2024年 12月5日 木曜日

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【172話】魂の楔

「あら? ちょっと遅かったみたいねぇ♥︎」

 青紫肌の大妖女が寝室の扉を蹴破った。本性を現わしたレヴェチェリナは、魔物の眼でセラフィーナを睨めつける。苦労して誑かした幼帝が正気に戻っていた。

「酷いじゃない。私の夫に何をしているのよ? 寝取るつもり? デカ尻の淫女ビッチ♥︎ 創造主に誓いを立てたくせに、浮気オチンポで孕もうとしちゃって♥︎ ほんと、見苦しいわ♥︎ 子持ちの女王なんだから、もっと貞操を気にしたらぁ?」

「レヴェチェリナ、その姿は一体? 青紫の肌⋯⋯。貴方、人間ではありませんわね」

 ベルゼフリートもセラフィーナの発言に同意する。

「血色が悪いとかそういうレベルじゃなさそう。――美人ではあるけども」

 最後の余計な一言はレヴェチェリナを喜ばせた。セラフィーナはベルゼフリートを窘める。

「気を許してはなりません。陛下⋯⋯。おぞましい邪気ですわ」

 セラフィーナはベルゼフリートを抱き締めた。レヴェチェリナが人外の存在だ。美しい姿をしているが、人間とは相容れぬ醜悪な本性が隠せていなかった。

「それ以上、こちらに近づかないでください⋯⋯! 穢らわしい魔女に陛下は渡しませんわ⋯⋯!!」

「渡す? アハハハハハハハハ♥︎ そもそも貴方のモノじゃないでしょ? 〈黒蠅の帝王〉は魔物を統べる支配者。私をアンネリーの忌まわしい封印から解き放ってくださったわ」

 レヴェチェリナは自分の子宮を指差す。膣穴からは泥々の精液が垂れている。

「陛下⋯⋯あれは⋯⋯?」

「仕方ないじゃん⋯⋯。やることはやっちゃったから⋯⋯ねえ⋯⋯」

 ベルゼフリートは気まずそうに苦笑いする。

「魔帝の胤で私は孕んだわ。大陸を滅ぼす災禍の子。その産声は人類に終焉を告げるわ♥︎」

 もはや手遅れだと嘲笑うレヴェチェリナはセラフィーナに襲いかかる。〈反魂妖胎の祭礼〉が終われば用済みの道具だ。

 転生体の器を破壊し尽くすついでに、セラフィーナの魂も砕こうとした。

 ――大妖女の呪爪じゅそうがセラフィーナを切り裂く寸前、眩い閃光が生じる。

 弾き飛ばされたレヴェチェリナは、不様に壁に叩きつけられた。

「――ッ!! 招かれざるお客様がいらっしゃったわ」

「身の程知らずの端女はしためどもめ。片方は後宮の末席を与えられた愛妾、もう片方は穢らわしき魔物女。私からすれば、どちらも皇帝陛下の御心を蝕む害虫です」

 メガラニカ帝国でもっとも強大な権力を握る皇后が降り立った。山羊の捻れ角、蝙蝠こうもりの翼手、そして優美な尻尾。桃色の美髪を靡かせて、美貌のサキュバスは君臨する。

 絶世の美女と褒め讃えられたセラフィーナに対し、容姿で劣等感を抱かせた唯一の女性。幼き皇帝の寵愛を一身に受ける最愛の妻。ベルゼフリートはその名を叫ぶ。

「ウィルヘルミナ⋯⋯!?」

 ベルゼフリートが名前を声に出した途端、偽りの世界に亀裂が走り、ぐにゃりと周囲の空間が歪んだ。激怒する正妻ウィルヘルミナはレヴェチェリナを睨みつける。

「私の夫を返してもらいます」

「帝国宰相ウィルヘルミナ・フォン・ナイトレイ⋯⋯。随分な無茶だわ」

「⋯⋯⋯⋯」

「現われるとしても神官長や帝国元帥だとばかり⋯⋯! くふふふふふふふ⋯⋯♥︎」

「アルテナ王国の女王を邪術の触媒に使ったのは大きな失敗でしたね。カティア神官長の秘術で、破壊者ルティヤの荒魂にくさびを打ち込みました」

「貴方はお呼びじゃないわよ? 後ろをご覧なさい。陛下が困っているじゃない? それに、セラフィーナも面白くなさそうにしてるわよ♥︎」

「ここは陛下の心象世界でもある。私自身が楔となりました。貴方の自由は奪われた」

「だから⋯⋯? それが何だって言うの? 今さら私の計画を阻止できるのかしら? くふふっ♥︎」

「私は夢を司る幻想種のサキュバス。異称を。陛下は私を望まれた。だから、こうして私が現われ、貴方の前に立ち塞がっている。ここでは私の方が強い」

「んふっふふ⋯⋯! あっははははははは! 如きが何を言うかと思えば⋯⋯!! 嗤ってしまうわ! くふっ♥︎ くふふふふふっ♥︎ 手遅れよ? だって、反魂妖胎の祭礼は完了しちゃったのよォ♥︎」

