プールサイドに二つのソファベッドが並ぶ。背を預ける愛妾と王妃は、たった一人の少年を誘惑するために、肉感溢れる水着で生肌を露出させている。だが、お楽しみの時間はまだ先だ。
側女達は少し離れた場所で、主人達の対談を見守る。話し続けること、およそ十分。セラフィーナの説明が締め括られた。静かに聞いていたラヴァンドラは即答する。
「分かりました。冒険者組合との話し合いがまとまったら、皇女ギーゼラを使わせてあげましょう」
回答が早すぎる。最初からラヴァンドラの答えは決まっていたのだ。
(ラヴァンドラ妃殿下は迷う振りすらしない。無駄な時間が省けるのはこちらもありがたいですわ。品定めされているようで、あまり心地好くはないけれど)
ラヴァンドラが重要視するのは一点。セラフィーナが盤上の駒として役目を果たせるか。著しく能力に欠ける愚者は、予想外の行動で計画を破綻させかねない。
「ただし、皇女ギーゼラの後見人であるラヴァンドラ伯爵家は、一つの条件を設けるわ」
女仙が産んだ御子の親権は生母に与えられる。セラフィーナのように譲渡した場合、その親権は失われ、後見人が権利を握る。皇女ギーゼラはラヴァンドラ伯爵家預かりの身だった。
(要求。取引⋯⋯。私が提示できるのはお金ですわ。けれど、大財閥を運営するラヴァンドラ妃殿下が金銭を要求してくるはずがありません)
セラフィーナと冒険者組合の目論見は、ラヴァンドラ伯爵家の許可が大前提となっている。どのような要求が飛んでくるにしろ、受け入れざるを得ない。
「どのような条件でしょうか?」
「人が欲しい」
ラヴァンドラは口角を吊り上げる。さながら、人買いの奴隷商人だ。
「ひと⋯⋯? 人間をご所望ですか?」
「ええ。アルテナ王国の人間を三万人以上。多ければ多いほどいいわ」
「アルテナ王国の民を何に使うつもりですか? 目的をお聞かせください」
「旧帝都ヴィシュテルの復興に不可欠な要素は植民。自治区というご褒美で冒険者を掻き集めたところで、その数は一万人にも満たないでしょう。それでは経済が回らないわ」
「ラヴァンドラ妃殿下は奴隷をお望みで?」
「セラフィーナさん。貴方は大きな勘違いをしているわ。高度に発展した経済大国において奴隷など非生産的⋯⋯! 私が欲しいのは人民。すなわち民です」
「なぜそんなものを? しかも、アルテナ王国の人間で構わないと言うのですか?」
敗戦後、分割状態に陥ったアルテナ王国では反帝国の気運が燻っている。帝国貴族のラヴァンドラ伯爵家に対する忠誠心はまず期待できない。
「新興貴族であるラヴァンドラ伯爵家は領地を持っておりません。我が商会の悲願は領地獲得ですわ。アルテナ王国やバルカサロ王国との戦争は、割譲で新領土を得るチャンスでした。はぁ⋯⋯。講和条約の内容は、本当に残念だったわ」
「恐れながら、ラヴァンドラ妃殿下。講和条約で領土割譲はしないと取り決めておりますわ」
「ええ。セラフィーナさんがご指摘の通り、領土割譲どころか賠償金すら得られなかった。上手くやったものですわね。宰相派は煮え湯を飲まされた気分でしたわ。領土拡張を期待して、我が商会も戦時国債を買っていたのですから」
ラヴァンドラは冗談めかして愚痴をこぼした。
現在、皇帝ベルゼフリートはアルテナ王国の王を兼ねている。アルテナ王国の領土と資産はメガラニカ皇帝の庇護下にあった。
もはや叶わぬ望みだ。敗戦国の財産を食い散らかす、そんな蛮行は許されない。
「ラヴァンドラ妃殿下は旧帝都ヴィシュテルをご自分の所領にされたいのですか?」
「全域を欲しているわけではありません。約十万人を養えるだけの土地を下賜いただく予定ですわ。財閥がたっぷりと国債を購入する対価として⋯⋯。三皇后の内諾は得ています。しかし、土地以外にも必要なものがあります」
「それで、アルテナ王国の民が欲しいのですね?」
「ええ。領民が住まない無人の土地に価値はなし。最低三万人の民、第一次の植民計画に必要な頭数ですわ。無論、廃棄されて久しい荒廃地を復興させるわけですから、不便や危険はあるでしょう。しかし、辛苦に見合う対価は提供いたしますわ」
「一つお聞かせ願います。ラヴァンドラ伯爵家は領土がなくとも、既に十分な財力があるはず。なぜそこまでして領地を欲しがるのです? 既に帝都随一の財閥をお持ちではありませんか」
領土を持たずとも商会の利潤だけでラヴァンドラ伯爵家は富んでいる。帝都アヴァタールで多種多様な事業を成功させている大財閥の長が、所領を欲する理由が分からなかった。
