「――ハアァァッ!!」
女騎士は凜々しい叫び声を上げ、身の丈ほどの大剣を振るう。必殺の一撃が敵の急所を捉えた。刃の切っ先が魔物の分厚い皮膚に食い込む。
軟弱な斬撃を弾き返す鋼の表皮。だが、剛力を誇る女騎士は勢いそのままに、大剣を振り抜いた。
「ぐぎゃぁ! ぎゃあぁあああぁあっ⋯⋯! あぁぐぅっ⋯⋯!!」
血吹雪が咲き乱れる。女騎士は巨鬼の腹部を掻っ捌き、真っ二つに両断した。
「このオレが⋯⋯! 脆弱な人間の女なんかにぃっ⋯⋯!!」
口から血泡を吹いて魔物は倒れ伏す。人間を脆弱な生き物だと蔑んでいた巨鬼は、最期の瞬間に思い知った。自分が狩られる側――圧倒的弱者であった事実を。
「ふんっ⋯⋯! たわいない!」
巨鬼を斬り伏せた女騎士は不服そうだった。刃に付着した血を払う。周りを取り囲む小鬼達は動揺を隠せていない。
「こんな雑魚が荒れ野の主だと? 肩慣らしにもならないな。所詮はこの程度か⋯⋯!」
女騎士は大剣を天に掲げた。生き残りの魔物を挑発する。だが、襲いかかってくる様子はない。みっともなく後退りして、逃げ腰だった。
「さあ、貴様らはどうする!? 頭目の巨鬼はこの通りだぞ? 臆して声すら出せんのか? 仇討ちをしたい愚か者は私の前に出てこいッ! 私の大剣で捻り潰してやる! さあ、最初はどいつだ!?」
巨鬼の死骸を足蹴にする女騎士。首魁を討たれて動揺する小鬼どもの掃討に取り掛かる。
「ヒュギャアアアアア! ギギャアアアアアアア!!」
「ピギィイィィィィッ! フィヒギャアアアアアアアアア!!」
「ピギィ! ピギャアア! ギャギャギャギャアアアアアッ!」
耳障りな喚き声と悲鳴を上げなら小鬼は敗走し始める。リーダー格のいない群は混乱状態に陥った。
「小鬼どもを逃すな! 一匹残らず駆除だ! 騎士団の名誉にかけて鏖殺せよ!」
騎士達は包囲を完成させている。巨鬼が敗死した時点で大勢は決していたのだ。
「どうせ死ぬなら、挑みかかってこい! 軟弱者どもめ!!」
包囲網の中心では女騎士が大剣を竜巻のように振り回す。切断された子鬼の頭部や四肢が空を舞う。魔物達の返り血で、女騎士の白銀鎧が真っ赤に染まった。
「ふぅ。やれやれだ。これでは蟻を踏み潰すのと変わらん」
「マドリエンヌ様! お怪我はございませんか?」
地面に転がる小鬼の死骸を飛び越えて、女騎士のもとに部下が馳せ参じる。
「戯言を抜かすな。この私が怪我をするわけないだろう」
女騎士の名はマドリエンヌ・ド・バリハール。黄金髪を靡かせる美女は、負け知らぬの大剣豪であった。剛剣の二つ名は辺境諸国に轟き、街道で悪さを働く魔物を駆逐してきた。
生来の恵体は屈強な大男を投げ飛ばす膂力。身の丈ほどの大剣を片手で振り回し、女にあるまじき豪快な戦いを好む。
「それとだな。ライアン⋯⋯!」
「はい。なんでしょうか? マドリエンヌ様?」
「ライアン!」
「は、はい⋯⋯? マドリエンヌ様?」
「⋯⋯ライアン」
「何か? お気に障ることでも? マ、マドリエンヌ様⋯⋯?」
「お前の態度だ! いつまで私を様付けで呼ぶ気だ? 妻をよそよそしく様付けで呼ぶな。そんなんだから夫のくせに、私の小姓扱いされるのだぞ!」
「実際、僕はマドリエンヌ様の小姓みたいなものですよ」
「世迷い言を抜かすな。私と結婚して何年目だ? そろそろマドリエンヌと呼び捨てにしろ! まったく! 夫が侮られて困るのは私だぞ」
駆け付けた部下の青年は苦笑いする。彼の名はライアン・ド・バリハール。女騎士マドリエンヌの夫だった。
「そんなこと言われたって、今は仕事中なんだよ? 僕は騎士団所属の魔法使いで、マドリエンヌ様は団長だから⋯⋯ね。上官と部下だ。夫婦だからといっても序列は軽視しちゃいけない。僕の立場を分かってほしい」
「ライアンは頭が固い。誰もそんなことは気にしていないぞ。団長を呼び捨てにしたから何だというのだ。妻は妻だろ!」
「恐ろしい団長の前で、文句を口にする命知らずな騎士はいないさ」
ライアンは浄化魔法を発動する。マドリエンヌの白銀鎧に付着した汚泥や返り血が洗い流された。治療の魔法専門家だが、マドリエンヌは滅多に怪我をしない。多用する魔法は身を清める浄化系ばかりだった。
「あとは死骸の処理だけです。休まれては?」
砕けた口調を改めて、ライアンは仕事用の顔に戻る。
マドリエンヌは夫の遜った態度が気に食わなかった。しかし、咎めはしなかった。不機嫌そうに唇を噛むだけにとどめる。
「討ち漏らしははいないだろうな?」
「大丈夫です。包囲を逃れた小鬼はいませんでした」
「私が留守の間、騎士団は怠けきっていたらしい。特に新人は練度が著しく落ちているぞ。情けない」
「彼らは立派に働いていましたよ。マドリエンヌ様が大暴れしてくれたおかげで、完璧な包囲戦ができました。一匹残らず駆除完了です。群の戦闘員は全滅、小鬼達はしばらく街道に出てこないでしょう」
「薄汚い豚どもめ。山奥の洞窟でこそこそ生きていればいいものを⋯⋯。弱いくせに数が多くて困る。戦っていて詰まらん相手だ」
「荒れ野の主は手応えがありませんでしたか? 依頼を受けた冒険者が返り討ちに遭っていたそうですが⋯⋯」
「この雑魚に? どうやったら負けられるんだ? 素手でも勝てたぞ」
ライアンは真っ二つになった巨鬼の死骸を調べる。
「即死ですね。さすがはマドリエンヌ様。剛剣の技は衰え知らずだ」
一撃で敗れ去ったようだ。死に顔に刻まれた感情は恐怖と驚愕。人間に力負けするとは考えてもいなかったのだろう。しかも、相手は脆弱なはずの女だったのだ。
「赤肌の巨鬼は一撃で死んでしまったぞ。あんなのが頭目でよく群を統率できていたものだ」
「襲撃されたキャラバン隊から報告されています。棍棒を使う赤肌の巨鬼。外見上の特徴が一致していますよ」
「はぁ⋯⋯。おいおい。嘘だと言ってくれ。弱すぎだ。私の剣撃を一度も受け止めきれず、ああなったんだぞ」
「マドリエンヌ様の期待に添いませんでしたか?」
「当然! 期待外れだった! ん⋯⋯? 待てよ? もしかして他の個体だったりするか? 赤肌の巨鬼なんてそこら辺にいるだろ」
「赤肌は珍しい変異種ですよ。頭部に特徴的な古傷があります。まず間違いなく、この巨鬼が荒れ野の主でしょう」
「こんな弱っちい雑魚の魔物が、街の脅威に認定されてしまうのか。私が休職したらこの体たらくとはな。⋯⋯もっと早く復帰するべきだった。病み上がりでも全く問題なかったな」
「病み上がりって⋯⋯。別に病んでいたわけじゃないでしょう? そこは子育て中だったと言うべきですよ。マドリエンヌ様」
マドリエンヌは街で有数の貴族だった。本来はお飾りで騎士団の旗振り役をする乙女。だが、どういうわけか実力で騎士団長になってしまった。
自分より強い男を婿にすると言いだしたが、マドリエンヌに勝てる男は現れなかった。このままでは血筋が断絶しかねないとバリハール家は慌てた。この際、誰でもいいから結婚して後継者を産んでほしい。マドリエンヌに一族総出で頼み込んだ。
「少しは淑女らしくされては? 実家のご両親が喜びますよ?」
「どうだか。特に母は実娘の私よりも、婿のお前を気に入っているだろう」
「そんなことはないです。子供が可愛いと思わない母親は、この世におりません」
「そうだといいがな。私は生まれる性別を間違ったかもしれん。腹を痛めて産んだ息子や娘を見ても、母親らしいことができない。男に生まれていれば気楽だった。それでライアンが女であれば万事解決だ」
「いじけたことを言わないでください。それだけの美貌を持っているのですから、マドリエンヌ様は魅力的な女性ですよ」
「夫のくせに⋯⋯。他人行儀な口調でお世辞を言うな」
魔法使いのライアンは幼馴染みだった。六つほど年下で弟のような存在だった。女同士では会話が詰まらないので、いつもライアンを連れ回していた。
自分より強い男と結婚できないのなら、自分より賢い男を伴侶にした。気心が知れた相手であり、家柄にも問題なく、すんなりと結婚は決まった。
騎士団を休職していた六年間でマドリエンヌとライアンは子作りに励み、男児二人と女児三人を産んだ。
子供を産めば母性に目覚めて女らしくなるかと周囲は期待した。しかし、そんなことはなく、子産みの役目を終えたら騎士団に復帰してしまった。
「おい、知ってるか? 街ではこう言われてるらしいぞ。バリハール家の子供達はライアンが産んだ。魔法で性別を入れ替えでもしなければ、子供が産まれるはずはない」
「失礼な噂ですね」
「乳飲み子に母乳を与えてるのはライアンらしいぞ。くっくくくくく! 実際そうなのやもしれんな」
「本気で信じる人間がいるからやめてください。腹を痛めた赤子を産んだのはマドリエンヌ様ですよ。僕が痛めたのは腰だけ」
「まったく。街の年寄りどもは後継者がどうのこうのと煩わしい」
「ご両親を悪く言うのもいかがなものかと。お家が心配なんですよ」
「ともかく血統は残した。五人も産んでやったのだから、あとは私の自由だ。好きにやらせてもらう。そもそもだ。子供達は乳母のメイドに懐いている。私は母乳がでなかったからな。武骨な母親に育てられたくはあるまい」
「そんなことを言わずに⋯⋯。長男のロジェは立派な騎士になりたいと言っていたよ。きっと母親に憧れているんだ」
「そうだといいが⋯⋯。ロジェは気性が優しすぎる。魔法使いのほうが向いている」
「両方の才能が遺伝していれば、ロジェは魔法騎士になれるかもしれない」
「楽観的だな⋯⋯。親馬鹿め」
子供に対する愛情はあった。だが、普通の母親として振る舞えない。それならばいっそ、距離を取った方がお互いのためでないのかとマドリエンヌは考えてしまう。
生まれつきの剛力で、幼少期からマドリエンヌは恐れられた。力の加減を覚えるまで、何人もの人間を病院送りにしたせいだ。
思い返せば親しくしていたのはライアンだけだった。腕の骨を折ってしまった翌日も、ライアンは笑いながら会いに来てくれた。骨折を魔法で治せるようになったと笑っていた。
「マドリエンヌ様。後処理は部下達に任せましょう。子供達が帰りを待っているよ。街に戻ろう。母親の英雄譚を聞きたがっている」
夫の表情になったライアンが語りかける。五人の子供達は、父親を好いている。マドリエンヌはろくに母乳が出なかったせいもあって、子供達と触れあえていない。
