「うぐっ⋯⋯! はぁはぁ。あぐぅううう⋯⋯が⋯⋯! ごほっ! ごほぉっ⋯⋯!! はぁはぁ。うぐぅ⋯⋯! どうやって⋯⋯? ここに?」
「あらら⋯⋯。この出血量は不味いわ。キュレイは動かないで。酷い傷。身体がズタボロ。生命核が崩壊しかけてるわ。もう少し早く助けたほうが良かったね。ごめんなさい」
「私に持たせたあの護符か⋯⋯?」
「うん。私の護符は役に立ったでしょ? どの道ね、敗色濃厚な戦いだった。そろそろ破魔石が再起動してしまう。帝国宰相ウィルヘルミナの指示で予備の退魔結界術式を敷かれてたみたい」
ブライアローズが反応する。退魔結界の備えはごく一部の者にしか知らされていなかった。
「⋯⋯なぜお前が予備回路の存在を知っているの?」
「あら? やっと喋ってくれた。特級冒険者ネクロフェッサーが廃都ヴィシュテルに現われたから、対策していると思ったの。メガラニカ帝国の冒険者で最年長のご老人。きっと帝都の退魔結界が私達の狙いだと気付いたはずだわ」
ブライアローズはさらに警戒度を引き上げる。帝国宰相ウィルヘルミナの指示で、退魔結界の予備術式が敷かれていたのは事実だ。
「人間が無知で愚かとは思っていないわ。きっと対策を講じる。だから、私達はそれ以上の策を講じなければいけないの」
特級冒険者ネクロフェッサーの警告。そして、愛妾セラフィーナが見た何者かの記憶。それらの情報をもとに対策は講じられていた。しかし、想定以上のマナ放出であったため、退魔結界の一時喪失は防ぎきれなかった。
「破魔石の無効化は読まれてた。妖魔兵も狩られているわ。キュレイを帝都の外に転移させてあげるから、そのまま廃都ヴィシュテルに帰還して。この傷は命に関わるわ」
「⋯⋯私に逃げろと⋯⋯うがぁ⋯⋯ぐぅ⋯⋯!」
「そんな身体で強がりはダメ。逃げなきゃ死んじゃうよ。影が安全な道を示してくれる。空には気をつけて。キャルル・アレキサンダーが第一軍の駐屯基地で帝都上空を監視してる。見張り塔にいるらしいわ。索敵に引っかかったら射殺されちゃうよ」
ピュセルはキュレイの身体に触れる。
「この状況下で逃げおおせると? 随分な大言壮語だ。私がさせると思うわけ?」
ブライアローズは攻撃を構える。相手は上位種の魔物。アレキサンダー公爵家の七姉妹であれば難なく倒せるが、通常の兵士では太刀打ちできない。
「――その死に損ないは逃さない」
警務女官であってもこの水準の魔物は厳しい。殺せるときに殺しておくべきだ。
「あぁ、すごく嬉しいわ! やっと歩み寄ってくれるのね! ふふっ! 恐ろしい殺気。怖い人だわ。でも、キュレイは殺させない。私は仲間想いのとっても優しい魔物だからね」
「気色悪い。会話が成立していないな。見え見えの嘘にも吐き気を覚えるわ。魔物に同族愛などないでしょ。――次元断絶の渦穴」
絶対に始末するというドス黒い殺意を具現化させる。
「危ないね。そんな大技を使ったら立派な議事堂が崩壊しちゃうわ。破壊帝や死恐帝の災禍で壊されなかった貴重な建造物なのに⋯⋯。栄大帝が草葉の陰で泣いてるよ?」
「無用な心配。魔物が壊したことにしておく」
ブライアローズは次元の捻りを解放する。もはや周囲の被害は気にしない。歴史ある議事堂が大崩落し、廃墟になろうとも眼前の魔物を殺すつもりだった。
「キュレイ! ちょっと乱暴な転移になるけど我慢してね?」
ピュセルはキュレイの転移を優先する。退魔結界がいつ復活するか分からない状況だった。
(予備動作なしでの空間転移⋯⋯! 退魔結界がない状態とはいえ、魔物を帝都の外に逃すほどの技量⋯⋯。やはり厄介だわ。しかし、逃がさない)
ブライアローズはピュセルの転移術に違和感を覚えた。触れただけで相手を遠くにワープさせる。そう簡単にできることではなかった。それこそ次元を操作できる能力者でなければ。
「転移完了! ――さてと、次はこっち。偉大な栄大帝の歴史的遺産を瓦礫にするのはもったいないわ。それに、私のせいにされたら困るもの」
時空ごと穿ち捻じる必殺の一撃。ブライアローズの放った次元の捻れをピュセルは掌で包み込む。爆ぜる前に逆転の奔流で無力化する。
(私の次元操作を無力化⋯⋯!? 牛の魔物なんかよりも厄介な相手! だけど、まずは死にかけのほうから始末する⋯⋯!)