「いいえ、邪悪な儀式は不完全。失敗したのです。貴方の技量は神官長カティアに劣っています。だから、天空城アースガルズの隔絶結界で閉じ込めた。帝国元帥レオンハルトを遠ざけたのも同じ理由ですね。三皇后が脅威だったのでしょう?」

「楔は時間稼ぎにしかならないわ。破壊者ルティヤの魂を入れる器は壊れたも同然よォ♥︎」

「壊れてなどいません」

「くふっ♥︎ あぁ~♥︎ 情けないわぁ♥︎ 穢れ祓いの巫女達は、主君を簒奪された惨めな女となったんだものねぇ♥︎」

「その多弁は誤魔化しと虚勢です。事実、私の登場で苛立っているように見えますよ」

「ふふっ⋯⋯♥︎ 強がりはどちらかしら? まあいいわ。胆力がなければ帝国宰相は務まらないもの。完璧な形で祭礼は成されなかった。それくらいは認めてあげるわ。状況は私達に有利♥︎」

「廃都ヴィシュテルに引き籠もっていれば殺されぬとでも? 浅はかな」

「魔帝が降誕した今、帝嶺宮城の護りは息を吹き返したわ♥︎ その意味は分かるかしら? 大神殿の巫女達に昔話を聞いてみればいいわ♥︎ 帝国軍がどれだけ強大だろうと破れはしない♥︎」

 レヴェチェリナの根城は廃都ヴィシュテルの帝嶺宮城。天空城に匹敵する護りが施された場所だった。皇帝がいる場合は不可侵結界が発動する。

「不可侵領域結界を構築したのは先代神官長ロゼティアです。他人の功績を我が物顔で誇る。横取りするのがお得意のようだ」

「いずれにせよ、皇帝ベルゼフリートは死ぬわ。そして、魔帝の魂は完成するわ。世継ぎも産まれる⋯⋯♥︎ くふふふっ♥︎ 分かるかしら? 私の胎に宿った命が⋯⋯♥︎」

「⋯⋯⋯⋯」

「魔物を導く新たな支配者⋯⋯♥︎ あぁ~♥︎ とってもぉ~♥︎ 楽しみだわ♥︎ 羨ましい? 下女でいいのなら、三皇后も妖魔化させてあげるわよ? で待っているわ♥︎」

 偽りの世界が崩壊する。レヴェチェリナは深淵の暗闇に溶けた。

「セラフィーナ。私の手を離さないようにしてください。魂を帰還させます。何があっても陛下を離さないでください。不本意ではありますが、貴方も魂の楔です」

「楔?」

「陛下の魂を繋ぎとめるかなめです。詳しい説明は後でします」

 ウィルヘルミナは両翼を広げて飛翔する。

 奈落の底に堕ちかけたベルゼフリートとセラフィーナは引っ張り上げられる。重力を失わせる羽ばたきで、聖光が差し込む天上へと舞い上がっていった。

「うわぁ⋯⋯。何もかも真っ暗闇に飲み込まれていく。ねえ。ウィルヘルミナ。これって墜ちたらどうなるの?」

「おそれながら陛下、それは知らないほうがよろしいでしょう」

「だよね。了解。振り落とされないようにしてる。セラフィーナは手を離さないでね」

「はい⋯⋯」

 崩れ散った世界の残骸は常闇に沈む。セラフィーナは目撃した。白月王城の瓦礫がれきに潰されたガイゼフは、憎悪の瞳でセラフィーナを見ている。闇に食われるアルテナ王国の人々はセラフィーナを恨んでいた。

(あれは⋯⋯! あの子は⋯⋯!? リュート⋯⋯!!)

 息子のリュートは首に粗縄が巻き付けられていた。助けを請うように手を伸ばす。セラフィーナは奈落の底に飛び込みたくなった。

 ウィルヘルミナに掴まれた手を振りほどけば、真っ逆さまに落下できる。

「⋯⋯ッ!」

 ほんの一瞬だけ、誘惑に駆られた。

「駄目だよ。セラフィーナ。上から差し込む光だけを見よう」

 ベルゼフリートは甘える声で語りかけた。セラフィーナの子宮が疼く。こんな状況にも関わらず、挿入された男根は射精を続けている。オチンポの脈動がオマンコを伝わってくる。

「セラフィーナは、メガラニカ皇帝の愛妾おんななんだから⋯⋯。他の男を見ちゃいけないんだよ。決めたんでしょ。僕との子供だけが家族だって。だから、あの追憶は捨てなきゃ。そうだよね。僕だけのママ♥︎」

「はい。ほんの少しだけ、過去を懐かしんでしまったわ。もう大丈夫です⋯⋯。後悔などしておりませんわ。陛下に愛されることこそ、私の幸せです♥︎」

 絶頂で締まったオマンコから愛液が滴り流れる。

 強固に結合した男女の生殖器は、ベルゼフリートとセラフィーナの関係を物語っていた。

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