末娘にいたっては、マドリエンヌを怖がって泣き出してしまう。その理由をマドリエンヌは知っていた。
(はぁ⋯⋯。おそらく私は子供に嫉妬していた。恥ずかしくて公言はできないが⋯⋯。最近のライアンは子供のことばかり⋯⋯。幼いながらも子供達は、私の幼稚な内心を見透かしている気がする)
子供を産んで初めてマドリエンヌは自覚した。いつも自分を見てくれていた青年が、我が子の世話に奔走している。産後の妻を労ってくれたが、やはり最優先は子供達だった。
(ライアンは子育てのことばかり私に言う。武具の買い出しにも付き合ってくれない⋯⋯。少しくらい子供を放っておいたって死にはしないだろ)
今回の遠征にライアンを無理やり連れ出したのは、自分の子供達に夫を盗られそうな気がしたからだ。マドリエンヌは母親になれなかったが、自分の恋心を初めて理解した。
「分かった。帰ろう。久しぶりに魔物どもを殺せた。今の私は機嫌がいい。家族サービスをしてやらんでもない」
マドリエンヌは髪結いを解いた。長髪は嫌いだったが、女らしくあってくれと母親に懇願されて伸ばしている。手入れはライアンに任せているので、放っておくと寝癖が酷くなって、野生児のようになる。
二十代の頃はお淑やかさに欠けたお転婆娘で押し通せた。だが、子持ちの人妻となり、三十路を越えた。年下の夫であるライアンは、二十代前半だがそろそろ青年と呼ばれなくなる年頃だ。
(騎士団に復職したものの⋯⋯。そろそろ私も大人にならなければいけないのか。居座り続けるもの考えものだな)
腕は鈍っていなかった。五人の子供を産んで胸と尻周りが大きく肥えてしまったが、筋力に衰えはなく、全盛期を維持できている。愛用の大剣と白銀鎧を使いこなせていた。
剛剣の女騎士マドリエンヌ・ド・バリハールが魔物に敗北するなど、誰も予想できなかった。当人すらも自分が無敵だと信じきっていた。
小鬼を暴力で支配していた巨鬼も、マドリエンヌに殺されるまで自分が最強だと疑っていなかった。無敗の強者は敗北を味わう瞬間、初めて理解させられるのだ。
井の中の蛙、大海を知らず。世界は途方もなく広く、上には上がいる。
◆ ◆ ◆
「――何だ! これは!!」
街道の商人を襲っていた魔物を掃討し、本拠のある街に凱旋したマドリエンヌは、凄惨な光景に憤怒した。
打ち破られた門、逃げ惑う人々、市街地のいたるところで火の手が上がっている。
騎士団の全員が出陣したわけではなかった。所詮は魔物退治。防衛戦力は十分に残していたにもかかわらず、街は陥落寸前だ。防衛にあたった騎士達は、生き延びた住民を領主の城に避難させたが、これは逆効果だった。誰かが叫ぶ。
「――お、おい! あれを見ろ!! ドラゴンだ!! ドラゴンが空を飛んでいる!!」
街に到着したマドリエンヌは黒竜を目撃した。最強の魔物と言われるドラゴン。漆黒の鱗に覆われた暴竜は、マドリエンヌの留守をいいことに街を荒らし回っていた。
(ブラックドラゴン! 街を破壊した魔物はあいつか⋯⋯!!)
領主の城を破壊しようと旋回している。狙いは宝物庫にある金銀宝物。ドラゴンは貴金属に執着する。攻城兵器のバリスタで反撃しているが、飛翔するドラゴンに当てるのは不可能だ。
「騎士団よ! 街を救うぞ! 広場に誘き出せ! ドラゴンは私が仕留める⋯⋯! あれは私の獲物だ!! 騎士達よ! 私に続け!!」
マドリエンヌは街を駆ける。出陣していた騎士団の帰還を知った街の住民は歓声をあげた。剛剣の女騎士であればドラゴンを殺せる。領主の城に張られた防壁は耐えていた。
「ライアン! 城の魔法防壁はいつまで持つ?」
「防壁の起点である要石が破壊されない限り、しばらくは耐えてくれる⋯⋯!」
「さすがは辺境最強の魔法使い! ライアンの魔法ならドラゴンにも負けはしないな!」
竜炎の息吹は魔法の護りを打ち消す。しかし、卓越した魔法使いであるライアンは、ドラゴンの猛攻に耐える魔法防壁を築いていた。魔法防壁が崩れ去れば、城に避難した人間は皆殺しにされてしまうだろう。
「マドリエンヌ様だ! 見ろ!! マドリエンヌ様が戻ってこられた!!」
「やった! やったぞぉ! 俺達は助かる! 俺達は助かったんだぁああ!! あぁ! 神様ぁあ! ありがとう! マドリエンヌ様を遣わしてくださった!」
「マドリエンヌ様! お願いです! このドラゴンを殺してくださいっ!! 私の父はあいつに踏み潰されたんです!!」
「俺の娘もだ! まだ三歳だったのに! あのドラゴンが炎を吐いて焼き殺した! 頼む! あのトカゲ野郎をぶち殺してくれ!!」
魔法防壁に手こずっていた黒竜は、人間達が何やら叫んでいるのに気付いた。広場を見ると挑発的な目付きで女騎士が睨んでいる。
黄金髪の美しい女騎士だった。大きな剣を掲げて、仲間を鼓舞していた。背後にいるのは魔法使いだ。羽ばたく翼が急に重たくなった。広場に落下させるつもりのようだ。
――漆黒の暴竜は急旋回する。
ドラゴンは人間達の誘いに乗ってやることにした。城に引き籠もった人間達の反応を見れば、大剣を構える女騎士に寄せられた期待の大きさが分かる。
逃げ惑うべき弱小生物が、最強の魔物であるドラゴンに歯向かう。気に食わなかった。挑戦から逃げれば、最強の矜持が傷つく。たとえ罠があろうと丸ごと踏み潰せばいい。
「よしっ! こっちに来ます! マドリエンヌ様! 防火の護りを施しましたが相手はドラゴンです! 炎の直撃を防げるのは一度か二度! 魔法の護りを過信はしないでください!」
「十分だ! それよりも地面に縛り付けろ! いくら私でも空を飛ぶ相手には攻撃できない! 地上での勝負なら、大剣で首を落としてみせよう!!」
最前衛は女騎士マドリエンヌ、その後ろに魔法使いライアンが控える。
「さぁ⋯⋯来い⋯⋯! ドラゴン!!」
最強種のドラゴンがなぜ街を襲ったのかは分からない。そもそも伝説級の魔物であり、ここ数百年は書物でしか確認されていなかった。
マドリエンヌに恐れはなかった。あるのは怒りだ。生まれ故郷の街を焼き払われた憎悪。憎しみを力に変えて、漆黒の暴竜に挑む。
(高揚で鼓動が高まる! まるで恋だな! 怒りと喜び、感情が爆発しそうだ。巡ってきた竜殺しの機会⋯⋯! 逃しはしないぞ! くっくくくく⋯⋯! 血が沸き立つ! やっと歯ごたえのある好敵手と出会えた!! 本気を出させてくれよ! ドラゴン!!)
伝説の魔物を討ち滅ぼせば、マドリエンヌの勇名は歴史に刻まれるだろう。ドラゴンスレイヤーは御伽噺の英雄。小さな人の身で、巨大な竜に斬りかかる。
「ハァアアアァァ!! 〈竜殺しの英雄〉の称号! 私に寄越せ!!」
マドリエンヌは着地の隙を狙った。ライアンの魔法でドラゴンの体重は何倍にも加重されている。さっきまで翼をバタつかせて空にしがみついていた。
(狙いはライアンか! だが、ここは通さないっ!! ドラゴン⋯⋯!!)
ドラゴンは魔法をかけた男に怒っている。狙いはライアンだ。そして、その前に立ちはだかるマドリエンヌを押し潰そうとする。
(ドラゴンの動作は見え透いているっ⋯⋯! 図体の肥えたトカゲだ! 動きが鈍い! 今までに私が殺してきた魔物と何ら違いはない⋯⋯! 捉えた! 勝てる! 殺せる! 所詮は大きさだけの魔物! 無防備に晒したその腹を穿ち貫く! 抉り抜いてやるぞッ!!)
広場を疾走するマドリエンヌは、大剣の切っ先をドラゴンの腹に向けた。
マドリエンヌの愛剣を造った鍛冶屋は、竜鱗を切り裂けると豪語していた。その言葉が本当かどうか、確かめる絶好の機会だった。
「なっ⋯⋯!? なんだと!?」
マドリエンヌは敵を見くびっていた。なぜドラゴンが最強の魔物と呼ばれているのか。その意味を履き違えていた。
魔法はドラゴンが発明した。魔物の業だからこそ、魔法と呼ばれてきた。黒竜の身体が軽快に浮かび上がり、マドリエンヌの頭上を通り抜けた。大剣の刃は空を切った。
(ありえない! なぜ着地の直前で上昇できる!? まさか!? このドラゴン⋯⋯! ライアンの拘束魔法を自力で解除したのか⋯⋯!?)
ドラゴンはライアンの拘束魔法を容易く解いた。身軽になった身体でマドリエンヌの剣撃を躱し、厄介な魔法使いを潰しにかかる。
「ライアン! 逃げろ!! 奴の狙いはお前だ!!」
「くっ! 飛び越えてきた!? くそ! 狙いは僕か!! 来るなら来い! ドラゴン! 受け止めてやる!! マジック・シールドぉおおーーッ!!」
ライアンは魔法杖を突き出して叫んだ。体内に宿る魔力を総動員して造りだした魔法防壁。ドラゴンの一撃に耐える自信はあった。
「――ァギャ!?」
マドリエンヌを傍らで支え続けたライアンの才能は本物だ。魔法使いの腕前を評価され、王宮に仕えないかと勧誘もされていた。
――ぐぢゃっ!
ドラゴンの尻尾がライアンを磨り潰した。非力な人間が構築した魔法防壁など、最強種の魔物からすれば紙切れも同然だった。
「ライアン⋯⋯!? 嘘だ⋯⋯。ライアン⋯⋯? ライアン⋯⋯?」
マドリエンヌは現実を受け入れられず、握っていた大剣を落としかけた。ずっと自分の隣で微笑み続けてくれる。そう思っていた伴侶が挽肉になっていた。
「うぁっ! あぁっ! おい! うあああああああああぁ! ライアンさん! ライアンさんがやられたぁあああ!!」
「おい! どうなってんだ! おいおい! これ、やべえ! やべえぞ!」
「待て逃げるなっ! にげるんじゃあない! 弓だ! 弓矢を撃て!」
「そんなもんが通じるか! 物陰に隠れろ! 炎を吐くぞ! 待避だ! 待避しろ!!」
「どこに逃げろってんだ! ここは広場だぞ! どこにも隠れるところなんて! うぎゃあああああああああああああぁっ!」
「や、やめろぉおっ! ああああああああああぁああああ!!」
「ふぎゃああああああぁ! いたいっ! いたいぃいっ! 団長! マドリエンヌ団長ぉぉぉおお! たずけげてぇえええっ!」
「うぎゃぁあああっっ! ぎゃぁああああああああああああぁ!」
ドラゴンのブレスは後続の騎士達を焼き払った。ライアンが死亡し、防火壁は消失している。為す術なく騎士達は焼き尽くされ、鎧が一瞬で蒸発し、肉体は炭化した。
――肉が焦げた不快な匂い。屍灰と火花が舞い散る。熱風が吹き荒んでいた。
(なんだ⋯⋯これは⋯⋯? 何が起きた⋯⋯? これは夢か? 本当に現実なのか⋯⋯!?)