「おやっ? おやおや? へえ、すごいわ。私が転移させたキュレイを引き戻そうとしてる。とっても器用なのね。私じゃ逆立ちしたって無理な芸当だわ。ふふふっ♪」
ブライアローズの狙いを言い当てた。次元操作は空間転移も兼ねている。逃げたキュレイを引き戻そうと転移の足跡を辿っていた。しかし、ピュセルは許さない。
「妨害くらいは私でもできるけどね。そんなにキュレイを殺したい? 殺意剥き出しね。人間って怖いわ」
「⋯⋯⋯⋯チッ!」
「ん? あら? 次は夢? あぁ、残念。私は夢に堕とせない。どうせ夢を見るのなら楽しい夢がいいと言ったでしょ? 悪夢は嫌よ」
次なる攻撃も看破する。ピュセルは夢幻の獄に引っかからなかった。
(意味が分からないわ。こいつは私の霊力を下回っている。だけど、なぜか悪夢に堕とせない⋯⋯。能力も不明。この魔物は私の霊障夢幻結界を解体して見せた。内部からとはいえ、今までに一度もそんな敵はいなかった)
嫌な予感がよぎる。ブライアローズは初めて敗北した日を思い出す。圧倒的な格上と戦う感覚。模擬戦で戦い方を指導してくれた姉達を思い出していた。
「それだけ次元操作を使いこなしてるのに当主じゃないなんて⋯⋯。本当に可哀想だわ。貴方は産まれた時代が悪すぎたね。ほんの一〇〇年前なら文句なしでアレキサンダー公爵家の当主になれてたわ」
「⋯⋯お前、本体ではないな。分身か?」
霊障夢幻結界の発動条件を満たせていない。ブライアローズはピュセルの本体を認識できていなかった。
「正解。すごいわ。これだけ短時間で分身を見破られたのは貴方で二人目。――栄大帝以来かな」
(栄大帝⋯⋯? 本気で言っているの⋯⋯?)
「あの人は感覚の鋭さがおかしかったから一目で見破っていたけれど」
(栄大帝と戦ったことがあるような口ぶり。人間を模倣した少女の姿。青髪の鬼。この魔物は⋯⋯。昔、お姉ちゃんから聞かされた)
想起するのは幼少期、ベッドから引きずり出された最悪の記憶。次女のルアシュタインに叩き込まれたアレキサンダー公爵家の歴史。居眠りすると、頭をド突かれた嫌な想い出。そのときに歴代当主の逸話は覚えた。
「私は臆病で卑怯だから、帝都に攻め込むなんてできない。だって、恐ろしいもん。キュレイみたいに命がけで戦えるほど、私は勇敢な魔物じゃない」
「知っているぞ。お前。正体に心当たりがある。⋯⋯私の先祖を殺してるな?」
「へえ。ちゃんと歴史のお勉強もしてるのね。――それ。大正解♪」
鬼娘は鋭い牙を見せつけてへらへらと嗤った
「⋯⋯⋯⋯」
「目付きこわっ! 私のほうも殺されかけたんだから、そんな怨みが籠もった目で見ないでほしいかな。その後は大変だったんだよ。怒った栄大帝に追いかけ回されちゃうし、魔物なりに後悔してる」
「⋯⋯⋯⋯」
「二度と悪さなんかしない。そう誓ったわ」
「よく回る舌だ。言い伝え通りの饒舌⋯⋯。神喰いの羅刹姫ピュセル=プリステス」
「よかった。名前は正確に伝わってたのね。忘れられてると思ってたわ」
「統一帝国が討伐し損ねた伝説の魔物。教会の神々を喰らった悪鬼。城砦都市を七つ滅ぼし、数百万の人間を虐殺した」
「うーん。若気の至りかな。あの時はね、退魔結界の脆弱性を見つけちゃったから、やらずにはいられたかったの。大都市の人間達を一人も逃さずに殺し尽くす。一人でも逃がしたら私の負け。ちょうどその頃、嵌まってた暇つぶしのお遊び。懐かしいわ」
