2024年 2月22日 木曜日

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【141話】凶臣の拝謁

NOVEL亡国の女王セラフィーナ【141話】凶臣の拝謁

 

 ――皇帝ベルゼフリートの誘拐。

 異常事態を真っ先に察知し、侵入者の存在に気付いたのは、近くにいるユリアナでも、離れた場所から見守るハスキーでもなく、標的となっている当人であった。

 ベルゼフリートは破壊者ルティヤの転生体。

 その身体は無尽蔵のエネルギーを生み出す永久機関に等しい。大陸を荒廃させる破滅的な呪いを封じ込めた器である。

 古の時代から皇帝に仕える女仙は、器の封印が弛まぬように奉仕する穢れ祓い巫女。医務女官のような神術師でなくとも、ベルゼフリートの変調には敏感だった。

 ユリアナは三歩前を歩く幼帝の矮躯から、尋常ならざる帝気が立ち昇るのを目撃した。

「⋯⋯⋯⋯?」

 強大な重力で空間が歪曲するように、ベルゼフリートの肉体から漏れ出した荒魂の瘴気は、人が干渉できるはずのない時空を容易く震動させた。

(廊下の窓ガラスが音を立てている⋯⋯。風⋯⋯? 風音は聞こえてこない。空気の震え⋯⋯いや、違う⋯⋯。空間そのものが瘴気で揺れている)

 ユリアナを困惑させたのは、瘴気の出所がベルゼフリートだったことだ。

 瘴気の穢れとは女仙が帯びるものである。皇帝自身は破壊者の荒魂を完璧に抑える器、瘴気が体外に漏れ出すのはありえない。

「陛下⋯⋯?」

「ん? どうしたの? 急に立ち止まって⋯⋯?」

 ユリアナに呼び止められ、振り返ったベルゼフリートは自身の変調に気付いていなかった。きょとんとした顔で首を傾げている。

 ベルゼフリートの肉体から放たれている瘴気は猛烈だ。魂魄殺しの致命毒。女仙以外の生物を死に至らしめる。

 前触れのない急激な変調に困惑するユリアナだったが、原因に思い至った。

(ナイトレイ公爵家で保護されていたとき、陛下の精神は不安定だった⋯⋯。心を許していたのはウィルヘルミナ閣下と世話係のネルティだけ。陛下の荒魂に呼応して、女仙の穢れも深まったと聞きます。つまり、陛下は⋯⋯!)

 脳裏によぎった懸念は正しい。女仙の身であるユリアナからも濃い瘴気が流れ出している。

(やはり私の瘴気も強まっている⋯⋯!)

 身の危険を感じ取った転生体は、女仙に我が身を守らせようとする。

 ナイトレイ公爵家にベルゼフリートが保護されたばかりの時期、ウィルヘルミナの穢れは髪に触れたメイドの手を壊死させるほど強烈だった。

 皇帝からの寵愛を吹聴しているのだと噂を笑い飛ばす妃もいるが、ウィルヘルミナが住む星嵐后宮には、片腕のない側女が働いていた。

 ユリアナは瘴気の濃度が急上昇している理由を理解する。

(――間違いない。陛下の御身に危険が迫っている予兆)

 今のユリアナであれば、体外に溢れた瘴気で人間を殺せる。ベルゼフリートの肉体と共鳴していた。瘴気の発露は収まるどころか増長を続けている。

(身の危険⋯⋯。でも、何が危険? 敵は誰? 陛下を傷つける? 脅威はどこに潜んでいる⋯⋯? 陛下は本能的に身を守ろうとしている。でも、無自覚ゆえに答えは示してくれない⋯⋯)

 安全なはずの帝城ペンタグラム。しかし、ユリアナは臨戦態勢に入った。具現化させた影でベルゼフリートの守りを固める。

 真っ先に思い当たったのは、近くに潜んでいるであろう警務女官長のハスキーであった。

 絶対にあえりえないが、ハスキーが皇帝の暗殺を企んでいるのなら、ベルゼフリートは絶体絶命の窮地だ。

(警務女官長であるハスキー様が⋯⋯? ありえない。けれど、そもそも帝城ペンタグラムに危険が存在しているのなら、内部の人間である可能性は高い)