阿鼻叫喚の火炎地獄。マドリエンヌは初めて戦いで恐怖を感じた。街道で悪さをしていた鬼達とまったく同じ立場になった。
狩る者から、追われる獲物。この場において、弱者を蹂躙する強者とは漆黒の暴竜だ。
「くっ⋯⋯! ふざけるな! ドラゴンめ! よくもっ⋯⋯!! やってくれたな⋯⋯!! 私の部下を⋯⋯!! 私の夫を⋯⋯!! ぶち殺してやるぞッ!!」
逆上で恐怖を塗り潰した。大剣を握り直し、ドラゴンに斬りかかる。巨鬼を圧倒する剛力で、マドリエンヌは大剣を振り抜いた。
「ハアアァアアアアアアアアアアアァァーー!!」
ドラゴンは前足の爪先で大剣を弾いた。戯れ付いてきた子供を押さえつける。そんな仕草だ。
(嫌だッ⋯⋯! 負けたくない! 負けたくっ⋯⋯ないィ⋯⋯!!)
マドリエンヌは愕然とする。ドラゴンの呆れた表情を見てしまう。つい数日前の自分と同じだった。弱々しい魔物達を詰まらなそうにあしらう。ドラゴンの表情はかつての自分と重なった。
(私を侮るなッ! くそっ! くそぉっ!! 私を敵とすら見ないつもりか! 傲慢なドラゴンめ⋯⋯!!)
ドラゴンはマドリエンヌに興味を向けていない。気に食わなかったのは、魔法をかけてきた男のほうで、ちゃちな剣を振り回す女には無関心だった。
――ガキンッ!!
何としてでも一矢報いる。マドリエンヌは根性で食らいついた。
(くっ⋯⋯! くっくくくく! どうだ! ドラゴン!! 私の一撃を軽んじた報いを! 人間の力を! 思い知れ⋯⋯!!)
ドラゴンは驚きの表情を浮かべ、紅い目を見開いた。マドリエンヌは竜爪の一撃を受け止める。そればかりか爪先を砕き、押し返してくる。
「ぐぅ⋯⋯!! うぐぅうぅ⋯⋯! ハァアア!!」
憤怒の表情で睨む女騎士。漆黒の暴竜は驚愕していた。
(耐えられるっ! 私ならドラゴンとも張り合えるはずだ⋯⋯!! 今まで、どんな魔物にも力では負けなかった!! ドラゴンにだって私は負けないっ! 負けるものか!!)
人間にしては大きいが、大竜の巨躯に比べれば蟻に等しい。「ちっぽけな蟻が人間の爪を噛みちぎった」ドラゴンからすれば、驚き以外の何ものでもなかった。
――びゅんっ!
試しに尻尾で振り払う。先ほどの魔法使いは耐えきれずに潰れた。破裂して臓器が広場の石畳に飛び散っている。女騎士はどうなるのか気になった。
「おがァ!? うぐぁぁっ⋯⋯! きゃぁぁああああああああああぁぁっ!!」
弾き飛ばされたマドリエンヌは地面を転がって、公園中央の噴水に激突した。石造りの噴水は粉々に砕け散った。
「がはっ⋯⋯ぐぅ⋯⋯!! うが⋯⋯? あ? はぁはぁ⋯⋯はぁ⋯⋯!」
マドリエンヌは原形を留めていた。白銀の鎧は脱げてしまったが、五体満足で息をしている。
(全身が痛む⋯⋯。痛覚が⋯⋯あるなら⋯⋯私は死んでないのか⋯⋯? ははは⋯⋯! 利き腕が砕け散りそうだ。骨が折れたどころの負傷ではないな。あぁ⋯⋯最悪だ⋯⋯! この私がみっともなく⋯⋯不様な悲鳴を上げる日が来ようとは⋯⋯!)
咄嗟に大剣を盾にしたのだ。剣は拉げてどこかに飛んで行った。
「――生きてるね。君は人間のくせに頑丈だ」
漆黒の暴竜は人語を喋った。マドリエンヌは驚愕する。言葉を使う魔物はいるが、ここまで流暢に話す魔物は見たことがない。
(こど⋯⋯も⋯⋯? まさか嘘だろう? ドラゴンはまだ子供⋯⋯? 幼竜に負けてしまったのか⋯⋯)
マドリエンヌは耳を疑った。恐ろしいドラゴンは幼子の声で喋った。声変わりしたばかりの少年だ。
巨大なドラゴンの体躯に似つかわしくない。だが、そもそもマドリエンヌは実物のドラゴンを今までに見たことがない。街を壊滅させたドラゴンは、独り立ちしたばかりの未熟な幼竜だった。
「意識もあるんだ。はぁ⋯⋯。やっぱり僕ってまだまだ弱いや。街を一つ落とせば一人前かと思ったけど⋯⋯。爪も砕けちゃったし⋯⋯」
ドラゴンは傷ついた爪先を魔法で治癒する。決死の覚悟で与えた傷が、数秒で癒えてしまった。
(ここまでだな⋯⋯。身体がぴくりとも動かん⋯⋯)
マドリエンヌは敗死を受け入れた。厳然たる力量差を見せつけられた。これ以上の足掻きは見苦しいだけだ。せめて生き残った市民が遠くに逃げてくれればいい。
(――もっと母親らしいことをすれば良かった)
マドリエンヌは死に際に後悔した。領主の城に子供達は逃げ込んでいるだろうか。両親や家族は無事なのか。死に際になってから愛母の念が湧き出す。
(死ぬにしても、誇りある騎士として使命を果たさねばな)
こんな最期を迎えるのなら、沢山の思い出を残してやりたかった。
「はぁはぁ。ぐっ⋯⋯! おい! ドラゴン⋯⋯! 貴様の目的は領主様の財宝か?」
「まあ、そんなとこ。腕騙しかな。巣立ちしたばっかりだから、色々と入り用だったんだ。この街を襲ったのは偶然だよ」
存外に気さくな性格らしい。返答は期待していなかったがドラゴンは答えてくれた。だが、漆黒の暴竜は理由もなく街を襲撃し、財宝を奪おうとしている。本質は人類を害す魔物なのだろう。
「街を守る騎士は全滅した。戦える人間が一人もいない。おそらく私が最後の一人だ」
「君が一番しぶとかった。ほかの騎士は一撃で殺せたんだ。君らは騎士⋯⋯。あれ? パパから聞いてたのと違うや。騎士って女もなれるんだ? 君って女だよね? そう見えるだけ? 本当は男?」
「これでも女さ。私は特例だ。頑丈な身体で、力もあった。今まで負け無しだった。貴様に負けるまでは⋯⋯」
「ふーん。強さを褒め讃えられるのは悪くないね。君の名前は?」
「マドリエンヌ・ド・バリハール⋯⋯。この街を守ってきた騎士団長だ」
「僕は黒竜ラオシャオ。東の果てから来た。幼いから二つ名はない。この街を襲ったのは本当に気まぐれだよ。君らは運が悪かった」
「財宝がそんなに欲しいか⋯⋯?」
「奪えるものは奪うよ。ドラゴンだもん。弱者は強者に貢ぐ。それがこの世界の理だ」
「いいだろう。聖職者のように説教を垂れる気はない。宝物庫の財宝はくれてやる。だから、逃げる人間は殺さないでくれ⋯⋯」
「⋯⋯え? なにそれ? 取引にならないね。君の許しなんかなくたっていい。だって、僕は宝物を自力で奪えるもん。なんで弱い奴に許可をもらわないといけないの?」
「城の魔法防壁を破れずに苦労していた。違うのか? 私が戻ってくるまで、手こずっていたのはそのせいだろう?」
ラオシャオは不機嫌そうに両目を細めた。やはり図星だった。
「交渉の余地はありそうだ。よく聞け、ドラゴン⋯⋯!」
不興を買うのは分かっていた。これで踏み潰されればそれまでと腹を括る。
「城の魔法防壁を簡単に解除する方法がある」
「それ、本当?」
「私との取引に応じるなら教えてやる。城の魔法防壁を構築したのは私の夫だ。私はどこに防壁の要石があるか知ってる」
「やっぱ人間は頭が小さいから馬鹿だね。夫がいるんだ。じゃあ、君を殺した後、その魔法使いを探すよ。そいつから聞き出せばいい」
「くっくくくくく! それは無理だ。貴様が尻尾で磨り潰したからな」
マドリエンヌは怨嗟を込めて吐きつけた。
「ああ、そっか。さっき潰した魔法使い。あの弱っちいのが城の魔法防壁を張ったんだ。へえ。夫婦のくせに、あっちは頑丈じゃないんだね。⋯⋯人間は個体差が激しいや」
「私の夫を馬鹿にするな。優秀な魔法使いだった⋯⋯! 城の魔法防壁はドラゴンであってもそう簡単には破れない。要石の場所を知りたくはないか?」
ドラゴンは広場をうろうろと歩き回る。石畳が軋む。幼竜とはいえ、巨大な身体で歩くと地鳴りが響いた。
「まあいいや。よくよく考えたら、街の人間を皆殺しにすると僕が有名にならない。条件は城に避難した人間を見逃す。それだけでいいの?」
「⋯⋯どういう質問だ?」
「他人の命乞いだけ? こういうのって普通は『自分を見逃せ』って頼むんでしょ?」
「私を侮るなよ、ドラゴン⋯⋯! 私は誇り高き騎士だ⋯⋯! 部下達が一人残らず戦死しておきながら、私だけが生き延びる気はない⋯⋯!! 民の命が助かるのなら、私はどうなろうと構わん!!」
「ふーん。ご立派だね。自己犠牲? いや、騎士の矜持なのかな? 度胸がある女は好きだ。君を気に入った。いいよ。取引しよ。要石を場所を教えて」
「約束を違えるなよ⋯⋯」
「もちろん。僕から逃げる人間は殺さない。君の言った条件を守る。竜角に誓うよ。その代わり、そちらも約束を果たせ」
「いいだろう。取引は成立だ。要石の場所は――」
マドリエンヌは夫のライアンから聞いていた要石の場所を教えた。
黙っていても城に逃げ込んだ民は外に出られず、飢え死にしてしまう。そうなるくらいなら取引をするべきだ。一人でも多くの人間を救いたかった。
(子供達は⋯⋯城に逃げているといいんだが⋯⋯。雇っていた乳母は賢い女だった。ドラゴンが襲撃してきたとき、一番安全な城に避難してくれたと信じよう)
黒竜ラオシャオは空気を吸い込み、ドラゴンブレスの予備動作に入った。マドリエンヌは生きてこそいるが、全身の骨が折れていた。業火で燃やし尽くしてくれるなら、痛みも少ないはずだ。
(手も足も出なかった。だが、不思議と受け入れられる。これが敗北か⋯⋯)
やれるだけのことはやった。負けたのは悔しいが、弱肉強食の世界だ。今まで魔物を狩っていたが、自分以上の強者がいた。それだけのことだった。
――倒れ伏したマドリエンヌは黒炎で包まれた。
広場全体に漆黒の炎波が広がった。強力な魔力が炎に宿っている。魔法の強さは知っていたが、ドラゴンの魔力は人間とは比べものにならなかった。
身にまとっていた衣服が炎上し、灰燼となって散っていった。不思議と熱さは感じなかった。むしろ肌を撫でる竜炎は心地好かった。
(肉体の痛みが薄れていく⋯⋯これが死⋯⋯なのか⋯⋯? あぁ、案外⋯⋯悪くない⋯⋯。このまま私は消える⋯⋯。ライアン⋯⋯もう一度、お前に会いたい)
あの世でライアンに謝らねばならない。結局、ドラゴンには勝てなかった。
偉そうに豪語していたくせに、広い世界では弱者の側だった。威張ってないで、もっと妻らしく、子供達を可愛がってやればと死に際になって後悔する。
「⋯⋯⋯⋯?」
マドリエンヌは困惑する。傷が癒えていた。右手の甲にあった古傷まで消えていた。身体が焼き滅ぼされて、魂が昇天したのかとさえ思った。しかし、違う。
「人間の身体を治すのは初めてだから不安だった。成功かな。傷は全て癒えたね」
ラオシャオは息吹でマドリエンヌに砕かれた爪を治癒した。ドラゴンの炎には魔法が宿っている。治癒と破壊、両方の性質を操れる。
「これは⋯⋯!? おい!? ドラゴン! どういうつもりだ⋯⋯!?」
全快したマドリエンヌは状況が理解できなかった。装備は燃え尽きて、真っ裸で棒立ちだった。
ライアンからもらった結婚指輪は溶けてしまった。だが、マドリエンヌの傷ついた身体は全回復した。折れた骨どころか、身体に残っていた全ての傷が消え去った。
「筋肉で筋張ってるけど、デカパイとデカ尻は良い感じ。もうちょい贅肉が欲しいかな」
「なっ⋯⋯!? 貴様はなにやってるんだ!? ふっ、服を着ろっ⋯⋯!!」
黒竜の巨体が広場から消え失せた。その代わり、黒髪の美少年が現れた。
(どういうつもりだ⋯⋯! ドラゴンのガキは⋯⋯何を考えて私の傷を癒やした⋯⋯!?)