「人殺しの化物め。魔狩人と冒険者組合は懸賞金を取り下げていない。お前の首は高く売れる」
「懸賞金の件、大宰相ガルネットは批判してた。特級冒険者でさえ返り討ち、帝国最強の騎士だったアレキサンダー公爵家の当主が戦死してしまったんだもの。懸賞金なんて犠牲者を増やすだけ。正論だと思うわ。あの時代で私を確実に殺せる人間は栄大帝か勇者くらいだった。――貴方はどうかしら? ブライアローズ・アレキサンダーなら私を殺せる?」
「帝都アヴァタールを襲撃した目的は? メガラニカ帝国が憎いの?」
「人間に恨みなんかないかな。メガラニカ帝国には思い入れがあるだけ。そろそろ護符の効果が切れちゃう。楽しいお喋りも終わりだね」
「私は不愉快な思いをさせられた。お前が本体なら殺してやったのに」
「そう。じゃあ、最後に愉しませてあげるわ」
「⋯⋯⋯⋯」
「霊障夢幻結界〈夢の世界〉。キュレイと貴方の戦いを観察してたわ。父方からの相伝能力。精霊使いの血統。生まれつき宿した守護霊の異能力を上手に応用してる」
「⋯⋯だから?」
「帝国元帥レオンハルトにはマナの差で勝てない。長女のシャーゼロットもちょっと厳しい。だけど、次女のルアシュタインや七女のキャルルにも通じないのではないかしら? 異界領域は解体できるんですもの。次元操作の力では勝っているから、優位に戦えるだろうけどもね」
(私の戦い方をよく知らなかったくせに、苦手な相手は熟知している。宰相閣下の読み通りか⋯⋯)
ウィルヘルミナの懸念は裏付けられた。
(――皇帝陛下が聞き得た情報は敵に知られている)
「霊障夢幻結界の解体! やってみようかな。何事もチャレンジ精神♪」
(狙いは私が保護した帝国宰相と議員達⋯⋯。こいつは悪夢を内側から破壊している。外側からの破壊はレオンハルトお姉ちゃんにしかできなかった。できるはずがない)
隠された異界領域を抉じ開ける荒技。次元を操れる者でも、そう簡単にはできない芸当だった。
「できるはずがない? ――そんなのは人間の傲慢だわ。魔物だって努力してる。人間にできるのなら、魔物にだって可能。異界領域の解体に合わせて攻撃も放つわ。保護した人間達を殺されたくなかったら頑張ってね」
「その力は⋯⋯! まさか次元操作⋯⋯!? ありえ――」
「――ありえるわ。次元操作はアレキサンダー公爵家だけの専売特許じゃないもの」
「っ!! 魔物如きが偉そうに⋯⋯!」
「たった十数年で能力を使いこなす人間達と違って、私は非才の魔物。凡庸な弱者。だけどね、数千年の研鑽と努力でここまで登り詰めた。一念通天、百錬成鋼、弱者の努力は実を結ぶわ。人間を真似るのは得意なの。――さあ、力比べをしましょ?」
ピュセルはアレキサンダー公爵家だけの異能と信じられてきた次元操作を実演する。
「ふふっ! ちょっと緊張してるかも! 上手くできるかしら? 終極ノ義――次元時空の臨界崩壊!」
アレキサンダー公爵家の一族に伝わる奥義の一つ。その昔、ピュセルが殺した当主から盗んだ必殺技を後裔に見せつける。
(終極ノ義⋯⋯! 初速が遅い。稚拙だ。レオンハルトお姉ちゃんに比べれば、欠伸が出るほど長い溜め。こんな鈍い大技、避けてもいい。だけど、こいつは市街地に向けて攻撃する気だ。最優先は帝国宰相の安全だけど仕方ない。今日は本気を出すと決めた)
ブライアローズは精霊召喚の奥義を発動させる。