「嗤ってくださって結構。虚栄と矜持です。現在のラヴァンドラ伯爵家は貧民出身の大商人が零落した伯爵家の令嬢を引き取ったのが始まり。爵位継承を認めさせるために、ラヴァンドラ商会の創始者は英雄アレキサンダーと共に戦い、半世紀前の旧帝都解放戦で死にました」
「聞き及んでおりますわ。救国の英雄アレキサンダーが率いた七人、そのうち五人は戦死された。その中の一人にラヴァンドラ大商会の創始者がいたと」
メガラニカ帝国の爵位は、血統による世襲で継承される。大貴族が分家を抱えているのは、本家の血筋が絶えたとき、養子を迎えて一門を存続させるためだ。
ラヴァンドラ伯爵家は死恐帝の災禍で没落し、財産と領土を失った。
かろうじて残されていた爵位も失われかけており、帝都アヴァタールで成り上がった金貸しの豪商に身売りした。生き残るための醜い足掻きは冷笑を買った。しかし、その決断がラヴァンドラ伯爵家の運命を大きく変えた。
「ラヴァンドラ伯爵家は旧帝都ヴィシュテルに領土を持つ権利がありますわ。我らの創始者は命を捧げて戦ったのですから」
災禍の終息に多大な貢献をした。その見返りに、ラヴァンドラ伯爵家は帝国貴族で唯一、例外的な爵位継承を議会に認めさせていた。
ラヴァンドラ伯爵家の当主は、血筋による世襲ではなく、財閥内の推薦で選ばれている。
帝国憲法は血統以外の爵位継承を禁じた。しかし、抜け道は用意されていた。断絶した直後、爵位を授与する。断絶と授与を繰り返せば、事実上の継承となる。
ラヴァンドラ伯爵家が新興貴族とされる所以だ。一代貴族を積み重ねて、ラヴァンドラ伯爵家は現在まで至っている。
「土地を得る目途は立ちました。そして、私の胎に皇胤が宿っているわ」
ラヴァンドラ伯爵家の血統は断絶し、ラヴァンドラ商会の創始者は実子を残さずに死んでいる。だからこそ、現当主の王妃ラヴァンドラは皇帝の御子を産まねばならなかった。
「ラヴァンドラ伯爵家を再興する高貴な血筋の御子。私より後の者達は血統で爵位を継承することになるでしょう」
五百年の大空位時代を経て君臨した皇帝ベルゼフリートの御子。今後は推薦による当主選定を取り止め、血統で爵位を継承させていく。皇胤の子に文句を付けられる者はいない。
「土地と血筋⋯⋯! 残るは領民だけですわ」
ナイトレイ公爵家に匹敵する家格まで、ラヴァンドラ伯爵家を押し上げる。王妃の瞳には野心の炎が灯っていた。
(なるほど。虚栄と矜持ですわね)
ラヴァンドラの悲願は帝国宰相の地位に立ち、皇帝ベルゼフリートの正妻となること。帝国宰相の地位を正々堂々と簒奪するには、真なる大貴族として、周囲に認めてもらう必要があった。
「承知いたしましたわ。三万人の人民、必ずご用意いたしましょう」
「⋯⋯良い返事をありがとう。けれど、口で言うだけなら容易いわ。皇帝陛下の愛妾にして、アルテナ王国の女王セラフィーナ、貴方は具体的にどうやって用意するおつもりなのかしら?」
考えなしの承諾はまったく意味を成さない。昔のセラフィーナであれば、世間知らずな女王として、実現性皆無の空約束を結んでいたかもしれない。しかし、今の彼女は違う。宮中での生き方を学び、成長している。
「メガラニカ帝国との戦争時、ガイゼフが率いた王国軍は約八万人。そのうち、約半数は敗戦を受け入れず、東側に逃げてしまいましたわ。しかし、残る半数、およそ四万人は西側に留まっております」
アルテナ王国で持て余している人間。それは、メガラニカ帝国との戦争で戦った職業軍人達だった。
「王国軍の敗残兵を売ってくれるの?」
「全員は無理ですわ。納得しない者もいるでしょう。しかし、アルテナ王国は敗戦後の軍縮で、兵士の多くを解雇いたしました。屈強で精悍な王国軍の兵士。失業者はおよそ一万人と見積もられています。元兵士の家族を含めれば、三万人程度には膨れ上がりますわ」
「元兵士とその家族⋯⋯。人選は悪くないわ。いいのかしら? 売国女王の名が轟きそうですわね?」
「ラヴァンドラ妃殿下ともあろう御方が何を仰りますの? アルテナ王国の王はベルゼフリート陛下ですわ。アルテナ王国とメガラニカ帝国は兄弟国も同然。他国に棄民するわけではありません。むしろ未来を考えれば、植民の第一陣になるのは名誉なことですわ」
セラフィーナには予感があった。
(戦いに備えなければ⋯⋯。平時にこそ布石は打っておくべきですわ)