 一対一の戦いでハスキーに完勝できるのは、軍務省の精鋭だけだ。

(速さなら⋯⋯私が勝っている⋯⋯しかし⋯⋯)

 ユリアナの実力なら一矢報いる可能性はあるが、狙いがベルゼフリートの命となれば話は全く変わる。

(陛下を守りながらでは難しい。帝城ペンタグラムから脱出しなければ⋯⋯。大神殿に避難を⋯⋯いや、軍務省のほうがいい。レオンハルト元帥は天空城アースガルズにおられるはず⋯⋯!)

 仮想の敵をハスキーに設定したのは、ユリアナが考える最悪の状況を想定した結果だ。

 何があろうとハスキーは反逆しないが、ユリアナは他人の忠義を疑う。

 たとえ全世界を敵に回してでも、ユリアナは迷わずベルゼフリートを守る。メガラニカ帝国の皇帝に捧げた不変の忠愛。幼少期から叩き込まれた狂信的な皇帝への忠義心。

 三皇后にも劣らないユリアナの絶対的な狂愛は、何があろうとも揺るがない。

「陛下、私の近くに寄ってください」

 沈黙の誓いを立てているユリアナは、ベルゼフリート以外の人間が近くにいると声が出せなくなる。敵が何者であれ、まずは脅威が迫ってる状況を知らせたかった。

「え⋯⋯。そう? もうここでヤる? なんだか嬉しい。ユリアナも大胆になったね。人通りの少ない廊下だけど、誰かに見られちゃうかもしれないのにさ。どうしようかな⋯⋯、ん~でも、やっぱり恥ずかしいから、せめて端っこがいいかな?」

「いえ⋯⋯そうではなくて⋯⋯。敵が近くに潜んでいます」

「そういうシチュでヤる? 女官って好きだよね。そういうの。成りきりプレイはヴァネッサの相手で慣れてるよ。今朝の設定ではね。僕は女官総長に可愛がられてる新人女官で⋯⋯」

 

「いえ、ですから、そうではありません。本気で言っています。ひとまず安全な場所に避難します」

「へ? 安全な場所? え?」

「レオンハルト元帥の后宮に行きます」

「⋯⋯でも、ヴァネッサは帝城の外に出たらダメだって言ってたよ?」

「潜んでいる敵が何者か分かりません。私の能力を使えば荒技ではありますが、大正門を突破でき⋯⋯」

 ユリアナの口が固まった。

(⋯⋯言葉が出せない。不味い。私の声が聞こえる位置まで近づかれてしまった)

 沈黙の誓いが発動した。それが意味するのは会話の盗み聞き。秘密の番人であるユリアナは、ベルゼフリート以外との会話が不可能となる。

 ハスキーの気配は感じるが、会話を聞かれる距離にはいない。

(ハスキー様ではない⋯⋯? なら潜んでいるのは何者? 私の感知を掻い潜った。⋯⋯けれど、今なら影の索敵で曝いてみせる。もしハスキー様が敵でないのなら挟撃できる)

 もしハスキーが敵と共謀していないのなら、ユリアナがベルゼフリートを連れて逃げれば、足止めで代わりに戦ってくれる。

(帝城ペンタグラムの禁中にまで侵入されている。女官に内通者がいるのは明白。私以外の警務女官は信用できない。警務女官長であろうと⋯⋯たとえ総長のヴァネッサ様であっても⋯⋯。陛下は私がお守りする)

 ユリアナの迷いはほんの数秒だった。具現化した影はベルゼフリートの矮躯を抱き上げる。

「ほわ⋯⋯!?」

 ユリアナは影の防御陣でベルゼフリートを囲い込む。皇帝を守る小さな結界。影が幾重にも重なった強度は要塞の防御壁に匹敵する。

守禦しゅぎょ芒陣ぼうじん――衣香いこう襟影きんえい!)