同等の次元操作で相殺させるよりも、精霊に受け止めさせたほうが被害を抑えられると判断した。
「終焉を喰らい尽くせ――七ツ目の仔羊!」
左右非対称の顔面に七瞳を持つ夢羊。ブライアローズが呼び出せる最強の守護精霊である。万物万象を裁く仔羊は次元の大渦に立ち向かう。
「いいわ。すっごくいい! それが奥の手? 精霊で私の攻撃を受け止めるのね。人間との力比べ⋯⋯! 本当に愉しいわ⋯⋯!!」
大破壊を起こそうとした瞬間、ピュセルの腕が押し潰された。
「ッ!? あれれ⋯⋯? 腕が消えちゃったわ」
ブライアローズの先制攻撃ではなかった。七ツ目の仔羊は守勢の構えで静止している。
「ふーん。横槍が入ったのね⋯⋯。酷いことするわ」
有無を言わせぬ事象遮断。次元時空の臨界崩壊は力を放出できぬまま、霧散させられてしまった。
「あ⋯⋯」
そして、一閃が議事堂の天蓋を貫く。遠隔狙撃を得意とするキャルルを凌駕する精度と速度で放出された。
「凄い攻撃速度。距離だってこんなに遠いのに狂いのない精度⋯⋯。避けきれないわ。――護符が貫かれちゃった。残念無念。ここで退場みたい」
分身体の楔であった護符が破壊された。蒼白い炎上を灯していた紙切れが朽ち果てていった。
「この攻撃⋯⋯。レオンハルトお姉ちゃん。帝都に帰ってきたんだ」
こんな芸当ができるのは、帝国最強のレオンハルト・アレキサンダー以外にいなかった。
副都ドルドレイの視察に向かったレオンハルトは、単身で帝都アヴァタールに引き返した。帰還は退魔結界の崩壊から、わずか三十分後であった。
皇帝ベルゼフリートが滞在するグラシエル大宮殿の安全を確認すると、天空城アースガルズの隔絶障壁を力業で破壊。約十分の時間を要したが、閉じ込められていた神官長カティアを救出した。
退魔結界の再起動を大神殿の神官達に依頼し、レオンハルト本人は帝都アヴァタールで暴れる妖魔兵を掃滅する。
「帝国元帥レオンハルト⋯⋯! 戻ってくるの早すぎ。まったく本当にさ⋯⋯。こっちの計画がはちゃめちゃだわ」
半日の猶予はあると見込んでいた。しかし、実際は三十分弱だった。
「メガラニカ帝国を救った英雄さんとそっくり。これだから天才は嫌になっちゃうわ」
ピュセルの分身体は肩を竦めた。最強の帝国元帥が帝都に帰還した。もはやどうしようもない。
「凡才の私が必死に頑張った数千年の努力⋯⋯。ほんの一瞬で蹴散らすなんて⋯⋯。酷いわ。ねえ? 妹さんもそう思わない?」
「レオンハルトお姉ちゃんを怒らせたお前が悪い」
妖魔兵を上空から始末する片手間で、苦戦していそうなブライアローズを手助けした。
妹想いの姉と言えるが、決着を横取りされた印象は否めない。
「優しくて良いお姉さんね。でも、ふふふっ⋯⋯! 勝ったのは私達だわ。最強の帝国元帥が戻ってきたところで、もはやどうにもならない。目的は達したわ」
「お前らは何をしたの?」
「自分達がやったことは、相手にできない。そんな道理は通らないわ。一年前の今日、貴方達がしたのと同じ事よ? アルテナ王国の女王セラフィーナを皇帝ベルゼフリートに寝取らせた。ねえ、だったら、私達だってメガラニカ帝国の皇帝を寝取れるはずだと思わない?」
姿が薄れていくピュセルの分身は、全ての女仙を嘲笑った。
「愛なんて一年もあれば上書きできる。セラフィーナ女王は証明してくれたわ。略奪愛って素敵よね♥︎ 乙女心が燃え上がるわ♥︎」
帝都アヴァタールの退魔結界を崩壊後、キュレイに帝国宰相ウィルヘルミナを襲わせる。