中央諸国の支援を受けた西アルテナ王国との戦争。いずれは実娘のヴィクトリカと戦う運命にある。
(私にはヴィクトリカと戦う覚悟がありますわ。けれど、アルテナ王国の民衆は私の側に付いてくれない。特に終戦の間際までガイゼフに従った兵士⋯⋯。彼らは私の役に立たないわ)
メガラニカ帝国の支配を認めなかった兵士は、東側に逃げ込んでヴィクトリカを女王と仰いでいる。
それならば西側に残った兵士はどういう心理状態か。セラフィーナは彼らの心情がよく分かった。
(気持ちはよく分かりますわ。戦争に嫌気が差した者達。メガラニカ帝国の軍事力を思い知り、恭順するしかないと割り切った敗北者。心は折れている。メガラニカ帝国に歯向かう気概はない。けれど、東アルテナ王国にも剣を向けたくない)
とどのつまりは後ろ向きな非戦主義者。帝国に敵対するつもりはない。だが、東部を統べるヴィクトリカ女王にも敵対しない。
(どっち付かずの不穏分子は、メガラニカ帝国内に隔離してしまったほうがいいわ)
戦いから逃げ続ける敗残兵の鬱憤は、いずれ売国女王セラフィーナに向けられる可能性がある。
(旧帝都ヴィシュテルへの移民はきっかけになりえますわ。そう、心変わりのきっかけになるかもしれない。反感から恭順へ⋯⋯♥︎ 私がそうであったように⋯⋯♥︎)
セラフィーナも縄張りを欲している。帝都の冒険者組合が欲する自由の楽園。自治区の設立に深く関わることで、冒険者組合に対する影響力を堅持する。
◆ ◆ ◆
「お待たせ~。色々あって遅れちゃったよ。ごめんね」
プールサイドを駆けてくるベルゼフリート。その背後に水着姿のユリアナがいた。
「⋯⋯⋯⋯」
澄ました顔をしているが、性奉仕を終えた直後なのは一目で分かる。黒い水着には特徴的な白濁色の汚れが付着していた。
ベルゼフリートの股間は臨戦態勢に盛り上がっている。細身短身に不釣り合いな太々しい男根。後宮の女仙は誰しもが、幼帝の寵愛を強く欲する。
セラフィーナとラヴァンドラは視線を交わす。協議は終わった。今回の会談は所属派閥が異なる二人のために、ベルゼフリートが伽役を指定する形で協力した。皇帝に呼ばれて、帝城ペンタグラムに赴くとなれば、誰からも後ろ指は指されない。
「セラフィーナは良い感じに仕上がってるね。綺麗な小麦色に焼けた肌。とっても似合ってるよ。僕の色に染まった気がして嬉しい」
「ありがとうございます。ベルゼフリート陛下♥︎」
セラフィーナはベルゼフリートの御前に跪いた。
「ラヴァンドラの水着もいいね。ねえ、来年は海で遊ぼうよ。こんな素敵な身体をしてるんだから、水着を見せないともったいないよ? 伽役に指名するから、お仕事をちょっとお休みしてバケーションを楽しもうよ」
「承知いたしました。しかし、陛下の御指名をいただいたら、他の妃から嫉妬を向けられそうで恐いですわ♥︎」
続いてラヴァンドラもベルゼフリートに恭しく膝を屈する。
「宰相派の上級王妃が恐れるのは三皇后くらいでしょ? まあ、正妻が恐いのは僕も同じ。でもさ、お仕事ばっかりで僕の相手をしてくれないんだもん。他の女仙に相手をしてもらうのは仕方ないよね」
セラフィーナとラヴァンドラは、勃起状態の男根ににじり寄った。ベルゼフリートの水着をズリ下げ、愛しの巨根と対面する。花蜜に魅了された蝶のように、亀頭へ舌先を伸ばす。
「宮中末席の愛妾として御奉仕いたしますわ♥︎ 愛しきご主人様♥︎ ベルゼフリート陛下は、私の全てを変えてくださった♥︎ 今、私は女の幸せを享受しております♥︎ あぁ♥︎ 私の皇帝陛下⋯⋯♥︎ 永久にお尽くしいたします♥︎」
セラフィーナは忠愛の言葉を捧げて接吻した。これ見よがしの愛情表現で、ラヴァンドラの対抗心に火がついた。たっぷりの愛情を込めて、負けじと奏上する。
「偉大なる皇帝陛下にお仕えする王妃として御奉仕いたします。ベルゼフリート陛下の御子を授かり、ラヴァンドラ伯爵家はさらに繁栄することでしょう。存分に、余すところなく、我が身をご堪能ください♥︎ ベルゼフリート陛下のご寵愛を授かるために、私はこの世に存在しておりますわ♥︎」
水着の美女二人は互いの爆乳を押し付け合いながら、唾液が絡まるのも厭わず、太々しいオチンポを舐め回す。
「喧嘩しないで仲良くしてね? くすくす♪」
幼き皇帝は満足げに笑う。セラフィーナとラヴァンドラの頭を優しく撫でた。こうして惚れ込ませた美しい孕女を侍らせていると、ベルゼフリートの心は安らいでいくのだった。