 具象化させた人間の影に周囲を探らせる。逃げるにしてもまずは敵の位置を知らねば、攻撃に晒されてしまう。

「影法師の業かしら⋯⋯? でも、呪文スペルを唱えていない。へえ、術式ではないのね。ふふっ⋯⋯。とっても便利な異能スキルを持っているわね」

 廊下の曲がり角から現われたのは、見知らぬ女官だった。しかし、一目でユリアナは確信した。

(この女が潜んでいた敵か⋯⋯。どうやって忍び込んだ⋯⋯?)

 服装は工務女官だった。種族は普通の人間に見える。

 禁中の出入りを許されている工務女官は少ない。顔に見覚えがあっても良さそうだが、ユリアナには心当たりがなかった。

「ん? あの女官、誰だろ⋯⋯? なんか胸元が破廉恥じゃない? 女官の制服ってああいう着崩しもできるんだ」

「⋯⋯⋯⋯」

「ちょ、ユリアナ! 前が見えない!」

 影に取り囲まれたベルゼフリートは、隙間から正体不明の女を見る。瞳術による攻撃を恐れて、すぐさまユリアナが視界を遮った。

「ふふっ。好きなだけ視姦くださいませ。私は陛下の忠実な下僕でございますよ。あぁ⋯⋯。なんと可哀想な陛下⋯⋯! そんな矮小な姿に押し込められて⋯⋯。お労しい⋯⋯! さあ、私とともに参りましょう? たっぷりとご奉仕いたしますわ」

「ねえ、ユリアナ。これって口説かれてるのかな?」

(視界だけでなく、耳と口も塞いだほうが良さそうですね。陛下が拐かされてしまう)

「⋯⋯って、あれれ? この格好をしているのに、どうして僕が皇帝だって分かったんだろ?」

(確かに⋯⋯。陛下は警務女官の制服を着て変装しています⋯⋯。素顔を知っていても、親しい相手でなければ一目では分からないはず。⋯⋯敵は陛下の身体から放たれている帝気が見えている⋯⋯? 神官と同じ眼を⋯⋯?)

 ユリアナは護りの陣形を固める。現われた敵がどんな攻撃を仕掛けてくるか分からない。先手を取る必要はなかった。既に動いている者がいるからだ。

「こうしてお会いできる日を待ちわびておりましたわ。すぐにお救いし――」

 

 女の胸元から刃の切っ先が突き出る。気配を殺した背後からの一撃。心臓が剣で貫かれていた。

 

「⋯⋯? ごふっ⋯⋯!」

「――黙れ、不届き者め。貴様如きが陛下の尊顔を拝み、言葉を交わすなど⋯⋯万死に値します」

 工務女官のメイド服が血に染まる。殺意が込められた一撃。普通の人間であったなら即死していた。

「んッ⋯⋯! あぅ! ふふっ♥︎ あらら? 気付かなかったわ。もう一人いたのね? んふぅ♥︎」

「薄気味悪い女です。心臓を潰したのに、痛くないのですか?」

 敵の背後に回ったハスキーは、心臓に突き刺した刃を捻る。しかし、それでも女は平然と笑みを浮かべていた。

「そうやって剣をグリグリするの、やめてくださるかしら? もう⋯⋯♥︎ ふふふっ♥︎ 心臓ハートが痛むわァ⋯⋯!」

「それは失礼いたしました。⋯⋯死ね」

 剣を引き抜き、目に留まらぬ早技の剣撃で喉と四肢を穿つ。相手が倒れ伏す間も与えず、廊下の壁に蹴り飛ばした。

「ユリアナは陛下を連れて逃げてください。急所を貫きましたが、手応えが軽すぎます。まだ殺せていません」

「⋯⋯⋯⋯」

「一人で十分です。私の援護よりも、陛下を安全なところへ」

 警務女官の長に相応しい圧倒的な強さをハスキーは見せつける。女官最強の剣士にして、元決闘王は剣先を標的へと向ける。

 ハスキーの登場が遅れた理由は、ユリアナの立場を確かめるためだった。

 疑心暗鬼のユリアナがハスキーを疑ったように、ハスキーもユリアナを疑った。しかし、敵と対決するユリアの行動を見て内通者でないと判断。ハスキーはベルゼフリートの保護よりも、敵の排撃を優先した。