紅蓮の竜眼、頭部から生えた鋭い竜角、漆黒の鱗で覆われた竜尾。マドリエンヌは美少年が人間に化けたラオシャオだとすぐ分かった。
「何って? もう一つの約束を果たしてもらおうよ」
「はぁ!? 約束って⋯⋯!? なんの約束だ!?」
「言ったよね? 『民の命が助かるのなら、私はどうなろうと構わん』約束は違えない。そうだよね? 頑丈な身体をしてるし、黄金の髪は好みだ。純金が大好き。――だから、マドリエンヌに僕の子供を産ませる」
「は⋯⋯? こどもを⋯⋯うませる⋯⋯?」
マドリエンヌは間抜けな声を出してしまう。「子供を産ませる」と宣言したラオシャオは勃起した男根を近づける。
「――僕と交尾してよ」
黒光りするドラゴンの男性器は、亀頭のソリに棘が生えていた。幼竜ではあったが、肉棒の太さと長さとは違う。女の股を引き裂く極太の逸物。口から竜炎を漏らすドラゴンの少年は、戦利品の女騎士を押し倒した。
「交尾するの初めて。これが女のオマンコ? 思ったよりも小さい。こんな穴に僕のオチンポがはいるのかな?」
「や、やめ⋯⋯! 見るな! 私に触るなっ!!」
「穴の周りに縮れた毛が生えてる。下の毛も金色なんだ。そりゃ、そっか。体毛だもんね」
身の危険を感じたマドリエンヌは、ラオシャオを投げ飛ばそうとした。しかし、子供の姿をしていても相手はドラゴンだ。剛剣の女騎士が誇った筋力はちっとも通じていない。
(くっ⋯⋯! ダメだっ! 引き剥がせない⋯⋯! 子供のくせに、なんてすごい力だ⋯⋯!!)
生物としての格が違う。ラオシャオはマドリエンヌに抵抗されているとさえ感じていなかった。弱々しく暴れる両足を握り、股を押し開く。マドリエンヌの膣口を観察したり、匂いを嗅いでいる。始めの女体に興味津々だ。子犬のような仕草で股を嗅いでいる。
「待て⋯⋯待てっ⋯⋯! こんな辱めは⋯⋯!! さっきの約束にはいってないぞっ!!」
「はぁ? 自分はどうなってもいい。確かにマドリエンヌは言ったよ。約束なんかなくても孕ませる気だったけどね。思わぬ収穫だ。交尾の相手をこんなに早く見つけられるなんて」
「こっ、こうび⋯⋯!? ふざけるな! わっ、私は人間だぞ⋯⋯!?」
「え? 知らないの? ドラゴンは人間に子供を産ませるんだよ?」
そんなの知るはずがない。ドラゴンは伝説の魔物だった。御伽噺のドラゴンは美しい姫をどこぞに攫う。勇敢な騎士が囚われの姫を救う英雄譚。
(ドラゴンに攫われた女は⋯⋯! そんな⋯⋯!!)
物語の背景をマドリエンヌは深く考察しなかった。だが、少し考えれば分かる。ドラゴンが美女を連れ去る理由は一つだ。
「僕のパパは人間だよ。マドリエンヌと同じで騎士だったんだ。僕のママは強い男を探してた。そこで思い付いた。有名な姫を攫って、強い男を巣穴に誘き寄せる。――ほんとさ、回りくどすぎだよね」
ラオシャオの母竜は、古い時代から御伽噺として伝わる「姫を攫ったドラゴン」であった。しかし、姫は餌であって、目的はドラゴンに挑む勇敢な騎士から、繁殖の相手を見つけることだった。
「人間の女は胎が丈夫じゃないと死んじゃうらしい。だけど、マドリエンヌは産めそうだ。弱小種族の割りには身体が頑丈だもん」
ラオシャオは挿入を試みる。強引に股を開かせて、オマンコの穴に押し入ろうとしてくる。恐怖で震え上がったマドリエンヌの陰裂に暴竜の肉棒が触れた。
(⋯⋯ぇ?)
マドリエンヌは乙女の身体に戻っていた。ドラゴンの治癒魔法はマドリエンヌの古傷を消し去った。
(なんで⋯⋯? 私⋯⋯! 処女の身体に戻ってるっ⋯⋯!?)
再生した処女膜が亀頭の侵入を阻む。だが、薄い粘膜のヒダで暴竜の極太オチンポは防げない。処女膜の中央にぽっかりとあいた穴が、亀頭の先端で拡げられていった。
「ひぃっ⋯⋯あぁっ⋯⋯! やめろっ! やめろ! やめろぉおおっーー!!」
ブチブチィッ! 再生したての処女膜があっけなく破られた。肉棘が生えた竜の生殖器は、返り血で真っ赤に染まった。マドリエンヌは激痛で身体を強ばらせ、歯を食いしばる。
「あれ? なんか⋯⋯つっかえてる⋯⋯? まあいいや。押し込めば入るでしょ」
「ぐっ⋯⋯ぐぅっ⋯⋯! やめろ⋯⋯! こんなの入るわけ⋯⋯んぁっ⋯⋯! 今すぐっ! 股が裂けてしまうっ! こんなに大きいオチンポは入らないっ! やめろっ! あぁあああっーー!!」
「誰に命令してんだよ。君は僕に負けたんだ。泣き叫んでないでさ。興醒めしちゃうよ? 交尾の相手に選んでやってるんだから、僕をもっと気持ちよくしろ!」
「はぐっ⋯⋯!? おぉっ⋯⋯! んっおぉぉっ⋯⋯⋯!!」
ラオシャオは力任せにオチンポを捻じ挿れる。乾いた膣道に無理やり押し込んだ。肉厚な膣襞を切り裂きながら、オマンコの最奥まで到達した。
(デカいっ⋯⋯! デカすぎるっ⋯⋯!! 人間とのセックスとは何もかも! 違うっ! 違いすぎるっ! まったく違う⋯⋯!! オマンコの穴が裂けるっ⋯⋯! 子宮の入り口が壊れてしまうっ⋯⋯!!)
破瓜と裂傷の血液が潤滑剤となった。竜炎で焼き払われた広場は、住民が集まる憩いの場だった。平時は多くの人々が訪れ、商売や談笑していた日常の象徴。
「あ⋯⋯あぁ⋯⋯! あぅっ⋯⋯!!」
マドリエンヌは生まれて初めて悲しみで涙を流した。押し倒された女騎士は陵辱を受ける。始めての交尾に大はしゃぎする幼竜は、尻尾を左右に振って悦んでいる。
「――よしっ! やっとだ。半分、挿った!」
ラオシャオはマドリエンヌの乳房を掴む。これからが本番だと意気込んでいる。口から炎の吐息を漏らしていた。
(はん⋯⋯ぶん⋯⋯? これで⋯⋯半分だと⋯⋯!? 無理だっ! これ以上は入るわけがないっ!!)
マドリエンヌの子宮は恐怖で縮み上がった。言葉の通り、ドラゴンの極太オチンポは半分まで挿入されていた。肉茎の下半分は未挿入の状態だった。しかし、既にオマンコの最奥部を突き上げている。
「む、むりだっ⋯⋯! これ以上は絶対に⋯⋯! むぃぃりぃ⋯⋯!! あがぁっ⋯⋯! うあぁ⋯⋯!! こわれるっ⋯⋯! 痛いっ⋯⋯! 痛い! 痛い! 痛いィっ⋯⋯!! 胎が潰れてしまう! オチンポを抜いてくれ! もうやめてくれぇっ!! いやぁ! やめてっ! やめてくださいっ!! いやぁあああああああああああああああああああぁあああぁああーーっ!!」
剛剣と恐れられた女傑は、泣き叫んで許しを請う。マドリエンヌの甲高い悲鳴は、城に逃げ込んでいた生存者の耳にも届いた。広場を一望できるバルコニーにいた大人達は立ち尽くす。
全裸にひん剥かれ、黒竜の少年に交尾を強いられる敗北の女騎士。遠目からでも広場の中央で何が行われているのか分かってしまった。
「今のうちだ⋯⋯。街から逃げる。それしかないんだ⋯⋯。あのドラゴンは俺達に意識を向けてない⋯⋯。逃げよう」
誰かが言った。大人達は行動を開始する。弱者が残された数少ない選択肢は逃走だ。
街を滅茶苦茶に破壊したドラゴンは、しばらく広場から飛び立たない。マドリエンヌを犯すのに夢中で、他の人間達を襲ってきたりはしないだろう。それこそ、生殖を邪魔されでもしない限りは――。
「こ、子供達を早く連れていきましょう⋯⋯。見せちゃいけません」
「ロジェ様! こっちに⋯⋯! 逃げますよ⋯⋯!!」
「でも、お母さんがまだ広場にいるよ⋯⋯!」
ロジェはバルコニーの鉄柵にしがみついた。女騎士マドリエンヌと魔法使いライアンの息子だった。五歳の少年は実母の身に起きている出来事が理解できていなかった。
(お父さんはどこにいるんだろ? それにお母さんはどうして鎧や服を脱いじゃったの⋯⋯? 燃えちゃったのかな。あの尻尾の生えた子は街を襲った黒いドラゴンだよね? そっか。分かった! お母さんは裸でドラゴンと取っ組み合ってるんだ⋯⋯!)
