【199話】大妖女討滅の後日談 海水浴のバカンス

 魔物による帝都アヴァタール襲撃から約一ヵ月後、メガラニカ帝国の全土に朗報がもたらされた。

 帝国元帥レオンハルトが特殊部隊を率いて廃都ヴィシュテルに突入し、棲み着いた魔物を掃滅。三皇后および評議会は安全宣言を決議し、帝国の脅威を取り除いたと大々的に公布した。人々には国家転覆を目論んだ魔物を退治したという説明が行われた。

 魔物の掃討作戦で帝国軍や協力に当たった魔狩人・冒険者に戦死者が出たものの、メガラニカ帝国は危難を乗り切った。

 真相である大妖女レヴェチェリナの目論みは、当代皇帝の崩御後に公開される諡号文書しごうぶんしょにのみ記された。

 葬られた国家の機密は、一部の女仙だけが知るところである。

 昏睡状態から目覚めたベルゼフリートは全快し、帝国領土内で発生していた災禍の濃霧についての目撃例は報告されなくなった。破壊帝の時代から続いていた呪禍は消えた。破壊者ルティヤの荒魂は、本来あるべき器に収まった。

 現在、天空城アースガルズは西部半島の海上に停泊している。表向きの発表では帝都襲撃後、皇帝ベルゼフリートの安全を確保するため、メガラニカ帝国の西岸地域に避難したという説明がなされた。

 宮中では帝都アヴァタールへの帰還時期が検討中だった。安全宣言は非常事態の解除を意味する。帝国は平時の体制に移行し、西アルテナ王国に急派した帝国軍の増援部隊は引き上げられていた。

 そんな状況下、帰城した皇帝ベルゼフリートは三皇后に強請ねだった。

 ――せっかく西部半島のリゾートにいるんだから海で遊ぼうよ!

 駄目元でのお願いだったが、女官総長ヴァネッサが三皇后に強く働きかけ、慰労いろうという名目ですんなり裁可さいかが下りた。

「なんて暑いのでしょう。陽射しが暑いわ⋯⋯。汗が止まりません」

 そういうわけで、汗だくのセラフィーナは真っ白な砂浜で大海原の水平線を眺めていた。

 巨尻に食い込んだエロ水着の細紐を指先で引っかけて緩める。湿った白肌に付着した海砂を振り落とす。景色は素晴らしい。しかし、居心地の良い環境とは言えなかった。

(素肌の露出が多ければ多いほど、涼しいというわけではありませんわね。中央諸国の大砂漠に住む放浪民は、肌の露出を嫌うと聞くけれど⋯⋯。その理由がよく分かりましたわ)

 爆乳金髪の妖艶な美女は破廉恥はれんちなマイクロビキニを着こなす。熟れた媚肉を引き締める水着は、弓弦ゆみずるのように張り詰めている。柔肌に食い込み、セラフィーナを恥部を淫媚に強調する。

(ちょっとサイズがキツいけれど陛下が用意してくれた水着ですもの。ふふっ♥︎ 悦んでいただけるかしら?)

 アルテナ王国の女王である以前に、メガラニカ帝国の皇帝ベルゼフリートに性奉仕する愛妾なのだ。そうであればこそ、全裸よりも卑猥な格好で胸を張れる。しかし、煌々こうこうと照りつける陽光にはまいっていた。

「熱いですわ」

 海上に浮かぶ天空城アースガルズを遠望する。世界広しといえど、空中浮遊の人工島を運用する国家はメガラニカ帝国くらいであろう。

(海辺に降り立ってから、肝心の陛下とはまだお目にかかれていませんわ。伽役でお呼びがかかるはずなのだけど⋯⋯)

 セラフィーナは乳輪と女陰を隠し、マイクロビキニの背後は細い紐を結んで留めているだけだ。

 両肩、背中、臀部、太腿、足首にいたるまで全てが丸見えだった。常識的に考えれば人前に出られる格好ではない痴女。しかし、旧臣達の前で公開出産を経験したセラフィーナの感性は乱れきっている。

(私の水着が特別に派手というわけではありませんわ。宮中で暮らす女仙は、帝国全土で選りすぐられた美女の集まり⋯⋯。この集団に混ざったら自信を失ってしまいますわね)

 砂浜のビーチは女仙の貸し切りだった。通りかかった見知らぬ女仙が好奇の視線を無遠慮に向けてくる。

 同性からの視線はさして気にならなかった。この場にいる異性はセラフィーナが忠愛を捧げる幼き皇帝ベルゼフリートただ一人。しかし、視線を釘付けにしたい意中の相手は、未だに姿を現わしてくれない。暇を持て余したセラフィーナは、海水浴を楽しむ女仙達に視線を向ける。