「んふっ! んぅう~~⋯⋯。 素敵な切り傷。治すがもったいないくらいに綺麗⋯⋯。貴方、良い腕をしていますね。大切な身体がもうボロボロですわ」

 ハスキーの激烈な蹴りをくらって廊下の壁にめり込んだ女は、平然と歩き始めた。

自己再生能力者リジェネレーター⋯⋯? いや、流れた血が蒸発している。どうも普通の肉体ではなさそうです。次は両断してあげましょう。真っ二つにしたら、何秒で治せます?」

 切りつけられた傷が治りかけていた。

「私は平和的に陛下とお話をしたいだけなのだけど、刃物を振り回すなんて、本当に粗暴なメイドですわ」

 敵の相手をハスキーがしている間、ユリアナは逃走経路を脳内の図面で完成させる。

(ハスキー様が足止めしてくださっている間に、陛下を軍務省にお連れする。影の索敵に引っかかった者はいない。敵は単独で乗り込んできている)

 帝国最強の個人戦力はアレキサンダー公爵家の七姉妹だ。英雄の血を受け継ぐ七人の孫娘。その筆頭であるレオンハルトは大陸最強の女だった。

(レオンハルト元帥の近くへ⋯⋯。アレキサンダー公爵家の姉妹ほどでなくとも、ヘルガ妃殿下くらいの実力者がいる軍閥派ところに⋯⋯)

 ベルゼフリートは影に囲まれた状態でユリアナに運ばれていった。その様子を女は名残惜しそうに眺めていた。

「おやおや? 脱兎の如くですわね。陛下に逃げられてしまいました。せめて言葉を交わしたかったのですけれど⋯⋯。私の名前くらいは伝えたかったわ」

「ほう? 名乗る気があったのですか? 私が聞いてあげましょうか? 墓標に刻む名前は必要ですしね」

「メイドには教えてあげないわ。どうせ貴方は使い捨ての使用人でしょう? 不満はあるけれど、ここまで陛下と接近できたのだから、最初の出会いとしては上出来ですわ。もう一つの目的も達成できそう」

「させると思いますか?」

 当然、女の行く手を阻むのは苛立つハスキーだった。

「邪魔立てする気? 危ないわよ?」

「不愉快な女です。誰の許しを得て禁中に踏み入ったのです? ここは皇帝陛下の御座す禁中。帝城ペンタグラムでもっとも高貴な場所⋯⋯。貴様のような下衆がいるべきところではありません」

「ふふふっ⋯⋯! 溢れ出る怒気は二割、心を占めるのは疑念と疑問。そんなところかしら? 私の存在は不可解なのでしょうね?」

(お喋りな女。この私を完全に嘗めきっていますね⋯⋯)

「お城は瘴気で満ちている。侵入者は瘴気に蝕まれて絶命するはず⋯⋯。不思議よねえ? くふっふふふふふふふ! どうして私は生きて、ここにいるのかしらねえ⋯⋯?」

 多くの女仙が暮らす天空城アースガルズは穢れの吹き溜まり。普通の人間が近づけば、すぐさま瘴気に蝕まれて死ぬ。

 人間のみならず、動物も瘴気の影響を受ける。魚や昆虫、植物といった人間からほど遠い生物しか生存できない環境だった。

(帝城ペンタグラムの禁中はもっとも瘴気が濃い⋯⋯。女仙でなければ死んでいるはずです。しかし、この女が女仙とは思えない)

 ベルゼフリートは禁中に寵姫を呼び寄せて性交に励む。夜伽を終えた女仙は瘴気の穢れが増す。神官が穢れ祓いをすることもないため、滞留した残穢ざんえで禁中は淀んでいる。

「どうせだから、肩慣らしに戦ってみようかしら? 面白そう。ふふふふっ⋯⋯! 久しぶりの殺し合いッ! 緊張しちゃう。お手柔らかにお願いするわ。お強いメイドのお嬢さん♥︎」

(見え透いた挑発。私をただのメイドと見做している。いや、これは⋯⋯挑発なのでしょうか? まさか私のことを本当に知らないのでは⋯⋯?)