身を乗り出してロジェは、母親の勇姿を目に焼き付けようとした。幼い息子の中で、女騎士マドリエンヌは最強の母親であった。魔物に敗北するなど微塵も思っていない。
漆黒の暴竜は、人間達の都合なんてどうでも良かった。広場を一望できる城のバルコニーに、犯している女の息子がいたとしても無関心だ。子を産んだオマンコのより深くに男根を侵入させる。
「――いやぁっ! いやぁあああっ! やめてっ! お願いっ!! 痛いっ! 痛いィ!! あぁっ! いやぁああっ⋯⋯!! 殺してっ! いっそ⋯⋯殺してっ⋯⋯! あぁっ! あぅっ! んぁああああああああああああああああぁぁっーー!!」
甲高い女の悲鳴が聞こえる。ロジェは叫びが母親のものだとすぐには気付けなかった。竜炎で囲まれた広場は光源で満ちている。見晴らしの良い高台からは、広場の様子がよく見えた。
ロジェは目撃する。母親の股に黒槍が突き刺さり、真っ赤な血が太腿を伝っていた。黒竜鱗で覆われた長太い黒槍は、少年に化けたドラゴンの股間から生えていた。
(お母さんが泣いてる⋯⋯?)
ドラゴンの少年は、泣き喚く母親の乳房を引っぱたいて黙らせた。豊満な乳房が真っ赤に染まった。尊大な女傑は恥辱に晒されてむせび泣く。陰裂の穴に挿入された黒光りする竜棒は突き進む。
人間の夫では成せなかったことが、強き黒竜には成せる。男勝りな女騎士を徹底的に痛めつけ、ロジェ達を慈しみ育てた子宮に達した。
亀頭のカリに備わった鋭利な針は返しがついている。針は肉厚な膣襞に引っかかり、生殖器官の交合を強固にする。
「ねえ。あれ、何をやってるの? ドラゴンのオチンチンがお母さんの股に刺さって⋯⋯」
「いけませんっ! マドリエンヌ様が時間を稼いでくれています。見てはダメです。バルコニーから離れなさい⋯⋯!」
乳母はロジェの襟首を掴んで、城の中に引っ張った。大人達は何も言わない。幼い五歳児にも状況が何となく分かり始めた。
「急げ。裏門から出よう⋯⋯。あっちにはまだ火の手が回ってない。さあ、みんな⋯⋯いくぞ⋯⋯! あのドラゴンがこっちを襲ってくる前に⋯⋯!!」
街を守ってくれていた騎士団は全滅。負け知らずの騎士団長ですら、あの不様な醜態を晒している。嗚咽が混じった悲痛な叫び。そこらの町娘が悪漢に辱められるのと変わらない。
「待って⋯⋯お母さんは置いていくの!? まだ広場にお母さんがいるよ! お父さんや騎士団の皆も探さないと⋯⋯!!」
「ロジェ様! お気持ちは痛いほど分かります! 私達は生き延びなければならないのです⋯⋯!! 街を守るために命を捧げた騎士達の犠牲を⋯⋯無駄にしてはなりませんっ⋯⋯!!」
マドリエンヌとライアンの子供達には見せられない光景だった。敗北した母親が魔物に犯されている。乳母はバリハール家の子供達の耳を塞ぎ、裏門から脱出した。
ラオシャオは逃げ出す人間達を追わなかった。マドリエンヌと交わした取引のこともあったが、意識が交尾だけに没頭していた。
暴れるマドリエンヌを押さえつけて、ドラゴンの生殖器を無理やりオマンコに収めようとしてくる。子宮が内臓ごと押し上げられる。極太長大なオチンポを収容するため、マドリエンヌの骨盤が軋む。女穴の最奥部は開大した。
(あぁっ⋯⋯。子宮が潰される⋯⋯!! 壊れるっ! 股が裂けてしまう!! 痛いっ! 棘が刺さってるっ! 亀頭冠に生えた鋭い針が⋯⋯私の膣内に食い込む⋯⋯!!)
ラオシャオの侵攻が止まった。下腹の皮膚がぽっこりと隆起する。マドリエンヌのオマンコは漆黒竜の逸物を根元まで呑み込んでいた。
(ぁ⋯⋯! ぅう゛⋯⋯! ぜぇ⋯⋯んぶ⋯⋯! 挿入って⋯⋯る⋯⋯! 挿入ってしまった⋯⋯!!)
鮮血で真っ赤に染まった陰裂。深々と突き刺さった男根は、膣道を押し伸ばす。激痛でオマンコの肉筋が締まる。
「どう? マドリエンヌ? 僕のオチンポは気持ちいい? 初めてにしては上手でしょ。じゃあ、孕ませてあげる!」
童貞を卒業した幼竜は満足げに笑った。
「待てっ⋯⋯! 待って! やめっ! 出すなぁ! これ以上! 私を辱めるな! いや! いやぁっ! あぁぁ! いやああああぁあああっーー!!」
「竜の胤を受け取れ⋯⋯! もっと喜んでよ! マドリエンヌ! 君を僕の奴隷妻にしてやるっ! くっ⋯⋯! はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯! すっごい! 女との交尾って、こんなに気持ち良いんだ⋯⋯! 女穴にオチンポを突っ込んでるだけなのに、全身の精力が漲ってくるよっ!」
竜胤を蓄えた陰嚢が蠢き始めた。睾丸が高熱を宿している。
漆黒竜ラオシャオは女騎士マドリエンヌを番の相手と認めた。強者は弱者を組み敷き、子壺に灼熱の精子をぶちまける。
「んっ⋯⋯くっ⋯⋯! ふぅ~~⋯⋯! 僕の胤が膣内に出てるの分かる? ドラゴンはね、自分に相応しい相手にしか発情できない生き物なんだ。僕はマドリエンヌで精通しちゃった。思った通り、君は〈竜の子〉を産める女だ⋯⋯♥︎」
黒竜の遺伝子が宿った孕ませ汁は、溶鉄に等しい温度だった。マドリエンヌの胎は焼き付けられ、凄まじい痛みが全身を駆け巡った。常人なら死んでいた。頑丈なマドリエンヌだからこそ耐えられた。
(⋯⋯痛みが⋯⋯鎮まっていく⋯⋯! ドラゴンの魔力が⋯⋯勝手に私の肉体を⋯⋯造り変えて⋯⋯あぁ⋯⋯ぁあ⋯⋯!)
ラオシャオは竜の魔力でマドリエンヌの心身を染め上げる。痛みは和らぎ、次第に抑え難い快楽が襲いかかってきた。子宮の内腔に食い込んだ亀頭の竜針から、強大な魔力が伝わってくる。
(私はこんなにも小さく⋯⋯弱々しい女騎士だったのか⋯⋯。ラオシャオはまだ幼い竜だ⋯⋯。成竜に比べれば弱い。なのに、私はもっともっと⋯⋯弱い⋯⋯! 弱すぎる⋯⋯!!)
マドリエンヌを支えていた心の何かが砕け散った。
(――城から人間の気配が消えた。避難していた住民は無事に逃げてくれたか。良かった)
城のバルコニーに誰かがいた。息子のロジェだったかもしれない。こんな醜態を見られてしまったが、生き延びたのなら、マドリエンヌは満足だった。
「あぁ⋯⋯! あぅう⋯⋯! 約束⋯⋯は⋯⋯守って⋯⋯」
「逃げた奴は追わないよ。あんな奴らはもうどうでもいい。僕はマドリエンヌともっと交尾したい! 弱っちい人間の街を壊すのは爽快だけど、今は繁殖のほうが優先かな。だって、気持ち良いだもん!」
「あぅっ! んぎっ! おぉっ⋯⋯!!」
「そんな声じゃなくてさ。もっと女らしい声で啼いてよ? マドリエンヌは僕の奴隷妻になったんだから、主人の好みに合わせてもらわないとね」
「⋯⋯奴隷妻になった覚えは⋯⋯ふぎぃっ⋯⋯!?」
「弱いくせに反抗するつもり? 僕がその気になったら何百年も、何千年も、マドリエンヌを嬲れるんだよ? 僕の機嫌を損ねたら、街じゃなくて国が滅んじゃうかも、いいのかなぁ?」
「うっ⋯⋯うぅ⋯⋯!」
「効果抜群だよね。ママから聞いた。騎士ってこういうのが効くってね。僕のパパもマドリエンヌみたいに泣いてたってよ。人間は同族愛が強いんだね」
「あぁっ! んぁっ! ああんっ⋯⋯!! 動かな⋯⋯いで⋯⋯!」
「初めての交尾を一回で終わらせる気なんてない。マドリエンヌも愉しみなよ。僕のオチンポで気持ちよくしてあげるっ!」
ラオシャオは激しく腰を振り始めた。体格は小さいが、血肉に宿った強大無比な怪力は、押し倒したマドリエンヌを征服する。
――漆黒の暴竜は女騎士の卵子を喰った。
排出されたばかりの綺麗な卵子に、夥しい数の精子が群がる。競争心の強い竜の子胤達は卵子を奪い合い、激しい戦いに勝利した一匹だけが、遺伝子の核に辿り付いて融合する。
最強種の魔物ドラゴンは生殖能力が低い。子が生まれるのは一〇〇年に一匹と言われる。ましてや初めての交尾で受精に至るのは奇跡的なことだった。
――ぷぢゅぅん♥︎
マドリエンヌとラオシャオの遺伝子は出会ってしまった。女騎士の高貴な卵子は、若々しい暴竜の精子に屈した。夫を殺し、騎士団の仲間を鏖殺し、生まれ故郷を破壊し尽くしたドラゴンの女になった。
「あっ!? んぅっ! んぁあぁあああああああああああぁぁっ⋯⋯♥︎」
生まれ始めてマドリエンヌは男に絶頂させられてしまった。
(な⋯⋯なにが⋯⋯! まるで落雷を受けたかのような⋯⋯! この快楽の痺れ⋯⋯♥︎)
ライアンの優しい子作りでは一度も体験しなかった性的快楽。完膚なきまでに叩き潰され、乙女の身体に戻って、ついにマドリエンヌは自分の中に隠れていた女の本能を自覚した。
「良い顔付きになったね。そっちのほうが好き。剣とか鎧とか、弱い女には似合わない。それとさ、美味しい食べ物をたくさんあげるから、もっと膨よかになってね。オッパイとお尻ににしか贅肉がないじゃん」
「あぁ⋯⋯んぁ⋯⋯♥︎」
「もう一つ、僕のことは旦那様って呼ぶこと。ママはパパをダーリンって呼んでたけど、僕は威厳が欲しいから『旦那様』って呼ばせる。上下関係はしっかり示す」
「⋯⋯⋯⋯いや⋯⋯ぁ⋯⋯♥︎」
「じゃあ、国を滅ぼしちゃおうかな。それもいいかな。マドリエンヌが僕を旦那様って呼ぶまで、あっちこっちの国を焼き尽くすの。一番、眺めがいいところから見物させてあげるよ」
敗北したマドリエンヌは、ラオシャオに従うしかなかった。強者は弱者を蹂躙する。剛剣の女騎士は思い出す。弱い魔物を雑魚と貶し、戦いの高揚感を得るために追いかけ回した。今は自分が弱い側に回ったのだ。
マドリエンヌのくだらない意地で何百万人もの人間がドラゴンに殺される。そんなことは受け入れられなかった。