(ピッチリと肌に張り付くタイプの水着⋯⋯。私の身体に合うサイズもあるかしら? あっちにいる方は女陰の割れ目があんなにくっきり現れていますわ。あっちの水着は濡れると布が透けるみたい。あんなのを着ていいのでしょうか⋯⋯? あっ、注意されてる。恥部は隠さないとダメですわよね)

 海水浴のルールで全裸禁止があった。後宮内における規則でも全裸で出歩くのは禁じられている。皇帝の気を引こうとして過激行動に走る女仙を諫める宮中の諸法度しょはっとである。

(乳輪とオマンコが隠せてればいいそうだけど⋯⋯、この水着ですとギリギリ⋯⋯。陛下からのプレゼントじゃなかったら風紀違反だったかもしれませんわ)

 審査担当の女官は恥毛を整えるようにと指導した。他の女仙に比べて、セラフィーナや黄葉離宮の側女は審査がかなり甘かった。ベルゼフリートの意向が働いていたに違いない。

「綺麗に晴れてよかったです。きっと皇帝陛下もお喜びでしょう」

 元気いっぱいのリアは甲斐甲斐かいがいしくセラフィーナの世話をしてくれる。

「メガラニカ帝国の五月はこんなに暑いのですか? 太陽の光に肌が焼かれてヒリヒリしますわ」

「砂浜の海辺ですからね。たぶん肌は焼けちゃうでしょう。それがお目当ての妃殿下もおられると聞きます」

 セラフィーナが海を見るのは生まれて初めてだった。内陸国のアルテナ王国で生まれ育ったセラフィーナは、大海原を目にする機会が一度もなかった。

 絵画や写し絵で、大陸を囲む海の存在は知っていたし、どういうものかは分かっているつもりだった。

(本当に綺麗ですわ)

 セラフィーナの想像を上回る雄大な大自然の光景に目を奪われた。自分の目で見て、海風を肌で受け止める感動に浸る。だが、大海讃美の想いは最初の数分で消え去った。

(干涸らびて死んでしまいそうですわ)

 白浜の海岸に太陽の熱線が降り注ぐ。海風が運ぶ湿気は体感温度を倍増させた。蒸し風呂で茹でられている気分だ。

「リア。飲み物をちょうだい」

 セラフィーナはリアに飲み物を求めた。滝のように汗が流れ出る。身体は無限に水分を欲した。水を飲めども、すぐさま喉の渇きに悩まされる。

「どうぞ、セラフィーナ様。熱中症にはお気を付けてください」

 氷水でキンキンに冷えたレモンティーを受け取る。尻尾を元気に振る獣人娘の側女は、炎天下の中でも生き生きと働いている。

「リアはこの暑さが平気なの?」

 犬族の少女であるリアは獣耳や尻尾が生えていた。身体の一部分が毛皮で覆われているようなものだ。寒さの厳しい冬場は羨ましかった。しかし、猛暑に苦しむ今はちっとも欲しく思わない。

「私は何度か来ているので慣れています。グッセンハイム子爵領はもっと暑くなりますよ」

「そんなの想像したくありませんわね。これ以上の暑さだなんて⋯⋯」

「七月や八月は太陽光で卵焼きが作れちゃいます」

「そう⋯⋯。ギラつく太陽に炙られるのでしょうね⋯⋯」

「本当なら海風で内陸部より涼しくなるはずなんですよ。でも、西部半島は暖流のせいで気温が下がらない地域なのです。そのおかげで秋や冬も暖かくて海水浴ができます。グッセンハイム子爵領のリゾート地が賑わうのは冬場なんだとか」

「そういえばグッセンハイムって⋯⋯」

「宰相派の王妃ローデリカ・グッセンハイム妃殿下が治める領地です」

 リアがグッセンハイム子爵領について説明する。交易が盛んな港湾都市、高級リゾート地で有名な観光都市。帝国貴族の別邸が数多く存在し、住民は富裕層と出稼ぎの使用人が多い。

 グッセンハイム家の爵位は一番下の子爵。これは元々が漁村の集まりでしかなく、辺鄙へんぴな田舎の領主であったせいだ。古くからある由緒正しい貴族だったが、今ほど裕福な一族ではなかった。

 西部半島を高級リゾート地に変貌させたのは、グッセンハイム子爵家の先代当主である。港湾整備と観光業に注力し、目覚ましい経済発展を遂げた。当主の座を父親から譲られたローデリカは、王妃の座を得て帝国宰相の腹心となっている。