 元決闘王のハスキーは知名度のある有名人だ。

(メガラニカ帝国の人間ではない⋯⋯? いや、ここまで侵入するほどの者なら、事前に警務女官の戦力くらいは調べているはず)

 帝国の人間でなければ知らないこともありえるが、天空城アースガルズに潜入した敵が、警務女官長の来歴を知らないのは不自然だった。

 

(⋯⋯四肢の再生速度が速い。喉の傷も完治したようですね。けれど、心臓からの出血はまだ続いていますね。つまり、構造が複雑な臓器は治癒に時間がかかる。おそらく脳髄を潰せば死ぬか、しばらくは行動不能になるはず⋯⋯)

 ハスキーは生け捕りを選択肢から外した。捕まえたところで情報を吐くタイプとは思えない。

「死体を調べれば身元は分かります。たとえ肉片であろうとも⋯⋯。貴方が女で残念です。男なら最高の苦しみを与えられたのに!」

 女仙となってからも剣技は磨き続けた。身体を労ったのは妊娠期間中だけ。剣闘士の現役時代よりも実力は上がっている。しかし、それでもなお、超えられない壁はあった。

(禁中に侵入した方法、瘴気で満ちた天空城アースガルズにいられる理由、その正体と目的は分からない。けれど、殺すのは容易い! 私の剣速を追えていない。動きがとろすぎます。アレキサンダー公爵家の猛者と比べれば、どんな敵だろうと弱い⋯⋯!!)

 御前試合での苦い敗北。ハスキーはレオンハルトに挑んだ三回勝負のうち一回は勝利した。しかし、初戦での敗北時に実力差は思い知らされた。勝負形式は剣技のみ。与えられた一勝は明らかに譲られたものだった。

 ――警務女官長ハスキーは思い至る。

 事件後に報告を受けた帝国宰相ウィルヘルミナや情報将校ユイファンといった知者が最初に抱いた疑念。

 ――なぜ敵は帝国元帥レオンハルト・アレキサンダーの不在時を狙わなかったのか?

 帝国軍の最高指揮官であるレオンハルトは、天空城アースガルズを留守している日が多い。潜入が露見していないのなら、今日である必要はなかった。

 そもそもベルゼフリートの護衛が手薄だったのは偶然だった。女官総長のヴァネッサの許しがなければ、ユリアナとのデートは行わず、寵姫の離宮に出かけていた可能性が高い。

「⋯⋯っ!?」

 無計画の一言では片づけられない。計算し尽くされた襲撃であるなら、敵は最初から失敗を前提にしている。

「――あらら♥︎ 気付かれちゃったかしら♥︎」

「自爆ですか。品性のない⋯⋯!!」

 端からハスキーと戦う気などなかったのだ。女の身体が発光している。雷雲で生じる放電現象を連想させるエネルギーの膨張。漲った破壊力は爆ぜる寸前だった。

「逃げないの? 勇敢な人間ね。――でも、愚かでもあるわ」

(下手に避けるくらいなら⋯⋯! 斬り伏せるまで⋯⋯!!)

 正面から受ければ深手を負う。爆発の規模は不明だが、ベルゼフリートはユリアナの異能で守られている。あの影なら爆風も防げる。

 ユリアナの俊足を考慮に入れれば、既に城外まで移動しているとハスキーは考えた。そのうえで、さらに爆発の被害を小さくする。

(――爆ぜる前に剣圧で空間ごと潰し、被害を最小限にとどめる)