――手の込んだ時間稼ぎは完了した。
強襲部隊の妖魔兵には、破壊と殺戮を命じた。しかし、絶対に襲うなと言い聞かせた場所がある。
皇帝ベルゼフリートがいるグラシエル大宮殿だ。
強者ゆえの驕り。帝国元帥レオンハルトや神官長カティアはグラシエル大宮殿の安全を確認し、胸を撫で下ろす。ベルゼフリートの安全が分かれば、次に帝都アヴァタールの人々を保護しようとする。
――だが、帝国宰相ウィルヘルミナならば気付いたはずだ。
帝都の主要施設が妖魔兵に襲われている状況下、グラシエル大宮殿だけが襲撃されていない。
キュレイは半死半生の深傷を負ったが、ブライアローズとの戦いで戦略的に勝利した。
レヴェチェリナがキュレイに与えた役割は二つ。帝国宰相をグラシエル大宮殿に行かせない。可能であれば帝国軍の司令官と分断する。ウィルヘルミナが霊障夢幻結界に隔離された時点で、魔女の姦計は成された。
「貴方達の大切な皇帝陛下。とっても可愛い男の子。たっぷり愛してあげるわ。じゃあね。さようなら」
冷酷無情のピュセルは当初、絶体絶命の窮地に陥ったキュレイを助けるつもりがなかった。
護符はキュレイが即殺され、帝国宰相ウィルヘルミナがグラシエル大宮殿に近づこうとした際、妨害するための保険。キュレイを助ける気になったのは、反魂妖胎の祭礼が完了したからだ。
もはやウィルヘルミナを足止めする必要はなくなった。
無駄死にさせるくらいならばキュレイを助ける。
ピュセルの善意とはその程度だった。仲間意識などは欠片もなく、魔物らしい打算的な行動の塊である。
◇ ◇ ◇
廃都ヴィシュテルの帝嶺宮城に帝が帰還を果たした。
怪物を従える魔帝は、破壊者ルティヤの荒魂を宿している。しかし、災いを封じる清き器ではない。禍々しい災禍を撒き散らす、邪なる存在として降誕した。
魔物の身体に受肉したベルゼフリートは、父親がそうであったように〈黒蠅の帝王〉となった。
「んぁ♥︎ あんっ♥︎ ご主人様ぁっ♥︎ んぁっ♥︎ んぁああああああ⋯⋯っ♥︎」
大妖女レヴェチェリナは魔帝と交尾する。オナニーで慰めてきた膣穴は極太の肉棒で拡張される。激しい抽挿運動で愛液が淫らに泡立つ。
「あんっ♥︎ んぁああぁ~~♥︎ んぉっ♥︎ んお゛ぉぅ~~♥︎ んぎぃ♥︎ くるっ♥︎ くるぅっ♥︎ ふぎぃっ♥︎ オマンコの奥底にくるっ♥︎ きちゃうぅうっ♥︎」
魔物は生殖行為を必要としない。殺戮本能の塊である魔物に情愛の感情はなかった。他者どころか自分自身に対する愛すら欠けている。
――魔帝の血酒は魔物に進化を与えた。
破壊者ルティヤの器は特別だ。その血肉は人間を不老不病の女仙に変える。
その者が持ち得ぬ性質を与える恩寵。魔帝の祝福は魔物の本質を変異させる。
「陛下こそが⋯⋯っ♥︎ 魔物の真なる支配者にぃっ♥︎ あんっ♥︎ あんぅっ♥︎ 私の胎にご恩寵をお授けください~~♥︎」
レヴェチェリナの子壺が魔胤で満ちる。青紫色の魔女を抱く魔帝は子宮を押し上げる。望み通りの恩寵を与えた。
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ 解き放ってくださるのですか? ああぁっ♥︎ お願いいたしますわぁ♥︎ 私を縛る首輪をぉっ♥︎ ちぎってくださいませっ♥︎」
乳房を揉みしだき、レヴェチェリナの妖力を封じてきた魔封じの翡翠に触れる。