(すまない⋯⋯。うぅっ⋯⋯! ライアン。お前を裏切ってしまう。だが、許してくれるはずだ)
夫のライアンは竜尾で潰されて、死体がどこにあるのかも分からない有様だ。愛する夫を裏切り、ドラゴンに媚びる。そうすることで救われる命がある。
「あぁ♥︎ 旦那様⋯⋯♥︎ 御慈悲をください⋯⋯♥︎ 人間の国を襲うなど⋯⋯なさらないで⋯⋯♥︎」
マドリエンヌはラオシャオの矮躯を抱きしめ、耳元で囁いた。女騎士の人格を殺し、強者に媚びへつらう弱い女へと生まれ変わった。
「じゃあ、僕好みの妻になってね? 男口調は禁止ね。マドリエンヌは女なんだからさ」
「はい。分かりましたわ。んっ♥︎ んぁっ♥︎ あぅうっ♥︎ んひぃっ♥︎ あん♥︎ 旦那様♥︎ あん♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あんっ♥︎ おぉ♥︎ いぃっ♥︎ イぐぅ♥︎ イってしまっ⋯⋯うぅっ⋯⋯♥︎ んおお゛ォ~~♥︎」
大きな淫叫が広場で反響する。ラオシャオは豊満なマドリエンヌの身体を軽々と抱き上げる。対面で抱き合ったまま、オチンポがオマンコを突いた。絶頂で震える両脚の先端は、地面すれすれを浮かんでいる。
ラオシャオと身長差があるせいだ。マドリエンヌは背が一般的な男性よりも遥かに高く、足も長かった。背の低い少年に抱きかかえられると、とても惨めだった。だが、マドリエンヌは恥ずかしい淫態を晒すしかなかった。
「あぉ♥︎ んぉ♥︎ はぁはぁ♥︎ んぁっ⋯⋯あはっははは⋯⋯♥︎」
竜胤を注がれる淫女の両目から悲涙が溢れる。辺境で一つの街が漆黒竜に滅ぼされた。運良く街を逃げ出せた人々は国々に助けを求めた。しかし、剛力の女騎士ですら勝てなかった暴竜に挑む者は現れなかった。
竜殺しの英雄は滅多に出現しない救世主だからこそ、伝説となっているのだ。
漆黒の暴竜は数ヵ月間、街を荒らし尽くした。そして、ある日の明朝、東の地に飛び去っていった。荒廃した街に戻った人々は、朽ち果てた犠牲者の遺骨を拾い集めたという。
女騎士マドリエンヌの死体は見つからなかった。広場に残されたのは、ドラゴンの尻尾で折れ曲がった大剣、砕け散った白銀鎧の欠片。竜炎で焼け焦げた広場に、うな垂れて立ち尽くした生存者達は漆黒竜を憎み、恐れ、呪った。
――母さんは死んでしまったの? それとも⋯⋯?
乳母に連れられて生き延びたロジェは東の空を見た。バリハール家の生き残りは、ロジェを含めた五人兄弟姉妹だけとなった。長子のロジェは滅びかけた一族を建て直さなければならない。
両親は勇敢に戦い、ドラゴンに負けた。父ライアンは戦死。母マドリエンヌは行方不明。残されたバリハール家の子供達は、苦難の道を歩むことになるだろう。
◆ ◆ ◆
「――おぉっ♥︎ んぉっ♥︎ おぉっ♥︎」
東方の山深い奥地で、美しい女が苦しげに呻いている。竜の巣穴で力む金髪の美女。膨れ上がった腹部が蠢いている。
出産の経験はあった。しかし、それは人間の胎児。ドラゴンの巨卵を産むのは初めてだ。頑丈な身体の女でなければ、胎が裂けて死んでしまう。大粒の汗を額から流して、孕女は下腹に力を込めた。
「まさかこんなに早く産んじゃうとはね。僕はまだ幼竜だったのに⋯⋯。これでどう? マドリエンヌ? 少しは楽になった?」
「はいっ♥︎ 旦那様⋯⋯♥︎ 産まれますわぁ⋯⋯♥︎ んぎぃっ♥︎」
マドリエンヌの尻穴にラオシャオの巨根が挿入されていた。後ろから子宮内の竜卵を押して、出産を補助している。M字開脚の姿勢で出産に挑むマドリエンヌは、背後から抱きしめてくるラオシャオに身を委ねた。
「じゃあ、いくよ⋯⋯!」
ラオシャオは射精と同時に、マドリエンヌのボテ腹を両手で締め付けた。産道で詰まっている竜卵を勢いで排出させようとする。
「んひぃっ♥︎ んぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ~~~~♥︎」
街を襲った黒竜に敗北し、奴隷妻になってからまだ一年と過ぎていない。だが、マドリエンヌはラオシャオ好みの女に変えられてしまった。身体を鍛えることを止めて、精悍な筋肉は媚肉に変じた。肉付きが良くなり、顔つきも女らしくなった。
「ひぃっ♥︎ ひぃっ♥︎ ひふっ♥︎ ひっひっっふぅぅ⋯⋯♥︎」
化粧をするようにもなった。ラオシャオが奪ってきた宝飾類を身に着け、まるで一国の王妃のような姿に着飾った。妊娠が発覚した後も、ラオシャオはマドリエンヌを愛で続けた。独占欲の強い漆黒の幼竜は、初めての交尾相手を気に入った。
「産めっ! 産んじゃえ! マドリエンヌ! 僕らの子を産んでしまえ!」
「んぎぃ♥︎ はぁはぁ♥︎ んぁああああああああああああああああああああぁぁああぁっーー!!」
――ぶぃぢいィ! ぶにゅるうぅんっ!!
マドリエンヌは金色に輝く竜卵を産んだ。皮膜で包まれた巨大な竜卵に、一筋の亀裂が走っていた。晩産であったのに加えて、ラオシャオが出っ張った孕み腹を強く押し過ぎたせいだ。
(ついに産んでしまったわ⋯⋯。ドラゴンの赤ちゃん)
間違いなく黒竜ラオシャオの胤で孕んで産んだ子供だった。マドリエンヌにとって六回目の御産だったが、初産よりも辛かった。疲労困憊で気絶しそうだったが、まずは卵の無事を確かめたかった。
「どう? もしかして卵が割れちゃってた?」
「⋯⋯大きくて立派な卵ですわ。私の髪色と同じ黄金の竜卵。あぁ♥︎ もっと早く出てきたかったのね? もう殻を破ってとても可愛い顔を覗かせていますわ」
産み落とした竜卵を抱き締める。亀裂から小さなドラゴンが顔を覗かせていた。紅蓮の鋭い竜眼は父親譲りだった。以前はまったく抱けなかった母性愛が溢れ出す。マドリエンヌは竜の幼子を撫でる。
「ふふ⋯⋯♥︎ 私が母ですよ?」
子供は可愛い。たとえどんな経緯で、どんな都合で、どんな相手にできた子供だったとしても。血の繋がった我が子をマドリエンヌは抱擁する。
「あ⋯⋯♥︎」
幼い黄金竜はマドリエンヌの乳首を咥えた。お腹が空いていたようだ。喉を鳴らして、母乳を飲んでいる。前夫の子を産んだときは、一滴も出なかった母乳が大量に溢れ出る。ラオシャオとの激しい交尾で、マドリエンヌの眠っていた母性が開花した。
(もっと早く気付いていれば⋯⋯)
ドラゴンの乳飲み子に授乳させながら、マドリエンヌは過去の行いを悔いた。もはや故郷に戻る日は来ないだろう。生きていることを信じている五人の我が子達。騎士団の仕事などに関わらず、普通の女らしく、母親となれていればと思ってしまった。
(今さら遅いわ⋯⋯。だって、私はドラゴンの奴隷妻⋯⋯)
無事に子供を産んでくれたマドリエンヌに、ラオシャオはドラゴンの祝福を授ける。治癒魔法で疲弊した身体が癒えていく。その昔、魔法使いの前夫が使ってくれた魔法よりも数段上の回復だった。
粗暴で暴虐だが強さは本物。なぜか女として惹かれてしまう。最初は演技のつもりだった忠誠も、次第に本物になりつつあった。
「旦那様♥︎ 私の願いを叶えてくださりませんか?」
「ご褒美が欲しいの? いいよ。子供を産んでくれたから。何を奪ってこようか? 宝石? それとも黄金?」
「子供に名前を付けさせてください。黒竜ラオシャオ様の長子に⋯⋯♥︎ ふさわしい名前がありますわ♥︎」
「そんなんでいいの?」
「はい。私はこの子を愛しめるのなら、それだけで幸せですわ」
「へえ、そう。好きにしていいよ。それよりもさ。マドリエンヌのオッパイは僕のモノなんだけど?」
「もう片方が空いていますわ。親子喧嘩をしないでください♥︎」
アナルからオチンポを引き抜いたラオシャオは、マドリエンヌの乳房にしゃぶりついた。隣にいる我が子と張り合うように母乳を吸い合う。
「男子ですわね⋯⋯♥︎ どちらも⋯⋯♥︎」
竜の巣穴に囚われたマドリエンヌは、西方の故郷に想いを寄せた。欲深きドラゴンは人里を襲う。マドリエンヌはラオシャオを宥めることはできても、略奪や暴虐までは止められなかった。
(そう。弱い私では止められないけど、この子なら⋯⋯♥︎)
マドリエンヌが腹を痛めて産んだ乳飲み子。黄金竜の息子は、母親に甘えてくる。というより、隣で母乳を吸う父親が邪魔くさいようだった。
◆ ◆ ◆
――黒竜の襲撃から九十年後。
「ねえねぇ! お爺ちゃん! この銅像が私の曾お祖母様なのですか?」
黄金髪の幼女が祖父に訊ねた。利き足を悪くした祖父は杖ついている。それでも必ず、この時期になると街の広場を訪れた。
「うん。そうだよ。私の母上だ。とても強い女性だった。父上は聡明な魔法使いで、母上と共に街を守る騎士団に所属していたんだ」
「ドラゴンが襲ってきたんだよね? お爺ちゃんはドラゴンを見た?」
「ああ、見たとも。漆黒の暴竜が街を破壊し尽くしたとき、私は乳母に連れられて火の手から逃れた。下の弟妹達と領主様の城に避難した。そこが一番安全だと思われていたからね。でも、ドラゴンはお城の財宝が欲しかったんだ」
老人の名はロジェ。当時の出来事を知る数少ない生存者だった。
「母上は私達を逃がすため、黒炎を吐くドラゴンと戦い続けた。囮になったんだ。私が生き延びたのも、こうして街を復興できたのも、母上がドラゴンと戦ってくれたおかげだ」
歴史は美化される。生き残った者達はマドリエンヌの名誉を守ることにした。
虚実を織り交ぜた物語が後世に伝わっている。黄金髪の女騎士は、最期まで勇敢に戦い抜いた。マドリエンヌの死体は見つかっていない。炎で焼き尽くされたか、食われてしまった。