 ◇ ◇ ◇

 ――皇帝誘拐未遂事件の報告。

 大陸歴九年二月十一日、皇帝ベルゼフリートの拉致を目的に侵入した女は自爆。帝城ペンタグラムで起きた爆発は、禁中の一角を吹き飛ばした。

 警務女官長ハスキーが爆発の破壊力を剣圧で相殺していなければ、被害はさらに大きなものとなっていた。

 皇帝ベルゼフリートは警務女官ユリアナが金緑后宮まで護送し、事件で動揺しているものの無傷である。

 現在はレオンハルト元帥の保護下に置かれている。

 精神的なケアは職権停止中の医務女官に代わり、大神殿所属の神族および天使族が代行。防衛本能による瘴気の異常発露を鎮めているが、このほかに変調は確認されていない。

 爆発による負傷者は爆心地にいた警務女官長ハスキー、そのほか禁中で働いていた女官二十四名が爆風で軽傷を負った。

 いずれも命に関わる傷ではなかったが、メガラニカ帝国は今回の事案を重たく受け止めた。

 国民議会は三皇后との謁見を要請し、事件から三日後、帝国宰相ウィルヘルミナが応じた。

「爆発に巻き込まれながら軽傷で済むとは、さすがは元決闘王ハスキー。しかしながら、皇帝陛下が住まう禁中に敵の侵入を許した。帝城の一角が粉微塵に砕け散ったと聞いています。由々しき事態ではありませんかな? 帝国宰相ウィルヘルミナ閣下」

「先日の三頭会議で我々の提案は却下されたと聞きます。なぜなのです!? 警務女官の手に負える相手ではないと思いますぞ!」

「バルカサロ王国やルテオン聖教国の謀略では? ともかく敵の正体を掴むまでは、レオンハルト元帥に護衛をお任せすべきでしょうな」

「陛下の一大事は国家の存亡に関わる! 陛下には天空城アースガルズではなく、地上にお戻りいただきたい!!」

「帝都アヴァタールのグラシエル大宮殿を仮住まいとするのがよろしいかと思いますぞ。栄大帝がこよなく愛した芸術の殿堂です。陛下のお住まいとして不足はありますまい」

「いやいや、グラシエル大宮殿は雅な建物ですが、警備面に懸念がございます。帝都を離れるのもよろしいかと。暁森の神樹園はいかがです? 死恐帝の時代であっても災厄を遠ざけた聖域。数年前の行幸で訪れた皇帝陛下もお気に召していたご様子でした」

「暁森じゃと! ふん! エルフ族のド田舎ではないか! 防衛というのであれば、エーザンベジュ大山脈の地下都市が一番じゃ!! 偉大なドワーフの工匠が築いた難攻不落の都市であるぞ!」

「旧帝都ヴィシュテルもドワーフの都市でしたが、死恐帝の災禍に抗えず、棄てざるを得なかったでしょう。それに地下都市? 岩盤の石細工など不格好。重要なのは結界の基礎です。エルフ族の土地がもっとも安全ですよ」

「なんじゃと! 辺境の地に陛下をお連れするなど不敬じゃよ。呆けておるようじゃのう。この耳長若作りの老いぼれめっ!」

「黙れ! この薄汚い禿げの髭爺め! そもそも歳なら貴方のほうが上でしょうが! ドワーフの最長老に老いぼれ呼ばわりされるほど老け込んでおらんわっ!」

「⋯⋯お二人とも見苦しい。宰相閣下の前ですよ。国民議会の議員は種族の意見を代表しているのですぞ。まったく。いつものように肉体言語で対話するおつもりか? ドワーフ族とエルフ族は仲のよろしいことですねえ」

「エルフとドワーフのじゃれ合いは兎も角として、候補地はいくらでもありますよ。帝国軍の重要施設がある副都ドルドレイ。東の僻地となりますが湿原園テケリ=リ。魔神領の失楽仙郷ネフィフ⋯⋯」

「陛下の安全さえ保障してくれるのなら、我輩はどこでも良い。率直なところを言わせてもらえれば、天空城アースガルズはもはや安全と言い難い。女官⋯⋯いえ、女仙の中に内通者がいるのではありませんかな?」

「帝国宰相のご意見をお聞かせ願いたい。国民議会は評議会と対立を望まぬ。皇帝陛下の安否はメガラニカ帝国の存亡のみならず、大陸全土の問題だ。内輪で揉めるのは愚かです」