汚名の濡れ衣を着させられた寵姫アンネリーの翡翠石。哀帝に近づいた妖魔の女を封じた呪物。魔物には解けない封印だが、破壊者ルティヤの瘴気でなら破壊できる。
魔帝の瘴気が封印を腐らせた。女仙が作り出した封印の玉石。主君である帝に破壊できぬはずがなかった。
「――んんぁああぁっ♥︎ ありがたき幸せぇっ♥︎」
翡翠の首飾りを引きちぎり、床に投げ捨てる。
黒蠅の帝王は妖艶な魔女を味わい尽くす。肉欲で膨れ上がった男根で膣内を掻き混ぜる。絡みつく淫襞が竿を舐める。
「私の子宮を存分にご賞味くださいっ♥︎ 生母の胎ですわっ♥︎ 禁忌の交わりが器を穢し、破壊者の邪悪な力は子に宿るっ♥︎」
支配者には民が必要だ。身を守るには兵が欲しい。レヴェチェリナは感悦の頂点に昇り、広間に響き渡る大声で叫んだ。
「皇后となった私がお産みいたしますわ♥︎」
魔帝は悪業の魔女レヴェチェリナを愛でる。
「あぁっ♥︎ んぁっ♥︎ 強い子を♥︎ 凶悪な魔をぉっ♥︎ お産みいたしますわぁ♥︎」
魔帝はレヴェチェリナが己の子を産むに相応しい胎だと認めた。淫らな女体を抱き締め、特濃の精子を子宮に放った。魔素を纏った邪悪な卵子に精子が群がる。レヴェチェリナは己の卵子が陵辱されるのを感じ取り、喜悦の涙を流した。
「産みたければ産めばいい。望みたければ望めばいい。欲するだけ欲すればいい。⋯⋯でも、全ては叶わないよ。まだ欠けてる。こっちの器に移った僕の魂は完全じゃない。あぁ⋯⋯。そろそろ疲れてしまった。半分しかないせいだ」
魔帝はレヴェチェリナの乳房に頬ずりしながら、肉体の不調を訴える。
「――とても眠たい。あちらに呼ばれている」
射精をしたせいで消耗してしまった。睡眠が不要な魔物の器にも関わらず、酷い眠気と疲労感に襲われていた。
「誠に申し訳ございません。反魂妖胎の祭礼が不完全だったためですわ。陛下の御魂を移しきれませんでした」
「そろそろ向こうの僕が起きる。だから、しばらく眠ってしまう」
「二つの器が魂を奪い合っているのですわ。けれど、ご安心くださいませ。魂は少しずつ、こちら側に流れておりますわ。皇帝ベルゼフリートは不完全な器。時間が解決してくれますわ」
レヴェチェリナの豊満な乳房に顔を埋めて、魔帝は眠りに落ちる。すやすやと寝息を立てる。その愛らしい顔は幼帝ベルゼフリートと瓜二つだった。
「くふふふ♥︎ 魔帝は降誕した♥︎ 人間の時代はもうじき終わるわ。陛下がいれば私達は人類を滅ぼせるっ⋯⋯!!」
想定外の邪魔は入った。しかし、大筋の計画は成功した。今頃、帝都アヴァタールの女仙達は青ざめているに違いない。
幼帝の心を寝取り、魂を魔物の器に移し替える。反魂妖胎の祭礼は成されたのだ。
皇帝ベルゼフリートの身に魔が忍び寄ったのは、帝都襲撃の直後であった。大勢の護衛に囲まれ、帝国軍の最精鋭に警備された安全なグラシエル大宮殿。しかし、護衛戦力は障害にならない。
祭礼で重要となるのは皇帝の居場所――対偶関係にある座標だ。
――〈廃都ヴィシュテル〉と〈帝都アヴァタール〉
――〈帝嶺宮城〉と〈グラシエル大宮殿〉
――〈リュートの屍骨〉と〈セラフィーナの子宮〉
――〈殺された者〉と〈殺した者〉
――〈魔物〉と〈人間〉
全ての要素は死と生を象徴している。相反する関係で結ばれた強固な呪い。
反魂妖胎の祭礼は、皇帝ベルゼフリートを誘惑し、魔物として再誕させる魔女の御業であった。