「それじゃあ、この海水浴場は観光地なの? とてもよく整備されていますわ」

 砂浜はあまりにも綺麗だった。人が捨てたゴミどころか、流木や海藻などの自然漂流物すら見かけない。

「ここはグッセンハイム子爵家が皇帝陛下に献上したプライベートビーチです。民間人は立ち入り禁止になっています。掃除は女官の方々が早朝にされたのでしょう。女仙の保養地なので、瘴気の残穢が酷いと聞きます」

 女仙の身体から放たれる瘴気は生物を害する。昆虫や魚貝といった人間から遠い生き物はさほど影響を及ぼさない。だが、犬や猫、牛や馬などの家畜動物は死に絶えてしまう。鳥類も例外ではなく、空は静かなものだった。

「海水浴は楽しい催事だと陛下からお聞きしていましたわ。こんなに大勢の女仙が降りてくるのですね。去年の戦勝式典よりも人が多いですわ」

「長期休暇の勅令が下っています。お勤めがなければ役職に関係なく、誰でも外出許可が貰えるはずです。女官や側女が仲の良い同僚を誘って、遊びにきたりしているんですよ。下界を嫌って降りてこない妃殿下も多くおられますけどね」

 天空城アースガルズで暮らす女仙の総数は約八百人。浜辺で羽を伸ばしている女仙はその三割ほど。雑に数えても二百から三百人がプライベートビーチで休暇を楽しんでいた。

「あの出店は誰が開いているのかしら? 民間の商人は出入りできないのでしょう?」

「女官が運営する出張販売所です。売り子は庶務女官の方々ですよ。普段は帝城ペンタグラムの城下市場で、ああいう店舗がいくつも開いています」

 庶務女官は注文された飲み物を配ったり、浮き輪を貸し出したりと様々な仕事に追われていた。飲食店、雑貨店、マッサージサロン、さまざまなサービスが提供されており、人気店には長い行列ができている。

(あの屋台にある食べ物は美味しそうですわ。氷菓子かしら?)

 セラフィーナには物珍しく見えたが、買い出し担当のリアからすると見慣れた光景だった。天空城アースガルズでは庶務女官が側女に日用品を売っているのだ。

「お休みを楽しんでる警務女官が多いみたいですわ」

 海辺で戯れている筋骨隆々な女官達には見覚えがあった。警務女官長ハスキーの部下達だ。名前までは知らないが、皇帝の身辺護衛をしている彼女達とは何度も顔を合わせた。

「警務女官は陛下の側近を除いてお休みをいただいたそうですよ」

「ここの警備で人手が必要ではないの?

「保養地の警備は軍務省の管轄です。例年通りならシャーゼロット様が主任をしておられますね」

 警備とは言うものの、女軍人の主な仕事は水難救助だった。つい先ほどもクラゲに太腿を刺されて溺れた女仙が救助されていた。

 セラフィーナとリアの前を警備担当の女軍人が通り過ぎていった。

 ぴっちりと肌に密着する競泳水着は、鍛え上げられた筋骨をいっそう栄えさせる。男装がよく似合うであろう秀美な麗人だった。

「さっき通ったあの方! すごく綺麗な身体でした! こんな私も軍閥派の側女です⋯⋯。本当はああならないといけないのに⋯⋯!!」

 女仙化で不老不病となる前、リアは病弱な身体だった。強く健康な身体にはずっと憧れを抱いていた。しかし、小柄なリアがマッチョな身体になるのを想像して、セラフィーナは吹き出しそうになる

「正規の軍人ではないのだから、気にしなくていいと思うわよ?」

「いえ、皇帝陛下にお仕えする女仙として、だらしない肉体は恥ずかしいです! 赤ちゃんを産んだら身体を鍛えてみようかと思っています!! 肉体改造です!」

 リアの水着は控え目な少女らしいワンピースで、奥ゆかしく愛々しい装いである。しかし、美女揃いの女仙の中では没個性的な美少女は埋もれてしまう。

 去年までそうであった。祖父が有名な将軍であることを除けば、リアは大勢いる側女の一人。ところが、今年の海水浴は大きな変化があった。

 リアは皇帝の御子を孕んだ。

 黄葉離宮の側女達は全員が妊娠している。丸みを帯びて前部に突き出たボテ腹。一目瞭然で分かる妊婦の体型は周囲の目を引いた。

 周囲から向けられる視線は羨望、あるいは妬み。警邏中けいらちゅうの女軍人は身籠もったリアの身体をチラリと見て、すぐに視線を外した。

 リアは恥ずかしそうに顔を伏せて、赤らめた頬を隠した。

(御手付きで側女や女官が孕むのは、本来だったら例外的な出来事ですわ。皇帝陛下の御子を産めていない妃もいる中で、黄葉離宮の側女達が立て続けに妊娠してしまった⋯⋯。よろしくない噂も流れていると耳にしましたわ。風評を今さら気にしても仕方ありませんけれども)

