対関係には陥りたくありません。宮中に招かれたのなら、引退しようと栄達でしょう。それに、レオンハルト元帥が手を汚す必要はありません」
「問題はアルテナ王国の女王と王女じゃな。どう処理したものかのう。ヴァネッサよ。セラフィーナの検診をしている医務女官は何と言っておった?」
「セラフィーナさんは多胎です。双子、もしくは三つ子を宿されておられます。胎児は異能持ちでございます」
ヴァネッサは異能力を判定する異能力持ちの女官に命じ、セラフィーナの胎児を調べさせた。
「過去を見通す異能です。おそらくは過去視でしょう」
「母胎とは臍帯で繋がっておる。胎児の異能力で陛下の過去を知ったのじゃな。ロレンシアから送られた手紙には、肝心の内容が書かれてなかった。そうなのじゃろう?」
「担当の庶務女官が検閲しています。ロレンシアさんはセラフィーナさんに報告しなかったようです」
「赤毛の娘は素直で良いのう」
「⋯⋯ロレンシアは宮廷に戻せばいいとして、セラフィーナ女王とヴィクトリカ王女だ。ユイファン少将に調べさせたが、ヴィクトリカ王女も陛下の子を孕んでいるらしいぞ」
帝国宰相、帝国元帥、神官長は重たい溜息を吐いた。幼帝が精力絶倫だとは知っている。孕ませると決めたら、すぐさま身籠もらせる。これはもう才能だ。
「アルテナ王国の女王と王女。こうなった以上、片方は不要となりました」
「同感じゃな。しかし、どちらを選ぶ? ヴィクトリカ王女は死んだとなっておるぞ。荒立たぬのは娘のほうじゃな。もとより死んでおる」
「帝国軍が秘密裏に保護していたと発表すれば、さほど問題にならんさ。セラフィーナ女王の死因は簡単に捏造できる。自殺や産褥、どうとでもなるぞ」
「元帥閣下そう言うのなら、生かすべきは扱いやすい方でしょう」
「国家の災いとなりかねぬからのう。非情じゃが、やらねばなるまい」
――三皇后はセラフィーナとヴィクトリカ、母娘の処遇を決定した。