 帝都アヴァタールの中枢、国民議会の議事堂に集まった尊皇議員団の面々は、沈黙を守り続けるウィルヘルミナに具申する。

 メガラニカ帝国は他種多様な種族が暮らす他種族国家。評議会と国民議会の最高議長を兼任する帝国宰相は妖艶な淫魔の美女。長い帝国の歴史においても、淫奔とされるサキュバス族が政界で台頭した前例はない。

「三頭会議および評議会で検討はしています。⋯⋯国民議会の意向を無視はしません。しかし、今回の件で女官に裏切り者がいると、私は考えていません」

 うんざりした表情のウィルヘルミナは、尻尾の先端をつまみながら言葉を続ける。

「なぜ裏切り者がいないと?」

「自爆で粉微塵となった侵入者は、瘴気で満ちた禁中を歩き回っていたようです。女仙でなければ、魂を蝕まれて絶命するはず⋯⋯。しかし、事件後に女仙化した者を全て調べましたが、行方知れずになった者はおりません」

「メガラニカ帝国が把握していない女仙がおる。そうではないか? 宰相閣下はご存知ですかな? 大神殿のご老人達は勝手に調べていたと聞くぞ? 議会への報告もせず⋯⋯」

「私も大神殿の独断専行は好ましく思っておりません。しかし、始皇帝から続く古代の慣例、そして栄大帝の時代に大宰相ガルネットが定めた憲法で、独立的な職権が明記されています」

「陛下が無事だったから良かったものの、神官の秘密主義は感心できませんなぁ」

「⋯⋯敵が帝城ペンタグラムの最奥、禁中にまで入り込めた理由ですが、女仙でなくとも瘴気に耐えうる身体であった。その可能性はあると考えています」

「⋯⋯宰相閣下のお考えですか?」

「ええ。自爆したのは痕跡を隠すためだった。そう考えると辻褄があいます。死体を調べられると不味かったのでしょう」

 三頭会議の直後、ウィルヘルミナは金緑后宮に滞在していた帝国軍随一の知将ユイファンと今回の事件について意見交換を行った。

 互いの考察を擦り合わせたウィルヘルミナとユイファンは、まったく同じ結論を導き出していた。

 

(――女仙の中に裏切り者がいると思わせたいのでしょうね)

 裏切りは気付かれないからこそ脅威なのだ。内通者がいると分かっていれば、危険性は半減する。

(不和の誘発。見え透いた魂胆です。こちらの動きを縛ろうとしているのは明らか⋯⋯)

 本当に裏切り者がいるのなら、決定的な瞬間が訪れるまでは、その存在を隠し通す。わざわざ暗示したりするのは、疑心暗鬼を誘発するのが狙い。

(禁中であれほどの事件を起こされては、尊皇議員団の具申を受け入れざる得ない⋯⋯。陛下を天空城アースガルズに留め置くのは難しい。強権を発動して捻じ伏せたとしても、民意が納得しないでしょう。⋯⋯陛下の仮住まいは選ばなければなりませんね)

 ウィルヘルミナはベルゼフリートが皇帝に即位する以前の日々を思い起こす。

 ナイトレイ公爵家の居城で過ごした穏やかな日常。ウィルヘルミナかネルティが添い寝をしなければ、寝るのを嫌がっていた少年は、立派に皇帝の役目を果たしている。

(まずは敵の正体を探らねば⋯⋯。三年前のドルドレイ騒乱で国内の不穏分子は一掃したと考えていましたが⋯⋯)

 後日、三皇后と妃達からなる評議会は、国民議会の要求を受け入れる形で、天空城アースガルズの地上臨検を認めた。その代わり、女官の職権停止を解除し、全ての女官が通常業務に復帰した。

 女官の領域である禁中の事件だったため、女官の責任を問う声は国民議会だけでなく、評議会の妃からもあげられていた。しかし、皇帝ベルゼフリートは女官の処罰を嫌がり、主君の心情に配慮した措置がなされた。


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