石碑にはそう書かれているが、真相をロジェは知っている。母はドラゴンに連れ攫われたのだ。
広場は城から見下ろせる。ドラゴンが街を破壊したあの日、ロジェは目撃した。広場で少年の姿に化けたドラゴンは裸の母を押し倒していた。
幼かったロジェは母親が何をされているか分からなかった。しかし、城に避難していた乳母や大人達は気付いた。
発情した漆黒竜は人の姿に変化し、女騎士マドリエンヌと交尾を始めたのだ。
逃げ出す絶好の機会だった。母を犯すのに夢中だったドラゴンは、城から逃げ出す人間を追ってこなかった。廃墟になった街を占拠し、ドラゴンは街に居座った。街には誰も近づけず、約一年後にドラゴンが旅立つまで手出しできなかった。
「お城の宝物庫は空っぽだった。そして、どこかにドラゴンは去ってしまった。それ以来、漆黒の暴竜はこの地に現れていないのだよ」
大人になってから知らされたが、ドラゴンは領主の城を仮住まいにしていた。竜巣の塒からは、黄金色の毛髪が見つかった。
母を気に入ったドラゴンは、領主の城に営巣し、そこで繁殖に励んでいた。
ロジェと下の弟妹は母を救い出すために手を尽くした。一番下の妹は王国最強の剣士と結婚し、母を連れ去った黒竜を殺すため、必死に情報を集めた。だが、見つからなかった。噂によればドラゴンは東方に飛び去ったという。
殺された父の無念は晴らせなかった。年老いた子供達は次第に復讐を諦めた。
ロジェは魔物の研究者になった。父と同じ魔法使いになり、ドラゴンについて調べた。母がどうなったのかを知るために。
――竜族は人間と交雑し、繁殖する生き物だ。
気に入った相手を拉致し、交尾を強要する。母は黒竜に見初められてしまったのだ。
竜角は不老長寿の薬となる。竜に捨てられない限り、囚われた人間は竜卵を産み続ける。
「⋯⋯この歳になると広場まで来るのも一苦労だ」
ロジェは腰が曲がり、杖無しでは歩けなくなった。だが、母はドラゴンから竜角の不老長寿薬を与えられ、今も若々しいかもしれない。
あるいは既に死んでしまっているか。誇り高かった母のことだ。竜の子を産む前に自死してしまったかもしれない。いずれにせよ、全ては過ぎ去った。
真相を知る者は少なくなっている。いつかはいなくなる。石碑に刻まれた偽りの物語が、本物の歴史となるのだ。
――民を守るため、漆黒の暴竜に抗った勇敢な女騎士マドリエンヌ。
「そろそろ、お家に帰ろうか⋯⋯。帰りにお菓子を買ってあげよう。お爺ちゃんの散歩に付き合ってくれた御礼だよ」
「ありがとう! お爺ちゃん!」
ロジェは母の銅像に別れを告げて、広場を去ろうとする。その時だった。すらりと背の高い青年がロジェに近づいてきた。
(はて? 誰だろうか⋯⋯?)
見覚えのある凜々しい顔立ちだ。しかし、すぐに思い出せない。青年の屈強な体付きは、幼少期に見た誰かの後ろ姿を想起させる。
「ロジェ・ド・バリハールさんですか? ご自宅を訪ねたのですが、お孫さんと広場に出かけていると聞きました」
「ええ。私ですが⋯⋯。貴方は? 失礼。この歳になると忘れっぽくなりましてな。どこかでお目にかかりましたか?」
「いいえ、初対面ですよ。私が一方的に知っていたというだけです」
青年は黄金髪だった。ロジェは父親のライアンに似てしまったが、孫娘には黄金の髪が遺伝した。青年の髪もバリハール家が受け継いできた黄昏の金色だった。
「ロジェさんはドラゴンの研究をされているらしいですね。有名な著作を何冊も出版している。宮廷魔法使いや魔法学院の教授を歴任されたとか?」
「そうなの!? お爺ちゃん! すごい!!」
「はっはははは⋯⋯。血気盛んだった昔の話さ。魔法学院で三年前まで教えていましたが、弟子に譲りましたよ。時代遅れの老人が教壇にしがみ付くのもみっともないと思いましてね。今は娘夫婦の家で隠居の身です」
「ロジェさんはとても優秀な魔法使いだったのですね。⋯⋯ところで、妙な質問だとは思いますが、何か困っていることはありますか?」
「ん? はい? 困っていることですと?」
「ええ。よろしければお助けいたしますよ。気兼ねなく申し付けてください」
急に何を言い出すのかとロジェは勘ぐる。だが、ニコニコと笑う青年は肩を竦めた。
「――では、恩着せがましくいきましょうか。足がお悪いようですね。治しておきました」
ほんの一瞬、ロジェの足が炎に包まれた。黄金色の炎だった。
「うわぁ! すごい! どうやったの! 炎だ! ねえ! 魔法? 魔法なんだよね! お爺ちゃん。このお兄さんも魔法使い!?」
「そうだよ。お嬢ちゃん。魔法でロジェさんの足を治したんだ」
「お爺ちゃんの足を治しちゃったの? すごい! すごい!! ねえ。どうやったの? どんな呪文!?」
ロジェは青年の正体を察する。はしゃぐ孫娘を後ろに下がらせた。
「どうしたの? お爺ちゃん?」
「⋯⋯下がっていなさい」
利き足が治っていた。魔法を使った気配はあったが、人間の魔力ではない。
「他のご弟妹は誤魔化せました。しかし、専門家のロジェさんには難しいですね。ドラゴン族の生態と魔法をまとめた本を拝読しました。よく研究なされています。約九〇年前⋯⋯この街をドラゴンが襲った事件⋯⋯。ご両親の件があったからですね?」
「⋯⋯私の両親を知っているのか」
「ええ。母親のほうはよく知っていますよ。粗暴な父と違って、母さんは教育熱心でした。その影響で読書が趣味です。髪の色もそうですが、母親似で良かった。ロジェさんの著作はとても面白かったですよ」
「私に何の用かな⋯⋯?」
「バリハール家が困窮しているのなら、助けて差し上げようと思いました。しかし、バリハール五人兄妹は優秀だ。さすが女騎士マドリエンヌの子供達だ。五人とも成功した人生を送ってらっしゃる。ちょっとした金品を渡すくらいしかできませんでした」
「なぜだ? 予想通りの正体であれば⋯⋯貴方達はそういう行動をしないはずだが?」
「種族は関係ありません。親の教育次第でしょうね。私は他人様に迷惑をかけるなと言われて育ちました。今は愛してくれた母さんの願いを叶えています。親孝行な息子でしょう?」
黄金髪の青年は、広場に設置された女騎士の銅像に微笑みかける。厳めしく、凜々しい。黒竜に果敢に挑んだ勇敢な女傑マドリエンヌ・ド・バリハール。
青年の顔立ちと目元は、銅像の女騎士とそっくりだった。
「実物のほうが美人ですね。お兄さんもそう思いませんか? 母さんはこんな恐い顔をしませんよ。これじゃ、まるで悪さをした子供を叱ってるみたいだ。ああ、でも、本を燃やしちゃったときは、こんな顔で怒られたかな?」
ロジェには理解できた。母は竜の子供を産んでしまった。目の前にいる黄金髪の青年は、精悍で凜々しかった母と顔立ちが瓜二つだった。
「そうか⋯⋯。なんてことだ。母はまだ生きてるのか?」
「研究されてたのだからご存知でしょう? 我々の寿命は長いのですよ。寄り添う伴侶には不老長寿の薬が与えられる」
「君も見た目通りの年齢ではないのだろうね⋯⋯」
「ええ。その代わり、子供は滅多に生まれません。私の父さんには五人の妻がいます。ですが、子供を産んだのは私の母ともう一人だけです」
「⋯⋯最初に竜の子を産んだ女は、一生涯を竜の巣穴で過ごす」
「その通り。最初に子供を産んだ正妻は、一生を添い遂げる。これもロジェさんの著書にありましたね。ドラゴンの習性⋯⋯。独占欲とも言いますが。伝承だけを頼りに、よく調べ上げたものです」
「著作の出来をわざわざ伝えにきたのかね⋯⋯?」
「それもありますけどね。バリハール家の噂は遠方にまで届いていました。母さんは不憫に思ったのでしょう」
「⋯⋯⋯⋯」
「昔の母さんは子育てに関わろうとしなかったそうです。ところが、私は可愛がられて育った。こんな話を私から聞かされては複雑でしょうが⋯⋯」
「もう昔の話だよ。君を恨むのも筋違いだ」
「お優しい。父さんがこの街で行った粗暴な行為を考えれば、殴られるくらいは覚悟してきました。構いませんよ? 一発、どうです?」
「君を殴るのは八つ当たりにしかならんよ⋯⋯。若かりし頃は復讐に燃えていたがね⋯⋯。その気力は失せてしまった。下の弟妹達も同じはずだ。私達は歳を取り過ぎた⋯⋯」
「そうですか」
「著作を改訂しなければならないな。君のように温厚な個体がいるとは思わなかった。私の本には偏見があったようだ」
「母さんの功労ですよ。子育てはしっかりやっていますし、父さんの手綱は握っています。そのために私を育てたと言っても過言ではない。昔のように父さんが面白半分で街を襲ったら、私が責任をもって止めます」
朗らかに青年は笑った。ロジェは敵愾心を向けられなかった。既に母のことは諦めていたし、種違いの弟は完璧な好青年だった。
「言伝を預かりましょうか?」
「いいや、母が苦しい思いをしていないのなら十分だ」
「母さんにロジェさんが魔法使いとして大成されたと伝えます。子供が幸せなら親は喜びますよ。ああ、それと、曾孫が可愛かったとも⋯⋯。あぁ、お嬢ちゃん。東方に来てはいけないよ。金髪大好きのエロ親父がたまに空を飛んでいるからね」
「⋯⋯?」
孫娘は警告の意味が分からず首を傾げた。
「良かったら、君の名前を教えてくれないかね?」
「あぁ、それは⋯⋯。気に障ったら申し訳ない。私はライアンと言います」
「ライアン⋯⋯」
「母さんが大切な人を忘れないように⋯⋯。ライアンと名付けてくれた。名前の由来は知っています。本当に申し訳ない」