 大きく育った妊婦腹には羨望の眼差しが集まる。それは仕方がない。

 リアが妊娠したのは去年の十一月中旬。出産予定日は約二ヵ月後に迫っている。次の定期検診次第で、女仙が皇帝の御子を産むための施設〈胎孕たいよう廟堂びょうどう〉へ入る予定だった。

「リアはそのままでも十分に可愛いらしいですわ。陛下もきっとそう仰ってくださいます。ついこの前も夜伽にお呼ばれしたでしょう?」

「は、はい⋯⋯。皇帝陛下は⋯⋯お優しい御方ですから⋯⋯」

 性奉仕の日々を思い出して、リアは恥ずかしがっている。

 完全回復したベルゼフリートの性欲は今まで以上に強くなった。廃都ヴィシュテルから天空城アースガルズに帰る道中、セラフィーナとウィルヘルミナはセックスを強く求められた。そして帰城後、ベルゼフリートは黄葉離宮の側女達を何度か自室に呼びつけた。

 清楚だったリアの乙女オマンコも極太巨根にすっかり馴染み、今ではアナルセックスでさらなる淫悦を貪るようになった。

「その⋯⋯気になることがあって⋯⋯。産後は太りやすくなるって⋯⋯聞きますし⋯⋯。セラフィーナ様、実際どうなんででしょうか?」

「体重は少し増えたかもしれませんわ。陛下の御子を産んでからバストサイズも一回り大きくなって、ブラジャーを新調しなければならなかったし⋯⋯。そう言われると適度な運動は必要かも⋯⋯」

 他愛のない会話をしていると、ついこの前まで一緒に旅をしていた筋骨隆々の女将校が見回りにやってきた。

 アレキサンダー公爵家の長女シャーゼロットと三女レギンフォードの二人だ。宮中の地位は側女であり、妃には劣る。しかし、大貴族アレキサンダー公爵家の一族であり、帝国元帥仕えの上級将校ともなれば上級妃でも道を譲る。

 憧憬を抱くリアは、アマゾネス族の屈強な筋肉美に見惚れている。だが、ああなりたいとセラフィーナは願わない。鍛え抜かれた美しい肉体だとは思う。それは認めるが、セラフィーナが理想とする女性的な魅力に欠ける。

 アレキサンダー公爵家の七姉妹は一人を除き、それぞれの現場指揮を任されている。

 次女のルアシュタインは医務女官と共に救護所で待機。五女のタイガルラと七女のキャルルは外周警備を任されている。配置に関してキャルルは不満を爆発させた。海辺から離れているため、ベルゼフリートと顔を合わせる機会は皆無だ。しかし、姉達の意向が優先された。

 七姉妹の問題児ニートと名高い六女のブライアローズは皇帝の天幕で安眠している。

 水着を見せたいがために、ベルゼフリートに引っ付いてきた。しかし、眠気には勝てず、皇帝専用のベッドを占領し、堂々と爆睡を決め込んでいる。呆れ果てたシャーゼロットが海に投げ捨てたが、数十分後には夢遊病で戻ってきた。

 ひんやりした体温が心地好いので抱き枕に使うとベルゼフリートが言いだし、手が出せなくなってしまい、現在も水着姿で寝ているという。

(後宮の日常にすっかり染まってしまったわ)

 アルテナ王国出身のセラフィーナを排斥したがる勢力はある。しかし、セラフィーナは愛妾の生活に適応し、後宮で強い存在感を示す寵姫となった。皇帝の寵愛を奪い争うハーレムで、一人の女として生きている。苛酷な競争がセラフィーナの退屈な人生に鮮烈的な変化を与えた。

(帝国内の敵は滅びたわ。次はきっと外の敵⋯⋯。くふふふっ♥︎ でも、今は休暇バカンスを楽しむことにしますわ♥︎)

【199話】大妖女討滅の後日談 海水浴のバカンス

関連コンテンツ

‐PR‐
‐PR‐
‐PR‐

新着記事

関連記事

R18作家インタビュー

レビュー記事

‐PR‐

人気記事

最新
雑誌
小説
レビュー

Translate »