「いや、いいんだ。母が名付けたのなら、私からは何も言わないよ。大切な想いが込められているはずだ。ライアン。君に会えて良かった。母によろしく伝えてくれ」
ロジェは受け入れるほかなかった。ドラゴンに連れ攫われた母は、新しい人生を歩んでいる。女騎士マドリエンヌ・ド・バリハールではなく、竜族の母親になった。
これから先、寿命が尽き果てるまで、巣穴でドラゴンの子を産まされる。そして、我が子達が人間を襲わぬように愛情を注ぐのだろう。
前夫との子供達を愛せなかった埋め合わせをするように――。
◆ ◆ ◆
人里離れた東方の山地に掘られた巣穴で、生々しい淫声が木霊する。全裸の美女が長髪を乱している。子壺を突き上げられる度、全身の媚肉を淫らに震わせた。
「おぉっ♥︎ んぉっ♥︎ あんっ♥︎ おぉっ⋯⋯♥︎」
棘付きの極太オチンポが根元まで収まっていた。竜族の生殖器に対応した暴竜の花嫁は、快楽に酔って自ら尻を振り始める。
「あっ♥︎ んふぁっ♥︎ あっ♥︎ 旦那様ぁっ♥︎ もっと優しくぅ♥︎ あんっ♥︎ あんっ♥︎ んぁ⋯⋯♥︎」
黒竜ラオシャオは黄金髪の美女を好いた。マドリエンヌを娶った後、攫ってきた四人の若妻達も金色の長髪が栄える美しい女だった。
「旦那様とマドリエンヌ様、いつにもまして激しいわ。いいなぁ。ちょっと混ぜてもらおうかしら?」
「ちょっと! もぅ! やめなさい。旦那様の不興を買うわよ。それよりライアン君が送ってくれた西方の土産を食べない? 上質なブラックダイヤモンド! とっても美味しそうだわ!」
「食べちゃダメ! マドリエンヌ様の懐妊祝いでしょ? あれれれ? そもそも、これは食用かしら? それとも装飾用?」
「五人分あるわねぇ。母親全員に送ってくれたんじゃないのぉ? 一人一つなら、自分の分は食べちゃったら? 可愛い息子のプレゼントだし、私は指輪に加工しようかしら。旦那様が嫉妬しそうだけど⋯⋯。くすくすっ!」
竜の巣穴で飼われている美女達は、第一夫人であるマドリエンヌに敬意を払っていた。攫われた金髪の女達は、マドリエンヌから竜に見初められた奴隷妻の生き方を学んだ。
「次の子供は絶対に僕は名付けるからな⋯⋯!」
ラオシャオは美青年に成長していた。九十年前に産ませた長男のライアン。名前なんて気にしていなかったが、最近になって息子からライアンが誰の名前だったかを教えられた。
「マドリエンヌは僕のモノなんだぞ⋯⋯! 前の男なんか忘れてしまえばいいんだ!!」
「はぁ⋯⋯♥︎ もぅっ♥︎ 旦那様ったら♥︎ 何十年前のことを言っているのかしら?」
「五月蠅いっ! 九〇年前のことだよ!」
「今さら私が心変わりするわけないわ。私はラオシャオ様の妻よ。んぁ♥︎ あんっ♥︎ もうちょっと優しくして抱いてほしいわ♥︎ お胎に宿った竜卵が割れちゃうっ⋯⋯♥︎」
「僕とマドリエンヌの子供だ。こんな程度で卵の殻が割れるもんかっ!」
「んぁ♥︎ おぉっ♥︎ お゛おぉぉっ⋯⋯♥︎」
二度目の懐妊だった。マドリエンヌはラオシャオの子供を再び身籠もった。
他の妻達はマドリエンヌの妊娠を祝ってくれた。五人の妻達は仲が良い。誰が産んだ子供でも、協力して子育てをする。ドラゴンの生態ではなく、最年長のマドリエンヌが子育ての協力を取り決めた。
竜族は粗暴な魔物とされているが、人間よりもはるかに賢い生き物だ。きちんと愛情を注げば真っ当に育つ。その説は好青年に育った第一子が証明してくれた。
ラオシャオは妻達が子供を可愛がってるのが気に入らない。劣悪な環境で育ち、親の巣穴から放り出されたラオシャオの性格は荒んでいた。しかし、元来はラオシャオも愛嬌があり、温和な子供だったマドリエンヌは考えた。
暴竜ラオシャオが妻に選んだ五人の女達は、揃いもそろって母性を感じさせる女性ばかりだった。気立てが良く理知に富む。いうなれば、賢母の素質を有する熟した美女達だった。
「んぁっ♥︎ 何に怒っているのかしらぁ⋯⋯? あんっ! んっ!」
「ライアンを行かせたあの街に理由は何だよ⋯⋯?」
「昔の子供達が気になっただけよ♥︎ 本当にそれだけ。浮気じゃないわ♥︎」
「昔の子供⋯⋯! 僕が殺した魔法使いとの間につくったガキのことだろ?」
「子供じゃなくて、もうお年寄りでしょうね。四十年くらい前だったかしら。ドラゴンに関する専門書が西方の魔法学院から流れてきたのよ。著者の名前を見て吃驚したわぁ♥︎ バリハール家⋯⋯懐かしい⋯⋯♥︎ んぅっ♥︎」
バリハール家の子供達が黒竜に攫われた母親を探している。そんな噂を耳にして胸が痛んだ。数十年ぶりに息子の存在を思い出した。薄情な母親だと責められても仕方がない。
(ロジェは立派な魔法使いになった。私はあの子達には母親らしいことをしてあげられなかったから⋯⋯)
既にマドリエンヌは竜の子供を産んでいた。愛情を注いで幼竜を育てた。ライアンと名付けたのはちょっとした復讐心だった。だが、恨みは薄れていった。
黒竜ラオシャオに見初められ、交尾をする毎日が続いた。マドリエンヌは女の幸せを享受した。街を守る女騎士だった過去を忘れかけていた。前夫を尻尾で磨り潰したドラゴンに、心を奪われてしまった。
「あんっ⋯⋯♥︎」
マドリエンヌは人間離れした剛力の持ち主だったが、最強種のドラゴンからすればか弱い乙女。丈夫な胎を気に入ったラオシャオは毎晩、マドリエンヌと交尾した。
(あぁ♥︎ 気持ち良いっ♥︎ これが女の幸せっ♥︎)
二人の血を引く子供には愛情を注いだ。マドリエンヌは良き母親になった。子供の幸福を母親は願う。種違いの兄弟姉妹が殺し合うのは避けたかった。
「少しくらい、母親として何かできればと思ったのよ。⋯⋯旦那様はご不満かしら?」
「ふんっ! 当然だ! すごく気に食わないね! 街の人間を全て殺しておけば良かった!」
「旦那様はいつまでたっても子供っぽいんだから⋯⋯♥︎ でも、我が子に関心を向けるのは良い傾向だわ。父親らしくなってきた。良い名前を授けてほしいわ♥︎」
ラオシャオにとって三人目の子供だ。マドリエンヌの胎は大きく膨れ上がっている。かつては鍛え上げられた筋肉質な肉体だったが、現在のマドリエンヌは柔らかな母親の体付きだ。出産に備えて脂肪を蓄えている。
剣の握り方も忘れてしまった。その代わりに掃除や洗濯、家事が一通りこなせるようになった。
口調や態度は淑女らしく改め、主人を支える賢妻になろうと努めた。
街の広場に残された凜々しい女騎士の銅像とはまるで別人。年下の夫に尽くす床上手な女房、甲斐甲斐しい奥方に変貌した。
(あんっ⋯⋯♥︎ んっ⋯⋯♥︎ んぁっ⋯⋯♥︎ ごめんなさいっ⋯⋯♥︎ ライアン⋯⋯♥︎ きっといつの日か、私は貴方への愛情を完全に忘れるっ♥︎ 私はラオシャオ様のお嫁さんになってしまったわ⋯⋯♥︎ だって、旦那様はお強いのっ♥︎ 私なんかよりもはるかに強いっ♥︎ ドラゴンは生まれながらにして最強の生き物⋯⋯♥︎ 私は自分が弱い女だと気付いちゃったのぉ⋯⋯♥︎ 粗暴な男に媚びる弱い女にされてまった♥︎)
ラオシャオはマドリエンヌの媚尻を鷲掴む。下半身をぐいっと持ち上げ、結合部の交わりが強まった。黒竜の口から焔が溢れ、男根は力強く脈打っている。
(あぁ♥︎ 愛されてるのが誇らしいっ⋯⋯♥︎ 略奪の戦利品だろうと構わないわっ♥︎ きっと他の娘達も同じ気持ちなんだわ⋯⋯♥︎ ドラゴンに娶られた♥︎ 私達は選ばれた子産み女⋯⋯♥︎ 竜卵を抱くための乙女⋯⋯っ♥︎)
幼かった黒竜は美青年に成長し、いつしか年上妻の身長を超えた。身体能力のみならず、体格でも追い越された。マドリエンヌは心身を夫に委ねる。
「いっ! いぐっ!! いっぢゃぅぅうっ⋯⋯♥︎ あぁっ♥︎ あんっ♥︎ いぐのぉっ♥︎ いぃぐぅぅっ~~♥︎」
マドリエンヌの爆乳からミルクが噴き出た。ラオシャオにしがみ付き、膣内射精の性悦に浸っている。優しくて弱い前夫では開花できなかったマドリエンヌの本性だった。
「おぉっ♥︎ んおっ♥︎ んっ♥︎ んお゛ぉっ⋯⋯♥︎」
荒々しく強い暴竜に股を開き、異種交配の混血児を産み落とす孕女。マドリエンヌは幸福の絶頂に導かれた。
「旦那様だけを愛しておりますわ⋯⋯♥︎ あぁ⋯⋯あぁ⋯⋯ぁ⋯⋯♥︎ 弱い私を支配して⋯⋯♥︎ オマンコを犯してっ⋯⋯♥︎ 竜の子胤をくださいっ⋯⋯♥︎」
「僕の胤で孕ませてやったんだ。絶対に強い子を産めよ。マドリエンヌ」
「もちろんですわ♥︎ 強い子を産むのが女のお役目ぇえ⋯⋯っ♥︎」
人類の守護者だった騎士団長マドリエンヌは、暴虐の黒竜ラオシャオに寝取られた。誇り高き女騎士から竜の妻になり、竜母として竜卵を産み続ける生涯。
暴竜の嫁は幼竜を産み、愛しんで大切に育てる。名誉と礼節を重んじ、弱き者達に施しを与え、貴婦人を尊ぶ。マドリエンヌは騎士の道徳規範を我が子に授けた。
東方の山で生まれ育った黄金竜の子供達は、後世で竜騎士と呼ばれるようになる。
「あぁ⋯⋯♥︎ 旦那様の子を産むのが楽しみ♥︎ 男の子かしら? 女の子かしら? どっちでも嬉しい♥︎ 可愛い黒竜の稚児♥︎ 立派に育てますわ⋯⋯♥︎」
「⋯⋯でもさ、よくよく考えたら、産まれた子供って今のところ、黄金竜ばっかじゃん。僕の遺伝子、そこまで受け継がれてなくない?」
「母胎の遺伝が優先されるのかもしれません。次の子が黒竜だったらいいわね。ふふっ⋯⋯♥︎」
翌月にマドリエンヌは竜卵を出産した。卵殻は黄昏の金色に輝いていたという。